当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要及び経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、提出日現在において、当社が判断したものであります。
① 経営成績等の状況
当事業年度(2021年8月1日~2022年7月31日)における事業の概況としましては、再生誘導医薬開発品レダセムチド(HMGB1より創製したペプチド医薬)について、複数の臨床試験並びに新たな臨床試験に向けた研究開発が引き続き進捗いたしました。レダセムチドは、従来の再生医療とは異なり、体外で人工的に培養した細胞の移植や投与を一切必要とせず、薬の投与のみにより患者体内の幹細胞を活用する方法で、損傷した組織の再生を促す全く新しい作用メカニズムに基づく医薬品です。
当社の事業領域である再生医療業界においては、2014年11月に施行された再生医療安全性確保法及び改正薬事法によって再生医療の産業化促進の基盤が整う中、引き続き複数の再生医療等製品が承認を受けるなど、再生医療技術に対する社会的な期待と関心はますます高まっております。また、再生医療の市場規模予測では、国内2020年950億円が2050年2.5兆円、世界2020年1兆円が2050年38兆円と大幅な増加が見込まれており、従来の医薬品や医療では治療が困難であった疾患に対する新たな医療への期待がいかに大きいものかがわかります。このような状況の中、体外で培養し加工した細胞を用いず、医薬品の投与によって患者自身の体内で間葉系幹細胞の集積誘導による再生医療を実現する「再生誘導医薬」を、移植治療や従来型の再生医療が抱える数多くの問題を克服する革新的な再生医療技術として、表皮水疱症をはじめとした難病を含む様々な疾患に苦しむ世界中の患者の皆様にお届けすることは、ステムリムの社会的使命であると考えております。
レダセムチドにおける疾患ごとの進捗は以下の通りです。
a) 栄養障害型表皮水疱症治療薬(PJ1-01)の開発について、2022年7月より追加第Ⅱ相臨床試験が開始されました。2020年3月に終了した栄養障害型表皮水疱症患者を対象とした医師主導治験及び追跡調査(第Ⅱ相試験)のデータ解析結果では、本治験に参加した栄養障害型表皮水疱症患者全例(9例)の解析で、レダセムチド投与により主要評価項目(全身皮膚の水疱、びらん、潰瘍の合計面積の治療前値からの変化率)で、統計学的に有意な改善が確認されました。レダセムチド投与終了後の最終観察時点(投与終了28週後)においても、9例中7例が治療前値を下回る改善を示し、そのうち4例は50%以上の著明な改善を示しました。また、有効性維持の評価を目的とした追跡調査試験の終了後の観察時点(投与終了後52週後)においても有効性を確認したことから、栄養障害型表皮水疱症に対するレダセムチド治療効果の長期持続性も確認されました。副次評価項目(安全性評価)では懸念となる有害事象は観察されず、本治験において栄養障害型表皮水疱症患者におけるレダセムチド投与の有効性と安全性が確認されております。
第Ⅱ相臨床試験及び追跡調査試験の結果を踏まえ医薬品の承認申請を行うべく、本医薬品のライセンス先である塩野義製薬株式会社(以下「塩野義製薬」)において規制当局との協議を進めておりましたが、本治験の結果は著効例が認められるものの、更なる有効例の積み上げが必要との結論に至っており、本治験結果の再現性を確認することを目的として、追加第Ⅱ相臨床試験を実施するに至っております。表皮水疱症治療薬について、対象となる栄養障害型表皮水疱症は、全国の患者数が400名前後と推定される希少難治性疾患であり現在有効な治療法が存在せず、大規模な第Ⅲ相試験を計画することが困難であります。そのため、追加第Ⅱ相臨床試験の結果を踏まえ医薬品の承認申請を行う予定です。
b) 脳梗塞治療薬(PJ1-02)の開発について、本医薬品のライセンス先である塩野義製薬より、2021年12月に第Ⅱ相臨床試験の主要評価項目を達成した旨の連絡がありました。本治験は、脳梗塞発症後4.5時間~24時間の患者で、血管再開通療法(血栓溶解療法又は血栓回収療法)を実施できなかった方を対象に、レダセムチドの有効性と安全性を検討することを目的とした第Ⅱ相プラセボ対照二重盲検無作為化比較試験です。薬剤投与開始90日後のmRS(脳卒中又は神経障害の他の原因に苦しんでいる人々の日常活動における障害又は依存の程度を測定するために一般的に使用されるスケール)を主要評価項目として評価した結果、その達成が確認され、急性期脳梗塞患者に対するレダセムチドの有効性が確認されました。また、副次評価項目である安全性においては、有害事象の発現率はレダセムチド群とプラセボ群で同程度であり、忍容性が確認されました。
