研究開発活動

5【研究開発活動】

ソニーは、「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」として、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurposeにもとづいて研究開発を推進しています。経営の方向性としての「人に近づく」をテクノロジーの力で実現するために、ソニーは、クリエイター、ユーザーの「人の動機」に近づくことが必要不可欠だと考えています。「人」と「テクノロジー」によって進化したソニーグループの多様な製品、コンテンツ、サービスを通じて、「人」「社会」「地球」が抱える課題の解決へ貢献することをめざしています。

当社の研究開発組織(コーポレートR&D)では、将来のグループ全体の事業ポートフォリオを想定しながら、一定の財務規律のもとで資源を投下しています。多様な事業で活用が期待できる技術を優先し、「リアリティ/Reality」「リアルタイム/Real-time」「リモート/Remote」の3Rテクノロジーをはじめ、AIやセンシング、セキュリティなどの技術テーマにも注力していきます。

 

コーポレートR&Dは、日本、中国、インド、欧米にある複数の拠点と連携し、それぞれの地域の特徴や強みを活かした研究開発活動を行っています。現地の優秀な研究人材の獲得をめざすとともに、ソニーグループの持つ各事業のさらなる連携を進めていきます。また、各研究開発拠点間のマネジメントや人材の流動性を高め、より多様な視点での研究開発の強化を継続していきます。エンタテインメントや金融などソニーグループを横断するプロジェクトでは、実組織の枠組みを超えたチームを編成し、フレキシブルかつスピーディーに英知を結集して活動を推進しています。

なお、より広い視野でクリエイターやユーザーの動機を収集し、事業の可能性を広げる活動として、大学や研究機関との連携をはじめとするオープンイノベーションにも積極的に取り組んでいます。

 

 2021年度の研究開発費は、前年度に比べ730億円(13.4%)増加の6,184億円となりました。金融分野を除く売上高に対する比率は、前年度の7.4%と変わらず7.4%でした。

 

 各分野及びコーポレートR&Dにおける研究開発費の金額は以下のとおりです。

項目

2020年度

(億円)

2021年度

(億円)

増減率

(%)

G&NS

1,446

1,757

21.5

EP&S

1,423

1,418

△0.3

I&SS

1,689

1,980

17.2

コーポレートR&D

433

487

12.6

(注)EP&S分野の研究開発費について、同分野の研究開発費に含まれる費用の集計範囲を2021年度に見直したことにともない、同分野の2020年度の研究開発費の実績を2021年度の集計範囲に合わせて組替再表示しています。この組替再表示により、組替再表示前の金額に比べ、2020年度の研究開発費が78億円増加しています。なお、この集計範囲の見直しによる2020年度のソニー連結の研究開発費及びEP&S分野の営業利益への影響はありません。

 

 2021年度の主な研究開発活動及び成果として、以下のものがあげられます。

 

(1)G&NS

・プレイステーションネットワーク(PSN)

 2022年3月時点でPSNの月間アクティブユーザー数は1億アカウント以上となり、着実にサービスの基盤を拡大しています。充実したソフトウェアラインアップ及び革新的なネットワークサービスにより、プレイステーションの普及・拡大を推進し、これまで以上に充実したインタラクティブなエンタテインメント体験を提供していきます。

 

・PS5™向け次世代VRシステムPlayStation VR2及びPlayStation VR2 Sense™コントローラー

 PlayStation VR2は、高精細な4K HDRビジュアルディスプレイ、新しいセンサー機能、視線トラッキング性能の進化などにより、ゲームの世界への没入感を高め、次世代のバーチャルリアリティシステムにふさわしい体験を提供します。さらにPlayStation VR2 Sense™コントローラーのハプティックフィードバックやアダプティブトリガーが相まって、プレイヤーはより直感的にゲームを感じ、ゲームとインタラクトすることが可能になります。

 

(2)EP&S

・Crystal LEDとシネマカメラで実現するバーチャルプロダクション

 バーチャルプロダクションの手法の一つである「In-Camera VFX」は、カメラの動きと連動させた3DCG映像をスタジオに設置したLEDディスプレイに背景として映し出し、その前の演者を撮影することで、従来のグリーンバックでの撮影に必要なCG合成の手間と、天候や時間・場所などの制約からクリエイターを解放します。独自のLED制御技術とブラビア®で培った信号処理技術を融合した高精細、高コントラストかつ豊かな色再現性で背景映像を映し出すCrystal LEDと、新開発の8.6Kイメージセンサーを搭載し、高い解像力と繊細な描写を実現するデジタルシネマカメラ『VENICE 2』を組み合わせ、よりリアリティのある映像制作を実現します。また、ソニーグループ内外のクリエイターや実際の撮影に携わるエンジニアとの連携を深め、高品位なコンテンツを効率的に制作できるバーチャルプロダクションに関する取り組みを加速させるため、Sony Innovation Studio(米国)や「清澄白河BASE」に常設スタジオを開設しました。

 

