事業等のリスク

 

2【事業等のリスク】

NIDECの経営成績、株価、財政状態等に影響を及ぼす可能性のあるリスクには、次のようなものがあります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在においてNIDECが判断したものであります。

 

(1)経営戦略リスク

①政治・経済状況の変動に係るリスク(特に重要なリスク)

NIDECの製品及びNIDECの製品を搭載した製品は主に中国を主とするアジア、米国、欧州及び日本で生産、消費されており、これらの国または地域の予期せぬ景気変動、政治・政策動向は、NIDECの製品需要や生産状況に悪影響を及ぼす可能性があります。特にNIDECの製品はパーソナルコンピュータ(以下、「PC」)や家電、自動車等の最終製品に組み込まれているため消費動向に左右され、一般消費水準の減退はNIDECの売上に悪影響を与える可能性があります。同様に、製造部門における設備投資の水準は景気動向によって左右され、設備投資水準の減退がNIDECの産業用製品に係る売上に悪影響を及ぼす恐れがあります。今後経済環境の悪化が進んだ場合、NIDECの事業、経営成績、財政状態に悪影響が及ぶ可能性があります。

2021年度は米中貿易摩擦の影響に加え、新型コロナウイルスの度重なる変異株の発生による感染拡大が継続し、移動の制限、生産活動や個人消費の波が大きく、サプライチェーンの不安定化等が世界経済の悪化や原材料価格や物流費の高騰を招き、NIDECの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼしました。特に、自動車メーカーの工場稼働停止や設備投資の減少や家電製品の巣ごもり需要の一巡が同分野における一部NIDEC製品の需要減に繋がりました。また、欧米を中心に、気候変動対策に積極的に対応する姿勢が強まり、脱炭素に向けた全世界的な動きがますます加速することが予想されており、NIDECとしては、当社工場における再生エネルギーの大幅導入を検討しています。

直近では、需給バランスの乱れによる半導体の不足や、電磁鋼板等モーターには欠かせない原材料の供給不足や価格の高騰、更には、ロシアによるウクライナ侵攻を発端とした地政学上のリスクも高まっており、エネルギー供給の不確定性やグローバルサプライチェーンの混乱による価格の高騰等も懸念されます。半導体・電磁鋼板等については調達戦略の見直しによる供給確保を、また原材料市況の悪化に対しては、原価低減と売価調整、技術革新により対策を図っております。

 

②技術環境・産業構造の変化に係るリスク(特に重要なリスク)

技術変遷を背景とした需要の変容、それに呼応する顧客動向の変化がNIDECの想定を上回るスピードで生じた場合に、同市場におけるNIDECの経営環境に影響を及ばす場合があります。

例えばHDD用モータ事業はNIDECの主要事業の一つであり長期に亘り当社の収益基盤をなしてきましたが、半導体メモリーSSDやクラウドコンピューティングの定着によるストレージ市場の構造変化が顧客のビジネスモデル変化を招き、当社HDD用モータの需要低下に繋がっています。今後はクラウド市場の拡大に牽引されるサーバー向けのHDD用モータに注力し一定の収益を確保すると同時に、端末向けHDD用モータの開発・生産に振り分けていたリソースをモビリティソリューション分野をはじめとする新規商材へ集中投下し、ビジネスポートフォリオ転換のスピードを早めます。

 

③競合に係るリスク(特に重要なリスク)

NIDECは事業を行う様々な市場で激しい競争にさらされております。特に車載、家電市場においては、新興国の地場メーカーの台頭で競争が激化する傾向があります。市場で競争力を高めるため、NIDECは研究開発分野への多額な投資の維持・増強、製造能力・販売力・マーケティング力の拡大、サービス力とサポート源の拡大、タイムリーな新製品の開発、既存製品の更なる改善を実施していく必要があると考えております。また、利益性を確保するためのコスト削減活動もNIDECにとって必要です。

NIDECは次のような場合に、市場における競争力が低下したり収益力を損なう可能性があります。

・市場がNIDECの予測を超える速度で発展した結果、需要拡大等の市場変化への対応において競合他社がNIDECの能力を上回った場合

・NIDECのコスト削減活動が、市場販売価格の減少や原材料費の上昇による悪影響を吸収するには不十分となった場合

・競合他社が技術革新、製造効率の改善または研究開発能力の強化を行った結果、NIDECの製品や技術が陳腐化した場合

・NIDECの競合企業同士の合併によりNIDECの競争力が相対的に弱まった場合

・必要な投資を継続・強化するための財産的、技術的、人的な資源を調達できない場合

 

