課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1) 経営方針

 当社は、「あらゆる産業において、ソフトウエア技術が生み出す新たな付加価値を通じて、お客様に安心と満足そして豊かさを提供すると共に、社員を大切にし、株主様に貢献する」ことを企業理念としております。この企業理念を基本とし、高度なソフトウエア技術力によりお客様の課題を解決し、お客様の製品や商品・インフラ開発を支援しております。また、社員全員が当社を愛し、自ら成長し続ける会社環境を提供し、社員一人ひとりが希望とやりがいが持てる会社を実現します。そして、地域社会と共に発展できる地域のコア企業としての役割を担います。

 

(2) 経営戦略等

 当社は、システム開発及びその関連サービスの単一セグメントですが、事業の構成を「相対的に安定した利益体質の事業基盤:ソリューションカテゴリー」と「半導体工場内システムの運用・保守を支援する安定分野:半導体カテゴリー」及び「高度なソフトウエア技術により新市場を創出する成長分野:先進技術ソリューションカテゴリー」の3つのカテゴリーによる構造としております。近年の5G、IoT、AI等に代表される技術革新が急速に進むビジネス環境において、当社は、前述した3つのカテゴリーの構成による事業拡大に取り組むとともに、以下の戦略を推進することで、事業の発展、拡大及び企業価値向上を図ってまいります。

①顧客ファーストの推進

 お客様のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に応えるため、最新技術を活用したソリューションの提供に取り組んでまいります。また、対象とする顧客企業領域の拡大と開発バリューチェーンの多様化を進め、事業拡大を目指します。

②スピントロニクス技術(注1)を用いたAIプロセッサ(注2)に関する独自技術(Only One Technology)の獲得

 東北大学との共同研究を通じ独自技術の獲得を目指し、研究成果による新しい収益の柱の構築を進めます。また、開発早期化のための他社とのアライアンス推進や労働集約型のビジネスモデルから付加価値型モデルへの転換を推進します。

③経営基盤の強化

 当社の事業拡大に重要となる人財を積極採用し体制強化を図ります。また、先進技術分野のみならず幅広くスキル創出のための積極的な投資を推進します。

 

(3) 経営環境

①ソリューションカテゴリーを取り巻く環境

 近年ソフトウエアは、組込み機器やコンピュータに代表されるハードウエアの進歩と共にその需要は増大してきました。さらに今後は、ITを中心にサービスや価値が再設計される時代に入ると認識しております。このため、AIや自動運転、ロボット等に搭載されるソフトウエアが、ハードウエアを決定する「ソフトウエア中心」の時代になるといわれ、益々ソフトウエアの需要が拡大すると予想しております。

 国内ソフトウエア市場は、右肩上がりの成長を持続する反面(*1)、ソフトウエア開発を支えるIT人材の不足が予想されます(*2)。つまり、日本のソフトウエア市場は益々拡大を重ね、当社のようなソフトウエアを専門として事業展開している企業の需要が益々高まっていき、一方で、IT人材をいかに獲得するかがこれらの企業の大きな課題になると考えております。

②半導体カテゴリーを取り巻く環境

 半導体市場は、需給バランスの影響により「半導体サイクル」といわれる好不況の大きな波が存在しますが、全体としてはプラスの成長を維持しております(*3)。2021年の世界半導体市場は、前年比+25.6%とプラス成長を予測しており(*3)、当社調べによると、製品別半導体全市場のうち、約1/3をメモリデバイス(注3)が占め(*4)、DRAM(注4)とNAND Flash メモリ(注5)がその市場の中心となっております。特にNAND Flashメモリは、主にスマートフォン等の記憶デバイスとして採用されておりますが、近年のIoTによるデータ量の急激な増大に伴い今後も市場が拡大すると当社独自に予想しております。
 緊急事態宣言の発令後、企業の働き方や教育環境は大きく変化し、在宅勤務や遠隔学習の広がり等、ニューノーマルによる環境整備の動きが活発な状況となっております。ライフスタイルの変化や5Gスマートフォンの増加が半導体需要を押し上げており、好調な半導体市場を背景に半導体工場の建設が計画的に進んでいく見込みであり、当社の得意先であるキオクシア株式会社も製造棟の建設開始を発表しております。

 

③先進技術ソリューションカテゴリーを取り巻く環境

 当社が今後注力する市場である、AI(人工知能:Artificial Intelligence)、ロボット、自動運転、IoT等の新技術は、今後の企業活動で最も重要な技術と見ており、事業の成長を担う市場としては妥当であると考えております。

