課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 会社の経営の基本方針

企業理念:JFEグループは、常に世界最高の技術をもって社会に貢献します。

行動規範:挑戦。柔軟。誠実。

 

(2) 企業構造

JFEグループは鉄鋼、エンジニアリング、商社の3つの事業を中心とした企業グループです。

鉄を中核として、エネルギー技術や資源リサイクル技術など幅広い分野に領域を広げており、世界最高の技術に裏打ちされた3つの事業が生み出し続けるシナジーを、持続可能な社会の構築に向けてさらに拡大していきます。

 

(3) JFEグループの競争力の源泉
(鉄鋼事業・商社事業)

鉄鋼事業は、世界有数の生産規模と高い技術開発力を有する銑鋼一貫メーカーのJFEスチール㈱を中核としており、お客様や社会の多様なニーズにお応えする鉄鋼製品をグローバルに供給しています。

また商社事業は、JFE商事㈱を中核として、鉄鋼製品を中心に、鉄鋼原料・非鉄金属・化学品・資機材・船舶から食品・エレクトロニクスまで幅広く取り扱い、サプライチェーン全体の付加価値を向上させるサービスをグローバルに提供しています。

鉄鋼・商社事業の競争優位の源泉は、①お客様のニーズに基づいた最先端の「技術開発力」と、②製造現場で培われてきた「生産」の実力、および③JFEスチール㈱とJFE商事㈱が一体となって長年築いてきた強固なお客様との信頼関係に基づく「販売力」の3つを基礎としています。これらをベースに、お客様のニーズに沿った新たな価値を創造し、最適なソリューションを提供し続けてきました。これらの競争優位性は私たちが長年の努力により積み重ねてきた貴重な財産であり、他社が容易に真似できない持続的成長のドライバーです。

 

○新たな価値の創造を可能とする技術開発力(鉄鋼事業)

世界各地のお客様の高度なご要望にお応えすることで、業界をリードする技術力を蓄積してきました。幅広い分野での高機能・高品質の商品やサービスの開発と提供を通じて新たな価値を創造し、世界中の産業や社会の発展と人々の生活の進化に貢献しています。また、優れた環境保全・省資源・省エネ技術により、世界で最も低いレベルの環境負荷で鉄鋼製品を生産することができ、その技術を世界各地の環境対策に役立てるとともに、成長の機会として活用しています。

 

○高い競争力を持つ、集約された国内2大製鉄所(鉄鋼事業)

JFEスチール㈱の競争力の第一の源泉は、東西2製鉄所への拠点集約により固定費が抑えられ、高効率生産が可能であることです。特に世界有数の規模を誇る西日本製鉄所は、年間2,000万トンレベルの鋼材を生産でき、コストや商品ラインナップ、技術力の観点からも高い競争力を持っています。現場では長年の努力を通じて優れた製造・商品技術や知的財産、ノウハウ等が無数に蓄積されており、これらにより培われた製造実力は、同社固有の競争力の源泉です。

 

 ○ニーズへの対応力と安定したお客様基盤(鉄鋼事業・商社事業)

 長年のお取引による数多くのお客様との双方向のコミュニケーションにより、お客様との信頼関係を構築してきました。お客様との綿密なニーズの摺り合わせや、開発初期段階からの協働等の取り組みを通じて新たな価値を創造し、お客様の課題解決に貢献してきました。結果として、他社が容易に入り込むことができない堅固なお客様基盤を構築しています。

 

○JFEグループのグローバル鋼材SCM(Supply Chain Management)網(商社事業)

JFEスチール㈱と戦略的に連携を取りながら日本、中国、北米、アセアンの4極を主軸にグローバル展開する鋼材SCMを構築しています。日本で製造されるJFEスチール材のみならず、JFEスチール㈱の海外製造拠点やJFEグループのアライアンス先で製造される鋼材も含めたJFEブランドを、世界各地に製造拠点を展開するお客様へ良質なサービスとともに提供しています。またお客様のニーズに合わせ、スリットなどの切断加工製品や、環境規制・省エネを背景に拡大している自動車用モーターコアや高効率変圧器用トランスコアなどの鋼材加工部品をグローバルに提供できる体制を整えています。

 

○JFEグループの中核商社としての機能(商社事業)

変化が激しいグローバル市場においてお客様のニーズを先取りし、中核商社としてJFEグループの全体最適を考えながらトレードビジネスや事業を展開し、お客様への価値貢献を最大化しています。こうした他社にはないグループ全体最適を追求する商社事業モデルを通じ、グローバル市場におけるグループ全体の競争優位性を維持拡大していきます。

