研究開発活動

5【研究開発活動】

 当社グループは、2030年頃に開始が予定されている次世代通信システムBeyond 5G/6Gを見据え、先端技術の研究開発を推進してきました。また、2030年頃に向け、ライフスタイルのトランスフォームにつながる研究開発をLife Transformation(LX)テクノロジーと銘打ち、研究開発をあわせて推進してきました。こうした活動を通して、当連結会計年度における研究開発費の総額は、25,081百万円となりました。なお、当社グループにおける研究開発活動は各セグメントに共通するものであり、各セグメントに関連づけて記載しておりません。

 以下、Beyond 5G/6G時代に向けた先端技術として、ネットワーク、セキュリティ、AI及びxRの各分野の主なトピックスをご紹介します。また、LXテクノロジーに関する主なトピックスをあわせてご紹介します。

 

1.ネットワーク

 お客さま一人ひとりに応じた最適な通信を提供するためのBeyond 5G/6G時代のネットワークに資する技術として、光ファイバ通信技術、無線通信技術等の取り組みを進めております。

 例えば、2021年7月には、光ファイバ中で生じる四光波混合現象(注)を利用して、光ファイバに入力した光信号成分を伝送後に9倍向上させる新たな伝送方式を発明し、その実証に成功しました。本方式は従来の伝送方式と比べて約3倍伝送容量を大きくすることができる画期的な発明であり、Beyond 5G/6Gネットワークを支える光ファイバ通信の伝送容量拡大に向けた基礎技術として今後の活用が期待されるものです。

 また、2021年9月には、お客さま一人ひとりのニーズに応える無線ネットワーク展開技術の実証に成功しました。多数の基地局を少ない光ファイバで効率よく収容可能な光ファイバ無線技術「Intermediate Frequency over Fiber(IFoF)」と複数の基地局アンテナを連携させ個々のお客さまに対する無線信号の品質を最適化する基地局構成技術「Cell-Free massive MIMO」を組み合わせたもので、実証の成功は世界で初めてとなります。IFoF方式は、無線信号をデジタル化せずアナログ波形のまま伝送する方式であり、デジタル化に伴うモバイルフロントホール区間の大容量化の課題を解消することができるとともに、複数のアンテナ向けの無線信号を1本の光ファイバに集約してアンテナ付近まで伝送することで、必要とする光ファイバの長さや数を大きく削減することが期待されています。また、アナログ波形伝送では無線信号処理を集約局側に集中することで基地局アンテナ処理を軽減できることから、多数のアンテナの分散設置が必要なCell-Free massive MIMOにおけるアンテナ側装置の省電力化に寄与することも期待されています。

 また、2021年10月には、株式会社ジャパンディスプレイと共同で、電波の反射方向を任意方向に変えられる28GHz帯液晶メタサーフェス反射板の開発に世界で初めて成功しました。これにより、超高速・大容量なサービスエリアを、周辺の電波環境の変化にあわせて拡張することが可能となり、お客さまの利便性の向上が期待されます。

 (注)四光波混合現象:物質に光を入射した際、入射光の周波数とは異なる周波数の光が発生する現象である非線形光学効果の一種であり、2つの光波から周波数の異なる周波数が2つ発生し、計4光波となる現象

 

2.セキュリティ

 Beyond 5G/6G時代及び量子コンピュータ時代の安心・安全を実現するため、新しい暗号アルゴリズムの研究開発を推進するとともに、その安全性に対する国際的なコンセンサスを得るために耐量子暗号を対象とする国際暗号解読コンテストに参加しています。

 前者に関しては、2021年11月に、公立大学法人兵庫県立大学と共にBeyond 5G/6G時代に求められる処理性能と安全性を備えた新しい超高速共通鍵暗号アルゴリズム「Rocca」を開発しました。「Rocca」は逐次データの暗号化・復号を行うストリーム暗号であり、Beyond 5G/6Gが目標としている100Gbps超のストリームに対応するとともに、量子コンピュータによる解読への耐性を持たせるために256ビットの鍵長を具備しています。

 一方、後者に関しては、仏国立情報学自動制御研究所(INRIA)による暗号解読コンテストにおいて、2021年9月に510次元のシンドローム復号問題を約593時間で解読し、世界記録を更新しました。更に、2022年2月には540次元のシンドローム符号暗号を79日で解読し、世界記録を再度更新しました。

 

3.AI

 Beyond 5G/6G時代にサイバー空間と現実世界(フィジカル空間)の融合が進むことを想定し、現実空間特有の課題解決を行う「フィジカル空間指向AI」の研究開発を行うとともに、そのようなAIを安心して使えるようにするための「信頼できるAI」に関する取り組みを行っています。

 前者の一環として、人流データとSNSデータの異なる2つのビッグデータから現実世界で起きたイベントを抽出する技術の研究論文が、モバイル・ユビキタス分野の国際会議Mobiquitous 2021にてBest Paper Awardを受賞しました。全く異なる2種のビッグデータを同時に解析し、人流データで検知された異常密集と、その原因に関連してTwitterに投稿された内容を自動的に紐づける手法を提案し、その有効性を被験者実験により評価したものです。これにより、災害や事故等の突発的に発生する事象について、その発生場所や規模、内容について、容易に把握できるようになるほか、将来的には影響予測への適用も期待されます。

