課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 経営方針

当社グループは、「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」というビジョンのもと、「デザインの力を証明する」というミッションを掲げ、「デザイン」を通じて人々の生活がより便利になり、より暮らしやすくなることを目指し事業活動を行うデザインカンパニーです。当社はUI/UXデザイン支援において、「デザイン」の本質的な考え方を活用し、顧客企業の主にスマートフォンやSaaSのアプリケーション等のデジタルプロダクトにおける戦略立案・企画・設計・開発の支援を行ってまいりました。

 

当社グループとしては、優良な「デザイン」で構成されたサービスはユーザーの生活に溶け込むと同時に、そのサービスを提供する企業にとっても有力なビジネスの機会を提供するものとなると考えており、UI/UXデザイン支援を通じてビジネスにおける「デザイン」の価値を世に広めていきたいと考え事業を行っております。

 

(2) 経営戦略、経営環境等

2007年1月、インターネットと携帯電話、そしてストレージ(記憶装置)を組み合わせたスマートフォンと呼ばれるデバイスの出現により、人々の生活が大きく変化しました。ユーザーは常にネットワークに接続し、アプリと呼ばれるソフトウェアを利用して情報を双方向に授受し、自己の生活スタイルに応じてスマートフォンの機能をカスタマイズするようになりました。以来、スマートフォンは各々の生活シーンに組み込まれ、すでに欠かせない存在になっています。

スマートフォンは「デザイン」にも大きな影響を与えました。デジタル分野のデザイン(「デジタルデザイン」)はそれまで主流であったホームページ等のPC画面のWebデザインからスマートフォン画面のアプリデザインに領域を拡大してきました。画面サイズの小さなスマートフォンでは視覚的にわかりやすい直感的操作が可能なユーザーインターフェース(UI)をもつアプリケーションが主流になり、ペイメントやカメラの利用など複数の機能がデバイスに盛り込まれる中、ユーザーの利用シーンを想定してアプリをデザインすること、つまりユーザーエクスペリエンス(UX)を「デザイン」することが不可欠となりました。

優れたUI/UXを実装したアプリを市場に投入できた企業が大きく成長するという事例が積みあがっております。例えば、LINE、Uber、Twitter、Instagram等のアプリの運営企業はスマートフォンアプリを起点として、それぞれの業界だけでなく、社会全体にまで大きな影響を与えております。一方では、既に一定の地位を築いている企業については、自社の成長のため、又は生き残りのため、スマートフォンをはじめとするデジタル領域への対応において数々のチャレンジに直面しております。

 

経済産業省によると、「あらゆる産業において、新たなデジタル技術を使ってこれまでにないビジネスモデルを展開する新規参入者が登場し、ビジネスの従来の枠組み・ルールが崩壊し、新たな枠組みやルールに切り替わる変化が起きつつある」、そして、「企業は、この脅威に対し、現在確保している競争力維持・強化のために既存の枠組みにとらわれない自己変革が求められている」と報告されており(注1)、主にデジタル分野でのこのような取り組みをデジタルトランスフォーメーション(DX)と呼び、経済やビジネスにおけるテーマとして掲げられております。

米国のIT専門調査会社のIDCによる調査結果では、デジタルトランスフォーメーションの拡大を背景として、全世界におけるデジタルエージェンシー(当社グループを含む顧客企業のデジタル開発・進出を支援する事業を行う企業)の全市場の市場規模は、2020年において1,197億USドルと推測されております。そのうち、当社グループがデザインパートナー事業及びデザインプラットフォーム事業の「Goodpatch Anywhere」にて提供しているサービスのうち、特にUI/UXデザイン支援に関連する領域(UI/UXデザイン領域を含むExperience Design Services市場)については、年平均成長率9.7%、市場規模では168億USドル(2020年)から267億USドル(2025年)に拡大すると予測されております(注2)。

 

 

 

 


 

日本においても、2018年5月、経済産業省は、経営者がデザインを有効な経営手段と認識しておらずグローバル競争環境での弱みとなっていることから、デザインを活用した経営手法、すなわち「デザイン経営」の推進を提言しております。ここでいう「デザイン経営」はデザインを重要な経営資源として活用し、ブランド力とイノベーション力を向上させるという経営の姿であり、企業の産業競争力の向上に寄与するものとされております(注1)。当社グループのUI/UXデザイン支援は「デザイン経営」を具体的に実践したい企業にむけて、企業レベルでのブランディングから個別サービスにおけるデザインの実装に至るまでデザイン領域を幅広くサポートしております。

