有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社グループの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況(以下「経営成績等」といいます。)に重大な影響を及ぼす可能性があると認識している「主要なリスク」および「当該リスクの管理体制・枠組み」は、以下のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
異常気象による自然災害の頻発化・激甚化、地政学的な緊張の高まりや急激に進行するインフレによる世界経済・金融市場への影響など、事業環境の不確実性が高まる中、リスク管理の役割がますます重要になってきております。当社グループのリスク管理の枠組みである戦略的リスク経営(ERM)は、経営における高性能な『羅針盤』として、次の「3つの機能」を強化・高度化し、損失を未然に回避するだけでなく、新規事業投資などの機会損失を低減させることで、当社グループを最適な方向に導く取組みを実施しております。
戦略的リスク経営(ERM)は、資本・リスク・収益のバランスを取りながら企業価値の向上を図る一連の経営管理プロセスとして「戦略執行に係るリスクテイク」と「経営基盤の安定に資するリスクコントロール」の2つの側面を持っております。リスクテイクの側面では、リスクアペタイトフレームワークを中心に資本・リスク・収益に関する分析を重要な経営判断に活かし(上記ウ)、リスクコントロールの側面では、当社グループを取り巻く多様なリスクを特定、分析、評価する仕組み(リスクコントロールシステム)を活用して(上記ア、イ)、不測の損失の極小化と利益の安定を目指しております。
<SOMPOグループの戦略的リスク経営(ERM)の3つの機能と全体像>
② リスク管理に関するガバナンス体制
当社では、取締役会が制定した「SOMPOグループERM基本方針」に基づき、「戦略的リスク経営(ERM)」の実効性を確保するため、グループ戦略・経営計画と合わせて、リスクテイクの指針としてリスクアペタイト原則、中期リスクテイク戦略およびリスクアペタイト指標からなる「SOMPOグループ リスクアペタイトステートメント」を定めております。
また、グループCEOの諮問機関であるGlobal Executive Committee (以下「Global ExCo」といいます。)の下部組織として、グループCROを委員長とするグループERM委員会を設置し、リスクテイク戦略や資本配賦などグループの戦略的リスク経営に関する重要な事項や当社グループを取り巻く重大リスク等について、グループ横断の経営議論を行っております。
グループCROは、「SOMPOグループERM基本方針」や「中期グループERM推進方針」をグループ会社に周知徹底し、また定期的なモニタリング、各社CROとのディスカッション等を通じ、グループ全体の戦略的リスク経営の実効性の向上を図っております。
<リスク管理に関するガバナンス体制>
③ リスクコントロールシステム、リスクと資本の状況
リスクコントロールシステムにおいては、リスクアセスメントを起点として、「重大リスク管理」の枠組みで当社グループを取り巻く重大リスクを網羅的に特定し、定性的・定量的な評価を行っております。
また、定量化が可能なリスクについては「自己資本管理」「ストレステスト」「リミット管理」「流動性リスク管理」の枠組みで自己資本、流動性などに与える影響を様々な定量指標により分析・評価し、財務健全性およびその向上に必要なリスクコントロールの施策に関する経営論議を行っております。
当社グループは、「事業に重大な影響を及ぼす可能性があるリスク」を「重大リスク」と定義し、事業の抱えるリスクを網羅的に把握・評価しております。重大リスクは、グループCROがリスクアセスメントや専門家等の見解に基づいて網羅的に把握し、リスクが当社グループに及ぼす影響を具体的なシナリオで想定した上で、発生頻度および影響度(経済的損失、業務継続性およびレピュテーション毀損の3項目)でリスクを定性・定量の両面から評価し、管理状況を年2回以上、グループCOOの諮問機関である経営執行協議会(Managerial Administrative Committee)(以下「経営執行協議会(MAC)」といいます。)および取締役会に報告しております。
