1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1) 経営の基本方針
① ビジョン・ミッション・バリューズ
当社グループの経営理念として、基本理念、ビジョン(目指す世界観)、ミッション(果たす役割)、バリューズ(大切にする価値観)を掲げています。
これらを実現するため、当社グループが創業より大切にし活用してきたリボンモデルを ビジネスモデルの基礎と しています。リボンモデルとは、個人ユーザーと、企業クライアント のマッチング・ プラットフォームを作り出し、より多くの最適なマッチングソリューションを提供することにより双方の満足を 追求 するビジネスモデルです。
現在は、テクノロジーとデータを活用することで、マッチングの更なる効率性向上と高速化に注力し、個人ユーザーに対して最適な選択肢を提供し、企業クライアントに対して更なる業務効率化を支援しています。
② 企業活動の重要な基盤
当社グループでは、ステークホルダーとのESGに関する対話や、取締役会や各委員会等における議論を踏まえて、持続的な企業価値の向上に向けてステークホルダーと共存共栄をする上で重要となる企業活動の基盤を特定しています。各テーマについては、取締役会の諮問機関である各委員会での審議を踏まえて取締役会にて進捗確認をすることで、取組みを推進しています。
当社グループの企業活動の重要基盤は、以下のとおりです。
コーポレート・ガバナンス
当社は、取締役 兼 常務執行役員 兼 COOを、ESG推進を含めたコーポレート・ガバナンスの責任者と位置づけ、指名委員会及び報酬委員会での審議を踏まえて、取締役会にて適切なコーポレート・ガバナンス体制や役員報酬のあり方を確認しています。
また、取締役構成員のダイバーシティ向上に向けて、2031年3月期までに当社の監査役を含む取締役会構成員の女性比率を約50%とする目標を定め、取組みを進めています(注1)。
加えて、ESGに関する取組みと役員報酬との接続をより強化するために、2023年3月期からは当社の業務執行取締役と主にテーマを推進する執行役員に対して、3カ年目標を定めた温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gas)排出量削減と女性比率向上の達成如何を(注2)、2023年3月期からの長期インセンティブ報酬(注3)の一部に連動させることを取締役会において決定しています。
当社のコーポレート・ガバナンス方針及び役員報酬については、「4 コーポレート・ガバナンスの状況等」を、取締役会構成員に関する目標については、本項目「(3)経営戦略」「Prosper Together - ステークホルダーとの共栄を通じた持続的な成長」をご参照ください。
人的資本
当社グループは、従業員の意欲を最大化することを改めて経営の重要テーマとし、特にダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)と従業員エンゲージメント、内発的動機を引き出す人材育成と環境作りに重点的に取組んでいます。
前提として、当社グループでは、企業活動において、階級、人種、肌の色、性別、言語、宗教、ジェンダー、年齢、政治的・その他の意見、国民的若しくは社会的出身、国籍、財産、性的指向、性自認、障がい、出生等を理由とした差別や人権侵害を行わないよう努め、すべての人々へ平等な機会を提供し、その人らしい生き方・働き方を尊重する「リクルートグループ人権方針」を定めています。
そして、当社グループでは、大切にする価値観(バリューズ)のひとつとして「個の尊重 - Bet on Passion」を掲げています。創業以来、多様な従業員一人ひとりの違いを大切にし、その好奇心から生まれるアイデアや情熱に投資することで新たな事業やサービスを生み出すことこそが、競合優位の源泉であると考えてきました。
DEIについては、特にグループ全体で共通のテーマであるジェンダーの多様性については、経営戦略の一環として当社グループ全体で目標を定め、サステナビリティ委員会での審議を踏まえて、取締役会にて進捗確認と議論をしています。あわせてジェンダー以外のDEIについても、国や地域、事業に応じて重要なテーマを定めて進めています。ジェンダーの多様性に関する目標の詳細は、本項目「(3) 経営戦略」「Prosper Together - ステークホルダーとの共栄を通じた持続的な成長」をご参照ください。
また、当社グループでは、従業員エンゲージメントを高めるために様々な取組みを行っています。例えば、当社及び主要子会社においては、従業員エンゲージメント・サーベイを実施しています。これにより、従業員エンゲージメントに向けた課題を理解し、組織風土改善等を進めています。
