■リスク管理体制
当社グループは、リスクマネジメント委員会を設置し、事業活動に関わるリスクを定期的に洗い出すとともに、原則として毎年重要リスクの評価・選定を行い、次年度の経営課題等の検討対象にしています。また、各部門におけるリスクへの取り組みの検討およびその実施を積極的に推進しております。
なお、様々なリスクに起因するインシデントや緊急事態に対しては、リスク管理規程に基づき、必要に応じてワーキンググループや対策本部を設置することによって、迅速かつ適切に対応する体制を整備しています。特に新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴うリスクについては、2020年2月に社長を本部長とする対策本部を設置し、それに関する情報共有や各種の対応等を実施しています。
■リスクアセスメント活動
当社グループは、主に以下の手順にしたがって、各部門からリスクを収集しています。リスク情報収集の過程では、経営者の戦略上の判断に影響を及ぼし得る「戦略リスク」と、各部門や店舗において認識される「オペレーショナルリスク」とに分類し、ヒアリング対象者を分けることでそれぞれのリスクについて網羅的に重要性が特定されるよう配慮しています。洗い出された重要なリスクについては、リスクマネジメント委員会にて重要リスク(「特に重要なリスク」及び「重要なリスク」の区別を含む)を評価・選定し、その対応策を検討するとともにその後のモニタリング等も実施しています。
■事業等のリスク
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在における当社グループの判断または仮定に基づく予測等であり、実際の結果と異なる可能性があります。また、以下に記載する事項は、当社グループの事業に関する全てのリスクを網羅的に記述するものではございませんのでご留意下さい。
<特に重要なリスク>
当社グループは、衣料品等小売業を主体とした、いわゆるBtoCビジネスを主に展開しており、経営理念として「真心と美意識をこめてお客様の明日を創り、生活文化のスタンダードを創造し続ける」を掲げる等、お客様にご満足いただき続けることこそが当社のビジネスの根幹であると考えています。
また、2023年3月期の経営方針として「感動提供 すてきな接客 すてきな商品 ヒトのチカラ モノのチカラ」を掲げ、当社の絶対的な強みである「感動提供」を磨き上げることによって未来へ繋げていくことが重要であると考えています。
これらのことから、時代と共に変化する社会環境やお客様のニーズに対応し続けられない、すなわち「時代対応できない」ことを究極的なリスクと考えており、具体的には、以下に記載するリスクを「特に重要なリスク」と捉えています。
①経済状況・事業環境の変化に関するリスク
当社グループは、景気変動等による経済の停滞に伴う消費動向の低迷、人口動態等による消費動向の変動によって、売上の減少や過剰在庫の発生など、相当程度の確度で中長期の業績に影響を及ぼされる可能性があります。
また、当社グループの事業環境は、市場のグローバル化、DX領域における日進月歩の技術革新、地球環境・持続可能性に対する配慮、サプライチェーンにおける人権保護に関する意識の高まり、新規参入企業との競合の激化等、常に外部環境の変化に伴うリスクに晒されています。こうした外部環境の変化により、売上の減少や過剰在庫の発生等、相当程度の確度で中長期の業績に影響を及ぼされる可能性があります。
また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、インバウンド需要の低下や、消費マインドの弱含み、密を避ける行動様式の広がりに伴う実店舗への来店客数の減少等といった厳しい経営環境も継続しています。
こうしたリスクへの対応として、中期経営計画の基本方針に「危機に打ち勝ち、稼ぐ力を取り戻す」を、また2023年3月期の経営方針の重点戦略を下支えするベース戦略に、「DX推進」や「サステナビリティ推進」を掲げ、サプライチェーンのデジタル化や、一連の商品関連業務を担う基幹システム等の刷新を推進するとともに、商品廃棄の極小化、脱炭素化に向けた活動、環境配慮素材の積極使用やサプライチェーンにおける人権の尊重等を促進してまいります。
②顧客嗜好・消費性向の変化への対応力に関するリスク
当社グループは、お客様の嗜好(ニーズ)や時代変化に対応すべく国内外のマーケットより情報収集に努め、商品企画ならびに商品開発に注力しております。しかしながら、お客様の嗜好(ニーズ)やファッション・マーケットトレンドは短期的かつ急激に変化する傾向にもあります。
目下、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が長引いており、コロナ禍における消費性向の変化(消費行動のオンライン化、ファッションのカジュアル化等)が、もはや一過性の現象ではなく、いわゆる「アフターコロナ」においても根本的なライフスタイルの変化として長く定着するとのシナリオを前提に当社のビジネスモデルを構築する必要があります。
