昨年度に策定した「2040年ビジョン」の1stフェーズ「挑戦の5年間」と位置付ける中期経営計画「Building a Sustainable Planetary Infrastructure (BSP2025)」の初年度として、3つの重点戦略として、①EPC事業のさらなる深化、②高機能材製造事業の拡大、③将来の成長エンジンの確立に注力してきました。その結果、将来のビジネスの核となる技術の早期獲得を目的とした実証事業の推進、ライセンス技術の習得、事業化推進のための関係者との連携構築、新たな産学の連携を促進することができました。なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は、
設計・調達・建設(EPC)ビジネス分野
現地セキュリティや自然環境が厳しい地域や労働者の確保が困難な地域等、建設工事の遂行が困難な地域におけるプロジェクトが増加傾向にある中で、当社グループは大型Module工法の採用や、プロジェクト遂行の効率性向上のためにAWP(Advanced Work Packaging)による工事管理の採用などを実践していますが、更なる新しい工法(ロボット化、自動化、3Dプリンター導入、小型Module工法、リモート化など)、要素技術の導入(新素材、設計にAIやBIM導入など)、EPC全領域でAWP採用拡大などを図り実装することによって、熟練労働者不足、不安定な現場生産性、スケジュール遅延などのプロジェクトリスクを低減することを目指しています。同時にこうした取組みが当社グループの競争力強化にもつながると考えEPC事業会社を中心に全社的な活動を展開しています。
IT/DX関連
1. EPC効率向上を目指して行っているもの
(1) プロットプラン自動化Auto Plot PATHFINDER TM
プラント全体の配置図であるプロットプランの設計は、プラントの運転・メンテナンスのし易さ、安全性の確保、環境保全はもちろんのこと、建設コストを決定付ける最も重要なものとして位置付けられています。したがって複雑な制約条件のもとで様々な要求を最適化するという大変難しい技術が必要であり、従来、経験豊富なシニア技術者の感覚に頼る部分が大きい領域でしたが、ITグランドプラン2030においてAI設計イノベーションを掲げ、プロットプラン設計を自動化するAuto Plot PATHFINDER TMを開発しました。Auto Plot PATHFINDER TMによる設計は、形式知化・コード化されたシニア技術とAIによるユニット分割をもとにしたユニット単位・機器単位の自動配置、位置確定などエンジニアによる指示取込み、最適配置のステップで行われます。Auto Plot PATHFINDER TMにより、多数のプロットプラン案を超短時間で作成することが可能になり、人間が思いつかないものを含む多くの提案が瞬時にできることから、新しい提案型設計 (Generative Design)へ変革し、基本設計の段階から顧客の検討に貢献できると考えております。2021年度から、複数のフィージビリティスタディやFEED(基本設計)業務を題材にシステムのトライアルを実施し、2022年3月にシステム開発を完了し社内リリースしました。
(2) Data Centric EPC遂行、AWP
Data Centric EPC遂行は、従来の人の手を介した図書ベースの情報交換に代え、ICT技術を最大活用したデータ中心の効率の良い情報交換とタイムリーな意思決定を図ることを目指した新たなプロジェクト遂行手法であり、プロジェクト遂行におけるリスクを低減させ品質・コスト・納期それぞれの要素を向上させることが期待されています。当社グループにおけるData Centric EPC開発においては、設計・調達・建設の作業対象となるタグを一元管理し、そのタグのデータをデータソースとなるシステムから集約し、またそのデータを活用するシステムへ連携する仕組みを構築しています。AWPは、Data Centric EPC遂行の仕組みを活用した一例であり、対象作業の開始を制限する可能性がある先行作業の特定とモニタリングが可能となります。現在進行中の複数プロジェクトにおいて、建設工事に実装したほか、設計・調達業務との連携と効果波及を目指してAWP管理の拡大を進めています。また、当社グループでは、Data Centric EPC遂行とAWPの統合を主軸に置き、EPC全体におけるデジタルトランスフォーメーション (EPC DX) へも取り組んでいます。
2. 顧客によるオペレーション&メンテナンス(O&M)業務の面からの要求に応えるもの
(1) アセットインフォメーションマネジメント(IM)
