課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中の将来に関する事項は、有価証券提出日現在(2022年6月24日)において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営方針

 当社の経営陣は、現在の事業環境及び入手可能な情報に基づき最善の経営方針を立案するよう努めております。近年、国内外の製薬会社はその生命線である新薬の創出のため、自社の研究所以外に大学等との共同研究による効率的な創薬研究の活性化、グローバルでの企業統合、買収等により、開発候補品の充実を目指しています。また、新薬開発における投資効率を最大化するためには実質的な特許期間、すなわち後発品出現までの期間を最大化する必要がありますが、そのために国際共同治験を活用し、主要市場国における早期・同時発売を図ることは避けられない状況となっております。このような状況に対応していくため、当社グループでも経営施策を機動的かつ柔軟に展開していくことが要求されております。

 当社グループでは、特定の領域、受託業務、治験段階に注力し、大手製薬会社と同等の立場で医薬品開発を実行・支援できる知識・技術・経験を有するCROを「CDO(Contract Development Organization)」と称しております。当社グループは前述した製薬会社の要求に応えるため、主要事業のCRO事業において、主に治験の主たる段階であるフェーズⅡ、フェーズⅢにおけるモニタリング業務並びにこれに付随する品質管理業務及びコンサルティング業務に特化したCDOを目指し事業展開を行うことで、同業他社との差別化を図っております。

 また、近年増加しているがん領域及び中枢神経系領域疾患の開発品目に対応するため、人材採用、教育研修及び組織改変により受託体制の強化を図っております。今後も、増加する国際共同治験に対応するため、子会社を含めた人材採用、教育研修及び組織改変により受託体制の強化を図ってまいります。

 

(2)目標とする経営指標

 当社グループは、中長期的な成長による企業価値向上と利益還元バランスの最適化を図ることを重要施策と位置付け、安定的な利益還元の源泉となる1株当たり当期純利益(注)を目標とする経営指標にしております。

 

(注)1株当たり当期純利益は、親会社株主に帰属する当期純利益を発行済株式数で除した数値であり、株主価値を形成する重要な指標です。株式の評価指標の一つであるPER(株価収益率)の計算根拠の一つでもあり、株価収益率が一定水準に収束すると、1株当たり当期純利益の向上は株価水準の向上に結び付き、結果として株主価値の向上に寄与するものとなります。

 

(3)経営環境及び経営戦略の現状と見通し

 国内におきましては、当社グループが属するCRO業界の市場規模は引き続き成長を続けております。当社グループといたしましては、これらの状況を踏まえて、今後も主に治験の主たる段階であるフェーズⅡ、Ⅲにおけるモニタリング業務並びにこれに付随する品質管理業務及びコンサルティング業務に注力し、適正な受託費で信頼性の高いデータの収集能力を有するCROとして、顧客への期待に応えていく所存であります。

 そのためには、モニタリング業務の中心となる優秀なCRAの確保及び育成は必要不可欠となっております。CRAの人材確保にあたっては、即戦力となる優秀な中途採用者の積極的な獲得及びCRAの適性を有する新卒者、未経験者の採用を進めるとともに、採用したCRAに対して、入社時には相当の研修期間を設け、また、入社後も継続的に研修を実施することにより、モニタリング業務の品質の向上を常に図っております。

 また、新薬の開発においては、国際共同治験を利用したグローバルな開発が増加しており、日本を含むアジア、米国及び欧州で国際共同治験を実施できる体制を整えることで、中長期的なCRO事業の拡大に努めていく方針です。現在、米国、ドイツ、フランス、スペイン、イギリス、オランダ、ポーランド、チェコ、ルーマニア、ハンガリー、中国、韓国、台湾、シンガポール等に現地法人を有しており、今後は、現地法人の機能をさらに強化することで、国際共同治験に対応できる体制作りを進めてまいります。

 さらに、当社グループは、CRO事業で取り組む医薬品開発業務の下流に位置する製造販売後の市場において、医薬品販売支援を行う育薬事業を展開しており、企業・医師主導の臨床研究、販売企画など複数の案件を受託しております。製造販売承認後の医薬品の価値を維持、増大させる活動を「育薬」と呼び、医薬品のライフサイクルマネジメントとして重要視されるようになってきています。また、臨床研究に係わる不祥事が多発したことから、臨床研究の透明化と適切な実施が求められ、2018年4月より臨床研究法が施行されています。このような背景のもと、臨床研究を中心としてアウトソーシングニーズが増加しており、医薬品販売支援業界の市場規模は拡大傾向にあります。当社グループの育薬事業では、CRO事業で得たノウハウを活かし、より専門性の求められる業務を受託し、高い品質のサービスを提供することで、同業他社との差別化を図ってまいります。

 

(4)事業上及び財務上の対処すべき課題

 当社グループにおきましては、継続的な売上高及び利益の拡大、それを支える内部管理体制の充実を図るため、以下の課題を柱として取り組み、成長を期してまいります。

 

