課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社、連結子会社及び持分法適用会社(以下、「当社グループ」)が判断したものです。

 

(1) 経営方針・経営戦略等

① 当社グループミッション等

当社グループでは、「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献します。」というグループミッション(存在意義)のもと、「健康で快適な生活」と「環境との共生」の実現を通して、社会に新たな価値を提供することをグループビジョン(目指す姿)として掲げています。

また、グループバリュー(共通の価値観)として「誠実」「挑戦」「創造」を定めており、すべてのステークホルダーの皆様に対し「誠実」に経営することを通じて、社会の課題解決や事業環境の変化に積極果敢に「挑戦」し、絶えず新たな価値を「創造」することで、事業を通じて企業の社会的責任を果たしていくことを基本方針としています。

 

② 当社グループ全体の経営方針・経営戦略等

<経営環境・経営課題>

当社グループは、創業以来100年間、「生活基盤の確立」「物資豊富な生活」「豊かで便利・快適な生活」「新興国での需要」といった各時代のニーズに応えてきました。

国連で採択された「SDGs」(持続可能な開発目標)に象徴されるように、社会課題に対する意識は世界的に高まっています。特に、2020年より感染拡大したCOVID-19による世の中の変化は、「地殻変動」とも言うべき、私たちがかつて経験をしたことがない大きな変化をもたらしました。人びとの価値観は大きく変化し、社会課題や環境課題の顕在化を加速させています。いのちや健康、衛生に対する意識が高まるとともに、リモートワークの普及などを通じて人びとの働き方や暮らしが大きく変わり、個人の生きがい、働きがいがより一層重要視されるようになりました。また、「誰一人取り残さない」というSDGsの原則にあるように、自社のみならず、取引先を含めたサプライチェーン全体における人権尊重の取り組みが、企業活動の前提として求められています。

地球環境への関心も急速に高まっており、特に気候変動リスクの主要因である温室効果ガスの排出量の削減は、人類の喫緊の課題です。また、プラスチックについて、不適切な廃棄による環境汚染問題や資源の有効活用の観点などから、海洋プラスチック汚染対策やサーキュラーエコノミー(循環型社会)に向けた取り組みが求められるなど、各国での規制がより一層強化されています。

これらの課題は1つの企業・産業で解決できないものも多く、企業や産業を超えた共創が益々重要になってきます。例えば、住宅とエネルギー、医療と住宅等のように、これまでの産業の境界を越えて相互に関連しあうテーマ・課題が多く存在しています。また、デジタル技術の急速な進歩普及が、これらの共創を加速させ、産業間の垣根は益々低くなっていくことが予想されます。このような環境は、マテリアル・住宅・ヘルスケアの3つの領域を持つ当社にとっては大きな事業機会であると認識しています。当社は、3つの領域にまたがり人財・コア技術・マーケティングチャネル等、多様な資産を有しており、これらをデジタルの力で繋げ、活かすことで、当社独自のアプローチで社会課題の解決に貢献できると考えています。不確実性の高い時代だからこそ、当社の持つ多様な資産を最大限活用しながら先手を打ち、「持続可能な社会への貢献」と「持続的な企業価値向上」の2つのサステナビリティの好循環を追求していきます。

 

 

ⅰ サステナビリティマネジメントの強化

サステナビリティを追求していくためには、社会、環境の変化に応じて「持続可能な社会」に高い価値を提供する事業体へと、事業ポートフォリオの転換を進めていくことが重要です。当社グループにとって特に影響度が大きい課題であり、かつ社会にとっての影響度が大きい課題をマテリアリティとして定めて、「環境貢献事業の推進」「健康・長寿への貢献」「安心で快適なくらしへの貢献」を目指した事業を推進していきます(下図参照)。さらには、安全/品質/リスク管理/コンプライアンスの強化を含む、全社を挙げたサステナビリティマネジメントもより一層強化していきます。

 

旭化成におけるマテリアリティ


 

また、当社グループは、2021年度に「サステナビリティ基本方針」を制定しました。これは、サステナビリティに関する方針をより具体的に記述することで、当社グループの方針を明示するとともに、サステナブルな社会の実現に向けた行動を一段と推進していくことを狙いとするものです。

 


 

 

ⅱ 前中期経営計画「Cs+(シーズプラス) for Tomorrow 2021」の振り返り

2019年4月より3ヵ年の中期経営計画「Cs+(シーズプラス) for Tomorrow 2021」の実行を進めてまいりました。米国と中国のデカップリングによる国際情勢の変化やCOVID-19の感染拡大、原燃料高騰等、大きな経営環境の変化の中、前中期経営計画の最終年度である2021年度の売上高は、当初計画を達成しましたが、営業利益・当期純利益・ROIC・ROE等は未達となりました。前中期経営計画期間の実績は以下のとおりです。

 


 

前中期経営計画期間では、ヘルスケア・住宅領域における積極的なM&Aを中心に、中期的成長に向けた取り組みを加速したほか、事業評価に基づき選定した「戦略再構築事業」の改革の推進、当社グループの柱となりうる水素関連やCO2ケミストリー等の技術開発・事業化を加速しました。

また、経営基盤強化の視点では、Green、Digital、People(GDP)の視点で取り組みを強化しました。具体的な取り組み例として、Greenの視点では、当社のGHG排出量削減において、2050年にカーボンニュートラルを目指すことを宣言し、実現に向けた動きを推進しました。Digitalの視点では、DX Vision2030の策定、デジタル共創本部の設置、全従業員向けのDX教育として「旭化成オープンバッジ制度」をスタートするなど、DX推進のための基盤の強化を着実に進めるとともに、約400を越えるDXプロジェクトに取り組みました。また、People(人財)の視点では、マネジメント強化、若手のキャリアデザインプログラム、女性活躍推進等を実施しました。

当社グループでは、提供する製品・サービスの全てのライフサイクルにおいて環境・安全・健康・品質に配慮する「環境安全・品質保証活動」を実施しています。しかしながら、前中期経営計画期間において、重大な工場事故が発生しました。事故の原因究明と再発防止策の実行を徹底し、さらにグループ全体で再発防止策を共有することで、組織及び従業員一人ひとりの安全に対する意識を高めています。人命の尊重と安全は事業の根幹をなす価値であり、地域社会や従業員の安全確保にこれまで以上に真摯に取り組み、信頼の回復に努めます。

 

 

経営方針・経営戦略

・ 新中期経営計画2024「~Be a Trailblazer~」の策定

当社は、2022年4月に新中期経営計画2024~Be a Trailblazer~を発表しました。“「持続可能な社会の実現」への貢献と「持続的な企業価値の向上」”を掲げた前中期経営計画「Cs+(シーズプラス) for Tomorrow 2021」の基本的な考え方は変わらず追求し、変化の大きな経営環境の中で、よりスピードを意識した取り組みを推進していきます。新中期経営計画を2030年の目指す姿に向けたファーストステップとして位置付け、推進していきます。

 

