課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)当社の企業理念・目指す将来像

当社は、証券市場のインフラ機能を担う証券金融会社として求められる公共的役割を強く認識しつつ、高い財務の健全性維持と、上場企業として求められる持続的成長と中長期的な企業価値の向上をともに実現する企業を目指すこととしております。

 

(2)中期的な経営方針

こうした考え方の下で、当社としましては、高度なガバナンス体制を基礎とした持続的成長と中長期的な企業価値向上に向けた一段のコミットメントと透明性の確保が求められるとの認識から、2021年11月に「中期的な経営方針」を策定、公表しました。当社は、この方針のもと、経営目標として、現中期経営計画の期間(2022年度まで)においてROE4%、次期中期経営計画の期間(2023年度~2025年度)においてROE5%の達成を目指しています。

このROE目標の策定にあたっては、当社の株主資本コストについて客観的なデータ・複数の方法により推計を行い、4%台半ばとの認識に至ったことから、これを上回る5%をROE目標として設定したものです。

なお、証券市場のインフラとして、財務の健全性や業務範囲への制約が法令や証券・資金決済システムへの参加基準等により課されている証券金融会社の特性から、事業戦略リスクは低く、また財務および収益の安定性が高いことから、当社の株主資本コストは一般的な水準と比べ、相当程度低いものと考えております。

また、ROE目標を達成する時期としては、こうした証券金融会社の特性を踏まえ、2025年度までに着実に実現していくこととしております。その意味で中期的な経営方針は、現行の第6次中期経営計画を修正するものではなくその加速と強化を図るものです。

<第6次中期経営計画(現行)>

[経営目標]

当社業務の核となる貸借取引業務が市況変動等の影響を大きく受けることを踏まえ、貸借取引の基盤強化のため、貸借銘柄数の着実な増加を図るとともに、証券市場のインフラとしての機能を安定的に果たしていくため、収益源の多様化を推進し、基礎収支額(想定貸借取引収支(過去3年平均値を想定)のもとで試算される基調としての経常利益額)の着実な増加を目指す。

[戦略]

①証券市場のインフラとしての貸借取引業務の強化

株式市場を取り巻く環境変化に適切に対応し貸借取引業務の安定的な運営および利便性向上を図る。また、市場参加者の動向の的確な把握や貸借銘柄数の着実な増加などにより、貸借取引の利用促進を図るとともに、制度信用・貸借取引にかかる情報発信を強化し、投資家のすそ野を拡大する。

②セキュリティ・ファイナンス業務の拡充・強化

当社がこれまで培ってきた資金取引や有価証券取引のノウハウを有効に活用し、内外の金融商品取引業者等との多様な取引に積極的に対応するとともに、取引先や対象有価証券等の拡大により、セキュリティ・ファイナンス業務を強化・拡充し、収益機会の拡大を図る。

③新規業務の開発と具体化

証券金融会社としての業歴を背景とした当社の特長を活かし、内外の関係先やグループ会社との連携の下で、長期的視野に立って新規業務の開発に取組むとともに、具体化を図っていく。

④資金の効率的活用としての有価証券運用の多様化

外部環境の変化に対し、適切なリスクコントロールの下、機動的にポートフォリオの見直しを実施することで、安定した収益を確保する。また、外国国債など外貨建て有価証券による運用拡大や、外貨を利用したビジネス展開をサポートするため、外貨調達手段の拡充を図る。

⑤業務管理体制の強化

当社に求められている社会的要請に積極的に対応し、企業理念を実現していくため、コンプライアンスを経営の前提と位置付けていることをあらためて確認する。

当社に対する揺るぎない社会的信頼を確立するため、内部監査の実効性を確保し、金融業務に付随するリスクの多様化・複雑化に対応してリスク管理の一層の充実を図る。

重大な災害発生時においても証券市場のインフラとしての機能を果たせるよう、業務継続体制の更なる強化を図る。

⑥効率的な業務運営による競争力の基盤強化

取引量の増加や業務の複雑化が進む中、業務プロセスの見直しやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)等のデジタル技術の活用を積極的に推進することにより、効率的な業務運営体制を構築し、競争力の基盤強化を図る。