例えば現在、EV用トラクションモータシステムに関してNIDECの主な市場は中国です。中国は国策により自動車のEV化を推進しており、現在世界最大のEV市場を擁しています。NIDECは現在、EVのエンジンに相当するトラクションモータを重要な戦略製品と位置付けており、コスト競争力と開発スピードに優れる地場メーカーの台頭により同市場における競争力を失うと、NIDECの成長戦略全体に重大な影響が及ぶ可能性があります。対策として、同市場における影響力が大きい中国企業との提携を強化しています。2019年にはEV用トラクションモータシステムに関しては、同国の有力自動車メーカーである広州汽車グループと提携を結びました。更に、同国における生産能力を増強することで急激な需要の高まりを想定した供給体制を整備しています。既に平湖市では工場が稼働していますが、今後、大連市、広州市でも生産を予定しています。開発におきましても2019年に蘇州市に蘇州開発センターを設立し、開発の現地化により顧客要求に迅速に対応する体制を整えております。

 

④先行投資に係るリスク(特に重要なリスク)

NIDECは需要の拡大を予想した場合、受注に先駆けて生産設備を拡張することがあります。従って需要が生産能力を下回ると、稼動損による償却負担の増加または過剰在庫による棚卸資産の評価減が収益を圧迫する可能性があります。例えば、急速な市場規模拡大が予想されるEV用トラクションモータシステムの生産工場が既に中国平湖市で稼働しております。今後、平湖地区に新建屋を建設予定で、需要拡大に備えた体制を構築中です。また、欧州のセルビアにEV用モータ、インバータの生産工場の建設を行っており、脱炭素化を追い風にEV需要拡大が見込まれる欧州での供給体制を強化してまいります。

しかし、競合他社の開発・市場参入動向、最終製品の需要動向の変化により、当初予想した受注量を確保できない場合には、NIDECの経営成績及び財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。

更に工場に導入した設備が急速な技術革新によって陳腐化や用途変更が発生した場合には、現在の見積耐用年数を短縮させる必要性が生じ、連結会計期間あたりの償却負担が増加する可能性があります。他方、もしNIDECが需要を過小に見積もり必要な設備投資を行わなかった場合、顧客の需要を満たせずにシェアを失う可能性があります。

また、部品や材料を調達する際のリードタイムを考慮してサプライヤーへ材料を先行注文することがあるため、実際の受注数量が予想に満たない場合は過剰在庫が生じ予期せぬ棚卸資産の評価減を招く可能性があります。

 

⑤M&Aに係るリスク(特に重要なリスク)

NIDECは事業の成長に必要な技術、製品、販売網、顧客基盤を所有する他社の買収や他社への資本提携を通じて大幅な成長を達成してまいりました。買収や投資活動を継続的に成功させることは、NIDECの事業戦略を達成する上で極めて重要な要素です。そして車載事業を中心とした技術・商流の獲得が益々重要度を増しています。車載事業の中でも特にEV用トラクションモータシステムは今後の成長の柱となることが大きく期待されています。EV市場はグリーンリカバリーの動きの中で拡大ペースが急加速すると見込まれることから、EV用トラクションモータシステムの製造に必要な技術・商流・設備等の買収を市場の成長スピードに追随する適切なタイミングで実施出来なかった場合に、NIDECの競争力が低下する可能性があります。更に、2030年度売上高10兆円を目指す中で、NIDECのビジネスモデルがモータ単品売りからモジュール、システムへと転換していくことが予想されます。市場が急速に変化する中で、ビジネスモデルの転換に必要な技術を適確に選択・買収することが出来なかった場合に、市場の成長スピードに追随できなくなる可能性があります。

また、NIDECの買収や出資活動が成就しなかった場合、NIDECの製品ラインナップ、販売網、顧客基盤の拡大計画が停滞したり、成長率が低下したりする可能性があります。買収や資本提携を成功させるためには、買収した事業の効率的な統合が重要です。しかし、買収した事業がNIDECの予想どおりに収益を生むという確証はありません。

NIDECは今後の買収や資本提携を成功させるために必要な条件を次のように考えております。

・買収対象企業の正確な事前調査(各種デューデリジェンス)