● 旭化成の2030年の目指す姿

COVID-19をはじめとする社会の大きな変化は、人類が取り組むべき課題を浮き彫りにしました。その課題は、当社が掲げてきた「Care for People」「Care for Earth」(人と地球の未来を想う)と重なるものであり、世界共通の課題の解決に向けた貢献を加速させていきます。その課題に対して、当社は5つの価値提供分野であるカーボンニュートラル/循環型社会に貢献する「Environment & Energy」、安全・快適・エコなモビリティに貢献する「Mobility」、より快適・便利なくらしに貢献する「Life Material」、人生を豊かにする住まい・街に貢献する「Home & Living」、生き生きとした健康長寿社会に貢献する「Health Care」にフォーカスして事業展開を進めていきます。

 

前述のとおり、我々が直面する課題は、産業の垣根が低くなるにつれて、様々な業界にわたって相互に関連してきます。これは多様な事業を持つことで、様々な分野での知見を有する当社にとって大きな事業機会であると認識し、この事業機会に対して当社グループの「コア技術」「変革のDNA」「多様な人財」を強みとし、更なる成長を目指します。その結果として、2030年近傍には、営業利益4,000億円、ROE15%以上、ROIC10%以上を展望します。また、当社グループのGHG排出量目標として2013年度比で30%以上の削減を目指します。

 


 

・ 新中期経営計画2024「~Be a Trailblazer~」における基本方針

新中期経営計画では、2030年の目指す姿の実現に向けて、「次の成長事業への重点リソース投入」とともに、「成長投資の刈り取りと戦略再構築事業の改革」も並行して進めていきます。加えて、中期視点での抜本的構造転換に着手し、事業ポートフォリオの進化を追求していきます。2024年度の目標として、営業利益2,700億円、ROE11%以上、ROIC8%以上を目指します。

 

 


 

ⅰ 事業ポートフォリオ進化の基本方針

事業ポートフォリオの進化にあたっては、“成長の為の挑戦的な投資”と“構造転換や既存事業強化によるフリー・キャッシュ・フローの創出”の両輪を回すことが重要と考えています。その実現に向けて、「スピード」「アセットライト」「高付加価値」の3つを強く意識しながら推進をしていきます。「アセットライト」については、旧来の設備産業的な考えにこだわらず、各事業に応じて最適なビジネスモデル、スキームを創出していきます。この考え方には2つの視点があり、既存事業の視点では、既存のアセットを最大限活用していかに利益を創出するかを追求していきます。その中でも特にマテリアル領域ではカーボンニュートラルに向けたGHG排出量削減の視点から、EXITの可能性等も含め検討を進めていきます。また、新規事業の立ち上げの視点では、研究開発投資を一から自前で行い、事業化の設備も自己所有で行うことにこだわらず、他社資本の活用など、最適な資本のかけ方は何かを徹底的に追求していきます。新規事業展開において「アセットライト」を志向することは「スピード」の向上にも繋がり、結果的に旭化成が優位なポジションを築ける分野にフォーカスされ「高付加価値」に繋がると考えています。

 


 

 

ⅱ 成長戦略

新中期経営計画2024においては、次の成長を牽引する10の事業を「10のGrowth Gears(以下、GG10)」として設定しました。Growth Gearには旭化成の成長を回すギアとともに、社会の変革を回していくギアという2つの意味を込めており、持続可能な社会の実現に向けての貢献を加速していきます。今後、「次の成長の為の挑戦的な投資」については、このGG10にフォーカスしていきます。

GG10は、具体的には次の事業になります。マテリアル領域では「水素関連」、「CO2ケミストリー」、セパレータを含む「蓄エネルギー」、「自動車内装材」、「デジタル関連ソリューション」の5つです。住宅領域では「北米・豪州住宅」の展開に加えて、「環境配慮型住宅・建材」です。ヘルスケア領域では、「クリティカルケア」、「グローバルスペシャリティファーマ」、「バイオプロセス」の3つになります。

このGG10においては、M&Aの機会も積極的に探索し、大胆な投資も実行していきます。GG10の規模は、現時点ではグループ全体の営業利益の約35%ですが、2030年近傍には70%超を目指していきます

 


 

 

ⅲ 構造転換や既存事業強化からのフリー・キャッシュ・フロー創出

新中期経営計画2024においては、前中期経営計画「Cs+ for Tomorrow 2021」期間中より進めている「戦略再構築事業」の改革の完遂を目指しながら、中期視点での「抜本的構造転換」に着手します。

事業ポートフォリオの転換を進めるため、事業ごとの「成長性(売上高成長率)」×収益性(営業利益率)の評価をベースに、「資本効率(ROIC)と資本コストの視点」「サステナビリティの視点(温室効果ガス(GHG)排出量等定量指標)」「利益額、利益の変動性や事業ステージの視点」などを加えた事業評価を実施し、当社グループの約60事業のうち、特に「マテリアル」セグメントの汎用製品を扱う事業を中心に、15事業を「戦略再構築事業」として抽出し、社長を含む経営メンバーと各事業側のメンバーとで戦略討議を実施してきました。「戦略再構築事業」には、戦略見直しにより利益回復を遂げている「Recovery」事業、立て直し戦略を立案・実行中の「Follow」事業、事業縮小や売却等の検討を進めている「Exit」事業があり、今後は「Follow」事業の見極めと「Exit」事業の実行を可能な限り速やかに完了させつつ、定期的に事業ポートフォリオ評価を行い、業績低迷事業は速やかに戦略再構築に着手していきます。

さらに「抜本的事業構造転換」として、業績が悪化している事業でなくとも、旭化成の目指す姿との適合性から構造転換を進めていきます。「ベストオーナー」「カーボンニュートラル」「競争優位性」「成長性」「収益性・資本効率」の5つの視点で事業の見極めを行い、新中期経営計画2024の期間では、その実行のロードマップを作成し、具体的に実行を進めていきます。ここで得られたリソースを10のGrowth Gears(GG10)に振り分けて、ポートフォリオ進化を加速させていきます。

 

ⅳ 財務・資本政策

(外部環境・課題)

前中期経営計画「Cs+ for Tomorrow 2021」期間においては、米中対立やCOVID-19感染拡大、半導体不足等のサプライチェーンの混乱、原燃料の高騰等、経営環境の変化を踏まえて財務規律を重視しながらも、中期的成長に向けた投資を積極的に実施致しました。営業キャッシュ・フローは経営環境変化の影響を受けましたが、財務健全性を表すD/Eレシオを想定の水準に維持しながら、株主還元は中期経営計画で想定していた配当性向で実施致しました。今後も不透明な経済情勢がしばらく続くと思われ、健全な財務状態を保ちながら、事業ポートフォリオの転換や中長期的な成長に資する案件の投資を着実に実行することで、当社グループのキャッシュ創出力や資本効率を持続的に高め、「持続可能な社会の実現」への貢献と「持続的な企業価値の向上」の好循環を実現していきます

 

(具体的な方針・戦略)

