研究開発活動

5【研究開発活動】

当社はコーポレート・メッセージとして『人と地球にあたたかな技術』を掲げております。これは「技術は人のため、地球に生きるみんなのために使われるべきものであり、技術を使う我々は、それを理解して事業活動を持続していく」という精神と決意を謳っております。総合技術研究所をはじめ、本社技術部門ではこの決意に則って、研究開発に取り組む技術が地球環境に優しいこと、また生産性を向上させること、そしてより安全であることを希求して日々研鑽を積んでおります。

当連結会計年度においては「カーボンニュートラルに資する洋上風力関連事業への取り組み」「ICTおよび自動化技術の導入による生産性向上」「建設DXの推進」等の社会課題に対して研究開発を推進してまいりました。主な成果は以下のとおりです。なお国内土木事業、国内建築事業及び海外建設事業を対象に行った研究開発活動の総額は997百万円となりました。

 

(1) サクションバケット基礎の施工技術実証試験

 当社は、洋上風力発電施設の着床式基礎工法であるサクションバケット基礎工法の開発を、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成を受け、日立造船株式会社と共同で開発を進めております。

 2021年度は、サクションバケット基礎大型模型(基礎重量約100t、基礎高さ約20m)の施工技術実証試験を実海域で実施し、施工速度や施工精度などが既存工法と同程度であること、優れた撤去性を有すること、施工中の振動騒音・汚濁などの環境負荷が極めて少ないことを確認いたしました。また、将来の大型風車(15MW級以上の風車)に対応できる基礎形式であるマルチバケットタイプの室内実験を実施し、2022年夏頃に実海域での大型模型実験を行う予定です。今後、技術認証を経て2026年頃にサクションバケット基礎の実用化を目指してまいります。

 

(2) TLP方式による浮体式洋上風力発電施設の係留基礎に関する技術開発

 当社は、2020年度よりNEDOの委託を受け、洋上風力発電施設における新たな浮体係留形式として期待されるTLP(Tension Leg Platform『緊張係留』)方式の係留基礎設計手法および低コスト化施工方法の開発を実施しております。

 2021年度においては、当社並びに三井海洋開発株式会社、古河電工株式会社、株式会社JERAと共同で、グリーンイノベーション基金事業の『洋上風力発電の低コスト化プロジェクト』に「TLP方式による浮体式洋上風力発電 低コスト化技術検証事業」を提案し、採択されました。本事業は、2030年代初頭の浮体式によるウインドファームの実用化を念頭に、浮体・係留システム及び海底送電システムの要素技術の確立を目指すものであり、当社はこの事業の中で係留基礎の要素技術を担当いたします。

 TLP方式は、海底基礎との緊張係留による高い安定性により、発電コストの低減と占有面積を抑えた社会受容性が期待される係留方式であり、今後の浮体式洋上風力発電の普及に必要な技術です。当社も海洋構造物の設計と施工に関する豊富な実績を最大限に活用し、TLP方式の実用化を目指してまいります。

 

(3) 「打設杭トータル施工管理システム Pile T」の開発

 当社は、杭の打設における位置誘導から支持層への打止め確認までの施工管理を合理化できる「打設杭トータル施工管理システムPile T」を開発し、現場に導入いたしました。

 このトータルシステムは、当社のNETIS登録技術である「3D鋼管杭打設管理システム(NETIS、CBK-150003-A)」を発展させ、VR(仮想現実)空間上に 3Dモデルで杭の打設状況を表示できるようにしたもので、打設中の杭だけでなく周辺の構造物や地層分布もリアルに可視化され、オペレーターの技量や経験に左右さない高精度で効率的な杭の打設が可能となりました。また、支持層での打止め確認に必要な計測員の省人化を図ることもできました。

 今後は、当システムでデジタル化した計測データをBIM(Building Information Modeling)/CIM(Construction Information Modeling)と連携させ、更に高品質で生産性の高い杭工事を実現してまいります。

 

(4) ポンプ浚渫施工管理システム「TOP SYSTEM-Auto」に「運転学習機能」を搭載

 当社は、当社が開発したポンプ浚渫施工管理システム「TOP SYSTEM-Auto」に「運転学習機能」を搭載し、ポンプ浚渫作業の更なる効率化を図りました。

 「TOP SYSTEM-Auto」は、GNSS(Global Navigation Satellite System)によるポンプ浚渫船の位置情報や各種センサーにより得られるカッターヘッドの位置及び深度情報をもとに、設計値に従いラダー位置を自動制御し、浚渫状況をリアルタイムで3次元アニメーション表示するものですが、今回このシステムに熟練オペレーターの運転技術を学習・再現する機能を取り入れることで、従来の深度方向に加えて水平方向の浚渫作業においても自動化を実現いたしました。

 浚渫作業の自動運転は、オペレーターの技量や経験に左右されず、高い精度で効率的な施工を可能とします。今後も実工事での検証を重ね、自動運転のさらなる精度向上を図ってまいります。

 

(5) 透明ディスプレイ表示システム「スルーNavi」の開発

 近年の港湾工事におけるICT施工では、船舶の操船室やクレーンの操作室にレーダーやGNSS、カメラ映像などのデータを活用するために複数のモニターが配置されており、情報を見るために操作者はその都度、視線を該当のモニター画面に移さなければなりません。そこで当社は、操作者の負担軽減と危険性の除去、さらには視認性を高めるため、施工管理・支援システムから発信される誘導や指示などの信号データをリアルタイムに透明なディスプレイへ表示させるシステムを開発いたしました。