アセットインフォメーションは、当社グループが遂行したプラントの完成・引き渡し後に顧客がスムーズに運転・保全に移行し、安定したプラント操業を維持するために重要な情報となります。設計・調達・建設(EPC)の各フェーズの中で生成されるプラントを構成する各種のアセットのインフォメーションに関し、一貫性をもって管理・統合する手法を構築し、社内標準化を進めることでインフォメーションの精度を飛躍的に向上させるとともに、データハンドオーバーの国際業界標準規格である「CFIHOS」に準拠したインフォメーションマネジメント遂行を実現しています。
これにより顧客のスムーズな操業への移行を可能とするとともに、アセットやプラントのO&Mコストの低減という付加価値を提供し、顧客の事業価値向上に貢献しています。近年は本分野の顧客要求の高まりもあり、複数のプロジェクトでアセットインフォメーションマネジメントの実装が進み、技術の蓄積が進んでいます。
(2) 保全サービスINTEGNANCE®
当社グループは、プラントの設備診断業務を強力に支援する設備管理システム(A-MISTM)の販売・運用を行ってきました。また、このシステムを包含する、情報プラットフォームを構築し、業務の効率化と付加価値創造を目的とした統合型スマート保全サービス(INTEGNANCE®)の事業化を進めています。プラントの予知保全と定期修理計画の立案を保全戦略支援サービスとして提供するほか、モバイル端末タブレットやスマートフォンを活用した作業状況の電子化とタイムリーな情報共有による工事進捗管理を行っています。2020年4月から、日揮株式会社内に新たにデジタルイノベーション室(DI室)を設立し、保全部門とも連携したINTEGNANCE®構想並びにデジタル技術を活用したソリューションを提案、実装することで顧客の課題解決を目指しています。
また、INTEGNANCE®の一環として3Dビューア「INTEGNANCE® VR」(以下、「本ビューア」という。)を開発し、プロトタイプ版を2021年11月から提供開始しました。本ビューアは、既存プラント全体を撮影した360°パノラマ写真上にアノテーション(関連データをタグ登録)することで、各機器や部材の相関関係を可視化するいわば“プラントのストリートビュー※”を実現するものです。プラント内のあらゆる情報に視覚的に迅速にアクセスできるため、広大な敷地を保全する実務者の運用・保守業務の大幅な効率化を可能とします。
※ストリートビューは、Google LLCの登録商標です。
天然ガス分野
昨今、温室効果ガスの一つである二酸化炭素(CO2)の排出量削減が求められていますが、当社グループではCO2の排出抑制→分離回収→有効利用・貯留→資源再生というカーボンマネジメント・サイクルの各要素で技術・知見を継続して積み上げています。
CO2-EORにおいては、原油とともに随伴されるCO2を有効に活用するために、当社グループは特殊なゼオライト膜で効率的にCO2を分離回収することを可能とする技術を開発し、米国テキサス州で実証試験を実施しています。本技術とともにカーボンマネジメント・サイクルの知見と合わせて、産油ガス国、企業向けにCO2に関する課題解決に向けたトータルソリューションを提供しています。
さらに、「尼国Gundihガス田におけるCCSプロジェクトのJCM実証に向けた調査」において、現在、大気放散されているCO2を近郊の圧入井までパイプライン輸送して、地下に圧入・貯留するCCS実証プロジェクトの事業化調査を実施しました。今後、実証設備の基本設計、建設を経て、2025年を目途にCO2の圧入、モニタリングを開始することを想定しています。本プロジェクトが実現すれば、東南アジア初のCCS実証プロジェクトとなり、アジア地域におけるCCS事業のモデルになるものと期待しています。
また、世界的に資源・エネルギーの低・脱炭素化の動きが加速するなか、その生産・輸送・利用過程で排出される温室効果ガス(GHG)量の正確性や透明性を確保した算定が必要不可欠です。当社グループは、「LNG・水素・アンモニア事業における国際的な手法と調和したGHG排出量算定のMRV手法及びCI算定手法の技術検討・策定にかかる委託調査業務」において、既存の国際的なGHG排出量算定のMRV手法を分析した上で、GHG排出量を算定する過程において、MRV手法の透明性や正確性等を担保する上での課題について検討を行いました。加えて、国際的な算定手法と調和したGHG排出量のMRV手法及びCI算定方法について検討・策定・検証を行いました。本業務を通して策定したMRV手法及びCI算定手法を用いて、LNG等の既存及び新規プラント・関連施設の低・脱炭素化の実現に向けたコンサルティングからプラント等の改造工事の受注活動に今後取り組んでいきます。
