課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

  文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

  (1) 経営方針

当社グループは「医療を創る」をミッションに掲げ、樹状細胞ワクチン療法をはじめとするがん免疫療法及びその関連サービスを開発・提供することで、がんで悩む患者やその家族の選択肢を広げ、企業価値の増大を目指してまいります。また、自社の社会的責任(CSR)について考え、行動し、当社グループの発展が社会への貢献につながるよう取り組んでまいります。

当社では、2020年12月15日付「東京証券取引所からの「改善報告書」の再提出請求について」や2021年9月28日付「過年度の適時開示の訂正等に関するお知らせ」などで公表したとおり、会社情報の開示の日時が本来開示すべき日時から遅延してしまったり、事実と異なる情報の開示をしてしまったりするなど、脆弱な管理体制に起因して、当社を取り巻く多くのステークホルダーの皆様の信頼を大きく損ねる結果を引き起こしてしまいました。

当社といたしましては、2021年12月末現在25,078名の株主数を抱える上場会社の責務として、また、当社を取り巻く全てのステークホルダーに対する上場会社としての信頼回復のために、まずは資金繰りを改善し管理体制強化・運用に調達資金を充てる必要があると考えております。

次に、当社グループは、①樹状細胞ワクチンの再生医療等製品としての創薬を目指す、②細胞製品の製造受託事業を拡大するという2つのビジョンの実現を通じて、当社グループの継続的な発展と企業価値の増大を目指します。

医薬品事業においては、樹状細胞ワクチンの再生医療等製品としての承認取得を目指し、膵臓がんを対象とした治験への治験製品の提供を行っております。2024年の製造販売承認申請を目指しており、保険収載されることにより、現状の膵臓がんにおける年間症例数の25倍である5,000症例程度がターゲットとなります。当社の強みは、日本国内で唯一固形がんに対する樹状細胞ワクチン療法の研究開発を行っており、唯一樹状細胞ワクチンの保険収載(医療品が保険適用となること)を目的とした治験を進めている企業であることです。日本で既に保険収載されている免疫細胞療法は、商品名キムリア(一般名:チサゲンレクルユーセル) ですが、樹状細胞ではなくT細胞に基づいており、標的疾患は、白血病の1種であるB細胞性急性リンパ芽球性白血病であり血液がんに限局しており、固形がんではありません 。

細胞医療事業における当社樹状細胞ワクチン等、がんに対する免疫細胞療法の対象は、自由診療における末期がん患者です。2018年に新たに診断されたがんは、980,856例(国立がんセンター)であり、2019年にがんで死亡した人は、376,425人(国立がんセンター)です。このうち、血液がんによる死亡者数は26,262人、固形がんによる死亡者数は350,163人であるため、年間35万人が日本国内の細胞医療事業の潜在的な市場と言えます。再生医療等安全性確保法下で、がん免疫細胞を自由診療で提供している(第3種)と考えられる医療機関は、日本全国で少なくとも396医療機関あり(厚生労働省・届出された再生医療等提供計画の一覧)、当社グループにおける提携医療機関の情報より1施設における年間新規のがん患者60症例と予測されますが、396医療機関が全て、年間新規60症例を治療したとしても年間3万人(潜在的市場の1割未満)には満たないため、固形がんによる末期患者年間35万人には到達していないと考えられます。当社は、樹状細胞ワクチンの薬事承認取得を目指し、契約医療機関における症例実績や新たな技術・ノウハウについて引続き学会・論文発表やセミナー、メディア活動を通じて情報提供することで、医療従事者及び患者がん免疫細胞療法の認知を広げ、日本国内の396医療機関との提携を進めていきたいと考えています。

 

  (2) 経営環境

新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大については、国内ではワクチン接種が始まり、収束の兆しが見えつつあるものの、依然として不透明な状況が続いており、未だに収束の見通しが立っておらず、引き続き企業活動や経済活動への制限を余儀なくされるような厳しい状況が続くものと想定されます。当社においては、取引先医療機関でのインバウンドの患者数の減少による売上の減少等が生じております。現時点において、新型コロナウイルス感染症の収束時期や企業活動、経済活動の回復時期を見通すことは困難であり、今後、新型コロナウイルス感染症の影響により、当社の従業員や取引先でクラスター(集団感染)が発生した場合、テラファーマの操業の中断・遅延などにより、当社の業績に影響を与える可能性があります。当社は、新型コロナウイルス感染症の対策として、従業員の健康管理(検温、手洗い、消毒)を実施し、感染の防止に努めております。

再生医療等製品を新たに定義し、条件及び期限付承認制度の実現等を明記した「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」及び細胞加工業の事業化の実現等を目指した「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」が2014年11月25日より施行され、再生医療・細胞医療の実用化・産業化が加速されております。このような環境の下、当社は事業を展開しております。

