当社グループの研究開発活動は、企業業績に対して即効性のある技術、商品の開発、各種技術提案に直結した技術の開発、中長期的市場の変化を先取りした将来技術の研究、開発技術の現業展開と技術部門の特性を生かした技術営業、総合的技術力向上のための各種施策からなっており、社会経済状況の変化に対し機動的に対応できる体制をとっている。
当連結会計年度は、研究開発費として
当連結会計年度における主な研究開発活動は次のとおりである。
(1) 土木事業
① 高速道路リニューアルプロジェクトの主力商品 橋梁用「コッター床版工法」
NEXCO各社が進める高速道路リニューアルプロジェクト(総事業費約3兆円)は、2015年度から2030年度までの16ヵ年の長期計画であり、橋梁床版取替工事は、その50%強(事業費約1兆6,500億円)を占め、同プロジェクトの主要工事である。これまで7年余の工事発注は計画の約43%(橋梁床版取替工事、当社集計)となっており、事業開始当初は伸び悩んでいた発注も、直近2年間では年間2,000億円を超えるほどに増加している。今後も同プロジェクトをさらに加速させるために、積極的な工事発注が行われると考えられる。
当社は、この橋梁床版取替工事において、急速施工、省人化、取替性の改善など生産性の向上を目的に、コッター式継手を用いた橋梁用プレキャストPC床版(コッター床版)を開発した。本工法は、単純作業のため熟練工が不要であり、床版の99%がプレキャスト化されるため、品質向上にも大きく寄与するものである。
当連結会計年度はNEXCO東日本発注の東北自動車道十和田管内高速道路リニューアル工事を竣工、コッター床版の優れた施工性を実証するとともに、取り替える部材すべてをプレキャスト製品とするフルプレキャスト施工を完成させた。コッター床版工法の施工実績は2021年末には約8,000㎡となり、確実に施工実績を積み重ねている。
2022年度は新たにNEXCO中日本より受注した東名高速道路酒匂川橋他2橋床版取替工事を通してさらなる展開を行うとともに、他社にもコッター式継手を販売する新事業を軌道に乗せる予定である。
② ローカル5Gを用いた無人化施工技術の高度化
自然災害現場での無人化施工は二次災害を防ぐために極めて有効な手段であり、施工の高度化を実現するためには、建機に取り付けられた4Kカメラの映像や、加速度センサーで取得された動きの情報を遠隔操作室へリアルタイムに伝送する必要がある。
この課題に対して、大容量かつ低遅延を可能とするローカル5G(第5世代移動通信)システムをつくば市にある技術研究所に構築し、自然災害現場におけるネットワーク対応型無人化施工の実証実験を想定した屋外実験を行った。遠隔操作が可能な不整地運搬車に対してローカル5G端末を取り付け、研究所内に設置されたローカル5G基地局に対する車載カメラや360度カメラの映像信号等の上りリンク通信、建設機械に対する制御信号の下りリンク通信を行った。基地局と有線で接続された操作室において車載カメラの高品質な映像を確認しつつ、建設機械の遠隔操作を実現できた。加えて、360度カメラの4K映像をVRヘッドマウントディスプレイに表示すると同時に、VRコクピット(仮想現実操縦席)で建設機械の傾きや振動などの動きを再現した。ローカル5Gを活用して高品質かつリアルタイムに大容量の情報を伝送することにより、傾斜地などで建設機械を運用する場合でも、実際の搭乗操作に近い感覚で遠隔操作が可能となる。
今後は経済発展と社会的課題の解決を両立するSociety5.0の実現に向け、ローカル5Gを活用した高度な無人化施工の実運用を目指す。
③ 橋梁更新工法「KPYダブルユースガーダー工法Ⓡ」の開発
橋梁の架け替え工事は、河川内での施工となる場合が多く、通常、流量の少ない渇水期に行われ、流量の多い出水期は工事休止となる。また、既設橋梁の下部工撤去や新設橋梁構築には、河川内に仮桟橋を用いて行うのが一般的であるが、仮桟橋は計画高水位(以下「HWL」という)や河積阻害率を考慮して設置されないため、出水期には仮桟橋を撤去する必要があり、工期と工事費の増加要因となっている。
当社は株式会社横河ブリッジと共同で、河川内工事でのこれらの問題点を解決すべく、「KPYダブルユースガーダー工法Ⓡ」を開発した。本工法は、既設橋梁撤去に用いた架設桁(ガーダー)を、更新する橋梁の上部工や下部工に再利用する工法である。架設桁を桟橋のように渇水期と出水期ごとに設置と撤去を繰り返すのではなく、河積阻害率を考慮して新設橋もしくは既設橋と同様の支間割で、かつHWL以上の位置に設置する。これにより、架設桁を出水期に撤去する必要がなくなり、工期短縮や工事費縮減が可能となる。また、従来工法では仮桟橋の他にも流水域にて築島や瀬替えをすることで、橋梁の撤去や構築が行われることもある。この場合は河川に生息する動植物への影響が大きな課題となっていたが、本工法は流水域への影響を最小限に留めることで、周辺環境への影響を低減することができる。
