当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。これらは、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載の経営方針・経営戦略等を踏まえて分析しています。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
① 連結業績の概況
世界経済は、ウクライナ情勢に伴う資源・エネルギー価格の上昇やサプライチェーンの混乱などの影響により、成長の下振れとインフレの加速懸念が強まっています。日本経済についても、企業の設備投資や生産活動は回復基調が続いているものの、内外金利差拡大を受けた円安と資源高が同時に進行し、物価上昇による消費マインドの悪化が懸念されるなど、景気の先行きに対する不透明感が増しています。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響については、先進国を中心にコロナ関連規制を撤廃・緩和する動きが見られる一方、中国ではゼロコロナ政策の活動制限による景気下振れリスクが懸念されるなど、引き続き注視が必要です。
このような経営環境の中で、当連結会計年度における当社グループの連結受注高は、モーターサイクル&エンジン事業、航空宇宙システム事業などの増加により増加となりました。連結売上高については、航空宇宙システム事業、エネルギーソリューション&マリン事業などが減収となる一方で、モーターサイクル&エンジン事業、精密機械・ロボット事業が増収となったことにより、全体では前期比で増収となりました。利益面に関しては、営業損益は、モーターサイクル&エンジン事業、航空宇宙システム事業での増益などにより、前期比で大幅な改善となりました。経常損益は、持分法損益や為替差損益などの悪化はあったものの、営業損益の改善により大幅な改善となりました。親会社株主に帰属する当期純損益は、経常損益の改善などにより大幅な改善となりました。
この結果、当社グループの連結受注高は前期比1,997億円増加の1兆6,021億円、連結売上高は前期比123億円増収の1兆5,008億円、営業損益は前期比511億円改善の458億円の利益、経常損益は前期比327億円改善の299億円の利益、親会社株主に帰属する当期純損益は前期比411億円改善の218億円の利益となりました。また、ROIC※は3.5%、ROEは4.6%となりました。
※ROIC = EBIT(税引前利益 + 支払利息) ÷ 投下資本(有利子負債 + 自己資本)
なお、会計方針の変更として、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日。以下「収益認識会計基準」という。)等を当連結会計年度の期首から適用しています。詳細については、「第5 経理の状況1 連結財務諸表等(1) 連結財務諸表注記事項(会計方針の変更)」をご参照下さい。
② セグメント別業績の概要
当連結会計年度より、報告セグメントとして記載する事業セグメントを変更しており、前連結会計年度との比較・分析は変更後の区分に基づいています。
航空宇宙システム事業
航空宇宙システム事業を取り巻く経営環境は、防衛省向けについては厳しい防衛予算の中で概ね安定した需要が存在しています。民間航空機については、新型コロナウイルスの感染拡大により世界の旅客需要が低迷しており、機体・エンジンともに需要が低下しています。足元では欧米並びに大西洋路線等は需要回復の兆しが見られるものの、アジア等における需要回復の遅れやウクライナ情勢の影響で依然として先行き不透明な状況が継続しています。
このような経営環境の中で、連結受注高は、民間航空エンジン分担製造品における収益認識会計基準等の適用の影響による減少はあったものの、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品の増加などにより、前期に比べ537億円増加の3,833億円となりました。
連結売上高は、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品が減少したことに加え、収益認識会計基準等の適用による民間航空エンジン分担製造品の減少などにより、前期に比べ795億円減収の2,982億円となりました。
営業損益は、減収はあったものの、民間航空機向け分担製造品や民間航空エンジン分担製造品における収益性の改善などにより、前期に比べ219億円改善して97億円の営業損失となりました。
車両事業
車両事業を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により国内では鉄道関連投資計画の見直し、海外では工程の遅れや入札の延期等が現実となりつつあります。また、足元への影響は限定的ではあるものの、電子部品等の供給不足や物流混乱、原材料価格の高騰については注視が必要です。中長期的には、人口集中による大都市の混雑緩和や環境対策のための都市交通整備、アジア諸国の経済発展に伴う鉄道インフラニーズなど、今後も世界的に比較的安定した成長が見込まれます。