 一方、後者の一環として、2021年8月に「KDDIグループAI開発・利活用原則」を公表しました。当社グループの企業活動がAIの開発者および利用者の両方となりうることを踏まえ、開発者・利用者双方の視点の原則を整理し、国内外の各種原則を参考に両面で尊重すべき価値観を網羅的に反映したものとなっています。

 

4.xR

 xRはサイバー空間と現実世界を融合させた結果を人間の知覚にフィードバックする技術の総称です。当社グループは、Beyond 5G/6G時代のコミュニケーションスタイルに変革をもたらす本分野の技術の研究開発を行っています。

 例えば、2021年4月には、最新の国際標準映像符号化方式H.266|VVC(Versatile Video Coding)に対応したリアルタイムコーデックシステムを用いた8Kライブ伝送の実証実験に成功しました。また2021年12月、ビットレート12Mビット/秒、フレームレート60フレーム/秒での4K映像伝送の実証実験に成功し、現行放送の半分以下のビットレートに圧縮しても安定した映像品質を維持できることを確認しました。

 一方、2021年11月には、五感の再現・表現技術を活用したインタラクションを実現するハプティクス(触覚技術)分野の研究開発の一環として、「身振り手振り」や「あいづち」、「肩や背中をなでる」といった相手と共感や一体感を生み出す身体的コミュニケーションが可能なソファ型コミュニケーションシステム「Sync Sofa(シンクソファ)」を開発しました。「Sync Sofa」は、ソファに搭載した複数の加速度センサーならびにマイクロホンからの信号をもとに、オンライン上の相手の動作や反応を表現する複雑で微細な触感をリアルタイムに合成し、複数の振動アクチュエーターにより音と連動した形で人体の広範囲に提示することができます。さらに、自身の視点位置に応じた相手の見え方をディスプレイ上に忠実に再現します。これらの触覚・聴覚・視覚の再現により、オンライン上の相手と隣り合う感覚を提供します。

 

5.LXテクノロジー

 「メタバース」「モビリティ(含ドローン)」「宇宙・衛星通信」「ヘルスケア」など、様々な分野で、生活者目線に立ちライフスタイルを変革に導く研究開発を推進しています。

● メタバース:

当社グループでは、現実世界における体験価値をxR技術等を活用しバーチャル空間に拡張することを目的とした「都市連動型メタバース」を指向しております。あらゆる場所からのバーチャルの都市への参加やアバターを活用した表現の拡張が可能となるのに加え、バーチャル空間と現実世界との連動を通じた価値の創出が期待されます。

他方で、発展途上であるメタバースでは整理・議論すべき論点が多数あるため、東急株式会社、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社、一般社団法人渋谷未来デザインらと共に「バーチャルシティコンソーシアム」を設立し、メタバースの運用・利用指針を整備したガイドラインを策定しています。

● モビリティ(含ドローン):

地域による移動・物流格差や災害時の緊急物資輸送などの問題を解消するため、ドローンを含むモビリティ技術の検討を進めております。

例えば、愛知県春日井市、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学と共に、愛知県春日井市高蔵寺ニュータウン地区における新モビリティサービスによる地域活性化を目的として、自動運転車による人の送迎と商品の配達を同一車両を用いて行う、貨客混載型の自動運転×MaaSの実証実験を2022年2月~3月に実施しております。人の送迎と商品の配達という配車要件の異なる移動サービスを組み合わせ、きめ細やかな停留所配置により住民の自宅近くまでの送迎・配達をオンデマンド型の自動運転で実現するという新しい試みです。

また、高所や水中における作業の危険性回避等を目的とし、2021年6月、「水空合体ドローン」を世界で初めて開発しました。これまでも水中作業用ドローンは存在していますが、水上にドローンを運ぶために船に搭載するなど多くの手間がかかります。水空合体ドローンは目標の地点まで空中で水中作業用のドローンを運び、そのまま水中で作業させることが可能であるため、気軽に水中作業用ドローンを活用でき、海中の養殖場の確認や洋上設備の点検など幅広い分野での活躍が期待されます。

● 宇宙・衛星通信:

災害時でも問題なくつながる通信インフラを目指し、SpaceX社の衛星ブロードバンド「Starlink」と業務提携を行いました。災害時以外にもあらゆる場所で通信が可能となり、新たな体験の創出に貢献します。

● ヘルスケア:

当社グループでは、スマホを安心・安全に使っていただくために、2021年10月、国立大学法人東京医科歯科大学と共に、同大学のネット依存外来の患者を対象に「スマホ依存」の改善に向けた特定臨床研究を開始しました。本研究に先立ち、「スマホ依存」の実態解明を加速させるため、2020年7月から株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)と共同で、脳神経科学・AIを活用した「スマホ依存」の改善・予防と、新型コロナウイルス感染症によるライフスタイルの変化が「スマホ依存」、「ゲーム障害」などに与える影響調査に関する研究を継続して推進しております。

 

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