文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題
当社グループは、「地球環境との調和の中で、材料・物質の革新と創出を通して高品質の製品とサービスを顧客に提供し、もって広く社会に貢献する」ことを企業グループ理念として掲げ、経済軸、環境軸、社会軸が結びついた社会課題解決への取り組みにより、事業活動を通じた社会貢献を目指しております。
2025年度を見据えた長期経営計画では、「環境と調和した共生社会」、「健康・安心な長寿社会」及び「地域と調和した産業基盤」の実現を当社グループが貢献すべき社会課題と捉え、「モビリティ」、「ヘルスケア」、「フード&パッケージング」、「次世代事業/新事業開発」及び「基盤素材」の5つの事業領域において、より良い未来社会の実現に向けて取り組んでまいりました。
しかしながら、昨今、当社を取り巻く社会環境も大きく変化していることから、2030年を見据えて、当連結会計年度に長期経営計画「VISION 2030」として見直しました。
長期経営計画見直しにあたっては、15〜20年先に当社が目指すべき企業グループ像を改定し、「化学の力で社会課題を解決し、多様な価値の創造を通して持続的に成長し続ける企業グループ」と定義致しました。また、目指すべき企業グループ像に向けた通過点となる2030年においては、大きく変容して行く社会環境や課題に正面から対峙し、当社が取り組む変革を踏まえた新成長戦略を実現する姿を描き、以下を当社グループにおける2030年のありたい姿と定義致しました。
「未来が変わる。化学が変える。
Chemistry for Sustainable World
変化をリードし、サステナブルな未来に貢献する
グローバル・ソリューション・パートナー」
当社グループの目指す未来社会を「環境と調和した循環型社会」、「多様な価値を生み出す包摂社会」、「健康・安心にくらせる快適社会」と定義し、加速する環境変化や課題に対してその解決策を持続的に提供するべく、5つの基本戦略を掲げ、新たな4つの事業ポートフォリオを設定の上取り組むとともに、引き続き次世代事業の育成に注力してまいります。
また、2022年4月には、上記の新たな事業ポートフォリオに合わせて組織改正を行い、事業本部を「ライフ&ヘルスケアソリューション」、「モビリティソリューション」、「ICTソリューション」、「ベーシック&グリーンマテリアルズ」の4つに再編しました。この新たな体制のもと、長期経営計画における基本戦略を着実に遂行してまいります。
社会課題解決に向けた貢献と当社グループの持続的成長を実現するため、従来型の素材提供型ビジネスからの転換を図り、「社会課題視点」、「ソリューション型ビジネスモデル」、「サーキュラーエコノミー型ビジネスモデル」、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を全社・全事業に展開するとともに、強靭な「経営基盤・事業基盤」を構築することにより、2030年度には次の経営目標(連結)の実現を目指してまいります。
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2025年度長期経営目標 |
2030年度長期経営目標 |
コア営業利益 |
2,000億円 |
2,500億円 |
親会社の所有者に 帰属する当期利益 |
1,100億円 |
1,400億円 |
ROIC |
8.0%以上 |
8.0%以上 |
Net D/E |
0.8以下 |
0.8以下 |
ROE |
10%以上 |
10%以上 |
Blue Value®売上比率 |
30%以上 |
40%以上 |
Rose Value®売上比率 |
30%以上 |
40%以上 |
GHG(温室効果ガス)排出削減 |
25.4%減 (2005年度比2030年度) |
40%減 (2013年度比) |
積極的な 経営資源の投入 |
成長投資 10年間で1兆円 うち戦略投資 4,000億円 |
成長投資 1.8兆円 うち戦略投資 9,000億円 自力成長投資 9,000億円 |
(注)Blue Value®とRose Value®とは、三井化学グループが事業活動を通じて環境・社会に貢献する製品・サービスの価値を独自の指標を用いて見える化し、その価値をステークホルダーと共有できるようにしたもの。環境への貢献価値、QOL向上への貢献価値を有する場合、Blue Value®製品、Rose Value®製品として認定しています。