このような経営環境の中で、連結受注高は、国内向け地下鉄車両の受注はあったものの、新幹線車両の大口受注があった前期に比べ55億円減少の715億円となりました。
連結売上高は、国内向け車両が減少したことなどにより、前期に比べ65億円減収の1,266億円となりました。
営業損益は、減収はあったものの、新型コロナウイルス感染拡大の影響などによる海外案件の採算悪化があった前期に比べ78億円改善して32億円の営業利益となりました。
エネルギーソリューション&マリン事業
エネルギーソリューション&マリン事業を取り巻く経営環境は、世界経済が新型コロナウイルス感染拡大の影響による停滞から正常化に向かう中、回復基調を維持しています。国内外の分散型電源需要、及び新興国におけるエネルギーインフラ整備需要は依然根強く、国内ごみ焼却設備の老朽化更新需要も継続しています。また、LPG運搬船に関する商談も増えています。更には、世界的にカーボンニュートラルの実現を目指す動きが強まっており、当社が強みとする水素製品をはじめ、脱炭素ソリューションに関する問い合わせや協力要請が増加しています。一方、急速な経済正常化の動きに連れて、原材料価格や輸送運賃が高騰するなど、収益の圧迫が懸念されます。
このような経営環境の中で、連結受注高は、国内向けごみ処理施設整備・運営事業の大口案件の受注などにより、前期に比べ263億円増加の3,435億円となりました。
連結売上高は、防衛省向け潜水艦の工事量減少やガスタービンコンバインドサイクル発電プラントの売上減少などにより、前期に比べ222億円減収の2,973億円となりました。
営業利益は、減収などにより、前期に比べ91億円減益の11億円となりました。
精密機械・ロボット事業
精密機械・ロボット事業を取り巻く経営環境は、精密機械分野では、中国建設機械市場は、2021年度終盤から需要の減速感が表面化しつつあるものの、同年度前半の好調により、2020年度に引続き高い水準の需要となりました。中国以外の地域における建設機械市場については、年間を通して好調が継続しており、全体では堅調に推移しました。ロボット分野では、電子部品等の供給不足や物流混乱の状況が継続しているものの、半導体メーカーの積極的な設備投資により、半導体製造装置向けロボットが好調に推移しており、また汎用ロボットも、生産設備自動化への投資等を背景に旺盛な需要がある状況が継続しています。
このような経営環境の中で、連結受注高は、半導体製造装置向けをはじめとする各種ロボットの増加などにより、前期に比べ124億円増加の2,718億円となりました。
連結売上高は、半導体製造装置向けをはじめとする各種ロボットの増加と円安の影響により、前期に比べ118億円増収の2,526億円となりました。
営業利益は、増収などにより、前期に比べ25億円増益の166億円となりました。
モーターサイクル&エンジン事業
モーターサイクル&エンジン事業を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大による市場への影響が継続しています。主要市場である米国では、前年度に引き続き、四輪車等オフロードモデルの需要が旺盛であり、欧州市場も堅調に推移しています。一方で、東南アジア市場は前期よりは回復したものの依然として先行きが不透明な状況が継続しています。また、半導体や原材料の不足、物流の混乱等により、製品供給にも影響が及んでいます。
このような経営環境の中で、連結売上高は、北米向け二輪車、汎用エンジンの増加に加え、欧州向け及び東南アジア向け二輪車の増加により、前期に比べ1,112億円増収の4,479億円となりました。
営業利益は、原材料、部品の価格上昇はあったものの、増収に加え、前期に比べ為替レートが円安で推移したことなどにより、前期に比べ255億円増益の373億円となりました。
その他事業
連結売上高は、前期に比べ23億円減収の780億円となりました。
営業利益は、前期に比べ24億円増益の28億円となりました。
当社グループはグループビジョン2030において、注力するフィールドを「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」とし、より成長できる事業体制への変革を目指しており、手術支援ロボットの開発や自動PCR検査事業、更には、配送ロボットや無人輸送ヘリコプターの開発、水素関連プロジェクトの推進など、新事業への取り組みを着実に進めています。
(資産)
流動資産は、その他項目(未収入金等)の増加などにより前期末比123億円増加し、1兆2,977億円となりました。
固定資産は、投資その他の資産の増加などにより前期末比470億円増加し、7,249億円となりました。
