研究開発活動

5 【研究開発活動】

 当社グループは、写真感光材料やドキュメント等の事業で培った材料化学、光学、解析、画像等の幅広い基盤技術のもと、機能性材料、ファインケミカル、エレクトロニクス、メカトロニクス、生産プロセス等の技術領域で多様なコア技術を有しています。現在、様々な分野でビジネスを展開している当社グループでは、これらの基盤技術とコア技術を融合した商品設計によって、重点事業分野への研究開発を進める一方、将来を担う新規事業の創出も進めています。富士フイルム㈱では、半導体材料やディスプレイ材料等の高機能材料の領域で事業成長をさらに加速させるため、2021年10月1日に「高機能材料戦略本部」を新設しました。同本部は、高機能材料領域における事業横断的な戦略機能を担う組織で、事業間のさらなる連携強化や、技術開発の共通テーマの策定、経営資源の最適化、M&A・提携等を推進し、中長期を見据えた、新規事業の開発と強固な事業ポートフォリオの構築を目指します。

 需要が増加するCOVID-19のワクチンや最先端医療分野である遺伝子治療薬等のバイオ医薬品の原薬生産能力を大幅に向上させるため、バイオCDMO事業の中核会社であるFUJIFILM Diosynth Biotechnologies(以下、「FDB」と記載します。)の欧米拠点に総額約900億円の大型設備投資を行います。遺伝子治療薬にも対応した設備とすることで、需要が増加しているCOVID-19ワクチンのみならず、最先端医療分野である遺伝子治療薬等の受託ニーズに応えていきます。

 また、富士フイルム㈱は米国バイオベンチャーAtara Biotherapeutics, Inc.(以下、「Atara社」と記載します。)の細胞治療薬製造拠点を約100百万米ドルで買収しました。今回の買収完了に伴い、本製造拠点を、バイオCDMO事業の中核会社であるFDBのカリフォルニア拠点として始動させました。今後、遺伝子改変細胞治療薬をはじめとする細胞治療薬の受託ビジネスを本格的に展開し、バイオ医薬品の開発・製造受託事業のさらなる拡大を図っていきます。このほか、細胞の増殖・分化・機能発現を促進するサイトカインの開発・製造・販売を行う米国バイオテック企業Shenandoah Biotechnology, Inc.(以下、「シェナンドーア社」と記載します。)を買収しました。今回の買収完了に伴い、富士フイルム㈱の米国子会社で培地のリーディングカンパニーであるFUJIFILM Irvine Scientific, Inc.(以下、「FISI」と記載します。)の子会社としてシェナンドーア社を始動させました。今後、FISIの培地技術とシェナンドーア社が有する、サイトカインの開発ノウハウを組み合わせて、目的の機能を発現する細胞を効率的に培養できる細胞治療用培地を開発していきます。培地・iPS細胞・研究用試薬にサイトカインを加えた製品ポートフォリオで顧客への総合提案力を高め、幅広いニーズに応えることで、市場が急伸する細胞治療薬の研究開発・製造支援ビジネスを拡大していきます。

※体外に取り出した細胞に治療用遺伝子を導入し作製した細胞を用いる細胞治療薬。

 このように当社グループでは、富士フイルム㈱、富士フイルムビジネスイノベーション㈱及びその他の子会社とのグループシナジーを強化するとともに、他社とのアライアンス、M&A及び産官学との連携を強力に推進し、新たな成長軌道を確立していきます。

 当連結会計年度における研究開発費の総額は150,527百万円(前年度比1.1%減)、売上高比6.0%となりました。各セグメントに配賦していない汎用性の高い上記基盤技術の強化、新規事業創出のための基礎研究費は23,638百万円です。

 当連結会計年度の研究開発の主な成果は次のとおりであります。

(1)ヘルスケア セグメント
 メディカルシステム事業では、心臓の拍動によって生じる画像のブレを低減する技術Cardio StillShotと画像処理速度を向上させるFOCUS Engineを新たに搭載し、さらなる高画質画像の提供、心臓検査の効率化に貢献するマルチスライスCTシステム「SCENARIA View Plus」を発売しました。富士フイルム㈱と名古屋大学医学部附属病院は共同で、院内の様々な部門システムで管理している診療データを基に、AI技術を用いて、肺炎入院患者の経過を高精度に予測する技術を開発しました。今後、本技術を実用化することで、個別化医療の推進と病院経営の効率化を支援していきます。また、当社は、外科手術用内視鏡システム等に応用して組織の酸素飽和度を画像化できる、酸素飽和度イメージング技術を開発しました。加えて、胸部CT画像に新型コロナウイルス肺炎(以下、「COVID-19肺炎」と記載します。)の特徴的な画像初見が含まれている可能性(以下、「確信度」と記載します。)の表示及び確信度の判定に寄与した領域のマーキング表示により、医師の診断を支援するソフトウェア「COVID-19肺炎画像解析プログラム」(以下、「本ソフトウェア」と記載します。)をAI技術を活用して開発し、薬機法における製造販売承認を取得しました。本ソフトウェアを、当社の3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT(シナプス ヴィンセント)」向けのアプリケーションとして発売しました。また、新型コロナウイルスに対する抗体の有無を調べる抗体測定用試薬「アキュラシード COVID-19 抗体」(研究用試薬)、及び、新型コロナウイルス抗原を定量的に測定する「アキュラシード SARS-CoV-2 抗原」(体外診断用医薬品)を発売しました。

