課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営方針

 当社グループは、「AIを用いた社会課題解決を通じて、幸せな社会を実現する」をミッションに掲げ、超高齢社会に代表されるような社会課題に対し、高いAI技術力・ビジネス適用力を活かし、その課題を解決することを目指しております。

 

 社会課題の解決にあたっては、AIプラットフォーム事業を通じて、様々な業界の顧客企業と協働・提携することで、多様な産業・社会課題を発見し、その革新を実現し続けることを目指して事業を推進しております。こうして各業界・様々な顧客との産業課題・社会課題解決を推進して得られた知見をもとに、AIを用いたプロダクトの開発・提供を行うことで、AIプロダクト事業において継続的に革新的なサービスを創出し、より広範な社会の課題を解決することを目指しております。

 

(2)経営環境及び事業対象市場

 2000年以降のインターネットの普及によるビッグデータの蓄積と、2012年頃から本格化した深層学習技術に代表されるアルゴリズムの発展により、AIサービスは徐々に幅広い産業で実証実験を中心に利用され、近年では実装段階に至るまで発展を遂げてまいりました。

 

<AIプラットフォーム事業>

 当社グループでは、AIプラットフォーム事業においては、国内におけるAIソフトウエア・サービス市場の規模が15.4億ドル(2020年)から38.6億ドル(2024年)に年平均で25.8%成長(注1)し、関連して国内におけるDX(デジタル)投資費用が500億ドル(2020年)から979億ドル(2024年)に年間平均成長率(CAGR)18.3%で成長(注2)すると見込まれる中、特に成長性が著しいAIソフトウエア・サービス市場におけるビジネスを拡大することにより、DX市場に優位性をもってリーチすることが可能になると捉えております。

 

 より広義の視点では、国内におけるIT投資額が987億ドル(2020年)から1,183億ドル(2024年)に年平均4.6%で成長(注3)をすると見込まれる中、企業顧客のDXを通じた戦略的なIT支出を取り込むことにより、広大な市場にアクセスが可能であると考えております。

 

(注)

1.IDCが「Worldwide Artificial Intelligence Spending Guide」(2021年8月)で定めるSoftware及びServices分野を当社にて合算

2.IDCが「Worldwide Digital Transformation Spending Guide」(2021年V2)で定めるSoftware及びServices分野のDX関連費用を当社にて合算

3.IDC Japanが「国内クラウド市場予測、2021年~2025年」(2021年6月)で定めるクラウド市場の売上高より1ドル109円にて当社計算

 

 また、当社グループが独自にコア・フォーカス領域と位置付けている企業顧客数(時価総額上位1,000社)と、それら企業顧客の戦略的なIT投資金額(約40億円、注4)から、当社は約4兆円をAIプラットフォーム事業の初期的な市場規模(TAM、注5)と想定しております

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(出所)

*開示資料、**一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS) 企業IT動向調査報告書 ~ユーザー企業のIT投資・活用の最新動向(2021年度調査)(2022年3月)

(注)

4.*2022年6月現在の日本の時価総額上位1,000社の平均直近年度売上高(約7,460億円)×**JUASによる日本企業のIT予算収益の割合(1.9%)×「戦略的IT投資」が日本のIT支出合計に占める割合(30.0%)(当社推定)

5.TAMはTotal Addressable Marketを表し、あるサービス・プロダクトにおいてさまざまな条件が満たされたときに実現する最大の市場規模を意味しています。このため当社が掲載するTAMの数値は当社が本書提出日現在で営む事業に係る客観的な市場規模を示すものではありません。当社グループの提供する各種サービス・プロダクトのTAMは、外部の統計資料や公表資料を基礎として、当社社内の事業進捗や知見に基づく一定の前提を用いて当社が推計した金額であるため、高い不確実性を伴うものであり、今後実際に実現する市場規模は大きく変動する可能性があります。

 

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 従来は国内企業が戦略的なIT投資に投じる金額はIT支出予算の30%相当額と見られておりましたが、今後はその約2.4倍である60%の水準まで上昇(注6)することが見込まれており、斯様な環境下、当社グループの事業機会はさらに増大していくものと考えております。

(注)

6.IDC Japanが「国内クラウド市場予測、2021年~2025年」(2021年6月)で定めるクラウド及び従来型IT分野の支出規模を当社にて合算したものを「日本企業のIT支出」、クラウド分野の合計支出を「戦略的IT投資」、従来型ITの支出を「伝統的IT支出」と当社にて定義

 

 

 

