本項においては、将来に関する事項が含まれておりますが、当該事項は有価証券報告書の提出日現在において予測できる事情を基礎とした合理的な判断に基づくものであり、その達成を保証するものではありません。
(1)経営方針、経営戦略等
① 会社の経営の基本方針
当社は、顧客・従業員・取引先・社会などへの責務を果たした上で残存する「株主価値最大化(MSV)」を経営の最重要目標としております。
例えば、下図の通り、P/L項目をステークホルダーとの関係で対比させると、売上収益は顧客、製造・販売費は取引先、人件費は従業員、金利は金融機関、税金は政府にそれぞれ対応します。MSVにおいては、まずこれらのステークホルダーに対するそれぞれの責務を充足することが大前提となります。なお、「責務の充足」には法的な契約だけでなく、社会的、倫理的責務も含まれており、サステナビリティの概念も包含されています。そして、各ステークホルダーへの責務を果たした上で残存する価値を最大化し、かかるリスクをとって投資した株主に報いることがMSVです。各ステークホルダーへの「上限のある」責務を充足させることが必要条件であり、株主価値はその充足後の残余価値となります。MSVは、あくまで中長期的な株主価値最大化を志向しており、短期的な最大化を追求する考えではありません。
② 経営モデル「アセット・アセンブラー」
アセット・アセンブラーとは、より小さな本社のもとで、各パートナー会社の自律性をより強く求め、魅力的な市場である塗料・周辺分野に特化したM&Aを積み上げていくことで、安全に高い成長を可能にする強靭なMSV追求モデルです。
このモデルのポイントは、各地域の優秀な経営陣が当社グループ傘下で自律的な成長を志向し、同時にグループが有する技術力、販売網、購買力、ファイナンス力などのさまざまな要素を本社主導ではなく主体的に取り入れ、多様な専門知識が積み上がることでシナジーを生み、またさらにM&Aにより新しいパートナー会社を迎え入れることができる点です。そして、塗料・周辺事業という分かりやすい成長市場で、かつ高い利益・キャッシュ創出力を有する市場に特化することで、M&Aに伴うPMI(Post Merger Integration)リスクを極力抑えながら、加速的な成長を実現することが可能なモデルとなります。
③ 自律・分散型の経営体制
アセット・アセンブラーを構成する重要な要素である自律・分散型の経営体制は、優秀なタレントやブランドの集合体をもたらす当社の強みの一つです。塗料市場には「地産地消」という特徴があるため、持株会社である当社が中央集権的にグループ全体を統制するより、各地域の市場特性を深く理解し、MSVを熟知しているパートナー会社のマネジメントが、グループ間で有機的な連携・協働を進め、自律的(Autonomous)な成長スタイルを志向しています。
単独でも強いものが、塗料・周辺分野に特化しているがゆえに想定以上のシナジーが期待できます。それは決して欧米型の標準化やコスト・カット・シナジーではありませんが、ローカル色の強い業界にあって各社の強みを最大限生かせる経営体制であり、だからこそ当社グループへの参画を希望する会社も増加すると見込んでいます。
④ 中長期的な会社の経営戦略
当社は、2021年3月5日付で、長期的視点を見据えた中期マイルストーンとなることをコンセプトとして、2021年度から2023年度までの新中期経営計画(以下「新中計」といいます。)を策定・公表しており、「地域・事業戦略」「サステナビリティ戦略」「M&A戦略」「財務戦略」の4つを柱に戦略を展開しています。パートナー会社とのチームワークを発揮しながら、成長戦略を各地域・事業で推進することで、MSVを実現してまいります。なお、当社グループの経営方針・経営戦略、新中計の詳細は、以下の当社ホームページにおいて公開しております。
・経営方針・経営戦略 https://www.nipponpaint-holdings.com/ir/management_policy/strategy/
・中期経営計画 https://www.nipponpaint-holdings.com/ir/management_policy/management_plan/
また、新中計1年目の進捗につきましては、下記に記載の通り順調に進展しております。
③ 中長期的な財務目標
2021年度から2023年度までは中国及びアジアにおける高い市場成長とシェアの拡大により高い売上成長を目指し、その後も長期的に、市場成長を上回る持続的成長を目標とします。また、営業利益の年平均成長率(CAGR)は売上成長に伴う限界利益の貢献で、利益成長を図るとともにマージンの向上を目指してまいります。
中長期的に市場成長を上回る売上成長等により、基本的1株当たり当期利益(EPS)の持続的成長を目指してまいります。
④ 主要な地域・事業における中期的な取り組み
上記財務目標及び新中計を達成するために、各地域・事業にて成長戦略を推進しています。主要な事業・地域の取り組みは以下のとおりであります。新中計1年目の進捗につきましては、下記に記載の通り順調に進展しており、当社がその成長を実現するアセット・アセンブラーとしての礎を築くことができました。
