課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)会社の経営の基本方針

当社グループは、次の使命を掲げております。

「創薬と医療技術の向上を支援し、人類を苦痛から解放する事を絶対的な使命とします。」

当社グループは、この使命の実現に向け、医薬品開発分野におきまして、網羅的に前臨床試験と臨床試験を受託できる研究機関として事業基盤の確立を図ってまいりました。半世紀を超えて長年培った研究実績や豊富な経験を活かして、最新の設備と確かな技術であらゆる疾患分野における医薬品開発のサポートを実施しております。

一方、科学技術の進展により、医薬品の開発環境は大きく変化します。このような新しい環境の変化にも迅速に対応し、世界に通用するビジネスモデルを構築して、当社の理念を共有でき優れた発想や卓越した才能を持つバイオベンチャーなどと共存共栄を図っていくTR事業にも積極的に取り組んでまいります。

社会貢献と企業価値の極大化を経営の基本方針として、株主、顧客、取引先、従業員等すべてのステークホルダーの期待に応えるべく努力を重ねてまいります。

 

(2)目標とする経営指標

当社グループは、各事業、セグメントの創出する利益を極大化することを重視し、営業利益、経常利益の増大を経営目標にしており、これらの経営指標の中期的向上を目指しております。

 

(3)中長期的な会社の経営戦略

当社グループの中長期的な経営ビジョンは、顧客となる製薬企業の研究開発が、大型化、高度化、国際化しつつある中で、バリューチェーンの構築を通じてグローバルマーケットにおいてクライアントから第一に選択される「オンリーワンカンパニー」となることを標榜しております。

基幹事業であるCRO事業に加えて、知的財産を導出することにより収益を上げていく研究開発型のTR事業にも注力し、より一層の付加価値を付けた質の高い技術と特化したサービスを提供できる体制を整備し、受託試験事業に依存した従来形態から創薬研究支援型の事業会社にパラダイムシフトしてまいります。

 

(4)経営環境

医薬品業界は、国内外において研究開発のスピードアップと費用の効率化ならびに規制当局への対応簡素化を期待してCROへのアウトソーシングの動きが引き続き拡大しており、コロナ禍でその流れはさらに加速しています。また、COVID-19に対するワクチンや治療薬の研究開発に加えて、抗体医薬、核酸医薬、ペプチド医薬、遺伝子治療、再生医療などの新規創薬モダリティの研究開発が本格化してきています。このようなトレンドを受け、CRO事業を主力事業とする当社は、“ダントツのCRO”としてクライアントから第一に指名される存在になることを目指し、顧客ニーズを満たす迅速な対応とサービスの向上ならびに継続的な品質の向上に注力しております。

 

(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

こうした中で、当社グループが対処すべき課題は次のとおりです。

 

① CRO事業の更なる強化

新型コロナウイルス感染症により経済社会生活へ世界規模での影響が続く中、特に医薬品業界では、国内、海外問わず、ワクチン開発、治療薬開発が急速に進んでおります。また、昨今の医薬品開発において、低分子医薬から抗体医薬・核酸医薬、さらに再生医療・遺伝子治療へと創薬モダリティの多様化に伴う医薬品開発難度の上昇に伴い医薬品の研究開発費増加が進み、迅速かつ質の高いCROへのアウトソーシングのニーズが高まっております。こうした中、次のような観点からCRO事業の強化を図ってまいります。

サービス拡充という観点からは、前年度に引き続き適切な新型コロナウイルス感染症対策を講じつつワクチン並びに感染症治療薬開発にCROとして参画するとともに、従来型の安全性試験に加え、候補化合物選定のための創薬スクリーニングから臨床試験に至るまで一貫して開発に必要な試験を受託することで、開発者側の視点に立ったより付加価値の高いサービスを提供することを目指します。

また、上述した創薬モダリティの多様化が進む中、再生医療分野で京都大学iPS細胞研究所との共同研究経験を活かしたiPS細胞を用いた安全性試験に関する受託業務を行ってきたように、今後とも常に業界の動きに逸早く対応した幅広いサービスを提供してまいります。

