課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) 会社の経営の基本方針

 当社は、「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」という経営理念の下、鉄道事業において、安全・安定輸送の確保を最優先に、お客様に選択されるサービスの提供、業務効率化等について不断の取組みを行うことにより、日本の大動脈輸送を担う東海道新幹線と東海地域の在来線網を一体的に維持・発展させることに加え、大動脈輸送を二重系化する中央新幹線の建設により、「三世代の鉄道」を運営するということを使命としており、これを長期にわたり安定的に果たし続けていくことを基本方針としています。

 当社グループとしても、名古屋駅におけるJRセントラルタワーズ・JRゲートタワーの各事業展開に代表されるように、鉄道事業と相乗効果を期待できる事業分野を中心に事業の拡大を推進し、グループ全体の収益力強化を図ります。

 

(2) 中長期的な会社の経営戦略

 当社グループの中核をなす鉄道事業においては、長期的展望を持って事業運営を行うことが極めて重要であり、経営基盤の強化を図りながら、主要プロジェクトを計画的に推進しています。

 東海道新幹線については、これまで安全で正確な輸送を提供するとともに、不断に輸送サービスの充実に向けた取組みを進めてきました。今後についても、安全・安定輸送の確保を最優先に、引き続き東海道新幹線全線を対象とした脱線・逸脱防止対策をはじめとする地震対策を推進するとともに、土木構造物の健全性の維持・向上を図るため、大規模改修工事を着実に推進します。また、「のぞみ12本ダイヤ」の活用に取り組むとともに、N700Sの追加投入やN700Aタイプに対しN700Sの一部機能を追加する改造工事を進めるなど、東海道新幹線のさらなる輸送サービスの充実に向けて取り組みます。

 さらに、新型コロナウイルス感染症の影響による厳しい経営状況から脱却すべく、種々の取組みにより収益の拡大に取り組むほか、「業務改革」を強力に推進し、経営体力の再強化を図ります。

 超電導磁気浮上式鉄道(以下「超電導リニア」という。)による中央新幹線については、当社の使命であり経営の生命線である首都圏~中京圏~近畿圏を結ぶ高速鉄道の運営を持続するとともに、企業としての存立基盤を将来にわたり確保していくため計画しているものです。現在この役割を担う東海道新幹線は開業から半世紀以上が経過しており、鉄道路線の建設・実現に長い期間を要することを踏まえれば、早期に大動脈輸送を二重系化し、将来の経年劣化や大規模災害に対して抜本的に備える必要があります。このため、その役割を代替する中央新幹線について、自己負担を前提として、当社が開発してきた超電導リニアにより可及的速やかに実現し、東海道新幹線と一元的に経営していくこととしています。このプロジェクトの完遂に向けて、鉄道事業における安全・安定輸送の確保と競争力強化に必要な投資を行うとともに、健全経営と安定配当を堅持し、コストを十分に精査しつつ、柔軟性を発揮しながら着実に取り組みます。その上で、中央新幹線の建設の推進を図るため、財政投融資を活用した長期借入を行ったことを踏まえ、まずは品川・名古屋間の工事を進め、開業後連続して、名古屋・大阪間の工事に着手し、早期の全線開業を目指して、取組みを進めます。

 また、このプロジェクトは自己負担により進めるものであり、建設・運営・保守など全ての場面におけるコストについて、社内に設置した「中央新幹線工事費削減委員会」で検証し、安全を確保した上で徹底的に圧縮して進めるとともに、経営状況に応じた資源配分の最適化を図るなど柔軟に対応していく考えです。

 鉄道以外の事業においても、「会社の経営の基本方針」に則り、諸施策を着実に推進することにより、グループ全体の収益力の強化に取り組みます。

 

(3) 会社の対処すべき課題

 日本経済の先行きは、新型コロナウイルス感染症の影響による厳しい状況から持ち直していくことが見込まれています。こうした状況の下、当社グループは、「会社の経営の基本方針」に基づき諸施策を推進します。重点的に取り組む施策は、以下のとおりです。

