当社グループは長年積み重ねてきた研究成果と先進の技術力を生かし、植物性油脂とたん白を基礎とする新しい機能を持つ食品素材の開発に取り組んできました。特に近年はESG経営の推進のもと、短期視点、長期視点の両軸で社会課題へアプローチし、Plant-Based Food(PBF)の拡大を実現する新製品・新技術・新ビジネス創出を目指した研究開発活動を実施しています。また、イノベーションを推進するため、国内外の大学や研究機関とのオープンイノベーションや顧客との共創活動を強化しています。世界中の人々の食べることの歓びと健康に貢献することをモットーに、社会になくてはならない会社になるための研究開発活動に努めています。
当社グループの中核研究開発施設である日本国内の「不二サイエンスイノベーションセンター」、「つくば研究開発センター」、及びシンガポールの「アジアR&Dセンター」、そして全世界10箇所の「フジサニープラザ」では、基礎研究や素材開発、及び多数のお客様、企業・研究機関の方をお迎えしての「共創」による研究開発を行っております。また、2022年1月に当社グループのBlommer Chocolate Company(米国)は、シカゴ市内に新しいアプリケーションラボを開設しました。これにより、研究開発を強化し、事業と連携する新たな施策を進めます。
日本国内を統括する不二製油(株)は、各素材別の開発部と、これら素材を用いたアプリケーションを開発する「市場ソリューション開発部」を併せた研究開発部門として運営しています。この体制により、各素材の融合による新規複合素材の開発を効率良く行うと共に、開発された新素材をすぐさまお客様へ提案し、お客様と共創による価値づくりを実現します。また、技術開発部では、「安全、品質、環境」にこだわり、コア技術の強化・革新に関する研究開発を進めております。
未来創造研究所は、当社グループの将来の事業を創造する研究所としての位置付けのもと、積極的に国内外の大学等の公的研究機関や企業との共同研究やコラボレーション、及び研究員の派遣に取り組んでいます。2021年度に茨城大学に設置した「食の創造」講座では、次世代食素材の創出を目指し、当社研究員による学生の指導や、2022年度に生産を始めるエンドウ多糖類の構造と物性機能に関する共同研究などを実施しています。海外では、シンガポールの研究機関ICESとの共同研究、オランダのワーヘニンゲン大学への研究員の派遣等を行っております。
2021年度には、オランダのフードバレーの中心となるワーヘニンゲン大学キャンパス内に「フジグローバルイノベーションセンターヨーロッパ」を開設し、研究開発のより一層のグローバル化とイノベーションエコシステムの発展の推進を目指しています。日本と海外の各拠点R&Dとの定期的な会合や人的交流を実施することで世界的課題の共有とその解決に取り組むと共に、新たなテーマの発掘や、製品開発と課題解決のスピードアップに努めています。
当連結会計年度の研究開発費の総額は
研究開発活動の概要は次のとおりです。
(植物性油脂事業)
安全・安心で環境に配慮した油脂の製造技術、新機能を有する油脂製品、及びその最適な応用法に関する研究開発を通して、お客様のご要望を形にし、新しいおいしさの創造に貢献しております。
当連結会計年度の主な成果としては、劣化風味発生を抑制した安定化DHA・EPA油脂素材については、乳製品関連にくわえ、液状濃厚流動食、直食用のかけるオイルへの採用実績化を新たに達成しております。また、認知機能へのDHA素材の有効性を実証した研究論文を活かし、当社グループのオーム乳業株式会社にて、『オボエトクDHA』を機能性表示食品(脳機能)として届出受理されています(届出No.G793)。さらに、安定化DHA油脂素材の開発及びこれを用いたヒト臨床試験の実施について高く評価いただき、公益社団法人 日本農芸化学会の農芸化学技術賞を受賞しました。今後も幅広いカテゴリーへの応用開発を継続し、健康寿命を支える素材として実績化を進めて参ります。市場拡大を図っている、当社独自の分散技術である、DTR技術(*)は、昨年度開発の少量添加での機能発現を実現する粉末製品が、作業性向上と特異的な呈味改質機能が評価され、健康訴求型の焼き菓子にて実績化を達成しております。さらに、同技術及び物性機能加工技術を組み合わせ、各種調理加工食品用の風味発現向上と作業性を両立させた油脂の開発を行い、国内外のPBF需要に対応すべく、植物性素材でのお客様への選択肢の多様化を推進しております。従来の油脂結晶制御技術、エステル交換、分別技術についても深堀を進め、より一層環境負荷を低減する製造技術へと発展させ、グローバル市場要望にも対応可能な油脂素材の開発を行い、今後海外展開を拡大されるお客様へのご提案が可能な製品の開発を継続しております。