変化が大きいリスクや対策等に関する議論が必要なリスクについては、Global ExCoまたは経営執行協議会(MAC)において議論を行っております。また、長期の時間軸で当社グループのビジネスモデルへの影響を評価するために、今後10年以上増大トレンドが続くと想定されるリスクの観点を評価軸に加え、リスク対策の妥当性検証などへの活用を行っております。
また、現時点では重大リスクではないものの、環境変化などにより新たに発現または変化し、今後、当社グループに大きな影響を及ぼす可能性のあるリスクを「エマージングリスク」と定め、重大リスクへの変化の予兆を捉えて適切に管理をしております。国内外の専門家の知見も活用して洗い出したエマージングリスク候補をエマージングリスク・レジスターに登録し、そのうち、想定される影響度が一定以上のものをエマージングリスクに選定しております。
現在、「革新的な医療技術」、「生物多様性」など4件のエマージングリスクを選定し、損失軽減の観点だけではなく、新たな保険商品・サービスなどのビジネス機会の観点からモニタリングおよび調査研究を行っております。
<重大リスクおよびエマージングリスクの管理プロセス>
当社グループが保有する各種リスクを統一的な尺度(VaR:Value at Risk)で定量化し、自己資本がリスク量と比べて充分な水準を維持できるよう管理して、必要に応じ対応策を実施する態勢を整備しております。
当社グループの経営に重大な影響を及ぼし得る事象を的確に把握・管理するために、グループベースで「シナリオ・ストレステスト」「リバース・ストレステスト」および「感応度分析」を実施し、資本およびリスクへの影響度を分析して、必要に応じ対応策を実施する態勢を整備しております。また、2022年3月末時点で、当社の想定するストレス下においても十分な資本を有していることを確認しております。
特定事象の発現により多額の損失が生じることを回避するため、与信リスク、出再リスク、海外自然災害リスクの各々に対してグループベースで最大限度額を設定し管理しており、2022年3月末時点で最大与信等限度額に抵触していないことを確認しております。また、各限度額の枠内で予備的にリミット管理を行っております。
日々の資金繰り管理のほか、巨大災害発生時などの最大資金流出額を予想し、それに対応できる流動性資産が十分に確保されるよう管理しており、2022年3月末時点で当社に最大の資金流出をもたらすシナリオに対しても、十分な流動性資産を有していることを確認しております。
経営者が当社グループの経営成績等に重大な影響を及ぼす可能性があると認識している「主要なリスク」は、当社グループが定義する「重大リスク」であります。重大リスクおよびその発生可能性・影響度の評価は、下記のとおりであります。
<重大リスク一覧>
<重大リスクのヒートマップ(発生可能性・影響度)>
当社グループを取り巻く外部環境が変化し、経営戦略の前提条件が現実の事業環境と合わなくなる、またはガバナンス機能や人材ニーズ対応が不十分となったなどの場合に経営戦略に合致するビジネスモデルの構築ができないことにより、当社グループの経営成績等に重大な影響が生じるリスクを「経営戦略リスク」と認識しております。影響が大きいと考える環境変化等は以下のとおりであります。
短期的なリスクとしては、急激なインフレ進行による事業コストや支払保険金の増加を商品・サービス価格に転嫁できないリスクや金融資産の価値減少リスク、気候変動により想定を超える風水災損害が発生するリスク、サステナビリティ関連の取組みが不十分とみられることや、風評がマスコミ報道・インターネット上の記事等に流布された場合にブランド価値が毀損するリスク、デジタル関連等の異業種からの新規参入やデジタル技術進展への対応不十分により競争力・収益基盤が劣化・毀損するリスク、各国間の産業競争の激化などにより事業機会を制約されるリスクなどにより、当社グループの収益力が低下する可能性があります。
長期的なリスクとしては、シェアリング経済の拡大や少子・高齢化等を背景としたマーケット規模の縮小や技術革新に伴う事故の減少による保険ニーズの減少およびパンデミックによる人々の生活や産業活動への制約等が当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。また、脱炭素社会への移行に伴い、温室効果ガス(GHG)の高排出セクターの座礁資産化や信用リスクの悪化が、当社グループの保険事業や資産運用に影響を与える可能性があると認識しております。