 

  (3) 中長期的な会社の経営戦略

当社の過去5期の連結決算にかかる主な経営指標は、以下のとおりとなっており、売上高の大幅な減少が生じるとともに、経常損失及び当期純損失が常態化してしまっている状況になっております。事業再構築を目指す当社としては売上の維持・拡大を重要な指標と位置付けております。

(単位:千円)

 

回次

第13期

第14期

第15期

第16期

第17期

第18期

決算年月

2016年12月

2017年12月

2018年12月

2019年12月

2020年12月

2021年12月

売上高

1,801,837

957,644

516,210

202,182

76,360

106,408

経常損失

△667,159

△261,697

△755,171

△773,236

△1,099,333

△792,232

当期純損失

△918,828

△643,644

△929,701

△1,026,561

△1,067,085

△948,759

純資産額

609,221

1,343,865

614,195

666,243

1,117,254

198,694

総資産額

1,537,520

1,879,612

981,557

1,175,815

1,292,960

326,405

自己資本比率

33.5%

71.4%

62.3%

56.3%

60.4%

△51.4%

現金及び現金同等物の期末残高

709,519

1,518,041

513,031

825,222

780,563

59,469

 

 

当社グループは、2019年8月27日付で当社ホームページにて公表及び2019年9月24日付で適時開示にて公表の「中期経営計画(2019年~2021年)」に基づき、樹状細胞ワクチンを含めた開発品を拡大させることで、がん患者の皆様への貢献と、企業価値の向上を目指してまいりました。

当該計画において策定された重点戦略の概要は以下のとおりです。

   細胞医療事業の増収戦略

   開発品の拡大戦略

   次世代技術の研究開発戦略

①細胞医療事業の増収戦略

当社は、細胞医療事業の増収戦略として、全国の医療機関へのアプローチを行い、全国のいくつかの医療機関と提携を模索していましたが、契約締結には至っておりません。海外の医療機関へのアプローチに関しては、当社樹状細胞ワクチン療法を技術導出した台湾のVectorite Biomedical Inc.(鑫品生醫科技股份有限公司、所在地:台湾新北市、代表取締役:潘 俊佑、以下「VB社」といいます。)が、2021年11月末までに、台湾でのVB社の提携医療機関数を10医療機関としているため台湾では比較的順調に提携医療機関数を伸ばしております。当社は、2025年までに細胞医療事業での売上目標を年間20億円以上とすることとしており、目標達成できるように引き続き努力をしてまいります。

②開発品の拡大戦略

開発品の拡大戦略目標として、和歌山県立医科大学と医師主導治験に必要な資金確保、次の開発品の臨床試験の開始を目指しましたが、和歌山県立医科大学との医師主導治験に必要な資金確保には至っておりません。また、次の開発品として、2019年10月2日付開示で報告しましたように、公立大学法人福島県立医科大学(所在地:福島県福島市)と進行再発胸腺がんに対する樹状細胞ワクチン療法の臨床試験に関する契約を締結しましたが、2020年初頭から、世界で猛威を振るった新型コロナウイルス感染症のために臨床試験が進んでおりません。

③次世代技術の研究開発戦略

次世代技術の研究開発として、樹状細胞ワクチンに用いる新規がん抗原の開発と新たながん免疫療法の開発を目標として進めてまいりました。新規がん抗原の開発として、2020年8月11日付開示でも報告しましたように、当社は、国立大学法人旭川医科大学が開発した新規がん抗原「ステルスがん抗原」の独占的通常実施権を取得しました。新たながん免疫療法の開発としては、2021年1月5日付開示でも報告しましたように、当社は慶應義塾大学医学部から子宮頸癌に対するTIL療法の製造の委託を受け、慶應義塾大学医学部の当該臨床試験が開始されました。当社は当該TIL療法を、次の開発品とできるように研究開発をサポートしてまいります。

 

(4) 特に優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 安定的な資金調達及び収益構造の改善

当社グループは、がん治療用再生医療等製品として樹状細胞ワクチンの承認取得へ向けた活動を含め、グループ事業運営のために十分な資金を調達する必要があります。当社グループは、営業活動の強化や事業コストの適正化に努めてまいりましたが、前期に引き続き資金繰りに懸念が生じております。

新株予約権の行使、無担保社債発行、第三者割当による新株式の発行による資金調達を実施したものの、治験費用、その他開発のための十分な資金を確保できていないこと、他の対応策も進捗の途上にあることから、現時点において継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められます。しかし、財務体質の改善をより確実なものとするために、積極的なエクイティファイナンスも検討し、機動的な資金調達、株主資本の黒字化を実施していくことで、当社の経営基盤の安定化を図り、継続企業の前提に関する重要な疑義を生じさせるような事象又は状況の解消に努めてまいります。

