(1) 経営成績等の状況の概要
当連結会計年度におけるNECグループの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。
① 財政状態および経営成績の状況
当連結会計年度の経済環境は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた経済活動の制約、設備投資の抑制および物流の混乱による世界的な部材供給不足やウクライナ情勢の悪化による資源価格の高騰など供給面の影響があったものの、積極的な財政政策や経済活動制限の緩和等の需要喚起により、世界経済は総じて緩やかな改善となりました。日本経済は、度重なる緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発令もあり、改善は非常に緩やかなものとなりました。
このような事業環境のもと、NECグループは、2021年5月に発表した「2025中期経営計画」に基づき、Purpose・戦略・文化の一体的な取り組みを経営方針に掲げて、事業活動を行いました。
「戦略」においては、「日本を含むグローバルでの事業フォーカス」、「国内IT事業のトランスフォーメーション」および「次の柱となる成長事業の創造」によって成長を目指しています。
「日本を含むグローバルでの事業フォーカス」では、デジタル・ガバメントおよびデジタル・ファイナンス領域において、欧州の既存顧客からウェルスマネジメント向けの勘定系システムの大型更新案件を受注したことに加え、アジアの新規顧客に対しても、当社および子会社間におけるグローバルなシナジーを活かすことで同システムの納入が決定しました。グローバル5G領域においては、国内通信事業者向けの基地局を中心として前期に続き当期も着実に売り上げを伸ばし、海外においても大手通信事業者から商用プロジェクトを相次ぎ獲得しました。2021年6月には、英国のボーダーフォン・グループ社が英国で構築する世界最大級のOpen RANにおいて5G基地局装置を提供するパートナーに選定されました。さらに2021年9月には、スペインのテレフォニカ社と、スペイン、ドイツ、英国およびブラジルにおける商用を目的としたOpen RANの実証について合意しました。
「国内IT事業のトランスフォーメーション」では、NECグループが強みを活かせるDX領域をコアDX領域と定め、生体認証・映像分析、AI、セキュリティ技術などを統合したNECデジタルプラットフォームのさらなる強化に取り組みました。また、当社自身の経験を活かして顧客の働き方改革へ貢献するなど、DX提供領域を拡大しました。さらに、コーポレート・トランスフォーメーションを実現するサービスの提供を開始したほか、アビームコンサルティング㈱と連携して、経営課題解決や社会価値共創を先進的な顧客とともに実現する戦略パートナーシッププログラムも始動しました。加えて、グローバルなクラウド事業者とのパートナーシップの拡大を進めました。まず、2021年7月に、米国マイクロソフト社との40年以上の協業をもとに、技術と知見の相互活用による顧客へのクラウド導入やDXの加速を目的として、同社と戦略的パートナーシップを拡大する契約を締結しました。さらに、2021年9月には、米国アマゾン・ウェブ・サービシズ社とデジタル・ガバメントや5G領域における協業の拡大と連携の強化について合意しました。
「次の柱となる成長事業の創造」では、2021年6月に大腸内視鏡用のAI診断支援医療機器ソフトウェア「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」を、国内に続きヨーロッパでも販売開始しました。また、2022年3月には、ワクチン製造におけるスピードやコストの課題の克服等を目指して、NECオンコイミュニティ社によりネオアンチゲン個別化がんワクチン事業を買収しヘルスケア・ライフサイエンス事業の強化に取り組みました。
成長事業の創造を支える財務戦略においては、収益性や財務健全性の向上に取り組んだ結果、財務基盤が強化され、格付会社による信用格付が上がりました。
「文化」においては、「2025中期経営計画」に基づく文化と経営基盤の変革を目的として、これまで取り組んできた社内変革プロジェクト「Project RISE」を発展させ、さらなる変革を牽引する組織として「Transformation Office」を2021年4月に立ち上げました。本組織のもと、業務プロセス・組織、制度、ITシステムにデータ・人を加えた「三位一体 Plus Oneの改革」を遂行しています。加えて、新型コロナウイルス感染症の流行下の経験をもとに従来のハイブリッドワークへの取り組みをさらに強化させた「Smart Work 2.0」を開始し、働く場所・時間・キャリアの選択肢を増やすことなどにより、社員の自律的な働き方の実現と、働きがいの実感を高める施策を展開しています。また、2021年9月に執行役員社長を委員長とする「I&D推進委員会」を立ち上げ、インクルージョン&ダイバーシティ推進のための具体的なアクションを実行する体制を構築しました。