当社グループでは、外部環境の変化は脅威とともに機会をもたらすと捉えて、デジタル戦略、M&A等を実行し、「安心・安全・健康のテーマパーク」へのトランスフォーメーションを進めております。例えば、AI・ビッグデータ等の技術を活用した既存事業の生産性向上、デジタル技術を活用した新商品・サービスなどを通じた新たな顧客価値の創造、デジタル分野の専門人材の採用・育成によるデジタルトランスフォーメーション(DX)基盤の構築を進めております。経済環境の悪化については、急激に進行するインフレによる世界経済・金融市場の悪化などの日々の変化を注視したうえで、当社グループへの影響を分析し、対応策を講じております。地政学リスクについては、悪影響を及ぼすシナリオの検討を行い、規制変更リスクについては、関連する国内外法規制等の動向の情報を収集するなどして、経営上の影響を見極められるよう注視しております。
デジタル戦略・M&Aや大規模システム開発等の大規模投資は取締役会等で妥当性を十分議論して実行しておりますが、環境変化や想定を超える困難などのために期待した成果が得られない可能性があるため、実行後も定期的に所定の基準に基づいて妥当性が失われていないことおよび撤退基準に抵触していないことを確認しております。
将来のパンデミックについては、新型コロナウイルス感染症拡大の経験を活かし、大きな変化から来る機会と脅威に柔軟に対応できるよう、環境変化への注視など続けてまいります。
また、気候変動による物理的なリスクについては、自然災害の激甚化などの影響に関して気候シナリオを活用した分析などに取り組んでおります。脱炭素社会への移行に伴うリスクについては、保険引受や資産運用を中心としたグリーントランジションプランを掲げ取組を進めるとともに、グループCSuOを議長、グループ各社の役員をメンバーとする「グループサステナブル経営推進協議会」において、これらの取組みの状況把握、協議を行い、必要に応じてGlobal ExCoや経営執行協議会(MAC)に報告する体制を構築しております。
風評には、当社で定める規程に従い適時適切に対応することで、影響の極小化を図っております。
市場変動や投融資先・保証保険の保証先・再保険の出再先の破綻、大規模災害時の資金繰り悪化等により業績・財政状態が悪化するリスクを「財務・運用リスク」と認識しております。当社グループにおいては特に、国内株式の価格変動や金利変動の影響が大きいと認識しております。
当社グループは、お客さまとの中長期的な関係維持の観点等から、大量の株式を保有しているほか、安定的な資産運用収益を得るため、国内外の有価証券等に幅広く投資しております。株式相場の下落等により、これらの資産の価値が減少した場合には、売却損や評価損の発生、評価差額金の減少等により、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループは予定利率(契約時にお客さまにお約束する運用利回り)を設定した契約期間が長期の保険商品を販売しており、金利低下により、実際の運用利回りが予定利率を下回るリスクがあります。
さらに国内生命保険事業では、保有する有価証券のデュレーションに対して保険負債のデュレーションが長期であることから、金利低下により、経済価値ベースの保険負債の増加額が有価証券等時価の増加額を上回るため、実質自己資本を減少させるリスクがあります。
当社グループは、政策保有株式を継続的に削減することにより、株式相場下落の影響を低減するよう努めております。
また、積立保険の満期返戻金や国内生命保険事業などの保険負債のキャッシュ・フローに見合う長期の投融資を実行することにより、金利変動の影響が小さくなるよう努めるとともに、投融資等に関する集積リスクに対してはリミットを設定して管理しております。
さらに国内生命保険事業では、経済価値ベースの保険負債に対して金利低下の影響を受けにくい保障性商品の保有割合を高めることにも努めております。
資金繰りについては保険子会社ごとに管理しており、巨大災害時の資金ニーズや金利上昇に伴う解約増加等に対応できる流動性資産が十分確保されるようにして管理しております。
各種法規制への違反、外部委託先の管理の失敗、システム障害、サイバーセキュリティ、長時間労働等による労務トラブル、顧客情報の漏えい、不正行為、ミスコンダクトなどが発生するリスクを「オペレーショナルリスク・コンプライアンスリスク」と認識しております。当社グループは、保険業法をはじめとして各種事業に適用される法規制、事業を展開する各国で適用される法規制を遵守して事業を遂行しておりますが、これらの法規制へ違反した場合、金融庁等からの行政処分を受ける可能性があります。
人為的ミスによる情報システムの不備等の内部要因、サイバー攻撃による不正アクセス等の外部要因により、情報システムの停止、誤作動、不正使用等が発生するシステムリスクがあります。
