文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在においてヤマトグループが判断したものであります。
(1) 経営方針
ヤマトグループは、社会的インフラとしての宅急便ネットワークの高度化、より便利で快適な生活関連サービスの創造、革新的な物流システムの開発を通じて、豊かな社会の実現に貢献することを経営理念に掲げ、生活利便の向上に役立つ商品・サービスを開発してまいりました。
今後も、社会インフラの一員として社会の課題に正面から向き合い、お客様、社会のニーズに応える「新たな物流のエコシステム」を創出することで、豊かな社会の創造に持続的に貢献してまいります。また、生産性の向上を図るなど効率化を推進し、収益力の強化に努めることで、安定した経営を目指してまいります。
(2) 経営環境、経営戦略及び経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当連結会計年度における経済環境は、新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言の全面解除に伴う段階的な経済活動の再開により、景況感が改善する兆しはみられるものの、世界的なサプライチェーンの混乱や円安、原油高の傾向に加え、国際情勢の不安定化による資源価格の上昇など、依然として本格的な景気回復の見通しが不透明な状況にあります。
また、新型コロナウイルス感染症の影響により、テレワークの推進、診療や教育分野におけるサービスのオンライン化など、消費行動や生活様式が変化し、全産業のEC化が加速しています。
このような状況下、ヤマトグループは経営理念に掲げる「豊かな社会の実現への貢献」を通じた持続的な企業価値の向上を実現するため、グループ各社の経営資源を結集した新しいヤマト運輸を中核とする新たなグループ経営体制をスタートさせました。
そして、2024年3月期を最終年度とする中期経営計画「Oneヤマト2023」に基づき、生活様式の変化と流通構造の変化に対応するサプライチェーンの変革に向けて、お客様や社会のニーズに対し総合的な価値提供に取り組みました。
当該中期経営計画の最終年度となる2024年3月期において、連結営業収益は2兆円を目標とし、連結営業利益1,200億円(連結営業利益率6.0%)、ROE10.0%の計画に変更はありません。
①9つの重点施策
ⅰ.データ分析に基づく経営資源の最適配置
データ基盤整備とアルゴリズム開発の高度化で、各地域の需要と業務量予測の精度を向上し、個人、法人ともに変化、多様化するお客様のニーズに応えるグループ経営資源の最適配置を進めます。
幹線を含む輸送工程の最適化と標準化に加え、各拠点の人員・車両の適正配置、作業のオペレーション改革や自動化・デジタル化で、第一線がお客様に向き合う時間と接点、および集配対応力を拡大し、ネットワーク全体の生産性を向上させます。
具体的には、データ・ドリブン経営の定着のため、更なる高度化・精緻化のためのデジタルデータの整備、および最新技術を用いたデータ取得方法を拡充し、また、デジタル基盤の確立を推進しました。
さらに組織再編による経営資源の統合と人事リソースの強化、戦略的システム化に必要な機能設計を行い、中期的な内製化率向上にむけた各種アクションプランを実行してまいります。
ⅱ.グループインフラの強靭化
EC物流ネットワークの構築にスピードを上げて取り組んでおり、ラストマイル領域では、集配効率の改善が徐々に進んできています。
今後はオペレーションを一気通貫でコントロールする体制のもと、リソースの最適化および拠点集約や大型化等を通じてコストの適正化を図ります。
また、小~中ロットの多頻度集配に対応する域内ネットワークと独自のTMS(Transport Management System)を開発し、地域ごとの多様なニーズに応える輸送機能を拡充しています。加えて、ECを中心に多様な顧客ニーズに対応する「EAZY」のネットワークにおいて、集配支援ツールの高機能化をはじめとしたパートナーをサポートする取り組みを行います。
さらに、第一線がお客様にしっかり向き合う時間と接点を創出するため、管理・間接業務を標準化、電子化、集約化します。
キャパシティの最大化、全社最適なオペレーション構築、拠点戦略を組み合わせ施策を推進するとともに、倉庫オペレーションもオペレーション設計の確立と標準化を推進し、顧客のサプライチェーンを上流工程から支えます。
ⅲ.サプライチェーンをトータルに支援する、ビジネスパートナーへの進化
[1]上流から下流まで、サプライチェーン全体にわたる価値提供の強化
全国の営業倉庫・拠点・幹線・ミドルマイル・ラストマイル、および新たな域内輸送機能のシームレスな結合と、デジタル情報による可視化を通じて、サプライヤー・メーカーから店舗・生活者にいたるサプライチェーンをトータルに支援するビジネスパートナーを目指します。
消費地に近い拠点に商材を一括輸送し、域内の需要に応じた小~中ロットの店舗納品にスピーディーに対応することで、欠品による店舗の販売機会ロス削減や総在庫の偏在を抑制するなど、法人のお客様の売上げの最大化と、サプライチェーンのスリム化、キャッシュ・フローの改善に貢献します。
クロスボーダー領域では、輸出入するECなどの小口貨物、一般貨物の発注情報、出荷・到着予定情報、通関関連情報など、グローバルサプライチェーン上のすべての情報をデジタル化、可視化し、国内・海外のネットワークをスムーズに結節するとともに、フルフィルメント機能の活用による在庫の最小化やリードタイムの最適化など、高度なソリューションを提供します。