さらに、既設LNGプラント関連のAI・IoTビジネスとして、運転ビッグデータ解析及び気象解析を通じて得られた知見を基に操業改善によるLNG増産サービスを海外顧客向けに展開しています。例えば空冷式LNGプラントの場合、生産量減退の要因となるHot Air Recirculationに対しFoggingを適用しLNG増産に繋げた試みのほか、昨年に引き続き、アジアの国営石油会社向けにHot Air Recirculationの予測モデルを開発、本モデルを操業と連携させ増産するシステムを構築、運用中です。増産量を正確に把握するため、機械学習やシミュレータを利用したデジタルツインの開発も行っています。また、その他複数社のLNGプラントオーナー向けに、月次で運転ビッグデータ解析から解析結果・改善案を提供するサブスクリプション型サービスをLNG3 Envisionとして提供しています。
オフショア分野
世界には未開発の中小規模海洋ガス田が多数存在し、効率的な開発手段が期待されています。その最有力候補が、当社グループが世界有数の建造実績を持つ洋上LNGプラント(FLNG)です。
FLNGは、現地ガス消費市場規模に限界のある、またセキュリティ・環境問題を抱えるような地域での陸上パイプラインガス、並びに操業中の洋上石油生産設備で大量に生産される随伴ガスなどの現金化ソリューションでもあります。また、当連結会計年度は、海洋石油・ガス開発分野において、低炭素化・脱炭素化に代表されるSDGs達成に向けたソリューションへのニーズの高まりを受け、当社グループは、社会と顧客の課題に応えるべく、以下3点に取り組んできました。
1. FLNGに関する豊富な経験を活かし、既存LNG輸送船のLNG貯蔵タンクを利活用した新形式のFLNG(浮体式LNG設 備)ハルの概念設計を確立し、アメリカ船級協会の設計基本承認(AIP:Approval in Principle)を取得しました。(川崎汽船株式会社と共同開発、国土交通省支援事業)
2. 浮体式海洋石油生産・貯蔵・出荷設備上で効率的に高濃度CO2を分離し、海底への再注入を目指す、CO2を分離回 収するゼオライト膜の顧客指定条件によるラボ試験並びに経済性検討(既存別技術との比較)を実施しています。(2020年日本財団オーシャンイノベーションプロジェクト Phase 2として採択)
3. 洋上生産設備の遠隔・無人操業の実現に向けて、遠隔で操業状況を監視するシステムのパイロット運用を開始し、自動化・省力化・遠隔操作に関連するデジタルテクノロジーの運用方法の検討を引き続き進めています。
低炭素・脱炭素化分野
温室効果ガス排出量削減に向けた取組みとして、当社ではCO2フリー燃料の導入促進やカーボンリサイクル、及びEMS(エネルギーマネジメントシステム)の観点で研究開発を行っています。
CO2フリー燃料としてCO2フリーアンモニアが着目されており、2020年代半ばの日本でのCO2フリーアンモニアの商業実装に向けた検討が進められています。当社グループは、2014~2018年度に実施した内閣府による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のエネルギーキャリアプロジェクトの成果を活用し、再生可能エネルギーや化石資源からのCO2フリーアンモニアの製造・供給の社会実装を目指して、様々な案件のフィージビリティスタディに参画するとともに、CO2フリーアンモニアのより効率的な製造方法やコストダウンに向けた研究開発を行っています。特に変動する再生可能エネルギー由来のCO2フリーアンモニア製造について、従来にはないダイナミックな変動型アンモニア合成システムを開発しています。
当連結会計年度の具体的な取組みとしては、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業として、「大規模アルカリ水電解水素製造システムの開発及びグリーンケミカルプラントの実証」と題したプロジェクトを旭化成株式会社とともに共同提案し、採択されました。本プロジェクトでは、100MW級を見通した大規模アルカリ水電解システム及び再生可能エネルギー由来の水素を原料としたグリーンケミカルプラントの実証を行います。グリーンケミカルプラント開発では、変動する再生可能エネルギー由来水素を原料としたプロセスにおいて、水素供給量を制御し運転最適化を実現する統合制御システムを旭化成株式会社と共同開発します。さらに、統合制御システムを活用し、グリーンアンモニアなどの化学品の合成プラントのフィージビリティスタディ及び技術実証に取り組みます。また、グリーン水素やグリーンケミカルのサプライチェーンを構成する企業に本プロジェクトに参加いただき、社会実装における便益や課題を抽出することで、事業化と市場創出を加速していきます。
