課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。本項目を含む、本書における当社又は当社グループに関連する見通し、計画、目標などの将来に関する記述は、当社が現在入手している情報に基づき、本書提出日時点における予測等を基礎としてなされたものであり、実際の結果は記載内容と大きく異なる可能性があります。

 

(1)会社の経営の基本方針等

 当社グループは、「創造全力、価値共有。つねに、その上をめざして。」をコーポレート・ステートメントとして設定し、お客様へ価値を提供し続ける仕組みをつくり、それを実行することにより、お客様の共感をいただき、つねに新たな可能性に向けて自らを革新し続けていくことに挑戦しております。

 具体的には、当社グループは、1992年、顧客価値と生産性の最大化を目的に、消費者を起点に小売から生産までを一気通貫させ、ロス・無駄を価値に変える「スパークス(SPARCS)」構想を発表しました。これはファッション産業において、これまで分断されていたビジネスモデルをつなぎ、在庫ロスと機会ロスを最小化すると同時に、当社グループにおいてコアとなる生産系、開発系、マーチャンダイジング系、店舗運営系のそれぞれの業務において再現性のある仕組みをプラットフォーム化することで競争優位性を高め、変化する顧客のニーズにスピーディーに応えることを意味しております。当社グループは、「スパークス(SPARCS)」モデルを日々進化させ、これまで培ったプラットフォームを梃子に、生産から販売に至るすべての業務やリアルとネットのオペレーションを情報で同時につなぐべく、IT技術で事業基盤を絶え間なくアップデートし続けております。

 そして、現在、中期的な基本方針として、より多様なブランド、ファッションの楽しさ、価値あるモノを、デジタル技術を活用したプラットフォームやサービスにより、ロス・ムダなくお客様に届けることで持続可能な産業世界を追求する、新たな「ワールド・ファッション・エコシステム」の実現を目指して、持続的な社会に適合したビジネスモデルの開発を推進しています。コロナ禍の環境下においてテクノロジーが日常生活に一段と浸透するなか、ファッションの新たな価値の提供と社会的課題の解決に向けた投資や活動に全速力で取り組んでまいります。

 

(2)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標

 当社グループでは、本業の稼ぐ力を表す「コア営業利益」を最も重要視する経営指標としております。コア営業利益は、IFRSに基づく売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いて算出した、日本会計基準の営業利益に相当する数値であり、この持続的な向上を成長性の視点での重要指標に位置付けております。

 この他、総資産に対するコア営業利益の割合であるROA(コア営業利益ベース)を収益性の指標として、また、自己資本に対する有利子負債の割合であるデット・エクイティ・レシオ(D/Eレシオ)を財務健全性の指標としてそれぞれ使用しており、さらに、株主資本に対するリターンの効率性を表すROEの維持・向上にも注力しております。

 なお、現在の収益の柱であるブランド事業においては、商品(在庫)の収益性の指標として、交叉比率の分解能である「粗利益率」と「在庫回転率」の改善に取り組んでおります。また、成長性の指標としては、事業拡大に取り組んでいる非アパレル事業のコア営業利益が、当社グループ全体のコア営業利益に占める割合のほか、当社グループの持続的な成長をけん引するECチャネルでの売上高の連結売上高に対する比率も重視しております。

 

(3)中長期的な会社の経営戦略

 当社グループのブランド事業では、創業以来、経営環境の変化に応じ、卸売事業から百貨店SPA(Speciality store retailer of Private label Apparelの略であり、製造小売業を指します。)事業、ショッピングセンターチャネルでのSPA事業、Eコマース事業、ライフスタイルブランド事業へと拡大してきております。その結果、幅広い世代・テイスト、多様なチャネル及び幅広い価格帯をカバーする数多くのアパレルブランドを展開提供しております。これらの多業態・多ブランドの運営により培った多様性のマネジメント力、多様なファッションビジネスをフルカバーする情報システム、ファッションビジネスの事業改善に貢献する空間・製造・販売のフルラインナップのプラットフォームといった当社グループの強みを活かして、今後はアパレル事業の改善にとどまらず、非アパレル事業を拡大することを企図しております。非アパレル事業では、産業全体の構造的課題の解消に積極的に取り組むため、オンラインによるカスタムオーダーの受注生産による製品在庫を持たないビジネスモデルの開発、ユーズドセレクトショップやオフプライスストア事業の運営、大量生産から生じうる大量廃棄を回避してムダなく消費者に製品をお届けする循環モデルの確立、シェアリングを可能とするサブスクリプション型レンタルサービスなど、“ムダなモノを作らない”次世代ビジネスモデルの事業の推進も行っております。

 

