文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループは、世界有数の製薬企業であるロシュとの戦略的アライアンスのもと、「革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献する」ことをMission(存在意義)とし、「患者中心の高度で持続可能な医療を実現する、ヘルスケア産業のトップイノベーター」となることをEnvisioned Future(目指す姿)に掲げ、社会とともに発展することを経営の基本方針としています。
その実践にあたっては、当社グループのCore Values(価値観)である、「患者中心」、「フロンティア精神」、「誠実」に沿った事業活動を行っています。
この基本方針のもと、革新的な創薬を柱とするイノベーションに集中し、一人ひとりの患者さんにとって最適な医療の提供による社会課題の解決を目指すとともに、持続的な企業価値拡大を図ります。
このように、社会と自社が共に発展するための共有価値を創造する上で、重点的に取り組むべき事項を重要課題(マテリアリティ)として策定しています。Envisioned Future(目指す姿)でも掲げる「持続可能な医療」を始め、ESGやSDGsに代表される社会課題に積極的に取り組んでまいります。こうした活動は、社会全体の持続性向上に寄与するとともに、当社グループの長期的な発展を支える基盤になると確信しています。
当社グループはイノベーションの創出による企業価値の向上を重視し、革新的な新薬の創出に優先的に経営資源の配分を行っています。長期にわたる投資効率の指標としてCore ROICを重点的に管理するとともに、短中期的にも安定的な利益成長を達成できるよう、機動的で柔軟な事業運営に努めています。そして、個別の開発テーマ等の投資判断におきましては、資本コストを踏まえた投資価値評価を行い、収益性と効率性を重視した意思決定を行っています。
このような方針のもと、近年では、当社の収益構造が大きく変貌を遂げ、収益面ではイノベーティブな自社開発品がもたらす割合が大きくなりました。そして、その収益の源泉は世界各国の市場へと広がり、これまで以上に海外市場の動向に収益が影響を受けるようになりました。また、外部環境においては、ヘルスケア産業におけるデジタル化、創薬技術の進化、医療財源の問題、企業結合や提携の活発化など競争環境が大きく変化しています。
このような変化の激しい事業環境を背景に、2030年に向けた成長戦略「TOP I 2030」(後述)を策定し、「R&Dアウトプット倍増」「自社グローバル品毎年上市」という目標を掲げました。同時に、中期(3年)計画を廃止し、長期目標からバックキャストして現状とのギャップを埋めるための中間地点(3~5年後)の目標を中期マイルストンとして設定・管理することといたしました。これにより、計画の進捗や環境変化に応じてアジャイルかつ柔軟に軌道修正を図りながら、長期的な目標達成を目指しています。これまでどおり経営戦略や研究開発パイプラインの見通しの説明を通じて事業活動の進捗の状況を開示し、その達成に道筋を示していくことには変わりはなく、引き続き、年間業績予想の公表や各説明会等の場で経営状況を説明し、当社の掲げる経営戦略の進捗を適時報告してまいります。
世界人口の増加と各国における高齢化進展、そして2020年から続く新型コロナウイルス感染症の世界的流行などによって、医薬品への期待・ニーズが一層高まっています。同時に、各国において医療費等の社会保障費増加により財政が逼迫し、薬剤費を含む医療費の抑制政策はますます厳しくなり、持続可能な医療の実現が世界共通の課題となっています。限られた資源のもとで高度かつ持続可能な医療を実現するため、「真に価値あるソリューションだけが選ばれる」VBHC(Value Based Healthcare)の流れはますます加速しています。
そして、ライフサイエンスやデジタル技術の飛躍的な進歩によって、医療課題解決に向けたイノベーション創出機会が拡大する中、デジタルをはじめとする多様なプレーヤーがヘルスケア領域に参入しています。その結果、既存業界の枠を超えた競争もこれまで以上に熾烈化してきています。
そのような中、革新的な医薬品の提供を使命とする私たちの最重要課題は、やはり「イノベーションの追求」だと考えています。患者さん一人ひとりにとって最適な医療の実現に向けて、新たな治療ターゲットの探索や創薬技術のさらなる革新により、アンメット・メディカルニーズに応える新薬の創出が求められます。さらに、ビッグデータやAIなどのデジタル技術の進化を柔軟に取り入れ、従来の創薬力にとどまらない能力を獲得・強化することが競争優位性を確保する鍵となります。また、グローバル規模での財政圧力の増加によって製薬企業の経営環境が厳しさを増す中、限られた資源をイノベーションに集中投資できる体制への変革が一層求められています。