加えて、当社グループでは、人的資本及び知的財産への投資の一環として多様な個人の内発性動機を最大限に引き出す組織文化の醸成に継続的に取組み、事業をマネジメントしています。具体的には、当社及びメディア&ソリューションSBUの統括会社である㈱リクルートでは、従業員の可能性に期待し役割を定める「ミッショングレード制度」、個人の意志を起点としてスキル向上とミッション実現を接続する「Will - Can - Mustマネジメント」、従業員ひとり一人の育成方針を議論する「人材開発委員会」を軸として人材マネジメントを行っています。HRテクノロジーSBUのIndeedで運営する「Indeed大学」では、世界中のエンジニアが集まり、チームでアイデアを形にしていきます。この場を通じて、数多くの新たなサービスが生まれています。そして、人材派遣SBUでは「ユニット経営」と呼ばれる、現地の顧客ニーズに精通した各組織に権限移譲を行い、それぞれの深い知見に基づき柔軟に意思決定を行える経営手法を導入しています。この経営手法によって、現場の従業員は、成果に向けて高い意欲を持つことができると同時に、リーダーとしての意思決定力を高める機会を得ています。
当社グループにとって、価値創造サイクルの起点はひとり一人の従業員です。当社グループは引き続き、当社グループの人的資本を起点とした価値創造サイクルの強化に取組んでいきます。
当社グループの価値創造サイクル
企業倫理の徹底
当社グループでは、コンプライアンスを法令遵守の枠を越えて企業と個人が適正な行動を行うことで社会的な期待や要請に応えていくことであると位置づけ、事業活動の大前提としています。企業倫理の徹底のため、従業員教育等の施策、内部通報窓口の設置を行うとともに、コンプライアンス委員会での審議を踏まえて、取締役会にて進捗確認と議論をしています。詳細は、「4 コーポレート・ガバナンスの状況等」「(1) コーポレート・ガバナンスの概要」「②内部統制システム整備の状況」をご参照ください。
データセキュリティ・データプライバシー対応
当社は、データセキュリティ・データプライバシー対応を当社グループのトップリスクと定め、保有するデータを重要性に応じて分類し、事業内容や国・地域ごとの法規制や保護すべき情報資産の特性に応じて必要な体制や施策を整備しています。また、リスクマネジメント委員会での審議を踏まえて、取締役会にて進捗確認と議論をしています。詳細は、「2 事業等のリスク」をご参照ください。
人権の尊重
当社は、当社グループの役員と従業員、当社グループ会社の派遣サービスに登録している方々を直接の保護の対象と位置付けて「リクルートグループ人権方針」を掲げ、その中に急速なテクノロジーの発達によって影響を受ける人権の保護を含めています。人権方針は、サステナビリティ委員会での審議を踏まえて、取締役会にて決議しています。
地球環境の保全
当社は、すべての企業活動はあらゆる生命の生存基盤である地球環境が健全であってはじめて成り立つと考え、様々な活動を行っています。特に気候変動対策については重要テーマと位置づけ、当社グループ全体で温室効果ガス排出量のカーボンニュートラル達成に向けた目標を定め、サステナビリティ委員会での審議を踏まえて、取締役会にて進捗管理と議論をしていきます。
気候変動に伴う当社グループのリスク及び機会については本項目「気候変動への対策と「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言に沿った情報開示」を、気候変動対策の詳細は「(3)経営戦略」「ProsperTogether - ステークホルダーとの共栄を通じた持続的な成長」をご参照ください。
③ 気候変動への対策と「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言に沿った情報開示
当社では、地球環境の保全を、持続的な企業価値の向上に向けてステークホルダーと共存共栄をする上で重要な企業活動の基盤であると定めています。その上で、特に気候変動については、2031年3月期までにバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを目指す目標を定め(注1)て、温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gas )の排出削減を進めています。短期目標として定めた当社グループの事業活動における温室効果ガス排出量のカーボンニュートラルは、計画どおり2022年3月期に達成する見込みです(注1)。そして、2031年3月期までに目指す目標に向けては、国際的なフレームワークである地球の平均気温上昇を産業革命前と比べて1.5度未満に抑えることを目指す「1.5度目標」(注2)に沿った3カ年目標(注3)を定め、排出量削減に向けた取組みを加速しています。
