文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社は、経営理念として掲げている「金融サービスを通じて、社会・経済の発展に貢献する」、「金融サービスにおける革新者を目指す」、「健全な事業活動を通じて、関わる全ての人を大切にする」の三つの基本理念を踏まえ、各事業の企業価値を向上させ、株主利益を最大化させていくことを会社経営の基本的な方針としております。
(2)経営戦略等
当社グループは、1999年の創業以来、個人投資家向けに最先端の金融デリバティブ取引サービスを提供するリーディング・カンパニーとなることを目指して成長を遂げてきた実績と、高いノウハウによる安定性と豊富な実績を誇るシステム開発能力で、多くの方にご支持いただけるサービスを構築してまいりました。スピード感あるサービス提供及びシステムの開発体制を原動力とし、新たな金融サービスの創出、協業先との連携をさらに強固に推し進め、更なる価値を創造してまいります。
金融商品取引事業においては、高金利通貨にフォーカスした競争戦略を起点として、顧客に訴求できる特徴を打ち出したサービスの強化及び顧客データを徹底的に分析し費用対効果の追求とターゲット層を明確にしたマーケティングが奏功しました。また、金融商品取引事業の収益性を左右するカバーディーリング手法の精度向上にも注力し、効率的かつ収益性を高める手法の研究を重ね、着実に実績が実りました。さらに、『みんなのFX』と商品趣向を変えた『Light FX』の立ち上げにも成功し、更なる収益力の強化を図ることにも成功しました。2022年1月には、『みんなのコイン』・『Light FX コイン』を立ち上げ暗号資産証拠金取引のサービスを開始し、更なる収益力の強化を図ってまいります。
グループ体制としては、2015年12月に実施した株式交換により完全子会社となったシステム事業会社がシステム開発の中核となり、自社システムを稼働させ、高い安定性と企画開発スピードの早期化、システム関連の低コスト化を実現したことで競争力が高まりました。
グループの中核事業である金融商品取引事業とシステム開発・システムコンサルティング事業が連携し、早期に問題抽出・分析・改善が行える体制を構築することにより、事業シナジーを生み出しています。
以上のような取組みによる成果が結実したことにより、金融商品取引事業の顧客預り資産は過去4か年でFX業界の中でも著しい増加を達成し、連結業績の飛躍的な改善によってFX事業の根幹となる自己資本の充実と資金確保を継続的に図ることができました。
2022年4月には、業績不振が続いていたインドネシアにおける子会社の清算を完了したことにより、当社グループで不採算事業となっていたすべての事業整理を終えました。
今後当社グループが経営の健全性を保ちつつ成長を加速させるための経営戦略としては、これまで獲得した強みを武器に、さらに業界2位グループへ追いつくための各分野の戦略を遂行しつつ、事業リスクを過小評価せず、慎重な経営判断を行うことをベースに、強い経営体質の確立を目標としてまいります。
具体的には、限られた経営資源を金融デリバティブの事業とシステム事業の拡大に集中し、本業の収益強化を目指します。スピード感をもって提供する商品の多様化を図り収益力を強化すること、システム事業会社が高付加価値と競争力あるシステムを開発し続けるための開発体制を拡充することに重点的に取り組むとともに、体制面では経営監視が適切に機能するガバナンスの強化にも力を入れてまいります。
なお、各分野における具体的な取組みについては、「(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」に記載しております。
(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
2024年3月期末までに顧客預り資産を約1,200億円まで積み上げ、業界ポジションにおいて2位グループに位置付けることを中期的目標としております。
(4)経営環境
コロナ禍で世界的に膨らんだ各国の金融緩和政策は、急激に進んだインフレを抑制するため、2022年に入り大幅な金利引き上げや量的引き締め等の金融引き締め政策に一転し、世界の金融市場では株式及び暗号資産等のリスク資産の保有を回避する動きが急速に顕在化しており厳しい投資環境となっています。