 バイオCDMO事業では、FDBの新拠点である米国ボストン拠点にて、遺伝子治療薬のプロセス開発の受託サービスを開始しました。FDBの米国テキサス・英国拠点に続き、米国ボストン拠点でも遺伝子治療薬の受託ビジネスを展開することで、最先端治療分野の顧客ニーズに応え、バイオCDMO事業の成長を加速させるとともに、高品質なバイオ医薬品の安定供給を通じて顧客をサポートすることで、アンメットメディカルニーズへの対応等の社会課題の解決、ヘルスケア産業のさらなる発展に貢献していきます。

 ライフサイエンス事業では、バイオ医薬品の需要増等に対応するため、細胞培養に必要な培地の新工場を2021年12月8日より稼働させました。新工場は、当社欧州拠点のFUJIFILM Manufacturing Europe B.V.に投資して建設したもので、cGMPに準拠した最新鋭工場です。新工場稼働を通じて、培地の生産能力を増強するとともに、日米欧3拠点のグローバル生産体制を確立し、顧客の創薬・医薬品製造をより強力にサポートしていきます。また、バイオ医薬品等の研究開発・製造を行う製薬企業が集積する中国・蘇州高新区に、培地のカスタマイズサービス拠点「Innovation & Collaboration Center」を新設し、日本・米国に続き、中国における営業・技術サポート体制を一層強化することで、顧客満足度のさらなる向上を図ります。

 医薬品事業では、進行性固形がんを対象とし、リポソーム製剤「FF-10832」とMerck & Co., Inc., Rahway, N.J., U.S.A.(米国とカナダ以外ではMSD)の抗PD-1抗体「キイトルーダ®」(一般名:ペムブロリズマブ(遺伝子組換え))の併用療法を評価する臨床第Ⅱa相試験を開始しました。引き続き、独自技術を活用して、リポソームや脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparticle)等のドラッグ・デリバリー・システム(以下、「DDS」と記載します。)技術の研究開発、DDS技術を用いた新薬開発に取り組んでいきます。

 コンシューマーヘルスケア事業では、湿度の低下による刺激で角層水分量とバリア機能が低下することを実証し、肌荒れが生じる一因を解明しました。また、本研究では、肌チャ葉エキスに角層中の重要なバリア関連因子であるアシルセラミド産生酵素の発現促進効果と肌のバリア機能に重要なアシルセラミドの産生を補うことで「刺激にゆるがない肌」へ導く新しいスキンケアの可能性を見出しました。当社は、今回の研究成果を化粧品の開発に応用し、乾燥肌や敏感肌をケアする若年層向けのスキンケアブランド「cresc. by ASTALIFT」を新たに展開し、独自のナノ分散技術で微粒子化した「Wヒト型ナノセラミド」と「チャ葉エキス」を配合したジェリー状化粧液「ジェリーコンディショナー」とクリーム状乳液「モイスチュア リッチミルク」を発売しました。

 本部門の研究開発費は、45,289百万円となりました。

 

 当社グループにおける新薬開発状況は次のとおりであります。(2022年6月現在)

開発番号

薬効・適応症

剤形

地域

開発段階

T-705

抗新型コロナウイルス(COVID-19)薬

経口

日本

承認申請中

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)治療薬

経口

日本

PhⅢ

T-817MA

アルツハイマー型認知症治療薬

経口

米国

日本

欧州

PhⅡ

PhⅡ

PhⅡ

脳卒中後のリハビリテーション効果促進薬

経口

日本

PhⅡ

T-4288

新規フルオロケトライド系抗菌薬(耳鼻咽喉科感染症)

経口

日本

承認申請中

新規フルオロケトライド系抗菌薬(呼吸器感染症)

経口

日本

PhⅢ

FF-10501

骨髄異形成症候群治療薬

経口

日本

米国

PhⅠ

PhⅡ

FF-10502

進行・再発固形がん治療薬

注射

米国

PhⅡ

FF-10832

進行性固形がん治療薬(ゲムシタビンリポソーム)

注射

米国

PhⅠ

FF-10850

進行性固形がん治療薬(トポテカンリポソーム)

注射

米国

PhⅠ

 

