文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
当社グループは、2019年4月1日、「企業理念」、「コアバリューズ」、「テルモグループ行動規範」からなる新たな企業理念体系を制定しました。全社員がこの企業理念体系に基づいた事業活動を行うことで、患者さんや医療従事者をはじめ、広く社会にとって価値ある企業を目指します。
企業理念:「医療を通じて社会に貢献する」
創立時から持ち続け、未来にわたって希求する、企業の不変の目標、社会的使命です。
コアバリューズ:「Respect(尊重)-他者の尊重」、「Integrity(誠実)-企業理念を胸に」、「Care(ケア)-患者さんへの想い」、「Quality(品質)-優れた仕事へのこだわり」、「Creativity(創造力)-イノベーションの追求」
企業理念実現のための活動において、アソシエイト(社員)が行動の基礎とする共通の価値観、信念です。
テルモグループ行動規範
アソシエイトが高い倫理観をもって正しく行動するために守るべき行動原則です。
医療は大きな変化の途中にあります。世界的な高齢化と生活水準向上の帰結として、糖尿病などの慢性疾患が増えるなど「疾病構造」の変化が起きています。このような慢性疾患の増加は、長期の時間軸での患者管理など、「医療の時間軸」に変化を与えています。また、バイオ医薬や細胞・遺伝子治療、再生医療へのシフトと、デジタル・AI技術の発展は「医療を支える技術」に変化をもたらしています。これらの変化はいずれも、テルモが真剣に取り組むべき課題であり、その課題解決に向けて、GS26を策定しました。
新5カ年成長戦略「GS26」
1)中長期を見据えたビジョン
テルモはGS26を、次の10年超を見据えた5カ年成長戦略とし、そのビジョンを「デバイスからソリューションへ」と掲げました。具体的には、この中で3つの“D”に取り組みます。
1つ目はDeliveryです。心臓血管カンパニーの成長ドライバーである「ラジアル・アプローチ(TRI)」を支えるカテーテルなど、強みである生体内へのアクセス・デリバリーという機能とそれを支える技術を指します。今後の新しいソリューション開発においても、これらの技術は最大の武器です。
2つ目はDigitalです。データを活用した効率改善や、診断・治療の最適化に活用するデジタル技術など、医療機器の分野においても不可欠なものになってきました。糖尿病の患者さんに提供するアプリ開発など、「デジタルペーシェントジャーニー」のソリューションが、具体的な例です。
最後にDeviceuticalsです。これは、テルモが目指す、Device(機器)とPharmaceuticals(薬剤)の融合を表した造語です。テルモの機器が、薬剤の利用や製造に、付加価値を提供することを目指します。血液・細胞テクノロジーカンパニーが新たに参入した原料血漿の分野も、この一例です。
2)カンパニー別成長戦略
<心臓血管カンパニー>
5カ年成長戦略のビジョンとして、「患者さんに寄り添い、変わりゆく治療の未来を共に創造する」ことを掲げます。これを実現するための戦略として、以下の3つを実行します。
①新製品ローンチを通じた治療事業の拡大
脳血管・大動脈・下肢動脈の疾患や、がんの治療セグメントに向けた新製品を発売することでパイプラインを 拡充し、大きな市場で高い成長を実現していきます。同時に、デジタル技術を用いた個別化医療へのソリューション提供を進めます。
②疾病横断でのラジアル手技の普及
これまでは心臓血管を中心に実施されてきたラジアル手技(患者さんの負担がより少ない手首の血管からのカテーテル治療)を、下肢血管・腹部血管・脳血管など、全身の血管に拡げていきます。並行して、蓄積した治療成績のビッグデータに基づき、ラジアル手技のメリットを明確にすることで、個々の患者さんにとって最適な治療方針をドクターに提案していきます。
③成長を支えるオペレーションの進化
心臓血管カンパニーの全事業にわたって、グローバルで最適地生産を進めていくことで、需要の拡大に備えた増産体制を構築すると同時に、コストダウンを図ります。また、DXによる生産の効率化も進めていきます。これらによって、高付加価値製品へのシフトにとどまらない収益性の改善を実現します。