急性期脳梗塞の治療においては、血管再開通療法である血栓溶解療法は発症後4.5時間まで、機械的血栓回収療法は発症後8時間までと発症から治療までに時間的な制約があり、十分な治療効果が得られていない領域です。従来の血管溶解療法・機械的血栓回収療法と比較し、より時間的制約が緩和されたレダセムチドによる治療の選択肢は、これらのアンメット・メディカル・ニーズを満たすことが期待されます。
本治験の良好な結果を踏まえ、塩野義製薬においてグローバル第Ⅲ相臨床試験への移行に向けた準備を進めております。
c) 心筋症治療薬(PJ1-03)の開発について、大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科学との共同研究において、心筋梗塞や各種心筋症の疾患モデル動物を用いた薬効試験にて顕著な治療効果と作用メカニズムの証明がなされており、現在、大阪大学において第Ⅱ相臨床試験に向けた準備が行われております。その非臨床研究の成果は、米国の循環器学会であるAHA (American Heart Association) Scientific Sessions 2018 等の国際学会で報告されるとともに、2019年3月の第18回日本再生医療学会総会では多光子顕微鏡によるin vivo imaging(生体画像描出法)によって、レダセムチドを投与した心筋梗塞モデル動物において、GFP(緑色蛍光タンパク)陽性骨髄由来細胞が心筋梗塞巣へ集積し血管周囲において活発に移動する様子を観察することに成功したことを報告するなど、評価を受けております。
d) 変形性膝関節症治療薬(PJ1-04)の開発について、2020年11月より弘前大学において、変形性膝関節症患者を対象とした医師主導治験(第Ⅱ相試験)が実施されており、2021年12月に患者の組み入れが完了いたしました。今後は4週間の治療期と48週間の追跡期を経て、データ解析・評価が行われる予定です。変形性膝関節症は膝関節軟骨の摩耗により膝の形が変形、痛みや腫れをきたす疾患で、重度の症例では強い痛みのため歩行困難になることも多く、QOL (Quality of Life) 及び日常生活動作の低下が顕著になります。本邦の潜在患者数は約2,500万人、そのうち自覚症状を有する患者数は約1,000万人と推定されています。主な原因は加齢によるものが多く、40代以降の中高年に多く発症します。損傷をうけた関節軟骨は自己修復しにくいことが知られており、損傷した軟骨組織の修復促進、あるいは人工関節置換術への移行を回避できるような新たな治療法の開発が望まれています。レダセムチドは、マウス膝関節軟骨欠損モデルを用いた本剤の非臨床試験で軟骨修復作用等が確認されており、変形性膝関節症患者に対する新たな治療薬となることが期待されます。
e) 慢性肝疾患治療薬(PJ1-05)の開発について、2020年11月より新潟大学において、慢性肝疾患患者を対象とした医師主導治験(第Ⅱ相試験)が実施されており、2022年6月に患者の組み入れが完了いたしました。今後は6ヶ月の追跡期を経て、データ解析・評価が行われる予定です。線維化が進行した肝硬変は、肝機能低下、門脈圧亢進、発癌など生命予後を左右する様々な問題が生じうる疾患であり、肝硬変の患者数は国内40~50万人と推定されております。現状、一般治療において、線維化が進行した肝硬変に対し完治が期待できる治療法は肝移植を除き確立しておらず、移植医療に頼らない新たな肝線維化改善薬や組織再生促進薬の開発が期待されております。肝硬変モデルマウスにおいては、レダセムチドの投与により血清中肝障害指標であるAST及びALTの改善が統計学的な有意差をもって確認されております。また、肝機能障害の指標であるALB及びT-Bilの改善、肝線維化指標であるHYP量の有意な改善を確認しております。肝機能改善効果、線維化改善効果が確認されていることから、有効な治療法のなかった線維化を伴う慢性肝疾患の患者に対し、新たな治療の選択肢になり得る可能性があります。