 これらのソフトウエア開発では、膨大なデータ量を必要とし、高性能なコンピュータが必要とされておりますが、従来のコンピュータ処理能力は、半導体の微細化(配線幅を細くすること)に応じて動作周波数を高めることでプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)性能を向上させてきました。その後は1つの集積回路(LSI:Large Scale Integrated Circuit)に集積するプロセッサの数を増やす「マルチコア(注6)化」で性能を高めてきましたが、2015年頃になるとマルチコア化にも限界が見えてきました。このような状況に対応するために、プロセッサを特定の処理向けに最適化する「ドメイン固有アーキテクチャ」という考え方が登場しました。このため、米アマゾン社や米マイクロソフト社、米グーグル社といった情報技術(IT)の巨大企業が、AIやクラウドコンピューティングに特化した専用チップの開発に動きました。しかし、AI の進化に求められるプロセッサの処理能力は、計算に使用するデータ量を指数関数的に増大させたため、専用チップ化の方法でも消費電力が高くなるといった問題が浮上し、根本的にプロセッサのアーキテクチャ(構造)を考え直さなければならない時代に入ってきたと見ております。このことから、蓄積されたデータを中心とする「データセントリック(注7)」という新たなコンピューティングシステムが提案されております。データセントリックにおいては、データのやり取りがスムーズに行われる新たなコンピューティングシステムと新たな半導体メモリが不可欠であると考えております。

 

(4) 目標とする経営指標

 当社は、短期的には事業規模を表す売上高と本業の収益力を表す営業利益率を重視しております。また、中長期的には自己資本利益率(ROE)を重視しながら安定した事業運営を行うと共に事業拡大と超過利潤の獲得を目指し、企業価値の継続的向上に努めてまいります。

 

(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 当社は、その経営方針にある「あらゆる産業において、ソフトウエア技術が生み出す新たな付加価値」の創造実現のため、人材面、技術面の拡充と経営基盤の強化を図る必要があると認識しております。顧客のニーズにきめ細かく対応する顧客ファースト実現のためには優秀なIT人材の確保と育成が、スピントロニクス関連技術の獲得のためには高度なソフトウエア技術力の確保がそれぞれ必要であります。また、これらを実現するための経営基盤として、品質管理体制や経営管理体制の強化を行っていくことが課題であります。具体的な課題と対応方針は以下のとおりであります。

 

 <顧客ファースト実現のための課題>

①IT人材の確保

 優秀な技術者の確保は、お客様のすべてのニーズをキャッチアップし会社を発展させる上で不可欠です。このため当社は、中途採用に加え継続的な新卒採用活動も強化し、優秀な技術者の確保に努めております。また、パートナー企業からの技術者の受け入れや、地方採用における地方教育機関との連携による就職支援を行っております。今後は大学とのインターンシップによる優秀な人材の確保を実現する予定であります。

②人材の育成

 当社では、専門経験のない人材も含め広く門戸を開いております。人材の育成に関しては、新卒入社時に数か月に及ぶ専門知識に関する社内教育を実施し、その後も長期にわたりOJTを実施することで、優秀な技術者の戦力化を目指しております。

③事業領域及び顧客層の拡大

 ソリューションカテゴリーにおいては、当社のシェアが相対的に低い輸送・物流、医療検査機器分野への顧客層の拡大が課題であります。半導体カテゴリーにおいては、安定的な拡大が見込まれるNAND Flashメモリ工場内での業務拡大が課題であります。先進技術ソリューションカテゴリーにおいては、高度なAIや画像処理、ネットワーク技術を強みとした顧客層の拡大が課題であると認識しております。

 

 <Only One Technology獲得のための課題>

④高度ソフトウエア技術力の確保

 AIや画像処理の分野において、他社との差異化を行うためには類まれな能力の技術力が不可欠です。当社は、既に博士号を取得している数名の技術者を中心に、その人的チャネルを駆使して人材確保に当たります。

⑤次世代メモリに関する研究開発

 東北大学との共同研究を通じた独自技術の獲得を目指し、新しい収益の柱を構築することは、当社の長期的成長に不可欠なものです。開発早期化のための他社とのアライアンス推進を含め、実現に向けて努めてまいります。

 

 <経営基盤強化のための課題>

⑥品質向上と生産性向上

 品質向上において最も重要なポイントは、ユーザ要求仕様の明確化であり、開発工程の初期段階にユーザ要求仕様を確定することを徹底すると共に、基本設計書・詳細設計書・テスト仕様書作成の徹底化を図ります。プログラム製造工程においては、機能の分割と機能を共有化するための定義を明確化し、機能ごとの作業分担により生産性の向上を目指しております。

 さらには、優秀な技術者を雇用することで、品質及び生産性の向上を図るばかりではなく、ソフトウエア処理の高速性やプログラム不良件数のゼロ化等、信頼性の向上も同時に目指しております。

⑦内部管理体制の強化

 当社の継続的な発展のために内部統制システムを整備し適切に運用することが重要であると考えております。財務報告の信頼性と業務の有効性及び効率性等を確保し、違法行為や不正等が行われることなく、組織が健全かつ有効・効率的に運営されるように内部管理体制の構築を図ってまいります。

 

用語解説

   本項「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」等において使用しております用語の定義について以下に記します。

用語

用語の定義

注1

スピントロニクス技術

固体中の電子が持つ電荷とスピンの両方を工学的に利用、応用する技術のこと。 スピンとエレクトロニクス(電子工学)から生まれた造語である。

HDD(ハードディスクドライブ)の大容量化や省電力化はもちろん、不揮発性(電源を常に入れておかなくてもデータを保持できる)メモリなどにも貢献できる、応用範囲の広さが特長の一つである。