・事前調査の過程でNIDECに悪影響を与える買収対象企業の負債を特定する能力

・買収した事業に係る製品を製造・販売する能力及び買収した事業に係る技術を既存技術と統合して新製品を開発する能力

・買収した事業の経営、製品、社員に関するNIDECの統合能力

・買収した事業におけるキーパーソンの保持

・買収した事業における財務面や経営面でのNIDECの管理能力

・買収した事業からの報告体制及び買収した事業の法令遵守体制の整備

 

こうした買収、出資活動はNIDECの事業に重要な影響を与え得る不確定要素です。例えば、出資先企業の業績が悪化した場合、投資価値が毀損する可能性があります。出資先企業が拠点を置く国の政府による経済政策、法律、規制、または会計基準の変更が出資先企業に適用されることでNIDECの業績へ多大な影響が及ぶ可能性があります。

買収や出資の効果が得られないか、または適切な買収や出資の対象会社を見つけることができない場合、そのことがNIDECの事業、経営成績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、NIDECは、買収に伴い取得した多額ののれん及び無形資産を計上しており、当連結会計年度末現在、のれん及び無形資産はそれぞれ、3,399億円及び2,145億円計上しております。NIDECは、これらの資産については、買収した事業の効率的な統合により得られる将来の収益力を適切に反映したものと考えておりますが、事業環境の悪化等により予想どおりの収益が得られないと判断された場合、NIDECはこれらの資産について減損を認識しなければならず、NIDECの経営成績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

⑥法令・規制に係るリスク

NIDECの事業は、事業運営を行っている国内外における法令、規制、政策、行動規範、会計基準等の変更や解釈の差異、適用誤りに起因するコンプライアンスリスクを負っており、製品ラインナップの拡充またはビジネスの地理的拡大により、NIDECは各種産業、市場及び行政地区特有のリスクにさらされることになります。よって、NIDECのリスク管理体制によっても、これらのコンプライアンスに完全に対処することができない可能性があります。

NIDECは日本、アジア、北米、欧州、その他地域の環境法令を遵守しております。これら環境法令は大気汚染、水質汚濁、危険物質の対応、水質管理、リサイクル、温暖化防止、土壌及び地下水の汚染等に関連する規則を含みます。

欧州委員会は2050年に温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を法制化することで合意しました。それに付随して、2030年に向けた目標も、1990年の水準から少なくとも55%削減する新たな目標で合意しています。更にEUを始め米国や日本でも輸入品のCO2排出量に応じて関税を課す国境炭素税の導入が検討されている等、脱炭素に向けた全世界的な取り組みが急激に加速しています。また、NIDECの事業の多くは環境法令に基づく営業許可を必要とし、それにより製造活動は制約され、法令遵守のための費用が発生します。こうした環境法令は当局により修正、改定、廃止される可能性があります。これらの法令が厳格化することにより環境法令の継続的遵守に必要な投資やその他の支出が増加したり、事業の見直しを行う必要が生じ、そのことがNIDECの事業、経営成績、財政状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

また、NIDECの事業は国内外において独占禁止法、贈賄防止条約、反テロ法、知的財産権、消費者保護法、税法、輸出規制、関税法、海外貿易規制及び為替規制等の取引規制や市場規制を遵守する必要があります。

更に、我々は新規市場開拓を行い続けており、法令遵守体制をより強化する必要があります。NIDECは東京証券取引所に上場しているため、金融商品取引法その他法令の適用を受け、財務報告の適正性の遵守が求められます。NIDECは、事業成長に伴い、業務拡大を継続しており、財務報告の適正性に関する法令遵守体制をより強化する必要があります。これら規制を遵守できない場合、その結果生じる罰金、社会的制裁、信用毀損、営業停止、更には営業許可の剥奪がNIDECの事業に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

こうした法律、規制、政策、自主行動規範、会計基準等の変更及びその影響を予測することは困難であり、新たな遵守体制整備のために追加的な財務、管理、人的資源が必要になる可能性があります。

 

(2)事業運営リスク

①高度な専門性を有した人材の採用・保持に係るリスク(特に重要なリスク)