さらに、当社グループは2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目指し、そのロードマップについても、①自社のGHG排出量削減、②製品提供を通じた社会への貢献(削減貢献量)、の両輪で必要な施策を鋭意実行に移してまいります。
また、当社は、長期経営計画に基づき毎年向こう3ヵ年の事業計画の見直しを行うというローリング方式を採用しています。社会環境の変化が急速かつ大きくなる中で、長期的な視野を持ちつつ、経営の環境適応性を高め、戦略推進を加速してまいります。
このような経営ビジョン及び経営計画のもと、2022年度において、当社は、次のように経営環境を認識し、重点課題に取り組んでまいります。
<経営環境>
2022年度の世界経済は、ワクチンの普及等により新型コロナウイルス感染症の影響が軽減され、経済活動の正常化とともに景気の持ち直しの動きが継続することが見込まれるものの、ウクライナ危機の影響が長期化する恐れがあります。
日本経済においても、世界的な景気の持ち直しの動きにより、製造業を中心とした回復基調が継続することが期待されるものの、ウクライナ危機に起因する原油価格の高騰や円安の進行が長期化する恐れがあります。また、新型コロナウイルスの流行状況によっては、活動制限が実施される恐れもあり、依然として不透明な状況が継続することが見込まれます。
化学工業界においても、景気の持ち直しの動きに伴う需要拡大が見込まれますが、原料や化学製品の市況の変動に留意すべき状況が継続することが見込まれます。
<重点課題>
①事業ポートフォリオ変革の追求
・2025年・2030年の目標達成を見据えた、財務規律を維持しながらの積極的な資源投入
・成長領域における事業領域の拡大・深耕による更なる成長実現
・ベーシック&グリーン・マテリアルズにおける事業再構築及びダウンフロー強化による高機能品拡大
・M&Aも含め、積極的な成長投資の実行、成長投資の確実な回収と投資案件の成功確率向上、継続的なコストダウン・拡販・交易条件の改善等による収益力強化
・Blue Value®・Rose Value®製品・サービスの創出・拡大の推進
②ソリューション型ビジネスモデルの構築
・研究開発力・アセットの最適な組合せとフル活用
・業態を限定しない積極的な提携・M&A
③サーキュラーエコノミーへの対応強化
・全社を挙げたサーキュラーエコノミー変革の推進
・2050カーボンニュートラル実現に向けた各部門における課題の抽出及び具体的な方策の設定
④DXを通じた企業変革
・DXを通じたビジネスモデル・業務プロセス・組織能力等の高度化の推進
⑤経営基盤・事業基盤の変革加速
・グループ全体の安全文化の醸成(「安全はすべてに優先する」の徹底)
・アセットライト・在庫管理の強化を始めとしたCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の改善等による適切な投下資本管理
・グループ全体の品質意識の底上げ及びサプライチェーン全体の品質リスク低減
・コンプライアンス違反の撲滅に向けた各種施策のグループ・グローバルレベルでの横断的な展開
・事業にかかる機会/リスクの両面を捉えたマネジメントの強化による更なる成長機会の獲得
・VISION 2030の実現に向けた新しい取り組みや果敢なチャレンジを通じた当社グループの持続的成長及び従業員のエンゲージメント向上
<不確実性リスク増大への対応>
2022年度は、新型コロナウイルス感染症再拡大や地政学リスク等による急速な世界経済の減速、需要後退及び資源価格暴騰等、これまでに増して不確実性リスクが増大することが予想されます。当社は、これらが事業に与える影響等について定常的にモニタリングを行い、必要に応じて速やかに対策等を検討し実行できる体制を構築しております。
このような情勢のもと、2022年度の当社グループの業績は、下表のとおりとなることを予想しております。
なお、新型コロナウイルスの流行については未だ再拡大の懸念が残るものの、2022年度においては製造業を中心とした景気の持ち直しの動きに伴う需要拡大が見込まれると共に、海外市況も堅調に推移すると見込んでおります。ただし、新型コロナウイルス感染症や地政学リスク等の影響を完全に見通すことは困難であるため、流行の状況によっては2022年度の業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。