あわせて、脱炭素社会に積極的に対応するためにガバナンスを強化し、気候変動が当社グループに与えるインパクトの評価や、リスク低減と成長機会の獲得に向けて取組みを進めています。その一環として、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明し、そのフレームワーク(注4)に沿って、本項目にて気候変動への対策に関する情報開示を行っています。
ガバナンス
当社では、取締役会の諮問機関であるサステナビリティ委員会での審議を踏まえて、気候変動への対応に必要な体制整備を行い、その対応を取締役会において監督しています。サステナビリティ委員会では、気候変動に対する対応方針や戦略、及び計画について議論します。取締役会では、GHG排出量の削減目標に対する進捗とともに、気候変動関連リスクの低減と機会獲得への対策を含めた事業計画や投融資を確認、監督しています。
リスクの低減と機会の獲得は、サステナビリティ委員会に社内委員として参加する各SBU統括会社のCEOを兼務する当社執行役員が、各SBUにおける戦略を策定し、事業運営の中で実行していきます。
また、当社の気候変動への取組みは、サステナビリティ担当執行役員を責任者として進めています。当該責任者は、取締役会に対して、気候変動によるリスクや機会の評価、リスク低減と機会の獲得方法について報告します。また、当該責任者の配下にサステナビリティ所管部署を設置し、当社グループの環境関連情報の収集、GHG排出量削減の進捗管理、気候変動によるリスクや機会の識別及び評価、その対応方針の検討及び推進、ステークホルダーとの対話や関連調査を行います。
リスク管理
気候変動によるリスクは、当社グループ全体のリスクマネジメントプロセスに統合して評価し、リスクマネジメント委員会において、包括的且つ一元的に管理しています。気候変動に関する中長期的なリスクの議論はサステナビリティ委員会に委任し、リスクの低減策に関する具体的な議論を行います。その結果はリスクマネジメント委員会に連携され、取締役会に報告されます。
気候変動によるリスクと機会の管理体制(役割と会議体)
※サステナビリティ委員会及びリスクマネジメント委員会の参加者及び開催回数については、「4 コーポレート・ガバナンスの状況等」「2022年3月31日時点の取締役会、監査役会、経営戦略会議、各委員会の構成」を参照ください。
戦略
(a)戦略の前提
当社グループでは、気候変動によって平均気温が4度上昇することは世界に大きな影響を及ぼすことを認識し、気温上昇を1.5度未満に抑制することが重要であると考えています。そこで、複数の気候変動シナリオ(4度と1.5度)に基づき、2031年3月期までの短期・中期・長期のリスクと機会を発生可能性と財務影響の観点で評価し、主要なリスクの低減及び機会の獲得に向けた対策を取締役会において確認しています。また、シナリオ分析においては、 IPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change) (注1)や国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)等、国際機関及びそれに準ずる調査機関が発行するレポートを参照しています。
(注1) 共通社会経済経路(SSP: Shared Socioeconomic Pathways)5-8.5、SSP1-1.9に該当。
(b)気候変動による主要なリスクと機会
当社グループが、シナリオ分析を経て特定した主要なリスクとその発生可能性、財務影響は以下のとおりです。財務影響については、リスク項目毎に試算し、金額根拠の確度が比較的高いと考えられる炭素税のみ数値で示しています。
今回の分析を通じて、事業戦略に影響を及ぼす重大なリスクは特定されませんでした。今後も、前述のガバナンス体制の基で、世界動向を受けて気候変動が当社グループに及ぼす影響を注視し、継続的に評価の見直しと情報開示の充実を進めていきます。現時点では、当社が定める3つの経営戦略を推進することこそが、気候変動に対するレジリエンスを高め、主要リスクを低減すると考えています。
当社グループが、シナリオ分析を経て特定した主要な機会とその発生可能性、財務影響は以下のとおりです。
今回の分析を通じて、当社が定める3つの経営戦略を推進することこそが、気候変動による機会の獲得に繋がることを確認しました。今後も気候変動に関する社会やステークホルダーの動向を注視し、その変化を捉えて当社グループの機会としていくことで、労働市場のレジリエンスと持続可能性の向上に貢献したいと考えています。
指標、目標 と実績
(a)指標
当社では、GHGプロトコルに則った温室効果ガス排出量(スコープ1, 2, 3の絶対量(注1,2))を、気候関連のリスクと機会を管理する指標に定めています。
(b)目標