 

(エンジニアリング事業)

エンジニアリング事業は、JFEエンジニアリング㈱を中核として、ガス・石油・水道パイプライン、再生可能エネルギー発電設備、都市ごみ焼却炉、水処理システム、橋梁・港湾構造物など、人々が生活するうえで不可欠となるインフラの構築等を行っており、それらのEPC(設計・調達・建設)、O&M(運転・維持管理)に加え、リサイクル・発電事業などの事業運営を展開しています。

また数多くの国内支店・営業所、海外現地法人・海外支店を有することでグローバルかつきめ細かな販売ネットワークを構築しており、長年にわたり、官公庁や、大手電力会社・ガス会社など様々な民間企業のお客様へ高度な技術・サービスを提供しています。

エンジニアリング事業の競争力の源泉は、時代の変化に対応する先進かつ多種多彩な商品・サービスや、高度なプロジェクト遂行能力、ものづくりのノウハウを強みにした事業運営に至るまでの幅広い事業展開を基礎としています。

 

○高度な基盤技術、多種多彩な商品技術

造船事業がベースの加工・組立技術と鉄鋼事業がベースの素材・燃焼技術を融合・進化させた高度な技術力を強みとして、エネルギー・環境や橋梁など幅広い分野で事業を展開してきました。

とりわけ、世界的な課題となっている地球温暖化に対しても、次世代エネルギーの創出や、高効率発電プラントによるCO排出量の抑制など、課題解決に向けた技術を数多く保有しており、これらの技術に基づいた新たなビジネスモデルの企画・立案・推進に積極的に取り組んでいます。

 

○豊富な実績と多様な人材によるプロジェクト遂行能力

エネルギー・環境や橋梁など様々な分野で、設計から引き渡しまで、お客様のニーズに即した高機能・高品質な施設を数多く建設してきました。また、国内最大級の鋼構造物製作工場をはじめとする生産拠点を有しており、高品質・低コストでの製品供給を可能としています。さらに、アジア諸国を中心とした海外拠点にグローバルエンジニアリング体制を構築し、一段と競争力を強化しています。

 

○ものづくりのノウハウを強みにした事業運営

環境・上下水などのプラントを中心として、長きに亘りオペレーション・メンテナンスのノウハウを培い、公共サービス分野で数多くの官民連携事業を手掛けています。また、自らが建設したプラントで、リサイクル事業や再生可能エネルギー発電事業を行い、循環型社会、持続可能な社会の構築に取り組んできました。こうした、ものづくりや運営ノウハウを強みにした官民連携事業やエネルギーサービス事業などの運営型事業領域をさらに拡大していきます。

 

(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

JFEグループを取り巻く事業環境は、半導体不足や新型コロナウイルス感染症の拡大によるサプライチェーン停滞の影響はあるものの、足元では、国内外の経済の持ち直しに伴い鋼材需要の回復や鋼材価格の改善が見られました。

しかしながら、主原料を含めた諸物価高騰の長期化や、緊迫するウクライナ情勢が世界経済へ与える不確実性とその影響等、予断を許さない状況が続くと考えられます。また、気候変動に対する危機感が全世界で加速度的に広がっており、鉄鋼事業を中心とする当社グループにとって、気候変動問題への取り組みが大きな経営課題となっています。

 

<第7次中期経営計画>

こうしたなか、JFEグループは、2021年5月に第7次中期経営計画(2021~24年度)を公表し、変革に向けて挑戦を続けています。社会の持続的発展と人々の安全で快適な生活のために「なくてはならない」存在を目指して、同年5月に公表した「JFEグループ環境経営ビジョン2050」で示した気候変動問題への取り組みをはじめ、人材の活躍推進、地域社会への貢献やサプライチェーンの人権尊重等の社会課題解決により環境的・社会的持続性を確かなものとするとともに、国内鉄鋼事業における量から質への転換、DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の推進による競争力の向上および成長戦略の推進等により経済的持続性を確立し、強靭な経営基盤を確保いたします。

 

 

 

第7次中期経営計画

グループ全体

事業利益

3,200億円

親会社の所有者に帰属する当期利益

2,200億円

ROE

10%

Debt/EBITDA倍率

3倍程度

D/Eレシオ

70%程度

事業会社

鉄鋼事業

 

・トン当たり利益

1万円/トン

・セグメント利益

2,300億円

エンジニアリング事業

 

