文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループは、小林一三により設立されて以来、映画・演劇を中心に、幅広い層のお客様に夢や感動、喜びをもたらす数多くのエンタテインメント作品をお届けしてまいりました。
その経営理念は、「健全な娯楽を広く大衆に提供すること」を企業の存在意義(パーパス)とし、「吾々の享くる幸福はお客様の賜ものなり」を大切な価値観(バリュー)とし、「朗らかに、清く正しく美しく」を行動の理念(モットー)としております。
これらの理念に基づき、公明正大な事業活動に取り組むとともに、常にお客様の目線に立ち、時代に即した新鮮な企画を提案し、世の中に最高のエンタテインメントを提供し続ける企業集団でありたいと考えております。
当社グループは2022年4月に、創立100周年に向けた「長期ビジョン 2032」と、今後3カ年の具体的な施策である「中期経営計画 2025」とから構成される「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」を策定いたしました。今後、本経営戦略に基づく様々な施策を展開し、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けて取り組んでまいります。その体系と骨子は、以下の通りです。
1.長期ビジョン 2032
(1) コーポレート・スローガン
(2) 3つの重要ポイント
① 成長に向けた「投資」を促進 ②「人材」の確保・育成に注力 ③ アニメ事業を「第4の柱」に
(3) 成長戦略の4つのキーワード
① 企画&IP ② アニメーション ③ デジタル ④ 海外
「企画&IP」をあらゆる価値の源泉として、その中でも「アニメーション」を成長ドライバーにし、「デジタル」の力で時間・空間・言語を超え、「海外」での飛躍的成長を実現すべく、果敢に挑戦していく
(4) 目指す姿(2032年の財務イメージ)
営業利益 750億円~1000億円
ROE 8%~10%程度
(5) 事業ポートフォリオの方向性
既存事業の3本柱である映画事業、演劇事業、不動産事業に加え、「アニメ事業」を第4の柱とする
2.中期経営計画 2025
3.人材と組織/サステナビリティの方針
(1) 人材と組織の戦略
基本方針
成長戦略の推進役となる多様で優秀な外部人材の採用を強化するとともに、よりクリエイティブな組織に進化すべく人材育成と働く環境の整備を推進していく
具体的施策
キャリア採用の拡大・強化、エキスパート社員制度の拡充
多様なキャリアパスと成長支援、公正な評価と成果に報いる処遇
エンゲージメントを高める以下の環境整備の推進
・朗らか健康経営
・TOHO WORK STYLE
・ダイバーシティ&インクルージョン
・オフィス改革
(2) サステナビリティの方針
基本方針
東宝グループは、エンタテインメントの提供を通じて誰もが幸福で心豊かになれる社会の実現に向けて“朗らかに、清く正しく美しく”貢献します
4つの重要課題
朗らかに ① 誰もが健康でいきいきと活躍できる職場環境をつくります
清く ② 地球環境に優しいクリーンな事業活動を推進します
正しく ③ 人権を尊重し、健全で公正な企業文化を形成します
美しく ④ 豊かな映画・演劇文化を創造し、次世代への継承に努めます
当社グループを巡る経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大前の2020年2月期までは極めて順調に推移し、当社グループの主力事業である「映画・演劇・不動産」はいずれも好環境に恵まれ、順調に業績を伸長させることができました。しかしながら、2021年2月期の期初から新型コロナウイルス感染症が拡大し、緊急事態宣言の発出や政府・自治体の要請により、主要な事業場である映画館や演劇劇場が全面休業、時間短縮、座席制限等の大きな制約を受け、2021年2月期の通期業績は、映画・演劇の両興行部門において大きな損失を計上するなど、大幅な業績悪化を余儀なくされました。
