文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。
当社グループは1912年の創業以来、創業の精神である「熱と誠」のもとに、「水と空気と環境の分野で広く社会に貢献する」ことを企業理念とし、事業を行ってきました。創業当時は日本の水インフラの整備に貢献し、「水を安全かつ安定的に供給するための事業を通じて国づくりに貢献する」という意思をもって臨みました。そして、第2次世界大戦からの戦後復興と高度経済成長期には、産業インフラ・都市化による建設需要に対して、さまざまなニーズに基づく多種多様な風水力製品・サービスを提供し、市民生活の高度化に伴って生じる廃棄物を処理する焼却設備等を提供してきました。さらに、情報化社会の進展に伴い半導体製造装置・機器を開発し、近年は持続可能な社会の要請に対して製品の省エネ化を徹底するなど、事業を通じて社会の様々な課題の解決に貢献してきました。
今後100年の人類社会や地球環境を展望すると、特に注目すべきは温暖化現象の悪化による異常気象と自然災害の激甚化、海面上昇による高潮、陸地の浸食、さらには食料や水の資源枯渇等の問題の発生があります。また、高度情報化社会はますます進化し、デジタル社会の加速によりライフスタイルが大きく変化することが予想され、社会を支える半導体の技術革新はさらに進むとともに需要も拡大していくと考えられます。
このように事業環境が見通しにくい中で、当社グループが今後も社会課題の解決を通じて更なる成長を続けていくためには、今後の社会の展望と課題を認識したうえで、将来のありたい姿を描き、その実現に向けた方針・戦略を明確にすることが不可欠と考え、2020年2月に長期ビジョン「E-Vision2030」を策定しました。
「E-Vision2030」は、10年後のあるべき姿とそれに向かう道筋を“価値創造ストーリー”として表したもので、「技術で、熱く、世界を支える」というスローガンを掲げ、当社グループが2030年に向けて解決・改善していく重要課題を“5つのマテリアリティ”として設定しています。5つのマテリアリティはSDGsをはじめとする社会課題の解決に資するものであり、当社グループは事業を通じて社会・環境価値と経済価値を同時に向上させ、それにより企業価値を向上させることで、グローバルエクセレントカンパニーを目指します。
技術で、熱く、持続可能で地球にやさしい社会、安全・安心に過ごせる社会インフラ、水や食べるものに困らない世界を支えます。
技術で、熱く、世界が広く貧困から抜け出す経済発展と、進化する豊かで便利なくらしを実現する産業を支えます。
二酸化炭素排出を実質的にゼロにするカーボンニュートラルに向けて、再生可能エネルギー利用を含めた二酸化炭素削減を推進します。
多様な人材が働き甲斐と働き易さを感じながら活躍し、“競争し挑戦する企業風土”を具体化します。
成長へのビジョンを描き、グローバルで勝ち続ける経営を後押しする攻めと守りのガバナンスを追求します。
当社グループは、「E-Vision2030」に示した進むべき方向性に対して、バックキャストして今後3年間で取り組むべき戦略・課題と、前中期経営計画「E-Plan2019」の振り返りから明確になった解決すべき課題への対応等に基づき、2020年度からの3か年の中期経営計画「E-Plan2022」を策定しました。
「E-Plan2019」は、計画期間完了時に、世界規模で事業展開し成長する産業機械メーカへと更なる発展を目指すために、全事業の収益性を徹底的に改善することを目標とし、「成長への飽くなき挑戦」を実践する期間と位置づけ、各事業において施策を遂行しました。「E-Plan2019」の振り返りから明らかになった課題は、「収益基盤の強化」、「サービス&サポート(S&S)事業の拡充」及び「新規事業の創出」の3点であり、「E-Plan2022」でも引き続き重点課題として取り組んでいきます。
「E-Plan2022」は「E-Vision2030」の最初の3年間の中期経営計画として、「更なる成長に向けた筋肉質化」のステージと位置づけ、以下の4つの基本方針を策定しました。