この結果、総資産は前期末比594億円増加の2兆227億円となりました。
(負債)
有利子負債は、前期末比918億円減少の5,014億円となりました。
負債全体は、契約負債(前受金)の増加などにより前期末比437億円増加の1兆5,242億円となりました。
(純資産)
純資産は、為替換算調整勘定の増加などにより、前期末比157億円増加の4,985億円となりました。
当期末における現金及び現金同等物(以下「資金」)は前期比136億円減の1,085億円となりました。当期における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は、次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果得られた資金は、前期比1,098億円増の1,444億円となりました。収入の主な内訳は、減価償却費608億円、契約負債(前受金)の増加額920億円であり、支出の主な内訳は、棚卸資産の増加額390億円です。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果支出した資金は、前期比151億円増の525億円となりました。これは主に有形及び無形固定資産の取得によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果支出した資金は、前期比1,254億円増の1,023億円となりました。これは主に短期借入金の純減によるものです。
① 財務政策
当社グループの運転資金・投資向け資金等の必要資金については、主として営業キャッシュ・フローで獲得した資金を財源としていますが、必要に応じて、短期的な資金については銀行借入やコマーシャル・ペーパーなど、設備投資資金・投融資資金等の長期的な資金については、設備投資・事業投資計画に基づき、金融市場動向や固定資産とのバランス、既存借入金及び既発行債の償還時期などを総合的に勘案し、長期借入金や社債などによって調達しています。
当社グループは上述の多様な資金調達源に加え、複数の金融機関とのコミットメントライン契約を締結しており、事業活動に必要な資金の流動性を確保しています。また、当社と国内子会社間、また海外の一部地域の関係会社間ではキャッシュ・マネジメント・システムによる資金融通を行っており、グループ内の資金効率向上に努めています。
② 資金需要の主な内容
当社グループの資金需要は、営業活動に係る資金支出では生産活動に必要な運転資金(材料費、外注費、人件費等)、受注活動又は販売促進のための販売費、新規事業の立ち上げや製品競争力の強化のための研究開発費などがあります。投資活動に係る資金支出には、事業の遂行、新規立ち上げ、生産性向上のための設備や施設への投資などがあります。
当社グループは、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標を利益及びROICとし、営業利益率で5~8%、税前ROICで資本コスト+3%以上を確保すべく努めています。
2021年度は、前年度に新型コロナウイルス感染症拡大の影響を大きく受けた航空宇宙システム事業が、旅客需要の回復に伴い大幅に改善したことに加え、先進国の旺盛なアウトドア需要を背景に、モーターサイクル&エンジン事業が大幅な増収・増益となったことから、前年度の営業損失から回復し、営業利益458億円、営業利益率3.1%、税前ROIC3.5%と黒字化を達成しました。
2022年度以降も、一部の事業において新型コロナウイルスの影響が残る他、サプライチェーンの混乱やインフレ圧力の高まりなど不安定な市場環境が続くと想定されますが、更なるコスト削減の推進や調達価格上昇を考慮した適正な販売価格の設定などに取り組み、目標とする指標の達成に向けて収益性の向上に努めていきます。
なお、前連結会計年度及び当連結会計年度の全社及びセグメントごとのROICは、次のとおりです。
(単位:%)
車両事業においては、新型コロナウイルス感染拡大の影響などによる海外案件の採算悪化があった前期に比べEBITが改善したことなどから、前期に比べ25.1%上昇しました。また、モーターサイクル&エンジン事業においては、北米向け二輪車や汎用エンジン、欧州向け及び東南アジア向け二輪車の売上増加による増収に加え、円安の影響などによりEBITが増加したことから、前期に比べ23.6%上昇しました。一方でエネルギーソリューション&マリン事業においては、防衛省向け潜水艦の工事量減少やガスタービンコンバインドサイクル発電プラントの売上減少などによりEBITが減少したことなどから、前期に比べ9.7%低下しました。
① 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
(注) 金額は、生産高(製造原価)によっています。
② 受注実績
当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