⑦多様な働き方への対応と企業活力の向上

働き方改革、定年延長など労働の在り方が大きく変化し多様化している中、人事制度の見直し等により、職員が自覚とやりがいを持って働ける職場環境を整備し、職員ひとりひとりの生産性を高め、企業活力を向上させる。

[リスクアペタイト・フレームワークの活用]

上記経営目標・戦略とリスク管理を一体運営していくための枠組みとして、リスクアペタイト・フレームワークを導入する。

(3)これまでの当社の取組実績

現行中期経営計画の下での取組みを積み重ねてきたことにより、当社のROEは近年着実に上昇し、2021年度には3.79%となり、中期的な経営方針における2022年度目標である4%、2025年度目標である5%の達成に向けた足掛かりを築くことができたものと考えております。

また、当社の株主総利回りも、このところTOPIX平均を有意に上回る水準で上昇しております。

※ROEおよび株主総利回りにつきましては、第1企業の概況-1.主要な経営指標等の推移-(1)連結経営指標等に記載の「自己資本利益率」および-(2)提出会社の経営指標等に記載の「株主総利回り」をご参照ください。

 

(4)経営目標実現のための施策と事業ポートフォリオについての考え方

上記(1)、(2)記載の経営目標の実現のため、1)貸借取引を核とするセキュリティファイナンス業務の強化、2)グループ連結経営の強化、3)業務運営の効率化などにより、収益力と資本効率の向上に向けての取組みを加速します。

当社は、証券金融会社の免許を有しておりますが、法令上、証券金融会社については、貸借取引にかかる業務を主要業務とすることが想定されており、貸借取引にかかる業務以外の業務は、貸借取引の運営に支障を及ぼさない範囲でのみ認められる制約が設けられております。そのため、子会社を含む当社グループの事業ポートフォリオは、当社の業務と関連がありその遂行に資すると考えられる比較的狭い範囲に限定されているほか、上記のような法令上の規制があるため、事業ポートフォリオがM&A等により頻繁に変動することもあまり想定されません。

こうした当社グループの業務の基本的な性格と、コーポレートカバナンス・コードの趣旨を踏まえ、当社では取締役会において事業ポートフォリオの基本方針について審議・決定を行い、これを次のとおり公表しております。

・当社グループは、証券市場のインフラとしての公共的役割を強く意識しつつ、免許業務である貸借取引業務を核とするセキュリティファイナンス業務を中心に、証券界・金融界の多様なニーズに積極的に応え、様々な証券・金融関連サービスを提供する。

・また、貸借取引業務が市況変動等の影響を大きく受けることを踏まえ、引続き収益源の多様化に向けて努力し、各事業においてこれまで以上に資本効率の向上を意識しつつ経営目標の達成に取組む。

・このような考え方の下、当社グループは、貸借取引を核とするセキュリティファンナンス業務、有価証券運用業務、信託銀行業務、不動産管理業務からなる事業ポートフォリオにより、当社が目指す将来像の実現を図る。

 

(5)株主還元

株主還元については、さらなる充実を図っていく観点から、2021年度以降2025年度(ROE5%目標達成)までの間、配当および自己株式取得の機動的な実施により累計で総還元性向100%を目指します。なお、配当については、2021年度の1株当たり年間配当金額は30円としたうえで、2022年度以降2025年度(ROE5%目標達成)までの間は、1株当たり年間配当金額が30円を下回らない範囲で積極的な配当を目指します。

この方針の下2022年度の株主還元は、配当予想を年間32円(前期比+2円)とし、あわせて自己株式取得枠を株数上限320万株(発行済み株式総数に対する割合3.5%)、金額上限30億円と設定いたしました。これらをあわせた2022年度の総還元性向は103.4%となります。

 

(6)ESGに関する取組み

持続可能な社会の実現に向けては、社会経済活動の基盤となるインフラの整備も重要であり、SDGs(持続可能な開発目標)の一つにも掲げられております(目標9)。当社グループは、証券市場のインフラとして貸借取引業務をはじめとする様々なサービスを提供し、証券・金融市場の流動性向上と参加者の利便性向上に取り組んでおり、こうした活動を通じて、持続可能な社会の実現に向けて、同様な取り組みを行う市場参加者への支援も含め、その一翼を担うことを目指しております。

