課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。

 

(1) 経営方針

当社グループは、2018年10月16日に公表した建築物用免震・制振用オイルダンパーにおける不適切行為に関する外部調査委員会の原因分析および再発防止策の提言を踏まえ、今後は断じて不適切行為を発生させず、信頼回復に取り組むという覚悟を示すため、2019年10月1日付で経営理念の改定を行いました。具体的には、「規範の遵守」および「真摯に向き合う」という再発防止の趣意を新たに加えております。
 当社グループは、持続的な成長と企業価値向上の実現を通してステークホルダーの期待に応えるとともに、社会に貢献するという企業の社会的責任を果たすため、この改定後の経営理念および以下の基本方針に基づき、取締役会を中心に迅速かつ効率的な経営体制の構築並びに公正性かつ透明性の高い経営監督機能の確立を追求し、コーポレート・ガバナンスの強化及び充実に取り組んでまいります。
 

<経営理念>

「人々の暮らしを安全・快適にする技術や製品を提供し、社会に貢献するKYBグループ」

1.規範を遵守するとともに、何事にも真摯に向き合います。

2.高い目標に挑戦し、より活気あふれる企業風土を築きます。

3.優しさと誠実さを保ち、自然を愛し環境を大切にします。

4.常に独創性を追い求め、お客様・株主様・お取引先様・社会の発展に貢献します。

 

<基本方針>

1.当社は、株主の権利を尊重し、平等性を確保する。

2.当社は、株主を含むステークホルダーの利益を考慮し、それらステークホルダーとの適切な協働に努める。

3.当社は、法令に基づく開示はもとより、ステークホルダーにとって重要または有用な情報についても主体的に開示する。

4.当社の取締役会は、株主受託者責任および説明責任を認識し、持続的かつ安定的な成長および企業価値の向上ならびに収益力および資本効率の改善のために、その役割および責務を適切に果たす。

5.当社は、株主との建設的な対話を促進し、当社の経営方針などに対する理解を得るとともに、当社への意見を経営の改善に繋げるなど適切な対応に努める。

 

(2) 経営環境

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、変異株による数次の再拡大により経済活動に影響をあたえ続けており、鉄鋼をはじめとした原材料高騰や半導体不足、新興国経済の伸び鈍化に加え、更にロシアによるウクライナ侵攻は世界の秩序を脅かし、資源やエネルギー需給に深刻な打撃をあたえており、世界経済に不安定要素が増大しています。

当社を取り巻く事業環境は、AC事業は急速なEV化の進行とMaaS、CASEに代表される変革期を迎え対応を迫られています。HC事業は欧米・日本の成熟市場、中国・ASEANなどの新興市場に応じた地域戦略と電子化・電動化・システム化による高付加価値化を求められています。特装車両事業では国内需要は堅調ながら、トラックメーカーの減産による影響を受けています。免震・制振用オイルダンパーの適合化終息も一定の目途がつき、お客様からの信頼回復を進めています。

一方、グローバルでの法規制の強化と企業のESGやSDGs、カーボンニュートラルに対する社会的な要求が急速に高まり、更には、人口や社会の変化による働き方の多様化とグローバル化や経済成長に伴う賃金上昇の加速、IoT、AI、自動運転などの技術進化の加速と業界の垣根を越えた連携や異業種からの参入など、当社を取り巻く環境は急速な変化を見せています。2020中期経営計画では、不適切行為の再発防止とコンプライアンス遵守を根幹とし高収益体質への変革を目指し各種施策を着実に実行しております。2022年度は本中期経営計画の最終年度としてその完遂と、次期中期経営計画へ向けた準備を進めてまいります。

 

(3) 事業上の対処すべき課題

2022年度は2020中期経営計画の最終年度に当たります。免震・制振用オイルダンパー他、不適切行為の再発防止、企業風土改革として、規範意識とコンプライアンス遵守を経営の根幹に据えながら、「取り戻そう信頼と誇り」をスローガンに、高収益体質への変革を進めております。しかしながら、2020年度は新型コロナウイルス感染拡大で大きく出足を挫かれてしまい、2021年度は原材料高騰、半導体不足等の逆風を受けながらも、遅れを挽回した一年となりました。