■ 資金の源泉と使途の枠組み

米中対立やCOVID-19感染拡大の影響を最も強く受けた「マテリアル」セグメントでは、事業ポートフォリオ転換を通じた収益性や資本効率の向上、「住宅」セグメントでは、継続的に投資を進めている新事業の利益成長と生産性向上による継続的なキャッシュ・フローの創出、「ヘルスケア」セグメントでは、過去の投資からのリターン創出を通じた利益成長と収益性を追求し、グループ全体としてキャッシュ創出力や資本効率を向上させていきます。新中期経営計画2024においては、営業キャッシュ・フローとして3年間の累計で7,500~9,000億円、投資キャッシュ・フローとして設備投資・投融資の3年間の累計は8,000~9,000億円の水準を見込んでいます。株主還元については利益成長に合わせて1,500~1,800億円を計画し、資金調達は有利子負債で行うことを計画しており、状況に応じて500~3,000億円を見込んでいます。D/Eレシオは0.4~0.7のレンジを想定しており、財務健全性を保ちながら、適切なレバレッジとなるような最適な資本構成を追求します。

 


 

■ 設備投資・投融資

新中期経営計画2024の3年間において、前中期経営計画期間を上回る累計で1兆円を超える意思決定を行う計画です。そのうち約6,000億円を次の成長を牽引するGG10に重点的に投入する予定にしています。また、投資案件の選定にあたっては財務規律を重視し、「環境価値」「投資効率」「投資スキーム」の3点の視点で案件を精査していきます。「環境価値」視点ではカーボンプライシング等を考慮しても投資価値があるか、「投資効率」視点では最終的にその事業のROICが向上するか、「投資スキーム」視点では他社資本の活用等、より適した投資形態になっているか、このような視点を持って成長に向けたメリハリのある投資を実行していきます。

 


 

 

■ 株主還元

中期的なフリー・キャッシュ・フローの見通しから株主還元の水準を判断していきます。配当による株主還元を基本とし、1株当たり配当金の維持・増加を目指していきます。配当性向については30~40%(中期経営計画の3年間累計)を目安としながら、配当水準の安定的向上を図ります。自己株取得は資本構成適正化に加え、投資案件や株価の状況等を総合的に勘案して検討・実施していきます。配当政策については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」と合わせてご参照ください。

 

■ 資本効率の向上

当社グループは株主資本コストを意識し、持続的にこれを上回る自己資本利益率(ROE)を追求します。最適資本構成を追求するとともに、各事業の投下資本利益率(ROIC)の向上に向けた事業ポートフォリオの転換、競争優位性の構築、生産性の向上、投資案件の精査と投資効果の追求等を進めていきます。

 

ⅴ 経営基盤の強化

経営環境の不透明さが増す中では、事業を支える土台となる経営基盤をより強固にすることが重要であると考えています。経営基盤強化として、「無形資産の最大活用」「Green(グリーントランスフォーメーション)」「Digital(デジタルトランスフォーメーション)」「People(人財のトランスフォーメーション)」「責任ある事業活動」に重点的に取り組んでいきます。

 

■ 無形資産の最大活用

当社グループでは、3領域にまたがり、人財、コア技術、マーケティングチャネル等、多様な無形資産を持ち、活用できることが強みであり、デジタルを活用し、これらの無形資産を最大限コネクトさせることによって、戦略構築や新事業の創出を推進しています。

具体例はモビリティ分野におけるマーケティング活動です。当社グループは自動車の付加価値向上に繋がる多様な技術・製品を多く有しており、各事業が培ってきた自動車OEMとのネットワークや、これまで蓄積してきたマーケティングデータを活用することで、グループ全体として、OEM各社との戦略的パートナーシップを構築することができ、当社の事業機会を大きく拡大することができます。

また、当社グループでは、従来から知財情報の戦略的活用を志向しており、事業戦略に知財情報を活用するIPランドスケープ(以下、IPL)活動を全社的に推進してきました。知財部門の強みであるIPLと知財の実務能力を融合させることで、知財部独自の視点に立った事業戦略モデル案の策定・提言活動を実施しています。IPLの詳細は「5 研究開発活動 2 基盤的な取り組み (2) 知的財産の活用」もご参照ください。

企業の強みとなる無形資産を活用して競争力の維持・強化を図り、中長期的な企業価値を創造するサステナブルなビジネスモデルを構築し、それを巡る企業経営者と投資家との間の相互理解と対話・エンゲージメントを促進させる必要性が増し、企業価値向上に知財面から貢献する意義が益々高まってきました。上記の背景から、当社グループでは、経営/事業戦略策定への貢献を主なミッションとして、社長直下に“知財インテリジェンス室”を創設しました。今後は、グループ全体での無形資産の活用をさらに加速し、企業価値向上に繋げていきます。

 

 

■ Green(グリーントランスフォーメーション)

・ カーボンニュートラルでサステナブルな社会の実現に向けた活動

(温室効果ガス(GHG)の削減)

持続可能な社会の実現に向けて、当社グループは2021年5月に、2050年時点でのカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)を目指すことを表明しました。当社グループの事業活動に直接関わるGHG排出量であるScope1(自社によるGHGの直接排出)、Scope2(他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出)の排出量を対象としています。カーボンニュートラルを実現するため、エネルギー使用量の削減、エネルギーの脱炭素化、製造プロセスの革新、高付加価値/低炭素型事業へのシフトなど、実現に向けたロードマップを策定し、目標達成に向けて取り組みを加速させていきます。また、2030年には、2013年度対比でGHG排出量を30%以上削減することを目指しています。

2021年度の具体的な取り組みとしては、当社グループが自社保有する火力発電所のうち石炭を燃料とするものについて、CO2排出の低減を図ることとしており、進めていた液化天然ガス(LNG)への転換工事は、2022年3月に完了しました。当社グループが保有する水力発電設備については、今後も長く活用できるよう、設備の更新と効率化の工事に順次取り組んでいます。また、集合住宅「ヘーベルメゾン™」の屋根に当社グループの太陽光発電設備を設置し、発電した電力を当社グループの川崎製造所に供給する取り組みを実施しており、さらに2022年4月からは、東京都千代田区の本社に向けても電力の供給を開始しました。

GHG排出量削減を加速するための経営管理制度として、社内炭素価格を設備投資の採算性算定に織り込むこととしており、さらにこれを社内表彰制度の判定に活用するようにしました。また、当社グループの事業活動におけるGHG排出量削減の施策推進に資すると同時に、お客様も含めたバリューチェーン全体でのGHG排出量削減を進めるため、製品のカーボンフットプリント(原料採掘から製品生産までのGHG排出量)算定に関する取り組みも推進しています。