当社は、こうした基本方針のもと、環境負荷の低減(E)、金融経済教育活動の推進(S、信用取引に関する各種セミナー等の実施)、学術研究活動の推進(S、東京大学との共同実証研究、信用・貸借データを活用した指数開発における京都大学との連携)、海外の証券・金融市場インフラへの貢献(S、インドネシア証券金融会社への技術協力および出資)、従業員の多様な働き方の実現(S)、コーポレートガバナンスの強化(G、指名委員会等設置会社等)、BCP(G)といった取り組みを行っております。

これらのことについて、2021年12月20日提出のコーポレート・ガバナンスに関する報告書において開示を行いました。

気候変動対応についても経営の重要課題(マテリアリティ)と認識しており、TCFD提言に沿って気候変動に関連する情報を、先般、当社ウェブサイト(https://www.jsf.co.jp/ir/tcfd/)において開示を行いました。

 

(7)コーポレートガバナンス面の取組み

①取締役会の構成等についての考え方

当社は2019年に指名委員会等設置会社に移行し、監督と執行を分離したうえで、社外取締役3名を含む取締役 5名の体制で、取締役会議長および三委員会の委員長をすべて社外取締役としているほか、当社の指名委員会および報酬委員会は独立した社外取締役が過半数を占めております。

この体制のもと、経営方針の策定にあたり様々な角度からの検討と議論を積み重ねております。また、業務執行の適切な監督のため、報告内容の見直しや業務説明会の実施など取締役への情報提供の充実にも努めてきております。こうした取組みについては、取締役会の実効性評価においても適切であるとの評価を受けております。

もっとも、コーポレートガバナンス・コードの改訂や東京証券取引所における新市場区分への移行、国際化・DX化等の一層の進展などの環境変化や、中期的な経営方針の下での次期中期経営計画の策定・実行といった局面を迎え、指名委員会等設置会社の取締役会としての役割をさらに充実させる観点から、当社としては、取締役会の構成等について改めて指名委員会での審議を経て取締役会において検討を行いました。

その結果、環境変化等を踏まえスキルの複層化を図ること、監督と執行の人数面でのバランスや年齢構成・ジェンダーの多様化も重要であること等を踏まえ、取締役会の規模を現在の5名に加え2名程度増員(いずれも社外)することが適当との認識に至りました。また、スピーディな意思決定を可能としつつ当社の規模を勘案し、スキルマトリックスを踏まえて取締役の員数の上限を実人員対比で一定の余裕を持たせつつ見直すことも検討に値するとの結論を得ました。

これを踏まえ、当社としましては、取締役候補者は社外5名、社内2名の合計7名の体制で全体としてのスキルセットのパッケージで臨むこととし、定款上の取締役の員数の上限は、実人員7名に対して1名の余裕を持つ8名といたしました。

 

②「執行役の選任についての考え方」の策定・開示

当社は、取締役会による監督機能発揮の一環として、指名委員会において経営陣の選任に関する方針を審議・決定しております。昨年度、上記の環境変化等を踏まえ、改めて執行役の選任に関する考え方を包括的に検証し、指名委員会において審議を行った結果も踏まえ、執行役に求められる資質については、その選任の目的が中期経営計画の推進のための執行体制の構築にあることを踏まえ、次のとおり整理したうえで具体的な選任を行っております。

・公共的役割を十分認識して業務執行を遂行することができる者

・金融・証券市場全般について広範な知見を有している者

・金融商品取引法をはじめとした各種法令に関して精通している者

・専門性の高い当社の業務に携わり、知識・経験を有している者

・当社業務の推進にあたり必要とされる国際性を有している者

・経営管理やリスク管理に関する高度な知識・経験を有している者

・財務・会計に関する高度な知識・経験を有している者

・当社を取り巻く金融・証券業界のさまざまな環境変化に対し、柔軟に対応できる者

また、具体的な人選にあたっては、内部出身者、公共部門出身者、金融・証券界出身者をロングリストとして整理しております。

③コーポレートガバナンス統括室の設置

当社は、2021年10月、コーポレートガバナンス統括室を設置いたしました。これは、コーポレートガバナンス・コードの改訂や、東京証券取引所における上場企業の新市場区分への対応等、上場企業として求められる高度なガバナンス体制の構築やその機能強化に向けて、当社としてスピード感を持って対応するための事務局としての体制整備を行ったものです。