<AIプロダクト事業>

 当社グループでは、事業の対象とする社会課題をひとつに特定せず、一例として下記に挙げられるような、超高齢化社会、社会保障費の増大、出生率の低下、労働力の需給ギャップ、先進国に劣後するデジタル競争力(注7)をはじめ、様々な社会課題の解決をAIプロダクトの利活用を通じて図ってまいりたいと考えております。

 

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(注)

7.スライドの数値・グラフの出所は以下
①European Parliament Think Tank 「Japans ageing society」(2020年12月15日)
②実績値は国立社会保障・人口問題研究所「令和元年度 社会保障費用統計」(2021年8月31日公表)、予測値は内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」(計画ベース・経済ベースラインケース)(2018年5月)を基に当社作成
③厚生労働省 「令和2年版 厚生労働白書 令和時代の社会保障と働き方を考える」(2020年10月23日)
④パーソル総合研究所 「労働市場の未来推計 2030」(2020年12月25日)
⑤IMD 「WORLD DIGITAL COMPETITIVENESS RANKING 2021」(2021年)Copyright © 1995-2021, IMD International, Switzerland, World Competitiveness Center, www.imd.org/centers/world-competitiveness-center/

 

 当社グループは対象市場の一つとして、知的・単純労働の効率化、高度化の領域を掲げています。将来的な労働人口の減少を補うべく、これまで人が担ってきた業務の一部をAI・ソフトウエアで補完することで生産性を維持、向上すること、また業務を高付加価値なものにすることを視野に入れております。斯様な観点では、これから10年間では500万人(25兆円相当、注8)20年間で1,400万人(70兆円相当、注9)の労働力不足が見込まれます。当社グループでは、足元10年間の労働力の10%をAIの利活用を通じて補うことで、2.5兆円(注10)の市場規模(TAM)が生まれるものと考えております。

 

 また当社グループでは、AI・ソフトウエアの利活用を通じて社会課題解決を図るうえで、既に厳しい人手不足が生じている介護現場や、育児現場における業務従事者の負担を軽減しながらも、同時に被介護・被扶養者や、その家族・関係者の人間的な幸福・満足度を高めていくことを中長期的に達成したいと考えております。また日本の社会保障費に占める介護費用が約10.2兆円(注11)、うち介護従事者の給与が7.2兆円(注12)であり、現状及び将来における財政面の大きな課題であるとも認識しております。斯様な市場環境下において、国内の介護施設や保育園数に対して、当社グループの介護関連サービスの1施設あたり平均年間売上高を適用することで、約270億円(注13)の市場規模(TAM)が生まれるものと考えております。将来的には、本市場へのAI利活用において培われるデータの利活用を通じて、より幅広い用途における当社のサービス提供の拡充が可能となり、介護や育児の現場における社会課題解決に多面的に貢献できるものと考えております。

 

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(注)

8.国立社会保障・人口問題研究所の2020年~2030年の予想(約5百万人の労働力減少)及び国税庁民間給与実態統計調査(2019年)による労働者の平均給与(5.03百万円)を掛け合わせ当社にて推計

9.国立社会保障・人口問題研究所の2020年~2040年の予想(約1,400万人の労働力減少)及び国税庁民間給与実態統計調査(2019年)による労働者の平均給与(5.03百万円)を掛け合わせ当社にて推計

10.当社DX AIプロダクトにより10%稼働率が上昇する想定

11.厚生労働省「令和元年度介護保険事業状況報告」(2021年8月)に基づく介護を必要とする日本人の支出総額

12.厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」(2020年10月)による国内の介護職員数及び「厚生労働省令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」(2021年10月)による国内の介護職員の平均年収を掛け合わせ当社にて推計

13.厚生労働省「令和元年度社会福祉施設等調査」(2020年10月)及び2021年9月時点での当社グループ介護関連サービスの平均単価の合計を掛け合わせ当社にて推計

 

(3)経営戦略等

 当社グループでは、上記の経営環境への認識をふまえ、大企業との提携や協働を通じて企業のDXやAI導入を推進するとともに、そこで得られた技術や知見をもとに、自社でAIを用いたサービスを開発、広く提供することで、社会課題を解決することを基本的な戦略としております。

 

