課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 経営方針及び経営戦略等

当社グループは、「人々の生活を豊かに。イノベーションをドライブし続ける。」というコーポレートパーパスを定めた。これは長年にわたり掲げてきた企業ビジョン「人々の生活を豊かに」を踏まえ、創業以来大切にしてきた“他がやらぬことをやる”という精神を引き継ぎながら、日産は何のために存在するか、どのように役割を果たすのか、企業としての存在意義を明確化したものである。そして、サプライヤーや販売会社の皆様との関係をさらに強化し、共にビジネスモデルを発展させていく。

グローバルなあらゆる事業活動を通じて企業として成長し、経済的に貢献すると同時に、世界をリードする自動車メーカーとして、社会が直面する課題の解決に貢献することも私たちの使命である。日産は、お客さま、株主、従業員、地域社会などすべてのステークホルダーを大切に思い、将来にわたって価値ある持続可能なモビリティの提供に努める。さらに、持続可能な社会の発展に貢献し、「ゼロ・エミッション」「ゼロ・フェイタリティ」社会を目指し、2050年までに事業活動を含むクルマのライフサイクル全体におけるカーボンニュートラルを実現することを目標としている。

この目標に向け、2021年11月29日に長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を発表し、「共に切り拓く モビリティとその先へ」をスローガンとして、当社ならではの2つの価値「移動の可能性を広げる」、「社会の可能性を広げる」を提供するため、以下の分野において、イノベーションを推進する。

 

<電動化を推進し、多様な選択肢と体験を提供>

電動化を長期的な戦略の中核に据えて、ワクワクする多様なクルマを求めるお客さまの要望にお応えし、2030年度までに15車種のEVを含む23車種の電動車を導入、ニッサン、インフィニティの両ブランドをあわせてグローバルに電動車のモデルミックスを50%以上とすることを目指す。本目標の達成に向け、2026年度までに約2兆円を投資し、EVとe-POWER搭載車を合わせて20車種導入を通じて、グローバルに電動車のモデルミックスを40%以上とすることを目指す。

 

<より多くの人の自由な移動を実現するモビリティの革新>

リチウムイオン電池の技術をさらに進化させ、コバルトフリー技術を採用することで、2028年度までに1kWhあたりのコストを現在と比べ65%削減することを目指す。さらに、2028年度までに自社開発の全固体電池(ASSB)を搭載したEVを市場投入することを目指し、2024年度までに当社横浜工場内にパイロット生産ラインを導入する。ASSBの採用により、様々なセグメントにEVを投入することが可能となり、動力性能や走行性能も向上させることができる。

加えて、需要及び市場のEV台数の増加に対応し、グローバルな電池供給体制を確立していく。さらに、最先端の運転支援技術や知能化技術を、より多くのお客さまに提供し、交通事故によって亡くなられる方をゼロにすることを目指すとともに、移動手段を多様化していくことを目指す。このため、2026年度までにプロパイロット技術を搭載したニッサン及びインフィニティ車で250万台以上販売することを目指し、また、高性能次世代LiDAR(ライダー)技術の開発を2020年代半ばまでに完了させ、2030年度までにほぼ全ての新型車に搭載することを目指す。

 

<モビリティとその先に向けたグローバルなエコシステムを構築>

技術の進化に加え、EVをより競争力のあるものにするため、EVの生産と調達の現地化を進めていく。英国で始動させた、世界初の電気自動車生産のエコシステムを構築するEV生産ハブ「EV36Zero」を日本、中国、米国を含む主要地域へ拡大していく。モビリティとエネルギーマネジメントを組み合わせ、生産とサービスを統合したこのエコシステムにより、カーボンニュートラルの実現を目指す。また、フォーアールエナジー社とバッテリーの二次利用を推進するためのインフラを整備し、エネルギーマネジメントにおける循環サイクルを構築することで、2020年代半ばには、V2Xと家庭用バッテリーシステムの商用化を目指す。

なお、革新的な生産技術で次世代のクルマづくりを支える日産独自のクルマづくりコンセプト「ニッサンインテリジェントファクトリー」を栃木工場の生産ラインに導入し、新型クロスオーバーEV「日産アリア」の生産を開始した。日本電動化アクション「ブルー・スイッチ」においては、ASEAN地域でも活動を始めた。自治体や企業と協力し、電気自動車を「動く蓄電池」として、地域課題の解決とともに持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいる。

 

