課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。なお、業績見通し等の将来に関する記述は、当社が現時点で入手している情報や合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の業績等は様々な要因により大きく異なる可能性があります。

(1) 住友化学の目指す姿

当社は、別子銅山の煙害という環境問題の克服と農産物の増産を、ともに図ることから誕生した起源を持ちます。創業以来100年以上にわたり、絶えざる技術革新と事業の変革を遂げながら、事業を通じて人々の豊かな生活を支えてまいりました。
 住友には「自利利他公私一如」(住友の事業は、住友自身を利するとともに、国家を利し、かつ社会を利するものでなければならない)という言葉がありますが、当社はその事業精神を体現し、経済価値と社会価値を一体的に創出してまいりました。
 近年、気候変動のみならず、生態系保全、健康促進といったサステナビリティの意識が世界中で高まっています。当社はこれを広い意味でのグリーントランスフォーメーション(GX)と定義し、自らの変革と社会への貢献の機会と捉えております。今後、GXの視点で事業ポートフォリオを長期的に変革することで、事業を通じて社会課題の解決に貢献することを目指します。

 


 

(2) 2019-21年度中期経営計画:総括

2019-21年度中期経営計画の期間には、新型コロナウイルス感染症をはじめとした、事業環境の大きな変化がありました。その中で、当社グループは、全社横断プロジェクトなどを通して事業基盤の整備を進めるとともに、ロイバント サイエンシズ リミテッドとの戦略的提携によるポスト・ラツーダ候補の獲得、ニューファーム リミテッドからの南米農薬事業の買収、ラービグ完工保証の終了など、中期経営計画開始時の事業課題に対して積極的に手を打つことで、成長への道筋をつけることができました。

業績に関しても、この3年間で着実に伸長し、2021年度には親会社の所有者に帰属する当期利益は過去最高となりました。それに伴い、配当金も過去最高の1株当たり24円とさせていただきました

 

 


 

 

 2019-21年度業績・経営指標


 

(3) 2022-24年度中期経営計画

 新たな中期経営計画のスローガンについて、Change and Innovationは前中期経営計画から据え置き、副題を、with the Power of Chemistryとしました。

 当社の最大の強みである事業・技術・地域・人材の多様性と、サステナビリティやデジタル革新など、当社を取り巻く環境変化がもたらす成長機会とをかけあわせることで、総合化学の「Power」を最大限に発揮します。

 このスローガンのもとで、ROI志向経営の徹底と全社横断プロジェクトの遂行により、個々の事業の強化や、GXを背景としたポートフォリオの変革、事業の新陳代謝の促進を行い、競争優位性の確立を目指します。

 


 

 基本方針は以下の7つです。

 

①事業ポートフォリオの高度化(事業の強化と変革)

 GXの視点を加え、環境負荷低減に関する分野への積極投資を行うとともに、半導体・電池材料などの高機能材料への投資も拡充し、事業ポートフォリオの高度化を推進します。

 

②財務体質の改善

 ROI志向経営の徹底、投資の厳選、そしてキャッシュ・フロー創出力の強化を行い、2024年度末でD/Eレシオ(有利子負債/純資産)0.7倍を目指します。

 

③次世代事業の創出加速

 環境、ヘルスケア、食糧、ICTの重点4分野において、前中期経営計画中に整備したイノベーションの基盤を活用し、研究開発の加速および、早期の事業化を目指します

 

④カーボンニュートラルへ向けた責務と貢献

  カーボンニュートラルの実現に向け、燃料転換などにより自社の温室効果ガス(GHG)排出量をゼロに近づける「責務」と、環境負荷低減に資する製品や技術を通じた社会のGHG削減への「貢献」の両面で取り組みを進めます

 

 

⑤デジタル革新による生産性の向上と事業強化

  前中期経営計画での生産性向上の取り組み継続に加え、顧客接点強化などの取り組みによる既存事業の競争力強化を行います。また、DX人材の育成にも努めます

 