2022年度は現中期経営計画の総仕上げの年となります。持続的成長のための新商品開発、収益力強化のための次世代革新工場の構築による生産革新やコスト低減を図り、今後の柱となるAC(オートモーティブコンポーネンツ)、HC(ハイドロリックコンポーネンツ)、特装車両の3事業に経営資源を集中させ、ESG経営を進めて現中期経営計画を完遂させ、次期中期経営計画に繋げてまいります。

 

1.マネジメント

 「規範意識とコンプライアンス遵守」「人財育成・健康経営」「安全第一・品質経営」「高収益体質」
 当社は、持続的な成長と企業価値向上の実現を通じて、ステークホルダーの期待に応えるとともに、社会に貢献するという企業の社会的責任を果たす一方、コーポレートガバナンスの強化に取組んでまいりました。
 まず、信頼回復への前提となる免震・制振用オイルダンパーの適合化は2021年度末で約97%まで進んでおり、引き続き、「規範意識とコンプライアンス遵守」を経営の根幹に据えて、規範意識の企業風土への定着、グループ全体の不正防止活動を継続して、ガバナンス強化を図ります。また、社会的要求であるESG、SDGsといった観点から、サステナビリティ委員会を新設、司令塔としてカーボンニュートラルの達成、ESG経営を推進してまいります。

働き方改革については、感染症対策なども含めた健康経営の徹底と、人権を尊重したあらゆるハラスメントを許さない姿勢を明確に、グループ再編後の人財の最適配置、デジタル人財の確保・育成によるDX推進を図り、風通しの良い職場作りを進めてまいります。

安全・品質については、労災・火災の未然防止策を徹底し、品質教育を基礎とした意識改革を進め、品質問題ゼロの達成と定着を進めてまいります。また、近年急速に企業経営の脅威となっているサイバーセキュリティ強化を進めます。
 高収益体質の実現に向けては、事業ポートフォリオ戦略を見直し、経営資源の最適化として、グローバル総原価低減、グローバル生産体制の最適化を図るとともに、不採算事業・拠点・製品の改善計画を完遂していきます。

成長戦略では、MaaSやCASEといった動きを捉え、次世代の収益源となる新市場、新商品の戦略立案、EVや新興メーカーへの参入を図り、成長分野へ積極的に経営資源を投入してまいります。
 

 
 2.建築物用免震・制振用オイルダンパーにおける不適切行為に関する、再発防止策、対応の進捗

 本問題に関する再発防止策および対応についての進捗状況は、2019年7月5日以降、以下の当社ホームページ上で都度公表しておりますのでご参照ください。
 なお、2022年3月31日時点で、再発防止策の具体策全67項目の内、全項目を「完了」しており、その維持・定着の取組みを継続しております。
 再発防止策の進捗状況:https://www.kyb.co.jp/company/progress/prevent.html
 対応の進捗状況:https://www.kyb.co.jp/company/progress/exchange_progress.html

 
 3.新型コロナウイルスの世界的感染拡大

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的感染拡大による各国政府・自治体等の外出禁止や移動制限等の措置や、当社グループの主要顧客の減産により、経営成績に影響が生じております。また、収束に向かった地域においても変異株による数次の再拡大があり、先行きが不透明な状況が続いています。当社グループ各社は、各国政府・自治体等の感染拡大防止の規制やガイドラインに従い、衛生管理の徹底、国内外の出張制限、テレワークやWeb会議の積極的導入等を実施し感染拡大防止を図っています。

 

4.オートモーティブコンポーネンツ事業

「AC事業真価の発揮 -深化-進化-新化-」
 2020中期経営計画では「AC事業真価の発揮」をスローガンに既存事業の深堀り「深化」を図り「進化」を進めるとともに、成長戦略として「新化」を図っております。2022年度は現中期経営計画の最終仕上げとして、固定費削減を継続し、各種再編計画の遂行による各拠点単体での利益確保、事業統制のしくみと体制強化、コスト競争力確保による利益重視の経営活動、母機電動化や環境対応など、顧客に選ばれるための技術開発により新市場・新製品開発と新顧客開拓とシステム、モジュールへの対応を、市販市場では「生・販・技」が連携して構造改革を進めてまいります。
 