① 国際的な治験業務の体制強化

 当社グループはアンメット・メディカル・ニーズが高く、治験難易度の高いがん、中枢神経系、免疫疾患などの特定疾患領域への特化、特定治験段階への特化を推進することによって構築した治験の各業務における多様な知見・技術を欧州、米国など世界各地に展開することで、グローバルでの研究開発に積極的な製薬会社に対して、高品質のCROサービスをグローバルワンストップに提供しております。

 2018年4月、当社米国子会社が米国のCROであるAccelovance,Inc.(Linical Accelovance America, Inc.に商号変更済み)を子会社化し、世界最大の市場である米国での当社グループの機能強化を図りました。これにより、日本・アジア、米国、欧州の3極を枢軸とする国際共同治験に対応する体制を一層充実させました。さらに、2019年5月には中国上海に新たに子会社を設立しております。

 現在、米国、ドイツ、フランス、スペイン、イギリス、オランダ、ポーランド、チェコ、ルーマニア、ハンガリー、中国、韓国、台湾、シンガポール等に現地法人を有しており、今後も、これらの国における国際共同治験の実施ニーズに合わせて規模拡大、機能強化を行い、現地法人の国際共同治験に対応できる体制を一層強化してまいります。

 一方で、国際共同治験の実施には、参加国における規制当局の考え方、医療保険制度、医療機関の体制、治験に対する患者側の参加姿勢など、様々な環境の違いがあります。当社グループにおいても、各拠点の環境の相互理解に基づく手順やシステムの統合、プロジェクトマネジメントの強化は、喫緊の課題となっております。

 加えて、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなど、季節性や地域性のある疾患に対するワクチンや治療薬等の開発を迅速に実施するためには、北半球だけでなく南半球においてもサービス拠点を確立し、年間を通して対象症例の組み入れが可能となる治験実施体制の構築が必要であると考えております。

 

② モニタリング業務の品質の向上・維持

 当社グループの主要な業務でありますモニタリング業務の品質を向上・維持することは、製薬会社との良好な信頼関係を構築し、経営基盤を安定化するうえで最重要の課題であります。そのため、品質マネジメントシステム、教育研修のさらなる充実化、ITシステム等を活用したモニタリングの効率化などを推進しています。また、日本では品質管理部門や当社独自の組織であるプロジェクト・コミッティーの機能を強化することにより、モニタリング業務、ひいては臨床試験の品質の向上・維持に努めてまいります。なお、プロジェクト・コミッティーとは、受託業務に係る品質を担保するために設置されている社内の組織であり、受託した治験実施計画書に対して事前に当社グループとして特に留意すべき点の確認・指示を行います。また、国際共同治験の増加に伴い、治験実施計画書の日本における実施可能性の検討や代替案の提示など役割範囲が拡大しております。構成メンバーは、臨床試験を主体とする開発業務に精通した経験者及び社外の医師から成り、グローバル化した当社グループの全社的な品質の向上と標準化に貢献するものとなっております。

 

③ 創薬支援、育薬への展開

 当社グループは、CRO事業の一部として、従前のモニタリング業務に加え、医薬品市場分析と開発戦略立案、規制当局に対する届出・相談・申請業務および共同開発や導出などパートナリング支援等を行う創薬支援業務や、これらの後工程に位置する医薬品発売後の期間において、医薬品の適正使用に寄与するデータ等を収集するための臨床研究等の企画、モニタリング業務、監査業務等を行う育薬事業を展開し、サービス提供領域を拡大しております。CRO事業における創薬支援業務については、サービス提供に高度な知識・経験が求められるため、人材確保・育成による受注能力の拡充が課題と考えております。また、創薬支援業務は、医薬品開発におけるワンストップサービスの導入部分となるため、当該業務の拡充は、グローバルのヘルスケア市場において存在感を高めているバイオテック企業の開拓と中長期的な関係構築のために極めて重要な課題と考えております。また、日本では、2018年4月に臨床研究法が施行され、発売後の医薬品に関する臨床研究は、治験とほぼ同様のルールによる規制を受けることになりました。この臨床研究法は、治験と同様に臨床研究においても責任の所在を明確化しデータの信頼性を確保するためのものとなっており、これによって客観性とリソースを確保するためのアウトソーシングニーズが拡大してきております。育薬事業にとっても大きなビジネスチャンスであり、CRO事業で得たノウハウ等を利用することにより、CRO事業同様、育薬事業においても高い品質のサービスを提供できるよう対応してまいります。

 

④ 優秀な人材の確保と育成

 開発難易度の上昇、研究開発費の高騰する新薬開発効率化ニーズに対応し、モニタリング業務の受託を拡大するにあたり、その業務の中心となる優秀なCRAの確保及び育成は必要不可欠であります。また国際共同治験の増加に伴い、これらに特有の業務や、各国間のプロジェクトマネジメント業務が増大いたします。このための人材育成も喫緊の課題であります。