カーボンニュートラル実現に向けた事業化の検討と推進も引き続き加速しています。水素関連においては、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に創設されたグリーンイノベーション基金事業のうち、「大規模アルカリ水電解水素製造システムの開発及びグリーンケミカルプラントの実証」と題したプロジェクトを日揮ホールディングス株式会社と共同提案し、採択されました。また、注力しているCO 2 分離・回収システムの開発、次世代CO 2 ケミストリー技術等の環境貢献技術・製品の開発も着実に進捗しています。詳細は、「5 研究開発活動 3 主な研究開発活動 (1) 当社グループ全体(「全社」) 「アルカリ水電解システムの開発」「CO 2 ケミストリー技術、CO 2 分離回収システムの開発」」をご参照ください。

一方、当社グループの既存の製品やサービスで世界のGHG排出量削減に貢献することも重点テーマです。当社では第三者の専門家の視点を入れて妥当性を確認した、GHG排出量削減効果を期待できる製品・サービスを「環境貢献製品」として拡大・普及することを進めています。2021年度は5つの事業・製品を追加し、累計で18事業・製品を「環境貢献製品」として位置付けました。これらの「環境貢献製品」によるGHG削減貢献量を、2030年度には2020年度の2倍以上、また、売上高に占める割合も高めていくことを目標とし、様々な取り組みを実施しています。例えば、バイオマス由来原料を利用したポリアミド66(バイオポリアミド66)の実用化検討に取り組んでいます。詳細は、「5 研究開発活動 3 主な研究開発活動 (1) 当社グループ全体(「全社」)「バイオマス原料由来のポリアミド66の実用化検討」をご参照ください。

なお、気候変動が企業の財務に与える影響を分析し開示するよう求める「TCFD提言」に基づく検討を行い、結果を開示しています。詳細は、「2 事業等のリスク (3) 主なリスク ① 当社グループ全体に係るリスク 「気候変動リスク」」をご参照ください。当社グループは気候変動リスクの低減とともに、適応策、緩和策を新たな事業機会としながら、環境と共生する企業への進化を継続し、サステナブルな社会の実現に貢献していきます。

 

 

(プラスチックの課題への対応)

当社グループでは、プラスチックが海洋に流出することや、マイクロプラスチックとして地球環境、生態系に悪影響を及ぼすことを防ぐのはもとより、限りある資源を持続可能なものとして活用していくための取り組みを進めています。例えば、世界で広く用いられている汎用プラスチックの1つであるポリスチレンについて、グループ会社のPSジャパン㈱がケミカルリサイクルの実証設備建設を決定し、具体化を推進するなど、ポリスチレンのリサイクル性を高めるための取り組みを進めました。また、ポリエチレンについては、消費財メーカー、成型メーカー、リサイクル業者等のサプライチェーンの関係者や大学と協力し、リサイクル技術の開発に関する取り組みを推進しました。ただし、使用済みプラスチックを廃棄物とせずに資源として活用していくためには、技術の開発だけでなく、消費者も含めた社会全体の取り組みが必要です。そのため当社ではBLUE Plastics(Blockchain Loop to Unlock the value of the circular Economy、ブルー・プラスチックス)プロジェクトを発足しました。詳細は、「5 研究開発活動 3 主な研究開発活動 (1) 当社グループ全体(「全社」)「BLUE Plasticsプロジェクトの取り組み」」をご参照ください。

また、当社グループは2021年10月に、サーキュラーエコノミーに関心を持つ皆様で議論を行う「BLUE Plastics Salon」を立ち上げました。現在、定期的な会合を開催し、サーキュラーエコノミーに関する情報や課題の共有を行っています。なお、プラスチックの課題への対応は、各社共通のテーマでもあることから、当社グループはJaIME(海洋プラスチック問題対応協議会)、CLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)、一般社団法人 日本化学工業協会、日本プラスチック工業連盟等のアライアンスや業界団体の活動にも積極的に参画し、プラスチックの課題への取り組みを他社と協力しながら推進しました。

 


 

 

■ Digital(デジタルトランスフォーメーション)

当社グループが持つ多様な無形資産を活用し、ビジネスモデルを変革し価値創造をリードするものとして、デジタル技術の活用を積極的に推進しています。推進にあたっては、全体ロードマップを策定し、2021年度までを現場に密着し実課題をデジタル技術で解決する「デジタル導入期」ないし、事業軸・地域軸・職域等に横串を刺しデジタルを展開する「デジタル展開期」として、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)推進の基礎固めを進めてきました。2022年度からは無形資産の価値化など新しいビジネスモデル新事業を創造「デジタル創造期」として、さらに推進し、グループ会社全体、全社員がデジタルを活用するのが当たり前になる「デジタルノーマル期」を目指していきます。これまでの取り組みにより、当社は経済産業省が東京証券取引所と共同で選定する「DX銘柄2021」「DX銘柄2022」に2年連続で選出され、IPA 独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が発刊する「DX白書2021」にもその取り組みが掲載されました。

 

(DXビジョンの策定)

DXの推進をさらに加速するために、2021年度に「Asahi Kasei DX Vision 2030」を策定しました。「私たち旭化成はデジタルの力で境界を越えて繋がり、“すこやかなくらし”と“笑顔のあふれる地球の未来”を共に創ります」という当社グループが2030年にDXを通じて実現していく世界を表現し、社内外に示しました。

 

(DX推進体制の強化)

グループ全体でDXを加速していくために、推進体制の強化に取り組んできました。2021年4月にはデジタル共創本部を設置し、営業・マーケティング、研究開発、製造・生産の各機能におけるDX推進、IT基盤・サイバーセキュリティ関連などの各機能を集約し、社内外とのデジタル分野における共創・連携体制を整えました。このような共創・連携を進めるべく、デジタル共創ラボ「CoCo-CAFE」を開設し、社内外のデジタル関連人財の交流を促進し、DX基盤の強化とビジネス創出を目指しています。また、各事業部門のトップとデジタル共創本部の連携体制(リレーションシップマネージャー制度)を整え、各事業における課題・重点テーマ等を共有し、具体的な取り組みを進めています。

 

(人財の育成・獲得)

デジタル人財の育成・獲得も積極的に実施しています。グループ全従業員がデジタルリテラシーを身につけ、全社員がデジタル活用のマインドセットで働く「4万人デジタル人財化」の施策を進め、DX人財の基盤を固めるとともに、事業責任者をDXリーダーに育成する等、各事業部でDXを自律的に推進できる人財の育成を行っています。また、育成プログラムの実施や採用を通じて、高度なデジタル技術とデータを活用し、事業の課題解決や、新しい価値・ビジネスモデルを創出できるデジタルプロフェッショナル人財の育成・獲得を進めてきました。2021年度末にデジタルプロフェッショナル人財230名を育成・獲得するという目標は予定どおり達成しました。

 

 

(デジタル創造期における3つの柱)