⑥持続的成長を支える人材の確保と育成・活用

 最重要の経営資源である人材の確保と育成を長期的な視点で推進するとともに、エンゲージメントの強化に取り組みます

 

⑦コンプライアンスの徹底と安全・安定操業の継続

 「安全をすべてに優先させる」という原則を今一度徹底し、安全・安定操業の維持・向上を実現するとともにコンプライアンスの徹底にも努めます

 

2024年度経営目標

 売上収益については、健康・農業関連事業部門、情報電子化学部門、エネルギー・機能材料部門での販売増加により、2021年度比での増収を見込みます。

 コア営業利益については、3,000億円となり2021年度比で増益を見込みます。合成樹脂や合繊原料、各種工業薬品等は交易条件悪化により減益を見込みますが、エネルギー・機能材料や情報電子化学といった高機能材料の出荷増加、海外農薬の出荷増加などを見込みます。また、医薬品に関しても、主要製品であるラツーダの北米での独占販売期間終了による販売減少を、前中期経営計画中に獲得した新製品の販売などでカバーし、増益を目指します。

 ROEやROIなどの経営指標についても、当社の目指す姿として掲げる数値を、2024年度には達成することを目標としております。

 

2022-24年度中期経営計画:経営目標


 

各事業部門の戦略と取り組み

各事業部門における、事業内容と本中期経営計画のアクションプランは、以下のとおりであります。


(エッセンシャルケミカルズ部門)

エッセンシャルケミカルズ部門は、日本・シンガポール・サウジアラビアに製造拠点を有し、それぞれの拠点の強みを活かして、ポリエチレン・ポリプロピレン・メタアクリルなどを製造し、自動車・家電・食品など幅広い産業に供給しております。

日本およびシンガポールの拠点では、顧客の要望を先取りした高付加価値製品を開発するとともに、高品質な製品を安定供給しております。また、これまでアジア市場の優良顧客と長年かけて培ってきた信頼関係も当社グループの大きな強みとなっております。サウジアラビアの拠点では、安価な原燃料を活用し、コスト競争力のある製品を製造しております。

当連結会計年度の取り組み実績として、アクリル樹脂のケミカルリサイクル実証設備の新設を決定したほか、リサイクルプラスチックブランド「Meguri TM 」を立ち上げるなど、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルに関する技術開発やその成果の社会実装に向けた取り組みを進めました。また、サウジアラビアのラービグ リファイニング アンド ペトロケミカル カンパニー(以下「ペトロ・ラービグ社」という。)は安定稼働を継続し過去最高の業績となりました。

本中期経営計画においては、GXを意識した事業ポートフォリオの変革を図り、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルをはじめとした、カーボンニュートラルの技術の開発を行い、社会実装を加速させます。また、ライセンス・触媒ビジネスの拡大・収益力の強化にも取り組みます。サウジアラビアでの事業については、いわゆるキャッシュ・カウとして、引き続き安定稼働に努めてまいります。

 

2022年4月、石油化学部門の名称を「エッセンシャルケミカルズ部門」へ変更いたしました。

新たな名称には、2050年カーボンニュートラルをはじめ大きな転換期を迎えている時代の要請に応じたエッセンシャルな化学製品・技術を提供し続けるという使命の下、事業改革を目指す強い決意を込めております。また、CO2排出産業である化学企業がカーボンニュートラルに貢献するには、当事業部門が長年蓄積してきた触媒や生産プロセス等の技術が不可欠であることから、社会のみならず、当社グループにとってもこの事業部門がエッセンシャルであるという想いも込めております。

 

 

(エネルギー・機能材料部門)

エネルギー・機能材料部門は、電池部材やスーパーエンジニアリングプラスチックスなどの高機能材料の販売により、エコカーなどの環境調和製品の性能向上に貢献するソリューションを提供しております。