一方、為替市場においては、日本と各国の金利差が急速に拡大したことから急速な円安が進み、原料の輸入依存度の高いエネルギー・食料品等の生活必需品の値上げラッシュが相次いだことで、円安の影響などの今後の為替相場の動向や外貨建資産の必要性に世間の関心が高まっています。
そうした中、FX業界においては、個人投資家を中心に資金の流入は継続し取引量も拡大していますが、競合他社とのスプレッド競争及びスワップポイント競争の激化により収益は圧迫され、顧客獲得のための広告宣伝費等の支出増加が避けられない厳しい状況が続いています。また、相場変動でFX取引高が膨らんでも、上位数社に取引シェアが集中する傾向が顕著となっており、すべての店頭FX業者に対して決済リスクの管理強化のため、事業遂行上の財務の健全性を継続的に向上させることを求める規則(ストレステスト)を遵守していくには、中位・下位に位置する店頭FX業者にとって、とりわけ厳しい経営環境が続いており、FX業界での生き残りを図るため競合他社同士の合併・業務提携が行われる等、競争は一段と激化しています。
このような経営環境において、業界中位に位置するトレイダーズ証券は、近年、顧客預り資産の増加額及び増加率において順調な伸びを記録しており、安定した利益を確保できるようになってきました。今後は、自社グループ内にシステム事業会社を有する強みを活かし、早期に業界2位グループへ追いつけるよう、より一層の努力を重ねてまいります。
当社グループにおいては、「(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」への取り組みを着実に推進し、今後、外部環境に大きな変化があった場合にも対応できる経営体制を整備し、持続的成長と企業価値の向上を図ってまいります。
なお、現時点における新型コロナウイルス感染症拡大による当社の業績への影響は軽微と考えております。今後、さらに感染力が強く重症化リスクの高い変異ウイルスの流行によって、当社グループの役職員への感染が生じ、業務の停滞又は業務の停止といった影響を被り、当社の業績に影響を与える可能性もあると考えております。リスクの詳細及び当社グループの対応に関しましては、「第2 事業の状況 2 事業等のリスク 1顕在化する可能性を高く想定しているリスク (1)外部環境によるリスク ⑤ 新型コロナウイルス感染症によるリスク」に記載のとおりです。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループは、下記の課題について重点的に取り組み、収益力の強化並びに経営体質の強化に努めるとともに、法令を遵守する内部管理体制を強化し、企業体質の健全性をより一層高めてまいります。
① 店頭デリバティブ領域の商品の多様化
今後当社グループが力強く成長して行くためには、現在の主力であるFXからさらに領域を広げ、株価指数、コモディティ、暗号資産などオルタナティブ投資に属する他の商品への多様化を急ぐ必要があると考えております。
当社グループが得意とするのは店頭デリバティブの領域であり、現物に比べて収益性が高くインフラコストが低いことから事業効率が高められるため、この領域を戦略軸とし、CFD(差金決済取引)及びオプション取引により、これらのマーケットに対する投資ニーズに対応してまいります。
中長期的に主要なマーケットすべての商品を提供することで、一部の市場の動向だけに左右されない収益の安定性と持続的な収益の成長性を追求してまいります。
② システム開発力の強化
金融事業においてシステムは事業基盤の中枢であり、システム開発力は金融商品の画一的な商品性の中で唯一顧客に対する競争力の差が出る部分であり、さらに、システムのリリースの早さそのものが新商品のその後の市場シェアの獲得の優劣を決める重要な要素にもなります。
そして、当社グループは、金融・証券業界の中でも数少ない自社グループ内ですべてのシステム開発を行うことができる体制を有しており、技術力の高さと現場の緊密さがリリースの早さと付加価値の差を生み出し、これらが成長戦略を追求する上で重要な優位性につながるものと自負しております。
このようなシステム開発を担う事業会社が新商品のシステム開発を計画どおりに行いクオリティーが高いシステムを提供するためには、今後も国内・海外の開発拠点において優秀なエンジニアの確保が益々重要になってまいります。
