当社グループにおける経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりである。
なお、文中の将来に関する事項は、別段の記載がない限り当連結会計年度末現在において判断したものであり、また、様々な要素により異なる結果となる可能性がある。
当社グループは、経営理念として「全社一体となって、科学的合理主義と人道主義に基づく創造的な進歩と発展を図り、社業の発展を通じて社会に貢献する。」ことを掲げ、さらに、企業経営の根幹を成す安全衛生・環境・品質に関する基本方針として「関係法令をはじめとする社会的な要求事項に対応できる適正で効果的なマネジメントシステムを確立・改善することにより、生産活動を効率的に推進するとともに、顧客や社会からの信頼に応える。」ことを定めている。
こうした方針に基づく取り組みを通して、より高い収益力と企業価値の向上を目指すとともに、社業の永続的発展により株主、顧客をはじめ広く関係者の負託に応え、将来に亘りより豊かな社会の実現に貢献していく。
当社グループを取り巻く経営環境は、近年、産業構造や人々の生活・行動、価値観の変容に加え、地球規模での気候変動と脱炭素化、デジタル化の進展などにより、急速に変化している。昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大は、世界全体に著しい影響を及ぼし、社会・経済・技術の変化のスピードを加速させている。
こうした経営環境において、当社グループが持続的に成長するためには、多様な人材を呼び込み、外部リソースと連携しながら価値を共創することが重要と考えている。この認識のもと、当社グループが目指す方向性を広くグループ内外と共有するため、ビジョンを定めている。
ビジョンは、目指す方向性を文章で表現した「ステートメント」とそれを実現するうえで「大切にしたい価値観」から構成されており、過去に対する敬意と未来への挑戦という2つの意を込めている。また、大切にしたい価値観は、当社グループを木に見立て、いかに大きく成長させるかという視点に基づいている。
当社グループは、SDGsをはじめとした社会課題と事業活動の関連を確認・整理したうえで、社会・環境への影響度が大きく、かつ当社グループの企業価値向上や事業継続における重要度が高い課題を抽出し、7つのマテリアリティを特定している。マテリアリティに取り組むことを通じて、社会課題解決と企業価値向上の両立を目指していく。
マテリアリティと関連するSDGs
(4) 経営環境
当連結会計年度における世界経済は、新型コロナウイルス感染症の拡大と鎮静化が繰り返される中、一時的に停滞する局面もみられたが、全体としては欧米を中心に回復基調となった。一方で、ウクライナ情勢などの地政学的リスクにより先行きの不透明感は高まっている。
我が国経済については、感染防止対策と社会経済活動の両立が図られ、輸出や生産などに持ち直しの動きがみられたものの、感染症は依然として景気回復に向けたリスク要因となっている。
国内建設市場においては、企業の投資意欲が次第に高まったことに加え、公共投資が底堅く推移したことから、建設需要は増加傾向となったが、受注競争の厳しさは継続している。建設コストに関しては、鉄鋼や石油製品等の資材価格が上昇する状況が続いている。
今後の世界経済において、新型コロナウイルス感染症の影響が収束する時期を見通すことは困難であるものの、感染症対策の効果による各種制限の緩和に加え、脱炭素社会への移行などサステナビリティ課題解決に向けた投資の拡大により、経済の活性化が進展することを期待している。しかしながら、ウクライナ情勢などの地政学的リスクが高まる中、資源価格の上昇や金融市場の変動などが経済に与える影響を注視する必要があると考えている。
建設市場においても、国内外における建設投資の回復傾向が継続することが期待され、特にデジタル化や再生可能エネルギーなどに関連する需要は高まりをみせている。一方で、資機材の価格が一段と上昇することが懸念され、調達面での対策が必要となっている。また、国内においては、次世代の担い手確保の観点から、協力会社を含む建設業従事者の処遇改善と働き方改革、並びに生産性向上を一層推進していくことが求められている。
このような経営環境の中、当連結会計年度を開始年度とする「鹿島グループ中期経営計画(2021~2023)-未来につなぐ投資-」に基づき、直面する課題に対応して、業績の維持向上を図るとともに、中長期的な成長に向けた投資を実施している。
中期経営計画の概要と取り組み状況については以下のとおりである。
① 中期経営計画の位置づけ
「鹿島グループ中期経営計画(2021~2023)-未来につなぐ投資-」は、「経営理念」に加え、「ビジョン」、「マテリアリティ(重要課題)」と結びついている。
② 計画全体像(2030年にありたい姿と主要施策)