① 顧客企業内における契約単価の上昇

 当社グループでは、様々な業界の企業顧客に対するAIプラットフォームの導入を実施しております。そのサービスを提供するうえで、導入効果として顧客の事業に財務上の良好なインパクトが発現することに伴い、成果報酬が生じることや、契約単価の上昇を目指します。また当初は顧客内における限定的な業務領域での関与だったものが、より幅広い領域へと関与・サービス提供を拡大することにより、当社グループの契約単価の上昇を目指します。2022年3月期は117社(「exaBase コミュニティ」加入・継続を通じて収益計上された顧客企業数を除く)の企業顧客から報酬が生じており、上位10顧客からの平均売上高は221百万円の水準となりました。

 

② 顧客企業との契約の長期化

 当社グループでは、様々な業界の企業顧客に対するAIプラットフォームの導入を実施しております。初期的には課題の特定、概念検証を行い、それらの結果を踏まえて中長期的にはAIモデルの実装や運用へと領域を拡充いたします。従いまして、その成果に応じて、顧客企業との契約期間が長期化することが見込まれております。現在、当社グループでは4四半期以上の継続契約企業顧客からの売上を長期継続顧客売上と定義づけており、2022年3月期は65.6%の水準であり、今後もこの比率の上昇に努めてまいります。

 

③ 顧客企業数の増大

 当社グループにおける2019年3月期の企業顧客数は54社でしたが、2022年3月期においては117社に対してAIプラットフォームの導入を手掛けております。今後も既存顧客企業との契約長期化に伴う良好な関係維持を重視しつつ、一方で「exaBase コミュニティ」や「JEDIN」などの当社ネットワークコミュニティを通じた見込み顧客獲得や、より多くの顧客企業に対するサービスの提供を手掛けてまいりたいと考えております。2022年3月末時点において、「exaBase コミュニティ」は合計で310社以上(国内の時価総額上位10社のうち60%、同100社のうち60%、同1,000社のうち15%(注14))、「JEDIN」には企業経営幹部を中心に80名以上が登録しており、今後も顧客企業の拡大に務めてまいります。

 

(注)

14.「exaBase コミュニティ」会員企業のうち、上場企業(上場企業を親会社とする連結子会社についてはその親会社を含む)を抽出し比率を算定

 

④ PaaS型課金の増大

 当社グループでは、「exaBase」の提供を通じて様々な課金体系で企業顧客に対するサービスを提供しております。AIモデルの提供にあたっては、顧客のアルゴリズムの導入形態や稼働状況に応じてPaaS型の課金手法に基づいた一定の継続課金をさせて頂くことがあります。今後も「exaBase」のユースケースや機能拡充を進めることで、幅広い産業・業務への汎用性を備え、効率的かつ的確に顧客課題にソリューションを提供するAIプラットフォームへと進化することで、PaaS型課金の件数、金額ともに増加させてまいりたいと考えております。

 

⑤ 開発したアルゴリズムソリューションの他社への水平展開

 当社グループでは、それぞれの産業におけるコア課題に対して、AIの利活用を通じた一定の解決策を提供し、顧客に良好な財務インパクトとして導入成果が発現するように実装・運用することを目指しております。それら運用・実装の経験を通じて培った独自のノウハウや、当社グループ独自のユニークな技術・知的財産を元に、同業界内又は他業界内において類似したサービスやソリューションの提供を行うことで、営業の効率化や、更なる高付加価値の実現を目指しております。

 

⑥ 顧客企業に対するAIプラットフォーム及びAIプロダクト間のクロスセル

 当社グループでは、AIプラットフォームと、AIプロダクトの双方の事業を展開しております。個別の事業課題に向けてAIプラットフォームの利活用を行った企業顧客が、より一般的な業務の効率化にはAIプロダクトを活用することや、またその逆の事例も出現しております。中でもAIプロダクト事業に属する「exaBase DXアセスメント&ラーニング」は約400社の導入企業数(2022年3月末時点)となっており、アセスメント受検後の人材育成や事業変革・DX推進に向けて、当社グループのAIプラットフォーム事業のサービスを紹介・提供する入り口としても機能しています。顧客企業に当社グループの価値を最大限に提供するために、今後もこのような施策の実現を目指しております。

 

⑦ 「exaBase」の更なる補完機能の拡充

 当社グループでは、「exaBase」が有する機能の拡充を早期に図ってまいりたいと考えております。従いまして、自社内での開発に向けての人員採用、技術・顧客基盤の強化、補完機能の拡充は当然ながら、適切なパートナーとの連携や業務提携、出資・買収を含めた様々な可能性についても探索しつつ、収益性や財務健全性及び当社グループの経営ポリシーに鑑みて案件を精査しております。

 