当社は、「サステナビリティのコミットメント(2021年5月発表)」において、2022年3月期までに自らの事業活動におけるカーボンニュートラルを目指すこと(注1,3)、2031年3月期までにバリューチェーン全体におけるカーボンニュートラルを目指す目標を経営戦略として定めています(注2,3)。
また、当社の業務執行取締役と主にテーマを推進する執行役員に対して、3カ年目標を定めたGHG排出量削減の達成如何を、2023年3月期からの長期インセンティブ報酬(注4)の一部に連動させることを取締役会において決定しています。(詳細は「②企業活動の重要な基盤」の「コーポレート・ガバナンス」をご覧ください。)
(c)実績
当社では、2020年3月期より、GHGプロトコルに則ったGHG排出量の算定を開始し、2021年3月期の事業活動を通じた排出量(スコープ1+2)は29,070t-CO2(前年比-30.3%)となりました(注5)。また、本GHG排出量については第三者保証(注6)を取得しています。また、短期目標である2022年3月期事業活動における温室効果ガス排出量(スコープ1及び2)のカーボンニュートラルは、計画どおり達成する見込みです(注1, 3)。
また、当社では、2010年に定めた、2021年3月期までに2009年3月期比で日本国内でのGHG排出量を25%削減する目標を、当連結会計年度末時点で62.4%削減と目標値を大きく上回る形で達成しています。
(2) 目標とする経営指標
当社グループは、長期的な利益成長と企業価値及び株主価値の最大化に向け、新規事業投資や研究開発、M&A等の成長投資を機動的且つ積極的に実行していきます。そのための主な経営指標を調整後EBITDA及び調整後EPSと設定し、調整後EBITDAの成長率を役員の報酬に連動させることにより、株主の皆様との価値共有を促進しています。また、2023年3月期から、ESG目標の達成度を一部の役員の報酬に連動させることを決定しました。詳しくは、「(3)経営戦略」「Prosper Together - ステークホルダーとの共栄を通じた持続的な成長」をご参照ください。
当社は2023年3月期より、主な経営指標である調整後EBITDA及び調整後EPSの調整項目を変更します。
調整後EBITDAに関しては、グローバルで比較可能性の高い事業のキャッシュ・フロー創出力を示すために、調整項目に株式報酬費用を追加します。当社は、2021年1月以降、HRテクノロジーSBUにおいて当社の株式を用いた株式交付制度を導入しています。従来から実施している当社役員に対する株式報酬制度と合わせて、2022年3月期の株式報酬費用は324億円となりました。
2023年3月期以降の調整後EBITDAの計算式は以下のとおりです。
調整後EBITDA=営業利益+減価償却費及び償却費(使用権資産の減価償却費を除く)+株式報酬費用 ±その他の営業収益・費用
あわせて調整後EPSに関しては、グローバルで比較可能性の高い恒常的な収益力を表す1株当たりの利益を示すため、企業結合に伴い生じた無形資産の償却額を計算式の分子である調整後当期利益の調整項目から削除します。当社は2018年3月期より、適用する会計基準を日本基準から国際会計基準に変更しています。よって、企業統合に伴い生じる無形資産のうち、重要な金額を占めるのれんは、規則的な償却ではなく、年一度以上の減損テストに基づいて減損の要否を判断し、のれんの減損が発生した場合は、非経常的な損失(下記計算式を参照)と判断しています。2023年3月期以降の調整後EPSの計算式は以下のとおりです。
調整後EPS = 調整後当期利益/((期首発行済株式総数+期末発行済株式総数)/2-(期首自己株式数+期末自己株式数)/2)
調整後当期利益=親会社の所有者に帰属する当期利益±非経常的な損益(非支配持分帰属分を除く)±非経常的な損益(非支配持分帰属分を除く)の一部に係る税金相当額
非経常的な損益 = 子会社株式売却損益、事業統合関連費用、固定資産売却損益/除却損等、恒常的な収益力を表すために当社が非経常的であり利益指標において調整すべきであると判断した損益
2023年3月期は前年同期比較を可能にするため、2022年3月期の調整後EBITDA及び調整後EPSを新しい定義で算出した数値を開示します。
(3) 経営戦略
当社グループは、テクノロジーの進化等により急速に変化する事業環境に対応し、グローバル市場におけるニーズやビジネス機会をいち早く捉え、迅速な意思決定の下で、企業価値及び株主価値の最大化に取組んでいます。
HRテクノロジー事業、メディア&ソリューション事業の人材領域及び人材派遣事業が、グローバル人材マッチング市場において、メディア&ソリューション事業の販促領域が日本において、インターネット広告事業にとどまらず、テクノロジーを駆使して企業クライアントの業績向上及び生産性改善をサポートするソリューションプロバイダーに進化することを目指しています。
