当社グループは当社(株式会社リプロセル)、米国子会社のREPROCELL USA Inc.、英国子会社のREPROCELL Europe Ltd.、インド子会社Bioserve Biotechnologies India Pvt. Ltdなどの連結子会社5社及び関連会社2社により構成されております。
当社の中核事業領域であるiPS細胞は、山中伸弥教授によるヒトiPS細胞の発明以降、世界中で研究が盛んに行われております。
最近では、iPS細胞を活用した病態解明や再生医療への応用など、実用的な研究開発が多く行われるようになりました。2017年には、希少難病の患者から作製したiPS細胞を活用して病態を解明し、新薬候補の治験へつなげた事例が報告され、さらに、再生医療に関しても、iPS細胞を使った加齢黄斑変性、パーキンソン病、虚血性心筋症、脊髄損傷等の臨床研究及び治験が進められております。
当社では、前者のようにiPS細胞を病態解明や創薬研究に使用する事業を「研究支援事業」、後者の再生医療を「メディカル事業」と位置付け、二つのセグメントに分け、推進しております。
短中期的な収益の柱である「研究支援事業」と、中長期的な成長事業である「メディカル事業」の両方を組み合わせることで、短期→中期→長期と、持続的な成長を目指します。
事業内容 |
内容 |
研究支援事業 |
研究支援事業では、大学/公的研究機関を主要顧客とする(1)研究用製品の製造販売と、製薬企業等が中心の(2)研究受託サービス、及び(3)細胞測定機器の販売を実施しています。
(1) 研究用製品 研究用製品は研究試薬と細胞に分けられます。 研究試薬:培養液、抗体、リプログラミング試薬、成長因子など、iPS細胞の研究に使用する試薬を販売しております。当社の研究試薬はiPS 細胞に特化している点が特徴です。当社の初期製品である「Primate ES Cell medium」は、京都大学の山中教授が世界で初めてヒトiPS細胞の作製に成功した際に使用されていた培養液であり、その後、日本の研究者の間でスタンダードとなりました。 細胞:REPROCELL USAでは、がん細胞、血液、血清など60万個のヒトの生体試料のバンクを保有しており、製薬企業を中心に研究用資材として提供しております。また、顧客ごとのカスタムコレクションも行っております。
(2) 研究受託サービス 研究受託サービスでは、iPS細胞関連の受託サービスと、ヒトの生体試料を用いた創薬試験受託を実施しています。 iPS細胞サービス:顧客ごとにカスタマイズし、付加価値の高いサービスを提供しております。iPS細胞患者由来疾患モデル、iPS細胞遺伝子編集、各種分化誘導など、技術難易度が高く付加価値の高いサービスを中心に実施しています。 創薬試験受託:手術等で得られた余剰のヒトの組織を使って新薬候補化合物の薬効薬理試験を行っております。REPROCELL EuropeはGLP(Good Laboratory Practice: 医薬品の非臨床試験の安全性に関する信頼性を確保するための基準)に準拠した施設を保有しており、信頼性の高いサービスを実施しております。
(3) 細胞測定機器 Axion BioSystems社(米国)の細胞測定機器及びBlacktraceHoldings社(英国)のシングルセル解析機器の日本国内での販売をしております。これらの機器では、当社の細胞を効果的に測定できるため、創薬スクリーニング技術として総合的なソリューションを顧客に提供しております。 |
事業内容 |
内容 |
メディカル事業 |
メディカル事業では、(1)再生医療の研究開発、(2)臨床用iPS細胞サービス、(3)臨床検査受託サービスを実施しております。
(1) 再生医療の研究開発 再生医療では、台湾のステミネント社から導入したステムカイマルと、iPS細胞から作製するiPS神経グリア細胞の2つの再生医療製品の開発を行っております。 ステムカイマル:ステムカイマルは脊髄小脳変性症を対象とした再生医療製品であり、症状の進行を抑制する効果が期待されています。ステムカイマルは、腕の血管から静脈注射(点滴)で投与するため、侵襲性が低い治療法になります。現在、日本で第II相臨床試験を実施 しています。 iPS神経グリア細胞:筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び横断性脊髄炎を対象とした研究開発を進めております。現在、前臨床試験を実施しており、製造施設として、再生医療用の細胞加工施設「殿町・リプロセル再生医療センター」を保有しております。
(2) 臨床用iPS細胞作製サービス 最先端の「RNAリプログラミング技術」を利用し、安全性が高く、臨床応用に最適な臨床用iPS細胞を作製します。 製薬企業向けとして「GMP-iPS細胞マスターセルバンク」、個人向けとして「パーソナルiPS」の二つのサービスがあります。