高純度アルミナやレゾルシンのように世界トップシェアを維持する製品や世界最高水準の高耐熱性を持つリチウムイオン二次電池用セパレータに見られるように、グローバルな事業展開力とともにこれらの製品群を生み出す研究開発力や評価・製造・プロセス技術が当社の強みであると考えております。

当連結会計年度の取り組み実績として、LCP(液晶ポリマー)について、世界的に需給が逼迫している足元の状況を速やかに改善するため、愛媛工場での生産能力増強を決定しました。また、EPDM(エチレン・プロピレンゴム)事業については、今後中長期にわたって安定的に収益を確保することは困難と判断し、撤退することを決定しました。

本中期経営計画においては、電池部材およびスーパーエンジニアリングプラスチックスを成長事業と位置づけ、集中的に資源を投下します。リチウムイオン二次電池用セパレータでは、高安全性、長寿命化などの強みを活かし、多様化する顧客ニーズに対応してまいります。正極材では、生産性が高い焼成プロセスの事業化を目指します。一方、低採算事業については、縮小・撤退も視野に方向性を見極めてまいります。また、次世代事業として、固体型電池や分離膜等の新規技術の開発促進に取り組みます。

 

 

(情報電子化学部門)

情報電子化学部門では、高機能なディスプレイ関連材料や高品質な半導体材料を提供することで、ディスプレイや半導体の性能および生産性の向上に貢献しております。

当社グループはこれまで、マーケットインのグローバルサプライチェーン構築に努め、製品の開発・供給に活かしてまいりました。こうした開発供給体制と総合化学メーカーとしての素材開発力、そしてディスプレイ関連材料事業で培った製品開発力・加工技術が強みとなっております。

当連結会計年度の取り組み実績として、近年進めてきた、ディスプレイ材料事業での高付加価値化や、半導体材料事業での供給体制強化等により、当連結会計年度の当部門の業績は過去最高益を更新しました。

また、半導体材料事業においては、旺盛な半導体需要に対応するため、半導体用高純度ケミカルおよびフォトレジストの生産能力を増強し、供給体制をグローバルに強化することを決定しました。

本中期経営計画においては、ディスプレイ関連材料事業では、当社核心技術を活かした有機ELディスプレイ向け材料等の高付加価値品比率をさらに高めつつ、次世代ディスプレイ向け材料の開発・上市に取り組みます。

半導体関連材料事業では、シリコン半導体向けに、拡大する需要を確実に取り込みつつ、顧客プロセスの革新に応える先端材料の開発・拡販を進めます。また、化合物半導体向けに、省エネ等社会課題解決に貢献する次世代パワーデバイス材料の事業化を目指します。

また、新規事業開拓のため、社外とも積極的に連携しながら、次世代高速通信や高感度イメージセンサーに対応した材料等の開発に注力します。

 

(健康・農業関連事業部門)

健康・農業関連事業部門では、特長ある農薬・農業資材やメチオニン(飼料添加物)、医薬品原薬などをグローバルに提供することで、食糧の生産性向上に寄与しております。

当社グループは、自社開発の優れた化学農薬に加え、バイオラショナルやポストハーベストなど高いシェアを持つユニークな農薬や農業資材を品揃えし、グローバルに販売しております。当社グループの農薬事業の強みは、特長ある農薬の品揃えとそれを生み出す研究開発力、グローバルな販売網です。また、メチオニン事業では、高い生産技術を活かし、製品を原料から一貫生産し安定供給しております。

当連結会計年度の取り組み実績として、大型戦略投資を実施した南米やインドにおいて、統合シナジーの最大化に注力しました。また、世界で初めてゲノム編集治療向けに約90%もの極めて高い純度を有するガイドRNA(gRNA)の量産技術を確立し、大分工場に核酸医薬品原薬の製造プラントを新設することを決定しました。さらに低分子医薬品についても、需要の高まりを受け同工場での原薬および中間体の製造プラントの新設を決定しました。