(注) 1 モーターサイクル&エンジン事業については、主として見込み生産を行っていることから、受注高について売上高と同額とし、受注残高を表示していません。
2 セグメント間の取引については、受注高及び受注残高から相殺消去しています。
3 「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を当連結会計年度の期首から適用しており、前期比増減については当該会計基準等を適用した後の期首値との増減となっています。
③ 販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
(注) 1 販売高は、外部顧客に対する売上高です。
2 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されています。その作成においては、連結貸借対照表上の資産、負債の計上額、及び連結損益計算書上の収益、費用の計上額に影響を与える見積り及び仮定を使用しています。当社グループの重要な会計方針のうち、見積り及び仮定の重要性が高いものは以下のとおりです。なお、翌連結会計年度の連結財務諸表及び財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」及び「第5 経理の状況 2 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しています。
一定の期間にわたる工事契約及び役務提供契約における収益及び原価
当社グループは、一定の期間にわたる工事契約及び役務提供契約について、期末までに財又はサービスに対する支配を移転している部分について履行義務を充足していると判断し、合理的に進捗度を測定し収益及び原価を認識しています。進捗度の測定は、顧客に移転することを約束した財又はサービスの性質を考慮しており、現時点の累計発生原価の取引全体の見積り総原価の割合などに基づくインプット法、又は経過した期間の契約期間全体に占める割合や現時点までの提供済み役務の提供予定の役務全体に占める割合などに基づくアウトプット法に基づいています。当社グループは、当該見積りを合理的に行っていますが、経済情勢の変動による資材費や労務費の高騰、仕様変更に伴う工事代価の変更や工数の増加、為替レートの変動といった諸条件の変化により、収益及び原価の金額に影響を与える可能性があります。
受注工事損失引当金
当社グループは、期末における未引渡工事のうち、大幅な損失が発生すると見込まれ、かつ、期末時点で当該損失額を合理的に見積ることが可能な工事について、翌年度以降の損失見積額を受注工事損失引当金として計上しています。当該損失見積額は、期末時点の個別プロジェクトに係る見積総原価から工事請負代価を控除して算定しています。当社グループは、受注工事損失引当金の見積りを合理的に行っていますが、一定の期間にわたる工事契約及び役務提供契約における収益及び原価と同様に工事契約に関連する諸条件の変化により、受注工事損失引当金の金額に影響を与える可能性があります。
固定資産の減損
当社グループは、固定資産の帳簿価額について、それが回収できなくなる可能性を示す事象や状況の変化が生じた場合に、減損の要否を検討しています。当該固定資産については、資産又は資産グループの割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較することにより減損の要否の判定を行っています。この判定は、主として当社単体ではカンパニー単位、関係会社の場合には会社単位の将来キャッシュ・フローの見積りに基づいて行います。資産又は資産グループが減損していると判断した場合、帳簿価額が回収可能価額を超える部分について、減損損失を認識します。回収可能価額は、将来見積キャッシュ・フロー(純額)の割引現在価値等により算定しています。この手法は、将来見積キャッシュ・フロー、個別の事業リスクを反映して算出した加重平均資本コスト(割引率)、正味売却価額の算定に使用した時価や処分費用見込額など多くの見積りや仮定を使用します。当社グループは、固定資産の減損に係る見積りを合理的に行っていますが、経済情勢の変動等の諸条件の変化によって回収可能価額が減少し、固定資産の評価に影響を与える可能性があります。
繰延税金資産
当社グループは、繰延税金資産について、事業計画を基礎として将来の一定期間における課税所得の発生やタックスプランニングに基づき、回収可能性を検討しています。これらの将来に係る見積りは、将来の経済情勢の変動その他の要因により影響を受けます。当社グループは、回収可能性の見積りを合理的に行っていますが、これらの将来に係る見積り及び税率変更等の諸条件の変化により、繰延税金資産の金額に影響を与える可能性があります。
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