当社グループが、時代潮流や消費性向の変化に十分に対応できなかった場合には、競合優位性やブランド価値が低下し、相当程度の確度で当社グループの中長期の業績に影響を及ぼす可能性があります。
こうしたリスクへの対応として、2023年3月期の経営方針の重点取組に、「感動クリエイション」や「新たなUAへの挑戦」を掲げ、商品開発力の強化や適時・適品・適量・適価・適所、いわゆる5適の精度向上を推進するとともに、過去の成功体験や既成概念にとらわれない新たなブランド開発、新たな価値提供につながるドメインへの拡大も検討してまいります。併せて、上記の「DX推進」の一環として、2022 年3月に実施した自社ネット通販サイト「ユナイテッドアローズ オンライン」のリニューアルを皮切りにしたOMO(*)の取組みを更に推進するとともに、デジタル技術を駆使したマーケティング力の強化も図ってまいります。
また、上記の実現を支えるレジリエントな経営に向け、意思決定方法、社内コミュニケーション、事業計画のPDCAの在り方や各種の施策・業務のメリハリ等について、適宜見直しを図ってまいります。
(*)OMO:(Online Merges with Offline の略。オンラインとオフラインの融合を指す。)
③人材に関するリスク
当社グループの事業については、今後とも時代対応のためのビジネスモデル変革に応じて、顧客属性や顧客の嗜好と適合した社内人材の配置や、適材適所での人材の確保と人材の育成が必要と考えております。現時点では、重大な支障はないものの、当社が顧客の求める時代感覚と適合した人材配置やデジタル対応等の戦略に適合した採用計画や人材育成計画が適切に策定できない場合には、戦略の遂行と経営ビジョンの達成が困難になります。
また、「アフターコロナ」における新しいライフスタイルやファッションのカジュアル化、購買行動のオンライン化は、企業に新しいモノの売り方(ECサイト売上比率の向上や、デジタルマーケティングの強化等)や最新の時代感覚を伴った品揃えとその見せ方を迫っており、それに応じたマーケティング人材の確保や調達部門における若手の確保など、新たな時代に求められる優秀な人材を惹きつけることが重要になっています。このような時代対応に適した人材にとって魅力的な会社になることも当社の重要な経営アジェンダであり、これに失敗した場合は、人材が外部に流出し、引いては市場競争力の低下につながるため、中長期的には、販売力で差別化を図ってきた当社グループの店舗運営ならびに業容の拡大にかなりの確度で支障をきたす可能性があります。
こうしたリスクへの対応として、主要機能を担う人材への教育投資の増加と「デジタル/IT」分野等の人材獲得に向けた積極的な投資や、テクノロジーの活用による業務の効率化・自動化の推進等を継続してまいります。また、2023年3月期の経営方針の重点戦略を下支えするベース戦略に、「ES(*)推進」を掲げ、タレントマネジメントシステムを活用した適材適所の人材配置等も進めてまいります。
なお、「デジタル/IT」分野については、2022年3月期よりDX推進部門を設置し、その担当執行役員及び本部長には他社での豊富な経験を有する当該分野の専門家が就任しています。
(*)ES:(Employee Satisfaction の略。従業員満足を指す。)
<重要なリスク>
上記の重要リスクの評価・選定手順を踏まえ、以下のリスクを「重要なリスク」と捉えています。
①サステナビリティに関するリスク
当社グループでは、持続可能な社会の実現に向けて、環境、社会、ガバナンスを重視した企業経営が重要であると考えております。アパレル業界においては、特にサプライチェーン全体における環境や人権に配慮した事業運営が求められており、そのような経営が実現できない場合、中長期的には、相当程度の確度で、当社グループの企業活動がお客様や投資家からご支持いただけなくなる等、社会から受容されなくなる可能性があります。
こうしたリスクへの対応として、「経営会議」の下部組織として、業務執行取締役及び執行役員を委員とする「サスティナビリティ委員会」を設置しており、経営理念体系の「5つの価値創造」を基本に、「サプライチェーン」、「資源」、「コミュニティ」、「人材」、「ガバナンス」の5つのテーマを設定し、これらに関する施策の推進により、事業を通じた社会課題の解決や社会貢献に向けた活動を積極的に行っています。
※参考:サスティナビリティ推進体制図
②気候変動に関するリスク
当社グループの店舗は日本国内の大都市に集中して出店しており、商品の物流拠点や本部機能も首都圏に集中しています。
主にこれらの地域において、物理的リスクである大型台風や豪雨等による自然災害が発生した場合、かなりの確度で店舗設備の被害や店舗の休業、あるいは商品調達に支障をきたす可能性があります。