また、当社グループは、多数のお客さまの情報を取り扱っているほか、様々な経営情報等の内部情報を保有しており、これらの情報に関しては、グループ各社において、情報管理態勢を整備し、厳重な管理を行っておりますが、サイバー攻撃による場合を含め、万一重大な情報漏えいが発生した場合には、当社グループの社会的信頼・信用が失墜する、あるいは対応費用の支払いが発生することにより、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
事務ミス、外部委託先管理の失敗、従業員の心身の不調、役職員等による不正行為、外部からの犯罪行為、訴訟に伴う賠償金の支払い等の発現により、直接・間接のコストおよび業務運営の支障発生、金融庁等による行政処分、当社グループの社会的信頼・信用の失墜等の影響を受ける可能性があります。
社会意識やお客さまの嗜好・行動の変化によって当社グループの商品・サービスや業務慣行とステークホルダーの期待との間にギャップが生じて利用者保護などに悪影響を及ぼし、結果としてブランド価値を毀損するコンダクトリスクがあります。
当社グループは、各事業の高い公共的使命および社会的責任を常に認識し、「SOMPOグループ コンプライアンス基本方針」をはじめとする各種方針の下、法令等のルールや社会規範および企業倫理に則った適正な企業活動を行う態勢を整備しております。また、「SOMPOグループ コンプライアンス行動規範」を定めて当社グループ内の役職員に周知徹底し、役職員一人ひとりのコンプライアンス意識を醸成しております。
システム障害のリスクについては、システムリスク管理態勢を整備し、継続的にシステムリスクの低減等を進めております。サイバー攻撃のリスクについては、サイバーセキュリティへの取組みが企業の社会的責任であるとの認識のもと「SOMPOグループ サイバーセキュリティ基本方針」を定め、グループ各社における対応態勢の整備を継続して進めるとともに、当社内に専門組織を設置し、グループ全体での包括的・横断的な対策を通してグループ会社と共にサイバーセキュリティの成熟度の向上を目指しております。
長時間労働等による労務リスクについては、適正な勤怠管理の徹底に加え、リモート環境下でのマネジメントスキルおよびリモートコミュニケーションの向上を図る体制整備を進めております。
コンダクトリスクに関しては、予兆把握・未然防止の取組を実施し、外部委託先管理については、委託開始から委託の解除までプロセスに応じた適切な管理を行うことを定めるなど管理態勢を構築しております。
エ.事業固有リスク(No.23~28)
(保険引受リスク)
国内損害保険事業、海外保険事業および国内生命保険事業において想定外の支払保険金が発生するリスクを「事業固有リスク(保険引受リスク)」と認識しております。当社グループにおいては特に、気候変動に伴う風水災の増加による支払保険金増加の影響が大きいと認識しております。
当社グループは、国内外の地震・風水災・雪害等の自然災害による損害に対して巨額の保険金等を支払うことがあり、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。また、気候変動に伴う風水災の頻発や激甚化によって、支払保険金が増加し、保険引受収支が悪化する等の影響が生じることにより、安定した保険の提供が難しくなる可能性もあります。
また、当社グループでは、サイバーリスクの補償を目的とした専用の保険商品を販売しておりますが、ソフトウェアの脆弱性を狙ったサイバー攻撃が大規模に発生した場合などに、同時多発的にお客さまのデータの破壊・窃取、事業中断等に関する保険金等を支払うことにより、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、国内の自然災害リスクに備えて、再保険の活用や異常危険準備金等の積み立てを行い、事業の安定化を図るとともに、自然災害による保険金支払いのリスクについて気候変動を踏まえて定量的に評価することで、適切な料率設定・商品設計を目指しております。
なお、海外保険事業では、自然災害リスクの集積が過大とならないよう、グループの資本や利益水準を踏まえたリミット金額を地域別・自然災害種類別に設定し、当該リミットを超えることがないように定期的にモニタリングを実施して適切に管理しております。
また、サイバー攻撃により想定される事故事例を洗い出し、そのうち重要と考えられるものにつき予想最大損害額の算出を行い、リスクの把握および低減に努めております。