2022年2月期においても、3度目の緊急事態宣言により一部地域で映画館の休館や営業時間の短縮等を行い、宣言解除後も洋画新作の公開延期や、まん延防止等重点措置の発出など厳しい状況が継続しましたが、自然暦による2021年の全国映画興行収入は1618億円(前年比113%)となり、映画業界全体では緩やかながら前年からの回復を見せた1年となりました。
そのような情勢下で、当社グループの2022年2月期の通期業績は、主力の映画事業において、TOHO animationレーベル作品が業績を大きく牽引し、「劇場版 呪術廻戦 0」がメガヒットを記録したほか、アニメを中心とした邦画の健闘により好調な成績を収めました。また、演劇事業では、帝国劇場公演を中心にお客様の回復傾向が顕著にみられ、不動産事業はコロナ禍での業績を下支えし、事業収益に大きく貢献しました。これらにより新型コロナウイルス感染症の影響が直撃した2021年2月期からは大幅な回復を見せ、前回の中期経営戦略で「巡航高度」として掲げた連結営業利益400億円に迫る好決算となりました。
また、これまで2年以上に及ぶコロナ禍を経て、お客様の安心・安全と従業員・スタッフの健康を確保すべく興行現場・撮影現場における感染防止対策の徹底が図られ、また、そこで上映・上演されるコンテンツの供給についても、感染状況に応じた柔軟かつ臨機応変な公開・公演の方法・時期・スケジュールを設定するなど、映画館・演劇劇場の事業継続体制を維持するノウハウの蓄積が業界全体で進んでいます。
このように、当社グループを取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも、真に魅力的なコンテンツを提供することができれば、多くのお客様を集客できる状況まで回復しており、次期(2023年2月期)以降、新型コロナウイルスの感染状況の収束に合わせて、映画・演劇事業をはじめとしたライブ・エンタテインメント市場全体が再び拡大基調に向かっていくものと認識しています。
なお、新型コロナウイルス感染症に加え、足元では地政学的リスクの高まりを受けた世界経済の混乱がもたらす様々な影響も懸念されておりますが、当社グループへの影響は今のところ軽微であります。
以下、セグメント別に現在の経営環境等に対する認識について簡潔な説明を記します。
[映画事業]
映画営業事業においては、当社配給作品である邦画について、適切な感染防止策を実施することで、順調に製作・配給が可能となる状況にあります。また、洋画が軒並み公開延期となった影響もあり、興行力のある邦画コンテンツを継続的に提供できる配給会社としての当社のシェアは2021年において41%を占め、競合他社との間で圧倒的な競争優位性を維持しています。コロナ禍の影響がより深刻であった欧米の映画産業にも改善の傾向が見られ、東宝東和㈱等が国内配給を担当するハリウッドメジャーの新作についても、次期(2023年2月期)からは、これまでの延期作品も含め順調な公開が見込まれます。一方で、動画配信プラットフォーム各社が急速に会員数を増やしたことは、当社作品の二次利用等の機会創出につながる反面、それら配信プラットフォーマーが日本国内において自ら作品製作に乗り出すことにより、映画等の製作における影響力を強めていく懸念があります。
映画興行事業においては、3度目となる緊急事態宣言による東京・大阪等での休館や営業時間の短縮、座席販売の制限等の実施があったものの、自然暦による2021年の全国映画興行収入は前年比113%と緩やかな回復傾向を見せました。一方で、過去最高の興行収入を記録した2019年と比べると約1000億円も下落した状況にあり、映画業界全体としては本格的な回復には至っていないという見方もできます。今後に向けては、洋画のヒット作品の本数拡大や、ファミリー層やシニア層等の幅広い動員の回復が望まれる状況にあります。そのような状況下にありながら、TOHOシネマズ㈱は全国の主要都市の好立地にシネマコンプレックスを展開し、スクリーンシェアでは20%弱、興行収入のシェアは30%弱と業界トップを維持しており、競合他社との競争優位性に揺るぎはありません。新型コロナウイルスの収束とともに興行収入は着実に回復していくものと考えますが、洋画の先行きが不透明であることや、海外のメジャースタジオが劇場公開を取りやめ自社系列のプラットフォームでの独占配信に切り替えるケースや、一部の作品で劇場公開との同時配信を開始するケースが見られるなど、動画配信市場の動向が映画興行事業へ与える影響については、今後も注視していく必要があると認識しています。