2022年度からは 「デジタル創造期」と位置付け、旭化成グループの「多様なデータ」を有するデータマネジメント基盤をベースとして、ビジネス変革・経営の高度化、デジタル基盤強化の3つの柱で推進していきます(下図参照)。ビジネス変革では、無形資産の価値化/共創の加速、マーケティングの革新、サプライチェーン連携、新事業創出、スマートファクトリー等に取り組んでいきます。経営の高度化では、経営の見える化/意思決定への活用、知的財産活用の高度化、人財を活かすための活用、先端研究開発、品質保全、カーボンフットプリントの見える化等に取り組んでいきます。デジタル基盤の強化では、デジタル人財の育成・獲得の加速、デザイン思考等を活用したアジャイル開発のグループ全体への浸透、データ活用促進等を進めていきます。また、DXの進捗を測るKPI(2024年度目標)として「DX-Challenge 10-10-100」を定めました。具体的には、デジタルプロフェッショナル人財を2021年比で10倍(グローバル全従業員のうち2,500名程度)、グループ全体のデジタルデータ活用量を2021年比で10倍、そして通常活動のDX活用による利益貢献に加え、選定した重点テーマで100億円の増益貢献(2024年度までの3年累計)を目指します。デジタ ルで多様な資産を最大限に活用し、ビジネスモデルを最速で変えていきます。

 


 

■ People(「人財」のトランスフォーメーション)

・ 従業員が活躍できる基盤づくり

(多様な“個”の「終身成長+共創力」で未来を切り拓く)

当社グループが目指す、人財・技術・事業の「多様性」と「変革力」による新たな価値の創出に向けて、「人は財産、すべては『人』から」という基本思想のもとに、従業員の自律的成長を後押しし、多様な「個」が活躍できる基盤づくりを推進しています。不連続かつ予測困難な事業環境の変化に適応し、先手を打っていくためには、社員一人ひとりが挑戦・成長し続ける「終身成長」、当社の多様性を活かし、コラボレーションを推進する「共創力」の2つの視点が重要と考えています。

挑戦・成長し続ける「終身成長」に関しては、一人ひとりが自らのキャリアを描き、成長に向けた学び・挑戦を進めること、そして、個とチームの力を最大限引き出し成果に結び付けるマネジメント力の向上に、より一層取り組んでいきます。

多様性を活かして「共創力」を高めるには、多様性を“拡げる”という視点と多様性を“つなげる”という視点から、様々な取り組みを実行していきます。

具体的には、多様な人財の活躍及びワークエンゲージメントの向上を目的として、高度専門職制度※の拡充によるプロフェッショナル人財の育成強化や、「KSA(活力と成長アセスメント)」という新たなエンゲージメントサーベイに基づいた組織の活性化・人財の成長施策、女性を含めた多様な人財が活躍できる環境整備を進めています。グループの経営を担う人財の拡充の視点では、次世代リーダー候補者にコーチング等を通じて自らの成長を促すとともに、リーダーシップやチームワークを強化するためのプログラムを通じた育成を行っています。

また、COVID-19感染拡大後のニューノーマル環境下においては、制度やITインフラの観点等で従業員が働きやすい環境づくりを実施しています。今後は、人財の見える化とコネクトを進めるためのデジタルツールも活用し、多様な「個」が世代を問わず専門性を高め成長し、知の結合・融合を通して、社会に価値を提供し続けられるよう、KPIを設定し施策の実行を進めていきます。

 

高度専門職制度:新事業創出、事業強化へ積極的に関与し、貢献できると期待できる人財を「高度専門職」として任命、育成、処遇することで、社内外に通用する専門性の高い人財を増やしていく取り組みを進めています。

 

(健康経営の推進)

従業員が生き生きと活躍し、「終身成長」を目指すためには、心身ともに健康であることが前提となります。当社グループでは、2019年度に健康経営担当役員・同補佐、及び健康経営推進室を設置し、2020年度より健康経営を本格的に推進しています。

「人は財産、すべては『人』から」という基本思想のもと、従業員と家族の心身の健康保持・増進を健康経営の基盤と位置付けています。そして、一人ひとりの活躍・成長の機会を創造すること(休業率低減)や従業員の働きがい向上、活気あふれる強い組織風土の醸成を通じた生産性向上、さらには当社グループが目指すサステナビリティへの貢献を健康経営の目的としています。

その中でも、「メンタルヘルス」「メタボリックシンドローム」「がん」「喫煙」「睡眠」「個人・組織活性化」を重点項目として取り組んでいきます。また、当社グループの「ヘルスケア」セグメントの事業にも関連して、AED救命講習の継続的実施やグループ会社での骨粗鬆症検診補助制度の導入などを実施しています。

 


 

■ 責任ある事業活動

・ 環境安全・品質保証活動

当社グループは、提供する製品・サービスのすべてのライフサイクルにおいて環境・安全・健康・品質に配慮する「環境安全・品質保証活動」を実施しています。しかし、誠に遺憾ながら、以下のとおり、工場事故が発生しました。原因究明及び再発防止に努めるとともに、近年発生している事故を本質的に見つめ直し、従業員一同「安全は経営の最重要課題」であることをあらためて認識し、危機感を持って安全活動に取り組んでいきます。

 

・ ベンベルグ工場の火災事故について

2022年4月9日に宮崎県延岡市にある当社のベンベルグ工場で火災が発生しました。当社では事故調査委員会を発足して出火原因調査を進めており、また、当局の調査にも協力しています。事故原因を究明した後、再発防止策の検討と実施の徹底をします。

当社グループでは、リスクの発現の未然防止の観点から、リスクアセスメントの展開及び製造プロセスの設備改善のほか、現場での重篤労災の発生を防止するための安全行動活動(ライフ・セービング・アクション)を2020年度から開始しています。加えて、最近の異常気象にも備えた自然災害リスクへの対応も開始しています。

製品安全を含む品質活動においては、eラーニング等のオンラインでの教育ツールも活用しながらグループ品質方針の徹底を図り、全従業員が「品質の重要性」と「確信の品質」への理解を高める活動を行いました。

 

 

・ コンプライアンス、人権・多様性の尊重

当社グループは、コンプライアンスを重視し、事業・業務に関する法令・諸規則や社内ルールの遵守を徹底しています。また、事業活動において、社会的な規範を含む、より高いレベルの企業倫理を実践し、グループ理念に基づくグループバリュー(共通の価値観)にかなった「誠実な行動」を目指しています。その実効性を高めるため、2021年度には引き続き「グループ行動規範」の読み合わせ活動を各部署で行いました。「グループ行動規範」の読み合わせ活動では、議論する事例の追加や修正を毎年行い、各部署においてより実効性の高まる取り組みになるよう改善を重ねています。

また、「人権・多様性(ダイバーシティ)の尊重」については、当社グループは国際人権憲章(世界人権宣言並びに国際人権規約)を支持し、基本的人権と多様性の尊重に取り組んでいます。また、国連グローバル・コンパクトの署名企業として、グローバル・コンパクトの人権に関する原則、及び国連「ビジネスと人権に関する指導原則」「子どもの権利とビジネスの原則」にも賛同しています。当社グループでは、従来より、多様性の尊重を含む人権に関するグループの考え方を「グループ行動規範」にて明示し、従業員研修等を通じてグループ内浸透を図っていますが、今般、人権尊重の重要性を踏まえ、「旭化成グループ人権方針」を取締役会で決定し、公開しました。今後、「旭化成グループ人権方針」のグループ内での普及啓発を進めるとともに、人権に関するリスクを抽出し、軽減・対応を行う「人権デューデリジェンス」への取り組みを進めていきます。