NIDECの事業は、代替することが非常に困難な多数の上層部経営者、エンジニア等の継続的な雇用に依存しております。技術革新の大波が押し寄せ、その波に乗れるかどうかの瀬戸際である昨今、NIDECはAI、IoT等の新市場に対する高い知見を持つ人材、大多数の高度なスキルを持つ人材を追加雇用し、育成し、意識統一し、そして活用する体制づくりを進めていく必要があります。世界的にこのような人材の獲得競争は極めて激しいため、NIDECがこのような追加の人材を引き付けることが出来ない場合は、技術革新の大波に乗れる機会を失う可能性があります。

NIDECは2030年度売上高10兆円を目指すにあたって、3つの人事制度改革(評価制度・等級制度・報酬制度)を進めています。実力・実績主義を徹底するため、成果に応じたメリハリのある評価・報酬、適所適材でのスムーズな人事異動、人材育成を行うことで専門性の高い人材の採用、幹部人材の確保、育成プロセスの強化を図ります。

 

 

②研究開発に係るリスク

NIDECは基礎研究、新製品開発、製品改良、生産工程の改善、低コストの製品開発等を研究開発活動として継続的に行っております。NIDECが製品を提供する市場では継続的に急速な技術革新が起きており、脱炭素化、省電力化、省人化、5Gやサーマルソリューション、デジタルデータ爆発といった5つの分野を中心にリソースを投入しています。特に脱炭素化を背景にEV向けトラクションモータの需要は今後益々高まることが予想されますが、欧米を中心に環境規制強化が進んでいることから、法規制を発端とする製品の環境性能(高効率・省資源)や納期に関する顧客からの要求は今後も高まり続けると予想されます。そのような市場環境下で、NIDECの成功の成否は、顧客の要求をタイムリーかつ効果的に満たせるような、より優れた技術、製品、生産工程を開発し続けることができるかどうかにかかっています。もしNIDECが、市場動向を正確に予測できなかったり、適時に効果的な研究開発活動を実施できず、他社が、NIDECより優れた技術、製品、生産工程を開発すれば、NIDECの製品は陳腐化し、販売シェアが縮小すると同時に、新製品の事業及び市場の拡大が妨げられることになります。そのような変化を的確に予測し、求められる技術、製品、生産工程の開発をタイムリーに行うことは非常に困難です。特に基礎研究については、研究活動の方向性を定めることには一層の困難を伴うため、研究開発に要した費用を回収することへの不確実性が高いと考えられます。研究開発活動がうまく成果を出すことができなければ、NIDECの事業、経営成績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

③製品の品質に係るリスク

昨今、品質に対する捉え方が大きく変化しています。製品に使用される材料の調達過程における人権や労働環境、含有している物質の環境規制、発掘時のCO2排出量等の観点を含めて、製品の品質を定義する必要があります。

NIDECは最先端のモータやその他の電気製品を製造しており、事業活動を行う上でNIDECの製品に欠陥がある、もしくは欠陥の疑いがあることや、顧客システムの高度化により発生する想定外の問題を理由として、保証や製造責任を訴訟で問われる可能性があります。特に、NIDECの製品が組み込まれている最終製品が万一大量に故障した場合、消費者からの苦情、不良品の回収、更に損害賠償請求訴訟等が起こり得ます。事業拡大を試みている車載及び家電・商業・産業用モータ及びその他の部品の市場では、安全で高品質な製品を提供できない場合、深刻な物損や人命に係る事故へ繋がる可能性があり、法令上のリコールが適用される他、社会的要請としても特に高い安全性が要求されます。このような問題がNIDECの作る製品を原因として発生すれば、ブランドイメージの悪化、行政処分、顧客からの重大な法的要求や顧客との紛争につながる恐れがあり、その結果販売の落込み及び不良品回収等の損失費用によりNIDECの経営成績が悪影響を受ける可能性があります。更に、訴訟に伴う人的・財務的負担が正確な経営判断の阻害要因となる可能性があります。

NIDECは損害賠償請求訴訟等に備え、保険を付しておりますが、これらの保険では対応しきれない賠償請求が将来的に発生する、またはNIDECの希望どおりに保険が適用されない可能性があります。保険の適用範囲を超える賠償請求や、大規模な製品回収が発生した場合、NIDECの事業、経営成績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。


④原材料・部品調達に係るリスク

NIDECは製品の製造に必要な原材料及び部品の多くを外部から調達しております。コロナ禍及び米中の貿易問題による需給バランスの崩れで、これら原材料、組立部品の価格が高騰及び供給枠制限により、NIDECの生産量が制限される可能性があります。対策として代替品の検討によるマルチソースの確保と中長期の所要を提示し、供給枠確保を行っております。

