課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。

 

(1) 経営方針

スマートフォン等のデバイスが浸透し、ありとあらゆるものがIoT化された世界では、インターネット(オンライン)上の“デジタル行動”のみならず、実世界での“リアル行動”も含めた行動分析に基づき、自分の身の回りの環境が自分のことをもっとよく理解してくれる“環境知能”を前提としたマーケティングコミュニケーションから、新たなビジネス価値が生まれます。当社は、「心地よい未来を、データとつくる。」というミッションを掲げ、実社会のデータを解析し、リアルとデジタルが融合した「環境知能」を未来に実装します。さまざまな不便を解消するのはもちろん、地域や交通における社会課題までも改善させ、生活のUX(注1)を心地よくしていきます。

私たちは、未来のメガネで社会を見つめ、より多様な選択肢や出会いにあふれる時代の“うねり”をつくりだします。

 

(注) 1.UX(ユーザーエクスペリエンス)とは、ユーザがプロダクトやサービスを通して得られた体験を表す言葉です。

 

(2) 経営環境

① 市場規模、市場動向について

当社では主にリテールDXやスマートシティ領域にてリアル行動ビッグデータを活用し、マーケティングや街づくりに必要なサービスを提供しており、当社の属する日本の小売・流通におけるリテールDX市場は2019年に5,627億円だったものが2030年には8,737億円(注2)に成長することが見込まれております。店舗ファシリティ、支払・セルフ操作端末、AI(人工知能)ソリューションが主要サービスとなっており、特に、AI(人工知能)ソリューション(AIを活用してデータ分析や需要予測ができるシステムやサービス)は、来店客や店内の画像解析や、基幹データの活用の展開が進み、2030年には2019年対比で4.5倍の市場規模になる見通しとなっております。

人流と親和性の高いスマートシティIoTの世界市場はスマートシティに対する各国政府の主導等により2020年以降年率20.4%で成長し、2030年には171兆円(注3)となることが想定されていることから、当社の属する市場は今後も拡大すると考えております。なお、国内において人流・センサーデータ等を集約する都市OS(注4)は、2020年度から始まり、2030年度には実装エリア数が335(注5)に急増していく見込みであります。

 

(注) 2.株式会社富士経済「リテールテック関連機器・システム市場の将来展望 2019」の小売、外食、宿泊業向け機器、システム&サービスの2030年市場規模

3.Report Ocean「IOT IN SMART CITIES: GLOBAL MARKET 2020-2030 BY OFFERING (HARDWARE, SOFTWARE, SERVICES), PRODUCT TYPE, TECHNOLOGY, APPLICATION (CITIZEN SERVICE, TRANSPORTATION, UTILITIES, HOME & BUILDING), AND REGION」

4.防災や交通、エネルギー、観光、ヘルスケアなど、都市のさまざまな分野のデータを蓄積・分析し、他の自治体や企業、研究機関などと連携可能なプラットフォーム

5.株式会社矢野経済研究所「国内スマートシティ市場、都市OS実装エリア数を予測(2020年)」(2020年10月26日発表)

 

②  競争優位性について

当社は独自特許や独自AIによる技術優位性を活かし、ネットワーク効果を持つビーコンプラットフォームや業務効率性の高いプロダクトを開発しており、競争優位性の源泉はビーコンシェア・次世代IoTの技術特許や独自AIの開発による「位置情報に関する技術優位性」、強いネットワーク効果を有するビーコンプラットフォーム、ワンストップでの施策実行や業界を牽引するプライバシー対応による「プラットフォームの優位性」の2点に起因していると考えております。その結果として、当社は屋外・屋内のシームレスなデータから生活者の行動を予測し、リアルタイムに必要な情報をレコメンドできる各種サービス提供を可能としており、競合サービスとは違う優位性を構築しております。今後長期的な成長を続けるべくさらなる競争優位性を確保するため、位置情報ビッグデータを徹底的に科学し、ユーザの状況推定(注6)やペルソナ推定(注7)、店舗の混雑状況や来店者予測等のAIアルゴリズムを開発してまいります。また、位置情報に関連する他データ(購買データ・オンラインデータ等)との掛合せによる、広告効果測定、品揃え予測、キャッシュレスの推進等の先進的かつ高度な用途にも挑戦してまいります。

 

(注) 6.徒歩・自動車・電車などの移動手段、日常・非日常の活動状況等を推定。

7.サービス・商品の典型的なユーザ像のこと。

 


 

※1 OMO(Online Merges with Offline):オンラインとオフラインを融合した顧客体験の向上を目的とするマーケティング手法

 

③ 主要製品・サービスの内容について

当社の主要なサービスの内容につきましては、「第1 企業の概況 3 事業の内容 (2)サービスの内容」に記載しております。

 

