文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1)経営の基本方針
当社グループは、長期に目指す姿を「お客さまの暮らしを豊かにする“特別な”百貨店を中核とした小売グループ」と定め、次の成長に向けた2024年度までの中期経営計画を策定いたしました。その中核となる3つの重点戦略「高感度上質戦略」「個客とつながるCRM戦略」「連邦戦略」を推進し、企業価値の向上を目指してまいります。
(2)目標とする経営指標
当社グループでは、お客さまのご満足の最大化と収益の安定化に向けて、営業利益をはじめとした複数の経営指標を掲げ、その達成に向けて取り組んでおります。
グループ営業利益については、2024年度に株式会社三越伊勢丹ホールディングス発足後の最高益となる350億円を目指してまいります。
(3)経営環境及び対処すべき課題
①企業構造
当社グループは、持株会社である当社を中心に、主要事業である百貨店事業を中心とした各事業会社により構成されています。現在、事業構成の大半が百貨店事業であり、小売収入を中心とした事業ポートフォリオとなっており、グループ横断で収支構造改革や百貨店を中心に事業モデル改革を進めることで、利益体質の強化を図ってまいります。百貨店の強みを生かした不動産事業、金融事業の収益化を進めることで、より強固な事業ポートフォリオの構築を目指してまいります。
また、コーポレート・ガバナンス体制の強化のため、機関設計として指名委員会等設置会社を選択しております。取締役会議長に社外取締役を選任し、経営課題の長期視点での討議や社外取締役中心のミーティングセッションを実施するなど、一層の実効性向上に取り組んでおります。
今後も、企業活動の透明性を高め、コンプライアンスに徹し、当社グループに関わるすべてのステークホルダーの皆さまに対する提供価値の向上に努め、皆さまからより一層信頼される企業グループを目指してまいります。
②市場環境
当社グループを取り巻く経営環境は大きく変化し、そのスピードも加速しております。国内環境では、少子高齢化、共働き世代の増加等、社会構造の変化により消費市場が縮小しております。また、所得と消費の二極化、デジタル化の加速、リアルでの提供価値の変化、気候変動等の社会課題が深刻化している影響を受け、お客さまのライフスタイルや価値観の多様化が進んでおります。
また、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大により、消費市場は大きな転換期を迎えており、より柔軟かつ迅速に対応していく必要性が高まっていることに加え、ウクライナ情勢の緊迫化と、資源・エネルギー価格の高騰や為替リスクの高まり等、百貨店事業に影響を与える不透明な状況が増しております。このような環境変化を当社グループの持続的成長の機会と捉え、事業環境の変化に対応した事業構造の変革に取り組んでまいります。
③競合他社との比較
長期に目指す姿の実現に向けて、「再生」から「展開」、「展開」から「結実」への3つのフェーズで戦略を推進いたします。再生フェーズでは、「科学の視点」と、「マスから個へのマーケティングへの転換」により識別顧客を蓄積いたします。展開フェーズでは、識別顧客に向けたグループ全社による「連邦戦略」により、お客さまの幅広いニーズにお応えし、結実フェーズにおいては、「連邦戦略」を発展させて、百貨店とグループ会社の魅力と価値で包み込む「まち化」につなげてまいります。
当社グループは、首都圏をはじめ、全国の大都市中心地に不動産を保有しており、結実フェーズにおける「まち化」に向けた取り組みとして、憧れと共感の象徴となる両本店のあり方の検討をスタートさせるとともに、社内の経営レベルでのプロジェクトの推進や、社内横断によるグランドデザインの構想プロジェクトを進めてまいります。
④顧客動向・顧客基盤
国内市場は、少子高齢化の加速等により人口減少が進む一方、中長期的には、金融資産を保有する生活に余裕のある層の増加が見込まれます。また、新型コロナウイルス感染症拡大を背景に、社会貢献や環境改善と保護等に対する要求が高まるとともに、消費に対する新たな嗜好性が醸成されることが見込まれます。
当社グループでは、外商顧客や、三越伊勢丹・カスタマープログラムでの上位ランクのお客さまの売上高は堅調なことから、従来のマスマーケティングから「個」のマーケティングへの転換や、三越伊勢丹アプリ会員等の識別顧客の拡大、ロイヤルティの高い顧客層を増やすことを軸に進め、百貨店の再生に取り組んでまいります。
また、社会に対する企業の責任として、変化する社会のさまざまな課題に向きあい、企業活動を通じてその解決に貢献することで、かかわりのあるすべての人々の豊かな未来と、持続可能な社会の実現に向け役割を果たすことを目指してまいります。ESG、CSR、CSV等のサステナビリティの視点も踏まえ、変化する社会からの課題、要請に応えていくため、社内に「サステナビリティ推進会議」を創設しており、具体的な取り組みにつなげてまいります。
⑤新型コロナウイルス感染症の影響及び対応