また、長期ビジョンを達成する上で、アライアンスでの連携も不可欠である。当社とルノー及び三菱自動車工業株式会社(以下、「メンバー各社」という。)は、新たな協力的ビジネスモデルを通して、各社の強みを生かし、互いの戦略を補完することで、競争力と収益性を高めることを目指し、共通のプロジェクトと実行計画(ロードマップ)である「Alliance 2030」を2022年1月27日に発表した。アライアンス共同で今後5年間に230億ユーロを投資すること、プラットフォームの共用化率の向上、グローバルで220GWhのバッテリー生産能力を確保することを目指し共通のバッテリー戦略を強化すること等を掲げている。本ロードマップに基づき、アライアンスは、メンバー各社とそれぞれのお客さまへより高い価値を提供していく。なお、2020年5月27日に発表した、メンバー各社の競争力と収益性を支える新たな協業ビジネスモデルにより、強固な基盤の上でガバナンス体制や組織運営を効率化し、強力で柔軟な協力関係を築いている。リーダーとフォロワーの枠組みにより、主要な技術についてはリーダー会社がフォロワー会社のサポートを得ながら開発を行い、メンバー各社が全ての主要技術を活用できるようにしている。

当社グループは、2020年5月28日に、これまでの事業規模拡大による成長戦略から転換し、収益性を重視しながらコストを最適化することで、持続的な成長と安定的な収益の確保を目指す2023年度までの4カ年計画「NISSAN NEXT」を発表した。

当社は2019年まで長年にわたり、需要が拡大することを前提に、新興市場を中心とした事業規模(生産能力)の拡大を進め、販売台数を最優先とする、ストレッチした成長戦略をとってきた。この戦略は、一時的な成功はもたらした一方で、本来なすべき商品・技術への投資が後回しされ、その結果、過度なインセンティブに頼った販売をせざるを得ない状況を生み、ブランドを棄損させた。経営資源を適正に配分できない中で販売拡大戦略を推進したことが、業績の低迷につながった。

当社が復活を遂げるには、従来の事業の進め方を抜本的に改めることが必要であり、多くの厳しい取組みが求められた。同時に、従業員が一丸となって、日産の名に相応しいブランドづくりに献身的に取り組むことを意味していた。2023年度末には、その先の10年を戦うための十分な事業基盤を再構築し、当社を新たなステージに移行させることが大きなミッションである。

この目的を果たすためには改革が求められた。当社は、我々の真の強さである底力、ダイバーシティ及びモノづくりの力を引き出すべく、力強い戦略を策定した。当社はしっかりとした財務基盤の構築とグローバルに競争力のある商品づくりに集中し、持続可能な事業を回復するべく、大変革を通じて、会社の真価を発揮していく。そのために、2つの重点分野に注力していく。

1つ目は最適化であり、事業の構造改革、原価低減及び効率化を目的とする確かな計画を実行している。台数規模や市場占有率にとらわれず、利益拡大と収益性の向上に集中し、強みを伸ばすことで、よりリーンな企業体質を実現する。具体的な方策としては、生産能力の最適化を図るとともに、グローバルな商品ラインアップを整理する。いずれも厳しい決断を伴うが、大幅な固定費削減を可能にする重要な活動である。

2つ目は選択と集中である。当社は、アライアンスの力を活かしながら、重点市場、主力商品及び重点技術のコア・コンピタンスに改めて注力する。お客様の見方を変えるような商品づくりを通じて、競争に今まで以上に強く挑むことができる事業基盤を確立させる。

この二つの改革を一切の妥協なく断行することで、中国の合弁企業を50%比例連結したベースで、2023年度末に営業利益率5%、マーケットシェア6%レベルとなることを見込んでいる。今回の計画の狙いは、過度な販売台数の拡大は狙わずに収益を確保しながら着実な成長を果たすこと、自社の強みに集中し、事業の質と財務基盤を強化すること、そして新しい時代の中で、『日産らしさ』を取り戻すことである。

回復に向けた道のりは決して易しくはないが、全社の力を結集し、乗り越えていく。自動車業界は大きな転換点を迎えているが、将来のモビリティ社会の実現に向けて、当社の強みを生かしながらその役割を果たし、社会にとって必要とされる、存在価値のある企業を目指していく。

日産は、2023年度末までに業績を回復させ、自動車事業における健全なフリーキャッシュフローを生み出していく。2021年度には、親会社株主に帰属する当期純利益と自動車事業における下期のフリーキャッシュフローの黒字化を達成した。お客さまに新たな価値をご提案するために常にチャレンジし、ブレークスルーを果たす、これこそが、私たち日産のDNAである。新しい時代においても、日産は常に『人』を中心に、『人』の為の技術で、日産ならではの挑戦を続けていく。