また、カーボンリサイクル技術の一つとして、化石燃料等の利用により排出されるCO2の固定化技術の開発を目的として、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発委託事業「廃コンクリートなど産業廃棄物中のカルシウム等を用いた加速炭酸塩化プロセスの研究開発」を引き続き実施しています。本事業では、廃コンクリート等カルシウムを多く含む産業廃棄物から原料となるカルシウムを抽出し、廃ガス中のCO2と反応させて固定化させるプロセスの実用化と普及を目指した技術開発を行います。また、カルシウム分の抽出と炭酸塩化の効率を高めるため、加速炭酸塩化技術について試験・評価を実施するとともに、プロセス全体の最適化を図りながら技術を確立させ、CO2削減効果を評価していきます。
電気を蓄えることが可能な蓄電池は、太陽光などの再生可能エネルギーと併用することで、昼間に発電して蓄えた電気を夜に使うなど、全体として効率的な運用が可能となります。当社グループは、EMSやVPP(Virtual Power Plant)のリソースとして、最適な蓄電池を提供することで、再生可能エネルギーの出力安定化、需給調整、災害対策などに貢献します。気象条件によって出力が左右される再生可能エネルギーの導入が進んだ結果、出力変動や余剰電力の発生といった、電力系統に影響を及ぼす課題が顕在化しており、電力系統の安定化を低コストで実現する技術に対するニーズが高まっています。当社グループは、蓄電池、工場設備などからの余剰電力を集めて、再生可能エネルギーの出力変動に応じて適切に配分を行う仮想発電所としての役割を果たすVPPの開発にも取り組んでいます。
資源循環分野
中期経営計画「BSP2025」でケミカルリサイクルを重点分野に位置づけており、ガス化(EUPガス化ケミカルリサイクル)、油化、モノマー化(廃繊維リサイクル)を含め、幅広いプロセス技術を通じてケミカルリサイクルを推進し、循環型社会の構築に貢献してまいります。廃プラスチックのケミカルリサイクルは、リサイクルが困難な異種素材や不純物を含むプラスチックを分解し、様々な化学物質に再生することが可能であり、リサイクル率の大幅な向上をもたらす技術として期待されています。
当社グループは、荏原環境プラント株式会社とUBE株式会社からEUP(Ebara Ube Process)に関する技術供与、昭和電工株式会社から量産化技術の供与と運転支援を受け、廃プラスチックのリサイクル推進に向けて、①廃プラスチックのガス化設備並びにガス化設備から製造される合成ガスを用いた化学品製造設備の提案、②廃プラスチックを原料とする水素製造装置の提案、及び③廃プラスチックリサイクルを実現するためのバリューチェーン構築を行っています。具体的な事例としては、岩谷産業株式会社、豊田通商株式会社と共同で国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業にて、都市部における廃プラスチックガス化リサイクルによる地域低炭素水素モデル構築に向けた調査を実施しています。本調査では、愛知県・福岡県を対象とし、廃プラスチックのガス化による水素製造と地域での利活用モデルの可能性を検討します。これにより、都市部での工場や家庭などから排出される廃プラスチックを活用することで、早期に水素を安定的かつ安価に供給することが可能となります。CO2排出量の削減が急務となっている発電所や各種モビリティ、港湾設備などにおける水素利用の促進をはじめ、水素供給による幅広い分野の脱炭素化と資源循環の促進に貢献することを目指します。
不純物を多く含むプラスチックをケミカルリサイクルするには、ガス化、油化などの手法がありますが、油化プロセス技術は他の技術と比較して、プラスチックへのリサイクル効率が高く、製油所・石油化学プラントの既存設備を最大限活用することで、初期設備投資を抑えることができる利点を有しています。当社は旧札幌プラスチックリサイクル株式会社によって商用運転が行われた実績のある廃プラスチックの油化プロセスに関する技術を活用した、ケミカルリサイクルに関する自社ライセンスの開発を開始しました。本技術は、他の油化プロセス技術では事前除去する必要がある塩化ビニル(PVC)を同時に処理することが可能であり、また残渣を適切に排出することで安全かつ安定的に連続運転が可能という技術的な優位性を有しています。また本技術は、旧札幌プラスチックリサイクル株式会社によって2000年から10年間、年間1万5千トン規模の処理量で商用運転が行われた実績を有しており、油化プロセス技術の中で最も信頼性の高い技術であると考えています。当社グループは、本技術の技術的優位性、及び実績をベースに、プロセス技術全体の更なる効率化や処理能力の向上を目指した装置の大型化による経済性向上に向けた技術改良を図り、2022年のライセンス開始を目指します。