当社グループは、革新的な新薬の創出とロシュとの戦略的アライアンスを基盤として、国内トップクラスの成長を実現してまいりました。ロシュの充実した新薬パイプラインによる安定した収益基盤を確保しながら、後期開発や販売ではロシュのグローバル・プラットフォームを活用し、高い生産性を実現することで、自社創薬に資源を集中し、革新的な研究開発プロジェクトを連続的に創出しています。その結果、これまで6つの当社創製医薬品(アクテムラ、アレセンサ、ヘムライブラ、エンスプリング、ネモリズマブなど)が米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)から「画期的治療薬(Breakthrough Therapy)*」に指定されるなど、当社グループの創薬力は世界的に高い評価を受けています。
今後、これらの成長ドライバーをグローバル市場で確実に価値最大化すること、そして後続の革新的新薬をいち早く創出し、高い患者価値を証明しつつ迅速な開発を成し遂げることで、今後も持続的な利益成長を目指してまいります。また、新型コロナウイルス感染症に対する診断・予防・治療の必要性が高まる中、アクテムラやロナプリーブの安定供給を始め、引き続き革新的な治療薬の開発・提供に取り組んでまいります。
上述の持続可能な医療の実現における課題に加え、近年、世界的な課題として地球環境変動や経済格差の拡大など社会システムの持続性への危機が高まっています。当社としてもこれらの社会課題をマテリアリティの一つと定め、その解決に向けて継続して取り組んでまいります。
* 画期的治療薬(Breakthrough Therapy):重篤または致命的な疾患や症状に対し、既存治療を上回る改善が期待される治療薬候補
当社グループは、ミッションステートメントに掲げたEnvisioned Future(目指す姿)の実現を目指し、2030年に到達すべきトップイノベーター像を具現化するとともに、その実現に向けた成長戦略「TOP I 2030」を策定し、2021年から展開しています。
2030年トップイノベーター像
1)「世界の患者さんが期待する」
世界最高水準の創薬力を有し、世界中の患者さんが「中外なら必ず新たな治療法を生み出してくれる」と期待する会社
2)「世界の人財とプレーヤーを惹きつける」
世界中の情熱ある人財を惹きつけ、ヘルスケアにかかわる世界中のプレーヤーが「中外と組めば新しい何かを生み出せる」と想起する会社
3)「世界のロールモデル」
事業活動を通じたESGの取組みが評価され、社会課題解決をリードする企業として世界のロールモデルである会社
「TOP I 2030」の二つの柱は、「世界最高水準の創薬の実現」と「先進的事業モデルの構築」です。
独自のサイエンスと技術を駆使して数々の革新的新薬を生み出してきた当社は、今後10年間でさらに創薬力を大きく向上させ、世界のアンメット・メディカルニーズに応えるソリューションを継続的に世に送り出せる体制構築・強化を目指します。具体的には、現在のR&Dアウトプットを10年間で2倍に拡大し、革新的な自社開発グローバル品を毎年上市できる会社を目指します。
そして、環境変化や技術進化を踏まえた先進的事業モデルの構築にも取り組んでまいります。特にデジタルを活用したプロセスや価値創出モデルの抜本的な再構築によって、バリューチェーン全体にわたる生産性の飛躍的向上と、一人ひとりの患者さんにとっての価値・製品価値の拡大を目指してまいります。
具体的な取組みとして、バリューチェーンに沿った「5つの改革」、すなわち「創薬改革」「開発改革」「製薬改革」「Value Delivery改革」及び「成長基盤改革」を掲げています。
①創薬改革
「TOP I 2030」では、たんぱく質エンジニアリング技術をはじめ、これまで積み上げてきた自社創薬の強みをベースにしながら、独創的な創薬アイデアを具現化する創薬技術基盤の一層の強化を目指します。そして、最大の価値創出源である創薬及び早期開発に全社資源を集中し、十分な投資によって成果を創出してまいります。特に、当社グループの今後の中長期的な成長の牽引を期待する中分子医薬では、早期の実用化に向けた技術開発・臨床プロジェクトに資源を優先的に投入します。また、AIを含むデジタル技術の効果的な活用と積極的な外部連携を通じて、創薬技術の多様化、スピードの加速を図ります。
②開発改革
画期的なプロジェクトをより速く、より多くの患者さんに届けるため、数理モデルやデジタル技術を最大限活用した業界トップクラスの臨床開発モデルを構築します。生体反応を精緻に理解し、自社に蓄積されたあらゆる疾患・治療データやリアルワールドデータ(RWD)を徹底活用することで、用法用量・有効性・安全性の予測性を高めるとともに、デジタル・バイオマーカーやデジタル・デバイスで、患者さんのQOLを早期に実証していきます。また、後期臨床開発の業務効率化とRWD等を活用した試験規模の縮小や期間短縮など、オペレーション・モデルの抜本的な改革にも取り組みます。