新事業の開拓・創出、既存事業におけるグローバル市場への更なる展開
収益基盤強化のための事業構造の変革と全事業でのS&S売上収益の伸長
デジタルトランスフォーメーション(DX)への積極的な取り組み等による経営のスピードアップ、ROIC経営の深化
変化する環境問題への取り組み、社会とのつながり及びガバナンスの強化
E-Plan2022では、以下の理由により投下資本利益率(ROIC)と売上収益営業利益率を最重要経営指標としています。
投下資本を有効活用しながら中長期的に資本コストを上回るリターンをあげることを強く意識し、さらに事業ポートフォリオに基づき、成長事業と収益改善事業に区分し、メリハリのある事業別戦略を実行します。
「E-Plan2019」の振り返りも踏まえ、S&S事業の拡充等による収益基盤の強化を重要課題と認識し、事業の収益性改善を行います。
当社グループの連結財務諸表及び連結計算書類について、財務情報の国際的な比較可能性の向上を目的として、従来の日本基準に替えて、IFRSを任意適用します。2020年2月に公表済みのE-Plan2022の目標値への影響は以下のとおりとなります。
最重要経営指標(KPI)
目標を達成するためのモニタリング指標
成長投資
株主還元方針
E-Plan2022を策定するうえで前提とした経営環境は以下のとおりです。
表中「市場別・地域別トレンド」の矢印は市場の成長動向を示す。
E-Plan2022を「更なる成長に向けた筋肉質化」のステージと位置づけ、さらに前述の市場環境の下、3年間で優先して取り組むべき課題は以下のとおりです。
・ニーズの発掘とシーズの発見・育成を行い、新事業を創出
・事業ポートフォリオの最適化により収益を拡大
・経営スピードを速め、効率的なグローバルオペレーションの基盤を強化
・社会に範となる事業活動・行動の実践
これらの課題に対処すべく、以下の5つの軸で経営戦略を設定し、計画を策定し、実行していきます。
新たなニーズ・シーズを探求し、その需要を満たす製品・サービスが何か、それに対して当社が保有する技術、インフラでの強みを発揮できるかを全社視点でグローバルに検討するためのマーケティング・R&D組織を設置し、顧客へのソリューション提供につなげていきます。
新規事業の模索・成長に向けては、自前にこだわらず、社外研究機関やベンチャーを含む他企業等との連携や出資、買収等の手段も積極的かつ柔軟に活用します。
具体的には、世界の食料問題解決に向けた陸上養殖や今後急成長が見込まれるバイオプロセスに向けたソリューション、廃プラスチックのケミカルリサイクルをはじめとするカーボンニュートラル関連分野での新規事業などに取り組んでいきます。
既存の対面市場のみならず、マーケットインの視点で当社の強みを生かした製品やサービスにより、付加価値を提供することができる新たな市場・領域の探索や適切なビジネスモデルを検討し、顧客ニーズにマッチした製品改良・開発や新しいサービスの提供を行います。実行においては、常に業務のスピードアップを意識し、個々の事業での対応のみならず、各事業の連携を通じたシナジーを最大限に発揮します。
グローバルに経済合理性を実現できる最適なアプローチを事業横断的に考え、各市場・顧客、各国・地域で最適なサービスを提供できる体制を構築します。
具体的には、製品は異なるが対面市場が同一の事業(カスタムポンプとコンプレッサ・タービン等)のS&S組織を統合又は連携し、技術力やグローバルネットワーク等の相互の強みを活かしたシナジーを産み出します。
事業ポートフォリオにより、将来にわたり成長が期待できる事業(成長事業)と、対面市場が成熟している又は収益性に課題がある事業(収益改善事業)とに分け、それぞれの戦略を設定します。成長事業として標準ポンプ事業及び精密・電子事業にフォーカスした成長投資を行うとともに、収益改善事業のうちカスタムポンプ事業とコンプレッサ・タービン事業は収益性の確保を重点に置いた事業運営を最優先とします。
