文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループでは、『憂いなき未来のために。』をブランドプロミスに掲げ、全ての人々が健康であり続けることによる持続可能な社会の実現を目指し、グループ各社・各事業間のシナジーにより生み出される総合力を強みに事業のサステナビリティの向上を図り、医療の発展へのさらなる貢献と、それを通じた人々の健康と生活の質の向上に取り組んでまいります。
その上で、当社グループは、SMO事業やCRO事業の収益性を継続的に高めるとともに、先端医療事業を本格的な成長軌道にのせることにより、企業の成長と財務体質の強化に努めてまいります。
(2) 各事業における経営環境及び中長期的な経営戦略
当社グループは、事業を取り巻く各種法令の制定や改訂等を更なる事業発展の機会と捉え、各事業において変革と革新に取り組むとともに、人材教育の徹底により事業環境の変化に合わせた高品質なサービスを提供することで、企業価値の向上を図ります。各事業においては、事業環境を踏まえ、経営戦略を次のとおり策定しております。
① SMO事業
医薬品の開発はがんや難治性疾患等の疾患分野へと移行してきており、そのような疾患の治療法として再生医療等の医薬品開発が進められています。また、医薬品・医療機器等の開発はグローバル化や開発期間の短縮化が進むとともに、開発手法の変化により、臨床試験に対するニーズの多様化が続いています。当社グループのSMO事業では、医薬品開発を取り巻く環境の変化に迅速に対応すべく、引き続き大学病院や専門医療センター等の基幹病院との提携を拡大するとともに、複雑化・高度化する臨床試験に柔軟に対応するため、より一層の人材教育の徹底を図ります。また、GCPガイダンスの改正に伴い臨床試験実施医療施設における臨床試験の品質向上やプロセス管理強化が求められており、グループSMO各社の業務プロセスの一層の標準化・効率化及びQMS(Quality Management System、品質マネジメントシステム)の有効性の向上により、グローバルスタンダードに準じた高品質な支援体制を構築するとともに、CRC(Clinical Research Coordinator、治験コーディネーター)とCRA(Clinical Research Associate、臨床開発モニター)のハイブリッド型の総合臨床開発企業となることを目指します。
② CRO事業
増加する難治性疾患領域や再生医療等の医薬品開発においては、早い段階から患者様を含めた臨床試験を実施する傾向があり、早期臨床試験実施施設ではより高い品質や多面にわたる役割が求められています。当社グループのCRO事業においては、日本・オーストラリアに保有する臨床試験実施施設における第I相試験を中心とした早期臨床試験の実施支援を行っており、両施設の連携を強化することで、臨床試験における国際的な品質の確保と医薬品開発の動向に迅速に対応できる体制を整えています。引き続き、日本・オーストラリア両国の臨床試験実施施設において安定した収益を確保してまいります。また、オーストラリアにおいては、同国におけるSMO事業の拡大を推進するとともに、欧米及び医薬品開発の動きが著しいアジア地域の製薬企業からの早期臨床試験の受託拡大を目指します。
国内では、統計解析分野の強みを活かしたアカデミアを中心とした臨床試験支援の受託拡大を進めるとともに、製薬企業やバイオベンチャーによる再生医療等製品などの先端医療製品の臨床開発が増加していることから、当社グループのもつSMO事業や先端医療事業での知見やノウハウを活かし、先端医療製品の臨床開発支援の受託件数と支援実績の拡大を図ってまいります。
③ 先端医療事業
医薬品開発における創薬技術は低分子医薬品から遺伝子治療や再生医療等のバイオ医薬品に変化してきています。バイオ医薬品市場は年々拡大しており、遺伝子治療製剤の医薬品開発やiPS細胞を用いた臨床試験が進められています。
当社グループの先端医療事業では、遺伝子治療や再生医療等に重要な役割を果たすベクターにおいて、安全性と効率性に優れた独自の基盤技術であるセンダイウイルスベクターを保有しており、同ベクターを活用した事業展開を進めています。保有しているGMPベクター製造施設・CPC(Cell Processing Center、細胞培養加工施設)においては、厚生労働省関東信越厚生局より特定細胞加工物製造許可を取得しており、高品質な設備環境において、再生医療等に用いる特定細胞加工物の製造を受託しています。また、再生医療等製品製造業許可、第一種医薬品製造販売業許可及び第一種医療機器販売業許可を取得しており、再生医療等製品や開発中のワクチン・遺伝子治療製剤等の製造販売承認取得後の製造販売体制の整備を進めています。
先端医療事業では、基盤技術であるセンダイウイルスベクターをベクターの世界標準とすることを目指し、世界各国の製薬企業や研究機関等に対する積極的なライセンス活動を継続するとともに、国内外代理店等を通じたiPS細胞作製キットの売上拡大を図ってまいります。