 このように「ブランド事業」において自社ブランドのバリューアップ、他社ブランドへの投資などによる事業ポートフォリオ全体の最適化を目指すとともに、「デジタル事業」において、テクノロジーを駆使した他社向けのデジタルソリューションサービス(B2Bソリューション)を拡大することで、多様なテクノロジー、ベンチャー企業との連携を通じた新たなビジネス・シーズを育成し、顧客の変化に適合した次世代型ファッション・サービスの開発(B2Cネオエコノミー)を推進し、更なる付加価値の創造を進めていきたいと考えております。

 これらの結果として、当社としては、連結コア営業利益の持続的な成長を図りつつ、当社グループ全体のコア営業利益に占める非アパレル事業のコア営業利益(注)の割合(2021年3月期はコア営業損失のため非表示、2022年3月期:54.3%)を、中長期的には約50%を維持することとしております。

(注)「アパレル事業」/「非アパレル事業」の区分は、ブランド事業及びプラットフォーム事業をベースにして「アパレル事業」を把握するなど、当社が独自に定義したものであります。このため、一般にアパレルと称される事業領域が、当社グループのブランド事業及びプラットフォーム事業以外の事業セグメント(デジタル事業)に含まれる場合、当該領域は「非アパレル事業」に区分されることがあります。

具体的な定義及び算定方法は以下のとおりです。

「非アパレル事業」とは、当社グループの営む事業から「アパレル事業」を除いたものを指し、アパレル事業及び非アパレル事業のコア営業利益は以下のとおり算出されています(但し、いずれも未監査の数値です。)。

「アパレル事業」のコア営業利益 =[ブランド事業のコア営業利益-(海外のコア営業利益+国内ライフスタイルブランドのコア営業利益+投資のコア営業利益)]+アパレルプラットフォームのコア営業利益

「非アパレル事業」のコア営業利益=当社の連結コア営業利益-「アパレル事業」のコア営業利益

海外のコア営業利益は、台湾和亜留土股份有限公司及びWorld Saha Fashion Co., Ltd.各社のコア営業利益の単純合算です。

国内ライフスタイルブランドのコア営業利益は、株式会社ワールドライフスタイルクリエーション及びその傘下の子会社群のコア営業利益の単純合算(但し、株式会社ワールドライフスタイルクリエーションが当該子会社群から受領する配当額は控除)です。

投資のコア営業利益は、株式会社ワールドインベストメントネットワーク及びその傘下の子会社群のコア営業利益の単純合算(但し、株式会社ワールドインベストメントネットワークが当該子会社群から受領する配当額は控除)です。

アパレルプラットフォームのコア営業利益は株式会社ワールドストアパートナーズのコア営業利益並びに株式会社ワールドプロダクションパートナーズ及びその傘下の子会社群のコア営業利益(単純合算)の単純合算です。

 

(4)経営環境及び対処すべき課題

 当社グループを取り巻く経営環境は、人口減少や少子高齢化の進行にともなう数量減少に加えて、国内アパレル市場も成熟化して単価下落が進む一方、海外生産地での加工賃上昇や為替変動による仕入価格の上昇のほか、人手不足による人件費や物流費といった経費増加も生じるなど、引き続き厳しい状況が続くことが予想されます。また、デジタル化の進展を背景として消費者の購買行動は急速に変化しており、新たなビジネスチャンスが生まれているものの、新規参入企業の誘発などを通じて異業種や外資系も巻き込んだ競争激化が継続しております。

 一昨年より続く新型コロナウイルス感染症は消費者の生活様式や購買行動を変化させ、今後の競争優位に大きな影響を及ぼすだけでなく、世界的なコンテナ不足や、海外のロックダウンによる継続的な調達コストの上昇を招いています。加えて、ロシア・ウクライナ情勢の緊迫による原料価格の高騰等、深刻な世界的ダメージにより、引き続き厳しい市場環境が続くことが想定されます。

 こうした国内アパレル市場や消費者の大きな変化の中で、永続的に成長を遂げ、勝ち続ける企業組織であるためには、これらの環境変化の認識のもと、更なる変革が必要であると認識しております。そして、自己変革を具現化するためにも、以下の点を対処すべき課題と認識し、解決に向けて重点的に取り組んでまいります。

 

①事業収益力の向上

 当社グループは、各事業セグメント間の密接な連携や相互の活用で一枚岩を図りつつ、それぞれのセグメントで異なる外部顧客に向けた営業活動等に取り組んでおります。

 それぞれの事業セグメントの具体的な課題や取り組みについては、以下のとおりであります。

 

(ブランド事業)

 国内外のアパレルブランド及び国内ライフスタイルブランドにおいては、強化すべきブランドと店舗への選択と集中に取り組んでまいりました。デジタル事業、プラットフォーム事業を拡大させていくためにも、ブランド事業が強靭であるということが当社グループの競争力の源泉との認識のもと、子会社各社が市場最適に向けた改善活動を行っていることに加えて、さまざまなテーマの改革をグループ横断で実施しています。