 

・ ステークホルダーとの対話の強化

当社グループでは、ステークホルダーの皆様に適切な情報開示を行うとともに、双方向のコミュニケーションを取ることが重要と考えています。そこで、2021年度は、前年度に引き続き、投資家、メディアの皆様に対し、当社グループのサステナビリティに対する考え方と実行の状況を説明するため、「サステナビリティ説明会」を開催しました。2021年度の説明会では、サステナビリティへの基本的な構え、持続可能な社会への貢献による価値創出、価値源泉の基盤の強化の点から当社グループの考えと取り組みを説明しました。

 

 

・ サステナビリティマネジメント体制

サステナビリティを推進するため、当社では専任部場であるサステナビリティ推進部を社長直下組織として設けているほか、社長を委員長とし、技術機能、経営管理機能、事業領域のそれぞれを担当する役員などを委員とするサステナビリティ推進委員会を設置し、取り組みを推進しています。サステナビリティ推進委員会では、地球環境対策としての当社グループ及び社会の脱炭素化実現に向けた取り組みを検討するとともに、リスク・コンプライアンス委員会やグループ環境安全・品質保証委員会等の関連する委員会との連携を取りながら、ESG(環境・社会・ガバナンス)全般に関する方針立案や課題への対応の検討を進めています。

 

サステナビリティマネジメント体制

 


 

 

 

ⅵ 財務・非財務主要KPI

新中期経営計画2024の実行、そして、その先の目指す姿の実現のために、財務・非財務のKPIを明確にして、各施策を実行していきます。財務KPIにおいては、利益成長・資本効率・事業ポートフォリオ転換の視点で、2024年度目標・2030年度目標を設定し、具体的な施策の実行を進めていきます。非財務KPIに関しては、10の成長を牽引する事業(GG10)における有効特許件数の割合、デジタルプロフェッショナル人財と高度専門職の育成・獲得、そして、当社GHG排出量、環境貢献製品を通じたGHG削減貢献量を主要なKPIとして設定し推進を加速していきます。

 

新中期経営計画2024で設定した財務・非財務主要KPI一覧

 


 

 

③ 各セグメントの経営方針・経営戦略等

各セグメントにおいて次の成長を牽引する事業(GG10)に重点的にリソースを投入していきます。GG10の詳細は「②当社グループ全体の経営方針・経営戦略等 <経営方針・経営戦略> ⅱ 成長戦略」をご参照ください。各セグメントの経営方針・経営戦略は以下のとおりです。

 

 「マテリアル」セグメント

本セグメントにおいては石油化学関連の収益安定化を図りながら、付加価値の高い事業の構成比を高めることで利益成長を目指します。

 

●基本戦略:カーボンニュートラルの実現に向け、既存の延長線ではない戦略・戦術でポートフォリオ変革を図り、収益性と投資効率の向上を目指す

経営指標:営業利益成長、営業利益率、ROIC

 

経営環境・経営課題

本セグメントにおいては、これまでの製品を軸とした組織から、マーケットを強く意識した事業運営へ転換するため2022年より新しい組織体制で運営をスタートしました。「第1 企業の概況 3 事業の内容」に記載のとおり、セパレータや石油化学関連製品を中心とする環境ソリューション事業、自動車用途向け製品を中心とするモビリティ&インダストリアル事業、電子部品・電子材料、繊維、消費財を中心とするライフイノベーション事業を運営しています。これらの事業において、ビジネスモデルや市場の状況、競争優位性等の事業環境は、製品群によって大きく異なるため、各事業が置かれている環境認識に基づいた経営課題に対して取り組んでいます。マテリアル領域全体の観点では、事業ポートフォリオの転換を最も重要な経営課題と認識し、次の成長分野への重点的な投資を行う一方で、既存アセットを最大活用することでのキャッシュ創出や事業の構造改革を推進しています。各価値提供分野における経営環境は以下のとおりと認識しています。

ⅰ 「Environment & Energy」分野

・カーボンニュートラルの動きを受けた、石化関連製品の中長期視点でのサステナビリティ対応の加速・脱炭素に貢献する技術やソリューションに対するニーズの急速な高まり

 

ⅱ 「Mobility」分野

・次世代モビリティで求められる安全、快適、環境にやさしい素材ニーズの高まり

 

ⅲ 「Life Material」分野

・これからのデジタル社会に求められるニーズの高まり

・次世代通信の進展や衛生意識の変容、新しいライフスタイルによる新たなニーズの高まり

 

<経営方針・経営戦略>

価値提供注力分野である「Environment & Energy」「Mobility」「Life Material」における主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです。

ⅰ 「Environment & Energy」分野

■ 価値提供の方向性:独自の技術・知見を活かした新しい価値の創出

これまでに培った技術や知見などの事業基盤を活かした、旭化成が目指す2つのサステナビリティ(“持続可能な社会への貢献”と“持続的な企業価値向上”)の好循環の実現への貢献

■ 主な取り組み

グリーンソリューション推進(水素関連の事業化推進、CO2ケミストリーの多面的展開)

・蓄エネルギー分野の深耕(セパレータ事業の成長追求、知見を活かした新しい事業展開)

カーボンニュートラルに向けた取り組み推進(石化事業の中期的な転換、グループ横串体制での取り組み加速)

 

ⅱ 「Mobility」分野

■ 価値提供の方向性:提案型事業へのシフト

電気自動車等の環境対応車に求められるサステナビリティ要求に対する、軽量かつ安全な製品のコンセプト提案、環境調和型素材の提案・キーカスタマーへの横断的なマーケティング強化

■ 主な取り組み

・自動車内装ファブリック事業:Sage Automotive Interiors, Inc.を中心とした事業の拡大と合理化、買収したAdient plcの自動車内装ファブリック事業や環境にやさしい人工皮革「ラムース®」との相乗効果の追求

・エンジニアリング樹脂事業:自動車構造部品や自動車用リチウムイオン電池構造部品に向けたエンジニアリング樹脂発泡体「サンフォース®」展開の加速やCAE(Computer Aided Engineering)等のデジタル技術活用を通じた自動車メーカーの開発パートナーとしての価値提供

・CO2センサー、アルコールセンサー事業:各種センサーを活用した快適・安全・安心な車室空間ソリューションの提供

 

