事業等のリスク

2 【事業等のリスク】

◆リスク管理体制について

当社グループの事業活動における重要なリスクを的確に把握し、当該リスクが適正に管理されているかをモニタリングするとともに、万一リスクが顕在化した際のグループ事業への影響を低減すべく、取締役会の諮問機関として、「リスク管理委員会」(委員長:代表取締役副社長執行役員)を設置しています

当委員会は原則月1回開催され、対象リスク事案に関する本社専門部署や会議体に対するモニタリング内容を踏まえ、リスク管理体制の整備状況の集約・検証及び必要な助言を行い、その内容について定期的に取締役会へ報告しています。また、特に「品質管理」および「情報セキュリティ」の重要性を鑑み、傘下に「品質管理委員会」及び「情報セキュリティ委員会」を設置し、より専門的視点におけるリスク認識及び対応策について部署横断的に審議しており、両委員会における審議内容については、定期的にリスク管理委員会に報告されています

 

リスク管理体制図


 

◆リスク管理のプロセスについて

当社グループの国内事業所・国内子会社・海外子会社を対象として、前年度に実施したモニタリング内容および本社各部署からのヒアリング内容をもとに、「労働法制・労働管理」「人権」「コンプライアンス」「品質管理」「情報セキュリティ」「環境」「危機管理」などにおいてリスク課題を抽出します。その中から発生可能性及びグループに対する影響度を、リスク管理委員会で評価し、その評価に基づいて重要リスク項目を選定しています。各重要リスク項目を主管する部署又は会議体は、期初にリスク管理基本計画を策定し、その進捗についてリスク管理委員会へ報告し、委員会で出た意見を踏まえ改善を進めるという、リスク管理におけるPDCAサイクルを推進しています

 


 

 

 

当社単体のみならず、グループ各社におけるリスク管理も進めており、主要な子会社に関しては、一定以上の重要な業務執行について、当社の稟議決裁または取締役会決議を経ることとしています。グループ全体のリスク情報の把握に向けて、国内外のグループ各社における総務責任者による牽制機能の強化及び監査部・人事総務部・法務部など当社管理部門との情報共有の活性化に向けて、「ガバナンスネットワーク」の構築を進めています。

 

 全社レベルで影響を及ぼすおそれのある事案が発生した際には、「クライシス対応マニュアル」に則って本社主管部署よりリスク管理委員会へ報告されます。本マニュアルに規定されたクライシスレベルにおいて一定レベル以上の重大な内容が認められる場合には、リスク管理委員会委員長の判断のもと、専門チーム「クライシス対策本部」を立ち上げて、事態の拡大防止と早期収束に向けて検討する体制を整えています。

 

◆個別のリスク

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資家の判断に重要な影響を与える可能性のある事項については、以下のようなものが挙げられます。

なお、これらについては、提出日現在において判断したものです。

 

[特に重要なリスク]

(1)法令遵守について

当社グループは、宅地建物取引業法、建設業法、建築士法などの法令に基づく許認可を受けるとともに、建築、労働、環境その他事業の遂行に関連する各種の法令及び条例に則り事業活動を行っています。これらにおいて違反が生じた場合に、改善に向けて多額の費用が発生すること、または業務停止等の行政処分を受けることで当社グループの業績に影響を与える可能性があります

対策として、設計における建築基準法上のチェックミス・手続き漏れを防ぐための法規制チェックシステムを導入し、また型式不適合の発生を抑えるために、支店及び本社でのダブルチェック体制を構築しています。また、建設業法上の専任の配置技術者の適正運用に向けて、配置状況のチェックを行うとともに有資格者の人財確保・能力向上に継続して取り組んでいます。

 

(2)品質管理について

当社グループは、設計・生産・施工上の品質において万全を期すとともに、主要な戸建住宅及び共同住宅においては、長期保証制度及び定期的な点検サービスを実施していますが、長期にわたるサポート期間の中で、予期せぬ人的ミス等により重大な品質問題が生じた場合には、多額の費用発生や当社グループの評価を大きく毀損することになり、当社グループの業績に影響を与える可能性があります

対策として、リスク管理委員会傘下の「品質管理委員会」により、製品・設計・生産・施工・CSの5つの検討会をまとめる組織として、品質に関する一元的な管理を進めています。特に施工品質不具合の発生を抑えるために、期初に策定する「施工品質管理年間計画」に基づく「品質管理重点項目」に対する改善に取り組んでおり、その管理状況については定期的にリスク管理委員会へ報告されています。また、施工品質と密接な関わりのある「施工力の確保」に向けて、工事量の平準化、現場生産性の向上、外国人も含めた技能実習生の積極的な育成など多角的な取り組みを進めています。