当社及び帝人株式会社、伊藤忠商事株式会社は、廃棄されるポリエステル繊維製品からポリエステルをケミカルリサイクルする技術のライセンス事業に向けた共同協議書を締結しました。昨今、温室効果ガスによる地球温暖化や、廃棄プラスチック及び遺棄漁具などによる海洋汚染といった環境破壊が深刻化しており、世界中で対策が急がれています。繊維産業においても衣料品の大量廃棄問題や製造工程におけるCO2排出量などの環境負荷がクローズアップされるなど、サステナビリティ課題の解決が急務となっています。今般の協議書締結においては、帝人株式会社の持つポリエステルのケミカルリサイクル技術と、グローバルにエンジニアリング事業を展開する当社の知見、伊藤忠商事株式会社の持つ繊維業界の幅広いネットワークを活用し、廃棄されるポリエステル繊維製品を原料としたポリエステルのケミカルリサイクルシステムの構築を検討します。これにより、繊維製品の大量廃棄問題に対する有効な解決手段の更なる拡大を目指します。また、当社は、帝人株式会社及び国立大学法人東京大学と共同で、持続可能な繊維産業のエコシステムを構築する際の課題抽出や、これらの課題克服に向けたステークホルダー間の連携、更には廃棄物処理法の改定、民間の活力を活かしてリサイクルを促進する個別リサイクル法の制定に関する協議を行う産学連携のワーキンググループを設立し、活動を開始しました。本ワーキンググループ活動を通じて、エンジニアリング事業を通じて培ってきた当社グループの技術力や知見、帝人株式会社の有する繊維リサイクルに関するノウハウ、国立大学法人東京大学・平尾雅彦研究室の持つリサイクルシステムの価値評価の知見を活用し、参画メンバーとともに持続可能な繊維産業のエコシステム構築に向けた取組みを推進してまいります。
航空業界においては、運航時のCO2排出量の削減が喫緊の課題であり、産業廃棄物などから製造される持続可能な航空燃料であるSAF(Sustainable Aviation Fuel)の開発・安定供給への期待が高まっています。当社グループは、使用済み食用油を用いたSAF製造に関して、製造体制の確立とバリューチェーンの構築に向けて検討を行っています。具体的な事例としては、当社グループと株式会社レボインターナショナル及びコスモ石油株式会社と共同で、「国産廃食用油を原料とするバイオジェット燃料製造サプライチェーンモデルの構築」を提案し、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業に採択されました。本事業では、技術的に実現し得るSAF製造技術を軸に、将来の事業化を見据えた規模でのSAF製造及び供給に係る空港納入までのサプライチェーンモデルを構築する実証事業を実施し、SAFサプライチェーンの早期確立を図ります。これにより、2025年までに国内初となる商用規模でのSAF製造・供給開始を目指します。さらに、当社は株式会社レボインターナショナル、全日本空輸株式会社及び日本航空株式会社と「ACT=行動を起こす」意志を持つその他の12の企業と共に、国産のSAFの商品化及び普及・拡大に取り組む有志団体「ACT FOR SKY」を設立しました。ACT FOR SKYは、前述の目的のために、業界の垣根を超えた企業が協調・連携し、SAFやカーボンニュートラル、資源循環の重要性を訴えながら市民・企業の意識改革を通じて、行動変容につなげていくことを目指しています。
今後も自動車・交通需要の増加に伴い、タイヤ需要の増加が見込まれています。また、現在は、タイヤの主な材料の一つとして石油由来の合成ゴムが使われており、使用済タイヤの多くは、サーマルリカバリー(熱回収)により燃料の一つとして有効利用されています。将来、資源の枯渇やCO2排出量の増加による気候変動などの問題に直面する可能性が指摘されている中、今後もより持続可能な形でタイヤを提供し続ける必要があります。そのために当社は、株式会社ブリヂストン、国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立大学法人東北大学、ENEOS株式会社と共同で、使用済タイヤから合成ゴムの素原料であるイソプレンを高収率で製造するケミカルリサイクル技術の共同研究を開始しました。本研究開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業に採択された実証事業「使用済タイヤからの化学品製造技術の開発」における2つの研究開発項目の一つです。本研究開発は、使用済タイヤを特殊な触媒を使って分解し、合成ゴムの素原料であるイソプレン等を高収率で製造し、タイヤ原料として再利用するための技術の開発と社会実装に取り組むものです。本研究開発を通じて、タイヤ・ゴム産業及び石油化学産業のバリューチェーン全体における合成ゴムの資源循環性の向上とカーボンニュートラル化、さらにその先の持続可能な社会の実現への貢献を目指します。