新型コロナウイルス感染症の拡大により、お客さまのライフスタイル、価値観は大きく変化しております。また、リモートワークの定着など、デジタル技術の生活のあらゆる部分への急速な浸透により、消費スタイルも大きく変容し、当社グループの業績にも大きな影響をもたらしております。
一方、ワクチン接種が進んだことで感染者数は減少に転じ、経口抗ウイルス薬の普及に伴い新型コロナウイルス感染症の沈静化が進み、世界的な人の往来も期待されます。今後も、お客さまと従業員の安全を最優先にして、社会生活のインフラを支える事業として、グループ一丸となってお客さまのご期待にお応えできるように努力してまいります。
(4)中長期的な経営戦略
所得と消費の二極化、デジタル化の加速、環境意識の高まりなど社会の変化に加え、新型コロナウイルス感染症の長期化やウクライナ情勢の緊迫化などにより、社会・経済活動の不透明な状況が続いております。また、当社では、事業活動に支障をきたす事象とその恐れを含めて、自然災害やデータセンター運用、海外事業展開等をグループ経営への影響度が大きいリスクとして捉えております。
今後も続く不確実で厳しい事業環境において、新たなビジネスモデルの確立が必須であるとの認識のもと、2021年11月、新たな中期経営計画(2022年度~2024年度)を策定いたしました。
長期に目指す姿「お客さまの暮らしを豊かにする、“特別な”百貨店を中核とした小売グループ」の実現に向けて、百貨店事業を早期に再生し、2024年度には、経営統合後の最高益を達成するため、“高感度上質消費の拡大・席巻、最高の顧客体験の提供”を基本戦略に据え、重点戦略の推進と基盤の整備を着実に実行してまいります。
■重点戦略
①高感度上質戦略
両本店を憧れと共感の象徴へと進化させるべく、伊勢丹新宿本店はファッション、三越日本橋本店は伝統・文化・暮らしに注力した商品やサービスの展開に向け、店づくりの計画に着手いたします。
また、外商セールスと外商バイヤーとの連携に加え、デジタルを活用した提案力向上により、個客のニーズに幅広くお応えする組織営業体制へと進化させてまいります。
三越伊勢丹グループ百貨店の店舗間連携により、全国の高感度上質消費を拡充いたします。
②個客とつながるCRM戦略
エムアイカード以外のクレジットカードや現金決済のアプリ会員獲得を強化し、つながる個客の数を拡大するとともに、利用額の拡大に向け、エムアイカード会員へのポイントインセンティブ施策等を、首都圏から全国の三越伊勢丹グループ百貨店に展開拡大いたします。
③連邦戦略
「建装事業」「住環境事業」「PM *1 /CM *2 /デザイン事業」を柱とする株式会社三越伊勢丹プロパティ・デザイン、「広告出稿」「イベント出店支援」を柱とする株式会社スタジオアルタなど、三越伊勢丹グループ各社による外部企業へのサービス提供を本格化いたします。
■グループ基盤
①デジタル改革
化粧品「meeco(ミーコ)」や定期食品宅配「ISETAN DOOR(イセタンドア)」を中心としたオンラインの売上の拡大と収支基盤の安定化に取り組んでまいります。接客や営業支援等のデジタル化を通じて、顧客データなどの蓄積と利活用とリアル店舗の融合による、新たな体験を提供してまいります。
②CRE・事業モデル改革
経営レベルでのプロジェクトに加え、社内横断グランドデザインプロジェクトの発足により、将来の両本店の在り方の検討をスタートし、高感度上質拠点ネットワークにおける憧れと共感の象徴となるまちづくりを推進いたします。
③収支構造改革
「百貨店の科学」を進化させ、収益性と生産性の最大化を図ります。経費コントロールによる販管費の削減と、マルチタスク化や内製化等による要員のコントロールで事業収支構造を継続的に見直し、再設計いたします。
■経営基盤
①システム・データ基盤
三越伊勢丹アプリや三越伊勢丹リモートショッピングアプリ、3D計測ツールなどを営業活動において活用することで商品提案力を強化いたします。
②人財基盤
従業員全員の「個に寄り添うCDP *3 」の推進と経営人財、各領域における専門性の高い人財の育成による人財力の最大化に加え、従業員満足度調査の継続実施によるエンゲージメントの強化により、タテ割り意識なく、協働しながら貢献することにやりがいと誇りを持てる風土を醸成いたします。
今後も不安定な事業環境・経営環境が予想されますが、百貨店事業を通じて培った、「のれん」の価値とお客さまを、三越伊勢丹グループの強みとして再認識し、長期に目指す姿の実現に向け着実に進んでまいります。
また、当社グループは企業活動を通じて社会課題解決に貢献し、豊かな未来と持続可能な社会の実現を支えるべく、サステナビリティへの取り組みを進めています。「人・地域をつなぐ」「持続可能な社会・時代をつなぐ」「従業員満足度の向上」の3つをマテリアリティ(重要課題)として定め、個別の取り組みに加え、当社としてサステナビリティにどのように向き合い、社会に何を提供し、貢献していくかを明確化し、社外・社内に発信してまいります。
*2 CM=コンストラクション・マネジメント
*3 CDP=キャリア・ディベロップメント・プログラム
(5)TCFD提言に沿った情報開示
当社グループは気候変動対応を、企業活動を営んでいくうえでの重要課題に位置付けています。気候変動対応をより積極的に推進していくため「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」(以下、TCFD)に賛同し、環境変化を踏まえ、定量的な情報をもとに、評価、分析の見直しを図ってまいります。