(3)臨床検査受託サービス 2005年に衛生検査所として登録して以来、医療機関向けに各種の臨床検査の受託サービスを実施しています。主要検査項目は、新型コロナウイルスPCR検査、免疫拒絶に関わるHLAタイピング及び抗HLA抗体検査になります。 |
iPS細胞技術プラットフォームと事業セグメント
(1) 研究支援事業
研究支援事業では、大学/公的研究機関及び製薬企業等を顧客として、研究試薬や細胞などの研究用製品、iPS細胞作製受託などの研究サービス、及び細胞測定機器を提供しております。研究用途であるため、医薬品のような製造販売承認は必要とされず、新しい技術を比較的短期間で事業化し収益を上げることができる特長があります。
現在、世界中の製薬企業では、動物愛護の観点や、ヒトと動物の種の違いによる試験結果の差といった問題点などから「動物実験からヒト細胞実験」への大きなシフトが進んでいます。今後、ヒト細胞実験が普及することで、これまで十数年かかっていた新薬開発のプロセスが大幅に短縮され、さらに、従来と比べて性能の高い新薬が開発できることが期待されています。中でもヒトiPS細胞はその中心的存在として注目を集めており、例えば、アルツハイマー病患者から作製したiPS細胞を研究で使うことで、アルツハイマー病の病態解明及び新薬開発が加速されると期待されています。
当社グループでは、RNAリプログラミング技術及び各種細胞への分化誘導技術など、ヒトiPS細胞に関する世界最先端の技術プラットフォームを保有しており、さらに、がん細胞やヒト組織を医療機関から調達する幅広いネットワークも保有しております。これら技術優位性の高い「ヒト細胞ビジネスプラットフォーム」を最大限活用することで、上記の「動物実験からヒト細胞実験」へのシフトを先取りした事業を進めております。具体的には、iPS細胞研究用の研究試薬製品、患者の組織からiPSを作製する病態モデル細胞の作製、ヒト組織を用いた新薬の薬効薬理評価、ヒト生体試料のバンキングなどがあります。
iPS細胞の研究は、これまで大学や公的研究機関での基礎研究が中心でしたが、最近は、製薬企業での創薬研究が増えております。製薬企業では、研究を外注することも多いため、当社では、iPS細胞作製、遺伝子改変、各種分化誘導等の研究受託サービスを中心に展開しております。
上記の研究用製品及び研究サービスに加え、Axion BioSystems社(米国)の細胞測定機器、及びBlacktrace Holdings社(英国)のシングルセル解析機器などの研究機器の販売を行っております。これらの機器は、当社のiPS細胞及び疾患モデル細胞を創薬スクリーニングに応用するためのものであり、細胞と機器を一元化して販売することで、総合的なソリューションを顧客に提供しております。
今後とも、研究支援事業を短中期事業の収益の柱として積極的に推進してまいります。
研究支援事業の事業系統図
(2) メディカル事業
再生医療分野においては、ヒト体性幹細胞やヒトiPS細胞の臨床応用を目指した研究が世界中で盛んにおこなわれており、将来、再生医療製品がグローバルで巨大産業に成長することが見込まれています。
当社のメディカル事業では、現在、脊髄小脳変性症を対象とした再生医療製品ステムカイマル及び、筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び横断性脊髄炎を対象としたiPS神経グリア細胞の研究開発を進めております。さらに、2021年3月期には、GMP-iPS細胞マスターセルバンク、パーソナルiPS、新型コロナウイルスPCR検査などの新規事業を立ち上げており、今後、これら新規事業も含め重点的に強化してまいります。
(a) 体性幹細胞製品 ステムカイマル
ヒト細胞加工製品ステムカイマルは台湾のSteminent Biotherapeutics Inc.(以下、ステミネント社)が開発した再生医療製品であり、当社は脊髄小脳変性症を対象とした日本における独占的商業ライセンス契約を締結しております。
脊髄小脳変性症は、小脳や脳幹、脊髄の神経細胞が変性してしまう事により、徐々に歩行障害や嚥下障害などの運動失調が現れ、日常の生活が不自由となってしまう原因不明の希少疾患です。ステムカイマルによる症状の進行抑制効果が期待されています。ステムカイマルは、腕の血管から静脈注射(点滴)で投与するため、侵襲性が低い治療法になります。
日本国内で、第II相臨床試験を実施しており、2020年2月に第1例目の被験者への投与を開始し、2021年5月に予定通り全被験者への投与が完了いたしました。
本治験では、「多施設共同、プラセボ対照、ランダム化、二重盲検、並行群間比較」という非常にエビデンスレベルが高いデザインを採用しており、今後、安全性と有効性について評価を行い、早期の製造販売承認の取得を目指します。
台湾では、ステミネント社が第II相臨床試験を完了しており、これまでに重篤な安全性の問題は見られていないことが確認されています。米国でも、ステムカイマルの治験計画届(IND)がFDAの承認を得ております。