介護事業戦略の遂行において介護事業環境を見誤ることや、重大不祥事が発生してブランド価値を毀損するリスクを「事業固有のリスク(介護事業リスク)」と認識しております。当社グループは、多くの高齢者やそのご家族の多様なニーズにお応えするため、SOMPOケア株式会社が在宅介護から施設介護までフルラインナップの介護サービスを提供しております。
介護事業においては、介護保険法の改正ならびに介護報酬の改定、介護市場における競争激化、従業員確保の困難、食中毒、集団感染症の発生、高齢者事業特有の事故等の発生およびそれらによる社会的信頼・信用の毀損、風評リスクの発生等により、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループの介護事業を担うSOMPOケア株式会社では、ご利用者さまとの信頼を築くため、コーポレート・ガバナンス体制、事業所管理体制の構築に取り組んでおります。ガバナンス・リスク・コンプライアンス委員会を経営会議の諮問機関として設置し、リスク管理にかかわる重大事象への対応や、内部監査結果などの内部統制に関する事項の審議を実施するとともに、本社リスク管理部門では事故情報を集約し、再発防止策の周知・徹底を図っております。また、ICT・最先端テクノロジーの介護現場での有効活用を推進し、生産性向上および処遇改善を通じた介護人材の需給ギャップの解消を目指しております。さらに、生産性、品質の高い介護サービスのノウハウを活かした介護事業者へソリューションを提供するビジネスプロセスサポートの展開、認知機能低下予防サービスの推進を通じ、超高齢社会の日本が抱える社会的課題の解決を目指してまいります。
大規模地震等の自然災害、大規模テロ攻撃、新型インフルエンザ等のパンデミック(世界的な大流行)、サイバー攻撃等による大規模システム障害等が発生し、本社機能、保険金支払い、介護サービスの提供などにおける円滑な業務運営が阻害されるリスクを「その他リスク(事業中断リスク)」と認識しており、当該リスクは当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、従来から大規模な地震などの自然災害、新型インフルエンザ等のパンデミックの発生、サイバー攻撃等による大規模システム障害発生の有事に備えた業務継続計画を策定し、定期的に訓練を実施するとともに、業務継続計画の有効性の検証・改善等に努めてまいりました。
昨年度は、新型コロナウイルスのグローバルな感染拡大を契機として想定する事象を追加し、事象ごとに「行動計画」を定めて危機対応力を引き上げましたが、今年度は大規模システム障害に関する対応方針の明確化等、更なる危機対応力向上へ向け、グループ各社の重要業務の継続のための対策に努めております。
当社グループは「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」に賛同し、気候変動に対する様々な取組みと透明性の高い情報開示に努めております。
当社グループは、「“安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」というSOMPOのパーパスに基づき、その実現に向けた重点課題であるマテリアリティの一つとして「経済・社会・環境が調和したグリーンな社会づくりへの貢献」を定めております。SOMPOのパーパス実現に向けたグループ全体の戦略や方針に基づき、執行役および執行役員が対策を実行し、その遂行状況を取締役会が監督する体制を構築しております。
グループCSuO(Chief Sustainability Officer)は、サステナビリティ領域の最高責任者として、気候変動をはじめとするグループのサステナブル経営に関する戦略を策定・実行し、グループ全体のサステナビリティ機能を統括する役割を担っております。サステナビリティ推進の専任部署としてサステナブル経営推進部を設置し、気候変動をはじめとするグループ全体のサステナビリティ推進を実践する体制を構築しております。
グループ各社の役員で構成する「グループサステナブル経営推進協議会」では、気候関連を含むサステナビリティ戦略・取組方針の周知や、主にビジネス機会の側面での各社の取組状況を確認・協議しております。
気候変動戦略やその遂行状況については、Global ExCo、経営執行協議会(MAC)において経営議論が行われ、その議論の状況は取締役会に報告されております。