また、原材料の種類や部品の使用条件等に関わる各国政府の政策変化や顧客の調達条件の変化がNIDECの原材料・部品調達能力を制約することがあります。部品の調達過程における人権や労働環境、資源の入手可能性の検討といった条件の多様化と厳格化が進んでいることから、これらの要因により原材料や部品の調達余地が制限された場合、NIDECは代替材料を提供するサプライヤーの確保及び当該原材料・部品の使用量低減を可能にする設計及び開発への投資を行いますが、調達資材の質的・量的不足が長期間に及ぶとNIDECの生産活動が遅滞し、NIDECの事業、経営成績、財政状態に悪影響が及ぶ可能性があります。対策として、購買担当部署に対して、サプライヤーとのコミュニケーション強化を目的とした研修を実施しています。

2021年度第4四半期、ロシアによるウクライナ侵攻を受け各国が対ロシア経済制裁措置を発動しました。これに伴うエネルギー事情の悪化やグローバルサプライチェーンの混乱による原材料生産・調達能力の圧迫が、当社事業の製品原価を押し上げる可能性があります。

 

 

⑤海外拠点での事業活動に係るリスク

NIDECは事業活動の相当部分を米国、欧州及び中国を含むその他地域で行っております。NIDECは海外生産比率が圧倒的に高い為、こうした海外市場で事業を行う際には、例えば以下のような特有のリスクがあります。

・海外市場における関係産業の景気悪化または沈滞

・国際通貨の変動

・中国、東南アジア等における労働力不足や労働紛争、賃金水準の上昇

・政治不安

・貿易規制や関税の変更

・グローバルな経営活動を行える人材の確保の困難

・一般的に長期の債権回収期間

・不利に取り扱われる恐れのある税制

・文化、商習慣の相違

・投資効果の実現までに要する長い期間と多額の資金

NIDECでは、事業活動拠点を分散させ、カントリーリスクによる経営への影響低減に努めております。

 

⑥知的財産権に係る訴訟リスク

NIDECは自社技術及びその他の知的財産を、特許権、商標権、著作権及びその他の知的財産権、更には機密管理や個別契約により保護しております。NIDECはこれらの知的財産権に関して次のようなリスクを負っております。

・NIDECは第三者からの知的財産権侵害の主張に対して反論をしていくためコストが必要になる場合があります。また、当該主張の結果、予め認識していない第三者の知的財産権を利用してしまったことによりNIDECに賠償責任が発生する場合や、差止命令によりNIDECの事業の継続が妨げられる場合があります。その結果、そのことがNIDECの事業、経営成績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

・NIDECの知的財産権の保護対策は十分でない可能性があります。

・NIDECより大規模な資源を有する競合他社を含むその他の企業が、独自に技術を開発するか、または優越する技術を獲得した場合、NIDECはこれら企業の知的財産を使用するためのロイヤリティを支払わなければならなくなる可能性があります。

・現行または将来の特許出願に関して、特許権を取得できなかったり、NIDEC自身が保有するまたは使用を許諾されている特許が無効になったり回避されたりすることで技術戦略上困難な状況に陥る可能性があります。

・特定の特許権の下で認められている権利では、NIDECに競争上の優位をもたらさない可能性や、適切に保護されない可能性、技術力の維持に繋がらない可能性があります。

・第三者による特許、重要な営業秘密、その他の知的財産権に関する侵害や無断使用に対して提起する訴訟に伴い多大なコストが必要になる可能性があります。

・NIDECの製品を製造及び販売している諸外国の法律が、NIDECの製品や知的財産権を、日本の法律と同じ範囲で保護していない場合や、法律が存在したとしても効果的に施行されていない可能性があります。

 

⑦情報の流出に係るリスク

NIDECは事業活動において顧客、他企業の機密情報及び取引先関係者、従業員の個人情報を保有しております。NIDECはこれらの機密情報に関してセキュリティ対策、研究開発拠点における入退室管理、CADデータ厳格管理等を行っておりますが、同情報が人的及び技術的な過失や違法または不正なアクセス等により漏洩した場合、機密情報を保護できなかったために発生する責任や規制措置の対象となる可能性があり、NIDECは競争上の優位性を喪失し、顧客や市場の信頼が失われ、そのことがNIDECの事業、経営成績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。加えてNIDECの営業活動やシステム、ブランドイメージに対する社会的信頼を落とすことになります。