このような取り組みや経営幹部と社員とのコミュニケーションの強化などにより、「2025中期経営計画」で指標に掲げたエンゲージメントスコアが、25%から35%へと改善しました。NECグループは引き続き社員に選ばれる会社(Employer of Choice)への変革を目指します。
このような経営環境のもと、当連結会計年度の売上収益は3兆141億円(前連結会計年度比0.7%増)、営業損益は1,325億円の利益(同212億円悪化)、調整後営業損益は1,710億円の利益(同72億円悪化)、税引前損益は1,444億円の利益(同134億円悪化)、親会社の所有者に帰属する当期損益は1,413億円の利益(同83億円悪化)、親会社の所有者に帰属する調整後当期損益は1,672億円の利益(同18億円改善)となりました。また、当連結会計年度のフリー・キャッシュ・フロー(「営業活動によるキャッシュ・フロー」と「投資活動によるキャッシュ・フロー」の合計額)は、841億円の収入となりました。当連結会計年度末の有利子負債(短期借入金、コマーシャル・ペーパー、1年内返済予定の長期借入金、1年内償還予定の社債、社債、長期借入金およびリース負債を合計したもの)残高は、前連結会計年度末に比べ1,055億円減少し、5,974億円となり、デット・エクイティ・レシオ(D/Eレシオ、自己資本(「資本合計」から「非支配持分」を控除したもの)に対する有利子負債の割合)は、0.39倍(前連結会計年度末比0.15ポイント改善)となりました。なお、有利子負債残高から現金及び現金同等物の残高を控除した有利子負債残高(NETベース)は、前連結会計年度末に比べ129億円減少の1,666億円となり、デット・エクイティ・レシオ(NETベース)は0.11倍(前連結会計年度末比0.03ポイント改善)となりました。
② キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、1,475億円の収入で、前連結会計年度に比べ1,274億円悪化しました。これは運転資金が悪化したこと、法人所得税の支払額が増加したことおよび税引前利益が悪化したことなどによるものです。
投資活動によるキャッシュ・フローは、634億円の支出で、前連結会計年度に比べ591億円支出額が減少しました。これは前連結会計年度にアバロク・グループ社の買収に伴う子会社の取得による支出の計上があったことなどによるものです。
この結果、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合算したフリー・キャッシュ・フローは841億円の収入となり、前連結会計年度に比べ683億円悪化しました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金の増加があったものの、長期借入金の返済による支出などにより、1,896億円の支出となりました。
上記の結果、現金及び現金同等物は、4,308億円となり、前連結会計年度末に比べ926億円減少しました。
③ 生産、受注および販売の実績
NECグループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多いため、セグメントごとに生産規模、受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていません。
このため、生産、受注および販売の状況については、「(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」におけるセグメントの業績に関連づけて示しています。
なお、外部顧客への売上収益のうち、連結損益計算書の売上収益の10%以上を占める相手先がないため、主要な販売先に関する記載を省略しています。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点によるNECグループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりです。
なお、将来に関する事項は、当連結会計年度末(2022年3月31日)において判断したものです。連結財務諸表の作成には、期末日における資産、負債、偶発資産および偶発債務ならびに会計期間における収益および費用に影響を与えるような見積りや仮定を必要とします。結果として、このような見積りと実績が異なる場合があります。
① 当社の概要(主な事業内容)および経営成績に重要な影響を与える要因
NECグループの売上は、5つの主要なセグメントである社会公共事業、社会基盤事業、エンタープライズ事業、ネットワークサービス事業およびグローバル事業から生じます。
各セグメントの製品およびサービス等の概要は、「第一部 企業情報 第1 企業の概況 3 事業の内容」に記載のとおりです。
NECグループの各セグメントの業績は、景気動向およびIT投資の動向や通信事業者の投資動向等に左右されます。