当社グループは、システム事業会社がさらに競争力の高いシステムの開発を加速するため、経営計画においてシステム開発の人員の拡充及び国内拠点の育成を中期的な重要テーマと位置づけ、これに積極的な投資を行ってまいります。
③ 地政学的リスクへの対応
当社グループでは、子会社であるトレイダーズ証券等で利用する金融商品取引システムの開発、運用保守を、主に、中国(大連市)及びベトナム(ハノイ市)に所在する海外子会社2社において行っており、金融商品取引システム開発のコア領域や高度な運用保守業務を担う重要なオフショア開発拠点に成長しております。
一方で、米中関係の動向や北朝鮮・ウクライナの情勢をはじめ、国際関係の緊張化や各国での保護主義的な経済・通商政策への転換、情報・通信に関する法規制・監視の強化や政治情勢の急変等、また、新型コロナウイルス対策下のロックダウン(都市封鎖)実施による経済活動の停滞や従業員の移動制約など、当社グループが事業や投資(出資)を行う国・地域で地政学的リスクが顕在化した場合、事業活動にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、こうした地政学的リスクへの対応として、事業継続計画の見直しを行うとともに、一定規模の人材投資を行い、高度な技術者集団を確保し、国内におけるシステム開発体制の強化・拡充を図るとともにシステム品質の向上に継続的に取り組むことで、中国・ベトナム・日本の3拠点において特定拠点に依存することのないバランスの取れたシステム開発・運用監視体制の構築を推進してまいります。
④ 自己資本の充実と借入金の活用
金融事業は自己資本に関する各種の規制に服しているため、自己資本の充実度合いがリスク許容度の差となり、店頭デリバティブにおけるカバーディーリング等に影響を与え、収益力にも影響してまいります。
また、事業規模が大きくなるに従い必要となる自己資本も益々大きくなりますが、当社グループは過去の脆弱な財務状況からは脱却したものの、いまだ回復途上の状況であり、今後も自己資本の充実は重要な経営課題となります。
自己資本の充実における基本路線は継続的な利益計上による内部留保になりますが、今後も金融事業に経営資源を集中し着実に利益を積み増しながら体力の増強を図ってまいります。
一方で、日々のカバー先金融機関との決済及び顧客分別金との受払い、並びにカバー先金融機関への担保証拠金に必要なる十分な資金の確保も重要であり、今後も信用力を強化し金融機関と協議しながら借入金枠の拡大にも努めてまいります。
⑤ コーポレート・ガバナンスの充実
当社の持続的な成長及び中長期的な企業価値の向上には、実効性あるコーポレート・ガバナンスのあり方を不断に追求しながら確立・強化していくことが不可欠であり、当社グループに対する経営の健全性、信頼性を向上させる観点から、内部管理体制の強化を図り、特に、東京証券取引所が定めるコーポレートガバナンス・コードの趣旨・精神を尊重して、コーポレート・ガバナンスの充実に向けて、特に以下の課題に重点的に取り組んでまいります。
取締役会等の責務・役割については、多角的な意見を反映した公正性の高い経営の意思決定の実現のため、取締役会等の実効性を高める制度・仕組みの検討・整備や独立社外役員の機能強化を図ること等により、株主に対する受託者責任を全うしうる取り組みを実践してまいります。
株主との対話については、当社の持続的な成長に対する支援と評価を得ていくために不可欠であると認識し、今後は経営陣幹部と機関投資家等との建設的な対話をより積極的に推進してまいります。適切な情報開示と透明性の確保については、適時開示情報のみならず、当社の中長期的に目指す理念や方針をはじめ、投資家にとって有用な非財務情報等をわかりやすく記載し、幅広く提供してまいります。
また、すべてのステークホルダーとの適切な協働を図ることは、当社の持続的な成長に不可欠であり、当社経営理念にも掲げる重要なテーマと認識しております。今後は、社会問題や環境問題等のサステナビリティを巡る諸課題の対応に向けて、当社グループの事業内容や特性を活かし、課題の解決に貢献し得る活動内容を具体化し、積極的に取り組んでまいります。
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