課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)経営方針、経営環境

文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 当社グループは、先進・独自の技術をもって、最高品質の商品やサービスを提供することにより、「事業を通じた社会課題の解決」に取り組み、持続的な社会に貢献する企業であり続けることを目指しています。

 2017年8月に長期CSR計画「サステナブル バリュー プラン(Sustainable Value Plan)2030」(以下、「SVP2030」と記載します。)を策定し、2021年4月15日に発表した中期経営計画「VISION2023」を「SVP2030」の目標を実現するための具体的なアクションプランとして位置づけ、事業活動を通じて「新たな価値」を創出することで、社会課題の解決に取り組んでいます。

 「VISION2023」では、「事業ポートフォリオマネジメント」と「キャッシュフローマネジメント」の強化等により、成長投資原資の確保と、重点・新規/将来性事業への経営資源の集中投下の循環の加速・強化を図ることで、事業を通じて「環境」「健康」「生活」「働き方」の課題に取り組み、「ヘルスケア・高機能材料の成長加速と、持続的な成長を可能とする強靭な事業基盤の構築」を進めていきます。

 中期経営計画初年度の2021年度は、「営業利益」「税金等調整前当期純利益」「当社株主帰属当期純利益」いずれも過去最高を記録し、「VISION2023」で掲げた2023年度売上高2兆7,000億円、営業利益2,600億円達成に向けて順調なスタートを切ることができました。

 2022年度は、新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID-19」と記載します。)のワクチン普及等もあり、各国で「コロナ」との共生に取り組む試みが進むことが予想されます。一方で、世界経済は半導体不足や国際物流の混乱に加え、ロシア・ウクライナ情勢による原油・天然ガス等のエネルギーや、アルミを始めとした素材価格の高騰とサプライチェーンの混乱等で、世界的なスタグフレーション(景気後退局面におけるインフレーション)が懸念されています。このような状況下で、当社グループは全事業の収益力向上に努め、安定的なキャッシュ創出を進めるとともに、「ヘルスケア・高機能材料の成長加速と、持続的な成長を可能とする強靭な事業基盤の構築」を実現することで、事業ポートフォリオをより強固なものとし、この難局を乗り越えていきます。

 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等につきましては、次のとおりであります。

 

 

 

 

 

 

(単位:億円)

 

2021年度

2022年度

(次期の見通し)

対前年度

 

 

2023年度

(中期経営計画)

売上高

25,258

26,500

1,242

 

27,000

営業利益

2,297

2,450

153

 

2,600

当社株主帰属当期純利益

2,112

1,920

△192

 

2,000

ROE

9.0%

7.6%

1.4ポイント減

 

8.4%

ROIC

5.6%

5.7%

0.1ポイント増

 

6.1%

 

(2)対処すべき課題

「ヘルスケア部門の成長戦略」

 ヘルスケア部門では、メディカルシステム事業が売上成長を牽引し、増収・増益を確保します。ライフサイエンス分野では、中長期的に高い成長が見込めるバイオCDMO事業とライフサイエンス事業を重点事業化するとともに、最先端の治療薬創出を支援する企業としてワンストップで価値を提供し、事業拡大を目指します。また、COVID-19の拡大抑止に貢献していくために、回診用デジタルX線撮影装置や超音波診断装置等の各種医療機器の提供や、各製薬会社のワクチン等のプロセス開発・製造受託を引き続き進めていきます。

 メディカルシステム事業では、富士フイルムヘルスケア㈱とのグループ内再編、クロスセル等の各種シナジー効果の発出を進めていきます。2022年4月には、富士フイルムヘルスケア㈱との初のシナジー製品となる3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT Core(CT/MRI用)」を今夏に発売することを発表しました。また、当社は医療IT領域で「REiLI(レイリ)」ブランドのもと、医療現場のワークフローを支援するAI技術の開発と実用化を進めています。2022年6月には、3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT」のアプリケーションをクラウドで利用できるサービス「SYNAPSE VINCENT Cloud」を発売しました。さらに、国立がん研究センターと共同で開発したAI技術開発の研究基盤システムを用いて、プログラミング等の専門知識がなくても医師や研究者が自身で画像診断支援AI技術を開発できるクラウドサービス「SYNAPSE Creative Space」を2022年度中に開始予定です。これら最新のAI技術を搭載したITシステムとCT、MRI、X線診断装置、マンモグラフィー、超音波、内視鏡といった幅広いモダリティーを組み合わせた「AI・ITソリューションビジネス」のさらなる事業拡大を図っていきます。