また、リスク管理に関しては、取締役会が定める「SOMPOグループERM基本方針」に基づいてリスクコントロールシステムを構築しており、Global ExCoの下部組織であるグループERM委員会などを通じて、グループCRO(Chief Risk Officer)が各事業の抱えるリスクを網羅的に把握・評価し、当社グループに重大な影響を及ぼす可能性があるリスクを「重大リスク」と定め、その管理状況を定期的に経営執行協議会(MAC)および取締役会などに報告し、対策の有効性などを検証しております。気候変動に起因する自然災害の激甚化、脱炭素社会への移行に伴う資産価格への影響、市場選好の変化などのリスクは重大リスクとして、グループCSuOおよびグループCROが責任者となって対策を実施しております。
(注)2021年度の開催状況(カッコ内は気候変動関連の議題を扱った回数)
Global ExCo(2)、経営執行協議会(MAC)(5)、
グループサステナブル経営推進協議会(3)、グループERM委員会(2)
当社グループは、パーパス実現に向けて優先的に取り組むべき社会課題(マテリアリティ)として、「経済・社会・環境が調和したグリーンな社会づくりへの貢献」を掲げ、その実現に向け、2021年度からの中期経営計画で、気候変動リスク・機会に対する複合的なアプローチを実践する「SOMPO気候アクション」により気候変動への「適応」、「緩和」、「社会のトランスフォーメーションへの貢献」の3つのアクションを掲げ、様々な取組みを行っております。
気候変動の進展による自然災害の激甚化や発生頻度の上昇、干ばつや慢性的な海面水位の上昇などの「物理的リスク」のみならず、脱炭素社会への転換に向けた法規制の強化や新技術の進展が産業構造や市場の変化をもたらし、企業の財務やレピュテーションに様々な影響を与える「移行リスク」が顕在化する可能性があります。また、これらのリスクに付随して、企業の事業活動に起因する気候変動影響や炭素集約度の高い事業への投資、不適切な開示などによる法的責任を追及する気候変動訴訟が米国中心にグローバルに増加しており、当社の損害保険事業における賠償責任保険の支払保険金を増大させる可能性があります(「賠償責任リスク」)。一方で、自然災害リスクの認識の強まりや社会構造の変革は、新たなサービス需要の創出や技術革新などのビジネス機会をもたらします。
当社は、IPCC、世界経済フォーラムなど外部機関の研究成果を踏まえて、気候変動が事業に与えるリスクと機会を整理し、短期、中期(5~10年後:2030年頃)および長期(10~30年後:2050年頃)の時間軸で評価・分析・対応を進めております。気候変動による物理的リスク、移行リスクに伴う主な変化と、当社にとって重大な影響を及ぼすと想定されるリスクと機会は下表のとおりです。
イ.シナリオ分析
a.物理的リスク
当社グループの損害保険事業は、台風や洪水、高潮などを含む自然災害の激甚化や発生頻度の上昇に伴う想定以上の保険金の支払いによる財務的影響を受ける可能性があります。リスクの定量的な把握に向けては、2018年以降、大学等の研究機関と連携することで科学的知見を踏まえた取組みを進めており、「アンサンブル気候予測データベース:d4PDF※1(database for Policy Decision making for Future climate change)」などの気象・気候ビッグデータを用いた大規模分析によって、台風や洪水、海面水位の変化の影響を受ける高潮の平均的な傾向変化や極端災害の発生傾向について、平均気温が2℃または4℃上昇した気候下での長期的な影響や、事業戦略に活用する観点から5~10年後の中期的な影響を把握するための取組みを進めております。
また、当社グループは、UNEP FI(国連環境計画・金融イニシアティブ)のTCFD保険ワーキンググループに参画し、同ワーキンググループが2021年1月に公表したガイダンスに基づく簡易な定量分析ツール※2を用いた台風に関する影響度の試算を行っております。気候変動リスクへの金融監督上の対応を検討するNGFS(気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク)が検討を行っているシナリオ分析の枠組みも活用して、引き続き分析を進めてまいります。
また、米国ハリケーンや洪水など含む海外の自然災害に関しては、外部のリスクモデル会社や研究機関との提携を通じて気候変動による影響分析を進めており、自社独自のシナリオを構築し、海外自然災害リスクモデルへ適用する取組みを進めております。