<メディカルケアソリューションズカンパニー>
5カ年成長戦略のビジョンとして、「独自の技術を融合した患者本位のソリューションを通して医療の質向上と変革に貢献する」ことを掲げます。この実現に向けて、以下の4つの戦略を実行します。
①ホスピタルケアソリューション
院内における医療機器とデータの管理や、医療安全、さらには病院経営の効率化などの価値を提供します。例えば、薬剤の投与情報を院内の部門システムとつなげることにより、記録やバイタルの管理、誤投与の防止に貢献します。また、感染対策のソリューションについては、単なる製品の販売にとどまらず、現場での使用状況を解析し、さらなる改善に向けた提案をしていきます。
②ライフケアソリューション
慢性疾患の患者さんへの個別化医療を支えるデータや、モニタリングの仕組みを作ります。糖尿病領域では、血糖測定やインスリン投与の情報を管理するシステムや、食事・運動・服薬などの情報と併せて解析し、医師による、個別の患者さんへの最適な指導や治療を支援する仕組みを作ります。さらに、インスリンポンプと持続血糖測定器を投与アルゴリズムで連動させることで、グルコース濃度の細かな調整が期待できる、インスリン自動投与制御(AID)システムを提供していきます。
③ファーマシューティカルソリューション
製薬会社に対して、薬剤の価値を最大化させるユニークなデバイスやサービスを組み合わせたソリューションを提案します。薬剤の安全・効率に資するソリューションから徐々にステップアップし、パッチポンプや皮内投与デバイスによって薬剤の効果を向上させることを目指します。また、核酸医薬、遺伝子治療の効果にフォーカスしたデバイス開発により、中枢・循環器・がん領域への展開を目指します。
④海外ビジネスソリューション
東南アジアでは高機能の薬剤投与システム、北米ではBtoBを活用した静脈アクセス製品の販売を拡大します。糖尿病領域では、欧州でのインスリンポンプ販売を徐々に拡大させるとともに、巨大市場となりつつある中国で事業展開の礎を築きます。また、製薬会社とのビジネスでは、強みであるプラスチック製の薬剤充填用シリンジ「PLAJEX」のグローバル展開を図ります。
<血液・細胞テクノロジーカンパニー>
5カ年成長戦略のビジョンとして、「血液と細胞の可能性を活かして、治療効果の向上とアンメットニーズに応えるイノベーションをグローバルに展開する」ことを掲げます。この実現に向けて、以下の4つの戦略を実行します。
①Blood and Beyond(血液からの発展)
採血業務の効率化に寄与する原料血漿採取システムを米国からスタートさせ、さらにこれを米国以外の市場にも展開させることを目指します。また、細胞処理の領域では、フォーカス領域を拡大し、細胞治療を受ける患者さんと、細胞治療のプロセス全体にアプローチします。そして、血液治療の領域では、選択的血漿交換療法へ進出し、この療法が有効な患者さんの治療に貢献します。
②Equipment and Beyond(機器からの発展)
全血の製剤化プロセスの自動化や、サービス・ソフトウェアなどの強みを生かして、血液センターをはじめ、顧客の業務効率化を支援します。また、新たに参入する原料血漿市場においても、技術と技術を補完するサービスを共に展開する、デジタルエコシステムを導入することを目指します。
③地域展開
中国、中南米、アフリカなどの成長著しい地域において製品ポートフォリオを拡充し、より複合的なソリューションを提供します。
④オペレーショナル・エクセレンス
フレキシブルなグローバル供給体制の構築、改良改善文化の浸透、そして、マーケティング活動のレベルアップを図り、より高いサービスの提供を目指します。
3)コーポレート戦略
①イノベーション
ソリューション開発の3つの方向性について、目指すべき長期的なゴールを設定しています。
Deliveryでは、低侵襲治療の普及率が60%にとどまっていることに対して、高度な疾患治療における高付加価値な生体アクセス・デリバリーにより、低侵襲治療100%の世界を目指します。