⑧ 継続的な新規AIプロダクトを創出する仕組み

 当社グループでは、顧客企業へのAI導入を通じて、多様なユースケースでのAI導入実績を有しております。これらを通じて、業務・業界ごとのAIの導入余地やその導入によるインパクト、AIアルゴリズムの汎用化可能性などを判断でき、より広範に多企業に対して提供可能なAIアルゴリズムについては自社で作り込んでソフトウエア化し、AIプロダクトとして広範な顧客へ提供しております。このプロセスによりAIプラットフォーム事業の推進と同時に需要の高いプロダクトの市場調査を並行して実施できるため、当社グループは限られた研究開発コストで企業のニーズに即した新たなAIプロダクトを継続的に創出することが可能になると考えております。現状では特にDX AIプロダクト関連を中心に着実に事業規模が拡大していますが、今後も強みを生かした新規プロダクトの探索を進めます。

 

⑨ 財務上の課題について

 現時点で当社グループは財務上の課題を認識してはいませんが、AIプロダクト事業への先行投資により、2022年3月期まで連続して親会社株主に帰属する当期純損失を計上しております。一方で、AIプラットフォーム事業については黒字を計上、かつ大きく売上も伸長しており、同事業を中心として着実に収益力を高めております。経営戦略上も、今後のAIプラットフォーム事業の売上高が継続的に成長するとともに黒字の継続及び拡大並びに収益性が改善すること、及びAIプロダクト事業へと積極的な投資を行うことを前提としております。今後財務基盤の安定性を強化する上では、営業活動によるキャッシュ・フローの水準を注視することは重要と考えています。

 

 

(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当社グループは、より高い成長性及び収益性を確保する観点から、連結売上高成長率及び連結売上総利益率を重要な経営指標と捉えております。

 

(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

① 開発体制の強化

 安定的かつ着実な事業拡大を図るにあたっては、顧客企業数・案件数が増加した場合でも、収益率を高水準に維持し、かつ高いレベルのサービスを顧客企業へ提供していくことが重要であると考えております。そのためにも「exaBase」の開発投資を中心に、引き続き卓越した能力を持つエンジニアを採用するほか、開発プロセスの改善、社内におけるノウハウの共有や教育等に努めてまいります。

 

② 更なる新規プロダクトの創出と拡大

 当社グループの戦略は、AIプラットフォーム事業により顧客企業へのAI導入を通じて蓄積した知見をもとに、広範に提供可能なAIプロダクトを開発・提供していくことにあります。今後も継続的に新たなAIプロダクトを創出し、より多くの顧客へ提供していくことが必要と考えております。

 

③ 内部管理体制の強化

 当社グループは一層の事業拡大を見込む成長段階にあり、事業の拡大・成長に応じた内部管理体制の強化が重要な課題であると認識しております。経営の公正性・透明性を確保すべく、コーポレート・ガバナンスを強化し、適切な内部統制システムの構築を図ってまいります。

 

④ 情報管理体制の強化

 当社グループはサービス提供やシステム運用の遂行過程において、機密情報や個人情報を取り扱う可能性があり、その情報管理を強化していくことが重要であると考えております。現在、情報管理規程等に基づき管理を徹底しておりますが、今後も社内教育・研修実施やシステム整備などを継続して行ってまいります。

 

⑤ グループ経営体制の確立

 当社グループは近年の事業成長及び事業領域の拡大とともに、事業子会社の設立、協業先との合弁会社の設立、競争力強化を目的とした企業買収等を行ってきたことでグループ会社数が増加しております。当社グループはこれに対応して、グループガバナンスの強化と経営資源配置の最適化を実現するグループ経営方針の設定、及びその持続的な遂行を担保する体制の確立を進めてまいります。

 

⑥ SDGsの取り組み

 当社グループは「AIを用いた社会課題解決を通じて、幸せな社会を実現する」とのミッションを掲げ事業推進しており、こうした社会課題解決が、結果としてSDGs(持続可能な開発目標)に掲げられる各目標達成に繋がっていくと認識しております。現状においては「3.すべての人に健康と福祉を」、「8.働きがいも経済成長も」、「9.産業と技術革新の基盤を作ろう」等が当社グループの事業展開と密接に同期しております。今後も、これらのテーマにおけるより大きな社会的インパクトの創出に努めるほか、事業拡大を図る中で、多種多様な産業へと顧客層を拡大すると同時により広範な社会課題の解決を志向し、その他のSDGsの目標達成にも繋がるよう、具体的なアクションや成果を生み出すことを目指してまいります。

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