 

(3)情報セキュリティについて

コンピューターウィルスの侵入や高度なサイバー攻撃等により、個人情報・機密情報の漏洩や改竄、システム停止等が生じることで、お客様等からの損害賠償請求やお客様及び市場等からの信頼を失い、当社グループの業績に影響を与える可能性があります

 

対策として、リスク管理委員会傘下の「情報セキュリティ委員会」において、ITセキュリティ及び情報管理に関する施策を検討・実施しており、情報セキュリティに関するグループ内の基本方針「情報セキュリティポリシー」や秘密情報管理規則に基づき、コンピューターウィルス等サイバー攻撃や秘密情報の漏洩・改竄を防止するために、社内外からのアクセス制御システムを強化するとともに、メール訓練や研修を通じてITリテラシーの向上を図っています。さらに、定期的に外部機関によるセキュリティアセスメントを実施して、更なるセキュリティガバナンス体制の強化に取り組んでいます。

また、 お客様情報の管理について、「お客様情報保護方針」に基づき、各組織において個人情報取扱責任者を定めて、安全対策の実施、周知徹底を図る体制を整えるとともに、全従業員を対象に個人情報の取扱いに関するEラーニングを継続的に推進し、個人情報保護に関する従業員一人ひとりの役割・責任の認識を高めています

 

(4)人権について

国内外の当社を取り巻くステークホルダーへの人権リスクへの対応が不十分である場合、社会的評価が低下する可能性があります

対策として、2020年4月に「積水ハウスグループ人権方針」を制定し、国際規範に基づく人権に対する考え方及び取り組みについて発信し、全従業員に繰り返し周知しています。また、人権方針の実践として、事業活動において「人権デューデリジェンス」のプロセスを採用し、人権リスクマップの作成を通じて事業ごとに重要な人権リスクを特定して、PDCAサイクルによりその対応を進めています。

 

(5)気候変動について

脱炭素社会に向けた炭素税などの様々な規制強化に伴い大幅なコストアップが生じる可能性や、気候変動による自然災害の激甚化により事業の継続が困難になる可能性があります。また、脱炭素商品や災害レジリエンス性の高い商品に対する顧客ニーズが高まることが予想されます

対策として、シナリオ分析により主要なリスクを特定し、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)などのCO2削減効果と災害レジリエンス性の高い住まいの普及に努めています。事業活動においてもグループ全体で省エネ化を推進すると共に、卒FITを迎えたオーナー様から太陽光発電の余剰電力を購入し当社グループの事業用電力として用いる「積水ハウスオーナーでんき」の取り組みを進めています。サプライチェーンについても、2030年までに主要なサプライヤーのSBT(Science Based Targets)目標設定率80%の達成を目指して共同の勉強会を開催するなど、具体的な取り組みを始めています。さらに近年激甚化する気候災害に伴うリスクを軽減するため、事業周辺環境全体の検証を行い対策を進めています。

なお、気候変動に関する主要なリスクと機会については、本社部署・事業部門参画のもと洗い出しを行い、取締役会の諮問機関であるESG推進委員会及びリスク管理委員会における審議を経て、取締役会に報告され、必要に応じてリスクの緩和・移動・受容・コントロールの決定を検討することとしています。

 

(6)労務管理について

従業員の長時間労働は、精神疾患を含めた健康障害につながる恐れがあり、場合によっては長期休業につながるリスクがあります。また、事務所及び施工現場における労働災害は抑制すべき課題であり、特に施工現場では作業手順・作業方法の誤りが負傷につながることも多く、死亡災害など重篤な事故が発生すると、損害賠償負担に加えて社会からの信用失墜を招く可能性もあります。

対策として、労務管理においては、長時間労働を抑制すべく働き方改革を推進する中で、本社、工場、事業所の組織ごとに勤務状況の確認を月次で行うとともに、必要に応じて人事総務部によるモニタリング、労務管理研修を実施して適正な労務管理を促しています また、労働災害の抑制に向けて、各組織で安全衛生委員会を開催し、災害予防に向けた定期的点検及び災害発生事案に対する検証・再発防止策の推進などを行っています。特に施工現場では、「全社施工安全衛生年間計画」に基づき、安心安全な施工環境の整備に努めているとともに、発生頻度の高い事故の削減に向けて、本社施工本部の指揮のもと作業手順の遵守・確認体制の整備など対策に取り組んでいます。