ⅲ 「Life Material」分野

■ 価値提供の方向性:先進・独自技術による高付加価値素材の提供

・デジタル社会の進展で求められるニーズへの、特徴ある部品・部材、ソリューションの提供

・生活者の視点に立った、健康で快適な暮らしに貢献する製品・サービスの提供

■ 主な取り組み

・電子材料、基板材料事業:最先端半導体を支える革新材料の開発加速

・電子部品:省エネ・快適市場において魅力あるセンシングデバイス・ソリューションの展開

電子材料と電子部品との融合による特徴ある部材・部品、ソリューションの展開

・新事業の展開加速:ウイルスや菌の不活化に効果の高い、高出力殺菌用深紫外LED「Klaran™」の空調機器への展開、CO₂センサーを用いた適切な換気モニタリング等の感染症対策を推進する新たなソリューションの提供

 

Ⅱ 「住宅」セグメント

●価値提供分野:「Home & Living」

●基本戦略  :国内事業は生涯にわたる顧客価値の最大化、海外事業は成長投資継続とこれまでの投資からのリターン創出による、高いROSとROICの維持と、キャッシュ創出力の向上

経営指標  :営業利益成長/ROS、売上高FCF率

 

<経営環境・経営課題>

日本国内の建築請負事業においては、昨年度に引き続き、COVID-19感染拡大の影響で、住宅展示場来場者数の減少により、新規集客・受注活動に影響が出ていますが、デジタル技術を活用した様々なチャネルで集客・受注活動を強化し、集客数・受注数の向上を図っています。依然として先行き不透明な状況が続くため、従来の住宅展示場に依った集客・受注活動からデジタル技術を活用した新たなビジネスモデルへ転換することが課題です。一方、自然災害の多発化、COVID-19による顧客意識の変容、人生100年時代におけるライフスタイル・ワークスタイルの多様化、さらに脱炭素化の加速により、住宅を取り巻くニーズは変化し続けています。今後は、災害に強く安心できるレジリエンス(防災力)の高い住宅、環境負荷を低減する住宅やシニア、子育て世帯が安心かつ快適に生活できる住宅等の事業機会は益々広がっていくと考えています。これらの機会に対応し、都市で培ったノウハウを活かし、日本国内の関連市場へ新事業を展開していくこと、また、日本国内市場の成長の鈍化を踏まえて、海外市場へ事業展開を加速していくことが課題であると考えています。

 

 

<経営方針・経営戦略>

価値提供分野である「Home & Living」における主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです。

ⅰ デジタル技術を活用したマーケティング等による集客、受注活動の推進や生産性の向上

ⅱ サステナビリティ実現に向けた取り組み強化

・旭化成ホームズ㈱ が参加しているRE100目標達成に向けた早期実現の推進

・ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)・ZEH-M(ゼッチ・マンション)普及に向けた取り組みの推進

集合住宅「ヘーベルメゾン™」の太陽光発電設備で創出した環境価値による旭化成及び旭化成ホームズ㈱の本社使用電力のグリーン化の推進

環境貢献度の高い断熱材「ネオマフォーム™」の拡販

環境省による「生物多様性のための30by30アライアンス」への旭化成ホームズ㈱の参加

ⅲ レジリエンスの強化

・耐震性・耐火性の高い住宅や防災科学技術研究所とのリアルタイム地震被害推定システム研究など、安心できる住まいを実現させる取り組みの推進

・DX技術を活用したプッシュ型の災害時無人対応システムによる、お客様へ災害時における安心の提供

倉敷市等とともに推進してきた「倉敷市阿知3丁目東地区第一種市街地再開発事業」に関して、「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2022」の最高位となる「グランプリ」を受賞

東京都中央区築地にて地権者38名と共同で行った等価交換事業に関して、「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2022」において、最優秀賞を受賞

ⅳ 海外事業の展開加速

・ 豪州事業

当社グループが株式の40%を保有するMcDonald Jones Homes Pty Ltdの株式を追加取得し、当社持分80%の連結子会社化。スチールフレームメーカーSteel Building Systems Australia Pty Ltdと垂直統合し、ビルダー単独・サプライヤー単独では成しえない競争優位性の高い豪州モデルを確立させることで、豪州における注文住宅の建築請負及び分譲住宅の販売において、トップブランドを目指す。

・ 北米事業

戸建住宅の壁や屋根を製造、施工するErickson Framing Operations LLCに、戸建住宅の住宅用電気設備・基礎工事・空調設備工事を行うAustin Electric Services, LLC、Austin Concrete & Stone LLC、Austin HVAC LLC、戸建住宅などの配管工事を行うBrewer Companies, LLC、Brewer Enterprises, Inc.、Brewer Commercial Services, LLC、JBKB LLC (dba Benjamin Franklin Plumbing)、T-Plug LLCを水平統合し、製造や施工現場での多岐にわたる工程を合理的に担えるサプライヤーモデルを確立させることで、施工合理化と高品質な建物の提供を目指す。

 

 

Ⅲ 「ヘルスケア」セグメント

●価値提供分野:「Health Care」

●基本戦略  :医薬・医療機器の双方でグローバル市場の幅広い事業機会を捉え、グループの利益成長を牽引

●経営指標  :EBITDA成長/EBITDA率、ROIC

 

<経営環境・経営課題>

短期的には、医薬事業において、COVID-19の感染拡大による患者の通院制限、不急治療の延期やMR(医薬情報担当者)の対面活動の制限が影響したものの、オンラインでの企画の強化やチャネルの拡大など病院訪問を前提としないMR活動を強化したことや、米国における感染拡大影響の緩和により売上は堅調に増加しています。また、医療事業においては、生物学的製剤市場の継続的な成長に加え、COVID-19向けの治療薬、ワクチン開発によりウイルス除去フィルターの需要が高まっています。今後もこの基調が継続するものと予測しており、安定生産と生産能力増強を通じて供給責任を果たしていきます。クリティカルケア事業においては、2020年度にみられたCOVID-19治療のための人工呼吸器の需要増加が概ね終息しましたが、この一時的な需要増の影響を除けば除細動器、AED(自動体外式除細動器)、「LifeVest®」などの心肺蘇生事業が堅調な成長を続けています。

中長期的には、医療費削減圧力が高まることによる国内の市場成長の鈍化が予想される一方、先進諸外国においては、より良い医療に対するニーズの高まりや長寿社会の進展に伴い、引き続き安定的な市場成長が継続すると認識しています。そのため、「ヘルスケア」セグメントの中長期的な成長のための課題は、グローバルにおける事業展開を加速することであり、当社グループに足りない経営資源を追加・補強する手段としてM&Aやライセンス導入による事業開発を位置付けています。2021年度は、クリティカルケア事業において、Respicardia, Inc.(中枢性睡眠時無呼吸症治療のための植え込み型神経刺激デバイスの製造販売)とItamar Medical Ltd.(睡眠時無呼吸症在宅検査・診断ソリューションの提供)の2社のM&Aを実行し、心不全と関連の深い睡眠時無呼吸症への診断・治療への事業展開を行いました。

今後は、ZOLL Medical Corporationとこれらの2社の経営統合を進めるとともに、心肺蘇生を中心とした既存事業とのシナジー創出を進めることで、心肺蘇生の周辺領域の取り込みとクリティカルケア事業の更なる拡大を目指していきます。当社は、引き続き、既存事業の成長とM&A等の事業開発を活用した成長により、医薬・医療機器の双方でグローバル市場における幅広い事業機会を捉え、当社グループの成長を牽引する柱となることを目指します。