・セグメント利益

350億円

・売上収益

6,500億円

商社事業

 

・セグメント利益

400億円

 

(注)1 D/Eレシオ:格付け評価上の資本性を持つ負債について、格付け機関の評価により資本に算入しております。

2 鉄鋼事業のトン当たり利益:(連結セグメント利益÷単体出荷数量)

 

<各事業会社の取り組み>

◆ JFEスチール㈱においては、人口の減少により国内の鉄鋼市場は縮小に向かう一方、海外では、汎用品の価格競争激化に加え、鉄鋼製品の地産地消の流れが強まることが想定されます。こうした状況に対し、徹底して「量」から「質」への転換を図るとともに、成長戦略を着実に推進してまいります。

同社では、年間単独粗鋼生産量2,600万トンを前提に、構造改革による固定費の削減やDX推進等による大幅なコスト削減により、スリムで強靭な事業構造へと変革を進めます。さらには高付加価値品の比率を高めるなどプロダクトミックスの改善を図るとともに販売価格体系の抜本的な見直しを進め、収益力の拡大を目指してまいります。

また、インドのJSWスチール・リミテッドと方向性電磁鋼板製造販売会社の共同設立について事業性検証を進めるなど、現地生産化による事業戦略の深化に加え、高付加価値品製造や環境負荷低減等に関する技術・操業・研究ノウハウを提供するソリューションビジネスも展開するなど成長戦略にも取り組んでまいります。これらの取り組みを完遂することにより、鋼材トン当たり利益1万円(セグメント利益2,300億円)を安定的に確保できる収益基盤を確立いたします。

 

◆ JFEエンジニアリング㈱においては、『くらしの礎を「創る」「担う」「つなぐ」-Just For the Earth』というパーパスのもと、世界の人々の暮らしを支え、地球を守り次世代につなげることを使命として事業を推進してまいります。

 同社では、第7次中期経営計画の達成に向けた取り組みを加速しております。具体的には、CO削減に向けて、再生可能エネルギー発電施設のEPC(設計・調達・建設)および運営事業の拡大に加え、新たに洋上風力発電におけるモノパイル等の着床式基礎構造物の製造・供給事業への参入を決定いたしました。また、DX分野においても、新たに本部を立ち上げ、デジタル技術を活用した業務プロセス改革に加えて、既存ビジネスの高度化および新規ビジネスの創出を加速させてまいります。諸施策の推進にあたっては他社との協業も活用しながら、社会課題の解決に貢献する新たな価値の創造に挑戦してまいります。

 

◆ JFE商事㈱においては、高機能電磁鋼板の世界Nо.1グローバル流通加工体制の構築に向け、北米におけるEVモーター開発会社への出資をはじめ、需要を捕捉するための取り組みを国内外で着実に進めております。 自動車向け鋼材については、中国・広州での加工センターの能力増強に加え、ニューコア・JFEスチール・メキシコ社に隣接する加工センターが操業を開始するなど、グループ連携によるサプライチェーン強化を加速しております。また、海外建材事業ではベトナムの鋼板製造メーカーへの追加出資を実施するなど、海外現地企業との協業による事業基盤強化にも取り組んでおります。さらに、国内においては、独立系加工センターも参加する共通の基幹システムの開発など、グループの垣根を越えたサプライチェーン強化を目指した取り組みを進めております。引き続き第7次中期経営計画の達成に向け、マーケットにおけるグループの存在感を高めるとともに、収益の拡大にも努めてまいります。

 

<グループ共通の取り組み>

JFEグループは、気候変動問題への取り組みを経営の最重要課題と位置付け、「JFEグループ環境経営ビジョン2050」を策定しました。「パリ協定」に準拠した日本政府の目標達成を目指して、カーボンリサイクル高炉とCCU(Carbon Capture and Utilization)を組み合わせた技術や水素製鉄(直接還元)を主軸とする超革新的な技術開発を複線的に進めてまいります。
 また、鉄鋼事業においては、電気炉技術の活用や転炉におけるスクラップ利用拡大等のトランジション技術の開発・活用に加え、NEDOグリーンイノベーション基金事業が採択されたことから研究開発の更なる加速が見込まれること等を踏まえ、2022年2月に、2030年度のCO排出量削減目標を2013年度比で30%以上とし、目標を上方修正いたしました。当該目標は最低限達成すべき水準ととらえており、今後も技術の進展等を踏まえ、水準の見直しを毎年検討してまいります。そのうえで、年に1回、決算発表等の場において、目標達成に向けた見通しおよび目標と設備投資計画の整合性についてご説明いたします。引き続き、鉄鋼事業におけるCO排出量削減の推進に加え、エンジニアリング事業における事業を通じた社会全体のCO削減への貢献拡大にも取り組んでまいります。