[2]お客様に向き合う法人部門の一体運営
第一線からお客様のニーズをスピーディーに収集、集約し、質の高い提案に結びつけるため、情報集約からデータ分析、課題抽出に加え、法人営業・アカウントマネジメント体制を強化し、第一線の営業担当者の提案活動を支援し、法人のお客様に対して常に最適な提案を実現する体制を構築します。
ⅳ.「ECエコシステム」の最適解の創出
加速する「全産業のEC化」に向け、事業者、運び手、生活者が共にメリットを享受できる持続的な「ECエコシステム」の確立に向けた取組みをさらに強化します。
事業者には、在庫・事務コストを最小化するサプライチェーンの上流における価値提供に加え、実店舗のEC化支援など、サポート体制を充実させます。
運び手には、EAZYのネットワークをさらに拡充するとともに、デジタルを活用した集配ツールの充実など、「運ぶ」を効率化する支援を強化します。
買い手となる生活者には、EAZYのリアルタイムトラッキングやスマホで受け取れる店舗の拡大など、デジタルを活用した新たな顧客体験を提案していきます。
さらに、5,000万人を超えるクロネコメンバーズ会員をはじめとするお客様と、生産者、店舗、あるいは130万社を超えるヤマトビジネスメンバーズ会員をつなぐ仕組みの検討などを通じ、「新たな“運ぶ”」を創り、お客様との一層のエンゲージメント強化を進めます。
ⅴ.資本効率の向上
事業成長とコスト構造の改革を進め、財務戦略との両輪でより資本効率を重視する経営に取り組みます。成長性(営業収益)と収益性(営業利益率)および、財務の健全性(キャッシュ創出状況、保有現預金、自己資本比率の水準)、投資の進捗状況、資本効率等を踏まえ、安定的な配当(株主資本配当率を意識)を基本とした適時適切な資本政策により、株主価値向上を実現します。
具体的には、ROE10%以上(2024年3月期)、配当性向30%以上、総還元性向50%以上(2021年3月期~2024年3月期までの累計)を目指します。
ⅵ.「運創業」を支える人事戦略の推進
第一線の社員一人ひとりの役割を明確化して評価できる制度、グループをリードする専門人材が育成され、高いパフォーマンスを発揮できる制度へと、人事制度をさらに充実させていきます。
さらにデジタル教育プログラムを充実し、経営層を含む全社員のデジタルリテラシーの底上げと、デジタル人材の早期育成を図ります。
ⅶ.経営体制の刷新とガバナンスの強化
2021年4月1日、ヤマト運輸とグループ会社7社を統合し、さらに9月にグループのヤマトマネージメントサービス株式会社も統合しました。純粋持株会社は存続するものの、統合後のヤマト運輸を中核会社とし、意思決定のスピードを重視したガバナンスの構築をスタートさせています。今後は地域での経営を一層推し進めることで、グループ各社の多様な経営資源を結集したワンヤマト体制をより進化させてまいります。
ⅷ.データ戦略、イノベーション戦略の推進
基幹システムの刷新に加え、データ活用のさらなる高度化に向け、引き続きデジタルデータの整備と、デジタル基盤の強化を進めます。最新テクノロジーを活用したデータ取得の仕組みや、クラウド技術を中心とした「Yamato Digital Platform」の拡充を通じ、9つの重点施策をデジタル面から支えます。
また、2020年4月に創設した「KURONEKO Innovation Fund」をはじめ、スタートアップの発掘と連携、新規事業創出に向けたスタートアップへの投資など、オープンイノベーションをさらに強力に推進します。
ⅸ.サステナブル経営の強化
「YAMATO NEXT100」で掲げたビジョンの実現と注力すべき社会課題の解決に向け、環境と社会を組み込んだ経営を実行するため、「サステナブル中期計画2023」に加え、2030年の温室効果ガス(GHG)排出48%削減を新たに掲げるとともにESGに関する方針としてヤマトグループ人権方針、環境方針等を制定しました。今後はEVや設備の開発・導入などに取り組み、達成に向け推進してまいります。
各施策を事業活動の中で遂行することにより、社会と事業の持続可能な発展を目指します。
(3) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
ヤマトグループを取り巻く事業環境は、お客様のニーズの多様化、地域の過疎化、労働人口の縮小、気候変動など大きく変化しています。また、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に消費行動や生活様式が変化し、それに対応するため全産業のEC化が加速しています。さらに、世界的なサプライチェーンの混乱や国際情勢の不安定化による資源価格の上昇など、先行きが不透明な状況にあります。このような事業環境の中、ヤマトグループは、経営理念に掲げる「豊かな社会の実現への貢献」を通じた持続的な企業価値の向上を実現するため、2021年4月1日より、グループ各社の経営資源を結集した新しいヤマト運輸を中核とするグループ経営体制に移行し、2024年3月期を最終年度とする中期経営計画「Oneヤマト2023」に基づく取組みを推進しています。流通構造の変化に対応するサプライチェーンの変革に向けて、引き続きお客様や社会の多様化するニーズに対し総合的な価値提供を目指す「Oneヤマト2023」に基づき、以下の取組みを加速させていきます。
