業績等の概要
(1) 業績
当連結会計年度(以下、「当期」という。)の世界経済は、依然として新型コロナウイルス感染症(COVID-19。以下、「感染症」という。)の影響が続き、先進国及び新興国でインフレが急加速したことに加え、当期末にはロシアがウクライナに侵攻したことで先行き不透明感が増したものの、一部の国を除き景気回復の動きが見られました。
米国では、インフレが加速する中、個人消費や雇用は堅調に推移しました。中国では、固定資産投資や輸出が景気拡大を牽引していたものの、年明け以降はゼロコロナ政策に伴う厳しい活動制限により、個人消費の減速基調が継続しました。欧州では、感染症の変異株の拡大による一時的な行動制限の再導入や、期末にかけてはウクライナ侵攻の影響があったものの、個人消費は堅調に推移し、景気は緩やかに回復しました。我が国の経済は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による下押し圧力はあったものの、回復基調を維持しました。
当社グループの海運業を取り巻く市況は、ドライバルク船では期中を通して高い水準で推移し、ケミカルタンカーにおいても回復基調となりました。一方で、感染症の影響による船員交代の制限等の運航上のリスクは解消されず、予断を許さない状況が続きました。このような状況の下、当社グループでは、既存契約の有利更改や効率配船への取り組み等により、運航採算の向上を図った他、売船市場の動向を見極め船舶の処分を行い、固定資産売却益(特別利益)を計上しました。不動産業においては、当社所有ビルの商業フロアの営業やイイノホール&カンファレンスセンター等で感染症の影響を受けましたが、オフィスフロアは順調な稼働を継続したことから、全体としては安定した収益を確保しました。
以上の結果、売上高は1,041億円(前期比17.1%増)、営業利益は75億24百万円(前期比10.1%増)、経常利益は94億31百万円(前期比38.5%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は125億26百万円(前期比63.6%増)となりました。
各セグメント別の状況は次の通りです。
①外航海運業
当期の外航海運市況は以下の通りです。
大型原油タンカー市況は、経済活動回復に伴い原油需要が増加し、夏場より継続してOPECプラスの協調減産幅が縮小されているにもかかわらず、依然として船腹供給圧力が強いことから、総じて低迷が続きました。
ケミカルタンカー市況は、中国港湾での検疫強化等の影響を受け、アジア域内では夏場以降に船腹需給が引き締まり、堅調に推移しました。その他の地域では、プロダクトタンカーのケミカル船市場への流入や、米国南部での悪天候によるケミカルプラントの一時的な操業停止等の影響により、総じて低調に推移しておりましたが、その後は冬場の需要期に入ったことや、ウクライナ情勢の悪化を受けて石油・ケミカル製品の米国や中東から欧州への輸送需要が増加したこと、付随してプロダクトタンカーが市場から退出したこと等を背景に、市況の上昇が見られました。
大型ガス船のうち、LPG船市況は、夏場の不需要期の荷動き減少により一時軟化したものの、米国からの堅調な輸出や、中国のPDHプラント及びインドの家庭向けの旺盛な需要に加え、入渠船の増加やパナマ運河の滞船等による船腹需給の引き締まりに支えられ、期中を通して概ね堅調に推移しました。LNG船市況は、中国を中心としたアジアや欧州での天然ガス需要増加によって秋口に高騰しました。しかしながら、年明け以降は北半球の冬場の需要が落ち着いたことで軟化し、ウクライナ情勢悪化により米国から欧州への荷動きが増加したものの、市況改善には至りませんでした。
ドライバルク船市況は、各国の経済活動回復に牽引され期中を通して堅調に推移しました。原材料や燃料価格の高騰から中国の粗鋼生産量が減少し、また、同国港湾での滞船状況が夏場と比較して改善したことにより、秋口から年初にかけて市況はやや軟調に転じる場面もありましたが、アジアの旧正月明け後の経済活動回復に伴い太平洋を中心に再び上昇し、底堅い状況で当期末を迎えました。
なお、当期における当社グループの平均為替レートは¥112.06/US$(前期は¥105.79/US$)、船舶燃料油価格についてはC重油380cStの平均価格はUS$423/MT(前期はUS$269/MT)、適合燃料油の平均価格はUS$558/MT(前期はUS$346/MT)となりました。
このような事業環境の下、当社グループの外航海運業の概況は以下の通りとなりました。
大型原油タンカーにおいては、支配船腹を長期契約に継続投入し安定収益を確保しました。
ケミカルタンカーにおいては、当社の基幹航路である中東域から欧州及びアジア向けの安定的な数量輸送契約に加え、北アフリカからインド及びパキスタン向けの燐酸液や、アジア域からの高運賃スポット貨物を積極的に取り込んだことで、夏場以降採算は大きく改善しました。当社と米国オペレーターの合弁事業は、第3四半期にパートナーシップの形態を変更し、米国オペレーター向けのプロフィットシェア付定期用船契約に移行しました。