本中期経営計画においては、当社グループが強みを持つバイオラショナル・ボタニカル等の環境負荷の低い製品群を武器に、競合他社と差別化を図ります。化学農薬の製品群については、新規大型殺菌剤インディフリンの販売最大化に注力するとともに、より環境負荷低減効果を重視した製品の開発・上市に取り組みます。また、南米での事業買収などにより拡大したサプライチェーンを強化するとともに、投資成果を着実に回収し資本効率の向上を目指します。研究開発では、強みのある事業領域に重点的に資源を投入し、オープンイノベーションなども積極的に活用してまいります。

 

 

(医薬品部門)

医薬品部門では、医療用医薬品や診断用医薬品等の開発・販売を行うことで、人々の健康で豊かな暮らしを支えております。現在、医療用医薬品は大日本住友製薬株式会社(以下「大日本住友製薬」という。)、診断用医薬品は日本メジフィジックス株式会社(いずれも当社の連結子会社)で事業を展開しております。

大日本住友製薬では、「ポスト・ラツーダ」(米国での「ラツーダ(非定型抗精神病薬)」の独占販売期間終了後)を見据えつつ、変革の時に対応するため、「成長エンジンの確立」と「柔軟で効率的な組織基盤づくり」により、事業基盤の再構築に取り組んでおります。重点3領域とする精神神経領域、がん領域、再生・細胞医薬分野は、アンメット・メディカル・ニーズが高く大日本住友製薬の経験と知識を活かせる領域であり、引き続き注力してまいります。また価値にフォーカスしたベストインクラス(既存薬はあるが、その既存薬に対して明確な優位性を持つ新薬)や感染症領域にも取り組み、グローバルヘルスに貢献してまいります。日本メジフィジックス株式会社は、核医学という極めて専門性の高い医療分野における日本のリーディングカンパニーとして、新たな診断薬の開発に取り組んでおります。

本中期経営計画においては、ラツーダの北米における独占販売期間終了後の収益基盤確立が最優先課題です。オルゴビクス(進行性前立腺がん治療剤)、マイフェンブリー(子宮筋腫治療剤)は、ファイザー社と提携し、事業リスクの低減および剤のポテンシャル最大化を図ります。ジェムテサ(過活動膀胱治療剤)は、販売・流通においてグループ内の営業基盤を活用することでコストシナジーを追求します。これらの新製品でラツーダを上回る販売を目指します。また、中長期的な成長を見据え、精神神経領域の新製品の創出や、再生・細胞医薬品などにも注力し、成長が見込まれるCDMO事業(製法開発・製造などの受託事業)も一層強化してまいります。

 

 

(4) カーボンニュートラルの実現に向けた責務と貢献

当社グループは、早くから気候変動問題を社会が直面する喫緊の課題の一つと捉え、この問題の解決に向けて総合化学メーカーとして培ってきた技術力を活かし、「リスクへの対応」と「機会の獲得」の両面から積極的に取り組んでいます。また、気候変動対応に関する情報開示についても、TCFD提言の枠組みを活用し、当社の取り組みを積極的に発信することで、社会からの信頼を獲得してまいります。

特に、近年、地球温暖化による気候変動対策として、世界でカーボンニュートラルの実現に向けた動きが活発化する中、化学産業には、イノベーションを生み出し、事業を通じた社会全体のカーボンニュートラル達成に貢献することが強く求められています。当社グループは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組み方針を「カーボンニュートラル実現に向けたグランドデザイン」として策定し、2021年12月に公表しました。自社が排出する温室効果ガス(GHG)をゼロに近づける「責務」と、当社グループの技術・製品を通して社会全体のカーボンニュートラルを推進する「貢献」の両面で取り組みを推進してまいります。「責務」においては、自社のGHG排出量を2030年までに50%削減(2013年比)、2050年までに実質ゼロとすることを目指します。「貢献」においては、社会のGHG削減に資する製品・技術の開発および社会実装を、社外とも連携しながら推し進め、世界全体でのカーボンニュートラル達成を目指します。

 


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