 バイオCDMO事業では、バイオ医薬品市場で大きなシェアを占める米国・欧州の既存拠点で、抗体医薬品やホルモン製剤、遺伝子治療薬、ワクチン等様々なバイオ医薬品の生産プロセス開発から製剤化・包装までを、少量から大量生産まで一貫して受託できる「ワンサイト・ワンストップ」体制の整備を進め、成長するバイオ医薬品市場を上回る成長率で事業を拡大していきます。2022年4月には、米国バイオベンチャーAtara Biotherapeutics, Inc.の細胞治療薬製造拠点を買収し、バイオCDMO事業の中核会社であるFUJIFILM Diosynth Biotechnologiesのカリフォルニア拠点として始動させました。これにより、遺伝子改変細胞治療薬をはじめとする細胞治療薬の受託ビジネスも本格展開していきます。

 ライフサイエンス事業では、創薬支援材料分野において、FUJIFILM Cellular Dynamics, Inc.、FUJIFILM Irvine Scientific, Inc.、富士フイルム和光純薬㈱、さらに2022年3月に買収したShenandoah Biotechnology, Inc.等のグループ会社が連携し、創薬支援用ヒトiPSを始めとする細胞・培地・試薬をセットでグローバルに供給・販売することで、顧客に対してソリューションをワンストップで提供していきます。また、iPS細胞技術・ノウハウを生かした細胞治療薬分野においては、提携パートナーと治療製品の開発を加速させるとともに、開発・製造受託ビジネスを推進していきます。

 また、2022年2月より、ライフサイエンス領域のコーポレートベンチャーキャピタル(LS-CVC)を始動させました。最先端技術等を有する世界のバイオベンチャーを対象に、2026年までの5年間で70億円の出資枠を設けています。事業横断的な全体戦略を立案・推進する「ライフサイエンス戦略本部」が中心となり、アカデミアや企業との協業等を主導するビジネス戦略拠点「FUJIFILM Life Science Strategic Business Office」(米国)及び「FUJIFILM Life Science Strategic Business Office Europe」(欧州)と協働して、最先端の技術・ノウハウや革新的なビジネスモデルを有するバイオベンチャーにアプローチ、既存事業のさらなる強化や新規事業の創出を図っていきます。

 医薬品事業では、ナノ分散技術や解析技術、プロセス技術等の当社独自技術に加え、脂質ナノ粒子製剤の製造設備を活用し、次世代医薬品の核酸医薬品やmRNAワクチンのプロセス開発・製造受託ビネスを展開していきます。

 

「マテリアルズ部門の成長戦略」

 マテリアルズ部門では、高機能材料の中長期視点での新規事業開発に加え、同領域の顧客アプリケーション軸での事業ポートフォリオの構築・戦略マネジメントを組織横断的に行い、事業拡大を図っていくために「高機能材料戦略本部」を2021年10月に新設しました。

 電子材料事業では、AI、IoT、5Gの普及やDXの加速等により半導体需要は拡大し、さらに半導体の高性能化に必要とされる処理能力アップ・微細化・高集積化が進むとみられています。当社はこうした市場ニーズに応えるために、高性能化を支える材料開発や安定供給を目的とした設備投資をタイムリーかつ継続的に実施していきます。また、先端領域向けレジストを始め、多様なプロセス材料の新製品開発を進めラインアップを拡充し、顧客に一気通貫で提供することで、事業成長を加速させます。

 ディスプレイ材料事業では、液晶パネル向けのタック製品における強いマーケットポジションの維持に加え、薄膜・積層塗布技術を活用した差別化製品の開発と導入を進め、有機EL向け材料の高シェア維持や車載ディスプレイ向け等新規用途材料のビジネス拡大を推進していきます。

 産業機材事業では、タッチパネル用センサーフィルムの「エクスクリア」等、当社独自技術を活用した高機能製品の拡販を継続するとともに、光センサー、通信関連材料等積極的に新規ビジネスへの展開を行い、事業を拡大します。

 ファインケミカル事業では、特に成長性の高いライフサイエンス、エレクトロニクス、環境・エネルギーの3分野において、当社が有する「フロー合成」等の革新的製造プロセス技術により高品質な製品を生み出し、事業を拡大していきます。

 グラフィックコミュニケーション事業では、当社グループ内でのシナジー創出を加速し、顧客に対してさらなる価値をグローバルに提供していくため、2021年7月に、富士フイルム㈱の「グラフィックシステム事業部」と富士フイルムビジネスイノベーション㈱の「グラフィックコミュニケーションサービス事業本部」を統合して「グラフィックコミュニケーション事業部」を発足しました。2022年度は、商業印刷・パッケージ印刷を中心に富士フイルム㈱が有するグローバルな顧客基盤と、富士フイルムビジネスイノベーション㈱の販売力、技術・製品力を組合せ、デジタル印刷機(Print On Demand)の全世界での拡販、ブランドオーナー・印刷業向け各種DXソリューションの提供を加速していきます。

 

