課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1)経営の基本方針

当社は1996年の創業時から、MVNO事業モデルという新たな通信事業の在り方を提唱・実践し、安全・安心・便利にデータを運ぶ(通信する)ことを自らの使命(ミッション)として事業を展開しています。

具体的には、携帯通信(SIM)事業、ローカル携帯網による通信(ローカル4G/5G)事業、及び、スマートフォンで利用するデジタルID(FPoS(Fintech Platform over SIM、エフポス))事業の3つの事業に取り組んでいます。

当社は、SIM事業の進化を継続することで安定的な収益基盤を確保し、ローカル4G/5G事業及びFPoS事業に投資することで、ローカル4G/5G事業及びFPoS事業を将来の収益の柱に育てる計画です。

 

(2)経営環境及び経営戦略

① 携帯通信(SIM)事業について

当社は、当社が生み出したMVNO事業モデルにおいて、公正な競争環境を確保するための取組みを継続し、度重なる規制緩和を通じて進化させてまいりました。特に、2020年6月の総務大臣裁定により、NTTドコモが当社に提供する音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金について、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を超えない額で設定するものとされたことは、当社の収益に大きく貢献しています。当社は、SIM事業において、音声通話サービスの定額課金及び月額基本料の低廉化など、競争力のある料金プランを提供することができるようになり、2020年7月以降、当連結会計年度末に至る7四半期連続で契約回線数及び四半期売上ともに成長を続け、当連結会計年度は7年ぶりになる黒字決算となりました。

 

② ローカル携帯網による通信(ローカル4G/5G)事業について

ローカル4G/5G事業は、先進的な事例の多い米国で実績を作り、その経験を生かして日本で展開することを目指しています。米国では、従来から、ATM向けモバイル専用線サービスなど、金融取引用に安全な通信を提供する事業を提供していますが、これと並行して、米国のローカル携帯網の制度であるCBRS(Citizens Broadband Radio Service:市民ブロードバンド無線サービス)向けにSIMの提供を開始しています。CBRSは、大学やオフィス等の特定の環境で独自のネットワークを構築して運用するもので、WiFiに代わるものと位置付けられていますが、WiFiとは異なり、SIMによる認証が必要となるためです。CBRSの広がりにより、需要も創出されており、当社米国子会社は、同社の主要なパートナー企業と共に事業拡大に向けて取り組んでいます。

 

③ スマートフォンで利用するデジタルID(FPoS)事業について

FPoS事業では、2021年11月10日に、当社の特許技術であるFPoSに基づく「my電子証明書」(発行主体は当社子会社のmy FinTech株式会社)が電子署名法の認定を取得し、銀行などの金融機関及び地方自治体から多くの関心をいただいております。

この背景としては、2021年9月29日に総務省令が改正され、住民票等を電子的に申請する方法として、申請者の電子署名及び電子証明書(マイナンバーカードの電子証明書、または電子署名法の認定を受けた電子証明書)によって本人確認を行う方法に限定されたことが挙げられます。これにより、それまで一部の地方自治体で行われていた、いわゆるスマホIDを使った申請方法は認められなくなり、申請受付を停止するなど、関係者の注目を集める事態となりました。この総務省令改正については、デジタル化の動きに逆行するとの意見もありましたが、オンラインにおける本人確認手段について、改めて広く認識される機会となりました。

 

(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

当社は、上記を踏まえ、以下の事項を優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題として認識しています。

 

① 公正な競争環境の確保のための取組み

当社は、創業以来、利用者のニーズに合った多様なサービスの提供を可能とし電気通信事業を成長・発展させることのできる事業モデルとして、MVNO事業を提唱しており、MVNO事業が成立した後は、MNOとMVNOとの間で公正な競争環境を確保するための取組みを進めています。公正な競争環境の確保は、MVNOが本来の目的を果たして成長するための最大の課題であり、将来にわたり、長期的に取り組むべきものと認識しています。

競争環境のうち、携帯電話の販売手法については、2019年10月に改正電気通信事業法が施行され、高額なキャッシュバックの提供等のMNOによる行き過ぎた囲い込みに一定の歯止めがかかるようになりました。また、SIMロック(特定のSIMカードが差し込まれた場合にのみ動作するよう設定された端末上の制限)については、2021年8月の「移動端末設備の円滑な流通・利用の確保に関するガイドライン」の改正により、2021年10月1日以降に新たに発売される端末については、正当な理由がない限り、SIMロックを設定せずに販売することが義務付けられました。

また、MNOがMVNOに提供する音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金は10年以上据え置かれた状態となっていたところ、2020年6月の総務大臣裁定により、NTTドコモが当社に提供する音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金について、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を超えない額で設定するものとされました。

以上のとおり、MVNO事業モデルは従前と比較してはるかに整いましたが、まだ十分なものでも安定的なものでもありません。また、将来的には、MVNO自身でSIMを発行するなど、より自由度の高い環境が求められます。

当社は、引き続き、MNOとMVNOとの間の公正な競争環境の確保に取り組んでまいります。

 

② MVNO事業モデルの進化による安定的な収益の確保

当社は、当連結会計年度において、7期ぶりに黒字化を達成することができましたので、今後は、通期黒字を継続し、安定的な収益を確保することが課題となります。そのためには、公正な競争環境の確保のための取組みを進めつつ、MVNO事業モデルを進化させることが必要です。

