文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針及び事業環境と成長に向けて
当社グループは、ケミカルメーカーを併せ持つ独立系エレクトロニクス商社として、「社業の正しい営みを通じ、国内産業ならびに国際貿易の発展に寄与し、併せて人類社会の平和と幸福に貢献せんとする」との社是のもと、社会の公器として地球環境に配慮し企業価値を高めることを目指しております。
急速に進化・発展を遂げてきたエレクトロニクス業界にあって、当社グループは仕入先メーカーと連携し、技術的側面からの顧客サポートを充実させることにより、その強みを発揮してまいりました。商社でありながら、それぞれの事業分野に技術部門を設け、企画・開発・設計段階からの技術提供や機器の設置、調整、メンテナンスまで総合的な技術サービスを提供することにより、他社との差別化を図っております。工業薬品事業においては、自社で研究・開発・製造した製品と国内外メーカーより仕入れた商品を取り扱うことにより、幅広いニーズに対応することにより事業を拡大させてきました。
近年の事業環境を見渡しますと、新型コロナウイルス感染拡大の影響やウクライナ問題をはじめとした国際情勢の変化、資源価格の高騰によるインフレ懸念など世界経済は不透明感を増しております。エレクトロニクス業界においては、自動車技術の高度化や通信機器の高機能化、AIやIoTの進展などにより、従来とは比較できないほどのスピードで市場は変化してきております。また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う生活様式や社会経済活動の変容は今後も新たな需要を生み出す一方で、サプライチェーンやバリューチェーンの変化をもたらすものと考えられます。このような状況において、当社グループに求められる役割も大きく変化しつつあります。エレクトロニクス業界では仕入先・販売先の再編による大規模化や応用技術の進化などにより、また、工業薬品業界では販売先の統合やSDGsに代表される環境意識への高まりなどにより、市場ニーズが大きく変化しており、これまでの役割・機能の提供のみでは、当社グループの存在意義や顧客価値の相対的地位は後退し、電子部品事業においては収益性の低下、電子・電気機器事業と工業薬品事業においては成長性の鈍化が大きな課題となっております。
以上の認識のもと当社グループが持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するためには、環境の変化に即して事業構造を変革し、これまで培われてきた強みを活かしつつ、顧客企業と共に新しい価値を創造できる特色ある技術商社とケミカルメーカーを目指す必要があるとの考えにより、2021年4月に以下の中期経営計画を公表しております。
(2)中期経営計画「Change & Co-Create 2024」
(基本方針)
・ 第1の施策:中期経営計画に基づく収益力の向上によるオーガニックな成長
・ 第2の施策:投資効率の高い戦略的投資の実行によるノンオーガニックな成長
・ 第3の施策:株主還元等、財務的な施策による資本効率の向上
(全社戦略)
① 高収益事業への資源の投下
・収益性の高い事業への資源の配分を高め、事業拡大を図る一方、収益性の低い事業については、効率化
を徹底し収益性の向上を図る
② 部門を横断した情報・技術の連携による価値の創造
・全部門横断の新規事業プロジェクトにより、将来、第5の収益の柱となる事業を創出する
・部門間の連携を活性化することにより、共同ビジネスを促進し事業展開する
③ 業務改革の実現を加速させるDX戦略
・ フロントエンドのDXにより、マーケティングの強化や情報の共有化を図り、お客様に対する付加価
値の提供力やビジネスの提案力を強化する
・ バックエンドのDXに取り組み、全社を通じて業務プロセスを改善することにより業務の効率化を徹
底する
④ 外部資源との連携(オープンイノベーション)
・ 従来の自前主義から脱却し、外部との連携を深め、新たな技術の創造を促進する
・ 外部資源を活かし技術商社の強みである技術を強化することにより、他社にはないソリューション提
供を実現する
⑤ 外部との協業及びM&A
・ 今後成長が期待できる分野においては、外部との協業やM&Aを積極的に展開し、オーガニックな成
長を上回る拡大を目指す
(セグメント別事業戦略及び海外事業戦略)
① 電子部品事業(半導体デバイス)
・ 業務の効率化と収益性の高いビジネスへの販売強化により収益性を改善する
・ 技術力、提案力を高め、ソリューションビジネスへの進化を図る
② 電子部品事業(電子コンポーネント)
・ 人員の投入によりマーケティング機能を強化し、新規事業の展開と新規販売先の拡大を図る
・ 営業体制の見直しにより海外販売を強化し、事業エリアの拡大を目指す
③ 電子・電気機器事業
・ 新商品や自社製品の販売比率を高め、独自の技術、装置、販路を強化する
・ 自社製品の付加価値を高めるため、材料や川上製品の取り扱いを拡大する
・ 医療、環境、エネルギーなど新たな領域への参入を図る