「鹿島グループ中期経営計画(2021~2023)-未来につなぐ投資-」は、中長期的目標である「2030年にありたい姿」を念頭に置き、「①中核事業の一層の強化、②新たな価値創出への挑戦、③成長・変革に向けた経営基盤整備とESG推進」を3つの柱として、厳しい経営環境においても、業績を維持・向上させながら、中長期的な成長に向けた投資を実施し、当社グループの将来にわたる発展につなげる計画としている。
③ 主要施策の取り組み状況
1)中核事業の一層の強化
建設事業においては、成長領域を見据えた提案力、設計施工力、エンジニアリング力の強化を進め、重点分野である再開発事業や生産・物流施設等において大型工事を受注している。また、自動化施工等の技術開発とデジタル化の推進により、次世代建設生産システムを進化させ、生産性の更なる向上を図っている。設計段階からデジタル化を進めることにより施工との連携を強め、顧客ニーズへの対応力を高めるとともに、設計仕様・数量の早期確定を図り迅速な調達につなげるなど、資材価格の上昇対策にも注力している。
開発事業においては、米国や欧州を中心に投資の成果が業績に貢献しはじめている。国内外の景気動向を見極め、リスク管理を徹底した投資と回収を計画的に進めることにより、効率性の高い投資サイクルを継続していく。
引き続き、国内外において、中核事業である建設事業、開発事業の相乗効果を高めるとともに、事業展開地域間の連携・補完により、建設事業及び開発事業に関わるあらゆるフェーズにおいて持続的に価値を提供できるバリューチェーンの構築を図っていく。
2)新たな価値創出への挑戦
建設や街づくりの知見・データを活用するとともに、オープンイノベーションや投資を通じた異業種・ベンチャー企業との提携により、環境・エネルギー、スマートシティ・スマートソサエティ、インフラ運営など有望分野での事業展開を進めている。
また、オープンイノベーションと新たなビジネスの創出を更に進めるため、技術開発に積極的なシンガポールにおいて、先進的技術を研究・開発するための新拠点「The GEAR」(2023年完成予定)を建設中である。
3)成長・変革に向けた経営基盤整備とESG推進
全ての企業行動の根底となるコンプライアンスを最重要課題と認識し、サプライチェーン全体において、法令遵守、品質及び安全等の様々なリスクへの対応を強化している。
次世代の担い手確保に関しては、技能労働者の処遇改善と安全・品質管理の強化につながる重層下請構造改革に挑戦するとともに、協力会社の人材育成を目的として「鹿島パートナーカレッジ」を開設した。また、当社グループの持続的な成長を担う多様な人材を確保・育成するための新しい研修施設「KX-LAB」の開設や、生産性を高められる柔軟な働き方・職場環境の整備を進めている。
2050年のカーボンニュートラル実現に向けては、資源循環、生物多様性も含めた環境・エネルギー課題の解決を目指す「鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050」に基づく活動を積極的に推進していく。
④ 投資計画の進捗状況
3年間の中期経営計画期間中に、総額8,000億円の投資と開発事業における3,600億円の売却による回収を計画しており、当連結会計年度は総額2,520億円の投資、1,070億円の回収を行った。中核事業の強化とともに、新たな価値創出に向けた成長投資を継続的に推進していく。
(6) 目標とする経営指標
2023年3月期は、新型コロナウイルス感染症の状況やウクライナ情勢などを慎重に見定めつつ、リスク管理を徹底した事業展開に努めていく。業績に関しては、国内外において売上高の増加を見込むものの、経済動向の先行きが不透明であることから、資機材価格の上昇などのリスク要因を利益面で見込んでいる。海外事業については、引き続き北米を中心とした流通倉庫開発事業などにおける物件売却が業績に貢献すると見込むとともに、東南アジアにおける業績が、感染症による影響の軽減に伴い、時間を要しつつも段階的に回復に向かうと見通している。
このような国内外の状況を勘案し、2023年3月期の業績予想を、2022年5月13日に下記のとおり公表している。
また、「鹿島グループ中期経営計画(2021~2023)-未来につなぐ投資-」においては、最終年度である2024年3月期の経営目標を売上高2兆2,500億円程度、親会社株主に帰属する当期純利益950億円以上としている。また、2025年3月期から2027年3月期の期間においては、東南アジアにおける業績が感染症拡大前の水準に回復するとともに、事業領域拡大や新たな価値創出に向けた「未来につなぐ投資」の成果が徐々に現れ、安定的に親会社株主に帰属する当期純利益1,000億円以上を計上できる体制を構築することを目指し、2031年3月期には1,300~1,500億円以上の水準を目指している。
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