加えて、不確実性が高まる中で持続的な企業価値向上を目指すためには、健全なガバナンスの基で、企業活動全体を通じて社会や地球環境にポジティブなインパクトを与え、全てのステークホルダーとの共存共栄を目指す必要があると考えています。そのため、ESG(環境・社会・ガバナンス)について具体的な目標を掲げ、社内外ステークホルダーとの対話を重視しながら、その実現に向けて取組んでいます。
① 当社グループ全体の経営戦略
当社グループ全体の経営戦略と対処すべき課題は、以下のとおりです。
Simplify Hiring - 人材マッチング市場における採用プロセスの効率化
当社は、求人広告及び採用ツール市場、人材紹介市場、エグゼクティブサーチ市場、採用オートメーション市場及び人材派遣市場の総称を人材マッチング市場と定義し、求職者がより速く且つ容易に仕事を得られることや、企業クライアントの採用に係るコストと時間を削減することを通じた人材マッチング市場における採用プロセスの効率化に取組んでいます。
3つの事業が、データ、自動化及びテクノロジーを活用しながら連携し、求職者と企業クライアントへの選択肢の提案の質とスピードを劇的に向上させることで採用プロセスを簡便化し、双方に更なる価値を提供することを目指しています。
長期的には、長年蓄積されたマッチングデータとAIや機械学習を通じて得られた求職者及び企業クライアントの採用に関する考え方といった情報を組み合わせることで、ボタンをクリックするだけで求職者と企業クライアントのマッチングができるような、より速く効率的な採用を目指します(注1)。
現時点では、採用プロセスの効率化の進捗度合いを表す指標は、Indeed及びGlassdoor上における1分当たりの平均採用者数であると考えています。この指標はマッチング精度の向上、採用プロセスの自動化、企業クライアントとの関係性の深化の進捗を計るものであり、これら要素の改善は更なる採用者数の増加に繋がります。当第4四半期の1分当たりの平均採用者数(注2)は、社内測定に基づくと平均20名となり、2019年3月期第4四半期の平均10名から2倍になりました。
HRテクノロジー事業は世界有数の求人情報プラットフォーム及び企業情報サイト(注3)であるIndeedとGlassdoorの運営を通じて、戦略推進の中心的な役割を担っています。Indeedは約2億5,000万人以上、Glassdoorは約5,500万人以上の月間ユニークビジター数(注4)を有しています。また、事業規模を問わず数多くの企業クライアントが求人情報の掲載や、求職者のレジュメ検索といった採用活動を行っており、掲載されている求人件数は、社外のウェブサイトからアグリゲートされたものを含めると3,000万件以上(注5)にのぼります。IndeedやGlassdoor上で求職者の求職活動及び企業クライアントの採用活動が増加することでデータが蓄積され、AIや機械学習を活用することで、マッチングの精度の向上に繋がります。結果として、最適な求人情報を求職者に提示することや、最適な候補者を企業クライアントに提供することが可能になります。
マッチングの精度の向上と同時に、採用プロセスにおけるマニュアルな作業の自動化に取組んでいます。例えば、Indeedでは求職者が企業からの事前審査に通過すると、即座にリクルーターや採用責任者との面接を予約できる機能を備えており、2022年3月期には延べ200万回を超えるオンライン面接(注6)がIndeed上で実施されました。求職者にとっては、求人情報の検索、面接、仕事に関する考えの共有等、求職活動に関する行動全てがHRテクノロジー事業の提供するプラットフォーム上で可能となります。そして、それらのデータは全てマッチングの精度向上に貢献します。
また、HRテクノロジー事業と人材派遣事業が協働し、データ活用と従来の人材派遣の事業プロセスの自動化や、求人情報、給与の選択肢及び柔軟な面接設定機能を提供するプラットフォームであるIndeed Flexの運営を通して、派遣社員の求職活動における満足度の向上に取組んでいます。
日本では、メディア&ソリューション事業の人材紹介サービスにおける試験的な取組みにおいて、HRテクノロジー事業の検索テクノロジーとメディア&ソリューション事業の採用プロセス効率化のテクノロジーを活用し、企業クライアントと求職者の面談数が前年と比較して大幅に増加しました。このような事業間の連携は2023年3月期以降も継続し、人材マッチング市場におけるあらゆる職種の採用プロセスをシンプルにすることを目指します。
当社は、2021年のグローバル人材マッチング市場規模を2,360億米ドル程度(注7)と推定しています。