④ 工業薬品事業
・ 外部との協業により技術の強化を図り、新たな用途による新規ビジネスを創出する
・ 堅調な拡大を続ける化粧品原料ビジネスの強化を図る
⑤ 海外事業
・ 海外拠点における業務プロセスを見直し、業務効率化を実現する
・ 中華圏及びASEAN地域にエリア統括者を配置し、エリアに応じた戦略を展開する
(定量目標)
当計画の最終年度となる2024年度(2025年3月期)における経営目標は以下の通りですが、2025年度以降も安定的に営業利益50億円以上を計上できる企業体質を確立してまいります。
連結営業利益 |
連結営業利益率 |
ROE |
50億円以上 |
3.0%以上 |
6.0%以上 |
(株主還元方針)
当社グループでは、資本効率の改善を経営上及び財務上の重要課題と位置づけ、第3の施策として、本計画期間中は配当と自己株式の取得により、「総還元性向100%」を目標とした株主還元を実施することを基本方針といたします。
● 配当は引き続き安定配当を実施する
● 成長投資や高い投資効率が期待できる投資案件等(M&A等戦略的投資、事業効率化投資)があれば、これを優先する
(3)中期経営計画の進捗状況
2021年度の中期経営計画に基づく取り組み状況は以下の通りです。
計画策定時からの外部環境の変化としては、新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の制限が想定より長期化したことにより、中期経営計画において初年度から取り組むべき、いくつかの施策については進捗に遅れが生じております。また、計画策定時には想定しておりませんでした、半導体を中心とする電子部品の需給逼迫による仕入先と販売先との納期調整業務の増加など計画推進の阻害要因となる事象も発生しました。
一方で、エレクトロニクス分野では、旺盛な半導体需要や広い分野での活発な設備投資により既存ビジネスが大幅に伸長いたしました。また、年度を通じて続いた円安の影響により利益面でプラスの効果を受けたこともあり、中期経営計画における定量目標を大幅に上回る結果となりました。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループでは、各事業における存在意義や付加価値の低下、あるいは成長性の鈍化を優先的に対処すべき事業上の課題と認識しております。2021年度は外部環境によるプラス効果も加わり、長年の課題としていた収益性も改善いたしましたが、中期経営計画における目標は、如何なる環境下においても安定した高収益を計上できる企業体質への転換であると考えております。中期経営計画2年目となる2022年度は、その目的を早期に達成するために事業構造の変革に向けた、以下の課題に取り組んでまいります。
① 中計施策への取り組み強化
中期経営計画で策定した施策を確実に遂行し、成果に繋がる取り組みを強化してまいります。各事業セグメント別の施策は、後述の通りです。
② 新規ビジネスおよび新規成長分野への取り組み
事業構造の変革を加速し、持続的な成長を図るためにも、新規ビジネスへの取り組みや新規成長分野の開拓は重要な課題であると考えております。各事業において技術と情報を活かし、成長する医療・環境・エネルギー分野を中心に、SDGsの目標を意識した新規ビジネスの開拓を展開してまいります。そのための外部資源の活用も積極的に取り組んでまいります。
③ 体制・基盤の構築
企業の成長を維持するための体制・基盤の構築については、2022年度より導入いたしました新人事制度の定着化や抜本的な業務プロセスの効率化を目指したDXへの取り組みを進めてまいります。また、プライム市場への移行をふまえて、リスクマネジメント体制の整備・構築にも取り組み、グループガバナンスの向上を図ってまいります。
各事業セグメントにおける優先的に対処すべき事業上の課題、並びに財務上の課題は以下のとおりであります。
(電子部品事業)
電子部品事業は、当社グループにおいて最大の売上規模があり、また、過去5期においても順調に売上高を拡大しておりますが、セグメント利益は必ずしも売上高の増加に連動せず、利益率については当期こそ為替影響による外貨建て輸出取引等の要因により改善したものの、近年は低調に推移しておりました。これは、同事業の売上高の7割超を占める半導体デバイス部門が近年車載分野や5G通信分野などにおいて積極的に商権を拡大してきたものの、仕入先・得意先の再編による大規模化により、その間に挟まれる商社の交渉力や役割が低下しているという外的要因に加えて、得意先のニーズを踏まえた提案営業や組織的な対応の遅れ、技術で対価を得る仕組みの不足、低採算商権の移管受入なども収益悪化の要因になっていたものと認識しております。
したがって、同事業における対処の方向性は、従来の単品販売ビジネスから「情報力×技術力×提案力」で対価を得るソリューションビジネスへの進化を志向することにより、存在価値を高めて収益性の向上を目指すこと、また、組織については、半導体ビジネス部門と電子コンポーネント部門間の情報共有化をさらに進めるとともに、従来の仕入先別縦割り組織から特定顧客向けの横串の販売体制を整備して効率的な営業体制へ再編するとともに、労働生産性改善のためにDX・デジタル化による業務効率化とコスト削減を着実に推進し、収益改善を図ることと考えております。