当事業の研究開発費は
*DTR技術:水溶性成分を油脂に微分散させる技術で、素材の呈味(塩味、旨味、辛味など)や保存安定性を付与増強する技術。
(業務用チョコレート事業)
チョコレートの新技術・新製品開発、及び想定した社会的課題や消費者への価値を具現化したアプリケーションを組み合わせたソリューション提案を行っております。
当連結会計年度の主な成果としては、カカオ豆を厳選し、それらの特長を活かした風味づくりに拘った製菓・製パン用新ブランド「カカオクオリー」ピュアチョコレートを発売しました。シングルビーンズの「カカオクオリーエクアドル70」と「カカオクオリーガーナ66」の2品と、ブレンドによる良質なカカオの風味と作業性の良さを両立した「カカオクオリーブレンドビター65」、ブレンドによるカカオの香りと濃厚な乳味が特長の「カカオクオリーブレンドミルク40」の4品が第1弾の製品構成です。
グローバルでの取り組みとしては、当社グループ会社の各拠点R&Dとの市場・技術情報交換を中心とした定期的なミーティングである「チョコレート開発分科会」をWEBにて開催しました。2021年度はコロナ禍から生活者の健康への意識が一層高まり、海外・国内で需要が伸びている糖類・糖質低減チョコレートに関する技術議論や各エリアでの市場情報の交換を行いました。当社グループ全体でのチョコレート開発組織がグローバルに機能するよう、各拠点間でのシナジー創出を目指し、引き続き取り組んでまいります。
当事業の研究開発費は
(乳化・発酵素材事業)
ホイップクリーム、調理用クリーム、ドリンクベース、マーガリン、チーズ風味素材、パイ製品等、乳製品代替素材を中心とした新技術・新製品開発、及びアプリケーション開発を行っております。
当連結会計年度の主な成果としては、美味しさと機能性を両立した製品開発に取り組む一方、植物性素材の価値追求を行いました。サステナビリティの観点から日本においてもPBFの拡がりが確実なものとなり、当社豆乳ホイップ「濃久里夢(コクリーム)ほいっぷくれーる」、豆乳クリームを使用したバター「ソイレブール」の販売数量も増加しました。また、乳代替素材として注目されているアーモンドミルクのドリンクベースやホイップクリームもラインナップに加わり販売拡大を牽引しました。さらに、株式会社ぐるなびと共同で、乳酸菌と麹菌で発酵させた豆乳チーズ「ソイデリス麹(こうじ)」を開発し、発売しました。これは、国立大学法人東京工業大学・株式会社ぐるなび・当社の3者共同研究の成果により誕生しました。「ソイデリス麹」は、低脂肪豆乳を原料に乳酸菌と日本古来の麹菌にてダブル発酵させた第二世代(*1)の豆乳チーズです。一方、参画中のオランダの研究機関NIZO(*2)が主管するコンソーシアム(共同事業体)での成果も取り入れながら第三世代のPlant-based Cheeseの開発に取り組みます。
当事業の研究開発費は
(*1)2015年発売の豆乳チーズ「マメマージュ」が第一世代
(*2)NIZO:食品と健康における受託研究の世界的大手企業
(大豆加工素材事業)
大豆たん白、大豆たん白食品、大豆多糖類等の開発を行っております。
当連結会計年度の主な成果としては、コロナ禍の社会環境において市場が伸びているプロテインパウダー用途向けに粉末状大豆たん白「ニューフジプロKE01」を開発しました。また、同時に市場が伸びているフードバー等の焼き菓子用途向けには粉末飲料にも対応可能な汎用タイプ「ニューフジプロPB」を開発し、順調に市場での採用が進みました。栄養健康市場への新たな大豆たん白素材の提案としては、健康油脂の中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)を大豆たん白で乳化し、粉末状とした風味の良いたん白栄養粉末「プロリーナMCT20」を開発しました。
