当社グループは、近年の社会環境の大きな変化を踏まえ、社会課題解決と企業価値向上の両立を目指して技術開発を進めている。中期経営計画(2018~2020)において重点的に取り組んだ生産性向上・生産能力増強に繋がる技術開発は、デジタル建設生産システムの構築を目指す新たなフェーズに入った。さらに、長く使い続けられる社会インフラや、「鹿島環境ビジョン:トリプルゼロ2050」の実現等、社会課題解決と新たな価値創造に資する研究開発を中長期的な課題として取り組んでおり、大学、公共機関や他企業との共同研究も推進しながら、効率的に実施している。
当連結会計年度における研究開発費の総額は
当社は、阪神高速道路㈱と共同で、UFC道路橋床版を阪神高速12号守口線本線の床版取替工事(大阪市北区)に適用した。UFC道路橋床版を適用した高速道路本線の床版取替工事は国内で初めてであり、旋回可能な専用架設機により、作業の効率化を図ることで、通行止め期間を大幅に短縮した。
本工事で得られた高速道路本線における床版取替工事の知見を活かし、高度成長期に建設され老朽化が進行している床版の大規模リニューアル工事に向けた検討を進め、技術の更なる向上を図っていく。
*1:Ultra-high strength Fiber reinforced Concrete(超高強度繊維補強コンクリート)
当社は、四国横断自動車道吉野川大橋工事(徳島県徳島市)において、架設前のセグメント形状を3次元デジタルカメラにより全方向から計測し、架設線形を高精度に予測する出来形管理を実施した。本工事は、プレキャストセグメント橋として世界最長規模の張出し架設長を有するが、この技術により、架設途中での線形修正なしに施工することが可能となり、生産性の大幅な向上に繋がった。
今後、本工事で活用した3次元デジタルカメラによる出来形管理を、プレキャスト部材を活用した様々な工種に展開することも検討し、更なる生産性と品質の向上に繋げていく。
当社は、工場で製作する各種部材の製作・運搬・施工の各フェーズにおける進捗予定と実績を、 BIM データと連携して管理する進捗管理システム「 BIMLOGI ※ 」を開発した。本システムの活用により、日々刻々と変化する工事の進捗状況を、リアルタイムに把握し関係者間で共有し、工事の手戻りや手待ちの発生を減らすことができる。
都内の大型建築現場において、本システムによる進捗管理を実証し、所期の効果を得たことから、今後、本システムを既開発の各種現場管理ツールと連携し、より合理的な現場管理を目指す。さらには、本システムを CO 2 排出量算定ツールとしても活用することで、現場毎の CO 2 排出量の把握と削減に取り組み、脱炭素社会への移行に積極的に貢献していく。
④ 「KTドーム ※ 」工法を実工事に適用
当社は、ドーム・テクノロジー社との技術提携により、多様なドーム型構造体の構築が可能な「 KT ドーム ※ 」工法を開発した。本工法は、工場製作したドーム型のポリ塩化ビニル膜に空気を送り込んで膨らませ、これを型枠として内側からコンクリートを吹き付けることで躯体を構築していくものであり、施工中に天候の影響を受けにくいため、工期の短縮や建設コストの低減が可能となる。
2020 年 3 月に、当社の西湘実験フィールド(神奈川県小田原市)において、国内で初めて本工法によるドーム型事務所棟を建設した実績を踏まえ、 2021 年6月に、本工法を貯蔵サイロ建設工事(山口県周南市)に適用した。今後、本工法の活用範囲を広げ、アリーナなど様々な用途の建物に展開していく。
当社は、建設会社45社とともに、建設業界全体の生産性及び魅力向上をより一層強力に推進することを目的に、建設施工ロボット・IoT分野での技術連携に関する「建設RX(*2)コンソーシアム※(*3)」を設立した。
本技術連携の対象は、施工関連技術のうち、ロボット・IoTアプリ等に関する共同研究開発であり、新規開発、改良、実用化及び技術開発に伴う技術の実施許諾を含む。我が国の建設業界を担う企業及びこれに協力・支援する企業が、各々の自主性を尊重しつつ、施工に活用するロボットやIoTアプリ等の開発と利用の推進について協働することで、技術開発のコスト削減、リスクの分散、開発期間の短縮を図り、それらの普及を加速させていく。