 鉄道事業においては、東海道新幹線の脱線・逸脱防止対策について、脱線防止ガードの全線への敷設を進めるとともに、プラットホーム上家の耐震補強、駅の吊り天井の脱落防止対策、名古屋車両区検修庫の建替、在来線の高架橋柱の耐震化等を進めるほか、東海道新幹線の大規模改修工事について、技術開発成果を導入し、施工方法を改善するなどコストダウンを重ねながら着実に進めます。また、ハザードマップ等を踏まえ、鉄道設備の浸水対策を進めるほか、台風や豪雨等により列車運行に大きな影響が予想される場合には、安全を最優先に適切な運行計画を決定し、適時かつ的確な案内情報の提供に取り組みます。さらに、自然災害や不測の事態等の異常時に想定される様々な状況に適切に対応するため、実践的な訓練を繰り返し実施するとともに、ハード・ソフトの両面から車内のセキュリティ対策に取り組みます。加えて、十分な輸送力の確保、車内の換気、駅や列車の定期的な消毒等、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に引き続き努めます。

 東海道新幹線については、「のぞみ12本ダイヤ」を活用して、需要にあわせた弾力的な列車設定に取り組みます。また、新型車両N700Sの追加投入を進めるとともに、既存のN700Aタイプに対し、N700Sの一部機能を追加する改造工事を進めます。

 在来線については、「しなの」、「ひだ」等の特急列車について、需要にあわせ弾力的に増発や増結を行うほか、ハイブリッド方式を採用した新型特急車両HC85系の営業運転を開始します。また、新形式の通勤型電車315系の追加投入を進めます。

 営業施策については、生活様式や働き方の変化を踏まえ、「S Work車両」のご利用促進や車内及び駅のビジネス環境整備をさらに推進するほか、人と人が直接会うことの重要性を訴求する取組みを続けます。また、「ずらし旅」や「推し旅アップデート」をはじめ、お客様の動向やニーズをつかんだ新たな営業施策を積極的に展開します。さらに、京都、奈良、東京、飛騨等、魅力ある観光素材の開発に継続的に取り組み、需要のさらなる拡大を図ります。加えて、「さわやかウォーキング」等を通じて地域との連携を強化し、「しなの」やHC85系を投入する「ひだ」等の特急列車をはじめとした鉄道のご利用及び収益の拡大を図ります。「エクスプレス予約」及び「スマートEX」については、さらなるご利用の拡大を図るため、利便性を追求するとともに、令和5年夏の「EX-MaaS(仮称)」のサービス開始に向けた諸準備を着実に進めます。また、沿線のホテルや観光プラン等の各種コンテンツにリンクするポータルサイト「EX 旅のコンテンツポータル」について、沿線自治体や各種事業者と連携しつつ内容を充実させ新たな顧客層を取り込むなど、販売促進を実施します。さらに、九州新幹線へのサービスエリア延伸を実施します。

 旅客関連設備については、ホーム上の可動柵について、東海道新幹線では新大阪駅20番線ホームでの設置工事を進め、同駅における全ての新幹線ホームへの可動柵設置を完了するとともに、在来線では名古屋駅の東海道本線下りホームへの設置工事を進めるほか、QRコードを利用したホーム可動柵開閉システムの導入に向けた準備を行います。また、車椅子をご使用のお客様に東海道新幹線をより便利で快適にご利用いただけるよう、車椅子スペースを6席設置した新型車両N700Sの追加投入及び車椅子対応座席の「エクスプレス予約」及び「スマートEX」での予約の試行を行います。さらに、刈谷駅については、ホームの拡幅、可動柵の設置等に向けた工事を進めるほか、半田駅付近の連続立体交差化に向け高架橋の工事を進めます。加えて、在来線においても車椅子スペースを拡充した315系及びHC85系を投入するほか、駅におけるエレベーターやバリアフリートイレの設置等、バリアフリー設備の整備について、国・関係自治体と連携をとりつつ積極的に取り組みます。また、駅のバリアフリー設備の整備促進に向けた新たな料金制度について、具体的な活用方法の検討を進めます。

 超電導リニアによる中央新幹線計画については、コストを十分に精査し、柔軟性を発揮しながら、健全経営と安定配当を堅持し、プロジェクトの完遂に向けて、着実に推進します。また、工事の安全・環境の保全・地域との連携を重視し、早期開業に取り組みます。具体的には、引き続き、測量、設計及び用地取得並びに土木を中心とした各種工事を着実に進めます。このうち、都市部トンネルについては、シールドマシンによる本格的な掘進を開始します。また、機械及び電気設備等について、契約及び発注時期も考慮の上、低コスト化及び品質向上を図ります。工事の安全については、事故防止に関する情報及び認識を施工会社と発注者とで共有し、労働災害等の防止の徹底を図ります。南アルプストンネル静岡工区については、国土交通省主催の有識者会議の中間報告を踏まえ、地域の理解と協力が得られるよう、真摯に対応します。