さらに、グループ全体で洋上風力発電の事業化を進めており、鉄鋼事業・エンジニアリング事業においてそれぞれ設備投資に着手いたしました。引き続き、気候変動問題への解決に向けた取り組みを強力に推進することで、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

 

また、第7次中期経営計画ではDXを創立以来最大の変革の鍵となる重要な戦略として位置付けています。従来から取り組んできた業務改革や生産性向上等、内部最適化への取り組みに加え、DXを活用した外部(社外)への付加価値提供や新規ビジネス創出にチャレンジし、足元の急激かつ大幅な変化を成長機会へと転化する足掛かりとしてまいります。一方で、DXの拡大と進化に伴い、高度化・複雑化するサイバー攻撃や情報漏洩リスクへの対応の重要性がますます高まることから、セキュリティ対策にも同時に取り組んでまいります。

本中期経営計画におけるグループ全体でのDX投資を1,200億円程度(4ヵ年合計)と計画しておりますが、当期においては、うち3割程度を実行し、着実に進捗させております。引き続き、鉄鋼事業でのCPS(サイバー・フィジカル・システム)化の推進、エンジニアリング事業でのデジタル技術を活用した業務プロセス改革など各種施策をさらに推進してまいります。

 

中長期の成長に向けた攻めの経営には安定した財務基盤の確立が必要であり、そのためには十分な収益性を確保するための選択と集中に基づく効果的な投資の実行と財務健全性の確保を両立させることが重要です。当期末の有利子負債残高については、主原料価格等の上昇による運転資金増加の影響が大きく、前期に比べ433億円増加し、1兆8,494億円となりました。一方で、第7次中期経営計画の財務目標として掲げているDebt/EBITDA倍率は2.8倍、D/Eレシオは80.8%となり、前期に比べ大きく改善しました。引き続き、収益貢献の低い事業や資産の見直しによる徹底した資産圧縮に加えて、棚卸資産圧縮等によるCCC(Cash Conversion Cycle)の改善により必要資金の確保に努めてまいります。

 

新型コロナウイルス感染症は未だ収束せず、引き続き動向を注視する必要があります。それぞれの事業特性に応じた迅速かつ的確な対策を実施するとともに、従業員や関係者の感染防止への配慮を継続してまいります。加えて、持続的な成長のためには、従業員の安全・健康管理を強化し、多様な背景をもつ人材の能力・意欲を最大限に引き出すことが不可欠です。JFEグループは、引き続きダイバーシティ&インクルージョンや働き方改革の取り組みを高めてまいります。

また、サプライチェーンにおける人権尊重の取り組みを強化すべく、2021年より人権デューディリジェンスを開始いたしました。今後も人権が尊重・擁護される社会の実現に向けた取り組みを推進してまいります。

 

さらには、ウクライナ危機に伴い原材料価格の高騰が加速しており、先行きが不透明な状況の長期化が懸念されます。このような事業環境においても、グループの経営課題を着実に実行するため、当社は、株主利益に適うグループ経営および健全なコーポレートガバナンスの要としてその機能を充実させるとともに、効率的な運営を図ってまいります。JFEグループは、中長期的な持続的成長と企業価値の向上を目指して第7次中期経営計画で掲げた施策を完遂するとともに、不透明で急激な環境変化に迅速かつ的確に対応して困難な状況を乗り越えてまいります。

 

なお、JFEエンジニアリング㈱が2017年6月および2020年6月に沖縄県竹富町と契約した海底送水管更新工事に関して、入札談合等関与行為防止法違反(官製談合防止法違反)容疑および公契約関係競売入札妨害容疑で、同社社員が起訴されました。今後、裁判の経過を踏まえ、事実関係を調査し、このような事態が起きることのないよう必要な対応を取ってまいります。

 

JFEグループは、社会との信頼関係の基本である、コンプライアンスの徹底、環境課題への取り組み、安全の確立について、グループをあげて真摯な努力を継続し、企業としての持続的成長を図り、株主の皆様をはじめすべてのステークホルダーにとっての企業価値最大化に努めてまいります。

 

(注)上記の記載には、2022年5月6日の決算発表時点の将来に関する前提・見通し・計画に基づく予測や目標が含まれております。

 

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