大型ガス船においては、第2四半期におけるLNG船の定期修繕により営業費用が増大しましたが、LPG・LNG船共に、既存の中長期契約を中心に安定収益を確保しました。また、当期末には、LPGを推進燃料とすることにより温室効果ガスの排出量を削減できる当社初のLPG二元燃料主機関を搭載する大型LPG船が竣工しました。
ドライバルク船においては、専用船が順調に稼働し安定収益確保に貢献しました。また、ポストパナマックス型及びハンディ型を中心とする不定期船においても、契約貨物への投入を中心に効率的な配船と運航に努めた他、一部では好市況を享受したことで、運航採算は当初の予想を大きく上回る水準で推移し、収益の確保に寄与しました。
以上の結果、外航海運業の売上高は825億46百万円(前期比19.1%増)、営業利益は28億60百万円(前期比16.1%増)となりました。
②内航・近海海運業
当期の内航・近海海運市況は以下の通りです。
内航ガス輸送の市況は、石油化学ガスや産業用LPGのプラント間転送需要により概ね堅調に推移しました。一方、民生用LPGの輸送需要は、感染症拡大による外食及び観光産業需要減少の影響を受け続け、低調に推移しましたが、冬場には季節的要因によりわずかながら持ち直しました。
近海ガス輸送の市況は、主要貨物であるプロピレン、塩化ビニルモノマーの国内生産量が中国向け輸出関連需要に牽引され堅調に推移しました。夏場から続いた中国港湾での検疫強化による滞船は一時期より改善されましたが、新造船の竣工が限定的であること、安定的な海上輸送需要があること等により、当社が主力とする3,500㎥型高圧ガス船のアジア域市況は夏場以降堅調に推移しました。
このような事業環境の下、当社グループの内航・近海海運業の概況は以下の通りとなりました。
内航ガス輸送においては、感染症拡大により民生用LPG需要が低迷しているものの、中長期契約に基づく安定的な収益確保と効率配船に取り組みました。
近海ガス輸送においては、夏場までの市況軟化の影響を完全に避けることはできませんでしたが、第4四半期に堅調な市況下で一部契約を更改できたことにより、採算は改善の兆しを見せました。
以上の結果、内航・近海海運業の売上高は95億35百万円(前期比11.1%増)、営業利益は5億13百万円(前期比1.7%増)となりました。
③不動産業
当期の不動産市況は以下の通りです。
都心のオフィスビル賃貸市況は、10月に緊急事態宣言が解除された以降もまん延防止等重点措置が取られる等、感染症拡大の影響による下降基調は継続しました。国内企業はリモートワークを拡充し、これまでの増員計画をベースにした増床移転の見直しや固定費削減のための事業所縮小等を行い、オフィス需要が減少したことから賃料は下落し、空室率は6%台での推移となりました。
貸ホール・貸会議室においては、繰り返される感染症の再拡大とイベント開催制限により、総じて厳しい状況が続きました。
不動産関連事業のフォトスタジオ事業においては、感染症拡大の影響により撮影需要は依然として低調なまま推移しました。
英国ロンドンのオフィスビル賃貸市況は、感染症拡大が一時落ち着いたことで夏場以降空室率がわずかに改善し、回復傾向となりました。しかしながら、変異株等の新たな感染拡大により、冬場には政府が一時的に原則在宅勤務を勧告する等再び規制が強化されました。
このような事業環境の下、当社グループの不動産業の概況は以下の通りとなりました。
当社所有ビルにおいては、商業フロアの営業に感染症の影響があったものの、6月末に竣工した日比谷フォートタワーも含め、オフィスフロアは概ね堅調な稼働を継続し、安定した収益を維持することができました。
当社グループのイイノホール&カンファレンスセンターにおいては、感染症の拡大により稼働と収益に大きな影響を受けましたが、10月以降はイベント開催制限が緩和されたことによりイベント需要にわずかながら回復の兆しが見られ、稼働は改善に向かいました。
フォトスタジオ事業を運営する㈱イイノ・メディアプロにおいては、撮影需要が減少する中でも万全の感染症対策を実施して顧客確保に努めたものの、低調な広告需要の影響も重なり、厳しい状況が継続しました。
英国ロンドンのオフィスビル賃貸事業においては、商業フロアの営業に感染症の影響があったものの、オフィスフロアが順調に稼働したため、収益を維持することができました。
以上の結果、不動産業の売上高は122億54百万円(前期比9.8%増)、営業利益は41億50百万円(前期比7.4%増)となりました。
(2)キャッシュ・フローの状況
当期の「営業活動によるキャッシュ・フロー」は、157億82百万円のプラス(前期は192億82百万円のプラス)となりました。これは主に税金等調整前当期純利益129億91百万円を計上したことによるものです。
「投資活動によるキャッシュ・フロー」は31億15百万円のマイナス(前期は229億91百万円のマイナス)となりました。これは主に船舶及び不動産への設備投資を中心とした固定資産の取得による支出124億98百万円が、船舶を中心とした固定資産の売却による収入86億6百万円を上回ったことによるものです。