 

<経営方針と経営戦略>

価値提供分野である「Health Care」における主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです。

ⅰ クリティカルケア事業

心肺蘇生を中心とした既存事業の持続的成長、及び企業買収を通じた既存事業強化と周辺領域への拡大による重篤な心肺関連疾患領域での成長。近年、買収した企業は以下のとおりです。

2019年6月 Cardiac Science Corporation(自動体外式除細動器(AED))

2019年6月 TherOx, Inc.(急性心筋梗塞治療用機器)

・2021年4月 Respicardia, Inc.(中枢性睡眠時無呼吸症治療 植え込み型神経刺激デバイス)

2021年12月 Itamar Medical Ltd.(睡眠時無呼吸症在宅検査・診断ソリューション)

ⅱ 医薬事業(海外)

・免疫・移植周辺を中心とした疾患領域、及び大病院市場へフォーカスし、旭化成ファーマ㈱とVeloxis Pharmaceuticals, Inc.の連携のもとで事業開発、臨床開発、販売を推進しています。また2021年度より、両社協同でART-123の化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)の発症抑制に関する日米国際共同第1相臨床試験を開始しました。

・Veloxis Pharmaceuticals, Inc.の腎移植手術患者向け免疫抑制剤「Envarsus XR」の着実な伸長、及びOSE Immunotherapeutics SAから導入したCD28阻害薬「FR104」(臓器移植における新規免疫抑制薬)を開発しています。

 

ⅲ 医薬事業(国内)

重点領域(整形外科領域、救急集中治療、免疫)における新薬上市と販売の拡大を継続します。整形外科領域においては、骨粗鬆症治療薬「テリボン®オートインジェクター」の更なる市場への浸透を図ります。免疫領域においては、関節リウマチ治療剤「ケブザラ®」の更なる市場浸透に加え、2021年度にサノフィ株式会社より免疫調整剤「プラケニル®」を導入し、販売を開始しました。研究開発においては、オープンイノベーションや事業開発を活用し、重点領域におけるパイプラインを拡充しています。医療事業生物学的製剤の市場成長に合わせたウイルス除去フィルター「プラノバ™」の市場ポジション・販売拡大と生産能力の増強及び製薬企業向けバイオセーフティ試験受託サービス事業やバイオ医薬品CDMO事業への参入による事業スコープを拡大します。

近年、買収した企業は以下のとおりです

2019年10月 Virusure Forschung und Entwicklung GmbH (ウイルス等安全性試験受託サービス等)

2021年12月 Bionique Testing Laboratories LLC (マイコプラズマ試験受託サービス)

・2022年4月 Bionova Scientific, LLC (次世代抗体医薬品CDMO)

 

 

(2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

① 「マテリアル」セグメント

「(1) 経営方針・経営戦略等 ③ 各セグメントの経営方針・経営戦略等」 Ⅰ 「マテリアル」セグメントに記載の項目に加えて、以下の事業上の課題があります。

 

Ⅰ 「Environment & Energy」分野

リチウムイオン電池用セパレータ事業については、2015年度に買収したPolypore International, LPの製品群も含めて、湿式・乾式の特徴が異なる両タイプの製品を提供し、世界市場で高いシェアを維持しています。特に、今後も需要が拡大すると考えられる、電気自動車等の環境対応車向けのリチウムイオン電池用途では、更なるビジネス拡大の機会があると考えています。また、需要拡大に伴い競合他社との競争も厳しくなってきています。そのため、市場動向を見極めつつタイムリーに需要に対応し、競争優位性のある高付加価値製品を供給し続けていくことが課題であると認識しています。タイムリーな能力増強と継続的な高付加価値製品の開発を進めていきます。

 

Ⅱ 「Mobility」分野

2021年度は、COVID-19に加え、半導体不足による影響を受け、自動車生産台数の減少による関連製品の需要減が見られました。また、事業運営は、COVID-19影響によるサプライチェーン混乱の厳しい環境下にあり、2022年度もロシア・ウクライナ情勢による原燃料の高騰、中国のロックダウン等の影響の顕在化が予想されます。

一方、中長期的には自動車の「CASE」と呼ばれる技術革新の進展が加速し、又は変化していくことにより、新たなニーズが生まれてくると考えています。特に低炭素社会の実現に向けて、電気自動車等の環境対応車の需要拡大や資源の有効活用など、欧州を中心に自動車業界における環境負荷低減の動きが今後加速するものと考えており、このような社会ニーズに向けた対応が必要です。

車室空間には、これまでにない快適性やデザイン性に加えて、リサイクル原料の使用等環境負荷低減に繋がる製品が求められており、環境特性に優れた人工皮革「ラムース®」の需要増加に対応するため、供給能力を増強しています。また、米国子会社のSage Automotive Interiors, Inc.との連携を強化しつつ、2020年度に買収した大手自動車シートサプライヤーの米国Adient plcの自動車内装ファブリック事業との統合効果を発現させていきます。加えて、自動車の燃費向上・電動化等による車体軽量化のニーズが拡大しています。これらの顧客のニーズに合わせて、車体軽量化に寄与する構造部品向けのエンジニアリング樹脂製品や樹脂発泡体の展開をグローバルに加速していくとともに、このようなニーズへ対応すべく、グローバル市場におけるキーカスタマーへの横断的なマーケティングを強化していきます。

また、自動車の安全性の更なるニーズも機会として認識しています。2018年度に買収したSenseair ABのアルコールセンサーによる飲酒運転防止等、快適・安全・安心な車室空間への新たな価値提供を実現するため、開発を推進していきます。

 

Ⅲ 「Life Material」分野

DXの進展や次世代通信の普及に伴う情報通信高度化の需要は益々拡大しており、情報通信機器に用いられる電子材料や部品のニーズは増加しています。また、急速なEV(電気自動車)化がもたらす変化として、様々なセンシングデバイスの高度化・高信頼性化が求められています。このようなニーズに対応するため、組織運営の見直しにも着手し、今後も市場動向を注視しながらデジタル社会で求められる最先端のニーズを捉えて、電子材料と部品の双方を有するユニークさを活かし、特徴ある材料・部品、ソリューションを提供していきます。

 

 

 「住宅」セグメント

「(1) 経営方針・経営戦略等 ③ 各セグメントの経営方針・経営戦略等」 Ⅱ 「住宅」セグメントの項目をご参照ください。

 

③ 「ヘルスケア」セグメント

「(1) 経営方針・経営戦略等 ③ 各セグメントの経営方針・経営戦略等」 Ⅲ 「ヘルスケア」セグメントの項目をご参照ください。

 

④ 財務上の課題

「(1) 経営方針・経営戦略等 ② 当社グループ全体の経営方針・経営戦略等 <経営方針・経営戦略> ⅳ 財務・資本政策の項目をご参照ください。

 

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