(電子・電気機器事業)
電子・電気機器事業は、当社グループにおいては電子部品事業と同水準のセグメント利益を生み出している比較的高収益な事業と位置付けておりますが、過去5期の売上高はほぼ横ばいで推移しております。これは、同事業が取り扱う商品群が最先端のエレクトロニクス技術に基づくため、技術革新による商品の競争力の低下や陳腐化の影響を受けやすいという外的要因に加えて、安定した既存仕入先に依存する中での新規開拓(事業・商材)の仕組み不足、自前主義での成長を探索する中での自社製品確保や海外代理店開拓の遅れなども成長性鈍化の要因になっていたものと認識しております。
したがって、同事業における対処の方向性は、短期的には新規開拓の仕組みを組織化することにより、既存の事業領域以外の育成を図り、長期的には共同開発やM&Aを通じて、自社ブランド商品の販売を国内・海外で強化するとともに、商品ラインの拡大を図ることと考えております。具体的にはPCB分野の新規アイテムの開発や自社ブランド分析装置の拡充、加速器ビジネスの商材拡充に取り組んでまいります。
(工業薬品事業)
工業薬品事業は、当社グループにおいては高収益で特色あるメーカー部門と位置付けておりますが、他のセグメントと比較すると成長性、規模ともに劣後しております。これは、同事業の既存マーケットが主に国内の石油・石油化学産業、紙・パルプ産業であるという外的要因に加えて、メーカーの屋台骨である技術強化投資の不足、新製品開発に係る研究開発や海外展開における外部リソースの活用不足、注力市場を明確化するためのマーケティング機能や顧客の潜在ニーズ発掘の仕組み不足なども要因になっていたものと認識しております。
したがって、同事業における対処の方向性は、自社技術を活かした新製品の開発に加え、外部との共同研究による技術強化や製品開発力の向上により事業領域を拡大し、協業を通じた海外の販路・製造・サービス機能の強化により海外事業展開を進めるとともに、自社技術の新規用途の開拓に取り組むことと考えております。
特に環境ビジネスと化粧品原料ビジネスへの取り組みを強化する方針です。
〔参考〕:過去5期のセグメントごとの売上高、及びセグメント利益(金額単位:百万円)
決算期 |
2018年3月期 |
2019年3月期 |
2020年3月期 |
2021年3月期 |
2022年3月期 |
|
電子部品事業 |
売上高 セグメント利益 |
107,331 1,426 |
107,668 1,331 |
123,708 576 |
134,949 919 |
157,119 3,682 |
電子・電気 機器事業 |
売上高 セグメント利益 |
21,146 1,254 |
21,544 1,418 |
18,286 900 |
19,029 1,770 |
21,609 2,104 |
工業薬品事業 |
売上高 セグメント利益 |
10,244 904 |
10,886 932 |
11,160 838 |
10,962 890 |
12,300 1,337 |
注:2022年3月期より報告セグメントの区分を変更しており、2021年3月期、2022年3月期については変更後のセグメント区分に組み替えた数字となっております。
また、海外事業においては中華圏・ASEANのエリア統括機能を発揮し、業務の効率化とローカルビジネスの拡大に取り組んでまいります。
中期経営計画の初年度である2021年度は構造変革の期間として、変革のための体制整備や制度改定に取り組んでまいりました。2022年度からは体制・制度の定着化を図りつつ、計画当初の取り組みを着実に遂行し成果を残すステージとなります。変革のスピードを緩めることなく、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上の実現に向けて計画を推進することが最も重要な課題であると認識しております。
(財務上の課題)
当社グループでは、収益性の向上に加えて、ROE(自己資本利益率)の低位固定化及び運転資本の増大に伴うバランスシートの肥大化への対応なども優先的に対処すべき財務上の課題と認識しております。
そのため、2021年度から2024年度を計画期間とする中期経営計画「Change & Co-Create 2024」では、計画期間中は配当と自己株式の取得による「総還元性向100%」を目標とした株主還元を実施することにより、資本効率や資本コストを意識した経営を実践することを基本方針としております。また、事業面においては、事業セグメントごとに連結ベースのバランスシートを展開して運転資本とROIC(投下資本利益率)を算出し、各セグメントの特性に応じたベンチマークを設定することにより、売上高利益率や資産回転率などの財務指標の改善とフリーキャッシュ・フローの創出を図ることを対処の方向性としております。
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