 

 成熟した市場では、過去のようなブランド開発や新規出店だけに頼った収益成長が見込めないと判断しており、また、コロナ禍での新しい価値観に対応するためにも、既存のブランドや店舗の付加価値を再構築するべく、グループに分散していたマーケティング組織の統合によりマーケティング強化を進めるとともに、店頭で販売を担うドレッサーのインフルエンサー化によるSNS経由でのマーケティングなどデジタル事業と一体となって店舗とECのシームレスなサービス提供に向けて総力を挙げて取り組んでまいります。

 これらの取組みを通じて、既存店売上前年比については、「利益を伴わない売上は追わない」という基本方針を維持して、値引き販売を抑制しつつ、100%超を目指してまいります。

 この他、国内ライフスタイルブランド店舗の出店や、主に地域密着が重要な近隣商圏型ショッピングセンター(NSC)を対象に、当社グループのアパレル企画開発力とストアの運営ノウハウを最大限に活用したフランチャイズ事業の出店や、店舗での顧客体験価値向上の一環として店舗改装も進めてまいります。

 投資サブセグメントには、マーケット視点で拡大余地が認められるものの、安定的な収益構造を確立できていないセレクトブランドや外部より連結加入してきた企業が含まれております。当社グループ内では投資対象として優先順位が高くない場合、株式会社ワールドインベストメントネットワーク又はその傘下の孫会社の下に移して管理支援を行いつつ、外部資本の活用等も視野に入れた事業開発・改革を進めて収益構造の確立を目指してまいります。

 なお、傘下の子会社については、事業のPMI(M&A後統合プロセス)を含む改革を実行し、一定程度の収益確保が認められる場合、当該子会社の事業内容に適した事業セグメントへ移管しております。

 

(デジタル事業)

 デジタル事業では、B2BソリューションとB2Cネオエコノミーという二つの空間に分け、B2Bソリューションでは当社グループの内から外へサービスラインの展開を加速させ、B2Cネオエコノミーでは顧客の変化に適合した新たなファッション・サービスを開発し価値の創造に取り組みたいと考えております。

 B2Bソリューションにおいては、EC等における受注、梱包、発送、入金等の一連のプロセスを指すフルフィルメント、バリューチェーンをフルカバーする多様な機能群に至る、ファッションビジネスに必要な全ての業務領域を支えるデジタルプラットフォームの構築と提供を推進しております。当社グループのリアルな事業経験に裏打ちされたシステムは、「中小企業でも低廉なコストで利用できるサービス」をコンセプトに他社への魅力あるサービス提供も視野に入れて、全業務領域のシステム刷新に伴う開発投資を行ってまいりました。今後は、ベンダーと協業で業界の共通基盤として、幅広くシステムをリリースするとともに、付随するОМОコマース事業のソリューションを提供することで、収益貢献を積み上げてまいります。

 一方、B2Cネオエコノミーにおいては、顧客の変化に合わせたビジネス・シーズを増やすべく、デジタル軸で新たなサービスの開発・展開に乗り出しております。このため、当社グループに足りない技術や資源、ノウハウについて外部から獲得・補強を進めております。「所有から利用へ」、「マスからパーソナルへ」、「一方通行から双方向へ」といったキーワードに代表されるように、消費の在り方そのものが大きく変化するなか、「次世代ファッションのビジネスモデル開発で欠かせないのが『つなぎ目にあるロス』を埋める協業である」という思想に基づき、従来の大量生産・大量販売から、もっと多彩なファッション・サービスの提案へと、過去における事業開発とは発想や仕様、手法を大転換していることが特徴です。今後、グローバルかつ、新たなテクノロジー・ITを通じた価値創造が可能になると考えております。

 

(プラットフォーム事業)

 プラットフォーム事業においては、当社グループが長年に亘って培ってきた様々なノウハウと仕組みが凝縮された、多業態・多ブランドを支えてきたプラットフォームについて、これまでの当社グループ企業に加えて、積極的に外部企業にも開放する形で各種サービスの提供へ取り組んでおります。

 アパレルプラットフォームにおいては、OEM受託として、国内から中国、アセアンにいたる幅広い生産基盤や商標資産、企画機能といった生産支援メニューを外部企業に提供しているほか、店舗開発や販売代行、在庫消化といった多様な販売支援メニューを提供しております。