(2)マテリアルズ セグメント

 記録メディア事業では、大容量データのバックアップやアーカイブに最適な「FUJIFILM LTO Ultrium9 データカートリッジ」(以下、「LTO9」と記載します。)を発売しました。当社独自の「NANOCUBIC技術」によって微粒子化したバリウムフェライト磁性体を均一に分散し、テープ表面のうねりや厚みムラのない平滑な薄層磁性層を塗布し、従来のLTO8の1.5倍となる最大記録容量45TB(非圧縮時18TB)を実現するとともに、最大1,000MB/秒(非圧縮時400MB/秒)の高速データ転送も可能で、高い利便性を発揮します。また、LTO9で実現した高容量は、IoT・DXの進展に伴い急増するデータストレージ需要に応えるとともに、世界的に対応が急務となっているCO2排出削減に貢献します。

 グラフィックシステム事業では、軟包装印刷の最終段階で必要なクライアント立ち会いによる印刷品質確認をモニター上で高精度に行える「遠隔色校正システム」を発売しました。当システムはモニター上での高精度の色調確認が可能であり、軟包装印刷における品質合意のための新たな手段を提供するソリューションとして、立ち合いに関わる業務負荷の軽減、時間・コストの削減に貢献します。当社は、今後も軟包装をはじめとするパッケージ分野の課題解決に貢献するため、さらなるソリューションの拡充に取り組んでいきます。

 インクジェット事業では、色素を用いず、光の反射によって生じる発色現象である構造色を発現させ、意匠性の高い加飾印刷を可能にする「構造色インクジェット技術」を新たに開発しました。本技術は当社の分子制御技術を応用し、フィルム基材上に吐出したインク内に微細な構造を形成して発色させるものです。色味の異なる構造色を発現するインクを複数種用意し、その組み合わせやインクの濃度を調整しながら、構造色のパターンやグラデーション等を自在に描画することで、高い意匠性を実現します。当社は、産業用インクジェット市場における多様な用途やお客さまのニーズに応じて、今後も画期的な製品を開発・提供し、様々な産業の発展に貢献していきます。

 本部門の研究開発費は、39,912百万円となりました。

 

(3)ビジネスイノベーション セグメント

 オフィスソリューション事業では、デザインを一新、セキュリティ機能を強化した「FUJIFILM」ブランドのデジタルカラー複合機及びプリンター「ApeosPro/Apeos C/ApeosPrint」シリーズの新製品を発売しました。グラフィックコミュニケーション事業領域では、プロダクションプリンターの新ブランド「Revoria」シリーズ2機種をワールドワイドで販売開始しました。富士フイルム㈱の海外拠点や有望な代理店を活用した販路の拡大により、新規のOEM供給を含め、グローバル展開をさらに加速していきます。

 ビジネスソリューション事業では、2022年1月に買収が完了したHOYAデジタルソリューションズ㈱が「富士フイルムデジタルソリューションズ㈱」として、新たに事業活動を開始しました。今後、Microsoft Dynamics 365を主力とした基幹システムの販売及び導入支援サービスを進めます。また、請求書支払業務デジタル化ソリューション「Esker on Demand AP」がJIIMA「電帳法スキャナ保存ソフト法的要件認証、電子取引ソフト法的要件認証」を取得しました。さらに、Withコロナ時代の働き方改革に向け、場所の制約なくリアルタイムに文書の「作成」「閲覧」「共有」が行える新クラウドサービス「DocuWorks Cloud」を提供開始しました。個室型ワークスペース「CocoDesk」は、ショッピングモールや関西圏にも設置場所を拡大し、総設置台数100台となりました。

 今後も、富士フイルムグループのシナジーを加速し、革新的な商品やサービスをさらに多くのお客様にお届けします。

 本部門の研究開発費は、33,226百万円となりました。

 

(4)イメージング セグメント

 フォトイメージング事業では、スマホで撮影した画像を、通常のカードサイズのチェキプリントの2倍の大きさとなるワイドフォーマットフィルムにプリントできるスマートフォン用プリンター“チェキ”「instax Link WIDE」やインスタントカメラinstax(インスタックス)シリーズの最上位機種として、カードサイズのミニフォーマットフィルムに対応したハイブリッドインスタントカメラ“チェキ”「instax mini Evo」を発売しました。

 光学・電子映像事業の電子映像分野では、35mm判の約1.7倍となるラージフォーマットセンサーを採用したミラーレスデジタルカメラ「GFXシリーズ」の最新モデルとして、質量約900gの小型軽量ボディに、約5,140万画素センサーや強力な手ブレ補正機構を搭載し高速画像処理エンジン等による高性能AFも備えた「FUJIFILM GFX50S II」を発売しました。また、独自の色再現技術による卓越した画質と小型軽量を実現する「Xシリーズ」の最新モデルとして、ミラーレスデジタルカメラ「FUJIFILM X-T30 II」を発売しました。光学デバイス分野では、新開発デジタル・ドライブユニット「S10」を搭載したポータブルタイプの「FUJINON」放送用ズームレンズ(18機種)を販売しました。また、新たな防振機構と超高倍率107倍ズームを備え、撮影機能の高いカスタマイズ性も実現した4K対応放送用レンズ「FUJINON UA107x8.4BESM」を発売しました。

 本部門の研究開発費は、8,462百万円となりました。

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