映像事業においては、コロナ禍における巣ごもり消費の活性化もあり、アニメ関連市場が着実な成長を見せております。当社においては「僕のヒーローアカデミア」「呪術廻戦」といったTOHO animationレーベルのシリーズ作品が大きな話題となり、パッケージ・国内外の配信・商品化ライセンス等の幅広い事業を展開することによって、当社グループ全体を大きく牽引する特筆すべき業績となりました。また、市場の収縮が続くDVD、Blu-rayにおいても、「ウマ娘 プリティーダービー Season2」の販売が非常に好調な成績を収めました。㈱東宝ステラの運営するECサイト「TOHO animation STORE」においては、アニメ関連グッズの売上の急拡大が見られました。以上のように、国内外の多くの熱心なファン層に支えられ、アニメ関連市場は中・長期的な成長が期待できるものと認識しており、本年4月に策定した「TOHO VISION 2032」においても、アニメ事業を「映画・演劇・不動産」に続く「第4の柱」と位置づけ、今後の当社グループの成長ドライバーとして経営資源を集中し、多面的・重層的・長期的なビジネス展開に注力していくこととしています。また、TOHOスタジオ㈱では、映画・映像制作及びスタジオ事業の一体化を図り、外資系動画配信プラットフォームのスタジオ賃貸を誘致するなど、順調に稼働しました。一方で、㈱東宝映像美術や東宝舞台㈱では、テーマパークにおける展示物の製作業務の見直しや音楽ライブイベントの再開見通しが立たないことによる美術製作・舞台製作における受注減の影響が長期化しており、その回復の見通しについては、今後も注視していく必要があります。
[演劇事業]
演劇事業では、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う出演者・スタッフへの感染対策を徹底するため、一部公演の中止をせざるを得ないリスクが継続しています。演劇は映画と異なり一回一回の公演が生モノであり、マスクを着用できないライブ・エンタテインメントのため、感染対策にはとりわけ困難が伴いますが、2年以上に及ぶコロナ禍を経て、事業継続体制に関するノウハウの蓄積が業界全体で進んでおり、公演を中止せざるを得ないリスクについては、徐々に低減が図られています。さらに、当社の提供する演劇公演は熱心なファン層に支えられており、多数の公演においてお客様の動員の回復が顕著に見られます。一方で、シニア層を中心にした各種団体のお客様への販売を一定程度想定してきたことから、長引く外出自粛ムードが団体動員活動に与える影響については、今後も注視していく必要があります。なお、コロナ禍において演劇の動画配信の積極的な活用等を促進しており、それらについては演劇事業における損失の補填に留まらず今後の業績拡大の機会になると認識しております。また、東宝芸能㈱では、コロナ禍にあっても所属俳優がCM・TV・映画出演等で順調に稼働しております。
[不動産事業]
不動産賃貸事業では、新型コロナウイルス感染症の影響によりオフィス市況の変化や商業施設の休館等で引き続き厳しい状況下にあります。不動産市況全体では、東京都心地区のオフィス空室率が6%台と高い数値で推移しており、坪当たりの平均賃料についても低下傾向が見られます。一方で、好立地が多い当社グループ保有物件の空室率は1%未満の低い水準で推移しており、平均賃料も比較的底堅い状況にあります。しかしながら、当社グループのテナントには、新型コロナウイルス感染症が事業に与える影響が大きいホテルや百貨店・飲食店等の商業施設の割合が大きく、それら業種の業績悪化が当社グループの不動産賃貸事業の賃料収入に与える影響については、今後も十分に注視していく必要があります。
道路事業においては、老朽化による道路関連のインフラ整備をはじめとする公共投資の受注は引き続き堅調であり、コロナ禍の影響はほぼ感じられず、今後も当面は順調に推移すると思われます。スバル興業㈱と同社の連結子会社が積極的な営業活動により新規受注や既存工事の追加受注による業績拡大に努めてまいります。