・ワイヤレスステレオヘッドセット LinkBuds™

 振動板の中心部を開放した新開発のリング型ドライバーユニットを搭載し、耳をふさがない構造の完全ワイヤレス型ヘッドホンLinkBuds™は、小型・軽量で常時装着しても疲れにくいデザインであり、周囲の音を自然に聞きながら、好きな時にヘッドホンを通じて音楽やゲームを楽しんだり、オンライン会議に参加したりするなど、ヘッドホンが日常生活に溶け込んだ使い勝手を可能にします。また、通話性能においては、5億サンプルを超えるAIの機械学習で構成した装着者の声とそれ以外の環境ノイズを分離するアルゴリズムにより、環境ノイズを抑えて装着者の声をクリアに抽出し、騒がしい場所でも快適な会話を実現します。

 

・5G対応スマートフォン『Xperia 1 III』、『Xperia PRO-I』

 第5世代移動通信システム(5G)のミリ波帯・Sub6(6GHz未満の周波数帯)に対応したフラッグシップスマートフォン『Xperia 1 III』、『Xperia PRO-I』を商品化しました。『Xperia 1 III』は、可変式望遠レンズとフルサイズミラーレス一眼カメラα™ (Alpha™)のエンジニアが開発した高いAF性能により、大切な一瞬を鮮明に切り取ります。また、4K 120Hz HDR対応有機ELディスプレイと迫力ある立体的な音場による視聴体験を実現します。『Xperia PRO-I』の「I」はイメージング(Imaging)の「I」を表しており、ソニーの最先端イメージング技術を結集したカメラの本格撮影体験を、5Gスマートフォンで実現します。本機に搭載するイメージセンサーには、クリエイターから高い評価を受けているソニーのプレミアムコンパクトカメラ『RX100 VII』に搭載の1.0型イメージセンサーを本機向けに最適化したExmor RS®を使用しています。

 

・ホークアイのトラッキングシステムとバーチャルファンエンゲージメント

 ソニーの連結子会社であるホークアイでは、新たなトラッキング&データビジュアライゼーションシステムの導入を進めています。このシステムは、試合のライブ映像から選手やボールなどの物体の動きを迅速かつ正確に捉え、骨格情報やプレイデータを収集、プレイ内容のバーチャルリクリエーションを実現します。また、ソニーはマンチェスター・シティ・フットボール・クラブと、実世界と仮想空間を融合した次世代のオンラインファンコミュニティ実現に向けた実証実験を行います。この実証実験においても、ソニーの画像解析技術やセンシング技術に加えてホークアイのトラッキングシステムを活用し、世界中のスポーツファンを魅了する新たなエンタテインメントの創出をめざします。

 

(3)I&SS

・積層型イベントベースビジョンセンサー『IMX636』『IMX637』

 産業機器向けに、被写体の変化のみを検出することができる積層型イベントベースビジョンセンサー2タイプを商品化しました。イベントベースビジョンセンサーは、各画素の輝度変化を非同期で検出し、変化したデータのみを画素の位置(xy座標)及び時間の情報と組み合わせて出力するため、高速、低遅延なデータ出力が可能なセンサーです。また、本製品はソニーが保有する独自のCu-Cu(カッパー・カッパー)接続を用いた積層技術により、業界最小となる画素サイズ4.86μm角を実現しました。様々な環境下での素早い動体検出などを可能にすることで、産業機器の性能向上に貢献します。

 

・車載LiDAR向け積層型SPAD距離センサー『IMX459』

 車載LiDAR(ライダー)向け積層型直接 Time of Flight(dToF)方式のSPAD距離センサー『IMX459』を商品化しました。本製品は、10μm角の微細なSPAD(Single Photon Avalanche Diode)画素と、測距処理回路を一チップ化し、1/2.9型と小型ながら高精度かつ高速な測距を実現します。先進運転支援システム(ADAS)や自動運転(AD)の普及にともない求められる、車載LiDARの検知・認識性能の向上及び、それによる安心・安全なモビリティの未来に貢献します。

 

・エッジAIセンシングプラットフォーム AITRIOS™(アイトリオス)

 日本・米国・欧州を皮切りに、エッジAIセンシングプラットフォームAITRIOS™のサービスを開始しました。本プラットフォームは、AI処理機能を搭載したインテリジェントビジョンセンサー『IMX500』を活用したセンシングソリューションの効率的な開発・導入を可能にします。サービスの第一弾として、AIデベロッパー、アプリケーションデベロッパー、カメラメーカー/モジュールインテグレーター、システムインテグレーターなど、ソリューション実現の担い手となるパートナーに向けて、エッジからクラウドを含めたソリューションを容易に構築するための様々な機能をワンストップで提供します。本プラットフォームを通じて、エッジとクラウドが共働し、地球環境に配慮した最適なシステムや、パートナーによるエッジAIを用いたセンシングソリューションの普及・拡大を支援し、多様な産業に対する新たな価値提供や課題解決に貢献することをめざします。

 