注2

プロセッサ

コンピュータ本体のデータ処理装置のこと。ここでは演算装置と制御装置のことを指す。この本体は、中央処理装置(CPU)とも呼ばれている。

また、AI向けに最適化されたプロセッサのことをAIプロセッサという。

注3

メモリデバイス

コンピュータにおいて、プログラムやデータを記憶する装置のことをいう。DRAM、SRAM、NAND Flashメモリ等がある。

注4

DRAM

Dynamic Random Access Memoryの略で、半導体メモリ(半導体記憶素子)の一つ。 読み出し/書き込みが自由に行えるRAMと呼ばれる半導体メモリの方式の一種であり、コンデンサーに電荷を蓄えて情報を記憶するタイプの半導体メモリのことをいう。

注5

NAND Flashメモリ

NAND Flashメモリとは、Flashメモリ(電界効果トランジスタでホットエレクトロンを浮遊ゲートに注入してデータ記録を行う不揮発性メモリ)の構造・動作原理の一種で、最初に発明されたNOR型Flashメモリに次いで考案された方式である。NOR型Flashメモリと比べて回路規模が小さく、安価に大容量化できることが特徴である。従来のフロッピーディスクやハードディスク(HDD)に代わるPC用のUSBメモリやソリッドステートドライブ(SSD)、デジタルカメラ用のメモリカード、携帯音楽プレーヤー、携帯電話などの記憶装置として使用される。近年では、サーバ用HDDに比べ速度が速いことから、クラウドサーバの記憶装置として用いられている。

注6

マルチコア

1つのCPUパッケージ内に複数のマイクロプロセッサを搭載する技術のことをいう。近年のプロセッサは、処理速度を上げるために、ほとんどが2個、4個等のマルチコア化が進んでいる。

注7

データセントリック

データの演算よりもデータの移動に時間や電力を使っている現在のシステムを、データの移動を最小限にし、データの近傍で演算する設計にすることで高速化や省電力化を図ろうというもの。

 

*1 経済産業省 特定サービス産業動態統計調査※1 によれば、受注ソフトウエア売上は、2019年の7兆2,427億円から、2020年の7兆4,923億円と約3.4%の伸びを示しています。また、受注ソフトウエアを含む国内情報サービス全体の市場は、みずほ銀行産業調査部「日本産業の中期見通し(2021年12月2日)」※2 によれば、2022年度は15.1兆円、2026年度は18.4兆円と予想され、今後も右肩上がりの成長を持続すると記述されています。

※1 経済産業省 特定サービス産業動態統計調査 2.情報サービス業

 https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/result-2.html

※2 みずほ銀行産業調査部「日本産業の中期見通し(2021年12月2日)」

 https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/1068_all.pdf

 

*2 経済産業省「IT人材需給に関する調査(2019年3月)」※3によれば、ソフトウエア開発を支えるIT人材の不足が予想されております。この報告書の試算結果は、今後のIT需要の伸びをそれぞれ低位(需要伸び率1%)、中位(需要伸び率2-5%)、高位(需要伸び率3-9%)の3段階でIT人材の不足を予想しています。これによると、2019年時点において、約26万人が不足していると言われ、2030年までに16万人から79万人のIT人材不足が予想されています。

※3 経済産業省「IT人材需給に関する調査」2019年3月

 https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf

 

*3 半導体市場は、需給バランスの影響により「半導体サイクル」といわれる好不況の大きな波が存在しますが、JEITA(電子情報技術産業協会)世界半導体市場統計(2021年秋季半導体市場予測)※4によれば、2021年は前年比+25.6%とプラス成長を予測しています。これはパンデミックによる世界経済低迷の影響があるものの、パンデミック以降、在宅勤務・授業等に必要な機器等の需要が増え、また家庭で楽しむエンターテインメントとしてビデオ配信やゲーム機の需要も拡大し、スマートフォンの5G化も進み、クラウドサービス等のインフラ投資需要も高まったことが要因とされています。また、2022年は前年比+8.8%となることが予測されており、引き続き堅調に推移すると予想しています。

 また、日本の半導体市場は、2021年に4.7兆円、2022年には5.2兆円になると述べられています。

※4 JEITA(電子情報技術産業協会)世界半導体市場統計(2021年秋季半導体市場予測について)

 https://www.jeita.or.jp/japanese/stat/wsts/docs/20211130WSTS.pdf

 

*4 製品別世界のIC市場予測※5から、2022年の市場全体の出荷額は5,023億ドルであり、そのうちメモリは約1,716億ドルと市場のほぼ1/3をメモリが占めていることになります。

※5 JEITA(電子情報技術産業協会)世界半導体市場統計(2021年秋季半導体市場予測について)

 https://www.jeita.or.jp/japanese/stat/wsts/docs/20211130WSTS.pdf

 

 

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