(a)日本
自動車用塗料の比率が高い日本は、2020-2021年にコロナ禍や半導体不足に伴う顧客生産の減少が売上減少、固定費負担の上昇となり、さらに原材料価格の上昇が追い打ちをかける厳しい状況でした。企業努力を超えたところでは顧客の理解を得ながら値上げせざるを得ず、実際に2021年後半から順次値上げを実施しています。
また、自動車も最終需要は強いと認識しており、今後半導体不足などの解消に伴って顧客メーカーの生産が回復すれば、当社の売上回復も十分に可能と見込んでいます。
(b)NIPSEA中国(汎用塗料事業)
中国における塗料需要は、一人当たりの塗料消費量が先進国の約1/3にとどまることや、都市化の継続的な進展、中国国民への良質な住宅供給政策の不変、1990年代後半から大規模に供給され始めた民間住宅を中心とする膨大な塗り替え需要などを考慮すれば、基本的に「GDP+α」の成長を見込むことができる優良市場です。
その上で、市場はダイナミックに変化しているため、その変化を見逃すことなく、常に市場の先を見越して積極的に戦略を推進してまいります。ユーザー・エクスペリエンスの向上や製品ラインアップの拡充など、塗料を販売するだけでなく、ソリューション・プロバイダーとしての付加価値を高めていくことで、より競争力を向上していく方針です。
(c)オセアニア
オセアニアは、当社グループの中でも極めて安定的な成長を達成しており、今後もこの傾向は変わらないと想定しています。2020年の新型コロナウイルス感染症の影響による巣ごもり需要の高まりの反動を受けて、2021年のリテール市場は減少したものの、しっかりと成長を遂げています。
2022年度以降においても、消費者エンゲージメント、プレミアムブランド、イノベーション、顧客サービスなどの主要な強みへ継続して注力することにより、オセアニア地域での力強い成長を維持してまいります。
(d)トルコ
トルコは、環境が激変する中、チームは機敏に動いて激しいインフレ下でもしっかりと市場シェアを向上、利益成長を遂げています。インフレ下では需要を先取りしている側面も若干ありますが、引き続きアグレッシブに成長すると見込んでいます。
2022年度以降においては、建築用塗料でのマルチブランド戦略の継続を中心に、売上・シェアの拡大を目指すとともに、 ブランドによる差別化や幅広い製品ポートフォリオにより、多様なニーズに対応してまいります。
(e)インドネシア
インドネシア事業については、2021年第3四半期にロックダウンの影響などを受けたものの、通年では堅調な成長を遂げることができました。中長期でも、高いマージンと成長をそれぞれ見込んでいます。
2022年度以降においては、業界トップのブランド認知度やブランド選好性向上に向けた広告投資を継続するとともに、CCM(自動調色機)設置数の拡大やCCM設置店舗での取り扱い製品ラインアップを拡大してまいります。また、増加するオンラインショッピング需要に対応し、新たなeコマースチャネルを開拓し、顧客をサポートすることに加え、当社流通拠点のさらなる拡大を図るため、物流センターや製品保管センターを増設するなど、流通網の取り込み拡大を目指し、販売員を増員してまいります。
(2)経営環境並びに優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 経営環境
グローバルの塗料市場は成長産業であり、過去の傾向から判断しても、人口が増加すれば塗料の需要も着実な増加が見込まれます。また、一般的な化学産業のように市況の大きな変動はなく、安定した成長が見込まれることが特徴にあります。
世界人口は、国際連合の発表によれば今後10年間で78億人から85億人への増加が見込まれます。特に、最大規模である中国及びアジア地域が成長のけん引役であり、同地域でのプレゼンスの拡大が重要となります。
なお、足元の状況としては、世界経済は新型コロナウイルス感染症の再拡大やサプライチェーンの混乱が継続する懸念に加え、原油価格高騰などに起因する高インフレの長期化などにより、景気回復の勢いは弱まると見込まれるものの、人口増加や都市化率の高まりなどで塗料市場は堅調な成長を遂げるものと予想しております。
② 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
上記の経営環境を踏まえ、当社は持続的な成長を通じて株主価値最大化を達成するため、以下の課題に取り組んでまいります。
(a)原材料価格の高騰
当社としては、2022年前半まで原材料価格は上昇傾向が続くと見通しており、ウクライナ情勢と併せて予断を許さない状況ですが、引き続き、可能な限り常に値上げの努力を続けていきます。
下図のグラフが示す通り、2021年第3四半期を底にして徐々に値上げの浸透に伴いマージンを回復させて、需要期である2022年の第2四半期、第3四半期辺りで大きな改善を想定しております。第4四半期は需要閑散期に当たるため、第3四半期と比べれば下がるものの、2021年第4四半期との比較ではやはり改善する見込みです。