人材マッチング市場の規模は、経済成長及び労働市場の状況との連関性が高く、2020年は新型コロナウイルス感染症に関連する規制の影響を受けたことで市場規模が縮小したものの、その後の労働市場環境の変化により、2021年は市場規模が大きく拡大したと推定しています。当社は、人材マッチング市場は2022年以降も拡大を続けるものの、企業クライアントの採用活動及び求職者の求職活動といった労働市場環境が正常化することから、2021年よりも緩やかな成長率で拡大していくと想定しています。
・求人広告及び採用ツール市場
2021年におけるオンライン求人広告及び採用ツール市場は、グローバルで年間売上金額ベースで240億米ドル程度(注8)と推定しています。一方で、当社グループがグローバルで年間売上金額ベースで20億米ドル(注9)を超える規模と見積もる2021年におけるオフライン求人広告市場は、今後もオンライン求人広告市場に流入を続けながら縮小していくと考えています。
・人材紹介市場
人材紹介市場は、2021年におけるグローバル市場規模を450億米ドル程度(注12)と推定しており、同市場における多くのサービスは属人的な関係に基づく伝統的なビジネスモデルを採用しています。
・エグゼクティブサーチ市場
2021年におけるエグゼクティブサーチ市場はグローバルで年間売上金額ベースで310億米ドル程度(注12)の市場規模であると推定しており、同市場における多くのサービスは、人材紹介市場と同様に属人的な関係に基づく伝統的なビジネスモデルによるものです。
・採用オートメーション市場
当社が新たに事業展開を行う可能性がある採用オートメーション市場は、2021年において、430億米ドル程度(注16)の市場規模であると推定しています。市場規模は、企業クライアントが人材採用のために社内リソースに費やしている金額を基に、その金額のうちどの程度が第三者による採用オートメーションサービスに代替可能であるかを推定することに加え、自動化によって得られる企業クライアントのコスト削減効果を考慮した上で算出しています。
人材紹介市場、エグゼクティブサーチ市場、採用オートメーション市場は、候補者のソーシングやスクリーニング、面接の設定、候補者の選定や配属といった、多くのサービスにおいて属人的な関係に基づく伝統的なビジネスモデルを採用しています。当社グループはデータや自動化を活用し、これらの作業を効率化するソリューションを、業界平均よりも低価格で採用担当者や企業経営者に提供することを目指します。それによって、当社がサービスを提供する求人クライアント数を更に増やし、採用予算のうち、より多くのシェアを獲得することを目指します。
・人材派遣市場
2021年における人材派遣市場は、グローバルで年間売上金額ベースで4,730億米ドル程度(注12)の市場規模であると推定しており、売上金額から派遣スタッフの給料や関連する費用を控除した売上総利益金額は880億米ドル程度(注15)と推定しています。当社グループは、同市場において短期的には、テクノロジーを活用して人材派遣事業の効率化に繋がるオンラインプラットフォームサービスを提供し、長期的にはこれらのソリューションを通して市場の変革を図ります。当社は、人材派遣市場における革新的なソリューションの開発を模索し、それを新規及び既存事業に応用することで、データやテクノロジーを活用した将来の事業機会に繋げることを目指します。
Help Businesses Work Smarter - SaaSソリューションによる日本国内企業クライアントの業績及び生産性向上
メディア&ソリューション事業は、SUUMOやHotPepper Beauty、タウンワークをはじめとする販促・人材領域のオンラインマッチングプラットフォームと、集客・顧客管理、採用や人材管理及び決済業務の効率化のための豊富なSaaSソリューションの提供を通じて、企業クライアントの業績及び生産性の更なる向上の実現を支援しています。
今後は業務・経営支援ツールであるSaaSソリューションを更に拡充し、金融サービスを含む、企業クライアントの事業運営に係る全ての経済活動を支えるエコシステムを構築していきます。
エコシステムを構築していくにあたって、現時点では、SaaSソリューションの登録アカウント数が最重要指標であると考え、SaaSソリューションの拡充に加えて、従前より培ってきた営業体制を活用した営業戦略及び積極的なマーケティング活動を実施し、アカウント獲得に取組んでいます。
日本国内におけるアカウント数の規模及び今後の成長見通しに関しては、当社が提供するSaaSソリューションであるAir ビジネスツールズが提供しているソリューションの日本における潜在顧客事業所数を2020年3月末時点で約290万程度(注18)と推定しており、アカウント数が成長する余地は依然として大きいと認識しています。登録アカウント数の拡大を牽引するAirペイのアカウント数は、無料で提供しているAirレジやAirワーク 採用管理に次いでアカウント数が多く、2022年3月末時点では約28.1万(注19)、前連結会計年度末比33.6%増となりました。