 

(7)新型コロナウイルス感染症について

グループの全従業員に対して感染対策の徹底を図っていますが、グループ内各組織において、新型コロナウイルス感染者及び濃厚接触者が増大することにより、業務推進に影響が出る可能性があります

対策として、新型コロナウイルス感染症対策本部において定例会議を開催し、各事業所の感染状況のタイムリーな把握、状況変化に応じて機動的に対応する体制整備を進めるとともに、感染者または濃厚接触者になった場合の対処方法をグループ全体へ明確に発信し、職場内クラスターの発生を抑止する施策・対応を推進しています。また、コロナ禍における働き方に関して、WEB会議システムの充実、在宅勤務者のモバイル端末の整備など環境整備を進めるとともに、従業員対象のアンケートに基づいた職種ごとの分析を進めて、一過性の対応ではなく、感染状況に応じた新しい生活様式への見直し、働き方改革を推進しています。

営業活動においては、WEB会議システムを利用したプラン提案等によるお客様との関係構築を進めるとともに、新しい生活様式に対応した商品開発を進めています。

 

[重要なリスク]

(1)住宅事業環境の変化について

当社グループは、日本国内において住宅を中心とした事業活動を行っているため、個人消費動向、金利動向、地価動向、住宅関連政策や税制の動向、それらに起因する賃料相場の変動、さらには地方経済動向等に影響を受けやすい傾向があり、今後これらの事業環境の変化により、当社グループの業績に影響を与える可能性があります

対策として、事業環境の変化に対応した諸施策を機動的に実施するため、事業本部長・営業本部長を中心とした国内執行会議を月1回開催し、市場動向を踏まえた施策の進捗状況や現場で発見された課題を共有し、次の施策の立案に活かしています

 

(2)保有する資産について

当社グループが保有している販売用不動産、固定資産、投資有価証券及びその他の資産について、時価の下落等による減損損失又は評価損の計上によって、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります

対策として、当社グループでは、一定金額以上の案件の場合、積水ハウス本社における稟議審査ならびに経営会議での十分な議論を踏まえ、各案件に対する出資の可否を慎重に検討しています。不動産については、優良土地の取得及び資産回転率の向上による安定経営を図り、政策保有株式については、資本・資産効率向上の観点から必要最小限の保有を基本とし、保有の妥当性について、毎年、取締役会において検証しています また、保有する資産の減損及び評価損のリスクを定期的に把握し、必要に応じ適宜会計処理を実施しています。

 

(3)原材料、資材等の調達について

調達先における異常気象による被害や、社会不安(戦争、テロ、感染症、地政学的リスク等)により調達が困難になった場合に、施工がストップして契約工期に影響が出る可能性があります。また、原材料やエネルギーの世界的な価格高騰により、調達価格が著しく上昇し、当社グループの業績に影響を与える可能性があります

対策として、当社グループでは、一つの資材調達先が被災等で調達が困難になった場合などを想定し、3つの側面から備えを進めています

①供給面の備えとして、部材ラインナップ複数化、複数社調達、複数生産拠点化を進めています

②仕様面の備えとして、部材の汎用化など、調達の容易な材料や仕様への変更に取り組んでいます。

③情報面の備えとして、サプライヤー拠点のデータベース化により迅速な初動体制の仕組みを構築しています。

さらに、サプライヤーに対しても自社サプライチェーンの強化を求めることで、備えの輪を広げ、サプライチェーン全体の強靭化に努めています また、資材の調達にあたっては、複数社調達による価格競合、調達先の再編や集約による有利購買、仕様の最適化などにより、調達価格の抑制に努めています。

 

(4)人財確保について

当社グループの持続的成長を実現するためには、既存事業の深化と新規事業への挑戦を担う優秀な人財を国内外で獲得し、雇用を維持していく必要があります。採用競争力が低下した場合や離職による人財流出が深刻化した場合には、成長力が鈍化し、社会的評価が低下する可能性があります

 

対策として、採用ブランディングの強化、採用活動における募集媒体・経路の多様化を積極的に進めています。また、人事制度改革においては、選択制の複線型キャリアコースをはじめ、公正で透明性の高い人事評価制度等を導入し、従業員の自律的なキャリア形成を支援しています。上司と部下が定期的に対話する機会である「キャリア面談」により、従業員のキャリア意識の涵養に加え、心理的安全性の高い組織風土の構築を目指します。引き続き採用機能の強化と成長機会の充実の両面で人財確保に取り組んでいます