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2022年度連結業績予想 |
2021年度連結業績 |
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売上収益 |
(億円) |
19,200 |
16,127 |
コア営業利益 |
(億円) |
1,400 |
1,618 |
営業利益 |
(億円) |
1,380 |
1,473 |
親会社の所有者に帰属する当期利益 |
(億円) |
1,000 |
1,100 |
※当社は2020年度より国際財務報告基準(IFRS)を適用しております。コア営業利益は、営業利益から非経常的な要因(事業撤退や縮小から生じる損失等)により発生した損益を除いて算出しております。
依然として、新型コロナウイルス感染症再拡大の懸念は残りますが、ポスト・コロナ社会における「新しい生活様式」の定着、需要構造、サプライチェーンの変化など、世の中のあり方が大きく変わって来ております。当社グループは引き続き、化学の総合力、既成概念に捉われない前向きな思考と実行力で、これらの変化に対応してまいります。
(2) 事業領域ごとの環境分析及び戦略
① モビリティ
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行拡大及び半導体等のサプライチェーンの混乱の影響で自動車生産台数は2020年度に引き続き低迷しました。また、世界的な環境保護意識の高まりや社会的責任への対応要請を背景に電動化を含む環境負荷低減の重要性が急激に高まっており、一層の軽量化やリサイクル材料・バイオ材料の活用などモビリティ分野の素材産業にも影響を及ぼし始めています。さらに、移動空間としてのクルマの使い方の変化なども相まって、快適性の向上や電装化といった多様化した新たなニーズも生み出されています。一方で足下では半導体の供給不足等も継続しており、これらは期待される自動車需要・生産の回復に対する潜在的なリスクとなり得ます。当社では、自動車を中心としたあらゆる種類の人・モノの移動手段を「モビリティ」と定義しています。このモビリティ領域において世界経済の回復と変容の過程を機会として捉えながら、多様化するニーズに対応したソリューションの提供と個々の事業の競争力強化を通じて持続的な成長を実現していきます。
(主要製品)
エラストマー、機能性コンパウンド、機能性ポリマー(ICT関連用途中心)、ポリプロピレン・コンパウンド、ソリューション事業等において、モビリティにおける軽量化、燃費向上、電動化、自動化等のためのソリューションを提供しています。
自動車のバンパーに用いられるポリプロピレン・コンパウンドは、世界シェア2位、アジアシェア1位を誇っています。独自の配合レシピや原料に遡り樹脂そのものを設計する技術を強みとして保有しており、顧客の高い評価を得ています。
(強み)
・幅広い材料ラインアップ
・高い技術力と品質
・顧客基盤
・技術サービス
・バリューチェーンを通じたトータルソリューション提案力
(基本戦略)
・多様化するニーズに対応したソリューションの提供
・個々の事業環境に応じた競争力の強化
・モビリティ分野における環境負荷低減への取り組みも織り込んだ事業成長の実現
②ヘルスケア
先進国の少子・高齢化や新興国の経済成長に加え、足下の新型コロナウイルス感染症への対策など、「健康」への関心が増大しています。顧客価値も多様化し、個々人の志向やニーズが高まり、また、ライフスタイルに応じたケアが求められるようになってきています。当社は、生活の質(QOL)向上に資する製品・サービスをケミカルイノベーションにより創出・提供し、当社グループの新たな成長基盤を確立していきます。
(主要製品)
ビジョンケア材料、不織布、歯科材料、パーソナルケア材料を事業展開しています。
低屈折率から高屈折率まで、幅広く展開しているメガネレンズ用材料は、当社グループにて、世界シェア45%を占めています。また、薄肉中空構造によりプラスチック使用量を削減した不織布(エアリファTM)は、環境対応ニーズを捉え市場の評価を得ています。
(強み)
ビジョンケア材料
・幅広い製品ラインアップ
不織布
・原料樹脂から加工まで一貫した技術力
歯科材料
・グローバルでのブランド力
・素材から歯科材料までの研究開発力
(基本戦略)
・成長需要の着実な獲得による既存事業の拡大
・QOL向上に資する新製品・新事業の開発加速