オペレーションの観点からは、作業工程におけるロボット化や自動化の推進による内部業務プロセスの見直しと改善を進め、紙の使用廃止を目指すZero Missionと名付けた社内活動などによる業務効率化、コストの削減、試験の早期開始などに努めるとともに、年々需要が高まっている新規創薬モダリティ医薬品開発に不可欠な実験動物(主にカニクイザル)のサプライチェーンマネジメントについても、日本・中国・カンボジアのグループ関連施設における検疫・繁殖・育成能力をそれぞれ増強することにより、リスク分散を図りつつ今後の事業成長に必要な品質の高い実験動物を安定的に確保できる体制を構築していきます。

マーケティングという観点からは、CRO市場の規模が大きく、より高い成長が期待できる米国やアジアといった海外市場に対し、これまでSNBL USAで培った海外における経験や顧客とのネットワークも有効に活用しながら、グローバルな顧客からのニーズにも積極的に対応し、市場拡大を目指してまいります。

 

② トランスレーショナル リサーチ事業の取組み

トランスレーショナル リサーチ(TR)事業では、当社グループの医薬品開発における機能、経験とネットワークに、独自の知的財産に基づく基盤技術を加えることで、創薬型の医薬品開発事業へとパラダイムシフトするという戦略に基づき、次の複数のプロジェクトに取り組んでまいります。

当社のTR事業が有する経鼻投与基盤技術の応用性評価を行うためのフィージビリティ試験や応用領域の拡大を図るための拡張技術研究に基づいて、経鼻吸収による全身作用を企図した複数の候補化合物の新規事業化を進めてまいりました。併せて、高い噴射性能と利便性を併せ持つ、独自の経鼻投与デバイスも開発し、さらなる改良を重ねております。未充足医薬品市場を確実に捉え、経鼻投与基盤技術のフィージビリティ試験を繰り返すことによって、経鼻吸収による全身作用を企図した候補化合物を絞り込みを行った結果、経鼻神経変性疾患レスキュー薬を臨床開発段階へと進展させました。現在、その開発は、本剤の開発権をライセンスアウトした連結子会社の株式会社SNLDが引き継いでおり、第Ⅰ相臨床試験を実施しております。また、当社からスピンアウトしたSatsuma Pharmaceuticals, Inc.(カリフォルニア州;以下Satsuma社)は、当社からライセンスを受けた経鼻偏頭痛治療薬を開発しており、当社からの技術試験や助言も得ながら、現在第Ⅲ相臨床試験を米国で実施しております。Satsuma社は、2019年9月に米国ナスダック市場に上場を遂げており、当社TR事業の経鼻投与基盤技術を応用した製品の第一号を目指して、医薬品開発の最終段階に鋭意取り組んでおります。また、鼻から脳へと薬物を送達させる技術(Nose-to-Brain送達技術)研究においては、アカデミアとも連携し、分子イメージング法なども活用しながら、血中から脳へと移行し難い有効成分が、注射よりも高効率に脳へと移行することを確認しています。現在、脳移行性をさらに高めるための製剤や投与デバイスの改良研究を進めています。さらに、新型コロナウイルス感染症が全世界で猛威を振るっている状況において、当社は経鼻ワクチンに関する研究と併せて、ワクチンの効果を高めるためのアジュバント製剤に関する研究に取り組んでおり、今後、その研究開発を推進するために、ワクチン開発会社や研究機関との連携強化を目指しております。さらに、一方、連結子会社のGemseki社では、これまで推進してきたグローバルな創薬シーズ・技術のライセンス仲介事業を推進すると共に、同社を無限責任組合員としたファンドによる投資事業を活発化しており、国内外の顧客に対し、当社グループが保有する豊富な創薬経験とグローバルネットワークを活用した開発支援サービスを幅広く提供してまいります。

 

③ SDGs/ESGへの取組みを通した非財務価値の向上

企業価値を向上させていくためには、従来の財務面のパフォーマンスに加えて、ESG(環境、社会、ガバナンス)をはじめとした非財務面のパフォーマンスを向上させることが求められています。当社は、「環境、生命、人材を大切にする会社であり続ける」という企業理念のもと、世の中がSDGs/ESGに注力し始める以前から財務価値の向上と共にサステナビリティへの取組みを通じた非財務価値の向上にも継続して取組んでまいりました。