(4)コーポレートR&D

・繊細な人の手を再現する「マニピュレーター」

 ソニーは、より繊細な力を検知して、柔らかくかつ滑らかに動作する、より人や環境と親和性のある力制御ロボットの開発に挑戦しています。指先で検出した圧力分布の変化から物体の滑りの前兆をリアルタイムに検知し、適切に物体を持つ力を調整できるため、滑り落とすことなく物体をつかむことを可能にしました。また、距離センサーにより、指から物体までの距離を把握できるため、適切な位置や姿勢で物体を持つことも可能です。AIと高度なセンシング技術をロボットに組み込むことでマニピュレーターの能力を強化し、人々の生活を豊かにするロボット技術の開発に取り組んでいます。

 

・高効率な移動を可能にする「新移動機構」

 接地部分に車輪アクチュエーターを搭載した6本の脚構造を持つ「6脚車輪構成」ロボットを新たに開発しました。平地では車輪移動を行い、階段などの段差の昇降では脚移動と車輪移動を併用します。これにより、整地・不整地が混在する環境においても、安定かつ高効率な移動を実現しています。また、ロボット関連技術の国際学会「IROS(International Conference on Intelligent Robots and Systems)2021」にて発表した4脚歩行ロボットの設計思想を継承しており、動作中・静止中ともに機体の脚部にかかる負荷を分散することが可能です。これにより、最大20kgの可搬重量と高いエネルギー効率を実現しています。

 

・現実世界を超える没入感を実現するVRヘッドマウントディスプレイ(HMD)システム

 高精細なOLEDマイクロディスプレイの映像技術と低遅延HMDシステムを組合わせてVR HMDシステムを開発しました。片目で4K、両目で8Kの高解像度をOLEDマイクロディスプレイで実現しました。また、リモート環境でも違和感なく映像を届けるための低遅延システムは、視聴している人の頭の動きに合わせて素材のテクスチャや人の表情などを高精細にリアルタイムで表現するために、複数のセンサーの情報を組み合わせ、システム全体で遅延量の削減を行い、処理時間を短縮することで実現しました。本システムは、ゲームや映像コンテンツだけでなく、人物がそこにいるかのように感じられる仮想空間でのコミュニケーションやライブエンタテインメントなど幅広い領域での活用が期待できます。

 

・地球みまもりプラットフォーム

 ソニーは、地球上のあらゆる場所をセンシング可能にする仕組みを実現することで、環境問題、災害などの異変の予兆を察知し、人々に異変を事前に知らせることで、サステナビリティにつながる行動を促すことをめざしています。地球みまもりプラットフォームは、土壌中の水分量を高精度に測定できる「土壌水分センサー」、LPWA(Low Power Wide Area)の無線通信規格ELTRES™(エルトレス)を使った衛星通信システム、AIを活用した予兆分析技術など、ソニーグループの技術を活用して構成されています。フィールドワークや実証実験を通じて、持続可能な未来の実現に向けて、さらなる技術の開発と統合に取り組んでいきます。

 

(5)その他

 上記に加えて、各分野及びコーポレートR&Dに紐付かない2021年度の主な研究開発活動及び成果として、以下のものがあげられます。

 

・VISION-S Prototypeの5G走行試験を開始

 ソニーは、VISION-S Prototypeの5G走行試験をドイツのアルデンホーフェンにあるテストコースで開始しました。VISION-S Prototypeには5Gネットワークへの接続機能が搭載されており、車載システムとクラウドが常に繋がり、データや制御信号の同期、またOTA(Over The Air)でのシステムのアップデートが可能です。走行試験では、車両から取得する各種センサーデータのクラウドへの低遅延伝送や、クラウドから車両に対するリアルタイム制御の可能性を検証するために、高速走行中の車両でも通信環境を最適化するための検証と開発を進めていきます。

 

・プロフェッショナル向けドローン 『Airpeak S1』

 業務用ドローン『Airpeak S1』は、独自開発のモーターやプロペラ、制御システム、センシング技術などにより、高い敏捷性を有しダイナミックかつ緻密な飛行が可能で、フルサイズミラーレス一眼カメラα™ (Alpha™)搭載可能機種で世界最小クラスを実現していることから、映像制作クリエイターの創造力を余すことなく支援します。また機体を意のままに操れる送信機と、センシングによる障害物検知や自動飛行に加え、機体や飛行情報のクラウド管理による安全な飛行等により、高画質空撮映像制作をサポートします。

 

・革新的なAI Gran Turismo Sophy™(グランツーリスモ・ソフィー™)

 株式会社ソニーAIは、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下「SIE」)及びSIEの子会社である株式会社ポリフォニー・デジタルとともに、世界初の超人的なAIであるグランツーリスモ・ソフィー™による、人工知能(AI)の飛躍的進歩を発表しました。グランツーリスモ・ソフィー™は、プレイステーション®4用リアルドライビングシミュレーター『グランツーリスモSPORT』で世界最高峰のドライバーをも凌ぐAIエージェントであり、AIを活用した新たなゲーム体験を世界中のプレイヤーに提供することを目的として開発されました。このAIは、既存のアルゴリズムとインフラストラクチャでは解決できない課題に対して、新たな深層強化学習アプローチとプラットフォームを構築することで実現したものです。

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