今後は、橋梁更新工事に加え、豪雨等により流出した橋梁の早期復旧事業等への適用を目指す。
④ トンネル切羽評価方法およびコンピュータドリルジャンボの開発
インフラの社会的効果を向上させる上で重要な役割を果たす山岳トンネル工事は、土木工事の中でも不確定要素が強く、施工が難しい工事である。その中心となる地山に対する適正な支保構造を決定するには、専門家の正確な判断が必要である。しかし、定性評価から数値化への対応、数少ない専門家の判断迅速化などの課題がある。
今般、トンネル掘削時の切羽写真や機械データ等をAIにより学習させ、切羽評価を行う「トンネル切羽AI診断システム」を開発し、日下川新規放水路(吐口側)工事、湯野上3号トンネル工事にて導入し検証を行った。
今後は、大学との共同開発でスペクトルカメラによる画像解析も取り入れ、正答率を向上させるとともに、他のトンネル工事でもデータ採取・分析を行い、本格的な実用化を目指す。
また、従来行われている発破等の穿孔作業は、熟練工によるマニュアル操作であるが、更なる省力化・効率化を目指し、穿孔作業を全自動で行えるコンピュータドリルジャンボを開発・製作し、山岳トンネル工事に投入する予定である。
これらは施工が特に困難な山岳トンネル工事における、Society5.0に基づいたi-Constructionを実現するための先進的かつ実現化した技術例となる。
⑤ 泥土圧シールドのチャンバー内可視化技術の開発
泥土圧シールド工法では、掘削土砂に掘削添加材を添加してチャンバー内土砂を塑性流動化(流動性を有する土砂状態)させて加圧することで、切羽の安定を確保しトンネルを掘削する。
施工管理においてはチャンバー内の性状を把握することが重要であるが、隔壁奥のチャンバー内にある掘削土砂は目視できない。そのため土圧分布状態やシールドマシン作動状況、およびスクリュウコンベヤからの排土状況をもとにシールド技術者の経験によって判断することが一般的であり、個人の技量に依存せざるを得ない状況にある。また、高齢化や熟練工不足が進む昨今の状況において、チャンバー内の状況を客観的かつ定量的に把握できるような可視化が求められている。
本システムは、隔壁に設置した多数の土圧計の値に連動して、リアルタイムにグラデーション表示を行うことで土圧の分布を視覚的に捉え、適正な掘進管理の指標となるシステムの構築と実用化を目指すものである。
(2) 建築事業
① 「断熱耐火λ-WOOD®」柱・梁・床・壁の耐火構造の国土交通大臣認定を取得
中大規模木造建築への導入に向けて、当社が開発した木質耐火部材「断熱耐火λ-WOOD(ラムダ・ウッド)」は、主要構造部(柱・梁・床・壁)における1~3時間の耐火構造の国土交通大臣認定を取得した。これまでに床・壁(1~2時間)、柱(1~3時間)の耐火認定を取得しており、今回ですべての主要構造部の耐火認定を取得したことにより、15階以上の木造建築を純木造で建築できるようになった。
「断熱耐火λ-WOOD」の特徴として、荷重支持部(柱・梁・床・壁)の周囲に設置する「燃え止まり層(注)」を硬質せっこうボードと断熱耐火パネルの積層により薄くした。このことは、木質感を演出しつつ居室内の有効利用面積を広く取れる利点がある。更に表面仕上げ材を自由に選択することが可能となったため、お客様および設計者の多様なニーズに対応することができる。昨年完成した当社福井本店の建替え工事では、「断熱耐火λ-WOOD」が採用されている。
当社では、環境重視の観点から需要が高まると想定される、中大規模木造建築の実現に向けて技術開発を進めている。建築物に木造を適用するための課題として、建築基準法に規定される耐火性能があり、建築物の階数に応じた耐火性能を有する部材を使う必要がある。そのため主要構造部(柱・梁・床・壁)における耐火性能を満足するよう、「断熱耐火λ-WOOD」の開発を進めてきた。今回、1~3時間までの梁の耐火認定を取得したことにより、「断熱耐火λ-WOOD」は耐火要件上の階数による制限がなくなり、15階以上の高層建築物にも使用することができる。
今後は、「断熱耐火λ-WOOD」を広く採用いただけるよう、事業化を含め検討を進めていく。
(注) 燃え止まり層とは、荷重支持部材の外側にある燃焼を停止させる層である。