 

(2) 2021年度の経営環境及び主要な経営指標

当連結会計年度におけるグローバル経済は、長引く新型コロナウイルスの感染拡大や半導体の供給不足、原材料価格の高騰、ロシアとウクライナをめぐる地政学的な問題等の外部要因に影響を受け、非常に厳しい状況が続いたが、当社は事業基盤の強化、販売の質の向上、積極的な新車投入に継続して取り組み、「NISSAN NEXT」を着実に推進した。

 

その結果、当社グループの当期の経営成績、業績目標とその達成度は下記のとおりとなった。

当社グループのグローバル販売台数(小売り)は前年度比4.3%減の387万6千台となったものの、売上高は8兆4,246億円と前連結会計年度に比べ5,620億円(7.1%)の増収となった。営業利益は2,473億円と前連結会計年度に比べ3,980億円の改善となった。また、「NISSAN NEXT」のマイルストーンで掲げた2021年度の営業利益率2%(中国合弁会社比例連結ベース)を上回った。

また、当連結会計年度の当社グループの業績目標は、前連結会計年度の6項目を見直し、販売台数(小売り)、営業利益、限界利益、固定費、自動車事業のフリーキャッシュフロー(中国合弁会社比例連結ベース)、品質、従業員エンゲージメントの7項目を用いることとした。当該7項目は、「NISSAN NEXT」の2年目として重点的に取り組むべき事項として選択したものである。販売台数(小売り)、営業利益、限界利益、固定費については、黒字化を達成するために必要な水準に断続的に発生したサプライチェーン等の影響や工場生産等の不安定な状況を加味して設定され、収益性を最適化するため一体的に運用されている。それぞれの達成率は中国合弁会社比例連結ベースで、その上限である125%となった。自動車事業のフリーキャッシュフローについても、黒字化を達成するために必要な水準にサプライチェーン等の影響を加味した上で目標値を設定し、実績は目標を上回り、中国合弁会社比例連結ベースで、達成率は109%となった。品質については、品質保証及び顧客満足度からなる目標値を設定し、達成率は100%となった。従業員エンゲージメントについては、社外ベンチマーク(多数のグローバル企業が導入する従業員サーベイ結果に基づくもの)を基に目標値を設定し、達成率は67%となった。業績目標の総合達成率は115%となった。

 

(3) 事業上及び財務上の対処すべき課題

当連結会計年度における事業上及び財務上の対処すべき課題は、次のとおりである。

当社の元代表取締役が金融商品取引法違反(虚偽有価証券報告書提出罪)で起訴されるとともに、元代表取締役会長においては会社法違反(特別背任罪)でも起訴された。併せて当社自身も金融商品取引法違反により起訴された。当社はこの事態を重く受け止め、独立第三者及び独立社外取締役で構成されるガバナンス改善特別委員会を設置し、2019年3月27日に同委員会からガバナンスの改善策及び、将来にわたり事業活動を行っていくための基盤となる健全なガバナンス体制の在り方についての提言をまとめた報告書を受領した。これを受け、当社は指名委員会等設置会社へ移行した。

当社は、2019年9月9日の取締役会において、監査委員会よりゴーン氏らの不正行為に関する社内調査の報告を受けた。2019年9月9日付の「元会長らによる不正行為に関する社内調査報告について」と題する適時開示に記載したとおり、本報告では、ゴーン氏らによる不正行為を認定している。そのうち、ゴーン氏の会社資産の私的流用等及び販売代理店に対する奨励金支払いに関する不適切な行為は、以下のとおりである。2019年9月9日以降、当有価証券報告書提出日時点において、下記の内容に特段の変更は生じていない。今後、下記の内容に重要な進展が生じた場合には、法令等に基づき開示する。

 

A) ゴーン氏の会社資産の私的流用等

 ゴーン氏は、以下を含む様々な方法で当社の資産を私的に流用した。

・将来性のある技術に投資するとの名目で子会社Zi-A Capital社を設立させ、同社の投資資金のうち約2,700万米ドルを、ブラジル(リオデジャネイロ)及びレバノン(ベイルート)所在のゴーン元会長個人のための住宅の購入に流用したほか、会社資金で秘密裏に購入又は賃借した住宅を私的に利用した。