③製薬改革
R&Dアウトプットの大幅な拡充を目指す一方で、革新的創薬を確実に製品化する世界水準の製薬技術の追求も重要な課題となります。創薬・早期開発~製薬の機能間の連携を一層強化し、最先端技術を駆使して中分子などの高難度の薬物に対応した製薬技術開発を進めてまいります。引き続きコア技術として進化が期待される抗体医薬についても、さらなる技術開発の推進と開発スピードの向上に努めます。
一方で、デジタル・ロボティクスの活用により生産性を飛躍的に向上させる次世代工場の構築や、内製・外製の最適化などによって、世界水準でのコスト競争力と原価の低減を追求します。
④Value Delivery改革
デジタルツールの発達や、新型コロナウイルス感染拡大の影響を背景に、製薬企業の顧客タッチポイントのあり方も大きく変容しました。そのような変化も踏まえながら、医療従事者や患者さんが求める情報を、高い専門性を担保しながら的確かつ迅速に届けるため、革新的な顧客エンゲージメントモデルの構築を目指します。具体的には、リアル(対面)・リモート・デジタルの最適活用と、営業・安全性・メディカルの各専門機能の適切な連携によって、顧客に対して価値ある情報を、迅速かつ最適な形で提供できる体制を強化します。
製品ポートフォリオの変化に伴い、成長領域や新規領域へ集中したリソース投入を行うなど、資源シフトも進めてまいります。
また、創薬や開発を通じて蓄積された各種データベースや、リアルワールドデータを統合的に解析・活用することで、個別化医療を促進するエビデンス創出を高度化し、患者さんごとに有効性・安全性を的確に予測するバイオマーカーの開発も加速します。
⑤成長基盤改革
各バリューチェーンにおける改革と並行して、イノベーションの創出と成長戦略の実現を支える全社基盤の強化として、特に下記5つのテーマを重点分野として掲げて取り組んでまいります。
「人・組織」:2020年より開始した人事制度の運用を通じて、ポジションマネジメントとタレントマネジメントの高度化による適所適財の推進、果敢なチャレンジを推奨する組織風土の強化、データサイエンティストをはじめとするデジタル人財やサイエンス人財など戦略遂行上の要となる高度専門人財の獲得・育成・充足に注力するとともに、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の推進によりイノベーション文化の醸成を図ります。
「デジタル」:「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」のもと、デジタル技術を活用した革新的な新薬創出に注力するとともに、すべてのバリューチェーンにおけるDXを推進し、効率化を図ります。その実現に向けてソフト・ハード両面のデジタル基盤の構築とロシュ・グループとの連携を通じた社内の各種データの統合や解析基盤構築によるグローバル水準のIT基盤の確立を行います。
「環境」:マテリアリティとして特定した気候変動対策、循環型資源利用、生物多様性保全の3つの課題について、「中期環境目標2030」を設定し、その達成に向けた先進的な取り組みを通して、持続可能な地球環境を実現します。特に気候変動対策については、2050年にCO2排出量ゼロを目指し、長期的に取り組んでまいります。
「クオリティ」:これまで取り組んできた製品品質の確保に加えて、薬事対応やビジネスプロセス全体にわたるクオリティ・マネジメントの高度化に努めています。さらに、多様な技術進化や新モダリティへの挑戦に伴う規制への対応、デジタル・コンプライアンスの強化、外部との協業拡大を見据えた品質保証体制の整備など、変化するビジネスプロセスに適した質と効率を両立するクオリティ・マネジメント手法の整備・運用を強化します。
「インサイトビジネス」:ロシュ・グループ各社とも協働しながら、創薬、開発、製薬、Value Deliveryの各段階で得られるデータやリアルワールドデータを含む外部データを集積し、高度な解析を加えることにより、自社の創薬・開発や医薬品の価値最大化に資するさまざまなインサイトを抽出し活用する取り組みを推進します。
世の中には、未だ治療法が存在しない、或いは治療満足度が低いアンメット・メディカルニーズが数多く存在し、世界中の患者さんが有効な治療の登場を待ち望んでいます。これらアンメット・メディカルニーズを一つひとつ解決することこそが社会のニーズであり、私たち中外製薬グループの使命であり、そして企業としての成長機会でもあります。ミッションステートメントに掲げた「ヘルスケア産業のトップイノベーター」を目指し、成長戦略「TOP I 2030」で策定した5つの改革を着実に実行することで、引き続き当社グループはイノベーションによる社会の発展と自社の成長を追求してまいります。
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