調達資金は、当社を取り巻く全てのステークホルダーに対する上場会社としての信頼回復のために、管理体制強化・運用に充てる必要があると考えております。

 

  (5) その他の優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

当社グループは、設立以来の企業理念である「医療を創る」を引き継ぎつつ、実現可能な新たな事業戦略による成長を目指し、次の重点戦略を推進しております。

(1)細胞医療事業の増収戦略

(2)開発品の拡大戦略

(3)次世代技術の研究開発戦略

これら重点戦略のもと当社グループは、がん免疫療法の一つである樹状細胞ワクチン療法を中心に、研究開発を行い、独自のがん治療技術・ノウハウの提供を行っているほか、特定細胞加工物の受託製造事業を開始しており、対処すべき課題を以下のように考えております。

① 樹状細胞ワクチン療法の課題

a. 新たな人工抗原の獲得

人工抗原は、樹状細胞ワクチン療法を行う上で重要な物質の一つになります。抗原のラインナップを増やすことで、樹状細胞ワクチン療法の適応対象を拡げ、その効果を高めることができると考えられます。

当社グループはこれまでに、WT1ペプチドについて樹状細胞ワクチン療法等への利用に関する独占的な特許実施権を保有しております。また、MAGE-A4及びサーバイビンペプチドについて特許権を保有しております。これらのペプチドは組み合わせることも可能であるため、今後、さらに当該療法の効果を高めることが期待されます。

  ※:WT1

2009年9月、米国癌研究会議(AACR)の学会誌であるClinical Cancer Research誌(2009年15巻5,323~37頁)において、75種類のがん抗原中、理想的ながん抗原として第1位に選ばれました。

b. 樹状細胞の品質及び培養効率の向上

樹状細胞ワクチン療法の臨床効果を高める大きな要素として、投与される樹状細胞の品質があります。当社グループの樹状細胞ワクチンの培養技術・ノウハウは、東京大学医科学研究所及び徳島大学における臨床研究に基づいており、また、実地医療で症例を重ねることにより常に改善がなされていますが、さらなる品質の向上、効率的かつ安定的な培養方法の確立に向けての改善を継続してまいります。

c. エビデンス(科学的根拠)の強化

多くの医療従事者からの賛同を獲得し、患者がより安心して受診できるよう、提携医療機関における実地医療のみならず大学等研究機関との共同研究の実施により、基礎及び臨床研究におけるデータの蓄積及び解析等によるエビデンス(科学的根拠)を強化してまいります。

② 医療従事者・患者の理解獲得

樹状細胞ワクチン療法は標準治療ではないこともあり、現状、これらに対する医療従事者及び患者の認知・理解は十分には広まっていないものと認識しております。樹状細胞ワクチン療法の普及を進めるには、医療従事者及び患者双方に理解いただく必要があります。

当社グループは、契約医療機関における症例実績や新たな技術・ノウハウについて引続き学会やセミナー、メディア活動を通じて情報提供することで、医療従事者及び患者のさらなる認知・理解を得られるよう進めてまいります。

③ 技術者の確保・教育

当社グループは、これまで契約医療機関の細胞培養技術者に対して、樹状細胞をはじめとする治療に用いる細胞を培養できる高度な技術について指導してまいりました。今後は細胞加工受託業も並行して行う予定であるため、当社内において高度な技術を有する細胞培養技術者をいかに確保・教育していくかが課題になります。

これらの課題に対しては、優秀な人材の計画的な採用及び教育管理体制の強化により、提携医療機関及び当社の細胞培養技術者を安定的に育成し、また、それらの人材を教育、監督できる体制を整えることで対応してまいります。

④ 関連法規に対応するための社内体制構築

「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」、「臨床研究法」等、再生医療や研究開発に関連する法規制に対応するための活動を今後とも推進してまいります。

⑤ 細胞加工の製造開発受託業への参入に伴うその他の課題

a. 特定細胞加工物製造許可の取得

2014年11月に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」によって、再生・細胞医療に係る細胞加工を民間企業が受託できるようになりました。また、細胞培養加工施設については、再生・細胞医療を迅速かつ安全に提供するための新たな基準が設けられ、特定細胞加工物の製造を行うための許可制が導入されました。当社は、2019年3月4日付けで近畿厚生局から「特定細胞加工物製造許可証」を受領し、これをもって特定細胞加工物の受託製造事業を開始しました。〔施設所在地:京都府京都市、施設番号:FA5180002〕細胞加工施設は既存の資源を活用し、準備費用の削減を実現しております。

b. 営業・フォロー体制の構築

特定細胞加工物の受託製造事業への参入に伴いこれまで以上に営業活動に注力することとなるため、強固な営業体制の構築が必要となります。また、樹状細胞ワクチンの受注から納品及び治療の提供までのフォロー体制構築も必要となります。

 

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