AirペイとAirレジやAirシフト等Air ビジネスツールズの他のソリューションを併用する企業クライアントも増加しています。2022年3月末時点のAirペイアカウント数約28.1万のうち、他ソリューションを併用しているアカウント数は約17.6万となりました。
2022年3月期のSaaSソリューションの拡充としては、決済ブランドであるCoin+を搭載した個人ユーザー向けのデジタル口座管理アプリであるエアウォレットや、ATS(Applicant Tracking Service)であるAirワーク 採用管理の提供開始が挙げられます。また、2022年4月よりAirキャッシュを通して新たに企業クライアント向けの売上収益早期現金化サービスの提供を開始しました。
Coin+は、当社と㈱三菱UFJ銀行が共同出資する㈱リクルートMUFGビジネスが提供する決済ブランドです。決済手数料は0.99%(税抜)と通常のキャッシュレス決済の手数料と比較して低く、企業クライアントの負担を抑えることができます。エアウォレットは、送金のみならず、提携先銀行口座との入出金が無料のため日常生活で使用するお金をシームレスに管理・送金できる機能に加えて、QRコード(注20)決済機能も備えています。
Airワーク採用管理は、企業クライアントが採用ホームページ作成、求人掲載、応募者受付と管理といった機能を無料で利用できるクラウドベースの応募情報一元管理サービスです。Airワーク 採用管理に掲載した求人情報はIndeedを含む検索エンジンに自動で掲載することができます。Airワーク 採用管理のアカウント数(注19)は、2022年3月末時点で前連結会計年度末比2倍以上となり、約38万件を超える水準となりました。
(注18) 出典:総務省・経済産業省「平成28年経済センサス-活動調査結果」及び中小企業基本法における中小企業者の定義等に基づき、中小企業者の事業所数を業種別に算定した上で、2020年3月末時点のAir ビジネスツールズの利用実績を踏まえて、Air ビジネスツールズの導入可能性があると当社が判断した業種に属する中小企業者の事業所数を合計することにより推計しています。なお、潜在店舗数の推計に当たり、2020年3月末時点Air ビジネスツールズ登録アカウント数(ノンアクティブアカウントを含む)が20アカウント以上存在する業種をAir ビジネスツールズの導入可能性があると判断しています。
(注19) 登録アカウント数は、当該サービス登録加盟店舗数及び事業所数を指し、アクティブ及びノンアクティブアカウントを含みます。
(注20) QRコードは㈱デンソーウェーブの登録商標です。
Prosper Together -ステークホルダーとの共栄を通じた持続的な成長
当社グループは、企業活動全体を通じて社会や地球環境にポジティブなインパクトを与え、全てのステークホルダーと共存共栄を目指していくことが、当社の持続的な成長に繋がると考えています。2021年5月に、経営戦略として掲げたESG(環境・社会・ガバナンス)の目標に対する当期の進捗は以下のとおりです。
・環境(E)
気候変動への対策として短期目標に掲げた、当社グループの事業活動における温室効果ガス(GHG)排出量について、計画どおり、2022年3月期にカーボンニュートラルを達成する見込みです(2022年11月に第三者認証を完了予定)(注21)。また、2031年3月期までに目指すバリューチェーン全体を含めたGHG排出量のカーボンニュートラル(注21)に向けては、地球の平均気温上昇を産業革命前と比べ1.5度未満に抑える「1.5度目標」(注22)に沿って、2023年3月期から始まる3カ年目標(注23)を定め、排出量削減に向けた取組みを加速しています。
あわせて、気候変動が当社グループにもたらすリスク及び機会についてシナリオ分析を行い、TCFDフレームワーク(注24)に沿った開示を行いました。詳しくは、「(1) 経営の基本方針」「③気候変動への対策と「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言に沿った情報開示」をご参照ください。
・社会(S)
人々にとって欠かせない生活基盤である「仕事」において、当社グループの事業を通じて社会に大きなインパクトを創出し、全ての求職者の失業期間の短縮に貢献するために、2つのコミットメントを掲げています。