 

当社グループが手がけるデザインパートナー事業は、顧客企業のデザインプロジェクトの支援において、顧客企業にとって既知であり自明である事業の目的や戦略から紐解き、顧客企業と顧客のユーザーへ問いかけ、デザインの対象となるサービスのUXの最適解を求めながら、アプリやWebサービス等のデジタルプロダクトのUIデザインの実装を進めます。既存のビジネスプロセスをデジタル化し、イノベーションの創出を図りたい企業に対しては、デジタル分野への新規進出の実現を、また、新たな視点で顧客起点の価値創出のための事業やビジネスモデルの変革を図りたい企業に対しては、ビジネスプロセスの変革の実現を、デザインを切り口に行うものとなります。

具体的には、当社グループでは、先ずサービスを利用するユーザー(利用者)をデザインの中心として位置付け、ユーザーに焦点を当てていきます。ユーザーとは何者か、どのような趣向があるのか、解決には何が必要かという問いを投げかけていきます。常にユーザーを中心に考え、目的を見出し、その目的を達成するための手段を具現化するという一連のプロセスの中に、ブランド・強み、商品力等の顧客企業が有する価値を組み込み、その特徴を活かしつつ、差別化されたUXを実現していきます。また、顧客企業の有する様々な資産や技術だけでなく、企業外にある手段についても柔軟に取り入れながら対話を進めていきます。その結果、AIやクラウド、IoT等の様々な技術はその実現のための手段として組み込まれ、必要に応じてデザインの設計にも反映されるとともに、そのソリューションの実装までプロジェクトスコープ(プロジェクトの範囲)を拡大して対応することがあります。

また、当社グループとしては、デジタルトランスフォーメーション(DX)領域において「デザイン」が関係する市場をより鮮明に形成するため、デザイナー組織を拡大し、デザインパートナー事業の成長を図るとともに、より多くの顧客企業に向けてデザインプロジェクトを実施していきたいと考えております。これまでに関与した優れたUI/UXのデザイン事例を有効に活用しながら、広告に頼らないSNS等を活用したPR活動をさらに推進することによって効率的に当領域におけるブランディングを進めてまいります。

 

同時に、デザインパートナー事業を後方支援するために、デザインプラットフォーム事業の推進に努めます。デザイン環境(クラウドソーシング-「Goodpatch Anywhere」)、デザイン人材(デザイナー採用支援サービス-「ReDesigner」)、ソフトウェア(デザインITツール-「Strap」「Prott」「Athena」)、の点からもデザイン領域における当社の存在感を高めていきます。そして、それぞれのシナジーを創出し、デザインビジネスの拡大を働きかけてまいります。

 

(注)1.経済産業省 "産業界におけるデジタルトランスフォーメーションの推進" https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dx.html(2019年10月25日)

2. IDC Worldwide Digital Agency Services Forecast, 2021–2025, US46844021, Sep.2021

 

(3) 目標とする経営指標

デザインパートナー事業において、収益の源泉は、顧客企業のデザインプロジェクトからの月額報酬となります。デザインプロジェクトの期間については、顧客企業のニーズやサービスの運営状況によっても変化するため、数か月から数年に及ぶものまで様々であります。また、プロジェクト受注数はその時々の受注可能なデザイナーリソースや既存プロジェクトの継続状況によっても変動します。そのため、当事業は当社グループとデザインプロジェクトを進めるために契約した顧客企業の月額平均単価とその実施顧客社数を経営上の目標達成状況を判断するための客観的指標と考えております。当該顧客企業の月額平均単価を拡大させ、顧客社数を増やすことで、今後のデザインパートナー事業の売上高を継続的に成長させてまいります。

なお、当事業における月額平均顧客単価とその顧客社数は以下のとおりであります。また、契約形態としては、一部請負契約のプロジェクトもありますが、主に月額ベースの準委任契約となります。

 

 


 

(注)1.月額平均顧客単価 =(1か月にデザイン支援を提供した顧客社数の売上総額÷1か月にデザイン支援を提供した顧客社数)の1年間の平均値

2.顧客社数 = 1か月にデザイン支援を提供した顧客社数の1年間の平均値

 