バイオ分野
CO2削減やサステナビリティなどの観点から、バイオマスを原料とする化学品や燃料の社会的需要が高まっています。当社グループでは、CO2の削減効果が高く、かつ食料と競合しない非可食バイオマス原料を効率的にバイオエタノールやバイオプラスチック等の原料に転換するための技術開発を進めています。バイオマス原料の変換技術としては、バガス(サトウキビ搾汁後の残渣)や木質資源(木材やパルプ等)を効率よく糖に変換するための前処理技術の開発、及びこれらの糖に含まれる発酵阻害物質を除去するための糖精製技術の開発に注力しております。現在は石油から製造されている1,3-ブタジエン(主にタイヤの原料となる製品)をバイオマス由来のエタノールから製造する技術の開発を化学会社と共同で進めています。
日本は、国土面積の67%を森林が占める世界有数の森林大国でありながら、過去数十年に亘る国産木材の価格低迷などを背景に、収穫期を迎えながらも手入れがされない森林が増加しています。このような地域の未利用森林資源を活用することにより、森林の再生や災害リスクの低減、海外の資源に頼らない地産地消型経済の確立など、循環型社会の構築に向けた貢献が期待されています。また、各業界でCO2排出量削減に向けた具体的な取組みが求められる中、化石燃料の代替原料として、バイオマス由来の燃料やケミカルなどを製造するグリーンリファイナリーに対するニーズが高まっています。当社は、太陽石油株式会社と共同で、国内初の森林資源を有効活用したグリーンリファイナリー事業の共同検討に関する基本合意書を締結しました。本共同検討では、主に四国内の未利用森林資源の収集から、木質バイオマスの分解油化によるバイオ原油の製造、バイオ原油を原料としたバイオマスプラスチック原料やバイオ燃料などバイオ製品の製造に至るまでの一連のサプライチェーンの構築に向けた検討を行います。今後、当社が有するエンジニアリング技術及びプロジェクト管理能力と、太陽石油株式会社が有する製油所の運転技術やノウハウを活用し、地域事業者や自治体、大学などとの連携を通じて、2022年から分解油化プロセスの選定を含めた実現可能性調査を実施し、将来的な商業化を目指します。
ライフサイエンス・ヘルスケア分野
医薬品業界では、これまでの低分子合成医薬品に加え中分子合成医薬品、バイオ医薬品を主体とする高分子医薬品、再生医療等製品の開発が増加傾向であり、製造が複雑な医薬品や活性の強い医薬品が増え、付加価値の高い医薬品が開発されています。これに対し、合成医薬品製造に関しては、高薬理活性物質の製造に適用するための封じ込め技術等に加え、これまでの多くの実績に基づく封じ込め測定結果の設計への反映、中分子医薬品製造に関する独自技術の設備開発など、多角的な面から技術開発を進めています。また、医薬品業界の注目度が高まっている原薬及び製剤の連続生産に関し、独自の連続技術開発を進めています。バイオ医薬品製造に関しては、マイクロバブル発生技術に高性能撹拌技術を付加したバイオリアクター開発、バイオ医薬品連続生産に向けた技術開発等を進めています。再生医療等製品に関しては、再生医療関連施設の多くの建設実績を踏まえ、細胞・組織培養環境基準の構築、再生医療関連要素技術の高度化を進めています。固形製剤、無菌製剤製造工場ではロボット活用による無人(塵)化の実現、スマート工場化の開発を進めています。このような研究開発活動の成果として、当社グループが建設するプラント・施設への導入事例も増えており、当社グループの技術差別化に繋がっています。
さらに、病院分野では、カンボジアでの病院経営、日本国内でのPFI事業における病院運営で得た医療、経営、運営の知見をもとに施設設計との融合を図るとともに、ICTの活用により利便性、効率性を高め、より高い機能性とホスピタリティを持つ病院づくりを進めています。また、健診事業を対象にデジタル化やAI、センシング技術を駆使した未来型健診施設の開発を進め、さらに健診データを利活用するシステムの開発に取り組んでいます。
原子力分野