これらの対策として、2019年にNIDECは情報セキュリティ管理室を発足しました。それに伴い、情報セキュリティ委員会や、各組織に情報セキュリティ管理責任者や情報セキュリティ推進責任者を設置し、グループ横断のセキュリティ管理体制を構築しています。

2021年度も引き続き、情報セキュリティ管理室が主体となって社員に対する情報セキュリティeラーニングを実施する他、情報セキュリティ強化月間を設けて情報セキュリティ意識の向上を目的とした情報発信を行いました。

尚、M&A関連の情報流出防止の策として、社内関係者とは個別案件ごとに守秘義務契約を締結し情報管理をしております。

 

⑧年金制度に係るリスク

NIDECの一部では、一定の要件を満たす従業員のための確定給付年金制度と確定拠出年金制度を併用している会社があります。特に、確定給付年金制度に関しては、年金資産の公正価値や年金資産の収益率が下落した場合、または、退職給付債務の計算の基礎となる想定値が変動した場合、損失が発生する可能性があります。また将来、既存の年金制度を変更し、従来は認識していない勤務費用が発生する可能性があります。そして、利率の変動、NIDECをとりまく環境の変化やその他の要因により、年金資産の積立状況等に悪影響を与える可能性があります。更に、将来の年金費用の計算に使用される想定値も変動する可能性があります。

 

⑨為替に係るリスク

NIDECの海外への売上の大部分は日本円以外の米国ドル、ユーロ、中国元、タイバーツ等の通貨で構成されており、各通貨に対する円の上昇は一般的に、NIDECの売上、営業利益、当期利益に悪影響を及ぼします。このリスクを軽減するため、売上と仕入の通貨を合わせることにより為替リスクの軽減に取り組んでおります。例えば、もしある製品の売上が米国ドル建てであれば、この製品の生産に使用する材料や資源の購入を米国ドル建てで購入するようにしております。それでもなお、NIDECは為替リスクにさらされています。

加えて、日本円以外の通貨で運営している子会社の業績を連結財務諸表として統合した際、為替変動が大きく影響する可能性があります。

 

⑩金利の変動に係るリスク

NIDECは固定利率と変動利率の長期債権や有利子負債を保有しており、それらの金利変動やキャッシュ・フロー増減リスクを防ぐため、金利スワップや他の契約を締結することがあります。その場合、ヘッジされていない部分に関して、支払利息や受取利息、金融資産・負債の価値に影響する金利の変動リスクにさらされる可能性があります。

 

⑪資金の流動性に係るリスク

NIDECは自社の資本支出やM&Aに関する資金を金融機関からの借入や金融市場からの直接調達に依存しております。

2030年度売上高10兆円を目指す当社で、今後資金調達規模の拡大が予想されるため、調達ソースの多様化を図っております。そのために、格付の維持・向上等により資金調達力を一層高める必要があるとともに、近年定着しつつあるESGを加味した企業価値判断基準への適合が重要となります。

金融市況の変化やその他の要因により金融機関が貸付枠、信用供与枠額や条件を圧縮した場合、またはNIDECがそれまでと同等またはより良い条件で取引可能な代替的資金調達源を見つけることができない場合、そのことがNIDECの事業に悪影響を及ぼす可能性があります。更に、NIDECの財政状態が悪化した結果、信用格付機関がNIDECの信用格付けを大幅に引下げた場合や経済状況の後退により投資家の意欲が減少した場合、NIDECが必要な資金を必要な時期に、希望する条件で調達できない可能性があり、資金調達がより制限されるとともに、資金繰り費用が大幅に増加する可能性があります。この場合、そのことがNIDECの事業、経営成績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

⑫繰延税金資産の不確実性に係るリスク

NIDECは繰延税金資産が将来の課税所得から回収される可能性を評価しなければならず、回収可能性が見込めない場合は繰延税金資産を減少させることとなります。経済状況や経営成績が悪化した場合、繰延税金資産の全てまたはその一部に関して回収可能性が見込めないと判断し、繰延税金資産を減少させることによりNIDECの利益が減少する可能性があります。

 