② 解体分離を可能とする木質耐火部材「環境配慮型λ-WOOD」の開発~中大規模木造建築における持続可能な資源開発を視野~
木造建築の解体に際して、主要構造部の分離を可能とする「環境配慮型λ-WOOD」を開発した。建築物への木材の活用は、ESGやSDGsの観点から注目されており、特に長期間にわたりCO2の固定化が可能となる中大規模木造建築は、脱炭素社会への大きな貢献が期待されている。
当社が開発の方向性を確認した「環境配慮型λ-WOOD」は、芯材である木材とその周囲を耐火被覆する石膏ボードとの間に接着剤を一切使用しない仕様とすることにより、建設時と同様の状況で木材と石膏ボードの解体分離を容易にする耐火部材である。本開発により、中大規模木造建築における持続可能な資源活用を視野に入れ、将来の解体・廃棄時に木材を再利用することが可能となる。
当社が既に開発し、耐火構造の国土交通大臣認定を取得している「断熱耐火λ-WOOD」は、芯材(木材)と耐火被覆材(石膏ボード)の接合に接着剤等を利用することから、木材と石膏ボードを再利用可能な状態で解体分離することが困難であった。近年建設が拡大傾向にある中大規模木造建築において、数十年後の建物解体時の木材活用方法は、これからの課題となる。他方、使用済みの石膏ボードは、国土交通省より再資源化が促進されている。これらのことから、当社では主要構造部を容易に再利用可能な状態で分離できる「環境配慮型λ-WOOD」の開発を進めてきた。今回の開発は、既に大臣認定を取得している「断熱耐火λ-WOOD(柱2時間仕様)」と比較して、①解体分離が可能な仕様②耐火被覆層のスリム化③耐火被覆層のコスト低減という特徴を有している。
今後は実用化に向けた更なる実験を進めるとともに、大臣認定取得を進めていく予定である。
③ 優れた床衝撃音遮断性能を実現した波型中空合成スラブ「サイレントLFR」を開発
共同住宅において優れた床衝撃音遮断性能を実現する波型中空合成スラブ「サイレントLFR」をフジモリ産業株式会社と共同開発した。共同住宅における音環境は重要性の高い項目の一つであり、特に、上階での歩行音や物を床に落とした時の音に関連する床衝撃音遮断性能は、建物の内装材だけでなく、構造体である床スラブから十分に対策を行う必要がある。当社等がこれまでに開発したサイレントボイドスラブは、ボイド型枠を「波型」とすることでそれ以前に広く用いられていた矩形ボイド型枠を用いた中空合成スラブで発生するボイド型枠上面での共振現象を抑えることができ、優れた床衝撃音遮断性能を確保することに成功していた。一方で、より厚さの薄いスラブへの適用やスラブ重量をより軽減するなどの課題があった。
今回開発したサイレントLFRは波型を多重に組み合わせた、これまでにない独自の形状を持つボイド型枠を採用している。実物大の試験体を用いた実験により、サイレントボイドスラブ同様、矩形ボイド型枠を用いた中空合成スラブと比較して優れた床衝撃音遮断性能であることを確認している。加えて、ボイド型枠部分の体積がサイレントボイドスラブよりも増えたことによりコンクリート量が少なくなり、スラブ重量の軽減化にも成功した(等価重量スラブ厚に換算して約5mm減)。また、サイレントボイドスラブの適用範囲はスラブ厚さ250mm以上だったが、本スラブでは230mmから対応可能となり、適用範囲を広げた。
今後は、共同住宅における音環境の静謐性能を確保するための重要なツールとして位置付け、デベロッパーや設計事務所などに対して積極的に提案していく予定である。
なお、本スラブは日本建築センター評定(注1)、2時間耐火認定(国土交通大臣認定)(注2)を取得している。
(注) 1 評定番号:RC0062/RC0130
2 認定番号:FP120FL-0025-1
④ 耐震性の高い木質座屈拘束ブレースを共同開発 ~中大規模木造建築へも積極導入~
当社は住友林業株式会社と共同で、木質材料によって座屈(注1)を拘束した鋼製ブレース「KS木質座屈拘束ブレース」を開発し、2022年3月に日本ERI株式会社の構造性能評価(注2)をブレースとしては最高のBAランクで取得した。今後はこの部材を、オフィス、商業施設、集合住宅、宿泊施設や生産・物流施設など様々な鉄骨造に加え、中大規模木造建築へも積極的に導入してゆく。