また、従来、取締役会の事務局機能は経営企画部が担っていました。もっとも、経営企画部は、中期経営計画の立案を代表執行役社長の指揮のもと行う部署であることから、指名委員会等設置会社として監督と執行を分離している当社において、取締役会の事務局は経営企画部とは担当役員も含め別建てとすることが適切との考え方から、コーポレートガバナンス統括室を設置したものです。

 

 

(8)報酬とインセンティブについての考え方

以上の経営方針やガバナンス体制を支える報酬体系については、証券市場のインフラとしての公的役割を強く意識しつつ中長期的な企業価値の向上を図るとの当社の経営方針と整合的なインセンティブが働くよう設計しております。

具体的には、執行役の報酬は、当社の業績および株式価値との連動性を高める観点から、定額の月額報酬(基本報酬)ならびに業績連動の役員賞与および株式報酬とします。定額の月額報酬(基本報酬)は、各執行役の役位に応じて決定します。役員賞与については経営責任を明確にする観点から、事業年度終了後、中期経営計画における経営目標の達成状況および毎期の業績に連動して決定し、決定後3カ月以内に支給します。株式報酬については、株式給付信託の仕組みを用いて、中期的な業績に連動して決定したポイントを付与し、退任時にポイント数に応じた当社株式を交付します。

取締役(執行役を兼務する者を除く。)は、監督機能発揮の観点から、定額の月額報酬(基本報酬)のみとし、業績連動の報酬等は支給しません。個々の取締役の報酬は、常勤・非常勤の別や議長就任など、取締役としての職責に応じて決定します。執行役を兼務する取締役には、取締役としての報酬の支給は行いません。

取締役および執行役の個人別の報酬は、報酬委員会で決定します。また、報酬枠や報酬体系の変更等についても、報酬委員会で決定します。

 

(9)対処すべき課題

当社グループは第6次中期経営計画の下、これまで取組んできた諸施策の成果として、着実に収益基盤の強化が進んでおり、ROEも向上しております。第6次中期経営計画の最終年度を迎える2022年度につきましても、次のような取組みを推進することにより、「中期的な経営方針」で掲げたROE4%達成を目指して参ります。

「貸借取引業務の強化」については、関係機関や取引先との連携および貸借取引情報の提供拡大などによる貸借取引の利便性向上に努めるほか、東証新市場区分の下での選定ルールの見直しなどを通じて貸借銘柄の拡大を図って参ります。「セキュリティファイナンス業務の拡充・強化」については、欧米を中心とした金融政策変更などに伴う取引先ニーズの変化に対して、引き続き柔軟・迅速に対応するとともに、営業活動の強化を通じて取引先の拡充および取引残高拡大を図ります。また、こうした営業活動を後方から支援する体制を強化する観点から、RPAの積極活用やミドルバック事務の見直しなど業務効率化に努めて参ります。

そのほか、研修制度の拡充(人材育成の強化)、積極的な採用活動の展開(ダイバーシティの推進)、サイバーセキュリティや自然災害に対するレジリエンス向上に加え、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を踏まえた情報開示の充実など、サステナビリティ関連諸課題への取組みをグループ一丸となって推進して参ります。

子会社の日証金信託銀行においては、引続き顧客資産保全を目的とした信託サービスの拡充・強化を中心に、日証金グループの信託銀行としての特色を活かした金融・証券関連サービスの拡充に努めます。

子会社の日本ビルディングにおいては、グループ各社に対して良好かつコストの低い執務環境の提供を行い、もって当社グループの使命達成と中長期的な企業価値の向上に貢献する役割を果たして参ります。

当社グループは、以上のような各種取組みを通じて経営基盤の一層の強化と充実した株主還元の実施に努め、株主・投資家をはじめとするステークホルダーからの高い信頼を維持しつつ、今後も証券市場のインフラとしての機能を安定的に果たしていくことにより、持続可能な社会の発展に貢献して参りたいと考えております。

 

 

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