課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、提出日現在において、当社が判断したものであります。

(1) 経営方針

当社は、人体が本来備えている組織修復能力を引き出す「再生誘導医薬」をはじめとした最先端生命科学研究の成果をもとに、新しいコンセプトの治療薬を生み出し続けることで、世界の健康と幸福の実現に貢献することを経営理念として掲げております。

 

(2) 目標とする経営指標等

現在、研究開発段階にある当社は、ROA、ROEその他の数値的な目標となる経営指標等は用いておりません。現在、当社の主要な開発品目であるレダセムチドについては、表皮水疱症、脳梗塞を適応症とする開発が先行する段階にあり、慢性肝疾患、変形性膝関節症、心筋症を適応症とする開発が続いております。当社は、これらの開発を推進することはもちろん、更なる他の適応症への展開や後発パイプラインの開発推進、新たな開発候補品の探索等を行い、開発パイプラインを質・量ともに充実させることが、企業価値を高め、経営を安定させる上で不可欠の目標と認識しております。当該目標達成のために、共同研究や事業提携を推進するとともに、より充実した研究・開発体制の確立のための設備導入等の施策を実施してまいります。

 

(3) 経営環境及び対処すべき課題等

当社が属する再生医薬品分野は、世界的にも普及段階まで至っておらず、このような最先端医療分野は環境変化のスピードが極めて早いと考えられ、潜在的な競争相手に先行し、他社の知的財産権を上回る開発をする必要性があります。

このような経営環境の下、当社が対処すべき当面の課題としては、主に下記①~⑤の5点があります。

 

① 既存事業の展開支援と新規事業の開発推進

レダセムチドについては、塩野義製薬への導出が完了していることから、今後も引き続き、導出先企業による臨床開発が滞りなく進められ、さらに、将来幅広い適応症に対して開発が展開されるよう、導出先企業に対する側面支援を継続していくことが、当社の重要な役割であると考えております。また、新潟大学において慢性肝疾患を対象として実施されている医師主導治験、弘前大学において変形性膝関節症を対象として実施されている医師主導治験及び大阪大学心臓血管外科において心筋症を対象として準備中の医師主導治験に対する継続的な支援も、引き続き、当社の重要な役割であると認識しております。

レダセムチド以外の再生誘導医薬候補品については、再生誘導医学協働研究所における産学連携による大阪大学をはじめとした各大学とのコラボレーションの推進、動物実験施設の拡充など、次世代の開発候補品選定に向けた積極的な研究開発投資を続けながら候補物質スクリーニングを多面的に展開してきたことで、これまでに顕著な活性を有する複数の新規候補化合物を同定するに至っております。それらの再生誘導医薬開発候補品の導出活動を促進し、新たな事業提携に繋げていくことが、今後の当社の重要な経営課題であると考えております。

具体的には以下のような内容になります。

 

■ 新規再生誘導医薬の開発について

開発リスクの分散と企業価値の向上を目指して、当社では、新規再生誘導医薬候補物質の探索研究を積極的に進めております。これまでの研究を通じて同定した複数の候補物質について、疾患モデル動物を用いた薬効試験で治療効果を確認し、その一部につき特許出願を完了するなど、着実に成果を積み重ねております。この探索研究を更に推し進め、既存の開発品を補完する新たな薬効プロファイルを有する新規再生誘導医薬の開発を進めます。

 

■ 生体内治療用細胞採取デバイスの開発について

再生誘導医薬の研究成果を基礎として、生体内に埋没したデバイス内に集積させた治療用の細胞を採取する技術を研究中です。対象疾患は、皮膚や骨、軟骨、筋肉などの難治性損傷性疾患等になります。

 

 

■ 間葉系幹細胞を標的とした遺伝子治療技術開発について

脳梗塞、心筋梗塞といった後天的組織障害の治療に対して、再生誘導医薬は循環血流を介した骨髄由来間葉系幹細胞供給という極めて画期的な治療効果を発揮します。しかし、表皮水疱症、血友病、代謝異常症など、先天的機能障害の根治的治療を実現するためには、それぞれの病態における根本原因である遺伝子異常の改善、すなわち遺伝子治療が必要であることは言うまでもありません。遺伝子治療の成功は、生体内のどの細胞をどのように遺伝子治療するかにかかっており、特に長期間の根治的な治療効果を得るためには、それぞれの臓器・組織で長期間細胞を供給し続ける組織幹細胞の遺伝子治療が必要不可欠です。

再生誘導医薬開発の経験を活かし、生体内で長期間機能する可能性のある骨髄間葉系幹細胞を標的とした、遺伝子治療の開発を目指します。直近では、現在治療法の全くない遺伝性皮膚難病に苦しむ患者に向けて、低侵襲性生体組織採取法による高度な根治的治療の研究を進めています。

 