(3)ガバナンスリスク

①NIDEC代表取締役会長である永守重信(氏)への依存に係るリスク

NIDECの継続的な成功は主にNIDECの創業者である永守重信氏の能力と手腕に依存してきました。また、2021年6月22日より代表取締役社長である関潤氏が最高経営責任者として就任しておりましたが、様々な経済的・政治的なリスクが顕在化している昨今の状況下を鑑み、永守氏が最高経営責任者として経営の責任を担い、関氏は代表取締役社長(最高執行責任者)として日本電産の中長期経営計画上の主たる事業の一つである車載事業に注力する体制を取ってまいります。永守氏による経営指導体制のもと、日本電産本来のスピード感のある経営を行い、2030年売上10兆円の実現を強固なものとしてまいります。しかしながら、永守氏の突然の離脱があった場合NIDECの事業、経営成績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

本体制は後継者育成を踏まえた短期的なものであり、創業者依存体制の変革を目指し、関氏をはじめとする当社グループ経営陣が組織的な連携を強化(チーフオフィサー制を強化)してまいります。

 

②内部統制に係るリスク

NIDECは上場企業として、金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制に関する要件を満たさなければなりません。そして、事業運営及び資産管理に必要で効果的な内部統制システム、コンプライアンス機能、会計システムの整備は極めて重要であると認識しております。

また、内部統制システムの設計、実施には多くの管理、人材、その他資源が必要になります。内部統制上の重要な不備、弱点が認められた場合、改善に要する新たな資源投入により追加的コストが発生する可能性があります。

NIDECはグローバルな内部統制システムの強化を図るべく不断の検討・見直しを続けておりますが、財務報告に関わる内部統制に重要な不備がある場合、内部統制の逸脱により、適時開示義務を充足できなかったり、投資家及び経営者等の利害関係者の正確な意思決定を妨げる可能性があり、その結果、市場におけるNIDECの評価が毀損する恐れがあります。また、不備の重要性や原因等の内容に応じて様々な法的責任が課せられ、金融市場における資金調達力が制限される可能性があります。

NIDECは2020年度に更なる内部統制の強化並びに持続的な企業価値の拡大を図るため、監査等委員会設置会社へ移行いたしました。取締役会の監督機能を強化するとともに、経営の効率性を高めることによる意思決定の迅速化や、取締役会における議論の充実に努めることにより、内部統制の一層の充実に取り組んでいます。また取締役会の任意の諮問機関として報酬委員会を設置し、役員報酬に関して独立社外取締役の適切な関与・助言を得ることで、公正性・透明性・客観性を担保してまいります。

 

(4)偶発的リスク

①自然災害・人的災害に係るリスク

NIDECやサプライヤーが事業を展開する国内外において、自然災害、火災、公衆衛生、戦争、テロ行為やその他の人的災害が発生した場合、政治的、経済的不安定を招き、NIDECやサプライヤー、顧客に損害を与える可能性があります。仮にインフラに甚大な損害を及ぼしたり電力不足をもたらすような大規模な自然災害、あるいは感染症が発生すれば、従業員が勤務できなくなったり、顧客からの受注が低下したり、サプライヤーの生産活動が阻害されることでNIDECの事業に悪影響が及ぶ可能性があります。また、例えばタイや中国といったNIDECの主要な顧客や生産、開発拠点が集中している地域や、NIDECの本社や重要な研究開発施設が集中している日本でこのような大規模な災害が発生すれば、際立って大きな悪影響が及ぶ恐れがあります。更に、NIDECの事業に必要不可欠なネットワーク及び情報システムは、停電、自然災害、テロ行為、ハードウエアやソフトウエアの不具合、コンピュータウィルスによる攻撃、不正侵入により被害を受ける可能性があります。これらの事態の全てを回避することは困難です。これらの事態が発生した場合には、NIDECの生産活動及び販売活動に大きな支障をきたし、製品の納入が遅れ、サプライヤーから材料や部品を入手することが困難となり、製造工場の修復に多大な費用が必要となります。

更に、NIDECは資産の損害及びその他のリスクに対し、様々な種類の第三者保険を付しております。これらの保険の種類及び保険額はその有用性、コスト、自家保険による補償範囲を勘案し決定します。NIDECの保険契約は、控除条件、適用範囲及び除外項目の対象となる場合があり、その結果、自家保険と同等の補填金額に留まる可能性もあります。NIDECが加入する保険の適用範囲と補償金額はほぼ業界水準と考えておりますが、保険対象外の損失が増加すればNIDECの事業、経営成績、財政状態に悪影響が及ぶ可能性があります。