当社グループは、原子力発電所及び再処理工場の廃止措置に係わるプロジェクトマネジメントのサービス提供と廃棄物処理関連技術の開発を進めています。このうち、原子力発電所の廃止措置について、発電所内に貯蔵されている放射線量の高い使用済イオン交換樹脂を安全、かつ安定的に貯蔵するための分解技術の実用化に目処が得られつつあります。また、分解されたイオン交換樹脂を含む、多種・多様な放射性廃棄物への適用を目指し、閉じ込め性能の高い固型化技術の開発を進めています。さらに、再処理工場を含む様々な原子力施設の廃止措置を対象に、長期間にわたる廃止措置プロジェクトを安全、かつ効率的に実施するためのマネジメント支援システムを開発中です。
国内外で注目されている小型モジュール炉(SMR)をはじめとする次世代原子炉技術については、海外におけるSMRプラントのEPC事業への進出を目指し、当社はSMRの開発を行っている米国NuScale Power, LLCに2021年3月に出資しました。当社は、SMRの将来的な市場拡大に加えて、SMRが水素や再生可能エネルギーと並び、脱炭素社会の実現への貢献が期待できること、さらにNuScale Power, LLCの技術が他のSMR技術に先駆けて、2020年8月に米国初の設計認証を取得し、米国原子力規制委員会によりその安全面が認められ、商業化に最も近いSMR技術であることから、今般、SMRプラントのEPC事業への進出を目指し、NuScale Power, LLCに出資を決定したものです。中長期的には海外市場を中心にSMRのEPCプロジェクトを受注・遂行していくことを視野に入れ活動していくほか、SMRと再生可能エネルギー設備、水素製造設備、海水淡水化設備とのインテグレーションも検討していく予定です。
洋上風力発電
国内の洋上風力発電は、現在進行中の港湾区域に続いて一般海域の促進区域におけるプロジェクトが動き出そうとしています。今後、国内の洋上風力発電は毎年複数案件が継続的に開発される見通しであり、当社グループも主力EPCプレーヤーを目指し、事業性検討や基本設計など早い段階から関与しながら将来のEPC受注と遂行を目指しています。また、今後特に成長が期待されている浮体式洋上風力分野に関しては、昨年度浮体式実証設備の撤去実証事業にも参画し、加えて今後の事業開発に関するフィージビリティスタディや、浮体に関する要素技術の習得など、技術力・競争力の強化を図りながら、プロジェクト全体の最適化を目指して取り組んでまいります。
なお、当事業での研究開発費は
石油精製分野
国内石油精製会社では、エネルギー供給構造高度化法の施行や地球環境保護に向けた燃料油需要構造変化を踏まえ、ガソリン留分から軽油やジェット燃料といった中間留分、ナフサやアロマといった化学原料を中心とする石化シフトへの生産体制の転換や更なるボトムレス化が進められています。当社グループは、こうした動きに対応する高いボトム分解能を有し、石化型運転に対応できる流動接触分解触媒の開発・実証化や付加価値の高いプロピレン収率アップ用アディティブの国内外への展開を図っています。また多様化する顧客ニーズに適合した触媒開発の迅速化や効率化を目的に、蓄積した試作データや性能データを構築した触媒設計シミュレータに取り込み、各種触媒の改良や新触媒の提案に活用しています。
一方、世界全体では新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID-19」という。)の影響で一時的な影響はあるものの、アジアを中心に低硫黄分の燃料油需要は増加が見込まれています。そのため、残油流動接触分解装置の前処理や船舶燃料油硫黄規制に対応する高性能の残油水素化脱硫触媒やVGO脱硫触媒が求められています。当社グループが新たに開発した脱硫触媒は、国内で採用され良好な結果が得られており、今後海外展開についても進める計画です。また、国内石油精製会社の研究所と共同開発した水素化分解触媒及び海外石油精製会社と共同開発した水素化分解触媒は、共に採用された製油所で高性能を発揮しており、継続採用や他製油所への展開を目指しています。
石油化学分野
汎用ケミカル製品の市場競争激化に加え、地球環境保護に向けた資源リサイクルやプラスチック汚染防止などの対応要請により、ケミカル市場は競争力のあるプロセスや製品開発及びケミカルリサイクルによる環境負荷の低いプラスチック製品開発の取組みが進んでいます。
当社グループにおいても、市場ニーズに対応する高活性、高選択性の触媒を顧客に提供するため、コア技術を深化させ、新規プロパー触媒や吸着剤開発にも取り組んでいます。新たに開発したニッケル系水素化触媒は、反応評価とシミュレーション技術を強化することにより、高い顧客要求性能を満たし、採用検討段階に進捗しました。一方、ケミカルリサイクルやバイオマス利活用プロセスにおいて、塩素除去や硫黄除去、酸素除去等の前処理ニーズが顕在化し、実証プラントでの提案触媒採用が決定しました。今後も本ニーズに対応する触媒や吸着剤についても積極的に取り組んでまいります。