■ 生体組織の網羅的単一細胞機能評価技術を基盤にした生体幹細胞高機能化医薬開発について

創薬成功確率を高める鍵は、開発候補品を投与した後の各臓器・組織の生体反応を如何に正確かつ漏れなく把握できるかにあります。当社は大阪大学と共同で、生体内間葉系幹細胞の単一細胞レベルの遺伝子発現解析、網羅的遺伝子構造解析の研究を進め、その技術を確立しています。

以上の技術を利用して、現在当社と大阪大学は、第1、第2、第3世代の再生誘導医薬が生体の各臓器・組織の個々の細胞に与える網羅的遺伝子発現変化、網羅的遺伝子構造変化について、詳細なデータベースの蓄積を進めております。現在、本邦はもとより世界的視点から見ても、単一細胞レベルでの網羅的遺伝子発現解析、網羅的遺伝子構造解析が可能な施設はNIH(アメリカ国立衛生研究所)などの限られた大規模研究施設に限定されており、ベンチャー企業レベルでその技術を有していることは当社の創薬開発技術が世界に通用し得ることを示すものと確信しております。今後、当社の創薬研究のみならず、国内外のアカデミア研究者や製薬企業とこの技術を共有することにより、国内外の創薬開発の確率向上、安全性及び有効性評価に大きく貢献するとともに、組織幹細胞のもつ組織再生作用を安全に最大化する、世界に類の無い再生誘導医療の開発を進めて行く予定です。

 

■ 細胞治療分野の再生誘導技術基盤における今後の展開について

当社が注力してきた再生誘導技術基盤は、効率よく循環血流中に幹細胞を動員し、動員した幹細胞を損傷組織に集積させ、分化能を損なわせることなく、自己の幹細胞を活用し損傷組織の再生を誘導する技術です。これらの技術基盤は、医薬品で生体の組織再生を促進するという、細胞治療領域において計り知れないポテンシャルを有するものと考えております。

当社は、当該技術基盤を用いて、低コストかつ高い安全性を保ちながら機能回復や組織再生を可能にすることにより、「細胞治療の常識を変えていく」ことを課題として開発を推進していきます。

 

② 臨床応用の加速

再生誘導医薬は生体内に存在する間葉系幹細胞を活性化することにより、損傷組織の機能的再生を促進しますが、生体内における間葉系幹細胞については、正確な局在、機能、性質、種類など不明な点も数多く存在します。

一方で、大阪大学と当社は、これまで10年以上の長期間にわたり、再生誘導医薬の共同研究を続け、数多くの知見やノウハウを手にしています。また、これまでに再生誘導医薬における表皮水疱症、急性期脳梗塞、慢性肝疾患及び変形性膝関節症を対象とした臨床治験が実施されております。大阪大学と当社が蓄積してきた基礎研究の膨大なデータと臨床研究及び治験のデータの相互評価及び相互利用によって、今後も引き続き再生誘導医薬における臨床応用を加速させることが、当社の重要な経営課題であると認識しております。

 

 

研究助成金の獲得

医薬品の研究開発には、多額の先行投資が必要とされ、同時に少なからぬ開発リスクが伴います。当社では、プロジェクトが非臨床試験若しくは早期臨床開発段階に達した時点で、製薬企業との提携若しくは候補品の導出を行い、比較的早期に自社の開発費負担を低減させることを基本戦略としておりますが、それでもなお、候補物質スクリーニング法の開発と薬効メカニズム検討のための基礎研究、候補化合物の探索研究、パイロット製造、薬効薬理・安全性試験など、臨床試験に至るまでの過程で多大な研究開発費を自社で負担する必要が生じます。

これまで当社は、公的研究助成金を積極的に活用することで、これらリスクの高い早期探索研究に要する研究開発費の負担を補ってまいりました。既存プロジェクトの導出が完了し、今後、探索研究段階にある新規プロジェクトの数が増加していくことからも、引き続き、公的研究助成金を積極的に獲得し活用していくことが、当社の重要な経営課題であると認識しております。

 

④ 優秀な人材の育成及び獲得
当社が取り組む再生誘導医薬の分野は、今後、国内外バイオ・製薬企業との競争が激化することが予想され、より一層の研究開発の加速と競合他社との差別化が必要になると考えております。そのため、独創的な研究活動を支える優秀な研究人材の育成及び獲得は、当社の喫緊の経営課題であると認識しております。

 

⑤ 新型コロナウイルス感染症による影響について

2020年3月以降における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の全世界的な感染拡大の影響等に伴い、事態が長期化、深刻化した場合には、国内外における臨床試験の準備等に遅延が生じる可能性があります。

当社が権利導出先企業及び治験実施機関と連携し、開発の延長や中止が発生する可能性に対処していくことは、当社の重要な経営課題であると考えております。

 

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