レダセムチド以外の新規再生誘導医薬候補物質の探索プロジェクトについては、次世代の開発候補品選定に向けた積極的な研究開発投資を続けながら候補物質スクリーニングを多面的に展開してきたことで、これまでに顕著な活性を有する複数の新規候補化合物を同定するに至っております。当社が大阪大学との共同研究で開発を進めている幹細胞遺伝子治療(開発コード:PJ5)は、表皮水疱症患者の水疱から間葉系幹細胞を採取する独自の開発技術を基盤として、レンチウイルスベクタ―を用いてⅦ型コラーゲン遺伝子を患者皮膚由来間葉系幹細胞に効率的に導入し、水疱内へと戻して持続的Ⅶ型コラーゲン供給を可能にする根治的表皮水疱症治療技術です。患者由来皮膚細胞を用いて表皮水疱症モデル皮膚組織を作製し、吸引法により水疱を人工的に形成したところ、Ⅶ型コラーゲン遺伝子を導入した間葉系幹細胞を水疱内と同じ領域に投与して作製した表皮水疱症モデル皮膚組織では、Ⅶ型コラーゲンタンパク質を広範囲に基底膜領域へ供給しており、水疱が形成されないことが確認されました。また、他の投与経路と比較して水疱内投与は生体内において高い生着能を確認しております。遺伝子導入細胞の表皮シートを介した移植や皮内投与と比較し、より患者様の負担が少なく高い薬効を長期間持続的に示す幹細胞遺伝子治療は、現在有効な根治療法のない栄養障害型表皮水疱症の根治的治療法となることが期待されます。また当社は、2022年4月より国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が実施する令和4年度「難治性疾患実用化研究事業」において、共同研究企業として参画しております。本AMED採択研究では、当社においてこれまで蓄積された幹細胞遺伝子治療研究の豊富なデータと知見を活用しながら、栄養障害型表皮水疱症の根治的治療の実現を目的としています。
これらの結果、当事業年度の経営成績の状況は以下のとおりであります。
(事業収益)
当事業年度における事業収益は前事業年度に比べて1,377,024千円減少し、22,976千円(前年同期比98.4%減)となりました。事業収益は、塩野義製薬株式会社に対する再生誘導医薬開発に係る研究データの使用許諾による一時金を受領したことによるものです。
(事業費用)
当事業年度における研究開発費は前事業年度に比べて102,511千円減少し1,421,286千円(前年同期比6.7%減)、販売費及び一般管理費は前事業年度に比べて112,445千円増加し582,377千円(前年同期比23.9%増)となりました。研究開発費の減少は、主に前期に実施した動物実験施設の開設に伴う研究用機器の購入費、施設の施工費の減少によるものであります。
この結果、当事業年度における事業費用は前事業年度に比べて9,933千円増加し2,003,663千円(前年同期比0.5%増)となりました。
(営業損益)
当事業年度において、事業収益22,976千円、事業費用2,003,663千円を計上した結果、営業損失は1,980,687千円(前事業年度は593,729千円の営業損失)となりました。
(営業外損益・経常損益)
当事業年度における営業外収益は前事業年度に比べて4,276千円減少し8,502千円(前年同期比33.5%減)、営業外費用は前事業年度に比べて2,736千円減少し140千円(前年同期比95.1%減)となりました。営業外収益の主な内訳は業務受託収入8,000千円、補助金収入273千円であります。また、営業外費用の内訳はリース債務に係る支払利息140千円であります。
これらの結果、経常損失は1,972,325千円(前年同期は583,827千円の経常損失)となりました。
(特別損益・税引前当期純損益)
当事業年度における特別利益は26,100千円(前年同期は7,784千円)となりました。特別利益は従業員の退職に伴う新株予約権の戻入益26,100千円であります。
これらの結果、税引前当期純損失は1,946,224千円(前年同期は576,043千円の税引前当期純損失)となりました。
(当期純損益)
当事業年度における法人税等は2,082千円となりました。この結果、当期純損失は1,948,307千円(前事業年度は582,448千円の当期純損失)となりました。
② 財政状態
(資産)
当事業年度末における流動資産合計は9,262,992千円となり、前事業年度末に比べ1,234,502千円減少いたしました。これは主に現金及び預金が1,292,031千円減少したことによるものです。また、固定資産合計は334,380千円となり、前事業年度末に比べ77,403千円減少いたしました。これは主に固定資産の減価償却により、有形固定資産が48,746千円減少、無形固定資産が394千円減少したほか、主に長期前払費用の流動資産への振替により投資その他の資産が28,262千円減少したことによるものです。この結果、資産合計は9,597,373千円となり、前事業年度末に比べ1,311,905千円減少となりました。
(負債)