①ガバナンス(気候変動に関するガバナンス)
当社グループでは、気候変動問題を重要課題と捉え、他のリスクと同様に企業を取り巻くリスクの未然防止対策を講じ、リスクが顕在化した際に迅速な対応を実行するためのリスクマネジメント体制を敷き、その責任者としてCRO(チーフ・リスク・オフィサー)を設置しています。
CROは、代表執行役社長(CEO)の参謀的役割として気候関連のリスクと機会の評価と管理、気候関連問題をはじめとする企業のリスクについて最高位の責任を負い、取締役会への説明責任を有し、報告・モニタリングを行っています。取締役会は、協議・決議された内容の報告を受け、対応方針および実行計画等についての論議、監督を行っています。
また、CEOを議長とする「サステナビリティ推進会議」を執行役会の直下に置き、トップのリーダーシップのもと、グループ全体のサステナビリティを推進しています。CROはCAOを兼任し「サステナビリティ推進会議」の副議長およびその下部組織である「サステナビリティ推進部会」の部会長として、統括・指揮を行っています。
サステナビリティ推進会議
三越伊勢丹グループのサステナビリティ活動の方向性、重点取り組み等について、グループ全体での推進・浸透を図る会議体。CEOを議長とし、部門長、関係会社代表者で構成。
サステナビリティ推進部会
サステナビリティ推進会議傘下の部会で、CAOを議長とし、各社・各店総務部長などの所属長からなるサステナビリティ施策推進のための会議体。
サステナビリティ推進会議・推進部会の主な活動内容
・グループ全体のサステナビリティを推進するにあたり、リスク・機会の確認や必要な方針策定
・気候変動対応を含むマテリアリティに関する長期計画とKPIの進捗確認
・グループ各社におけるESGへの取り組みについての事例共有、議論、モニタリング
・ESGにおける最新の知見を共有化
②戦略
当社グループでは、2つの将来の姿を思い描き、いずれの場合においても適切に対応できるようにシナリオ分析を行いました。
いずれのシナリオも国際エネルギー機関(IEA)、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表しているシナリオをベースに進めました。
具体的には、気候変動対策が思うように進んでいない現在の延長線上の「4℃の世界」、気候変動対策が進みパリ協定の目標が実現した「2℃未満の世界」を定め、それぞれの世界が当社グループに与える財務的な影響等を洗い出し、リスクと機会の双方から検討したうえで適切な対応を講じてまいります。
参照シナリオ
Representative Concentration Pathway 8.5/2.6℃〜4.8℃ IPCC2015年
Stated Policies Scenario WEO
Reference Technology Scenario IEA
Sustainable Development Scenario WEO
Beyond 2℃ Scenario IEA
Representative Concentration Pathway 2.6/0.3〜1.7℃ IPCC2014年
World Energy Outlook IEA
国交省「気候変動を踏まえた治水計画のあり方提言」
③リスク管理
当社グループでは、気候変動に関するリスク(移行リスク・物理的リスク)・機会の双方について、以下のプロセスにもとづいて評価、分析、対応しています。
また当社グループは、気候変動に係るリスク・機会について、「サステナビリティ推進会議」において検討を行い、各社・各部門への共有を図っております。
1.当社グループに影響を与えると考えられる、気候変動に関するリスク・機会を抽出
2.抽出したリスク・機会をお客さま・お取組先・地域社会・投資家などのステークホルダーに与える影響度と、リスク・機会発生の可能性の2軸でプロット
3.プロットされた項目毎の影響度について、定量面・定性面双方の視点から検討し、重要度を確定
④指標と目標
・環境中期目標:2030年における温室効果ガス排出量を2013年度比▲50%
・環境長期目標:2050年における温室効果ガス排出量実質ゼロ
・環境長期目標の実現に向けて、再生可能エネルギーへの切り替え計画、お取組先へのアセスメント実施、SBTの認証取得等について、併せて検討・実施してまいります。
温室効果ガス(GHG)排出量
※1 バウンダリ:環境に係るバウンダリ(グループ)は、㈱三越伊勢丹ホールディングス、㈱三越伊勢丹、国内グループ百貨店及び国内関係会社(一部)です。
※2 集計範囲の修正及び排出係数を固定係数から調整後変動係数に変更したことで、CO2排出量及びエネルギー使用量は過去に遡り変更しました。
※3 Scope1~3:当社グループGHG排出量算定規程、及びScope3カテゴリ別算定方法により算定し、2021年3月期の排出量については第三者機関の検証を受けています。
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