圧倒的競争優位性を持つ製品を開発し続けます。対象市場で必要かつ最適な性能、品質、納期の要件を徹底的に検討、規定し、それを満たした上で、最大の収益が得られる価格での販売を行います。例えばポンプ事業においては、省エネ化、小型・軽量化、スマート化した製品などが対象となります。
調達コスト低減のため、グローバルでの調達力を強化し、最適地調達を強化します。
人口増加に伴い経済成長も見込まれるグローバル市場と、成熟した日本市場とで戦略を分けて施策を実行します。
人口増加、経済成長、特定産業の発展など、成長が期待できる地域や国での売上拡大のため、設備・M&Aの投資やリソースの積極的配分により、拡大に必要な製品・サービスの拡充や人材の確保を行います。
標準ポンプについては10か所以上の拠点設立によるカバレッジの拡大を実行し、特に未開拓で今後人口増加・経済発展が見込まれるアフリカ市場におけるプレゼンスを高めます。また、地域ニーズを的確に把握し、拠点での製品開発も積極的に実施します。精密・電子事業は成長する中国市場の参入を確実に実行し、その他の事業は中国・インドを中心としたアジア地域で事業を拡大させます。
マーケティング、生産、調達、販売、サービス及び物流については、事業の枠に囚われず、拠点の相互乗り入れ・活用などを用い、最適なグローバルバリューチェーンを構築します。
日本市場が成熟することを前提に、サービス事業の確実な刈取りに加え、IoT・AI等の先端情報化技術の活用等を先行して行い、事業の効率化、収益の最大化を行います。
事業の成長に必要な6つの資本(人、製造(建物・設備)、財務、知的(技術・特許)、社会/関係(SCM、代理店)、自然/環境)を、様々な事業環境の変化やグローバルでの事業拡大に資するものに進化・強化させます。
ROIC-WACC(加重平均資本コスト)の乖離とS&S売上収益を最重要指標として評価・管理するため、事業別かつグループ・グローバルでの各指標(及びそれをツリー分解した重要指標)の算出の正確性・迅速性を向上させます。また、全事業において売上債権や棚卸資産を中心としたバランスシートコントロールを強化して投下資本の回転率を高める一方、事業別にはメリハリのある投資等のアクションに結びつけるポートフォリオ経営を実践します。
事業運営の効率性を高め、成長していくため、データとデジタル技術を駆使し、製品やサービス、ビジネスモデルをグローバルに変革します。また、それを支えるERPの全社的導入等により業務インフラを整備するとともにグローバルに最適化された業務フローや業務ルールを構築します。
製造においては自動化工場のノウハウを体系化し、国内外グループ会社への生産自動化の水平展開を実施します。
「E-Plan2019」期間中に改定を行った人事制度の有効性を高める運用として、年功に拠らないドラスティックな人材配置やグローバルでの展開等を推進します。その基盤となるタレントマネジメントシステムをグローバルで導入し、国籍や性別に関わらず優秀な人材を育成・抜擢し、適材適所の配置を実現するプラットフォームとして構築します。また、高度専門人材等のキャリア採用やグローバルモビリティの向上等により、人材の多様化を推進し、世界中から競争し挑戦する人材を採用、育成します。
労働安全管理、ストレスマネジメントや健康増進策など、従業員が安心・安全に働き、より高いパフォーマンスを発揮できる職場環境を整備します。
「E-Plan2019」期間中に一定の深みを増したESG経営については、引き続きSDGsをはじめとする社会課題の解決に事業を通じて持続的に貢献し、社会・環境価値と経済価値を同時に向上させていきます。
各事業の製品・サービスの高効率化等により温室効果ガス排出量を抑えることが、当社の環境問題への最大の貢献であることを自覚し、その強化・推進に努めます。合わせて、ケミカルリサイクルや水素社会への対応等を検討します。一方で、事業活動により生じる環境負荷はグローバルで確実に把握し、その最小化に向けた取組みを計画的に実施します。