「ビジネスイノベーション部門の成長戦略」

 ビジネスイノベーション部門では、富士フイルムビジネスイノベーション㈱による、「FUJIFILM」ブランド新製品の拡充とグローバルでの拡販を進めていきます。加えて、DXソリューション・サービス拡販、複合機管理や基幹業務プロセスの役務代行サービス(BPOビジネス)でのDX戦略展開等によって、継続的な成長と事業ポートフォリオの変革を加速します。具体的には、オフィスでの顧客基盤を活かした在宅勤務需要の取り込みと文書管理に役立つソリューション・サービスの提供、中小企業向けのIT/セキュリティサービス強化を軸とした提供価値の拡大、富士フイルムRIPCORD合同会社による紙文書の電子化・処理を基盤としたデジタル業務プロセスサービスの拡大、及び富士フイルムデジタルソリューションズ㈱によるMicrosoft Dynamics 365を主力とした基幹システムの販売・導入支援等を通じて、顧客企業のDXに貢献していきます。

 

「イメージング部門の成長戦略」

 イメージング部門では、魅力的なインスタントフォトシステムやミラーレスデジタルカメラの新製品の発売、写真プリントの価値を伝えていくキャンペーン「プリントデイズ」による写真プリント需要の活性化、富士フイルムビジネスイノベーション㈱製プリンター機の展開拡大、プロジェクター・監視カメラといったB to B新規分野への展開等イメージングビジネスの拡大を進めます。また、デジタルカメラとプリントの連動商品や映像・写真コンテンツビジネス、撮像/画像処理ソリューションビジネス等の新しい商材も展開していきます。

 

「SVP2030の下での重点分野と取組み」

 当社は、「SVP2030」の下、「事業プロセスにおける環境・社会への配慮」と「事業を通じた社会課題の解決」の2つの側面から、4つの重点分野「環境」「健康」「生活」「働き方」と、事業活動の基盤となる「サプライチェーン」「ガバナンス」における各分野で設定した目標達成に向けた取組みを進めています。「環境」においては、国際社会共通の重要課題である気候変動への対応として、CO2排出削減に積極的に取り組んでいます。2021年12月には、新たなCO2排出削減目標を設定しました。新たな目標では、2040 年度までに自社が使用するエネルギー起因のCO2排出を実質的にゼロとすることを目指します。また、原材料調達から製造、輸送、使用、廃棄に至るまでの自社製品のライフサイクル全体において、2030 年度までにCO2排出量を50%削減(2019年度比)します。本目標は、パリ協定で定められている「1.5℃目標」に整合したものであり、この達成に向け、当社は新たな環境戦略“Green Value Climate Strategy”を策定しました。この戦略の骨子は、環境負荷の少ない生産活動“Green Value Manufacturing”と、優れた環境性能を持つ製品・サービス“Green Value Products”の創出・普及です。この戦略に基づき、2022年3月29日には、富士フイルム㈱は、東京ガス㈱、神奈川県南足柄市と「脱炭素社会の実現に向けた包括連携協定」を締結しました。これによりものづくりにおけるカーボンニュートラルモデルの確立を目指します。

 「健康」においては、2021年度に約70ヶ国まで拡大した医療AI技術を活用した製品・サービスの導入国を、2030年度には世界196の全ての国と地域に導入することを目標にしています。さらに、アンメットメディカルニーズへの対応や医療アクセス向上に資するバイオCDMO事業に係る資金調達手段として、2022年4月に国内社債市場では最大規模となる1,200億円のソーシャルボンド(社会貢献債)を発行しました。これにより高品質なバイオ医薬品の安定供給を通じて顧客である製薬企業をサポートし、アンメットメディカルニーズへの対応や医療アクセス向上等の社会課題の解決に貢献していきます。また、従業員の健康維持増進を、企業理念・目指す姿(ビジョン)を実践するための基盤となる経営課題ととらえて、健康経営を力強く推進しています。当社は、その取組みが評価され、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「健康経営銘柄」に2年連続で選ばれました。今後もヘルスケア事業を通じた社会課題の解決に取り組み、健康長寿社会の実現に貢献していきます。

※2022年3月時点。当社調べ。

 「働き方」においては、ビジネスに革新をもたらすソリューション・サービスの提供により、働く人の生産性向上と創造性発揮を支援する働き方を5,000万人に提供します。

 「ガバナンス」においては、コーポレート・ガバナンスを経営上の重要な課題と位置づけ、その強化に取り組んでいます。当社は誠実かつ公正な事業活動を通じて、当社グループの持続的な成長と企業価値の向上を図るとともに、社会の持続的発展に貢献することを目指していきます。

 

「2022年度グループ基本方針」

 当社グループの2022年度の経営方針は「“All-Fujifilm”でたゆまぬ挑戦を! 社会課題を解決するイノベーティブな「モノ」と「コト」を提供し、「稼げる力」を磨こう」です。新規市場創出・拡大に向け、マーケットニーズを的確に捉えることで新たな価値を持つ製品・サービスの開発・提供を推進します。社会課題の解決を事業成長の機会と捉え、持続可能な社会の発展に貢献するために、NEVER STOPの精神の下、当社傘下の全ての会社・組織・従業員の力を結集した“All-Fujifilm”で挑戦していきます。

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