経営成績に重要な影響を与えるその他の要因につきましては、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載のとおりです。
② 重要な会計方針および見積り
経営陣は、次の重要な会計方針の適用における見積りや仮定が連結財務諸表に重要な影響を与えると考えています。
重要な会計方針および見積りにつきましては、「第一部 企業情報 第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要な会計方針」と「第一部 企業情報 第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載のとおりです。
③ 当連結会計年度の経営成績の分析
当連結会計年度の売上収益は、3兆141億円と前連結会計年度に比べ201億円(0.7%)増加しました。これは、社会基盤事業などが減収だったものの、エンタープライズ事業などが増収となったことによるものです。
収益面につきましては、営業損益は、前連結会計年度に比べ212億円悪化し、1,325億円の利益となりました。これは、売上収益が増加したものの、戦略的費用を計上したことや、前年度に子会社株式売却益および土地売却益の計上によるその他の損益の改善があったことなどによるものです。また、調整後営業損益は、前期に比べ72億円悪化し、1,710億円の利益となりました。
税引前損益は、営業損益が悪化したことなどにより、前連結会計年度に比べ134億円悪化し、1,444億円の利益となりました。
親会社の所有者に帰属する当期損益は税引前損益が悪化したことなどにより、前連結会計年度に比べ83億円悪化し、1,413億円の利益となりました。また、親会社の所有者に帰属する調整後当期損益は、前連結会計年度に比べ18億円改善し、1,672億円の利益となりました。
セグメント別実績については次のとおりです。なお、各セグメント別の売上収益については、外部顧客に対する売上収益を記載しています。
a.社会公共事業
売上収益 |
4,002億円 |
(前連結会計年度比 5.9%減) |
調整後営業損益 |
297億円 |
( 同 96億円悪化) |
社会公共事業の売上収益は、消防・防災向けや地域産業向けが減少したことなどにより、前連結会計年度に比べ249億円(5.9%)減少し、4,002億円となりました。
調整後営業損益は、売上が減少したことなどにより、前連結会計年度に比べ96億円悪化し、297億円の利益となりました。
b.社会基盤事業
売上収益 |
6,509億円 |
(前連結会計年度比 6.1%減) |
調整後営業損益 |
654億円 |
( 同 60億円改善) |
社会基盤事業の売上収益は、政府のGIGAスクール構想を背景とした教育機関向けパソコンの需要の一巡に加え、メディア向けが減少したことなどにより、前連結会計年度に比べ420億円(6.1%)減少し、6,509億円となりました。
調整後営業損益は、連結子会社が増益となったことなどにより、前連結会計年度に比べ60億円改善し、654億円の利益となりました。
c.エンタープライズ事業
売上収益 |
5,747億円 |
(前連結会計年度比 14.2%増) |
調整後営業損益 |
575億円 |
( 同 93億円改善) |
エンタープライズ事業の売上収益は、製造業向け、流通・サービス業向け、金融業向けいずれも増加したことなどにより、前連結会計年度に比べ716億円(14.2%)増加し、5,747億円となりました。
調整後営業損益は、売上が増加したことなどにより、前連結会計年度に比べ93億円改善し、575億円の利益となりました。
d.ネットワークサービス事業
売上収益 |
5,115億円 |
(前連結会計年度比 5.1%減) |
調整後営業損益 |
355億円 |
( 同 57億円悪化) |
ネットワークサービス事業の売上収益は、5G事業は増加したものの、連結子会社の売上が減少したことなどにより、前連結会計年度に比べ273億円(5.1%)減少し、5,115億円となりました。
調整後営業損益は、5G関連の投資費用が増加したことなどにより、前連結会計年度に比べ57億円悪化し、355億円の利益となりました。
e.グローバル事業
売上収益 |
4,856億円 |
(前連結会計年度比 7.9%増) |
調整後営業損益 |
263億円 |
( 同 188億円改善) |
グローバル事業の売上収益は、デジタル・ガバメントおよびデジタル・ファイナンスの増加に加え、サービスプロバイダ向けが増加したことなどにより、前連結会計年度に比べ356億円(7.9%)増加し、4,856億円となりました。
調整後営業損益は、売上の増加に加え、ディスプレイ事業を展開する子会社の非連結化などにより、前連結会計年度に比べ188億円改善し、263億円の利益となりました。
f.その他
売上収益 |
3,912億円 |
(前連結会計年度比 1.8%増) |
調整後営業損益 |