両社は脱炭素社会の実現に向けた建物の木造化・木質化に注力しており、特に中大規模木造建築の受注拡大のため、木質部材に関連する研究や技術開発に力を入れてきた。KS木質座屈拘束ブレースは、熊谷組の持つ中高層建物の耐震構造技術と住友林業の木質系材料に関する知見や技術を融合して開発した。建物に用いる鋼製の耐震ブレースは地震時に優れた性能を発揮するが、限度を超える圧縮力が作用すると座屈現象が起こり大きく変形する。この欠点を克服するため従来の技術ではコンクリート製や鋼製の座屈拘束材で座屈を抑止している。KS木質座屈拘束ブレースは、LVL(Laminated Veneer Lumber:単板積層材)と合板を組み合わせた木質の座屈拘束材を用いて鋼製の芯材を補強している。このため圧縮時にも耐力を損なうことなく安定的な変形性能を発揮し、従来の座屈拘束ブレースと同等以上の耐震性能を実現することができた。
今後も集合住宅・事務所など「中大規模木造建築」建設の受注施工に向けた木質部材の技術開発を継続し、都市と森がつながる低炭素な街づくりに貢献してゆく。
(注) 1 座屈 :細長い部材が一定の圧縮力を受けた際に急に湾曲すること。
2 構造性能評価:建築確認申請を円滑に進めるための第三者機関による構造性能評価。
⑤ 電子受容体を利用した油含有土壌の省力低コスト嫌気処理法の開発
微生物機能を利用した油含有土壌の浄化技術(バイオレメディエーション)について、酸素を必要としない嫌気処理技術の開発に取り組み、現在主流の好気処理と比較して省力・低コストで環境調和型となる技術を開発した。バイオレメディエーションは、汚染サイトの土壌を低環境負荷で浄化できる方法であり、好気処理と嫌気処理に大別される。好気処理は現在主流の技術であるが、土壌に酸素を供給するための機械損料や人件費などのコスト面に難点がある。
本開発工法は、好気処理と嫌気処理を組合せた方法であり、油分分解が活発である反応初期時に酸素を供給する好気処理を行い、続いて分解が停滞するタイミングで酸素供給をストップし、嫌気処理に切り替えるものである。また、嫌気処理以降の酸素供給回数の減少により、ランニングコストの削減が期待できる。
嫌気条件下での油分分解は、生物の嫌気呼吸の主要プロセスである硝酸還元および鉄還元反応を利用した。油を電子供与体と想定し、嫌気呼吸の基質である電子受容体として硝酸塩および第2鉄イオンを投与し、油分の酸化分解を促進させる。この処理工法について中規模土層による実験を実施し、嫌気条件下において汚染土壌中の油分分解が促進されることを実証した。
更にスケールアップした屋外実験を実施し効果を検証したところ、実験対象土壌中の微生物遺伝子解析により、硝酸還元微生物や鉄還元微生物の存在が確認され、これらの微生物群の反応によって油分の嫌気分解がなされていることが示された。
また、本工法の適用により、好気処理の酸素供給回数が減少し、酸素供給に必要な機械損料や人件費(例えば、ショベルによる土壌攪拌、配管埋設による酸素供給)などのランニングコストは、従来工法(好気処理のみ)と比較して約60%削減できる見通しである。
本工法は電子受容体の添加により、土壌中に生息する微生物群を活性化させて油分解を効率化する。すなわち自然が元来持つ浄化能力を引き出す技術であり、省力化による環境負荷低減や低コスト化だけでなく、環境調和型の浄化技術といえる。今後は本開発工法を実用化するために、実汚染現場での実証試験を行い、検証と改良を行っていく。
(3) 子会社
株式会社ガイアート
① フォームドアスファルトによる再生中温化混合物の検討
脱炭素技術の取り組みとして道路舗装業界においても、アスファルト混合温度を30℃程度低減することによって、使用燃料を減らしCO2削減に寄与する中温化技術が、大変注目されているが、この中温化技術としてフォームドアスファルトを用いる方法について検討を行い、60期には、フォームドアスファルト装置を野田合材工場へ導入し、その効果について検証を行った。今後、更に安定した製品化を図り、他プラントへの展開を行っていきたいと考えている。
② 全天候型常温合材の開発
常温アスファルト補修材(以下,常温合材)は,常温施工が可能でポットホール等の補修材として使用される混合物であり、同社は、常温合材「ガイアートファルト」を新見合材工場で製造している。一方、他社においては、雨天時や水溜まり等水が介在する現場への適用についても、その強度が発現するタイプ(全天候型常温合材)が製品化されているが、同社においてもこれと同等以上の性能となるものの開発に成功し、新見合材工場で試験製造を行った。今後、さらに現場での実証試験を行い、検証と改良を行い製品化を図っていく。
③ 木質系アスファルト舗装の開発状況について
住友林業㈱との共同研究として、杉の間伐で発生し廃棄焼却される間伐材を、木チップとして、アスファルト舗装に再利用する技術について検討を行い、アスファルト乳剤を用いた常温式木質系アスファルト舗装の開発に成功した。今後は、検証と改良を行い製品化を図っていく。
お知らせ