④ 顧客基盤及び販売網について

当社は主に、小売事業者、商業施設運営事業者、消費財メーカー、自治体向けにサービスを提供しており、当社からの直接の営業アプローチに加えて、業務提携先からのご紹介等を通じて受注をおこなっております。

 

(3) 中期的な経営戦略

① 小売・外食を中心とした顧客数×単価×NRRの最大化(継続的なサービス提供店舗数の拡大)

当社は、2019年6月期から2022年6月期において、リカーリング顧客数(注1)の年平均成長率(CAGR)は45%向上、リカーリング年間顧客単価の年平均成長率(CAGR)は16%向上しています。今後の成長戦略としては、リカーリング顧客数の向上のため、パートナープログラムを新設し導入数に応じたサポートやパートナー教育の充実を図るとともに、認知向上ため動画プロモーションやイベント出店、共同セミナー等を実施し広告宣伝活動を強化する予定です。またカスタマーサクセス体制の拡充および成功事例の蓄積から「ノウハウのパターン化」の社内共有を行いリカーリング年間顧客単価の向上させる施策を行ってまいります。加えて顧客売上につながる「AI・自動化技術開発による提供価値向上」の強化を行い、重点顧客に対しては複層的な顧客リレーションを構築し経営・現場双方での関係構築を強化し、解約を低減することで、継続的なサービス提供対象店舗数の拡大と、NRR(注2)の維持を目指しています。

 

(注) 1.4四半期以上連続で取引のある顧客企業および、直近3ヶ月以上連続で取引のある新規顧客企業

2.ネットレベニューリテンションレート(前期以前に獲得したリカーリング顧客の当期売上高)÷(当該顧客の前期売上高)

 

② 消費財メーカーをターゲットとした店頭での行動変容サービスへの進化(リテールメディア戦略)

購買に直結する店頭プロモーションを可能とするため、主に小売・外食向けに提供しているサービスを消費財メーカー(主に食品、日用品、化粧品家電メーカー等)に展開し、プロモーション費用を獲得していきます。

 

③  都市の可視化・行動変容への応用(展開する都市OSの拡大)

今後立ち上がる都市OS(注1)からの利用料、次には都市サービス事業者のエコシステム化による収益分配の獲得を目指してまいります。さらに日本版モデルとノウハウをグローバルに展開していくことを見据えています。当社は、これまで国・自治体のスマートシティ案件(注2)において、要件に合わせて分析や施策を実施してきました。その知見や技術を転用し、都市OSで必要となる「分析・可視化」「行動変容」「One to One」サービスを国内・グローバルで提供することを目指してまいります。

 

(注) 1.防災や交通、エネルギー、観光、ヘルスケアなど、都市のさまざまな分野のデータを蓄積・分析し、他の自治体や企業、研究機関などと連携可能なプラットフォームのこと

2.スマートシティにおけるこれまでの展開実績としては以下のような事例がございます。

a.脱炭素

富山市においてウォーカブルな街づくりに向けて駅周辺部の徒歩行動等の移動実態を可視化

b.オーバーツーリズム解消

鎌倉市において課題である道路混雑解消に向けて、移動手段別の移動実態を可視化・定量化

c.混雑可視化

東京丸の内において、従来では困難であった地下移動者や、ビルの階層別混雑等を3Dで可視化、都市防災への活用を提言

d.地方創生

宮崎市において、地域の店舗間で相互送客を行う仕組みを構築、地域消費増加に寄与。結果として、地銀・DMO(観光地域づくり法人)での導入が促進

e.海外

三菱商事株式会社との資本業務提携におけるグローバル化推進の一環で、インドネシア・ジャカルタ近郊のBSDシティで初号プロジェクトを推進

f.その他国内実績

長崎県大村市、福岡市、大阪市、箱根町、横浜みなとみらい等での関連実績

 

 

 

(4) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標

当社の顧客は、より高い効果を得るため、当社が展開する3つのサービス(分析・可視化サービス、行動変容サービス、One to Oneサービス)を横断的かつ継続的に活用していただいております。このように継続的に取引いただいている顧客について、当社では、①4四半期以上連続で取引のある顧客企業、及び②直近3ヶ月以上連続で取引のある新規顧客企業を「リカーリング顧客」と定義しております。

当社では、持続的な成長と企業価値向上を目指しており、直近では拡大する市場を積極的に取り込むべく売上高の成長率と、それを支えるリカーリング顧客に関する指標(リカーリング顧客売上高、リカーリング顧客売上高比率、リカーリング顧客数、リカーリング顧客平均売上高、NRR)を重視しております。直近における各サービス別の売上高成長率及びリカーリング顧客に関する指標は以下のとおりであります。