2003年から10年以上にわたり、実体のないコンサルティング契約に基づくコンサルタント報酬名目で実姉に合計75万米ドルを超える金銭を支払った。

・コーポレートジェットを自身及び家族の私的用途に使用した。

・会社の資金を家族の旅費支払いや、個人的な贈答品支払いなどに充てた。

・業務上の必要性がないにもかかわらず自身の出身国の大学への200万米ドルを超える寄付を会社資金で行わせた。

・2008年、ゴーン氏は個人的に締結した為替スワップ契約のもと約18億5,000万円の含み損を抱え、事実と異なる取引内容を取締役会に説明したうえ為替スワップ契約を当社に承継させて、かかる含み損を当社に承継させた(金融当局の指摘を受け、2009年、当該為替スワップ契約は秘密裏にゴーン氏の関連企業に再承継された)。

・2018年4月以降、三菱自動車工業株式会社との間で設立した合弁会社であるNissan-Mitsubishi B.V.(以下「NMBV」)から、給与・契約金名目での取締役会決議を欠く支払い合計780万ユーロを受領した。

 

 

B) 販売代理店に対する奨励金支払いに関する不適切な行為

ゴーン氏は、国外の知人から私的な資金援助を得ていることを当社取締役会及び関係部署に秘したまま、当社子会社から当該知人の経営する企業に対し、自身とその直属の特定少数の部下が承認すれば金銭支出が可能となる予備費予算(CEOリザーブ)を使用して、特別ビジネスプロジェクト費用などの名目で合計1,470万米ドルの支払いを行わせた。

また、国外の販売代理店の関係者からゴーン氏自身又はその関係企業に対して数千万米ドルの支払いがなされていることを当社取締役会及び関係部署に秘したまま、当社子会社から当該販売代理店に対し、CEOリザーブを使用して、販売奨励金名目で合計3,200万米ドルの支払いを行わせた。

 

金融庁長官から、2019年12月13日付で審判手続開始決定通知書を受領した。これにつき、当社は、課徴金に係る事実及び納付すべき課徴金の額を認める旨の答弁書を2019年12月23日に提出した。その後、2020年2月27日付で金融庁長官から24億2,489万5,000円の課徴金納付命令の決定の送達を受けた。

 

2022年3月3日、当社は東京地方裁判所から金融商品取引法違反(虚偽有価証券報告書提出罪)により、罰金2億円に処するとの有罪判決を受けた。当社は、当社に対する当該判決を厳粛に受け止め、判決の主文並びに理由として述べられた事項を慎重に検討した結果、当該判決に対する控訴を行わないことを決定した。その後、当社及び検察官のいずれも刑事訴訟法が定める控訴期間内に控訴しなかったため、当該判決は確定した。

上記課徴金に関して、金融商品取引法第185条の8第6項の規定に基づき、当該刑事裁判の判決による罰金額である2億円を控除し、課徴金の総額を22億2,489万5,000円に変更する処分が2022年4月26日付で行われた。当該課徴金については、すでに全額納付済である。

 

また、ゴーン氏がNMBV及び他の当社の子会社に対してアムステルダム地方裁判所に提起した不当解雇訴訟において、NMBVは、ゴーン氏がNMBVから不正に着服した資金の返還を求めゴーン氏に対し反対請求を提起した。2021年5月20日にアムステルダム地方裁判所による判決が出され、ゴーン氏の請求は棄却されるとともに、ゴーン氏に対し約500万ユーロの返還が命じられた。2021年8月20日、ゴーン氏は控訴状をアムステルダム高等裁判所に提出した。

 

ゴーン氏による会社資金の不正使用により購入された住居の一部については、売却が完了している。

 

当社は、既に英領バージン諸島においてゴーン氏及びその関係者を相手に、豪華ヨットに対する仮処分命令を申立て、同命令を得た上で、損害賠償等を求めて訴訟を提起し、また日本国内においても、2020年2月12日にゴーン氏に対し、2022年1月19日に当社元代表取締役ケリー氏に対し、損害賠償請求訴訟を提起しているが、本社内調査結果を踏まえ、今後も、ゴーン氏らの責任を明確にすべく、ゴーン氏らの法令違反や不正行為によって被った損害の回復のため法的措置を含めた必要な対応をとっていく方針である。

 

指名委員会の選出による経営層の新体制が2019年12月に発足、内部監査による監督機能を強化したこと、などに見られるように、種々の再発防止策に取り組んでいる。

当社は、2020年1月16日に東京証券取引所に提出した改善状況報告書に記載した改善措置の継続的実施を含め、これからも必要な改善を随時検討するなど、引き続きガバナンスの向上に努めるとともに、企業風土の改革、企業倫理の再構築、企業情報の適切な開示、コンプライアンスを遵守した経営に努めていく所存であることを表明している。

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