Digitalについては、患者さんの長期的なQOL向上を妨げる要因として、慢性疾患の治療の継続が難しいことを課題と認識し、デジタルを駆使して治療の完遂率100%を目指します。
また、Deviceuticalsでは、薬剤治療効果が高められない原因として、医薬品とデバイスのコンビネーション製品が少ないことを課題と認識し、デリバリー技術のイノベーションで、コンビネーション製品の進化を加速させます。
これらの長期的な課題解決と、各カンパニーの提供する中期的なイノベーションとのシナジーを創出することで、将来の成長を牽引します。
②デジタルトランスフォーメーション(DX)
社内に有するDX機能を強化し、データ分析、遠隔モニタリング、ロボティクスなどの具体的なテーマに沿った検討を進めます。同時に、M&Aや提携の機会を積極的に探索することで、他社に負けないスピードでこれを実現していきます。
③人財
中長期のビジョンを実現する上で重要なスキルを特定し、その獲得・強化を目指すことによって、グローバルでの適所適材を実現します。また、変革を推進するためには、アソシエイト一人ひとりが、新しいことに挑戦することで成長できるというマインドを持つことが重要と考え、これを「Growth Mindset」と呼んで推進していきます。
④全社収益改善
生産、調達、ロジスティクス、定型管理機能の4つの機能領域に注力し、グローバルでの最適化を図ります。グループ内のコラボレーションを通じて、将来の成長を支える強固な基盤を構築し、企業価値を高めます。
⑤生産
コスタリカ、日本、ベトナムの三極生産体制を強化し、グローバル生産の最適化に努めます。また、コストの効率化にとどまらず、個別の工場で獲得した自動化、省力化、デジタル化のノウハウをグローバルに展開することで、生産イノベーションを推進します。
⑥CSV/ESG
財務目標だけでなく、サステナビリティ経営にもコミットします。事業活動を通じて実現するCSV(社会への価値創造)と、それを支える基盤としてのESG(環境、社会、ガバナンス)という2つのカテゴリーを構成し、CSVでは、「医療技術・サービスの普及、医療アクセスの向上」、「一人ひとりの人生に寄り添う医療の提供」、「持続可能な医療システムの共創」という3つの重点領域において、各カンパニーの具体的なテーマを設定しました。ESGについては、環境、社会、ガバナンスのそれぞれについて、重点テーマを抽出し、具体的な数値目標を設定しています。
2021年度までの5カ年を対象とする中長期成長戦略の成長性、収益性、効率性における各目標と、それに対する当期の状況は以下のとおりです。
※1 買収に伴い生じた無形資産償却や一時費用等を除いた営業利益
※2 買収に伴い生じた無形資産償却や一時費用等を除いたEPS(基本的一株当たり当期利益)
※3 最終年度2021年度時点。2019年4月1日付で実施した株式分割を考慮して算定。
※4 資本に含まれる買収関連資産に係る在外営業活動体の換算差額を除いたROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)
事業の潜在的な成長力は、全体として想定通りでしたが、成長性と収益性については、2020年度以降に度重なった新型コロナウイルス感染症拡大による需要の減少や、これに対応するための生産物量の調整、製造費や輸送費の高騰に伴うコスト増加が影響し、未達となりました。一方で、効率性については達成しました。
また、全社の戦略として中長期的な成長力の回復を図ったことで、大動脈疾患向けのステントグラフトや、糖尿病領域における持続血糖測定器の本格展開、原料血漿市場への参入など、各カンパニーにおいて成長を牽引し、今後の中長期にわたって財務的な貢献を見込むことのできる事業や製品を創出しました。
当社グループでは、2021年12月に次の5カ年を対象とする成長戦略を策定し、成長性、収益性、効率性においてそれぞれ以下の目標を掲げ、達成に向けて取り組んでいきます。
想定為替レート:USD=107円、EUR=128円
※ 新規M&Aの影響を除く
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