・M&A・提携による事業基盤の拡大・強化
(個別戦略)
ビジョンケア材料
・新製品の上市・育成によるさらなる事業拡大
不織布
・新製品・新事業の創出及び差別化の推進
歯科材料
・デジタル化を支援・推進する製品投入による事業拡大
③フード&パッケージング
人口の増加や気候変動など地球規模の深刻な課題に対し、農産物の安定生産・収量向上やフードロス・廃棄削減が求められています。加えて、プラスチック問題など循環型社会への対応が今や喫緊の課題となっています。当社グループは、顧客起点型イノベーションを通じて、農業・食品・パッケージングに関わる製品とサービスを提供し、会社・組織の枠を超えた情報・技術・顧客関係の最大活用により、当社グループの持続的な成長を牽引します。
(主要製品)
農業化学品、コーティング・機能材、機能性フィルム・シートを事業展開しています。半導体製造において、シリコンウェハ研削時の表面保護テープとして用いられるイクロステープ®は、世界シェア1位です。主要競合メーカーの中で唯一の樹脂製造・加工メーカーであり、樹脂設計・製膜加工技術に強みを有しています。
(強み)
・幅広い製品ラインアップ
・独自性の高い研究開発と生産技術
・アジアを中心とする海外展開
・迅速なレスポンスを通じて培ってきた顧客基盤
(基本戦略)
・高付加価値製品へのシフトによる事業ポートフォリオ強化
・海外成長市場の取り込みによる事業拡大
・社内外との連携を通じた新製品・新事業の創出と環境ニーズへの対応
(個別戦略)
農業化学品
・アジア、南米市場の成長取り込み
・農薬周辺領域(防疫分野)の強化
コーティング・機能材
・アジア市場の成長取り込み
・環境対応製品のグローバル展開
・高機能品の実需化加速
機能性フィルム・シート
・製品ポートフォリオ転換による事業基盤強化
・ICT分野におけるシェア維持・拡大
④基盤素材
基盤素材事業は、石化・基礎化学品を中心として、自動車、住宅、家電、インフラ、食品包装をはじめ、様々な分野に素材提供を行っており、各分野において安定・安価、高付加価値化製品の提供が求められています。地球規模で気候変動やプラスチックごみなどの環境問題が顕在化しており、省エネルギー、バイオ原料活用などによるGHGの排出抑制や、プラスチックごみの低減・再利用ニーズが高まっています。これらは、広く素材を提供し、生産技術・インフラを保有している三井化学グループこそが貢献すべき喫緊の課題であると認識しています。
(主要製品)
エチレン、プロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、触媒、フェノール類、高純度テレフタル酸、ペット樹脂、ポリウレタン材料、工業薬品等において、事業展開しています。
当社のナフサクラッカーにおいて、ナフサを熱分解してエチレン、プロピレン等の基礎原料を生産し、さらに付加価値を高めた様々な製品を生産しています。海外の専門機関から、当社のナフサクラッカーは、アジアの新規大型クラッカーと比較して遜色なく、高いエネルギー効率を有しているとの評価を得ており、これが基盤素材以外の高付加価値製品群も含めた誘導品における競争力の源泉となっております。
(強み)
・世界トップクラスの競争力を有するナフサクラッカー
・メタロセンをはじめとするポリオレフィン触媒技術
・特長ある差別化製品や誘導品
・高機能ポリオールをベースとしたウレタンシステムハウス事業のグローバル展開
(基本戦略)
・当社グループの基盤となる事業の強化、収益の維持拡大
・特長ある付加価値誘導品の拡大、ニッチ製品の拡大と利益率向上
・事業再構築の完遂と更なるコスト競争力強化、ボラティリティ低減
・プラスチック循環、バイオ原料活用等の社会課題への積極的な対応
(個別戦略)
石化原料・ライセンス
・クラッカー競争力のさらなる強化と触媒・ライセンス事業拡大
・生産バランス、物流を含めたさらなる石化事業深化
基礎化学品
・徹底的な合理化・地産地消・誘導品の強化による安定収益の確保
・AI・IoT等の高度生産技術の積極的な活用
ポリオレフィン
・ポリオレフィン触媒技術を活用した付加価値分野の拡大
・国内顧客との長期的信頼関係の構築
・モビリティ事業領域との連携強化
ポリウレタン
・高機能材料を活用した高度な配合設計技術によるグローバル展開
・バイオマスウレタンなど環境対応製品の拡充
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