環境保全分野・クリーンエネルギー分野
環境保全分野では、カーボンニュートラルに向けた、CO2削減のためのバイオマス混焼、及び専焼用の発電所向けに、排ガス中のアルカリ成分に耐性のある脱硝触媒の開発を行い、実証試験を行っています。また、ごみ焼却場の脱硝処理用途においても、排ガスの低温化に対応する新規低温脱硝触媒開発に取り組み、良好な性能を示す触媒を開発しました。今後、実機焼却場での実証試験開始予定です。
クリーンエネルギー分野では、定置型水素燃料電池ユニット用に、効率的でコンパクトな素材が、実商化に向けた工業化試験段階に進捗しています。
生活関連・化粧品分野
プラスチック眼鏡レンズは高屈折率化によるレンズ厚の薄肉化が継続して進行しています。大手眼鏡メーカーの高屈折レンズ用ハードコート膜に採用された高屈折率酸化物粒子は、確実にシェアを広げています。また、次世代品として更なる耐光性と高屈折率を両立する粒子の開発にも取り組んでおり、本開発品は大手メーカーで好評価を得て、早期の商品化を目指しています。さらに、高屈折率酸化物粒子と短時間硬化マトリックスを組み合わせたハードコートラッカー材は、顧客のプロセス短縮ニーズとマッチして採用評価が進んでいます。
化粧品やサニタリー分野では、マイクロプラスチックビーズ代替としてのシリカ材がスクラブ材や化粧品への採用検討に進むと共に、植物由来のボタニカルな新商品開発の活動も顧客の注目を集めるなど、環境と人に貢献する化粧品材料開発に取り組んでいます。
電子材料分野
COVID-19からの市場回復と合わせ、高速通信やデジタル化の流れにより高記憶容量ストレージ需要が急拡大し、ハードディスク用研磨砥粒の需要が伸びています。また、半導体活況でシリコン研磨材も堅調に推移しており、市場の活況と合わせて次世代用の研磨面品質と研磨効率を両立した開発品の顧客評価も活発に進んでいます。このような需要旺盛な市場に対して、当社グループは生産能力増強検討に着手しました。またデバイスの高速通信用としての低誘電率、高誘電率材料開発への取組みは、一部顧客で商品化検討評価にステップアップしました。半導体製造研磨用途では微細化・多層化に伴い、低欠陥かつ高研磨速度の研磨砥粒として独自の無機複合型研磨砥粒が採用に向けた顧客評価も進捗しています。
光学フィルム用機能性光学材料では、高画質テレビの視認性向上のための反射防止フィルム用途で低屈折率粒子が採用されています。汎用化に向かう液晶テレビでは反射防止ニーズは低下傾向にある一方で、有機ELテレビ用途やQLEDテレビなどの新領域テレビでは低反射防止ニーズは強く、より低屈折率で信頼性の高い粒子の開発・工業化に取り組んでいます。また、車載用に搭載される液晶ディスプレイ用途に向けた光学ナノ粒子の開発も進行するなど新しい用途開拓にも取り組んでいきます。
ファインセラミックス分野
ハイブリッド車、電気自動車、太陽光発電、LEDなどの高出力化や省エネルギーを達成するために、パワー半導体の高性能化が進んでいますが、同時に絶縁放熱基板への要求が高くなっています。その要求に応えるため、当社グループは、国立研究開発法人産業技術総合研究所と共同開発した独自の製造方法により世界最高レベルの放熱性・信頼性を持つ「高熱伝導窒化ケイ素基板」の開発並びに事業化を推進してきました。既に新量産工場を立ち上げ、製品の品質及び生産性向上を実現しながら、更なる高性能品開発にも取り組んでいます。
通信分野においては、自動運転やIoTの普及に欠かせない5Gが本格導入され、今後、更なるデータ量の増大に向けたBeyond5Gなどの無線通信や光通信回線の大容量化・高速化が必須になります。当社グループは、最先端の無線通信技術、光通信技術に対応できる薄膜回路基板、単板コンデンサなどの性能・信頼性向上などの開発・製造・販売を行っています。
今後成長が期待される再生医療分野においては、最先端の骨再生材料について国立大学法人東北大学等との共同研究を継続しています。その他、当社グループ独自のセラミックス材料技術と高精度加工技術により、補助人工心臓用部品や「はやぶさ2」などの宇宙衛星用部品、次世代Liイオン2次電池や燃料電池用部材、豪雨対策ポンプ用部品など、先端分野で使用される製品の開発や新材料の開発に大学や各研究機関などと連携して取り組んでいます。
なお、当事業での研究開発費は
また、総合エンジニアリング事業及び機能材製造事業に加え、その他の事業において
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