当社は事業を展開する中で、スローガンである「わたしも幸せ、あなたも幸せ、みんな幸せ」の実現に向けて、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)に関する8つのマテリアリティを掲げ、ESGへの取組みを強化しています。また、これらの取組みは、世界中の人々が幸せに暮らせるように定められた世界共通の目標であるSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献するものです。(https://www.snbl.co.jp/cms/wp-content/uploads/2021/12/027682986c2744ab4c072a88a15da1c1.pdf)

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環境については、気候変動を地球環境保全のための重大な課題の一つと認識し、脱炭素社会の実現に向けて積極的に取組んでいます。2015年からは再生可能エネルギーであり、ベースロード電源としても注目が高まっている地熱発電事業を鹿児島県指宿市で実施しており、年間で約4,000tのCO2排出量の削減に貢献しています。当社全体の温室効果ガス排出量についても、2030年に温室効果ガスの排出量と吸収量をプラスマイナスゼロの状態にするカーボンニュートラルの達成をめざす長期目標を設定しました。

 

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さらに、気候変動が企業に与える影響についてリスクと機会を分析し情報開示を求める国際的なフレームワークTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosure)に賛同を表明し、同フレームワークに基づき、気候変動が当社へもたらすリスクと機会を織り込んだシナリオ分析を含む当社の気候変動対応を開示しています。

(https://www.snbl.co.jp/esg/tcfd/)

生物多用性の保全に向けても、当社は鹿児島県指宿市に約103万坪の自然豊かな広大な敷地を有しており、同敷地の9割を占める森林を地域の森林組合の協力のもと適切に管理することで、地域の生物多様性の保全に貢献しています。

社会に関する非財務パフォーマンスについては、人権尊重に関するポリシーの制定、女性が働きやすく活躍できる環境の整備、男性の育児休暇取得の推奨などダイバーシティの推進に取組んでいます。

また、人財こそ他社差別化を図り企業戦略を実現するための源泉と捉え、当社独自の人材育成制度であるSNBLアカデミーにおいて、各世代、役割や目的に応じた社内教育プログラムを展開することで、さらなる非財務価値の向上に取り組んでいます。加えて、健康経営を実践するために、代表取締役社長自身が最高健康責任者(CHO)を務め、「生活習慣病対策」、「メンタルヘルス対策」、「喫煙対策」の3つの分野でKPIを設定し、従業員の健康状態の向上を図っています。(https://www.snbl.co.jp/esg/esgdata/)

ガバナンスに関して、当社は、常に最良のコーポレートガバナンスを追求し、その充実に取り組んでいます。当社のコーポレートガバナンスに関する取り組みについては、「4 コーポレート・ガバナンスの状況等」に記載しているほか、「コーポレートガバナンス報告書」や「サステナビリティレポート」をはじめとして、当社のホームページに掲載しています。

 

④ 優秀な人材の確保と育成

当社グループの事業継続及び拡大にあたっては、各分野における専門的な知識・技能を有する技術系研究員等の人材を多数確保する必要があります。また、昨今のAI・ビッグデータ・IoTといったデジタル化の流れを受け、IT技術や変化する経営環境に適応するためのマネジメントに優れた人材も多く必要とされております。

当社グループの競争力を強化する上で最も強く求められるのは、顧客から高く評価される質の高いサービスの提供であり、これを実現するためには優秀な人材の確保とレベルアップが必要であります。

こうした人材の確保や教育研修のために、当社では社内教育機関の「SNBLアカデミー」を中心として、職種、職位に応じた研修を最重要課題として取り組んでおります。また、女性が社員の過半数を占める当社では、女性活躍に注力しており、産休・育休からの復帰もほぼ100%の状況となる中、引き続き女性の管理職登用数の増加に努めてまいります。

 

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在(2022年3月31日)において当社グループが判断したものであります。

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