 

(5)退職給付債務について

当社グループの従業員に対する退職給付債務は、割引率等数理計算上で設定される基礎率や年金資産の期待運用収益率に基づいて算出されています。この基礎率が変更された場合、または期待運用収益率に基づく見積り計算が実際の結果と大きく異なった場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります

対策として、当社グループでは、退職給付債務については定期的に実績に基づいて見積りの検証と見直しを行っています。年金資産の運用については、外部コンサルタントの助言をもとに、リスク・リターン特性の異なる複数の資産クラス・運用スタイルへの分散投資を行っています。また、企業年金基金においてスチュワードシップ・コードの受け入れを表明し、運用機関に対するモニタリングを強化するとともに、企業年金基金の諮問機関である資産運用委員会では、市場環境や運用状況等について定期的に協議を行っています

 

(6)BCP(事業継続計画)について

大規模自然災害の発生時などに対する対応計画が不明確なことにより初動対応が遅れた場合、各拠点における事業継続が困難になり、当社グループの業績に影響を与える可能性があります

対策として、当社グループでは、大規模自然災害などの発生に対処するために「積水ハウスグループ災害対策基本方針」を策定するなど、BCPの整備を進めています。各組織の「災害マニュアル」を策定し、災害時の各事業拠点における事業継続に向けた準備を進めています。

また、大規模災害などにより本社での業務継続が困難となった場合に備え、本社災害対策本部の設置などを規定した初動対応マニュアルの整備を行っており、本社被災時には、東京拠点(東京都港区赤坂)と総合住宅研究所(京都府木津川市)を代替本社として、本社における重要業務を継続できる体制を整えています。

海外事業を展開する上において、海外子会社の従業員や出張者が自然災害やテロ・暴動などに巻き込まれるリスクに備えて、対応マニュアルを整備して迅速な情報共有体制の構築を図るとともに、海外専用の危機対応支援会社と提携して緊急事態発生時の現地従業員へのサポート体制も整えています。

 

(7)買収防衛策について

当社として、健全な経済活動における当社株式の取得及びそれに伴う株主権利の行使による経営支配権の異動に関して否定するものではありませんが、当社株式の大量取得を目的とする買付け又は買収の提案については、その買付行為や提案の適法性はもとより、当該買付者等の事業内容及び事業計画並びに過去の投資行動等から、当該買付行為又は買収提案が当社企業価値向上及び既存株主共同の利益に資するか否か、さらにはあらゆるステークホルダーに対する影響等を考慮して各々対応について判断するものとします

現在のところ、上述のような買付行為等が具体的に生じているわけではなく、また当社として、当該買付者等を確認した場合の、いわゆる「買収防衛策」を予め定めていません

しかしながら、株主の皆様から負託された当然の責務として、当社株式の異動状況を常に注視するとともに、当社株式を大量に取得しようとする者を確認した場合には、直ちに当社として最も適切と考えられる措置をとります。具体的には社外の専門家を含めて当該買付行為又は買収提案の検討及び評価を行うとともに、当該買付者等との交渉を行い、その結果、当社の企業価値を毀損し又は既存株主共同の利益を脅かすと判断した場合には、具体的な対抗措置の要否及び内容等を速やかに決定し、実行する体制を整えます

また、当社株式が公開買付けに付された場合には、取締役会の立場や考え方を株主の皆様に明確に説明し、公開買付けに応じる権利を不当に妨げる措置は行いません

 

(8)株主代表訴訟について

当社が被った分譲マンション用地取引での詐欺事件による5,559百万円の損害について、同一株主より2018年5月以降、順次、当時の取締役4名に対し、業務執行上の判断の誤り、他の取締役・使用人に対する監視監督責任を怠ったという任務懈怠及び当社に対する善管注意義務違反がある等の理由から、当社に対する同額の損害賠償及び遅延損害金の支払を求める株主代表訴訟が提起されています。本訴訟の動向次第では、当社グループに対するレピュテーションリスクが生じる可能性があります

これに関して当社は、原告の請求には理由がなく、訴訟手続きに適切に関与することを通じて、原告の主張に対して明確に反論する必要があると判断し、当該訴訟に補助参加しています。なお、当時の取締役4名のうち2名に対する訴訟については、2022年1月に取り下げられたため、提出日現在、元代表取締役会長及び元代表取締役副会長2名に関する訴訟が継続中です。

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