5.ハイドロリックコンポーネンツ事業

「お客様に信頼され世界で採用され続けるHC事業 ~市場変化にスピードを持ってニーズの先取り~」
 HC事業では、2020中期経営計画における基本方針として、選択と集中による長期的収益性向上を掲げています。2022年度は現中期経営計画の最終仕上げとして、製品群別収益向上戦略を推進、原価低減・現調化推進、不採算事業・製品の撤退、生産体制整備の完遂を進めています。また、営業・間接部門再編により、HC事業全体で最適化、機能強化を図る一方、将来に向けて、地域別戦略を核として電子化・電動化・システム化された次世代電子油圧機器の開発と量産化を進め、「稼ぎきる=収益重視への転換」を果たし、次期中期経営計画に繋げてまいります。
 

6.特装車両事業

「市場ニーズに資する高付加価値製品の開発による利益体質の強化」「脱炭素社会に貢献できる新製品及び他事業との連携による次世代製品の研究開発推進」
 特装車両事業は、地球・人間にやさしい、持続的成長を実現し、従業員が誇りを持てる事業を基本戦略とし、国内では市場ニーズに資する高付加価値製品の開発による利益体質の強化、脱炭素社会に貢献できる新製品開発、および他事業との連携による次世代製品の研究開発を推進します。海外については、新たな海外ビジネスプランの策定による特装グローバル体制の基盤整備を進めてまいります。

 

7.航空機器事業

「生産体制の再構築」「全面撤退-シナリオ作り込み」
 当社は創業以来、航空機用油圧機器の事業を手掛けてまいりましたが、事業ポートフォリオの全面的な再検討の結果、経営資源の選択と集中による企業競争力の強化を図るべく、航空機器事業から撤退することを基本方針として決定し、2022年2月9日に公表いたしました。
 今後修理を含めた全ての航空機器事業を段階的に終了させる予定です。コンプライアンス強化、安全第一・品質経営のもと、生産体制の再整備を図りながら、お客様の納得を得られる撤退計画を策定してまいります。
 

8.技術・製品開発

「デジタル技術の活用と融合でイノベーションを起こす」
 2020中期経営計画では、技術・製品開発の基本方針として、効率的な技術・製品開発と高利益率の製品の創出を図るため、開発段階でのコストの作りこみ、優位性のある特許取得、モデルベース開発(MBD)手法の全社展開やIPランドスケープの試行による開発効率の向上を図ってまいりました。また、カーボンニュートラルやESG経営に繋がる研究開発の推進のため、中長期的視点に立った技術ロードマップの充実化や、外部機関も活用しながら、新価値創出・新技術創造を進めてまいりました。2022年度は、加速するEV化や自動化の流れに対応すべく、当社のコア技術である油圧を核とした「振動制御・パワー制御」と電子化などの技術を組み合わせながら新製品を創出し、社会的要請であるSDGs・カーボンニュートラルの実現にも貢献してまいります。さらに、全社的なDX推進体制を推進させながら、これを日常業務の他、2030年に自己完結革新工場の実現を目指すShip’30活動や、研究開発活動に活かしてまいります。

 

9.人財育成

「心身ともに健康で働きがいのある風土を築く」「経営・事業戦略達成に必要な人財育成」「間接部門生産性向上の取組み」
 当社では従業員やその家族の健康を重要な経営資源、企業活力の源泉と位置付け、従業員一人ひとりが心身ともに健康で働きがいのある職場づくりに取組んでおります。健康経営推進の取組みとして、3年連続で健康経営優良法人の認定を取得、2024年のホワイト500認定取得を目指します。また、信頼回復に向けた規範意識醸成、風通しが良くハラスメントのない職場づくり、人財の多様化を進める一方、DX人財採用に向けた仕組みを構築します。グローバルでの拠点経営者の育成を進める一方、RPA(Robotic Process Automation)化を軸に間接部門の付加価値生産性の向上へ取組み、固定費削減に繋げてまいります。
 