まず、SIM事業の月額課金商品については、2020年7月に「日本通信SIM」という新たなブランドで発売した音声定額プランが多くのお客様の支持を獲得し、前連結会計年度下半期以降の収益に大きく貢献しています。SIM事業は、MNO4社及び多数のMVNOにより今後も激しい価格競争が想定されますが、当社は2020年6月の総務大臣裁定により、NTTドコモが当社に提供する音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金について、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を超えない額で設定するものとされているため、当面の間、MNO及び他のMVNOに対抗することのできる競争力を確保しています。当社は、引き続き、利用者の利便性の向上に着目し、MNO及び他のMVNOとの差別化を図ることのできる商品の拡充に取り組みます。

SIM事業のプリペイド商品については、新型コロナウイルスの影響下で訪日旅行者向けの商品の売上が見込めない中、機動的にサービス設計及び商品調達ができる当社の強みを生かし、在宅勤務及び在宅学習の需要に対応する分野の開拓を進める計画です。

また、MSP事業については、決済代行業者向けのクレジットカード情報非保持化支援サービスやモバイル専用線を用いたソリューション・サービスの提供を推進していきます。MSP事業には、新型コロナウイルスの感染拡大による影響はなく、むしろ、インターネットの活用が進み、セキュリティへの要請が高まるにつれ、商機は拡大するものと想定されます。当社は、引き続き、この分野の開拓を進めます。

以上の取組みにより、当社は、引き続き、MVNO事業モデルを進化させ、安定的な収益を継続して確保することを目指します。

 

③ 中長期的な成長のための取組み

当社は、安定的な収益を継続して確保する一方で、中長期的に成長するための取組みとして、FPoS事業及びローカル4G/5Gによるソリューション事業に注力しています。

まず、FPoS事業については、2018年11月に設立したmy FinTech株式会社において、スマートフォンに秘密鍵及び電子証明書を搭載する「my電子証明書」サービスについて、電子署名法に基づく特定認証業務の認定を受けるための準備を進めていましたが、2021年11月10日、電子署名法に基づく主務大臣の認定を受けることができました。そのため、今後は、FPoS事業をどのように実際のビジネスに落とし込んでいくかが大きな課題となります。なお、新型コロナウイルスの影響下においてデジタル化の機運が高まる中、FPoSが備えている高度な安全性は、当初想定していた金融取引に限らず、社会全体で利用されるデジタルIDとしての役割を期待されるようになっています。

また、ローカル4G/5Gによるソリューション事業については、当社は前連結会計年度において、ローカル5Gの実証プロジェクトに参画し、地域の中核病院でローカル5Gに求められている課題を体験することができました。また、米国においては、ローカル4G/5Gの先駆的な仕組みであるCBRS(市民ブロードバンド無線サービス)向けに、ハイブリッドSIM、すなわちローカル基地局と大手携帯事業者の基地局の両方を使うことができるSIMの提供を開始しています。

当社は、今般、ようやく通期黒字化を実現することができましたので、中長期的な成長のための取組みに機動的かつ戦略的にリソースを振り向けることで、中長期的な成長をより確実なものにすることを目指します。

 

④ 優秀な人材の確保及び育成

上記①から③のいずれの取組みにおいても、多種多様な調査や企画、さらに技術開発や事業開発が必要であり、これを担うことができる人材の確保及び育成が極めて重要となります。例えば、FPoS事業においては、金融業界に関する法律、制度、経営課題、技術課題等、顧客の事業領域に対する一定の知見が必要です。そのため、当社グループは、優秀な人材の採用を進めるとともに、採用した人材に会社の優先順位に応じた多様な業務を担当させることによって、様々なノウハウや技術を身に付けさせています。当社が取り組んでいる課題はいずれも前例のないもので、手本となる企業が存在するものではありませんが、当社は、創業時からMVNO事業モデルを定着させる今日までの道のりにおいて、前例のない環境で培った経験及びノウハウがあるため、これらを活用して人材の育成を進めます。

 

⑤ 技術開発及び設備投資等の先行投資資金の確保

財務上の課題としては、安定的な収益を継続的に確保するための技術開発及び設備投資、並びに中長期的な成長を実現するための先行投資のため、資金の確保が必要となります。当社は、2016年1月に新事業戦略を策定した後、同戦略を実現するための資金を確保する手段として、2016年7月に日本通信株式会社第3回新株予約権(第三者割当て)を、2018年3月に日本通信株式会社第4回新株予約権(第三者割当て)を、いずれもクレディ・スイス証券株式会社を割当先として発行しており、これらの新株予約権が行使されたことにより、これまでに3,704百万円の資金を調達しました。さらに、当社は、2020年4月にクレディ・スイス証券株式会社を割当先として日本通信株式会社第5回新株予約権(第三者割当て)を発行しました。当社は、割当先が同新株予約権を行使する時期及び数量をコントロールすることができるため、当社の資金ニーズに応じ、株式価値の希薄化に配慮した柔軟な資金調達を実現することが可能です。

 

当社は、上記の課題に取組みながら、安全・安心・便利な通信及びプラットフォームを提供する事業者として成長していく計画です

 

 

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