不動産保守・管理事業においては、連結子会社である東宝ビル管理㈱及び東宝ファシリティーズ㈱が社会全体の“エッセンシャルワーカー”としての強みを生かし、コロナ禍にあっても受注を徐々に回復させております。
[その他事業]
娯楽事業及び物販飲食事業においては、「東宝調布スポーツパーク」でゴルフ練習場、テニスクラブ等を運営する東宝共栄企業㈱が、コロナ禍にあっても屋外スポーツメリットを活かし利用者数を伸ばす一方、飲食店舗・劇場売店等を運営するTOHOリテール㈱は、外食需要の厳しい落ち込みが長期に渡り、先行きの回復も不透明なことから、2021年8月をもって直営飲食事業から撤退しました。
当社グループは、経営目標の達成状況を判断するための指標として「営業利益」を最も重視しております。
創立100周年を迎える2032年をターゲットとした「長期ビジョン 2032」においては、営業利益750億~1000億円の企業集団への成長を目指すとしております。なお、その際のROEのイメージを8%~10%程度とし、利益だけでなく資本効率を意識した経営を行ってまいります。
「中期経営計画 2025」では、営業利益において過去最高益(528億円)の更新に挑戦するとしています。また、本期間においては、コロナ禍からの回復を見極めつつ、次の「成長」を実現すべく「投資」を重視し、成長投資の金額として3カ年合計で1100億円程度を見込むとしております。その他の数値目標では、株主還元として年間40円の配当をベースに配当性向30%以上、かつ機動的な自己株式取得の実施、資本効率の指標としてROE8%以上を掲げております。
当社グループを取り巻く経営環境は、いまだ収束が見えない新型コロナウイルス感染症に加え、地政学的リスクの高まりを受けた世界経済の混乱がもたらす様々な影響が懸念され、先行きの見通しは不透明感を増しております。
このような不確実性の高い状況下において、当社グループがさらなる成長を遂げるためには、お客様の価値観や生活・行動様式の変化に柔軟に対応するとともに、これまで以上に長期的視点に立った経営戦略の明確化が不可欠と考えられます。
そのような認識に基づき、当社グループは本年4月、創立100周年に向けた「長期ビジョン 2032」と、今後3カ年の具体的な施策である「中期経営計画 2025」とから構成される「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」を策定・公表いたしました。
「長期ビジョン 2032」においては、「Entertainment for YOU 世界中のお客様に感動を」という新たなコーポレート・スローガンのもと、成長に向けた「投資」を推進すること、「人材」の確保・育成に注力すること、アニメ事業を「第4の柱」とすることを、3つの重要ポイントとして掲げました。さらに「企画&IP」「アニメーション」「デジタル」「海外」の4つを成長戦略のキーワードとし、2032年に向け、これらをドライバーとした飛躍的な成長ストーリーを実現すべく、果敢に挑戦してまいります。
「中期経営計画 2025」においては、今後3カ年を「コロナ禍からの回復と次なる飛躍的成長への基盤固めの期間」と位置づけ、数値目標については、コンテンツや不動産関連等の「成長投資」に軸足を置きながら、映画・アニメ・演劇・不動産の各事業において、個別の事業戦略に基づいた取り組みを着実に推進してまいります。
また、これら経営戦略と連動する形で「人材と組織の戦略」「サステナビリティの方針」を策定いたしました。人材と組織については、成長の推進役となる多様な人材の採用を強化するとともに、よりクリエイティブな組織に進化すべく人材育成と働く環境の整備を進めてまいります。サステナビリティに関しては、「エンタテインメントの提供を通じて誰もが幸福で心豊かになれる社会の実現に向けて“朗らかに、清く正しく美しく”貢献します」を基本方針とし、当社グループならではの課題と目標を明確にして取り組んでまいります。
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