※1 文部科学省の気候変動リスク情報創生プログラムにて開発されたアンサンブル気候予測データベースです。多数の実験例(アンサンブル)を活用することで、台風や集中豪雨などの極端現象の将来変化を確率的にかつ高精度に評価し、気候変化による自然災害がもたらす未来社会への影響についても確度の高い結論を導くことができます。
※2 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書のRCP8.5シナリオに基づき、2050年と現在との間の台風の発生頻度や風速の変化を捉え、頻度や損害額の変化を算出するモデル。
なお、損害保険契約や再保険契約は短期契約が中心であり、激甚な気象災害の発生傾向を踏まえた保険引受条件や再保険方針の見直しによって、保険金支払いが想定以上となるリスクの抑制が可能です。また、グローバルな地理的分散や短期・中期の気候予測に基づく定量化、長期的なシナリオ分析による重大リスクの特定・評価などの多角的なアプローチにより、物理的リスクに対するレジリエンスの確保を図っております。
b.移行リスク
移行リスクによる当社グループの保有資産(国内株式、国内社債、外国株式、外国社債)への影響については、今世紀末までの気温上昇を産業革命前から1.5度、2度、3度未満に抑えるシナリオを前提に、MSCI社が提供する気候バリューアットリスク(CVaR:Climate Value-at-Risk) ※3 を用いて、低炭素な世界経済への移行が企業に及ぼす「政策リスク」と気候変動の緩和や適応に向けた取組みによる「技術機会」が及ぼす影響を分析しました。
※3 MSCI Climate Value-at-Risk
・気候変動に伴う政策の変化や災害による企業価値への影響を測定する手法の一つ。
・気候関連のリスクと機会から生じるコストと利益の将来価値を現在価値に割り引いたものであり、当社資産運用ポートフォリオにおける各銘柄の保有時価ウェイトを考慮し、2021年3月末時点における影響度を算出。
<SOMPOホールディングス 気温上昇シナリオ別 移行リスクと機会のCVaR分析結果>
以上のとおり、政策リスクの影響は技術機会によって相殺されるため全体的な影響は限定的ですが、シナリオ別では、1.5度シナリオ下での政策リスクと技術機会の影響が最も大きく、また、保有資産別では、国内株式への影響が最も大きくなっております。
a.リスクへの対応
当社グループでは、保険引受先や投融資先の企業に対するグリーン移行支援を通じて社会の変化に対する企業のレジリエンスを高めると同時に、資産運用ポートフォリオの管理等により、移行リスク軽減に取り組んでおります。
投資先については、株式保有先のうち温室効果ガス(GHG)高排出の上位20社を中心とするエンゲージメントの強化により、グリーン移行を促進しております。公社債については満期償還時にGHG高排出セクターから低排出セクターへの入れ替えの促進等を通じて、資産運用ポートフォリオにおけるGHG排出量を2025年までに25%削減(2019年度比、株式・社債のGHG総排出量ベース)する目標を掲げ、移行リスクの削減と機会の捕捉を行ってまいります。また、保険引受については、新設・既設の石炭火力発電や炭鉱開発(一般炭)への新規の保険引受停止や、オイルサンドおよび北極野生生物保護区(Arctic National Wildlife Refuge)でのエネルギー採掘プロジェクトへの新規保険契約を停止する方針を掲げ、ネットゼロ社会への移行を後押ししてまいります。ただし、二酸化炭素回収・利用・貯留技術(CCS、CCUS)やアンモニア混焼等の革新的な技術を有するなど、パリ協定の実現に資する削減効果が認められる場合には慎重に検討し対応する場合があります。
自社のGHG削減については、2030年までに2017年度比で60%削減する目標を掲げております。2021年度は、損害保険ジャパン株式会社の本社ビルの電力を再生可能エネルギー由来に切り替えるなど、目標達成に向けたロードマップに沿って着実に取組みを進めております。
b.機会への対応
当社グループでは、「AgriSompo」による農業保険のグローバル展開を通じた食料安定供給への貢献や、気候リスクコンサルティングサービスの開発・提供、AIを活用した防災・減災システムの開発等、製品・サービスを通じた自然災害レジリエンスの向上に取り組んでおります。
エネルギー源については、「ONE SOMPO WINDサービス」(洋上風力発電事業者向け保険・リスクマネジメントサービス)をはじめとする再生可能エネルギーの普及に貢献する商品・サービスを展開するとともに、取引先との協業等によるカーボンニュートラルに貢献する新たな商品・サービスの開発にも取り組んでまいります。