133億円 |
( 同 56億円改善) |
その他の売上収益は、前連結会計年度に比べ70億円(1.8%)増加し、3,912億円となりました。
調整後営業損益は、前連結会計年度に比べ56億円改善し、133億円の利益となりました。
財政状態につきましては、当連結会計期間末の総資産は3兆7,617億円と、前連結会計年度末に比べ932億円増加しました。流動資産は、棚卸資産が増加した一方、借入金の返済などによる現金及び現金同等物の減少があったことなどにより、前連結会計年度末に比べ241億円減少し、1兆8,367億円となりました。非流動資産は、為替変動などによるのれんおよび無形資産の増加などにより、前連結会計年度末に比べ1,173億円増加し、1兆9,250億円となりました。
負債は、1兆9,751億円と前連結会計年度末に比べ1,316億円減少しました。これは、借入金の返済などによる有利子負債の減少や、退職給付に係る負債の減少などによるものです。有利子負債残高は、前連結会計年度末に比べ1,055億円減少の5,974億円となり、デット・エクイティ・レシオは0.39倍(前連結会計年度末比0.15ポイント改善)となりました。また、有利子負債残高から現金及び現金同等物の残高を控除した有利子負債残高(NETベース)は、前連結会計年度末に比べ129億円減少の1,666億円となり、デット・エクイティ・レシオ(NETベース)は、0.11倍(前連結会計年度末比0.03ポイント改善)となりました。
資本は、配当金の支払があったものの、親会社の所有者に帰属する当期利益の計上に加え、為替変動に伴う在外営業活動体の換算差額の増加や、確定給付制度の再測定および株式の時価上昇に伴い、その他の資本の構成要素が増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ2,248億円増加し、1兆7,866億円となりました。
この結果、親会社の所有者に帰属する持分は1兆5,135億円となり、親会社所有者帰属持分比率は40.2%(前連結会計年度末比4.6ポイント改善)となりました。
④ 流動性と資金の源泉
NECグループは、手許流動性、すなわち、現金及び現金同等物と複数の金融機関との間で締結したコミットメントライン契約の未使用額との合計額を今後の事業活動のための適切な水準に維持することを財務活動の重要な方針としています。当連結会計年度末は、現金及び現金同等物4,308億円、コミットメントライン未使用枠3,260億円、合計7,568億円の手許流動性を確保し、必要な流動性水準を維持しました。なお、現金及び現金同等物は主に円貨であり、その他は米ドルやユーロなどの外国通貨です。
また、NECグループは、短期・長期の資金需要を満たすのに十分な調達の枠を維持しています。まず短期資金調達では、その多くを国内コマーシャル・ペーパーの機動的な発行で賄っており、5,000億円の発行枠を維持しています。さらに、不測の短期資金需要の発生やコマーシャル・ペーパーによる調達が不安定になった場合の備えとして、コミットメントライン枠計3,280億円を維持し、常時金融機関からの借入れが可能な体制を敷いています。一方、長期資金調達では、国内普通社債の発行枠3,000億円を維持しています。
負債構成の考え方に関しては、必要資金の安定的な確保の観点から、十分な長期資金の確保、およびバランスのとれた直接・間接調達比率の維持を当面の基本方針としており、その状況を示すと次のとおりです。
|
前連結会計年度末 |
当連結会計年度末 |
長期資金調達比率 *1 |
85.9% |
60.5% |
直接調達比率 *2 |
25.6% |
35.1% |
*1 長期資金調達比率は、社債、長期借入金およびその他(1年超のリース債務)の合計を有利子負債で除して計算したものです。
*2 直接調達比率は、社債(1年以内償還予定を含む)およびコマーシャル・ペーパーの合計を有利子負債で除して計算したものです。
当連結会計年度末の長期資金調達比率は60.5%、直接調達比率は35.1%となりました。
(3)キャッシュ・フローの状況について
キャッシュ・フローの状況につきましては、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要」に記載のとおりです。
(4)経営戦略と今後の方針について
経営戦略と今後の方針につきましては、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりです。
(5)新型コロナウイルス感染症の影響
新型コロナウイルス感染症について、大きな売上の減少等はなく当連結会計年度の連結財務諸表に与える影響は軽微と判断しています。
なお、事業等のリスクにつきましては、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載のとおりです。
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