10.モノづくり

「~できる改善からやらねばならない改善~ 点の改善~線の改善~面の改善」「量変動に追従できる革新的モノづくりの実現」
 当社では事業毎に最適な革新的モノづくりを実現し、安定して利益を生み出し続ける生産革新活動を進めてまいりました。昨年度からは加工から組立が完全同期した自己完結革新工場を2030年に実現するShip’30活動を、AC事業では岐阜北工場、HC事業では岐阜南工場からスタートさせました。2022年度は主要拠点に展開していきます。IoTを活用した生産性向上を図り、TPM設備保全活動を復活させ、将来の革新生産ラインの維持管理の高度化に対応できる体力づくりを目指します。その推進のため生産革新推進部、TPM推進室を新設、活動を進めてまいります。これらの活動により、生産・物流改革、在庫低減によるコスト改善、革新的モノづくりを実現する生産設備、製品評価技術の開発、また設備投資の実効性向上、改善を推進する人財の育成を進めてまいります。
 

当社グループは、これらの重点方策活動を着実に実施し信頼回復を図る一方、筋肉質で高収益な企業体質への改革に取り組んでまいります。

 

≪再発防止策の進捗状況≫ 

2019年2月13日付当社ホームページにて「当社及び当社の子会社が製造した建築物用免震・制振用オイルダンパーにおける不適切行為に関する原因究明・再発防止策について」を公表後、着実に再発防止策を遂行し、信頼回復に取り組んでまいりました。

2022年3月31日時点で、再発防止策の具体策全67項目の内、全項目を「完了」しており、その維持・定着の取り組みを継続しております。

再発防止策は以下の4つの切り口からなります。

①『厳格な規範意識の醸成及び企業風土の改革』

経営理念ならびに企業行動指針の改定、品質基本方針の新規策定などを実施しました。また、企業倫理の繰返し教育の体系化、事業および製品特有の法令に関する教育について、さらに深堀を行っております。 

②『事業性の評価、事業運営体制及び情報共有体制等の見直し』 

内部通報制度の周知教育ならびに製品の品質や安全に関わる不適切行為などについての通報を義務化しました。また、新たに整備した受注決定判断の運用状況の確認、計画的な人事ローテーションの推進などを継続しております。 

③『検査体制・方法の改善』 

製品の性能検査員の製造部門以外の部署への異動を実施するとともに、人為作業を介さない形でのオイルダンパー検査結果の自動保存等、新しい検査システムの導入を進めております。

④『内部監査・統制体制の強化』 

グループ企業に対して品質不正を念頭においた監査を実施し、また、グループ企業に対する管理体制強化として、内部統制部と不正リスク特別監査委員会(現リスク管理委員会)を設立しました。

なお、「完了」とした具体策についても、継続して運用し維持・定着を図っています。

 

 

(4) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社グループでは、3年間(2021年3月期~2023年3月期)の2020中期経営計画を策定しております。今般の外部環境を踏まえ、2023年3月期目標の見直しを行いました。目標数値は以下のとおりです。

 

2022年3月期目標

2022年3月期実績

2023年3月期目標

売上高

3,650億円

3,884億円

4,100億円

セグメント利益 (注)

220億円

247億円

265億円

セグメント利益率

6.0%

6.4%

6.5%

 

(注) セグメント利益は、売上高から売上原価、販売費及び一般管理費を控除して算出したもので、日本基準の営業利益に相当いたします。

また、収益基盤の安定化を図るため、収益力改善については、固定費管理体制強化、不採算事業/拠点/製品の再編実施、グローバル総原価低減の推進、グループ生産体制の最適化を、財務体質改善については、当社単体の利益確保及び当社グループ自己資本比率改善を基本方針として、2023年3月期において自己資本比率37%を目標としています。

 

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