(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

(1)及び(2)記載の、経営方針及び経営戦略等を実行していく上で、 当社グループが 優先的に対処すべき事業上及び 財務上の課題は以下のとおりであります。

 

 

① デジタルトランスフォーメーション(DX)におけるプレゼンス向上について

当社グループは、社会を変革する巨大企業に成長したベンチャー企業のように、「デザイン」をビジネスに組み込み、直観的で使いやすいUI/UXを実現することが競争力の源泉になると考え、「デザイン」を念頭においたビジネスの設計が今後必要になると認識しております。

特に、大企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)へのニーズには、急速に変化する顧客の環境を意識しながら柔軟な思考で最適なサービス設計を行う、というUI/UXに直結する要素があるため、組織支援やブランディング支援等から「デザイン」の実装プロセスの導入を進めることもあります。当社グループとしてはこれまでの知見を活かし、「デザイン」が「ビジネス」に直結することの実例を広く市場にアピールし、UI/UXを切り口に新たなニーズの掘り起こしとソリューションの拡充を推進し、デジタルトランスフォーメーション(DX)支援を推進してまいります。

 

② 顧客企業の獲得とマーケティング・セールス体制の強化について

当社グループは、これまでUI/UX領域を中心とした実績とブランドバリューにより、口コミや顧客企業からの指名問い合わせを中心にデザインプロジェクトを獲得してまいりましたが、UI/UXソリューションのマーケットの拡大とともに、その獲得においても他社との競争が徐々に激化しつつあります。そのため、マーケティング・セールス体制の強化が、成長を実現するためにも、欠かせないものと考えております。

今後は組織的に営業活動を行うべく、マーケティング・セールスにおける取り組みや行動を強化し、リードの獲得、プロジェクト提案の増加、プロジェクト獲得数の向上を目指してまいります。具体的には、マーケティングチャネルの拡充、セミナーの開催、マーケティング及びインサイドセールスの体制強化、意思決定者層へのリーチ拡大等を実施していく予定であります

 

③ プロジェクト継続の強化、顧客あたり売上の増加について

当社グループでは、新規プロジェクトの獲得を強化し、デザイン支援を実施した顧客社数は増加したものの、営業時やプロジェクトの完了時の継続案件の提案が不足し、大規模アカウントの開拓や継続受注が進まず、顧客企業あたりの平均売上単価が伸び悩む結果となりました。

この結果を受け、顧客企業に当社グループが提供する価値を認識してもらい、長期的な関係値を築くことが重要と考え、プロジェクトの継続を強化する施策を推進することとしております。プロジェクトを担当するデザイナーが既存顧客に対する再契約に向けて営業と連携を図る他、アップセル機会の模索や、アップセルの達成を人事評価に組込む等、プロジェクトの継続を強化する施策を実行し、顧客あたり売上の増加を図ってまいります。

 

④ デジタルトランスフォーメーション(DX)におけるバリューチェーンの機能強化について

AIやIoT等のデジタル技術が実用フェーズを迎え、デジタルトランスフォーメーション(DX)が注目を集め、企業がデジタル領域において変革を求められる状況の中で、デザインの持つ役割の重要性は益々高まっております。当社グループは、デザインパートナー事業において、UI/UX領域の支援を強みに、ブランドデザイン、サービス戦略の策定等を手掛けておりますが、デジタルトランスフォーメーション(DX)におけるバリューチェーン(戦略領域→UI/UX領域→開発領域→グロース領域)を意識した機能強化が必要であると考えております。

当社グループが顧客企業の企業価値の向上にさらに貢献していくため、UI/UXデザインの支援にとどまらず、企業のビジョン・ミッションの策定や事業創出等の戦略領域からデザイン支援を開始し、ソリューションの拡充を図ってまいります。

また当社グループは、デザインパートナー事業のケイパビリティの強化(強みの拡大)のために、他社との事業連携やM&Aによる戦略的投資を推進し成長を図りたいと考えております。当社グループでは、「デザイン領域と親和性の高い開発領域の企業」、「顧客サービス運用支援を行う企業」等、開発及びグロース領域に位置する企業を検討対象としております。今後、これらの方針を基に、事業創出やマーケティング等の領域へ拡大し、顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援してまいります。