*2:Robotics Transformation
*3:幹事会社である当社、清水建設㈱及び㈱竹中工務店の商標
当社は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)と、月面での無人による有人拠点建設を目指して、2016年より遠隔操作と自動制御の協調による遠隔施工システムの実現に向けた共同研究を進めてきた。2019年3月に当社の西湘実験フィールドにおいて自動化建設機械による実験を行い、その成果を基に、2021年3月に更なる発展型として、遠隔からの建設機械の操作及び自動運転による施工実験を共同で行った。その結果、JAXA相模原キャンパス(神奈川県相模原市)から1,000km以上離れたJAXA種子島宇宙センター衛星系エリア新設道路等整備工事(鹿児島県南種子町)の建設機械を遠隔で操作し、さらに相模原からの指令により自動運転に切り替えた上で作業を行い、高い精度での施工が可能であることを確認した。
当社は、技術研究所本館研究棟(東京都調布市)において、「WELL Building Standard(*4)」(WELL認証)の最高ランクであるプラチナ及び感染症の流行時やその他緊急事態における施設の健康安全性を評価するWELL Health-Safety Rating(WELL健康安全性評価)を取得した。WELL認証は人間の健康に焦点を置いた国際的な環境評価システムであり、特に、当社が開発した五感に訴えるウェルネス空間「そと部屋※」は先進的な取り組みとして高い評価を受けた。
今回の認証及び評価取得を通じて蓄積されたナレッジをベースに、今後、建物利用者の快適性、知的生産性、健康面、安全性に配慮した空間の実現を積極的に提案していく。
*4:International WELL Building Institute PBCの登録商標
当社は、国立研究開発法人理化学研究所(以下、理化学研究所)を中心とした、スーパーコンピュータ「富岳」を活用した新型コロナウイルス対策プロジェクト「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」(代表者:理化学研究所/神戸大学 坪倉教授)に参画しており、同プロジェクトが2021年ゴードン・ベル賞COVID-19研究特別賞を受賞した。本賞は、計算科学分野で権威のある賞の一つで、スーパーコンピュータによる高性能並列計算を科学技術分野へ適用することに関してイノベーションの功績が最も顕著と認められた研究に与えられる。
当社は、2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)以来の感染症の流行を受けて、2011年より室内環境におけるウイルス飛沫シミュレーションの研究開発を行っており、独自に開発したプログラム及び自社保有の計算サーバーや可視化実験装置を用いて、飛沫感染に対する建築計画及び設備計画上のノウハウを蓄積している。こうした知見を活かし、様々な室内環境の計算モデルの作成と境界条件設定などの室内環境シミュレーションや結果に対する検証、感染リスク低減策の提案を行っている。
*5:理化学研究所の登録商標
当社は、関係会社の㈱アバンアソシエイツ、㈱イー・アール・エス及び㈱カジマアイシーティと共同で、地方自治体の公共施設アセットマネジメントを支援する分析システム「KCITY-M※」を開発した。本システムは、各種のオープンデータやGIS(地理情報システム)を用いて、地域防災や将来人口・まちづくり、施設のマネジメントに資する分析サービスを提供するものである。さらに、総合分析として評価指標の重みづけを自治体の状況に応じて調整しつつ、全体最適の視点に立って、施設の総合的な特性や想定される対策の優先順位を見える化して提供する。
今後、本システムを活用して、公共施設の維持・再編や防災・BCP対策等、地方自治体への支援サービスを展開し、地域社会の課題解決に貢献していく。
(3) 成長・変革に向けた経営基盤整備とESG推進
① NEDO(*6)グリーンイノベーション基金事業「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト」に参画
