文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
脱炭素社会の形成に向けた企業の社会的責任の高まりやAI、IoTの加速度的普及等、社会環境が急速に変化する一方、国内外経済は新型コロナウイルス感染症の世界的拡大や変異株の出現、さらにはウクライナ問題を契機とした地政学的リスクの顕在化等により、先行き不透明な状況が続いております。また、資源、エネルギー価格の高騰による経済への悪影響が懸念される状況にあります。
当社グループ事業に関しては、金属チタン需要は大きく落ち込みを見せた2020年度以降回復傾向で推移し、触媒や化学品の需要も総じて堅調である一方、自助努力によるコスト削減だけでは補え切れない原料、資材、電力、輸送コスト等の高騰が顕著となっております。
こうした中、当社グループとしては、製品毎の顧客ニーズに的確に対応しつつ、コスト管理を徹底するとともに、コスト高騰を反映した適正な販売価格の実現に取り組んでまいります。
セグメントごとの具体的な経営環境につきましては、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの分析 (1) 経営成績等の概要並びにそれらに関する認識及び分析・検討内容」に記載しております。
こうした状況のもと、当社グループは、2030年のありたい姿の実現に向け、下図のとおり中長期経営方針を定めました。金属チタン事業に加え、チタンとその関連技術を中核とする複数のダウンストリーム事業を有する高収益素材メーカーを目指してまいります。
(4) 中期経営計画について
当社グループは、2020年11月において、前記の中長期経営方針を踏まえ、2020年度を初年度とする3ヶ年の中期経営計画を策定しました。
(ⅰ)中期経営計画における基本戦略
2020年度-2022年度の3ヶ年は、新たな成長に向けた変革を実現する時期と捉えており、具体的に以下の4点を基本戦略とし、持続的な成長と企業価値の向上を実現してまいります。
また、近年、企業が求められる「E」:Environment(環境)、「S」:Social(社会)、「G」:Governance(企業統治)に関する対応等の社会的要請に真摯に応えるため、当社グループは2022年度、新たに5番目の基本戦略として
5.ESG経営の推進
を加え、これを根付かせるための体制構築及び諸施策の展開を本格的に開始しております。なお、このESG経営の推進については、(6)ESG経営の推進をご覧ください。
(ⅱ)セグメント別の課題及び施策
各セグメント毎の課題及び施策は、以下のとおりであります。
・金属チタン事業…中核課題:コロナ禍からの早期回復と収益力の抜本的改善
・触媒事業…中核課題:さらなる事業拡大の追求、市場の伸びを上回る成長の実現
・化学品事業…中核課題:さらなる事業拡大の追求、市場の伸びを上回る成長の実現
・新規事業、技術開発
(ⅲ)主要計画数値
2020年11月公表の中期経営計画最終年度(2022年)の主要計画数値は、以下のとおりであります。
計画では、資本効率向上の観点から、自己資本利益率(ROE)を最も重要な経営指標と位置付けており、10%を上回るべく改善を図ることとしておりました。
なお、現在、金属チタン事業は航空機向けスポンジ輸出量の回復を主因に販売量は総じて好調に推移しており、中期計画で想定した数値を上回ることが想定されており、また触媒事業や化学品事業の販売も引き続き好調を維持するものと見込んでおります。これを受け、2022年5月10日時点で見直した中期計画最終年度である2022年度の主要計画数値は以下のとおりであります。
なお、本計画数値(2020年11月公表)達成の前提となる3ヶ年累計の設備投資・投融資は、以下のとおり計画しておりましたが、現在、ほぼ計画通り進捗しております。
(5) 優先的に対処すべき課題
前記の中期経営計画のもと、当社グループは、以下に記載する当面の課題に優先的に取り組み、事業基盤の確立を目指してまいります。
若松工場に建設した超微粉ニッケル第4工場は、2021年度上期中に顧客認定を取得し、下期から量産体制に移行しております。今後はその操業の安定化・最適化を図るとともに、既存工場と合わせた全社的な効率的生産体制の確立に取り組んでまいります。また、茅ヶ崎工場に建設中の触媒新工場について、2022年11月の商業生産開始に向けて着実に計画を進め、触媒の生産・販売量の拡大を図ってまいります。
サウジアラビアにおけるスポンジチタン製造合弁会社については、安全・安定操業の実現とコスト低減とともに、金属チタン需要が回復傾向にある中、生産量の引上げが重要課題となっております。同社のキャッシュ・フローの改善と早期収益化を図るべく、当社として、これらの課題に関わる同社の取組みを積極的に支援してまいります。
茅ヶ崎工場において、環境対策強化、労働環境改善、分析評価機能強化等を目的とする投資を順次進めております。これらを計画どおり着実に進めることで、事業基盤の強化を図ってまいります。
2020-2022年度中計に基づき新規事業開発体制の強化を進めており、社会動向を当社が有する技術シーズと結び付けることで、次世代の柱となる新規事業を探索・育成する取組みを加速してまいります。また、AI、IoT等の新技術の生産プロセスへの活用を進めることで、競争力強化を図ってまいります。