 

 

⑤ デザイン組織の拡張について

当社グループでは、2023年8月期より、従来「デザインプラットフォーム事業」に属していた「Goodpatch Anywhere」を「デザインパートナー事業」へ移管することを決定しております。その背景として、国内で獲得したプロジェクトを、当社グループのデザイナーのプロジェクト稼働状況やその特性に合わせて、柔軟に「Goodpatch Anywhere」のリソースを有効に活用し、プロジェクトの提供体制を確保いたします。また、株式会社スタジオディテイルズにおいても当社のデザイナーとプロジェクトにて協働し、両者のさらなるシナジーを追求していきます。当社グループが持つブランドデザインの強みを活かし、ブランディング領域におけるサービスラインアップの拡大を進め、サービスの提供価値を高めてまいります。加えて、それぞれ別々に提供していた営業支援活動、採用、人材開発等の組織支援活動を共通化して提供することによって、高効率な運用体制を構築し、さらなる成長に向けてデザイン組織を拡張させてまいります。

 

⑥ デザインプラットフォーム事業の成長について

当社グループは、デザインプラットフォーム事業を、デザインパートナー事業における地位をより強固なものとするための関連事業と位置づけております。「デザイン」のビジネス領域における市場を明確に形成し、そのリーディングポジションを確固たるものとするために、企業内デザイン人材(デザイナー採用支援サービス-「ReDesigner」)、ソフトウェア(デザインITツール-「Strap」「Prott」)の2領域において以下の取り組みを進めております。

 

⑥-1 デザイン人材市場への取り組み

当社グループは、デザイン人材市場へのアプローチとして「ReDesigner」及び「ReDesigner for Student」を展開し、デザイナーという限定された職種に対し、企業からデザイナーの採用支援の依頼を受け、候補者を紹介しております。「デザイン」を取り巻く就業環境をより良いものとするため、引き続き各社のデザイナーの就業環境を整えながらも、デザイナー志望者へ提供する情報の付加価値を高め、採用企業及び求職者の両面で「ReDesigner」の人材ネットワークを拡大してまいります。また、「ReDesigner for Student」は求職者と採用企業を結びつける仕組みとしてソーシャルリクルーティングを採用し、デザイナーのためのリクルーティングサイトとしてUI/UXの改善を継続的に進め、サービスの強化に努めております。

 

⑥-2 ソフトウェアへの取り組み

当社グループは、新たに「Strap」というSaaS(Software as a Service)アプリケーションを公開し、「デザイン」で培ったコラボレーションノウハウの社外への浸透を図ってまいります。利用企業は「Strap」によって作業・コミュニケーションの効率化を実現し、共創を通じて新しい価値を生み出します。テレワークが加速し、異なる場所にいるという制約を飛び越えながらプロジェクトを推進することがどの企業でも必要になる今、ホワイトボードを見ながらチーム全員で情報を共有し作業するようなコラボレーション空間をオンラインで実現します。

 

⑦ 内部管理体制の強化について

当社グループでは、今後継続的に事業が拡大していく中で、効率的な経営を行うために内部管理体制についてより一層の強化が求められていくものと認識しております。これに対応するため、当社グループでは、各分野に専門性を有した人員を配置し、社内管理体制の強化を図っており、今後においても引き続き充実させていく方針であります。

 

⑧ 新規事業の展開について

当社グループは、企業価値を向上させ、デザインの価値を引き上げるためには事業規模の拡大を図っていくことが必要であると考えております。当社グループは「デザイン」で培ったノウハウを、効果的にビジネスのあらゆる場面に浸透させ、幅広く展開することで、デザインパートナー事業とデザインプラットフォーム事業の事業間シナジーを追求しております。今後も継続的な事業成長の実現に向けて、既存事業及びサービスの伸長に加えて、新規事業の展開を積極的に検討してまいります。

 

⑨ ESGへの取り組みについて

当社グループでは、ESGへの取り組みを促進し、持続可能な事業をデザインの力で前進させたいと考えております。またESGの3つの要素である、環境保護(Environment)、社会的責任(Social)、企業統治(Governance)への取り組みを通じて社会に貢献し、企業価値の向上と持続的成長の実現を目指してまいります。

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