当社は、NEDOの「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト」のコンクリート分野の開発項目について、デンカ㈱及び㈱竹中工務店と共同でコンソーシアム(民間企業44社、10大学及び1研究機関による)を構成して提案を行い、2022年1月24日に採択された。
本研究開発においては、高いレベルで汎用性のあるカーボンネガティブコンクリートを実現するとともに、施工技術の開発、品質評価技術を確立することで、実社会への本格的な普及を目指す。併せて、今回の技術開発で取り組む積極的なコンクリートへのCO2固定化により、脱炭素から「活炭素」へのステージ移行をさらに推し進め、温室効果ガス削減という社会課題解決に貢献していく。
*6:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
② NEDOグリーンイノベーション基金事業「洋上風力発電の低コスト化プロジェクト」に参画
当社は、日立造船㈱と共同で、 NEDO の「浮体式基礎製造・設置低コスト化技術開発」事業を開始した。本事業では、「洋上風力発電のセミサブ型ハイブリッド浮体の量産化・低コスト化」をテーマに、浮体式基礎の最適化、浮体式基礎の量産化及びハイブリッド係留システムについて、研究開発を行うものである。
本研究開発においては、双方がこれまで培ってきた技術力を融合し、その成果を将来の社会実装、さらにはカーボンニュートラル社会の実現に繋げられるよう取り組んでいく。
③ 多様な再エネ熱を熱源としたヒートポンプシステムの実証試験を開始
当社は、ゼネラルヒートポンプ工業㈱と共同で、 NEDO の「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」事業において、㈱豊田自動織機 大府工場(愛知県大府市)に「 SSHP ※ (*7) 」(天空熱源ヒートポンプ)システムを設置し、実証試験を開始した。本実証では上流(設計段階)から下流(運用段階)に係るコンソーシアム体制を構築することで、導入コスト低減に向けた各要素技術開発と緊密に連携する。
同施設での運転とモニタリングを通じてデータを収集し、システムの最適化によるコスト削減目標の実現と CO 2 削減を目指す。
*7:Sky Source Heat Pump
(国内関係会社)
舗装に関する新技術の開発
舗装現場のDX化、CO2排出抑制技術、建機の自動化等ICTを用いた省力化、省人化技術、重機の安全性向上技術等について、研究開発を進めている。
舗装現場のDX化として、アスファルト混合物の運搬状況と温度及び転圧回数をリアルタイムに確認・管理できるシステム、KSSL(*8)を開発し、実工事に適用した。また、構造物更新技術として、接着剤を用いて従来技術より高品質となるコンクリート床版拡幅技術を開発した。
*8:Kajima Smart Site Link
環境実験室の新設とその成果
土壌汚染対策のための環境技術の更なる向上を目指し、関連技術の開発速度を速めることを目的として環境実験室を新設した。本実験室は、二重床構造により汚染物質の漏洩確認を可能としたほか、床面の浸透防止塗装や排ガス・廃水処理装置を完備することで、汚染物質取り扱いの安全性を高めた。また、リアルタイムPCR分析機、ガスクロマトグラフ質量分析計及びX線分析装置付電子顕微鏡の導入により、土壌汚染対策工事に必要な汚染物質分解微生物の遺伝子解析及び土壌汚染対象物質となる有機・無機の有害物質の分析が可能となった。
これらの設備を用いることで、解析・分析データの蓄積が飛躍的に増え、長年の課題であった微生物分解技術を用いた土壌浄化工法の設計手法を確立し、その結果、既存の環境技術である「バイオジェット※」工法の精度向上や適用範囲の拡大が可能となったほか、新規の研究開発を大きく進展させることができた。
今後も環境技術の更なる向上のため、内製化により蓄積されるデータを基に既存技術を深化させていくとともに、新たな技術開発を進めていく。
研究開発活動は特段行われていない。
(注) 工法等に「※」が付されているものは、当社及び関係会社の登録商標である。
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