 このシステムを当社の海上衝突防止支援システムに搭載して実際に海域を航行したところ、透明ディスプレイの透過性と、そのディスプレイへのタイムラグのない視認性の高い信号データの表示の両立を確認することができました。これにより、操作者は視界を遮られることなく、航行中のデータや海上衝突防止支援システムの情報を確認しながら、より安全に操作することが可能となりました。

 今後、このシステムを陸上機械モニターにも装備展開していくとともに、ガラスの透明ディスプレイ化やAR(拡張現実)表示、海中・水中対応の透明ディスプレイ化等、多種多様な開発に取り組み、安全性確保と施工効率向上を図ってまいります。

 

(6) 広域俯瞰映像を表示できる「フライングビュー※」を海上工事の安全対策に適用

 当社は、沖電気工業株式会社、富士通株式会社と協働し、国土交通省四国地方整備局発注の浚渫工事において、海上運搬を行う土運船に沖電気工業株式会社のリアルタイムリモートモニタリングシステム「フライングビュー」を試験導入し、海上工事の安全対策での実用性を確認いたしました。

 今回の試験導入においては、4台の魚眼カメラを一体化したユニットを作業船に取り付け、撮影した映像を操船室のモニターに死角の無いシームレスな映像として表示し、土運船の離接舷状況、浚渫土積込中の作業員動向状況などを詳細に把握できることを確認いたしました。また、土運船の海上運搬中においては、フライングビューの広域俯瞰映像を用いたAI船舶検知システムによる船舶の検出機能が、船長や見張員の目視監視を補完できることを確認いたしました。

 今後はフライングビューによる船舶画像をAIに追加学習させ、船舶検知システムの精度を向上し、更なる安全性の向上を図ります。また、フライングビューの俯瞰映像とAIを融合させ、船上作業員の動向を検知するシステムの開発など建設DXを推進し、安全性や作業効率の向上を図ってまいります。

※フライングビュー:沖電気工業株式会社の登録商標です。

 

(7) 「カルシア改質土の土運船混合管理システム」の開発

 土運船泥倉内に投入された浚渫土にカルシア改質材を投入し、バックホウにて均一になるまで攪拌混合するカルシア改質土の製造工法では、工程の短縮と品質が求められています。そこで当社はこの攪拌混合を短時間で均一に混ぜることを目的とした「カルシア改質土の土運船混合管理システム」を開発いたしました。

 当システムは、バックホウと土運船にGNSSやチルトセンサーを複数取り付け、バケット刃先の位置と混合時間の履歴、また土運船泥倉内の混合進捗の可視化を図ったものであり、モニター上で混合作業を行う泥倉内をブロック毎に分割して進捗を色別表示していることから、オペレーターの技量差による未改良や混合不足等、品質のばらつきを改善し、均一化と施工効率の向上を図ることができました。

 また、当システムは、函館港若松地区泊地浚渫工事(当社施工)のカルシア改質による浚渫土の有効利用において優れた成果を挙げたことが認められ、第23回国土技術開発賞(入賞)を受賞いたしました。

 

(8) 建築物の省エネルギー性と知的生産性の両立

 当社は、効率良く一次エネルギー消費量を削減する取り組みの一環として、設計施工のオフィスビル案件において「ZEB Ready」(省エネにより従来の建物で必要なエネルギーを50%以下まで削減)認証を取得いたしました。

 近年、ESG投資の考え方が急速に広まっており、オフィスビルなどにおいては、省エネルギー性に加えて執務者の知的生産性向上に対する配慮も求められておりますので、今後はビルの運用段階でのエネルギー削減量のデータを集積し、省エネルギー性と知的生産性の両立を実現したオフィスビルの提案ができる技術の修得を目指してまいります。また、当社では住宅のゼロエネルギー化にも取り組んでおり、ZEB(Zero Energy Building)プランナー、ZEH(Zero Energy House)デベロッパーの登録を済ませ、社会的なニーズに広く対応できる体制を構築いたしました。

 

(9) 設計施工一貫BIMプロセスの研究・開発

 当社は、これまで研究開発してきたBIM-DPX®※による「設計施工一貫BIMプロセス」の取り組みとして、初めて建築確認申請にBIMを適用いたしました。

 また、熊本大学大西康伸研究室との共同研究開発で「鉄骨建方可否判定プログラム」を開発いたしました。さらに、2020年度に続き、当社のBIM連携の取り組み提案が国土交通省BIMパートナー事業として採択されました。この国土交通省BIMパートナー事業では、国土交通省が推進する都市モデル「PLATEAU」と連携し、アルゴリズミックデザインにより計画建物の外装ルーバーを自動生成した後、環境シミュレーションを実施するプロセスを確立いたしました。今後の展開として、これらのデジタル情報を蓄積していくことにより、隠れた価値をAIによって分析・見える化することが可能になります。

 今日の建設業界ではリアル空間の情報をIoTで集め、仮想空間でリアル空間を再現するデジタルツイン、メタバースという手法が台頭しており、様々なデータをクラウド上のサーバで連携させ、AIが分析・処理することで実際の空間で起こりうる現象をシミュレートすることが可能となってきています。当社は、これらの技術をより一層レベルアップすることで、工事監理における安全・品質・生産性の向上に繋げたいと考えております。

※BIM-DPX®:BIM–Digital Process Transformation の略で「BIMによるデジタルプロセスの浸透が、建設業の

       取り組みをあらゆる面でより良い方向に変化させること」と当社が新たに定義した商標登録です。

 

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