        (千円、社)

サービス名/リカーリング顧客関連指標

第4期事業年度

(自 2018年7月1日

至 2019年6月30日)

第5期事業年度

(自 2019年7月1日至 2020年6月30日)

第6期事業年度

(自 2020年7月1日至 2021年6月30日)

第7期事業年度

(自 2021年7月1日

至 2022年6月30日)

分析・可視化

サービス

108,101

193,816

79.3%

190,585

△1.7%

503,614

164.2%

行動変容

サービス

138,631

274,229

97.8%

388,219

41.6%

576,608

48.5%

One to One

サービス

66,622

109,218

63.9%

204,213

87.0%

366,103

79.3%

売上高合計

313,355

577,264

84.2%

783,018

35.6%

1,446,325

84.7%

リカーリング顧客

売上高

260,217

485,391

713,547

1,247,950

リカーリング顧客

売上高比率

83.0%

84.1%

91.1%

86.3%

リカーリング顧客数

16

21

37

49

リカーリング顧客

平均売上高

16,263

23,113

19,285

25,468

NRR(※)

148.0%

150.7%

110.4%

160.1%

 

※サービス別売上高の上段は売上高、下段は売上高成長率を記載しております。

※ネットレベニューリテンションレート(前期以前に獲得したリカーリング顧客の当期売上高)

÷(当該顧客の前期売上高)

 

(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 

① 安定的売上の確保

安定的な収益基盤を確立するため、リアル行動分析・可視化ツールをSaaSとして導入する企業を拡大し、そこから出てきた顧客課題を積極的に提案することで、行動変容サービス及びOne to Oneサービスをクロスセルし、顧客に継続的にサービスを利用していただくことが重要であります。当社では、継続的に取引いただいている顧客について、4四半期以上連続で取引のある顧客企業および、直近3ヶ月以上連続で取引のある新規顧客企業を「リカーリング顧客」と定義しており、このリカーリング顧客の数を積み上げていくとともに、クロスセルの推進により売上高に占めるリカーリング顧客の売上比率を90%程度に保つことで、安定的な売上を確保してまいります。

 

 

② 新規事業の展開

「心地よい未来を、データとつくる」というミッションの下、事業規模拡大と収益多様化を図るため、既存事業はもちろん、新規事業にも積極的な投資を行ってまいります。「中期的な経営戦略」に記載しましたリテールメディア・スマートシティ(都市OS)を軸に、事業領域を拡大させることで、新規顧客の獲得とともに新たな収益源の確保を図ります。

 

③ 優秀な人材の確保と育成

当社は、今後の事業拡大や継続的な成長を目指す上で、優秀な人材の確保と育成が必要不可欠であると考えております。特に社員の半数以上を占めるデータ関連人材については当社の競合優位性を支える中核的な人材と捉えており、社内教育制度を充実させながら、スキル向上にも取り組んでおります。そのため、引き続き積極的な採用活動や社外ネットワークの強化を行うとともに、働きやすい環境の整備や育成機会の拡充など人材に対する投資を行ってまいります。また、新規株式上場によって信用力や知名度を向上させることで国内外より優秀な人材を確保してまいります。

 

④ 内部管理体制の強化
a コーポレート・ガバナンスの強化

株主を含めたステークホルダーとの良好な関係の構築のためには、社会的信用を維持・向上させていく必要があると認識しております。取引先をはじめとした社外関係者との良好な取引関係を維持していくには、当社も社会的信用を維持していく必要があります。また、世間に広く有効なビッグデータを提供していく社会的責任を果たす必要があると認識しております。

そのため、コーポレート・ガバナンス体制を構築し、内部管理体制及び人員増を含めた管理部門の強化を推進してまいります。また、内部監査人と監査役との連携強化等の施策により業務執行の適法性・妥当性を監視する機能を強化し、財務報告に係るリスクを最小化して、経営の健全化に努めてまいります。

 

b 経営管理体制

当社が継続的な開発パイプラインの拡充および事業開発の展開を進める上で、パイプラインの進捗管理、予実管理等を行うための経営管理体制の強化は重要な課題と認識しております。当社は、組織が健全かつ有効、効率的に運営されるように、パイプラインの進捗モニタリングを行うための内部統制の整備、強化、見直しを行っていく方針です。

 

⑤  資金調達・財務基盤の強化

人材の採用・育成及びその他事業活動に多額の資金が必要となってまいります。これらの資金を外部から調達する必要があり、中長期的な視点から、財務基盤の強化のためにも、株式市場からの必要な資金の獲得や銀行からの融資等を通して、事業の運営、プロダクトの開発に必要な資金調達の多様化を図ってまいります。

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