また、日本では、2018年12月に厚生労働省による大臣承認を経て、希少疾病用再生医療等製品として指定されており、開発に係る経費の助成金(最大50%)、優遇税制措置、及び優先審査等の支援措置を受けることができるようになっております。
当社では、病気と闘っている患者様へ少しでも早く新しい治療法が届けられるよう、本プロジェクトを積極的に推進してまいります。
(b) iPS神経グリア細胞製品
iPS細胞から神経グリア細胞を作製し、各種神経変性疾患に対するiPS細胞再生医療製品として研究開発を行っております。本プロジェクトを加速させるため、2018年4月に、米国Q Therapeutics Inc.(キューセラピューティクス、以下、Qセラ社)との間で合弁会社「株式会社MAGiQセラピューティクス」を設立いたしました。Qセラ社は中枢神経系の再生医療に特化したベンチャー企業であり、Qセラ社の創業者である、Mahendra Rao博士はアメリカ国立衛生研究所(NIH)再生医療センターの初代ディレクターも務めた、神経幹細胞の世界的に著名な研究者です。合弁会社では、当社のiPS細胞技術とQセラ社の中枢神経系の技術を組み合わせることで、iPS神経グリア細胞の開発を加速しております。
当期においては、iPS神経グリア細胞を用いた前臨床試験(動物実験)を公益財団法人実験動物中央研究所と実施し、また、iPS神経グリア細胞の製造のため「殿町・リプロセル再生医療センター」(神奈川県ライフイノベーションセンター内)の整備を進め、2021年3月に厚生労働省関東信越厚生局より再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づき「特定細胞加工物製造許可」(施設番号:FA3200006)を取得しております。
(c) 臨床用iPS細胞作製サービス
iPS細胞による再生医療の研究開発は世界中で精力的に行われており、日本でも、加齢黄斑変性、パーキンソン病、虚血性心筋症等の臨床研究及び治験が進められています。再生医療に用いるiPS細胞には高い安全性と品質、さらに各国の医療ガイドラインに準じることが必要とされます。
安全性の高いiPS細胞を作製するためには、iPS細胞を作るプロセスである「リプログラミング」が重要になります。リプログラミング技術は様々報告されていますが、当社では遺伝子変異リスクを最小化し、外来遺伝子やウイルス残存リスクのない最先端の「RNAリプログラミング技術」を開発・保有しております。本技術を利用することで、臨床応用に最適なiPS細胞を作製することができます。
2021年3月期に、製薬企業向けとして「GMP-iPS細胞マスターセルバンク」、個人向けとして「パーソナルiPS」の2つの新規事業を立ち上げました。
「GMP-iPS細胞マスターセルバンク」では、医薬品製造の規制であるGMP(Good Manufacturing Practice)に準拠してiPS細胞を大量製造し、再生医療製品の出発材料として製薬企業等に提供します。日米欧の規制に準拠していることが強みになります。
「パーソナルiPS」は、将来の疾患に備え、個人のiPS細胞を作製し保管するサービスです。個人のiPS細胞を予め作製することで、治療までの期間を短縮でき、さらに免疫拒絶のない移植治療を実現します。
(d) 臨床検査受託サービス
2005年に衛生検査所として登録して以来、臓器移植に関わるHLAタイピング及び抗HLA抗体検査等の臨床検査を実施しており、2021年3月には、新型コロナウイルスPCR検査を開始いたしました。当社のPCR検査は、オミクロン株やデルタ株など複数の変異株を1~2時間程度の短時間で特定できることを特徴としており、医療機関、法人、調剤薬局、大手ECサイト等へ、幅広く販売しております。
インド子会社では、無侵襲型出生前検査、及び、がんのコンパニオン診断サービスを実施しております。
メディカル事業のパイプライン
(参考情報)
※1:筋萎縮性側索硬化症(ALS)
体を動かすための神経系(運動神経)が変性してしまい、筋力の低下による運動障害や嚥下障害等の症状があらわれる病気です。運動神経のみが変性するため、意識や五感は正常であり、知能の低下もありません。病状の進行が極めて速い一方で、有効な治療法は確立されていません。日本では指定難病とされており、国内患者数は約1万人とされています。
※2:横断性脊髄炎
脊髄の一部分が横方向にわたって炎症を起こすことによって発生する神経障害です。通常、腰部の痛み、筋肉衰弱、つま先や脚の異常な感覚などの症状が突然発症することで始まり、その後急速に、麻痺や閉尿や排便制御の喪失などの深刻な症状がみられます。原因は特定されておらず、有効な治療法は確立されていません。国内患者数は約1.5万人とされています。
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