また、自社開発品の臨床試験・非臨床試験を推進し、主要パイプラインのライセンスアウトを目指すとともに、治験国内管理人として海外の先端医療製薬企業の日本における開発を支援し、日本における再生医療等製品の開発促進に取り組みます。
さらに、先端医療技術を活用した化粧品等の製品開発に取り組んでおり、より多くの人が、より身近に、最先端の技術を利用することができるよう研究開発を進めています。
④ メディカルサポート事業
メディカルサポート事業では、既存のクリニックモールから得られる収益を安定的に確保するとともに、グループ各事業の生産施設や臨床試験受託施設等の整備に注力しながら、それらに関わる不動産取引においても収益を確保します。
(3) 会社の対処すべき課題
① 収益力の向上
当社グループは、新しい医薬品・医療技術の発展に貢献すべく、遺伝子治療や再生医療といった先端医療分野における自社開発や受託製造、開発支援等に注力していますが、先端医療事業において安定した収益を確保するには相応の時間がかかるものと考えており、SMO事業・CRO事業・メディカルサポート事業での、収益力の向上が課題となります。これについては、SMO事業において、開発ニーズの高い領域をターゲットに案件の獲得に努めるとともに、支援内容に応じた適切な受託単価の設定や人的資源の適正配置により収益及び利益の向上を図ります。CRO事業においては、海外及び国内における早期臨床試験の受託拡大に努めるとともに、アカデミアや再生医療等製品の新規臨床試験の受託を拡大するための取り組みを強化します。また、メディカルサポート事業において、クリニックモール事業における運営施設の収益性の向上を図ります。先端医療事業においては、iPS細胞作製キットの販売やiPS細胞を作製する技術の特許実施許諾に関わるライセンス事業の推進による収益確保に加え、iPS細胞培養上清液を原料に用いた化粧品の販売及び一般用医薬品、医薬部外品等の販売を行うEC事業により、収益及び利益の拡大を図ります。さらに、当社グループの優れた遺伝子導入技術を用いた遺伝子治療製剤や遺伝子編集技術など、新たな医薬品・再生医療等製品の創出に努めるとともに、主要パイプラインの早期ライセンスアウトを目指します。
② 資金調達
当社グループでは、人材の確保や研究開発等のための継続的な投資を行っております。これらの投資は今後の成長のために必要なものと考えています。製薬企業等との共同研究による開発資金の確保や金融機関・資本市場等を通じた資金調達の可能性を必要に応じて検討してまいります。
③ 内部管理体制の整備
当社グループは従来から、取締役に対する監督機能の強化並びに経営の透明性の向上等、コーポレート・ガバナンスの充実に取り組んでおり、意思決定の透明性・迅速性を高めるべく内部管理体制の整備を行っています。また、当社グループはM&A等により業容拡大を図っており、新たにグループ化した関係会社等と理念やビジョン等を共有し、人材・組織・インフラ等の統合を含む実質的な経営統合を早期に実現することが重要となっています。そのような中、関係会社等の業務の適正を確保するため、関係会社管理規程を定めています。さらに、定期的に業務、業績及びその他重要な事項に関する報告を求めるとともに、業務又は業績に重要な影響を及ぼし得る事項については、当社の事前承認を必要とする体制を確保することで、関係会社等の経営内容を的確に把握し、管理する内部環境整備に努めております。
④ 業務品質の確保
医薬品開発を取り巻く環境は日進月歩で変化し、再生医療をはじめとした新技術の開発の増加や開発のグローバル化、開発期間の短縮化、並びに開発手法の変化等により、臨床試験に対するニーズも多様化してきています。また、そのような変化に伴い、倫理性・科学性・信頼性等の品質に係る関連法規制も複雑化・厳格化してきています。当社グループでは、創業以来、品質を確保するためのプロセス構築と管理を重視しています。プロセスを可視化し、常に検証・改善するとともに、グループ内の業務手順を統一することで、高いレベルでの品質の標準化と迅速な試験実施支援に努めております。
⑤ 人材の確保
SMO事業におけるCRC・SMA(治験事務局担当者)やCRO事業におけるCRA(臨床開発モニター)・DM(データマネージャー)、先端医療事業における研究開発・ベクター製造・細胞培養加工等の人材等、各事業の成長に適した人材の確保が必要となっています。当社グループでは、人材の採用及び人材育成を重要な課題と考え取り組んでおります。
① SMO事業
イ 医療機関との提携拡大
SMO事業においては、製薬企業の医薬品開発動向に合わせた、医療機関の確保が重要な要素となります。医薬品の開発ニーズの高い領域として、がんや難治性疾患を対象とした臨床試験が増加しているため、その実施が可能な医療機関との提携拡大を推進しております。
ロ 高品質なサービスの提供と適正な価格適用の継続
提供するサービスの充実・高品質化を図るため、人材教育の徹底を行っていくとともに、サービスに見合った適正な価格を適用するべく営業活動を推進しております。
② CRO事業
イ 臨床試験実施施設における業務品質の継続的な向上