「財務活動によるキャッシュ・フロー」は148億24百万円のマイナス(前期は28億94百万円のプラス)となりました。これは主に長期借入金の返済による支出237億77百万円が、長期借入れによる収入140億97百万円を上回ったことによるものです。
以上の結果、「現金及び現金同等物の当期末残高」は116億54百万円(前期末は133億1百万円)となりました。
生産、受注及び販売の実績
この項目は「業績等の概要(1)業績」の記載に含めて記載しております。
財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成に当たりまして、期末日における資産・負債の報告金額及び報告期間における収益・費用の報告金額に影響を与える見積り及び仮定設定を行わなければなりません。当社グループ経営陣は、債権の貸倒、棚卸資産、投資、法人税等、財務活動、退職金、偶発事象や訴訟等に関する見積り及び判断に対して、継続して評価を行っております。過去の実績や状況に応じ合理的だと考えられる様々な要因に基づき、見積り及び判断を行い、その結果は、他の方法では判定しにくい資産・負債の簿価及び収益・費用の報告金額についての判断の基礎となります。実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
当社グループにおける重要な会計上の見積りに関する情報は、「第5 経理の状況 注記事項(重要な会計上の見積り)」をご参照下さい。会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響は、「第5 経理の状況 注記事項(重要な会計上の見積り)」に含めて記載しております。
(2) 経営成績の分析
① 損益の分析
当期における売上高は、前期比17.1%増の1,041億円となりました。なお、各セグメントの売上高の概要は、「業績等の概要(1)業績」に記載の通りであります。
営業利益は前期比10.1%増の75億24百万円となりました。なお、各セグメントの営業利益の概要は、「業績等の概要(1)業績」に記載の通りであります。
経常利益は、前期比38.5%増の94億31百万円となりました。これは主に受取配当金や為替差益の増加といった営業外収益の増加と支払利息の減少に伴う営業外費用の減少によるものです。
親会社株主に帰属する当期純利益は、前期比63.6%増の125億26百万円となりました。これは主に船舶の処分に伴い計上した固定資産売却益によるものです。
② 財政状態の分析
当期末の総資産残高は前期末に比べ15億19百万円増加し、2,471億30百万円となりました。これは主に売掛金の増加によるものです。
負債残高は前期末に比べ99億79百万円減少し、1,557億97百万円となりました。これは主に船舶の売却等に伴う設備資金の返済によるものです。
純資産残高は前期末に比べ114億97百万円増加し、913億33百万円となりました。これは主に親会社株主に帰属する当期純利益計上に伴う利益剰余金の増加によるものです。
以上の結果、当期末の連結自己資本比率は36.9%(前期末は32.5%)となりました。
(3) 流動性及び資金の源泉
① 資金需要
当社グループの事業活動における運転資金需要の主なものは当社グループの外航海運業と内航・近海海運業により構成される海運業に関わる運航費、船費、借船料と不動産業に関わる管理費、営繕費等の不動産業費用、各事業についての一般管理費等があります。また、設備資金需要としては船舶投資と不動産投資に加え、情報処理の為の無形固定資産投資等があります。
② 財務政策
当社グループの事業活動の維持拡大に必要な資金を安定的に確保するため、内部資金の活用や金融機関からの借入及び社債の発行により資金調達を行っており、運転資金及び設備資金につきましては、国内、海外子会社のものを含め当社において一元管理しております。
当社グループの主要な事業資産である船舶の調達に当たっては、船主からの中長期用船や裸用船のバランスも考慮に入れ、当社グループ全体の有利子負債の削減を図っております。円建て、米ドル建ての借入金を含む当期末の有利子負債残高(リース債務を除く)は1,209億28百万円となりました。
また、資金調達コストの低減に努める一方、過度に金利変動リスクに晒されないよう、設備資金の借入の大部分について金利スワップなどの手段を活用しております。
当社グループは国内2社の格付機関から格付を取得しており、本報告書提出時点において、日本格付研究所:
「BBB+」、格付投資情報センター:「BBB」となっております。また、金融機関には充分な借入枠を有しており、当社グループの事業の維持拡大、運営に必要な運転、設備資金の調達は今後も可能であると考えております。また、国内金融機関において複数年を含む合計180億円並びにUS$6千万のコミットメントラインを設定しており、流動性の補完にも対応が可能となっております。
③ キャッシュ・フロー
「業績等の概要(2)キャッシュ・フローの状況」をご覧下さい。
お知らせ