下記の文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2022年6月22日)現在において当社グループが判断したものです。
(1)会社の経営の基本方針
当社は「人の心を尊重し、豊かな価値を創り、社会貢献に努める」ことを経営理念とし、全社員の知恵をお客様の課題解決に注ぎ、お客様が提供する製品・サービスの未来に続く架け橋となるべく、「顧客価値を創造する100年企業」となることを目指しております。
(2)経営環境及び中長期的な会社の経営戦略
当社の事業領域において、車載関連市場では100年に一度と言われる電動化によるパワートレイン部品の増加、自動運転に向けたADAS(先進運転支援システム)の普及という2つの大きな変化が、またインダストリアル関連市場では自動化・省人化に向けたFA機器・ロボットの増加、次世代移動通信システム「5G(第5世代移動通信システム)」の導入・拡大という変化が起きております。
いずれの市場における変化も当社が培ってきた3次元可動並びに大容量情報伝達等独自技術による当社コネクタ事業を飛躍的に拡大する好機ととらえ、グローバルでの成長市場への展開を重点戦略として、顧客ニーズに対応した製品を開発し、グローバルでタイムリーに生産・供給出来る顧客密着型マーケティング・営業体制の構築を目指しております。このため、更にワールドワイドの情報ネットワークを有効に活用し、グローバル展開のメリットを追求すると共に、海外生産拠点での材料の現地調達、内製化・合理化を推進し、高効率生産体制を構築し、グローバルでのQCD(品質・コスト・納期)をより一層強化していくことを目指しております。
当社は、以上の市場環境の変化を確実に捉え、2030年までに接続部品業界でグローバルトップ10入りを果たすことで、事業規模の確保とブランドの向上を図り、売上高1,000億円を目標とする長期ビジョンを策定し、グローバルでの新規顧客開拓並びに、海外生産拠点の拡大を推進して参ります。2020年8月4日に中期経営計画(2020~2022年度)を公表いたしましたが、その後の自動車販売台数の急回復やxEV(EV、FCV、PHV、HEV、HV)車の急増等、市場が大きく変化していることを踏まえ、2021年5月10日に業績目標の見直しを中心とする「見直し中期経営計画(2022年3月期~2024年3月期)」を策定しました。
①業績目標
当社は、今回の中期経営計画期間の2021~2023年度を、成長軌道への回帰と長期ビジョン達成の足場を固める3年間に位置付け、2024年3月期に売上高520億円、営業利益率20%の達成を目指します。
市場別では、販売台数が増加する電動車向けの拡販を加速し、パワートレイン、セーフティ等の分野を伸ばします。また、車載や5G等の新たな市場に対してニーズに応え他社を凌駕する新製品を開発し、車載分野の他、5G、ロボット分野を伸ばして参ります。
②重点施策
上記の位置付けと業績目標の下、当社は、以下の重点施策に取組んで参ります。
a. 戦略的セグメンテーションとグローバル化
・市場セグメントを定め、各セグメントごとに策定した戦略に基づき攻略
・海外営業体制の強化とサポート
・業界№1スピードのワンストップ対応
b. 車載市場の強力推進
・車載市場において伸長する重点領域での一層の拡販強化
c. 第二の柱の早期確立
・新たな市場ニーズに応える新製品の開発と攻勢
・インダストリアル市場のグローバル顧客に対するカバレッジ強化
・顧客、市場の特性に応じた販売チャネルの多様化
d. 可動(フローティング)(注)を核とした技術開発力の強化
可動(フローティング)テクノロジーの進化による革新的接続を実現すべく、
・業界№1、Only one製品開発
・付加価値を創造するOnly one製品開発
により、顧客ニーズを先取りした、先進技術製品を活用したソリューション提案を実施
(注)端子と端子のピッチ方向、ピッチ方向に対する垂直方向、篏合方向のすべて、またはいずれかに動き、その篏合ずれを吸収するように設計されたコネクタの技術。
e. 生産力、コスト力、および品質力の強化
・生産プロセス強化(設備・金型の標準化推進等)
・コスト力強化、生産性向上(スマートファクトリー推進、設計の標準化推進等)
・品質の向上(サプライヤー管理・品質保証体制の充実、クリーンリネスの追求等)
f. 経営インフラの強化
・基幹システムの刷新(BPRとグローバルシステム構築の同時推進)
・ESGの拡充(CO2排出削減、多様な人財活用、レジリエンス経営の強化)
③経営目標