粒状大豆たん白素材は、商品開発が加速する大豆ミート市場への対応として、肉様食感に更に近づけた品質改善に取り組み、チキン様の繊維感と風味を高めたブロックタイプの「アペックス1300」、フレークタイプの「アペックス365」の2品を開発し、市場から高評価を頂いております。栄養健康市場で市場が拡大している大豆パフの開発では、新たに高たん白フレークタイプの「ソヤパフ20」を開発しシリアル用途での提案を実施中です。社会の関心の高まるPBF商品への対応として、コンビニエンスストアやファーストフード店向けに大豆ミートのパティ、ベジバーグ、ソイナゲット等の製品の品質向上を進め、製品採用の拡大に努めました。外食産業向けには、半調理済みの素材型商品として「Plant Based」シリーズ5品をラインアップしました。大豆多糖類においては、飲料用安定剤「ソヤファイブシリーズ」の安定性能をさらに高めた製品開発などを進めました。
また、欧米市場に向けて、エンドウ多糖類の新製品を2022年度に立上げ、欧州市場開拓にも取り組む予定です。
当事業の研究開発費は
(中長期視点での研究活動)
未来創造研究所では、「おいしさと健康」に拘った食の市場を創造するための研究や、新規事業に繋がる技術開発に取り組んでおります。また、気候変動対策や世界的な人口増加、人権などの多くの社会課題に対して、将来を見据えた取り組みが企業に求められています。未来創造研究所では、将来の解決すべき社会課題として「高齢化社会」に関しては「高齢者の健康課題の予防」を、「サスティナブルな食資源」に関しては「カカオの持続可能性」にフォーカスし、課題解決に繋がる研究テーマを推進しています。「高齢化社会」においては、認知症やメンタルヘルス、フレイル(*1)等を重要な健康課題と設定し、当社独自の酸化しにくい安定化DHA・EPAや機能性ペプチド等の食による予防を目指し、更なる付加価値化、新素材創出の研究を推進しました。島根大学医学部との共同研究により安定化DHA・EPAを含む乳飲料を摂取することで高齢者の加齢に伴う認知機能の低下が抑制されることに加え、骨の健康維持にも効果があることを明らかにしました。この研究成果は日本油化学会の英文誌に掲載されました。安定化DHA・EPAのこれら機能を活用した新素材の開発も継続して進めて参ります。
昨年度立ち上げた技術ブランド“MIRACORE(ミラコア)™”は、Animal-based Food(動物性食品)が持つおいしさと満足感を植物ベースで実現する全く新しい技術です。本年は動物エキス代替品の開発に成功し、和食・洋食・アジア料理などPlant-based(植物性)調味素材の開発に継続して取り組んで参ります。また、新たな油脂生産技術の獲得に向けた取り組みも進めています。昨年度に続き、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」に参画し、酵母の油脂生産性向上に関与している新規遺伝子を発見し、生産性を大きく向上させることに成功しました。実用化に向けて研究体制を強化し、油脂生産酵母による地球環境に優しいパーム油代替技術の実用化を目指して参ります。また、2020年に参画したFood Tech Studio Bites! (*2)では、国内外の複数のスタートアップ企業との協業に向けた検討を経て、環境負荷の低い油脂生産技術を持つ企業と共同して低利用食資源を原料とした油脂生産の実証実験を開始しました。
当事業の研究開発費は1,411百万円です。
(*1)フレイル:健康な状態と要介護状態の中間に位置し、加齢とともに身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のこと
(*2)Food Tech Studio Bites!:日本の食品メーカーと世界中のスタートアップが共に、「食」を通じた持続可能な社会を実現する「新“食”産業」を創出するグローバル・オープンイノベーション・プログラム
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