2019年度後半に顕在化した新型コロナウイルスの世界的蔓延は、NIDECの事業、サプライチェーン機能に影響を与えています。事業継続の為の対策として、NIDECは2020年1月に危機管理対策本部を立ち上げ、従業員の安全を確保しつつ、事業への影響を最小化する対策を講じております。これまで、感染拡大により一時的に操業が停止又は低下した海外の工場はありましたが、本稿開示時点において回復しております。ただし、変異株の感染拡大など、コロナウイルスが及ぼす新たなマイナス影響が発生した場合、NIDECの事業、経営成績、財政状態へ悪影響が及ぶ可能性があります。

 

 

②気候変動に係るリスク

2015年12月にCOP21がパリ協定を採択して以降、気候変動問題はあらゆる国・地域、企業が取り組むべき地球規模の優先事項と位置付けられるようになりました。製品の開発・生産活動を主軸に世界各地で事業を展開するNIDECにとって、気候変動はビジネス創出の機会であると同時に、広範にわたる中長期的事業リスクの源泉でもあります。気候変動に関わる政策および規制、技術開発、市場動向、市場評価等の変化に起因する間接的損失リスクを「移行リスク」と定義し、気候変動がもたらす災害等による直接的損失リスクを「物理的リスク」と定義した場合、以下に挙げるリスク事象の現実化はNIDECの財務状況に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。

 

「移行リスク」

a)炭素税その他脱炭素社会実現へ向けた各国のエネルギー転換施策への対応が遅れることによる税負担の上昇

b)既存製品・サービスに適用される規制の厳格化や新基準への不適合に伴う市場機会の損失およびコンプライアンスコストの増加

c)世界的「電化」傾向に起因する電子部品原材料(希少鉱物、鋼材、その他ハイエンドアルミや銅等の非鉄金属)の入手困難あるいは調達コストの上昇

世界の主要国が気候変動対策へ舵を切るなか、再生エネルギー発電施設の建設や電気自動車(EV)の製造に必要な金属材料(アルミ、銅その他)の市場価格が上昇傾向にあります。また、主な温室効果ガス発生源の一つである火力発電への投資が急速に縮小するなか、2021年度期初より欧州では風況・日射量の極端な低下から再生可能エネルギーが不足し、中国では石炭の生産・輸入制限下における急速な電力需要の拡大が大規模な計画停電を誘発しました。これらの事象はグローバルサプライチェーンの原材料生産・調達能力を著しく制約すると同時に当社の部材購買コストを引き上げる要因となりました。

d)新たな低炭素製品が要求する代替原材料の研究・開発の遅れおよび付帯コストの増加

e)非効果的な気候変動対策に起因する企業価値の低下とそれに伴う投資誘引力の減退および信用格付けの低下

 

これら「移行リスク」へ対処するため、NIDECは以下の施策を実施しています。

◇2040年度カーボンニュートラルの実現を目指す新たな環境目標を2021年7月に策定。具体的な取り組み内容は以下の通り。

・省エネルギーの推進

・再生可能エネルギーへのシフト

(再生可能エネルギーの導入比率については2025年度に40%、2030年度に80%を予定。)

・低炭素燃料への移行

◇SDGsコンセプトに基づく研究・開発活動の推進

◇複数購買ルートの確保

 

「物理的リスク」

a)台風・多雨等がもたらす広域水害の頻発による事業活動の停止

‐浸水その他電力・ガス供給網の機能停止

‐家屋倒壊や道路寸断等による従業員生活へのダメージ

‐運輸サービス機能の停止による製品輸送の停滞

b)渇水による事業活動への制約

‐行政当局による取水制限の強化に起因する工場用水の不足

‐水価格の上昇による生産性の低下(洗浄・冷却・従業員寮の生活水、等)

c)気温上昇による健康被害

‐熱中症件数の増加

‐感染症の伝達速度上昇

d)上記事由によるサプライチェーンの混乱

 

これら「物理的リスク」へ対処するため、NIDECは以下の施策を実施しています。

◇グローバル・ロケーション戦略を通じた生産リスクの分散

◇気候変動リスクが高い国・地域で操業する事業所を対象とする認識度調査の実施

◇生産ラインのイノベーション

◇サプライチェーンの可視化ならびに柔軟性の強化

◇国内外事業所におけるBCPトレーニングの継続

 

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