 一方、山梨リニア実験線においては、さらなる超電導リニア技術のブラッシュアップ及び営業線の建設・運営・保守のより一層のコストダウンに取り組みます。このうち、高温超電導磁石については、営業線への投入に向けて、山梨リニア実験線における走行試験と小牧研究施設における検証を実施するとともに、コストダウンを進めます。また、営業車両の仕様策定を進め、設計を深度化します。さらに、走行試験を着実に行う中で、改良型試験車による超電導リニアの体験乗車を実施し、中央新幹線の開業に向けた期待感の醸成に取り組みます。

 加えて、中央新幹線の高度かつ効率的な運営・保守体制の構築に向けて取り組みます。

 高速鉄道システムの海外展開については、米国における高速鉄道プロジェクトについて、引き続き着実に取り組むほか、台湾における高速鉄道の技術コンサルティングについて、継続的に実施します。また、日本型高速鉄道システムを国際的な標準とする取組みを進めます。

 技術開発の推進については、状態監視技術等を活用した検査や保守の高度化・省力化、設備の維持更新におけるコストダウン等による「業務改革」の推進に向け、ICT等を用いた先端技術の高度な活用を進めるほか、地震や豪雨等の各種自然災害に対して、より安全性を高めるための技術開発を実施します。

 鉄道以外の事業については、事業環境の変化に対応すべく、低コスト化と効率的な業務執行を徹底しグループ各社の経営効率を磨き上げます。また、グループ事業のさらなる成長に向け、既存事業の運営体制の見直しやシステム共通化等の基盤整備に取り組むほか、鉄道との相乗効果で培った力を活かし、外部とも連携しながら新たな事業展開を進め、収益力のさらなる拡大を図ります。さらに、開業5周年を迎えたJRゲートタワーとJRセントラルタワーズ事業を軸に、店舗の品揃え強化やサービス向上、「東京駅一番街」等の駅商業施設リニューアルや当社グループ保有土地の有効活用を継続します。加えて、駅やホテルの人気商品やオリジナル鉄道グッズ等を取り揃えた多彩なオンラインショップが集う新ショッピングサイト「JR東海MARKET」において、実店舗と連携した新たなサービスの提供等、サイトの魅力向上に取り組みます。

 また、コロナ禍で加速した社会の変化への対応及び労働力人口が減少する中でのグループ会社等を含めた人員確保といった諸課題の克服に向け、グループの総力を結集して中長期的な観点から「業務改革」に取り組み、ICTも活用しつつ新たな仕事の進め方を追求し、効率的な業務執行体制を構築します。これにより、将来にわたって、当社グループが社会的使命を力強く果たしていくため、経営体力の再強化を図ります。また、これまで培った知識・技術力を活用し、業務の組み立ての合理性を徹底的に追求することで、引き続き業務執行における一層の効率化・低コスト化を推進するとともに、設備投資についても、引き続き一層のコストダウンに取り組み投資効果を向上させます。

 持続可能な社会の実現に向けた取組みについては、政府の「2050年カーボンニュートラル」政策を前提に、2050年のCO排出量実質ゼロを目指すとともに、2030年度のCO排出量についても、同政策を前提として、2013年度比で46%削減することを目指します。具体的には、当社のCO排出量の約5%を占める「燃料等の使用に伴う直接排出」については、環境負荷の低減を実施したHC85系を順次投入するほか、蓄電池車及び燃料電池車に関する調査研究や実験準備、バイオ燃料に関する試験等を進めます。残りの約95%を占める「電力使用に伴う間接排出」については、N700S及び315系といった省エネルギー車両の追加投入を進めるほか、駅ホーム照明等のLED化を加速するなど、さらなる省エネルギー化に取り組みつつ、再生可能エネルギーの活用にも取り組みます。また、TCFD提言を踏まえた気候変動に関するリスク分析等を実施するほか、廃棄物の削減や資源の再利用等を通じて、地球環境への負荷を低減します。さらに、外部の企業や団体と連携し、環境負荷低減に資する新しい技術や取組みを通じて、鉄道の環境優位性をさらに高め、地球環境保全及び地域社会に貢献します。

 以上のように、引き続き、安全・安定輸送の確保を最優先に輸送機関としての使命を果たしつつ、新型コロナウイルス感染症の影響による厳しい経営状況から脱却すべく、種々の取組みにより収益の拡大に取り組むほか、「業務改革」を強力に推進し、経営体力の再強化を図っていきます。

 

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