また、最低・最高気温の推移の変化や季節のズレが発生して、お客様の需要や購買行動等に変化が生じた場合、相当程度の確度でこれまでの商品計画では対応し得ない可能性があります。異常気象や平均気温上昇は、商品原材料生産への影響によるコストの増加も想定されます。
こうしたリスクへの対応として、自然災害時の対応に向け、「リスク管理規程」において危機管理体制を整備・構築するとともに、継続して事業継続計画(BCP)の見直しも図ってまいります。この危機管理体制の実効性を高めるために、災害時の被害状況の確認訓練を定期的に行っています。
また、シーズンレス商品の投入等といった商品力の強化や、シーズンMDの変更等といった商品企画・投入時期の見直しを図ることによって定価販売比率の向上を推進してまいります。併せて、商品原材料の調達リスクの分散や代替素材の検証を進めていくことを検討中です。
なお、気候変動を回避することを目的とした脱炭素社会への移行には、炭素税、カーボンプライシング等、温室効果ガス排出を抑制する政策の導入規制や市場等の変化を伴うため、その変化に対応できないというリスクが生じ、相当程度の確度で財務的な影響が発生する可能性があります。また、そのリスクが顕在化した場合、お客様や社会からのレピュテーション(評価・評判)が低下し、引いてはブランド価値の低下を招くおそれがあります。
こうしたリスクへの対応として、当社グループの炭素削減目標を検討するだけでなく、一部の店舗においては既に再生エネルギーの利用を開始しています。今後、脱炭素社会の実現に向けて、さらなる施策を推進してまいります。
③商品の調達に関するリスク
当社グループは、日本国内のみならず、アジアを中心に広く世界各国で生産された商品を仕入れております。各国の政治情勢や景気変動及び急激な為替レートの変動、戦争やテロ、自然災害等が発生した場合には商品調達に支障をきたし、業績に影響を及ぼす可能性があります。目下、大きな円安基調や一部の原材料の高騰に直面しており、その対応として、サプライチェーンの見直しや、RCEP等を利用した調達を推進しております。
また、当社グループにとって、重要かつ特有な影響を及ぼす仕入先や生産委託先が倒産したり、当該取引先の存するエリアが都市封鎖される等の問題が発生した場合には、商品納入の遅延または不能が発生し、状況によっては業績に影響を及ぼす可能性があります。
なお、有事に備え、商品調達に関する緊急時対応マニュアルを策定する等の体制整備も併せて図ってまいります。
④品質に関するリスク
当社グループでは、従業員の品質への意識付けと万全の品質管理体制を敷いておりますが、検品の不備等により、商品に針等危険物が混入しお客様に被害が生じた場合、当社グループへの信頼感が低下し、業績に影響を及ぼす可能性があります。
また、不適切な表示により関係諸法令に抵触した場合、ブランドイメージの低下に繋がる可能性があります。特にECビジネスの拡大に伴い、表示の総量が増加しているため不適切な表示リスクは年々高まっています。
なお、当社は過去に、公正取引委員会及び消費者庁より景品表示法違反として行政処分を受けており、再度同様の行政処分を受けた場合、社会的信用が低下し、相当程度の確度で業績に影響を及ぼす可能性があります。
こうしたリスクへの対応として、継続して社内規程に基づく管理体制の整備・構築と運用の遵守・徹底を図ってまいります。また、品質不良や不適切な表示が発生した場合には、全社の会議体等で事案及び再発防止策の共有等をしています。
⑤情報管理に関するリスク
当社グループでは個人情報を含む多くの機密情報を取扱うため、その取扱いには十分に留意しておりますが、万が一、コンピュータウィルスやサイバーテロ、従業員や委託先の管理ミス等の要因により機密情報の漏洩等が起きた場合には、当社グループのブランドイメージの低下や法的な責任の追及によるコストの発生等、相当程度の確度で業績への影響が発生する可能性があります。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響によるリモートワーク者の増加に伴い、機密情報の漏洩等のリスクは高まりつつあります。
こうしたリスクへの対応として、2021年4月1日付で改定した「情報セキュリティ規程」に則り、セキュリティ専門企業と連携しながら、不正アクセス対策、ウィルス対策、データ保護対策、ユーザー認証等、安全性が高いシステムの構築とリスク管理を実施しています。また、内部からの情報流出等を防止するため、「情報セキュリティポリシー」を定め、適切な情報管理の徹底に努めるとともに、従業員に対して「情報セキュリティ研修」を実施しています。
さらには、今年度より、リスクマネジメント委員会内に「情報セキュリティ部会」を新設し、本リスクに関する経営層を含めた討議を行うことで早期に対策と立案実行を判断し、リスク低減を図ってまいります。
⑥資産価値の評価に関するリスク