また、ネットゼロ社会の実現に向けて、世界の様々な組織や団体等において、規制やガイダンス策定等の議論が活発に行われております。当社グループでは、これらのルールメイキングに対して積極的に関与しリードすることにより、社会のトランスフォーメーションに貢献するとともに、これらの取組みを通じた知見の蓄積やレピュテーションの向上によってパートナーを呼び込むなどグループのビジネス機会の創出・拡大を図ってまいります。
[当社グループが参画するイニシアティブ(ネットゼロ関連)]
・PCAF Insured-Associated Emissions Working Group(保険の引受を通じたGHG排出量の測定・開示のための国際基準を策定するワーキンググループ)
・ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス(NZAOA)
・ネットゼロ・アセットマネージャーズ・イニシアティブ(NZAM)
当社は、グループの経営理念・パーパスおよび経営計画における目指す姿の実現に向けて、その達成確度を高めるためにリスクアペタイトフレームワークを構築し、「取るリスク」、「回避するリスク」を明確にしております。自然災害リスクについても、リスクアペタイトを明確化するとともに、自然災害が発生した場合に想定される保険金支払を気象学等の科学的知見や当社商品特性を踏まえて定量的に把握したうえで、財務健全性や収益性、利益安定性への影響、再保険マーケットの動向等をふまえて、再保険方針およびグループ全体のリスク保有戦略を策定し、管理しております。
気候変動リスクは、戦略的リスク経営(ERM)のリスクコントロールシステムの重大リスク管理、自己資本管理、ストレステスト、リミット管理、流動性リスク管理の枠組みにおいて、多角的なアプローチでコントロールしております。詳細は、「(1) 主要なリスクの管理体制・枠組み」をご参照ください。
自然災害リスクを含む気候変動リスクに関しては、気候変動が保険事業以外を含めた当社グループの事業の様々な面に影響を及ぼすこと、その影響が長期にわたり、不確実性が高いことを踏まえて、既存のリスクコントロールシステムを補完し、長期的な気候変動が様々な波及経路を通じて当社グループに影響を及ぼすシナリオを深く考察してリスクを特定・評価および管理するための気候変動リスクフレームワークを構築しております。
気候変動リスクフレームワークでは、気候変動の複雑な影響を捕捉するために、以下の3ステップで評価を行い、「② 気候関連のリスクと機会への対応(戦略)」で述べたリスクと機会を整理しております。
2022年は、探索的評価と位置づけて、IPCC、世界経済フォーラムなど外部機関の研究成果を踏まえて、起こり得る政策的移行パターン(下表)を想定したリスク評価を行い、気候変動リスクマップとして可視化しました。
気候変動リスクマップは、継続的なモニタリングが必要なリスクを可視化したもので、主に保険引受および資産運用に影響を与えるリスクの影響度、可能性、発現時期、傾向などを俯瞰することで、取締役会および執行の諸機関における気候変動に関する議論の活発化を図ってまいります。
気候変動リスクフレームワークで捉えたリスクの認識は、重大リスクの「主な想定シナリオ」に反映して管理を行い、また、気候変動との間で相互に影響を与える事象である「生物多様性の喪失」はエマージングリスクとして調査研究を行っております。(下表)
気候変動に関連する重大リスク等と主な想定シナリオ
また、気候変動リスクフレームワークを通じて得られた知見を、既存のリスクコントロールシステムの枠組みである自己資本管理、ストレステスト、リミット管理、流動性リスク管理に反映させていく事で、リスク管理全体の高度化を図ってまいります。
※ MSCI ESG Research社が提供するデータを使用し、国内外の上場株式と社債の投資先におけるスコープ1およびスコープ2を対象に算出(上場株式のカバー率は93%、社債のカバー率は84%、いずれも時価ベース)。GHG排出量は投資先のEVIC(Enterprise Value Including Cash:現金を含む企業価値)ベースに対する当社持分であり、WACIは、各投資先企業の売上高あたりのGHG排出量をポートフォリオの保有割合に応じて加重平均した値。
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