医療業界では難治性疾患領域や再生医療等の医薬品開発が増加しており、医薬品開発に係る業務は高度化するとともに、高い業務品質が求められています。そのため、早期臨床試験を中心とした臨床試験の実施を受託している当社グループの臨床試験実施施設においては、医薬品開発を取り巻く環境の変化や関連法規制の制定・改正等に迅速に対応し、業務品質を継続的に向上することが必要となります。当社グループが保有する臨床試験実施施設においては、QMS(Quality Management System)年間計画の見直しやSOP(Standard Operating Procedures)の改訂・新設等を積極的に進めるとともに、品質管理委員会等の品質に関わる複数の委員会を設置することであらゆる角度から品質の継続的改善に努めております。
ロ 先端医療製品の臨床試験支援の拡大
国内においては、製薬企業やバイオベンチャー、大学等による再生医療等製品をはじめとした先端医療製品の開発が増加傾向にあり、そのような医薬品開発における臨床試験支援を拡大することがCRO事業の収益向上の重要な要素となると考えております。当社グループのCRO事業においては、SMO事業が保有する大学病院等の医療機関ネットワークや先端医療事業が推進する治験国内管理人サービスと連携し、先端医療製品に係る臨床試験支援の拡大を推進してまいります。
③ 先端医療事業
イ 医薬品・再生医療等製品の候補品の確保
先端医療事業においては既存の研究開発のみならず、今後の事業の継続・成長のために医薬品・再生医療等製品の新たな候補品を確保することが必要です。当社グループでは、中長期的な成長を目指して製品の候補品の創出に取り組みます。そのために、当社グループの基盤技術であるセンダイウイルスベクターやサル免疫不全ウイルスベクターにどのような治療用遺伝子を搭載するのかについて世界中の有力な研究成果情報を収集し、またその専門家と多くの検討機会を得ることが重要です。当社グループでは、すでに国内外の複数の有力な研究機関との提携や共同研究を実施しており、お互いの保有する技術や知見、ネットワーク等を活用した研究・開発を進めております。そのような優れた研究機関と積極的に連携することで医薬品や再生医療等製品の候補品の確保に努めてまいります。
ロ 医薬品・再生医療等製品の候補品開発の推進
当社グループは現在、新型コロナウイルスに対する新規ワクチン等の複数の医薬候補品を保有しています。当社グループでは、SMO・CRO事業等で培った臨床試験に関する知見や国内外ネットワーク等を活用して、医薬品・再生医療等製品の候補品の迅速な開発を推進してまいります。
ハ GMPベクター製造施設・CPCにおける受託製造
当社グループはGMPベクター製造施設・CPCにおいて、臨床用ベクターや臨床試験に用いられる遺伝子治療製剤の製造や、医療機関において免疫療法等に用いられる細胞の培養加工等を行っています。受託製造は堅調に推移しておりますが、先端医療事業のさらなる収益向上に貢献するよう、引き続き積極的に案件を受託し、製造実績を積み重ねてまいります。
ニ ライセンス活動の強化
当社グループではこれまでに、iPS細胞作製技術について大手製薬企業に対する技術実施を許諾した実績があります。このように当社グループの技術利用可能性を高めるライセンス活動は、開発等の活動の成果として得られるマイルストーンや市販後の売上に応じて得られるロイヤリティといった中長期的な収益を確保する可能性を広げることから先端医療分野の成長に欠かせないものであります。従いまして今後も企業や研究機関等に対して、基盤技術であるセンダイウイルスベクターを用いたiPS細胞・分化細胞を作製する技術や遺伝子改変キットを用いた遺伝子編集技術等のライセンス活動を積極的に推進するとともに、当社が開発を進める遺伝子治療製剤等の主要パイプラインの早期ライセンスアウトに向けた取り組みを進めてまいります。
ホ 特許戦略の強化
先端医療技術については特許の確保が極めて重要であり、当社グループではその対応を進めています。成長性の高い領域の特許を戦略的に取得するとともに、特に基盤技術については特許期間満了に対応するため関連した技術改良とその特許取得を行ってまいります。
ヘ 先端医療技術の応用
当社グループが保有する先端医療技術を製品化することが収益向上の重要な要素であります。当社グループでは、先端医療技術を医療だけでなく健康や美容に応用することで、オリジナルブランド化粧品等の開発及び販売を推進しています。
ト 取扱商品の拡充
一般用医薬品や医薬部外品、化粧品等の販売を行うEC事業については、顧客のニーズに応じた取扱商品の拡充が収益向上の重要な要素であります。当社グループでは商品の自社開発を行うとともに、提携企業の拡大を進めてまいります。
④ メディカルサポート事業
新規施設の整備と円滑な管理・運営
メディカルサポート事業では、クリニックモール事業における医療機関等の施設管理やグループ各社の施設整備・管理等を行っており、新規施設の適切かつ迅速な整備、及び円滑な管理・運営がメディカルサポート事業の収益向上とグループ各事業の積極的な事業展開に繋がるものと考えています。
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