(6) ESG経営の推進
当社グループは、先に掲げた「経営理念」に基づいて、「E」「S」「G」の視点で、事業活動を通して自社とステークホルダーを取り巻く重要な諸課題の解決に取り組み、社会の持続的な発展に貢献し、長期的な企業価値の向上を目指すことを基本方針とし、これを当社の「ESG経営」と定義付けしています。2021年7月ESG推進部を設置し、推進体制の構築・整備に着手し、2022年4月に基本方針を制定する等、全社的な取組みを開始しました。
この方針に基づいて、当社グループの「経営理念」、「行動基本方針」、「中長期基本方針」及び国際的なガイドライン(GRI、SASBなど)を参考に、まず初めに重要性の高い社会課題を、以下のように取り組むべきマテリアリティとして特定しております。特に2050年のカーボンニュートラル実現を目指し、チタン新製錬技術の開発に注力するほか、CO2削減に向けた各種施策を推進するなど、持続的な企業価値の向上に取り組んでまいります。
なお、これらマテリアリティの取組み状況やKPIの達成状況等については、2022年5月新たに設置されたESG推進委員会が、取り組み項目毎に「E」「S」「G」の各分科会を通じて連携する既存の各種委員会から情報の提供を受け、取り纏めて定期的に取締役会に報告する体制を計画しています。
この推進体制やマテリアリティの取組み状況及びKPIの達成状況等については、今後、統合報告書や当社ホームページにて情報開示してまいります。
このうち「Environment(環境)」に関しては、国際社会において急速に2050年カーボンニュートラルへの要請が高まり、今後競争ルールの変更を伴う社会システムの変化が予測される状況にあります。
かかる状況下、当社は、チタンの新製錬技術を中核とした施策により、2030年にCO2排出量を2018年度比で40%削減し、2050年にはカーボンニュートラルの実現を目指す、カーボンニュートラルビジョンを2021年5月に策定し、公表いたしました。そこで示す2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップは次のとおりです。
また、現在実施中の主な取組み施策は次のとおりです。
1. チタン新製錬技術
チタン新製錬技術は、当社の2050年カーボンニュートラル達成に向けた中核技術であり、現在、パイロット規模の試験に着手した段階にあります。今後は、パイロット試験を継続し、工業化を目指した課題の抽出及び対応を行うとともに、鉱石等の原材料製造メーカー(上工程)や、板や棒など最終チタン製品を製造する展伸材メーカー(下工程)と連携し、一貫でのCO2排出量削減や、リサイクルによる廃棄物削減技術の開発にも取組み、カーボンフリーチタンの実現を目指します。
当社は、2021年度より茅ヶ崎工場及び若松工場の一部と日立工場の電力にCO2フリー電力を導入いたしました。
また、2022年4月からは、茅ヶ崎工場の高純度金属事業に導入します。今後は、他工場にもCO2フリー電力導入を推進し、CO2排出量削減を進めていきます。
茅ヶ崎工場は、2021年1月より触媒及び化学品事業でカーボンニュートラル LNG(以下「CNL」)を導入していますが、2022年1月からは、チタン事業でもCNLを導入することで茅ヶ崎工場の都市ガスは全てCNLとなり、年間約6,000tのCO2が削減されることになります。
また、2022年4月からは、若松工場の都市ガスも全てCNLを導入します。
今後も、その他様々な取り組みを通じ、持続可能な社会の発展に貢献してまいります。
(7) 気候変動に関わる対応
気候変動が加速していくなか、世界各地において自然環境・人々の暮らし・企業活動に様々な影響や被害が現れ始めています。こうしたなかCO2排出量の削減を含む気候変動問題への積極的かつ能動的な取組みは、企業に課せられた重要課題であり、当社グループにとってもリスクであると同時に新たな収益機会につながる重要な経営課題であると認識しています。このうち気候変動リスクに関しては、リスクの特定、その影響度、特定したリスクの対応策や目標の審議ならびに対応策の実施状況のモニタリング等をリスク管理委員会が担当し、気候変動に関する機会については、ESG推進委員会が同様に担当することとしております。なお、ESG推進委員会は、リスク管理委員会との間でリスクに関する情報を共有し、機会に対する対応等の情報とあわせ、気候変動に関わる対応全体を定期的に取締役会へ報告することとしています。
当社グループは気候変動関連の財務情報開示の重要性を認識し、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言」を支持するとともに、TCFDに即し、推奨される「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の開示項目構成での情報開示を行うこととしています。
現在、コーポレートガバナンス報告書及び統合報告書等での情報開示に向けた準備を進めています。
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