ウクライナ情勢に伴う原材料市況の影響や物流の混乱に加え、足元では中国でも新型コロナウイルス感染症の拡大に伴うロックダウンの影響なども生じており、業績予想を発表した2月時点から不確定要素は減じていないため、この改善傾向は多少ずれる可能性があります。ただし、中長期視点では、塗料業界の特性として値上げに対する需要感応度は必ずしも高いわけではなく、多少時期が遅れてでも、いずれ一定のマージンは確保できると見込んでいます。また、例えば、地域・業態によっては水性塗料への転換が進んでおり、これも相対的には溶剤塗料との比較で原油高騰の影響を軽減し得ると見込んでいます。
(b)積極的なM&Aの継続
塗料業界はその持続的な成長性に加え、キャッシュ・フローが非常に安定している特徴があります。また、昨今の市場環境は、低金利での調達が可能であり、併せてM&Aに非常に適した業界です。
マーケットの過半を占める建築用市場は地産地消のビジネスであり、原材料の調達や消費者の嗜好、販売ネットワーク、環境規制に至るまで、国ごとにビジネスモデルが大きく異なります。塗料は代替製品の脅威が低いことに加え、塗料製品間の技術的差別化が困難であることから、①強いブランド力、②充実した流通網、③現地に精通したオペレーションの確立、が成功の鍵となります。従って、これらをベースに市場シェアNo.1を獲得すれば、競合他社による逆転は容易ではなく、No.1の会社は市場シェアをさらに伸ばして収益を享受できるなど、好循環サイクルを生み出す傾向にあります。
そうした中、当社は、MSVに資するM&Aを目指しております。パイプラインにある案件リストを恒常的に見直すとともに、M&A案件の選別にあたっては、資本コストを上回るリターンを獲得し、結果として基本的1株当たり当期利益(EPS)の増大を図るものについて、財務規律を考慮しつつ優先付けを行ってまいります。
また、塗料市場の特性を踏まえた当社グループのM&Aの特長は、買収した会社やそこで働く経営陣・従業員が現地で最大限のパフォーマンスを発揮できるグループ支援体制が充実していることです。具体的には、当社がターゲットとする企業は、成功の鍵となる上記の強みを保有していれば、買収後も彼らの自律性を重視しオペレーションを任せることが可能です。当社グループの支援としては、①各パートナー会社のノウハウの共有、②原材料の共同調達、③マーケティングや設備以外に現地でのM&Aなどのさらなる成長投資のための資金提供などがあり、現地のオペレーションを強力にバックアップすることで、現地パートナー会社の強みを最大限に生かしたM&Aを志向しています。
なお、当社グループの財務目標値においては、M&Aの実行による業績への影響を見込んでおりません。
(c)サステナビリティへの取り組み
2022年よりサステナビリティ体制を一新し、本社主導ではなく、サステナビリティとビジネスとの結び付きをよりいっそう強化する自律的なチーム構成に変更しました。代表執行役共同社長の直下に、マテリアリティをベースとした4つのグローバルチームを構成し、4人のビジネスリーダーが中心となりながら、グローバルで取り組みを進めています。
サステナビリティに関するガバナンスの観点では、各リーダーは共同社長に向けてダイレクトにレポートし、共同社長はその進捗や提案を取締役会に随時報告することで、取締役会がサステナビリティを監督しています。
2020年にマテリアリティを特定し、2021年の統合報告書でマテリアリティごとのリスクと機会をそれぞれ提示し、それらに基づいて活動を進めてきました。
「気候変動」については、2021年にTCFD最終報告書に基づく開示に着手し、CO2排出ネットゼロに向けたパートナー各社の目標策定に合意しました。具体的には再生可能エネルギーの活用なども開始しています。
「ダイバーシティ&インクルージョン」では、各国・地域の状況を共有しながら、人権方針の策定や人権リスクアセスメントの実施などの必要性を認識しました。2022年以降はその実行フェーズとなります。また、法定開示化の動きも見られる人的資本は、関連するデータ収集などの取り組みを進めていきます。
「コミュニティとともに成長」では、ビジネスとの結び付きをより明確にすることを視野に、社会貢献活動の定量化と開示を実施しました。2022年以降も活動をブラッシュアップしていく計画です。
「社会課題を解決するイノベーション創出」の一例としては、抗ウイルス塗料をグループ横断で開発・販売してきました。化学物質管理の強化やライフサイクルアセスメント(LCA)など、社会的関心が高まっている分野についての取り組みを強化していきます。
なお、当社グループのサステナビリティ戦略の詳細は、以下の当社ホームページにおいて公開しております。
・サステナビリティ https://www.nipponpaint-holdings.com/sustainability/
お知らせ