当社グループでは、商品の評価についての判断にあたり、原価割れ販売実績率及び在庫消化見込み額を算定しており、当該算定は将来の在庫消化予測等を基礎としているため、経済条件の変動等によって当該予測が実態と異なった場合、翌連結会計年度の連結財務諸表において、商品の簿価の切下額に、相当程度の確度で重要な影響を与える可能性があります。
また、固定資産の減損判定を実施する際の回収可能額は、その使用価値に基づき算定しており、当該算定は将来の業績予測等を基礎としているため、経済条件の変動等によって当該予測が実態と異なった場合、翌連結会計年度の連結財務諸表において、減損損失の金額に、相当程度の確度で重要な影響を与える可能性があります。
こうしたリスクへの対応として、将来の在庫消化予測等に際し、国内外のファッション市場におけるマーケティング調査や、気象予測、あるいは販売動向のモニタリング結果を踏まえたマーチャンダイジングのコントロールを継続して実施しております。
⑦店舗展開に関するリスク
当社グループの展開店舗の多くがショッピングセンター等の商業施設の賃借物件のため、当該商業施設の集客力の変動によっては、入店客数が減り、売上減少など業績に影響を及ぼす可能性があります。なお、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響下において、商業施設によっては集客力が低下しており、本リスクが継続していると考えられます。
また、店舗賃貸人または商業施設の財政状態等によっては、債権の一部および出店に際して差し入れる保証金の回収不能、不動産価格の上昇に伴う賃借料の高騰、あるいは店舗の営業継続が困難となる不測の事態の発生等により、収益性が低下し、かなりの確率で業績に影響を及ぼす可能性があります。
こうしたリスクへの対応として、新規出店の意思決定に際して出店エリアのマーケット状況を重視する他、契約締結前の取引先への信用調査を実施するとともに、出店後も店舗損益を定期的にモニタリングしつつ、計画と実績に乖離が生じた場合には、デベロッパーとも協業し販売促進活動を積極的に行う等のフォローアップを継続して実施しております。なお、投資や撤退に関する社内基準も引き続き運用してまいります。
⑧事業インフラに関するリスク
当社グループの事業活動を支える物流ネットワークや情報システム、またはECサイト運営等において、事業運営の継続が困難となる事象が発生した場合、商品の供給が滞る等、かなりの確度で当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
こうしたリスクへの対応として、情報システムとECサイトをクラウド環境で冗長構成する等BCPの整備や複数拠点への分散を推進するとともに、委託先とは業務オペレーションやコミュニケーションの充実を継続して図ってまいります。
⑨知的財産に関するリスク
当社グループでは、多数の知的財産権を保有しており権利の保全に努めておりますが、第三者による当社グループに関係する権利に対する違法な侵害等によって、当社グループの事業活動が阻害され、かつ、企業およびブランドイメージの低下を招くなど、相当程度の確度で業績に影響を及ぼす可能性があります。
こうしたリスクへの対応として、外部会社を起用した定期的な調査の実施、法律専門家と連携しての知的財産管理部門における侵害者への警告対応等、当社グループの知的財産権の侵害行為への迅速な対応を図ってまいります。
⑩その他のリスク
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、店舗にご来店いただくお客様、当社グループ従業員及びその家族の安全と健康が損なわれるリスクがあります。また、店舗において、感染防止策が徹底できないこと等により、いわゆるクラスターが発生した場合は、店舗の休業を余儀なくされる可能性があるだけでなく、ブランドイメージの低下を招くおそれがあります。
当社グループは、お客様、従業員をはじめとした当社グループを取り巻くステークホルダーの安全と健康を第一に考えており、店舗やオフィス等における必要な感染防止策を実施するとともに、ご来店いただくお客様にも感染防止策へのご協力をお願いしています。
その他、海外事業については、現地における景気変動、政治的・社会的混乱、法規制等の変更、または自然災害や伝染病等によって、相当程度の確率で当社グループの業績に影響を及ぼされる可能性があります。
こうしたリスクへの対応として、海外ビジネスを推進する部門と関係会社を管理する部門とが連携を図ることによって、適切なリスク管理を行う体制を整備しています。
なお、目下、ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻と、それに伴うロシアへの経済制裁等によって、世界的な政情不安が継続していますが、それらによる影響は限定的であると考えております。
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