事業活動によって安全、安心、便利な製品・サービスを届けることにより社会価値創造・提供を行っていきます。事業活動にあたっては、地域社会発展への寄与や人権尊重など、社会とのつながりを強く意識する一方、非営利の社会貢献は事業活動による社会価値の提供と位置付けを明確に分けたうえで、文化施設への支援などを推進します。
取締役会主導による中長期の経営方針と執行部門による実行のサイクルを更に進化させ、より実効性の高い体制を整えます。また、グローバル経営の進展等に合わせ、グループガバナンスやリスクマネジメントを進化させます。
世界経済は、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化して不透明感は残るものの、ワクチン接種の普及により持ち直しの動きが続きました。日本では、大都市圏を中心に緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が実施されるなど一部で経済活動が抑制されましたが、外需向けは緩やかな増加が続くとともに、設備投資は持ち直しの動きがみられました。東南アジアのロックダウンによる部材調達難、半導体不足、部材価格の高騰や物流費の上昇などがみられましたが、販売価格調整や原価低減施策の実施、サプライチェーンマネジメント強化等により業績への影響は限定的でした。新型コロナウイルスの収束については先が読めない状況ではありますが、当社事業は社会インフラ、産業インフラを支えるもの、デジタル化社会に必要となるものであることから、現時点では当社グループを取り巻くマイナスの影響は限定的であり、顧客ニーズに対して適時・的確に対応すべく、感染予防を徹底しながら事業活動を継続させ、安定的に製品・サービスを提供していくことが重要となります。
各セグメントの経営環境、リスクと機会及び対処すべき課題は以下のとおりです
経済活動再開により、建築設備市場ではグローバルで需要回復の動きが見られます。石油・ガス市場では原油価格が新型コロナウイルス感染症拡大以前の水準まで回復し、一服感はあるものの中国を中心に新規案件等が好調に推移、また中東・インドなどの一部案件にも動きが見られました。対面市場は社会・産業インフラであり底堅い状況です。当社グループの海外拠点においては、主に東南アジアでのコロナ感染の再拡大に伴うロックダウン等により、一時的な操業規制の影響を受けましたが、従業員の感染防止を徹底しつつ、現状ではすべての拠点において平常の稼働レベルに回復しています。今後は、サプライチェーンの確保や、グループ拠点間での製品供給や人的サポート体制を強化しつつ、xR(VR、AR)やWeb会議ツール等のデジタル技術を活用したリモートでの対応をより一層加速させていく必要があります。
主力のごみ処理施設の建設・運営は、日本国内の官公需向けが主な対面市場であるため、新型コロナウイルスによる市況の影響は極めて少ない状況です。当社グループが請け負う建設工事や施設の運転管理などにおいて、感染予防を徹底しながら、事業を安定的に継続させることが最重要課題となりますので、遠隔監視システムやリモート会議システムなどを活用しながら、人の移動を最小限に抑えつつ、各建設工事現場や管理事務所で関係者の健康管理を徹底します。
世界的なリモートワークの進展やデジタルトランスフォーメーションの加速等により、半導体業界では顧客工場の稼働率が高まっているため、設備投資が急増しています。一方、米中の貿易対立の影響には注視が必要です。また、通常、装置の販売においては、日本から技術者を派遣して客先での装置立上げを実施するケースが多く、日本から海外への渡航制限が厳しくなる中、海外拠点を最大限活用することで影響を最小限に抑えています。今後も世界的なWith/Afterコロナの対応の高まりによる半導体市場の活況に寄与すべく生産やサプライチェーンへの影響を最小限にとどめ、顧客に密着したフィールドサポートを充実させるため、各拠点のS&S体制強化と人材育成を推進していきます。
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