 

⑤ 財務基盤の安定化

 当社グループは、グローバルに高品質なサービスを提供し続け、製薬会社から信頼を得て業務を継続的に受託することにより高い収益性の確保を目指します。また、予算実績管理及びコスト管理を徹底することにより内部留保の充実を図り、優秀な人材の確保、国際共同治験への体制構築等、将来の事業発展に必要不可欠な成長投資に備えてまいります。

 

(5)次期の見通し

 

① 概要

 売上高は、欧米事業において順調に大型グローバル案件の受注獲得が進んでいることから、対前期比で増収となる12,440百万円(前期比7.7%増)を見込んでおります。営業利益は、欧米での事業拡大に伴う人材投資や、業務のデジタル化や情報セキュリティ等のIT投資が発生するものの、日本事業を中心に原価を厳密にコントロールすることで、前期比大幅増となる1,224百万円(前期比12.7%増)を見込んでおります。地域別の詳細は下記の通りです。

 

 米国におきましては、直近に米国発の大型の米欧試験の受注を獲得するなど、米国市場の新薬開発は旺盛で、足元の新規案件の引き合いも大きく増加しており、次期の売上に貢献する新規受注を順調に獲得しております。また、営業部門の強化を含め、引き続き米国市場の深耕に注力し、過去最高を記録した当期の業績をもとにさらなる持続的な成長を図ります。このような状況を反映し、米国においては次期においても順調に業績が推移するものと見込んでおります。

 

 欧州におきましては、営業部門強化が大きな成果を出しており、日亜米欧で実施される大型グローバル案件等を含む複数案件の受注を獲得し、次期以降の売上に貢献する受注残高が大きく増加しています。また、足元の新規案件の引き合いも大きく増加しており、欧州市場においても新薬の開発需要は旺盛な状況です。さらに、米国で獲得した大型の米欧試験については、その一部が欧州で実施されるなど、グループ内で営業面でのグローバル・シナジーも増加しています。このような状況を反映し、欧州においては次期においても順調に業績が推移するものと見込んでおります。

 

 日本・アジア地域におきましては、まず、日本において、新型コロナウイルス感染症への対応の相違等から欧米市場ほどの新薬開発需要の回復には至っておらず、引き続き地道な営業活動による新規案件の掘り起こしが必要な状況にあります。しかしながら、足元では大型の新規案件の引き合いも発生しており、受注環境に好転の兆しも見られます。また、中国において、上海市等でロックダウンが実施されるなどしたため、業績全体への影響は小さいものの状況を注視しております。

 

 以上の当社グループの展開地域の状況に基づき、次期の業績見通しにつきましては、売上高は12,440百万円(前期比7.7%増)、営業利益1,224百万円(前期比12.7%増)、経常利益1,204百万円(前期比1.7%増)、親会社株主に帰属する当期純利益871百万円(前期比10.2%増)を見込んでおります。

 

② 受注残高の推移

 当社グループにおいて受託する業務では、1年から3年程度の主な実施期間において、症例数や対象疾患に起因する治験の難易度などにより受託総額が決定します。この実施期間についてクライアントと委受託契約を締結し、契約に従い毎月売上が発生します。

 受注残高は、既に契約を締結済みの受託業務の受注金額の残高であります。これは、今後1年から5年程度の契約期間で発生する売上高を示しており、当社グループの今後の業績予想の根拠となる指標であります。

 各地域の受注状況につきましては、以下のとおりです。

 米国においては、直近に米国発の大型の米欧試験の受注やその他複数の新規案件を受注するなど、米国市場の新薬開発は旺盛で、次期以降の売上に貢献する新規受注を順調に獲得しております。また、その他にも複数の新規案件の打診を受けており、契約獲得に向けた交渉を行っております。

 欧州地域においては、前期からの営業部門強化が当期に大きな成果を出しており、日米欧で実施される大型グローバル案件等を含む複数案件の受注を獲得しております。また、現在、複数の大型案件を含む新規案件の打診を受けており、次期以降の売上に貢献する受注の積み上げに向け、営業活動を活発化しております。

 日本・アジア地域においても、来期以降の売上に貢献する新規案件の引き合いが増加しており、受注獲得に向けた営業活動を活発化しております。

 以上の改善傾向にある受注環境のもと、2022年3月期末時点の受注残高は2021年3月期末と比較して17.3%増の225億円となりました。

 

表.受注残高の推移

(単位:百万円)

 

2020年

3月期末

2021年

3月期末

(A)

2022年

3月期末

(B)

増減率%

(B-A)/A

受注残高

19,900

19,196

22,514

17.3

内訳

中外製薬

3,227

3,351

3,786

13.0

エーザイ

3,802

2,926

2,795

△4.5

小野薬品工業

1,328

841

653

△22.3

その他

11,541

12,077

15,279

26.5

 

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