・見直し中期経営計画(2022年3月期~2024年3月期)
※為替レート設定はUSD105円、EUR127円(2022年3月期~2024年3月期)
・進捗状況(売上高、営業利益率)
売上高は、自動車の電動化の進展による車載関連市場でのパワートレイン分野と中国での設備投資需要に応じたインダストリアル市場の増加および為替が円安に推移していることもあり、見直し中期経営計画を上回る水準となりました。一方で営業利益率は、原材料や運送費の単価上昇を原価低減活動で吸収しきれず、下回りました。
(ESGへの取り組み)
当社は「未来に続く架け橋として」をタイトルに、「人の心を尊重し、豊かな価値を創り、社会貢献に努める」ことを経営理念としており、全社を挙げてCSR/ESGへ取り組んで参ります。
①ESGの拡充・取り組み方針
・CSR推進室の新設
・ロードマップに基づく着実な実行
・情報開示の充実
・業務監査への”CSR”の観点の組み込み
②見直し中期経営計画(2022年3月期~2024年3月期)における強化項目
・CO2排出削減(2030年、電力由来のCO2排出ゼロ目標)
・多様な人財の活用(外国人役員、女性役員・管理職の増加)
・レジリエンス経営の強化(コロナ禍を契機とするリスクマネジメント、BCPの強化)
③ESGロードマップ
④電力に由来するCO2削減ロードマップ
⑤2022年3月期の主な取り組み実績
・社外取締役の増員(3名→4名)
・生産拠点における太陽光パネルの設置(茨城工場、上海工場、南通工場)
⑥TCFD提言に沿った情報開示
TCFD提言はすべての企業に対し、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの項目に基づいて開示することを推奨しています。当社はこの提言の4つの開示項目に沿って、情報開示を行います。
a. ガバナンス
・取締役会の指導・監督の下、ステアリングコミッティを組織し、取締役管理本部長を長として各本部
の本部長メンバーを中心にリスクマネジメント全体を統括します。
・各本部長が各部門と連携して中長期の気候変動の影響による事業へのリスク、機会の検証を年4回行
い、必要な対策を講じます。
・結果はステアリングコミッティの報告を経て、重大な影響の恐れのある事案については2回/年に取締
役会へ報告・付議します。
・監査等委員会はステアリングコミッティに対し、適宜助言を行います。
〈ガバナンス及びリスク管理体制図〉
b. 戦略
(a)事業戦略
当社は事業において気候変動が及ぼすリスクと機会について検討を行いました。リスクと機会は、政策や規制等、社会的要求の変化等によって生じる“移行“リスク・機会と、異常気象の激甚化等によって生じる“物理”リスクを特定しています。
シナリオ分析では、IEA(国際エネルギー機関)等が公表する「科学的根拠を有するシナリオ」を用いて、事業にどのような影響を及ぼすか検討しました。今回実施したシナリオ分析は、イリソグループにおける製品及びサービスの購入、開発、製造、販売、廃棄までのサプライチェーン全体を対象とし、4℃シナリオ、1.5℃シナリオの2つのシナリオを用いて、2030年時点における影響を考察・検討いたしました。
当社グループでは、2030年に電力由来によるCO2排出量を“ゼロ”、2050年にはカーボンニュートラルを目標としています。今回外部のシナリオを用い当社グループにおける事業インパクトを算出いたしました。その分析の結果、当社は自社事業におけるCO2排出量の削減と共にCO2排出に貢献するxEV車に事業を注力する事でのCO2排出量削減に貢献できると考えています。
(b)各シナリオにおける事業インパクト、財務的影響
・4℃シナリオ
4℃シナリオでは、気候変動対策が現状から進展せず、地球平均気温が産業革命以前と比較して21世紀末ごろに約4℃上昇するとしています。異常気象の激甚化や海面上昇等、物理的なリスクが大きくなる一方、企業活動や消費活動に対する締め付けは現状より強化されないとされています。
この4℃シナリオにおける事業インパクトは、気温上昇等による操業地域で働く社員について、健康リスクとなり対応コストが増加するほか、異常気象の激甚化によるサプライチェーンの混乱により仕入が遅延または停止により事業継続が困難となると認識しています。
長期ビジョンである2030年3月期に売上高1,000億円を達成する前提での2030年3月期の利益影響額は約6億円の減少と試算しています。
・1.5℃シナリオ