当事業年度末における流動負債合計は71,830千円となり、前事業年度末に比べ15,794千円減少いたしました。これは主に未払金が17,815千円減少したことによるものです。また、固定負債合計は120,598千円となり、前事業年度末に比べ4,414千円減少いたしました。これは主にリース債務(長期)が3,141千円減少したことによるものです。この結果、負債合計は192,429千円となり、前事業年度末に比べて20,209千円減少となりました。
(純資産)
当事業年度末における純資産合計は9,404,943千円となり、前事業年度末に比べ1,291,696千円減少いたしました。これは主に当期純損失1,948,307千円を計上した一方、新株予約権が492,985千円増加、新株予約権の行使により資本金及び資本準備金がそれぞれ81,828千円増加したことによるものです。なお、2021年12月の減資により資本金が37,936千円減少し、資本準備金が37,936千円増加しております。この結果、資本金76,315千円、資本剰余金10,620,172千円、利益剰余金△2,182,994千円となりました。
なお、当社は再生誘導医薬事業の単一セグメントであるため、セグメント別の業績記載を省略しております。また、当事業年度の業績への新型コロナウイルス感染症による特段の影響はありません。
当事業年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は8,880,191千円と前事業年度末と比べ1,292,031千円の減少となりました。
営業活動の結果使用した資金は1,404,565千円(前事業年度は519,649千円の支出)となりました。これは主に、税引前当期純損失の計上1,946,224千円、株式報酬費用の計上555,732千円、未収消費税等の増加66,226千円等によるものであります。
投資活動の結果使用した資金は330千円(前事業年度は92,715千円の支出)となりました。これは主に事務用機器の取得によるものであります。なお、研究用機器については取得時に研究開発費として費用処理しております。
財務活動の結果得られた資金は112,859千円(前事業年度は109,317千円の収入)となりました。これは主に、新株予約権の行使による株式発行収入によるものであります。
当社は生産活動を行っておりませんので、該当事項はありません。
当社は受注生産を行っておりませんので、該当事項はありません。
当社は再生誘導医薬事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を行っておりません。当事業年度における販売実績は、次のとおりであります。
(注)1.最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
(2) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成されております。当社の財務諸表の作成にあたり採用している重要な会計方針については、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項」の「重要な会計方針」に記載のとおりであります。また、当社における重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定については、「第5 経理の状況 1 財務諸表等(1)財務諸表 注記事項」の「重要な会計上の見積り」に記載の通りであります。
なお、新型コロナウイルス感染症の影響については、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項 追加情報」に記載しております。
(3) 資本の財源及び資金の流動性についての分析
当社の資金需要の主なものは、継続的な候補物質の探索や候補物質の製品化に向けた開発に関する研究開発費と、販売費及び一般管理費などの事業費用であります。これらの資金需要に対して安定的な資金供給を行うための財源については主に内部資金を活用することにより確保しております。手元資金については、資金需要に迅速かつ確実に対応するため、流動性の高い銀行預金により確保しております。
(4) 経営成績に重要な影響を与える要因について
経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載のとおりであります。
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