① グループ全体の生産性向上
中期経営計画「Oneヤマト2023」では、個人、法人ともに変化、多様化するお客様のニーズに応えるため、各地域の需要と業務量予測の精度向上に努めながらグループ経営資源の最適配置を進めています。
全国に保有する営業倉庫、仕分けターミナル、営業所などの拠点については、集約・再配置などを進めることにより、物流ネットワーク全体の生産性向上と利益率の改善を進めます。
特に都市部においては、成長が続くEC需要に対応したEC物流ネットワークの構築を推進しており、この新たなネットワークと既存のネットワークにおける人員配置や輸配送コストの適正化を図ります。また、作業のオペレーション改革や自動化、デジタル化による配送工程の最適化と標準化を通じて、第一線の社員がお客様に向き合う時間と集配対応力を拡大するとともに、安全や品質向上への取組みを継続して推進します。さらに、第一線の社員の管理間接業務を削減するため、業務の標準化、電子化によるBPR(業務プロセス改革)にも継続して取り組みます。
② 法人領域の成長による営業収益の拡大
中期経営計画「Oneヤマト2023」では、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機とした消費行動や生活様式の変化を事業成長の機会と捉え、BtoC領域に留まらず、サプライチェーン全体に広がる顧客の経営課題の解決を目指すソリューションビジネスを新たな成長領域と位置付け注力していきます。
グローバル展開を進めるお客様に対しては、集約したグループ営業機能とオペレーションが一体となり、海外現地法人を含むグループの拠点を活かした一気通貫のビジネスソリューションを提供していきます。
各地域の法人のお客様に対しては、本社に集約した営業情報に基づく最適な提案を創出し、第一線の営業活動を促進させるとともに、ソリューション設計やオペレーション設計の高度化を図り、店舗やECの運営に係るバックヤード業務の効率化や、販売機会ロスの削減、在庫の最適化など、サプライチェーン全体にわたる価値を提供していきます。
また、EC事業者様および販売者様、EC利用者様、配送事業者がともに発展できるECエコシステムの最適解の創出に向けては、お客様とのリアルタイムコミュニケーション基盤である「EAZY」の機能拡充、オペレーションプロセスを簡素化したEC物流ネットワークによるキャパシティの拡大に加え、大手から小規模のEC事業者様、今後EC領域の強化を目指すメーカー・小売事業者様に対する、調達や在庫移動など上流領域でのソリューションを充実させていきます。
③ 持続的な企業価値向上を実現する戦略の推進
中期経営計画「Oneヤマト2023」では、データ戦略とイノベーション戦略の推進、経営体制の刷新とガバナンスの強化、「運創業」を支える人事戦略、資本効率の向上、およびサステナブル経営の強化に取り組み、持続的な企業価値向上を実現していきます。
データ戦略については、基幹システムの刷新に加え、データ活用のさらなる高度化に向けて、引き続きデジタルデータの整備とデジタル基盤の強化を推進します。また、イノベーション戦略については、「KURONEKO Innovation Fund」をはじめ、スタートアップの発掘と連携、新規事業創出に向けたスタートアップへの投資などの取組みを継続して推進します。
ガバナンスの強化については、引き続き経営の監督と執行の分離、経営の透明性の維持、強化など、コーポレート・ガバナンスの強化に取り組むとともに、意思決定のスピードを重視したガバナンス体制の下で、構造改革を推進します。
「運創業」を支える人事戦略については、引き続き明確化した職務定義に基づいて社員一人ひとりを評価する人事制度の構築・運用に取り組むとともに、デジタル教育プログラムを充実させ、経営層を含めた全社員のデジタルリテラシーの底上げとデジタル人材の早期育成を推進します。また、ヤマトグループ最大の資産である約22万人の社員が、働きがいを持ちイキイキと活躍するとともに、人権や多様性が尊重され、より安心して働くことができる職場環境の整備を進めます。
資本効率の向上については、事業成長とコスト構造改革を進めるため、財務戦略との両輪で、より資本効率を重視する経営に取り組みます。また、成長性(営業収益)と収益性(営業利益率)および、財務の健全性(キャッシュ創出状況、保有現預金、自己資本比率の水準)、投資の進捗状況、資本効率等を踏まえ、安定的な配当を基本(DOEを意識)とした適時適切な資本政策により、株主価値向上を実現します。
サステナブル経営の強化については、「サステナブル中期計画2023[環境・社会]」で定めた重要課題に対する、2024年3月期までの到達目標と具体的な行動計画に基づく取組みを推進し、環境・社会と事業の持続的な発展を目指します。なお、環境面の長期目標である2050年までの温室効果ガス(GHG)排出量ゼロ(自社排出)を目指すため、2030年までに温室効果ガス(GHG)の排出量を2020年対比48%削減する中期目標を設定しました。今後、EVや再生可能エネルギー由来電力導入の促進などに加え、物流業界全体、さらには社会へと、温室効果ガス(GHG)排出削減に向けた取組みを推進していきます。
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