 また、ライフスタイルプラットフォームとして、当社グループが多様な販売チャネルへの直営店の展開を通じて培ってきたノウハウやアセットも活用します。例えば、店舗設計や什器調達、VMD(注)機能等をファッション関連企業に空間創造支援サービスとして提供するほか、競争優位性のある海外什器調達力を背景にホテルや飲食店の内装等にも事業範囲を拡大しております。この他、シェアードサービスプラットフォームとして、ファッションビジネスに関わる様々な事務処理・手続き等の各種事務サービスを一括で受託できる体制を整えています。

 

 そして、こうした当社グループの各種プラットフォームを組み合わせてワンストップでサービスを提供することは、例えば、海外ブランド企業の日本進出支援に有効な手段となります。海外企業の日本初進出時には、店舗開発や店舗運営、経理等の本部機能やシステム構築、物流網の設置など、起業特有の多岐に渡る分野で幾つものハードルがあります。当社グループは、こうした一連の業務支援をパッケージとして、競争力ある価格でまとめて提供することが可能となっております。

(注)VMD…VMDとは、ヴィジュアル・マーチャンダイジングの略。ディスプレイ、インテリア、販売促進など商品MDを視覚面からサポートする専門機能

 

②財務体質の改善

 当社グループは、保有資産の有効活用による価値極大化も目指しており、資産に対するリターンである資産効率の向上に取り組んでおります。

 これまで、ブランド事業の中核的なアセットである棚卸資産の圧縮で在庫回転率の改善を進めたほか、不動産の入れ替えなどで固定資産の収益力も引き上げました。こうした資産の効率性及び収益力の向上を図るとともに、その対となる資金調達面において、負債・資本バランスといった財務体質の改善を進めました。MBO時の資金源として銀行借入やメザニンを利用した経緯もあり、資本に対する借入金の割合が大きいといった課題を抱えていますが、借入金のリファイナンスにより安定的な財務基盤を構築した上で、事業活動により得た利益を原資として、有利子負債の圧縮を進め、財務体質の安定化を進めてまいります。

 なお、前連結会計年度において、中期経営戦略を迅速且つ着実に推進する目的で永久劣後特約付ローン(注)による150億円の資金調達を実施し、当連結会計年度においては、借入金約800億円のリファイナンスを実施することで、安定的な財務基盤を構築しております。

(注) 永久劣後特約付ローンは、元本の弁済期日の定めがなく利息の任意繰延が可能なことなどから、国際会計基準(IFRS)における「資本性金融商品」に分類され、本劣後ローンによる調達額は、当社連結財務諸表上、「資本」に計上されることになります。

 当連結会計年度末における当社グループのD/Eレシオは1.03倍と、前連結会計年度末の1.00倍から悪化していますが、㈱ナルミヤ・インターナショナルを連結子会社化した影響を除くと、D/Eレシオは1倍下回る水準で前連結会計年度末より良化しました。今後、成長のための戦略投資及び事業投資を行いつつ、D/Eレシオは約0.5倍の水準を目指してまいります。さらに当期利益の成長と株主還元の拡充の両方を適切にコントロールすることで、中長期的にROE10%程度の達成及び維持についても目指してまいります。

 

③人材等のリソースの確保

 当社としましては、これまでのブランド事業やプラットフォーム事業に加えて、新たな成長領域としてデジタル事業を位置付けており、今後の事業の柱に不可欠な人材や資金といったリソースの確保も重要課題と認識しています。

 当社グループは、ファッションテックといった新たな分野に秀でた技術や人材を確保するため、グローバル・オファリングにより調達した資金を活用し、M&Aなどを通じエンジニア等の人材を得てきました。今後は当社グループの事業構造の非連続な変革の実現には、優秀な人材の確保が引き続き重要と認識しており、デジタル事業のほか、ブランド事業でも外部人材を登用し、継続的に次世代リーダーを輩出していく仕組み作りにも注力してまいります。

 

④コーポレート・ガバナンスの強化

 当社はグループ企業価値を高めるため、事業持株会社としてグループ経営戦略を立案し、子会社間でのシナジー効果の追求や子会社に対する管理・監督機能を適正かつ有効に発揮すべく、今後もグループの業務や組織運営、事業ポートフォリオの最適化や保有資産の価値最大化に取り組んでまいります。

 そして、企業の社会的責任(CSR)の高まりに継続的に応えていくため、今後も意思決定プロセスの透明性確保や企業経営の効率性向上に注力するとともに、コンプライアンス体制の強化と内部統制システムの充実を図ってまいります。

 また、監督と執行の分離で迅速な意思決定を行うことにより、グループ企業価値の更なる向上を目指しております。同時に、社外取締役が過半数を占める取締役会の監督機能の強化や役員の健全な新陳代謝の進展なども図っており、グループの経営力のさらなる向上ならびにコーポレート・ガバナンス体制の一層の強化に取り組んでおります。

 

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