2031 年3月期までに、就業までに掛かる時間を半分に短縮する目標に向けては、求職者が就業するまでに掛かる時間の測定を進めました。そして、個人差はあるものの、Indeedで職を得た求職者について、ほぼ全ての人が就業するまでには約15週間(注25)掛かっていることがわかりました。また、2021年に30か国で実施した求職者調査では、約50%が、就業までに要した時間は生活水準を維持できる期間よりも長かったと回答(注26)していました。今後は、Indeed上でより速く仕事に就く必要がある求職者を特定し、就業までの時間を短縮するためにIndeed上のプロダクト進化を推進していきます。
2031 年3月期までに、累計3,000万人(注27)の障壁に直面する求職者の就業を支援する目標に向けては、特に失業期間が長期化する要因となっている犯罪歴(注28)や求職活動のために必要な交通手段やテクノロジーにアクセスできない(注29)といった障壁に注力し、目的を共有するパートナーとの連携を通じてその低減に努めました。今後は、テクノロジーを活用した支援を進めるとともに、企業クライアントの中で高まるインクルーシブ・ハイアリング(注30)のニーズに応えていきます。
また、当社グループでは、創業以来、従業員一人ひとりの違いを大切にすることで新たな事業やサービスを生み出し、社会に価値を提供してきました。そこで、改めて、多様な従業員の価値創造に向けた意欲を最大化することを経営の重要テーマと位置付け、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)に取組んでいます。
管理職の任用においても性別、国籍、年齢、採用経路等に関わらず多様性を重視し、特にジェンダーについては、当社グループ全体で2031年3月期までに上級管理職・管理職・従業員それぞれにおける女性比率を約50%とする目標を掲げています(注31)。
2022 年3月期は、SBUごとにジェンダーギャップの根本課題の特定に注力するとともに、主要子会社のCEOやSBUの役員を意味する上級管理職の大胆な登用を進め、2022年4月1日時点の上級管理職における女性比率は約10%から約21%に上昇しました(注31)。2023年3月期からは、3カ年目標(注23)を定め、暗黙知の中にあるバイアス低減と女性候補者の拡大に向けた取組みを加速していきます。
・ガバナンス(G)
経営の透明性と健全性を向上し、意思決定の質を上げることを目指し、2031年3月期までに当社の監査役を含む取締役会構成員(注32)の女性比率を約50%にする目標を定めています。そして、2022年6月開催の定時株主総会を経て、女性の取締役会構成員の比率は20%から約27%に上昇しました(注32)。2023年3月期からは、3カ年目標(注23)を定め、女性候補者の拡大に向けた取組みを加速していきます。
また、執行取締役と主にテーマを推進する執行役員に対して、3カ年目標を定めたGHG排出量削減と女性比率向上の達成如何を2023年3月期からの長期インセンティブ報酬(注33)の一部に連動させることを、取締役会において決定しました。
② SBU事業戦略
当社グループ全体の経営戦略を推進するために取組んでいる各SBU事業戦略は、以下のとおりです。
HRテクノロジー事業
より効率的な求職活動及び採用活動の需要に応え、テクノロジーと当社が保有する膨大なデータを活用することにより、IndeedとGlassdoorの求人広告事業及び採用ソリューション事業のグローバル市場での更なる売上収益の成長に注力していきます。
メディア&ソリューション事業
販促領域のオンラインプラットフォームを通じた販促支援は、各事業分野の市場における強固なポジションを活かし、継続的な成長を目指します。人材領域における人材マッチングサービスは、サービスの強化及びHRテクノロジー事業との連携を推進し、企業クライアント数の拡大を目指します。SaaSソリューションの提供においては、企業クライアントのアカウント数の成長に注力していきます。
人材派遣事業
幅広い業界で求職者への就業機会や企業クライアントへの柔軟な労働サービスを提供しながら、安定的な事業運営を目指します。日本では調整後EBITDAマージン水準の維持、欧州、米国及び豪州では調整後EBITDAマージンの継続的な改善に取組みます。
(4) キャピタルアロケーション方針
当社のキャピタルアロケーションは、以下を優先順位として設定しています。
- 既存事業の継続的な成長に資する開発費用及びマーケティング費用
- 安定的な1株当たりの配当の継続的な実施
- 人材マッチング市場におけるHRテクノロジー事業を中心とした戦略的M&A
- 市場環境及び財務状況の見通しを考慮した上での自己株式取得
資本効率について、ROE15%の水準を目安として設定しています。個別の投資案件の実行の是非を判断する際は、資本コストを上回るハードルレートを適用する等、資本効率の実現に取組んでいます。
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