1.5℃シナリオでは、カーボンニュートラル実現を目指した取り組みが活発化し、地球平均気温が産業革命以前と比較して21世紀末ごろに約1.5℃の上昇に抑えられるとしています。物理的なリスクの高まりは抑制される一方で、税制や法規制という形で企業活動や消費活動に対する締め付けが強まるとされています。
この1.5℃シナリオにおける事業インパクトは、カーボンニュートラル実現を目指した取り組みが活発化し、炭素税の導入や排出権取引の拡大により追加費用が発生する一方で、脱炭素社会に向け再生エネルギーやxEV車の増加等、低炭素技術の需要が拡大する事で当社製品の機会が増えると認識しています。
長期ビジョンである2030年3月期に売上高1,000億円を達成する前提での2030年3月期の利益影響額は約11億円の増加と試算しています。
・リスク項目と事業インパクトの分析
c. リスク管理
・当社の気候変動リスクは、ステアリングコミッティにおいて識別・評価・管理しています。
・各部門が行うリスク評価の結果に基づき、対策の要否や優先順位を考慮した上でステアリングコミッ
ティに報告します。
・評価の結果、重大な影響の恐れがある事案および対応は、取締役会に報告・付議し決定します。
・各部門は、ステアリングコミッティをフィードバックされる取締役会の指示・指導に基づき、リスク
低減計画を立案、遂行します。
・なお、当社は、ISO14001に基づく環境マネジメントシステムを構築しており、気候変動リスク管理の
中には当該マネジメントシステムに基づく法令遵守等のリスクモニタリングも組み込まれています。
d. 指標と目標
温室効果ガスの削減については下記を目標に設定して、現在は太陽光発電設置、各工場での自動化、メッキラインの効率化による生産効率向上での省電力、再生エネルギー使用への切替に取り組んでいます。将来的にはカーボンプライシングへの対応も行ってまいります。
〈削減目標〉
・電力由来のCO2排出量:2025年に実質50%削減、2030年に実質100%削減
・SCOPE3排出量:2050年にカーボンニュートラル
(3)2023年3月期の重点施策、対処すべき課題
①市場環境
a. 車載関連市場
当社の主力領域である車載関連市場においては、半導体需給逼迫の継続、ウクライナ問題や中国等での新型コロナウイルス政策によるサプライチェーンの混乱等を背景に回復が遅れ、生産台数は前期並みに留まると見込んでいます。一方でxEV車は、各国での推奨政策や各自動車メーカーの取り組み強化により成長を見込んでいます。
b. インダストリアル関連市場
省力化に貢献するPLC、センサー、インバーター、ロボット等の産業機器の中国での需要や、5Gが到来する通信分野での需要は堅調に継続すると見込んでいます。
②主要課題
a. 原材料費、輸送費の更なる高騰
金、銅、並びに樹脂等の原材料費の価格高騰、輸送費の価格上昇等により、利益が悪化する可能性があります。
b. 生産工場稼動の低下、サプライチェーンの混乱
地域ごとの新型コロナウイルスへの政策、ロシアのウクライナ侵攻による地政学リスクにより、当社生産工場での稼動停止、原材料の供給不足、輸送期間の長期化等が発生する可能性があります。
c. 自動車生産台数の変動
部品調達難の継続、ロシアのウクライナ侵攻や中国等での新型コロナウイルス拡大によるロックダウン政策により、自動車業界全体の生産やサプライチェーンに問題が生じ生産台数が減少する可能性があります。
③2023年3月期の重点施策
このような不透明な環境下ではありますが、当初予想を上回るxEV車市場の成長を捉え、売上拡大に努めて参ります。利益面では、原材料費、輸送費の高騰影響等により、中期経営計画を下回る状況が当面継続しますが、収益改善に向けた施策として、以下の3つの施策を全社をあげて注力します。
a. 収益構造体質の改善
(a)価格政策の見直し、粗利率改善
(b)主力製品シリーズの原価低減推進
(c)工場生産性向上、物流改革、PSIコントロール強化
b. BCPの強化
(a)マルチ生産体制構築:生産能力並びに地産地消比率向上
(b)生産拠点への原材料の安定供給
c. ERP刷新によるSCMの可視化、マネジメントの強化
④2023年3月期の見通し
連結売上高515億円(対前期比17.4%増)、連結営業利益61億6千万円(対前期比36.3%増)、連結経常利益62億円(対前期比28.1%増)、親会社株主に帰属する当期純利益45億円(対前期比15.0%増)を見込んでおります。為替レートは、130円/ドル、135円/ユーロを前提としております。
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